説明

鑑賞魚用隔離器

【課題】水槽内で特定の鑑賞魚を隔離しつつ遊泳させる。水槽内壁への取り付けや取り外しを不要にして、水槽内の水の入れ換えや掃除など水槽の手入れ作業を簡便に行う。
【解決手段】この隔離器1は、プラスチックその他の浮力を有する素材からなり、鑑賞魚を個別に包囲可能に小型の中空立体形状、例えば球形10に形成され、かつその立体形状面11に多数のスリット12又は孔13又はその両方を有する通水構造14を備えて、略全体が水槽2内の水の水面下、水面付近に沈降浮遊可能に構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鑑賞魚用の水槽の内部で産卵期の親魚を隔離して、親魚から産み落とされた稚魚(卵胎生魚)又は卵が親魚に捕食されないようにするなど、特定の鑑賞魚を隔離するのに使用する鑑賞魚用隔離器に関する。
【背景技術】
【0002】
鑑賞魚の飼育では、親魚の産卵期が近づくと、図8に示すように、水槽2内に産卵箱(隔離器)3を設置して、親魚をこの産卵箱3の親魚の飼育室3Aに隔離し、親魚が稚魚(卵胎生魚)若しくは卵を産み落としたときに、この稚魚や卵を稚魚の飼育室3Bに誘導し、この飼育室3B内で飼育して、親魚に捕食されないように保護することが行われている。
【0003】
この種の産卵箱が特許文献1に記載されている。この文献1の産卵箱は、図9に示すように、親魚と稚魚又は卵を収容する箱体31と、この箱体31内部を親魚と稚魚又は卵の2個の飼育室3A、3Bに仕切る仕切り板32とにより構成される。箱体31は、上面に開口を有する横長の略直方体状に形成され、この箱体31の場合、左右両側面壁の内側面にリブ状突片が設けられ、前面壁の内側面下部側で左右両側に凹溝付き突起が設けられる。なお、この箱体31は一般に、プラスチック成形品で、全体が一体に形成される。仕切り板32は、上方部に箱体31の前面壁及び後面壁と隔離して上端が水面上に突出される縦形の仕切り壁321と、この仕切り壁321の下方に延出され、箱体31の前面壁と対応して箱体31内下部に谷部を形成する傾斜仕切り棚322とを有し、また、仕切り板32裏面の左右両側には係止用のフックが設けられる。なお、この仕切り板32もまた、プラスチック成形品で、全体が一体に成形されることが通常である。この仕切り板32は箱体31内に配置され、仕切り板32の下端縁が箱体31内の各凹溝付き突起に嵌め込まれるとともに、仕切り板32の各フックが箱体31内の各リブ状突片に係止されて、上方部の仕切り壁321を介して箱体31の前後に親魚の飼育室3Aと稚魚の飼育室3Bが区画され、下方部の傾斜仕切り棚322と箱体31の前面壁とにより、断面V字形の谷部が形成されるとともに、これら傾斜仕切り棚322と箱体31の前面壁との間に稚魚、卵の通過を許し、成魚の通過を許さない長溝状のスリット323が形成されて、前後の各飼育室3A、3Bが連通される。この産卵箱は、箱体31の後面壁に吸盤33が取り付けられ、この吸盤33を介して、水槽2の内壁(ガラス面)に固定される。このようにして箱体31内部は2室に区画され、親魚が仕切り板32の上方の親魚の飼育室3Aに隔離され、親魚から稚魚や卵が産み落とされると、この稚魚や卵が箱体31の前面壁と仕切り板32の傾斜仕切り棚322との間の谷部に沿って誘導され、長溝状のスリット323を通じて下方の稚魚の飼育室3B内に落下し、成魚から隔離して飼育できるようになっている。
【特許文献1】実開昭64−3561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来の産卵箱(隔離器)では、複数の親魚を飼育可能な飼育スペースを有するものの、産卵箱は水槽の内壁に固定されるため、産卵期の親魚の遊泳範囲がこの仕切られた飼育スペース内に制限され、親魚は水槽内を広範囲に遊泳することができない。また、産卵箱は水槽の内壁所定の高さに固定されるため、水槽内の水の入れ換えの際に、産卵箱が水槽に固定されたままでは、産卵箱の下まで水を抜くことができない。また、水槽内の掃除の際に、この産卵箱が邪魔になることがある。そこで、これらの作業を簡易にするために、水槽から産卵箱を取り外そうとすると、産卵箱は吸盤により水槽のガラス面に密に吸着され、産卵箱とガラス面との間の隙間が小さいことから、吸盤は外れにくく、産卵箱を水槽から容易に取り外すことができない。この場合、産卵箱が水槽からなかなか外れないと、これを無理に取り外そうとして、水槽を動かして水槽内の水をこぼしたり、産卵箱の中で稚魚や卵、また成魚を産卵箱の内壁や仕切り板にぶつけたりすることがある。
【0005】
本発明は、このような従来の問題を解決するもので、この種の鑑賞魚用隔離器において、水槽内で特定の鑑賞魚を隔離しつつ遊泳させること、水槽内壁への取り付けや取り外しを不要にして、水槽内の水の入れ換えや掃除など水槽の手入れ作業を簡便に行えること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の鑑賞魚用隔離器は、鑑賞魚用の水槽に使用され、鑑賞魚を包囲隔離するための鑑賞魚用隔離器において、浮力を有する素材からなり、鑑賞魚を個別に包囲可能に小型の中空立体形状に形成され、かつその立体形状面に多数のスリット又は孔又はその両方を有する通水構造を備えて、前記水槽内の水の水面付近に沈降浮遊可能に構成される、ことを要旨とする。
【0007】
本発明はまた、次のように具体化される。第1に、浮力を有する素材はプラスチック、ゴム、発泡スチロール、木材から選択される。第2に、立体形状は球体とする。第3に、この場合、球体は2つの半球体からなり、前記各半球体の開口縁部に前記各半球体を固定するための手段を有する。第4に、スリット又は孔は少なくとも産卵期の親魚から産み落とされる稚魚又は卵が通過可能な大きさを有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の鑑賞魚用隔離器は、上記の構成により、水槽内の水の水面付近に沈降浮遊されるので、この隔離器内に隔離された特定の鑑賞魚はこの隔離器とともに水槽内を広範囲に遊泳することができる。特に、特定の鑑賞魚が産卵期の親魚の場合、親魚は個別にこの隔離器内に隔離され、この隔離器とともに水槽内を広範囲に遊泳できるので、親魚は落ち着いた環境の中で稚魚や卵を産み落とすことができ、また、親魚から産み落とされた稚魚や卵は親魚に捕食されることがなく、確実に保護される。他面で、この隔離器では特定の鑑賞魚を個別に隔離して水槽の水の中に沈降浮遊させるので、隔離器を水槽に取り付けたり水槽から取り外したりすることがなく、また水槽の水の水位に応じて上下動させたり、さらに特定の鑑賞魚を隔離器に隔離したままで他の水槽に移したりまた元の水槽に戻したりすることができるので、隔離器に隔離された鑑賞魚を水槽の中に入れたまま、又は他の水槽に移すことで、水槽の水の入れ替えや掃除など水槽の手入れ作業を簡便に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明を実施するための最良の形態について、図1乃至図6を用いて説明する。図1は本発明の一実施の形態における鑑賞魚用隔離器を示す正面図(なお、背面図はこの正面図と同一にあらわれる。)、図2は同隔離器の右側面図(なお、左側面図はこの右側面図と同一にあらわれる。)、図3は同隔離器の平面図、図4は同隔離器の底面図である。図5は同隔離器を構成する2つの半球体の一方を示す正面図、図6は同隔離器を構成する2つの半球体の他方を示す正面図である。
【0010】
図1乃至図4に示すように、鑑賞魚用隔離器1は、浮力を有する素材からなり、鑑賞魚を個別に包囲可能に小型の中空立体形状10に形成され、かつ立体形状面11に多数のスリット12又は孔13又はその両方を有する通水構造14を備えて、概ね全体が鑑賞魚用水槽内の水の水面付近に沈降浮遊可能に構成される。
【0011】
この隔離器1では、浮力を有する素材はプラスチック、ゴム、発泡スチロール、木材などから選択され、この場合は、プラスチックが採用される。中空立体形状10は鑑賞魚を個別に包囲可能であれば、中空の球体、中空の円筒体(又は角筒体)又はこれに類似する中空の立体構造体などその形状は任意であるが、この場合、中空の球体として形成され、その球面に多数のスリット12及び孔13が少なくとも産卵期の親魚から産み落とされる稚魚又は卵が通過可能な大きさで、親魚その他の成魚の通過は許さない(すなわち、通過不可能な)大きさに形成されて、全体が球形の籠状に構成される。また、この球体11は2つの半球体10A、10Bからなり、これらの半球体10A、10Bは開口縁15に設けられた固定手段16により結合固定される。図5及び図6に示すように、この場合、各半球体10A、10Bは固定手段16を除いて全体が相互に対称的に形成され、頂部に頂部中心から放射状に複数の略長楕円形の孔13が形成され、その周囲に開口縁15に向けて順次、複数の略台形の孔13、複数の略長楕円形の孔13、複数の細長い略三角形のスリット12、複数の細長い略長方形のスリット12が形成され、全体が半球形の籠状に構成される。一方の半球体10Aには固定手段16の一方として、開口縁15に複数の係止部161、161が設けられる。この場合、図5に示すように、係止部161は全体が円弧状の爪状に形成され、かつその一端にさらに円弧状に突出するストッパー162が併せて設けられる。この係止部161は一方の半球体10Aの開口縁15の外周に180度間隔で2箇所、外側に向けて突出形成される。他方の半球体10Bには、固定手段16の他方として、開口縁15に係止部161、161に対する複数の係合部163、163が設けられる。この場合、図6に示すように、係合部163は平面形状が円弧状にかつ断面形状が略L字形に形成され、その立ち上がり部の内側に一方の半球体10Aの係止部161が係合可能に(但しストッパー162は係合部163の一端部に衝接して係合しない)係止溝164が形成される。この係合部163は一方の半球体10Aの各係止部161、161と対称的に、他方の半球体10Bの開口縁15の外周に180度間隔で2箇所、外側に向けて突出形成される。また、他方の半球体10Bには、特に、各半球体10A、10Bを合わせるためのガイドとして、開口縁15の外周に各係合部163、163の間に1箇所ずつ、突起17、17が上方に向けて突出して、一方の半球体10Aの開口縁15の外周に当接可能に形成される。このようにして隔離器1は、浮力を有するプラスチックにより、鑑賞魚を個別に包囲可能に小型の中空の球体10に形成され、かつ球面11全体に多数のスリット12及び孔13を有する通水構造14を備えて、球体10の球面11の極一部、例えば一方の半球体10Aの頂部が鑑賞魚用水槽内の水面上に浮上し、球体10の略全体が水槽内の水の水面下、水面付近に沈降浮遊可能に構成される。
【0012】
図7にこの隔離器1の使用例を示している。図7に示すように、この隔離器1は鑑賞魚用の水槽2内で、特定の鑑賞魚Fを個別に包囲隔離するのに使用される。使用に際して、まず、隔離器1を2つの半球体10A、10Bに分割する(図5、図6参照)。この場合、使用者は各半球体10A、10Bを上下にして両手で保持し、下の半球体10Bを固定した状態から上の半球体10Aを反時計周りに回転させることにより、上の半球体10Aの各係止部161、161を下の半球体10Bの各係合部163、163(各係止溝164、164)から外す。このとき、上下の各半球体10A、10Bは下の半球体10Bの各突起17、17により支持されて結合状態が保持されているから、上の半球体10Aを下の半球体10Bに対して上方に持ち上げることで、2つの半球体10A、10Bに分割することができる。そして、一方の半球体、この場合、下の半球体10Bの中に水槽2内で隔離を要する特定の鑑賞魚Fを隔離収容する。この場合、水槽2内にいる鑑賞魚Fを隔離器1に入れるのであれば、一方の半球体10Bを水槽2内に入れて、水中で当該鑑賞魚Fを掬い上げることにより、鑑賞魚Fを半球体10Bの中に簡単に入れることができる。下の半球体10Bの中に特定の鑑賞魚Fを入れたら、水槽2の水の中で、この半球体10Bの上に、開口縁15外周の各突起17、17を案内にして、上の半球体10Aを合わせ、この上の半球体10Aを時計回り方向に回して、上の半球体10の各係止部161、161を下の半球体10Bの各係合部163、163(各係止溝164、164)に挿入することにより係合させ、上の半球体10Aの各係止部161、161のストッパー162、162が下の半球体10Bの各係合部163、163の端部に衝接したところで、各係止部161、161と各係合部163、163は完全に係合し、各半球体10A、10Bが結合固定される。これで当該鑑賞魚Fの隔離作業は終了し、この球形の隔離器1を水槽2内に放置する。球形の隔離器1は内部に特定の鑑賞魚Fが個別に隔離収容された状態で、球面11の極一部、例えば一方の半球体10Aの頂部が鑑賞魚用水槽2内の水面上に浮上し、球体10の略全体が水槽2内の水の水面下、水面付近に沈降浮遊される。
【0013】
以上説明したように、この隔離器1では、水槽2内の水の水面付近に沈降浮遊されるので、この隔離器1内に隔離された特定の鑑賞魚Fはこの隔離器1とともに水槽2内を広範囲に遊泳することができる。特に、特定の鑑賞魚Fが産卵期の親魚の場合、親魚は個別にこの隔離器1内に隔離され、この隔離器1とともに水槽2内を広範囲に遊泳できるので、親魚は落ち着いた環境の中で稚魚や卵を産み落とすことができ、また、親魚から産み落とされた稚魚や卵を親魚に捕食されることなく、確実に保護することができる。他面で、この隔離器1では、特定の鑑賞魚Fを個別に隔離して水槽2の水の中に沈降浮遊させるので、隔離器1を水槽2に取り付けたり水槽2から取り外したりすることがなく、また水槽2の水の水位に応じて上下動させたり、さらに特定の鑑賞魚Fを隔離器1に隔離したままで他の水槽に移したりまた元の水槽2に戻したりすることができるので、隔離器1に隔離された鑑賞魚Fを水槽2の中に入れたまま、又は他の水槽に移すことで、水槽2の水の入れ替えや掃除など水槽の手入れ作業を簡便に行うことができる。
【0014】
なお、上記実施の形態では、隔離器1を2分割可能な構造としたが、中空立体形状の略全体を一体構造とし、立体形状面の一部に特定の鑑賞魚が通過可能な穴を設け、この穴を蓋で塞ぐようにしてもよい。この場合、蓋は穴に対して弾性変形により嵌合可能な構造とすることが好ましい。このようにしても上記実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0015】
また、上記実施の形態では、隔離器1を水槽2の水の中に沈降浮遊させるものとして例示したが、この隔離器1は従来の産卵箱の中で使用することもできる。この場合、産卵箱の内部は隔離器1で仕切られるので、従来のような仕切り板は不要であり、産卵箱は単純な箱形なものでよい。さらに、隔離器1は、同一の水槽の中で異種の鑑賞魚間に争いが生じるような場合にも利用することができ、この隔離器1で攻撃側の鑑賞魚又は防御側の鑑賞魚を隔離することで、両者間の争いによる鑑賞魚相互の損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態における鑑賞魚用隔離器の正面図(なお、背面図はこの正面図と同一にあらわれる)
【図2】同隔離器の右側面図(なお、左側面図はこの右側面図と同一にあらわれる)
【図3】同隔離器の平面図
【図4】同隔離器の底面図
【図5】同隔離器を構成する2つの半球体の一方を示す正面図
【図6】同隔離器を構成する2つの半球体の他方を示す正面図
【図7】同隔離器の使用例を示す図
【図8】従来の産卵箱による鑑賞魚の隔離形式を説明するための図
【図9】従来の産卵箱の構成を示す図
【符号の説明】
【0017】
1 鑑賞魚用隔離器
10 中空立体形状(中空の球体)
10A、10B 半球体
11 立体形状面(球面)
12 スリット
13 孔
14 通水構造
15 開口縁
16 固定手段
161 係止部
162 ストッパー
163 係合部
164 係止溝
17 突起
2 鑑賞魚用の水槽
F 鑑賞魚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鑑賞魚用の水槽に使用され、鑑賞魚を包囲隔離するための鑑賞魚用隔離器において、
浮力を有する素材からなり、鑑賞魚を個別に包囲可能に小型の中空立体形状に形成され、かつその立体形状面に多数のスリット又は孔又はその両方を有する通水構造を備えて、前記水槽内の水の水面付近に沈降浮遊可能に構成される、
ことを特徴とする鑑賞魚用隔離器。
【請求項2】
浮力を有する素材はプラスチック、ゴム、発泡スチロール、木材から選択される請求項1に記載の鑑賞魚用隔離器。
【請求項3】
立体形状は球体とする請求項1又は2に記載の鑑賞魚用隔離器。
【請求項4】
球体は2つの半球体からなり、前記各半球体の開口縁部に前記各半球体を固定するための手段を有する請求項3に記載の鑑賞魚用隔離器。
【請求項5】
スリット又は孔は少なくとも産卵期の親魚から産み落とされる稚魚又は卵が通過可能な大きさを有する請求項1乃至4のいずれかに記載の鑑賞魚用隔離器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−115114(P2010−115114A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288324(P2008−288324)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(393022768)日本動物薬品株式会社 (9)
【Fターム(参考)】