説明

長大ケーソンの建造方法

【課題】 長大ケーソンの建造にドライドック等を使用すると、該ドライドックの規模によって長大ケーソンの大きさに制限を受けたり、工期が長くなることに鑑みて、ドライドックを使用せずに所望の大きさの長大ケーソンを建造することができようにする。
【解決手段】 長大ケーソンを複数個に分割した場合にその分割単位である単位ケーソン5を陸上にて製作し、外壁コンクリートを打ち込んだ後、順次進水台船2に海上クレーンを用いて積載する。進水台船2上で単位ケーソン5を並べ、コンクリート6を打ち込んで接合させると長大ケーソン1となる。コンクリート6の養生後に進水台船2を沈めれば、長大ケーソン1が水面に浮遊するから、所望の設置場所まで曳航する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば水域の一部を区切るため水底に建造されるケーソンであって、特に長大ケーソンの建造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海洋構造物を建設する場合には、構造物の設置場所や作業場所の海水を排除すると共に、海水の浸入を防止するためにケーソンが設置される。あるいは、護岸を構築する場合などには土砂の流出を防止するためにケーソンが設置される。すなわち、港湾や海上、河川等の一部がケーソンによって区切られることになる。このケーソンは、工場やケーソンヤード等において、予め、ハイブリッド製や鉄筋コンクリート製等のケーソンを製作して、現場に搬入して設置される。
【0003】
一般に、ケーソンは大型の建造設備であるドライドックや専用の製作ヤードで製作されるが、長さ90m超級の大型ないわゆる長大ケーソンは、重量が4000t以上あるため、海上クレーンによって進水させることが難しいから、この種の長大ケーソンはドライドックなど、製作場所が限定されていた。
【0004】
例えば、特許文献1には、長大ケーソンの製作方法として、長大ケーソンを多数に分割した形状の小分割ケーソンを必要個数製造し、該小分割ケーソンを連結して所望長さの長大ケーソンを製造する方法であって、互いに隣り合って連結される小分割ケーソン間を、その小分割ケーソンの接合面周縁部間にゴム状弾性材からなる止水兼用の弾性ガスケットを介在させた状態で水底に沈め、前記弾性ガスケットに囲まれた接合面間の空隙内を減圧させることにより接合面間を水圧によって引き寄せる水圧接合によって連結させ、所望長さの細長長大ケーソンとなす製作方法が提案されている。また、この長大ケーソンの製作に際しては、所望長さの長大ケーソンを必要な数に分割した形状の小分割ケーソンを陸上のケーソン製作ヤード又は陸上のドックや浮きドックを使用してそれぞれ個別に製作するものとされている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−129489
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、長大ケーソンは剛構造の一体ものとして建造することは困難であるため、例えばドライドックの規模等に応じて適宜数に分割し、これら分割した小分割ケーソンを連結させて建造されることになる。
【0007】
長大ケーソンをドライドックで建造する場合には、ドライドックの規模によって分割する建造基数や工期が制限されてしまい、すなわち、小規模なドライドックの場合には多数に分割して建造する必要があり、また、複数基を連続的に進水させることが困難であった。しかも、ドライドックの施設が存している場所は限られているため、建造された長大ケーソンを曳航する距離が長くなってしまい、設置までの期間が長くなり、曳航中に不測の事態が生じる機会が増大する。
【0008】
そこで、この発明は、ドライドックを使用せず、設置場所に極力近い場所にて建造することができる長大ケーソンとその建造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するための技術的手段として、この発明に係る長大ケーソンの建造方法は、製作ヤード等で単位ケーソンを製作し、複数の単位ケーソンを接合して長大ケーソンを製作する長大ケーソンの建造方法において、陸上にて前記単位ケーソンを形成し、前記形成した単位ケーソンを海上クレーンで吊り下げて進水台船に順次載置し、前記進水台船に載置された複数個の単位ケーソンを並設して、これら単位ケーソン接合部にコンクリートを打ち込み、単位ケーソン同士を接合させて長大ケーソンとし、前記進水台船に注水して該進水台船を沈めることにより前記長大ケーソンを浮遊させることを特徴としている。
【0010】
例えば、90m級の長大ケーソンを建造する場合、単位ケーソンを30mとして陸上の製作ヤード等で3個製作する。これら単位ケーソンを製作する毎に、海上クレーンにより、海上の進水台船上に積載する。3個の単位ケーソンが進水台船上に載置されたならば、これらをコンクリートを打ち込むのに適宜な間隔を設けて並べて、コンクリートを打ち込んで、これら単位ケーソンを接合させる。これにより全長がほぼ90mの長大ケーソンとなる。コンクリートの養生後に前記進水台船に注水して、この進水台船を沈めれば、長大ケーソンは水面に浮遊した状態となる。この長大ケーソンを設置場所まで曳航する。なお、沈めた進水台船を引き上げて、抜水して再度浮上させる。
【0011】
また、請求項2の発明に係る長大ケーソンの建造方法は、前記単位ケーソンは陸上にて鋼材を骨格部とし、コンクリートを外壁として形成して、前記進水台船に複数の単位ケーソンを載置して、これら単位ケーソン接合部にコンクリートを打ち込むことを特徴としている。
【0012】
鋼材と鉄筋コンクリートの合成部材である、いわゆるハイブリッド構造のケーソンとしたものであり、陸上の製作ヤードで鋼材による骨格部を組み立てて単位ケーソンとし、進水台船上でコンクリートを打ち込んで単位ケーソンを接合することにより長大ケーソンとして完成させるものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係る長大ケーソンの建造方法によれば、大規模なドライドックを使用しなくても建造することができるから、製作場所の制限が減じられて、簡便に建造することができる。また、単位ケーソンを並べてコンクリートを打ち込むことにより工期の短縮を図ることができ、連続して長大ケーソンを建造することができる。
【0014】
また、請求項2の発明に係る長大ケーソンの建造方法によれば、海上クレーンで吊り下げる負荷を極力小さくして、より迅速に、しかも円滑に建造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図示した好ましい実施の形態に基づいて、この発明に係る長大ケーソンの建造方法を具体的に説明する。
【0016】
図1にこの発明に係る長大ケーソンの建造方法による手順を示してあり、この手順を参照して説明する。なお、この実施形態では、例えば30mの単位ケーソンを3個接合して90mの長大ケーソン1を建造する場合を示しており、また、鋼材と鉄筋コンクリートとのハイブリッド構造のものとして説明する。
【0017】
図2に示すように、鋼材3や鋼板4、鉄筋等を組み合わせて底板と外壁等を形成し、上部が開放された筐体状の骨格部からなる単位骨格ケーソン5aを、陸上Gにて製作する(図1におけるステップ101「以下、同じ」)。このとき、単位骨格ケーソン5aは同一寸法のもの、例えば30mのものを順次製作する。この筐体状の単位骨格ケーソン5aの外壁部分に外壁コンクリート5bを打ち込んで単位ケーソン5が製作される。なお、この単位ケーソン5も同一寸法に製作される。
【0018】
陸上Gにて単位ケーソン5が製作される毎に、海上クレーンを使用して図3に示すように、水面Wに浮かんでいる進水台船2に載置させる(ステップ102)。3個の単位ケーソン5が載置された状態で、これら3個の単位ケーソン5を接合させるのに十分な間隔を設けて並ばせる(ステップ103)。この状態で、図4に示すように、これら3個の単位ケーソン5にコンクリートを打ち込んで、これら単位ケーソン5を接合させる(ステップ104)。これにより、90mの長大ケーソン1となる。
【0019】
前記単位ケーソン5が接合されてコンクリートが十分に養生された状態で、筐体となった長大ケーソン1が進水台船2上にて建造されることになる(ステップ105)。次いで、図5に示すように、前記進水台船2に注水して、該進水台船2を沈める(ステップ106)。これにより、長大ケーソン1は進水台船2から離脱して、水面Wに浮遊することになる(ステップ107)。そして、この長大ケーソン1を所定の設置場所まで曳航する(ステップ108)。
【0020】
前記沈めた進水台船2は、注入した水を抜き出して浮上させれば、再度使用することができる。このため、進水台船2は、長大ケーソン1が離脱する程度に沈めれば十分である。
【0021】
以上説明した実施形態では、90mの長大ケーソン1を3個の単位ケーソン5に分割した場合について説明したが、90m超級の長大ケーソンであってもこの発明に係る方法により建造することができる。また、分割数は陸上において製作できる単位ケーソン5の寸法や該単位ケーソン5を吊り下げる海上クレーンの能力等に応じて決定すればよい。
【0022】
長大ケーソン1の延長が長くなった場合、それに見合った長さの進水台船2を用いることが望ましいが、長大ケーソン1よりも短い進水台船を連結して対応することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
この発明に係る長大ケーソンの建造方法によれば、ドライドックを利用することなく長大ケーソンを建造することができるため、建造するケーソンや建造場所の寸法の制限を受けずに長大ケーソンを、短い工期で建造することに寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明に係る長大ケーソンの建造方法の手順を説明するフローチャートである。
【図2】長大ケーソンの建造に用いられる単位ケーソンを陸上にて製作している状態を説明する図である。
【図3】単位ケーソンを水面に浮遊している進水台船に積載した状態を示す図である。
【図4】進水台船上で単位ケーソンをコンクリートにより接合して長大ケーソンを建造した状態を示している。
【図5】進水台船が水中に沈み、完成した長大ケーソンが水面に浮上した状態を示している。
【符号の説明】
【0025】
1 長大ケーソン
2 進水台船
3 鋼材
4 鋼板
5 単位ケーソン
5a 単位骨格ケーソン
5b 外壁コンクリート
6 コンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製作ヤード等で単位ケーソンを製作し、複数の単位ケーソンを接合して長大ケーソンを製作する長大ケーソンの建造方法において、
陸上にて前記単位ケーソンを形成し、
前記形成した単位ケーソンを海上クレーンで吊り下げて進水台船に順次載置し、
前記進水台船に載置された複数個の単位ケーソンを並設して、これら単位ケーソン接合部にコンクリートを打ち込み、単位ケーソン同士を接合させて長大ケーソンとし、
前記進水台船に注水して該進水台船を沈めることにより前記長大ケーソンを浮遊させることを特徴とする長大ケーソンの建造方法。
【請求項2】
前記単位ケーソンは陸上にて鋼材を骨格部とし、コンクリートを外壁として形成して、前記進水台船に複数の単位ケーソンを載置して、これら単位ケーソン接合部にコンクリートを打ち込むことを特徴とする請求項1に記載の長大ケーソンの建造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−180056(P2009−180056A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22343(P2008−22343)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)