説明

長期保持可能なインクジェット式記録媒体

【目的】 本発明は、改善された記録保持性及び品質を有し、かつプレゼンテーション用図形作製、設計工学及びオフィスシステムでの利用に適した新規なインクジェット式記録媒体を提供する。
【構成】 この長期保持可能なインクジェット式印刷技術に有効に用いられるフィルム媒体は、透明、半透明又は不透明な支持体と該支持体の少なくとも1つの側に設けられた水不溶性、吸水性及びインク受容性マトリックス層を包含し、該マトリックス層はヒドロゲルコンプレックスと重合高分子量第四級塩とを含有する。

【発明の詳細な説明】
【産業上の利用分野】本発明は、改善された記録保持性及び品質を有し、かつプレゼンテーション用図形作製(presentation graphics)、設計工学(design engineering)及びオフィスシステム(office systems)での利用に適した新規なインクジェット式記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、インクジェット式プリンターのような、スプレーできるインクを使用するプリンターが一般的に使用されるようになった。インクを小滴の連続した流れ、または必要に応じて個々の小滴として噴射する小さな噴射孔を備えたインク噴射ヘッドを使用するこれらのプリンターはさまざまな電子印刷分野で用いられている。これらは外部での現像あるいは定着操作を必要とせず、高速度ながら静かな印刷を可能にする。更に、多数のインク噴射ヘッドを用いることにより色の細分化が可能となり、例えば棒グラフ、図表、円グラフ等のコンピューターグラフィックスの分野での利用に適した様々な色表現が可能となる。
【0003】インクジェット式フィルム印刷の簡便性及び経済性により、本画像形成方法は透明画製造を越えた今後の発展が展望できる。工学及び建築設計の広大なフォーマットによる電子印刷はインクジェット式印刷を自然に発展させたものである。出版物や広告資料を含むオフィスシステム分野での利用はインクジェット式印刷の別の発展を意味する。これらの分野においては通常の鮮明或いは透明なフィルム以上のものが要求され、新規な最終用途にあわせたフィルム支持体と被覆複合体が必要とされる。
【0004】情報の電子印刷に利用するインクジェット式システムは、プリンター、インクおよびインク受容性シートの3つの構成要素からなる。プリンターはインク小滴のサイズ、数および配置を制御し、移送装置を備えている。インクは画像形成用の色素を提供し、インク受容性シートはインクを受容し保持する媒体を提供する。インクジェット式印刷物の品質および記録保持性はシステム全体に左右される。しかしながら、インクとその受容体物質の組成や相互作用が画像形成製品の品質と記録保持性に最も影響を及ぼす。
【0005】インクジェット式記録システムに有用なインク組成は公知であり、一般的には水、有機溶媒および染料を含む。例えば、ヨーロッパ特許第0,294,155号には、約30〜約99重量%の水を含む水性ビヒクル(vehicle)の外にグリコール類、グリコールエーテル類、ピロリドン類及びアミド類のような高沸点溶媒を含むインクジェット式記録に有用なインクジェット用組成物が開示されている。インクは酸性染料又は直接染料を含有することが好ましい。
【0006】現在利用されているインクジェットシステムは大きく2つの範畴に分けられる。即ち有機溶媒高含有の水性インクを用いるシステムと実質的に水性のインクを用いるシステムに分けられる。水性インクは通常、ジエチレングリコール等の高沸点溶媒を10%以下の量含有するが、他方、有機溶媒高含有のインクは、水の他にジエチレングリコール等の高沸点有機溶媒を約50%含有する。これら2つのタイプのインクを用いて得た画像はいずれも耐水性において劣る(例えば、染料画像が浸出され、或いは染料を含有する画像層が溶解する)。更に、染料画像は不鮮明になる傾向がある。
【0007】初期インクジェット式印刷の適用に際しては紙を用いてきたが、オーバーヘッドプロジェクション透明画等の表示、プレゼンテーション用フィルムがその製造上の簡易性と経済性の故に有益であることが明らかになった。しかしながら、フィルムやフィルム状表面の設計要件は紙と異なり、紙の場合より満足させることが一層困難である。インクジェット式フィルム組成の改良にかかわらず、インクジェット式印刷の可能性を十分に実現させるにはなお多くの問題が残っている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】インクジェット式フィルム組成物は通常水に感応し、その画像は溶解し、浸出される。また、多湿の条件下では、その画像はにじみ鮮明度を失い、インクがグリコール等の高沸点溶媒を含有する場合はその傾向が著しい。従来のインクジェット式印刷物は時として耐光性に乏しく、ファイリングの際の耐経時性に欠ける。上記の総ての欠点を解決することが、印刷物の良好な記録保持性を達成するために不可欠である。
【0009】記録媒体として使用する重合体フィルムは、表面が疎水性あるいは準疎水性を示すので、インクジェット式記録において特別な問題を生ずる。インクを受容し吸収するための特殊な被覆で表面が処理されている場合でも、べとつき(tack)、汚れ(smear)、画像のにじみ(bleed)、インク受容性マトリックスの水への可溶化、あるいはその他の好ましくない結果を招くことなく、要求される品質の画像密度及び解像度を得ることはむずかしい。
【0010】水/グリコールのインク系を使用すると特別の問題が生ずる。すなわち、高湿度では、画像のにじみと呼ばれる現象が起きる。インクジェット式プリンターは、インク小滴を選択的パターンで適用して画像を形成する。これらのインク小滴はフィルム表面上の被覆に吸収されてドットを形成する。最初に吸収された後、染料は横方向に拡がり続ける。ドットとドットの間の空白領域を満たし、良好な画像密度を得るには、画像形成後に染料が多少拡散することが望ましい。しかし、高湿度では、この広がりは継続し、画像を過度に拡大する。すなわち、画像はにじみ、画像の鮮明度や解像度が損なわれる。グリコールなどの高沸点溶媒を含まないインクビヒクル(vehicle)は、このような画像のにじみを示さない。
【0011】最適な受容体シートを提供する試みに関しては多くの文献がある。疎水性表面の問題への解決の試みとしては、インク受容性被覆として重合体を単独で又は混合物として使用することが提案されている(たとえば、米国特許第4,503,111号、米国特許第3,889,270号、米国特許第4,564,560号、米国特許第4,555,437号及び米国特許第4,578,285号を参照)。記録媒体の疎水性に関係する種々の問題点を克服する試みには、多層被覆も採用されてきた。これらの多層被覆に関しては米国特許第4,379,804号、日本国特許第01041589号及び日本国公開特許第86−132377号、日本国公開特許第86−074879号及び日本国公開特許第86−41549号に開示されている。更に、染料の固定を助け、にじみを最小にするために媒染剤を使用する試みは、多くの特許、たとえば米国特許第4,554,181号、米国特許第4,578,285号及び米国特許第4,547,405号に提案されている。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記の欠点を無くし、各種応用分野での記録保持性が良好な優れた品質のインクジェット式記録媒体を実現するためのインク受容性媒体に関する。本発明の目的は、インク受容性マトリックスが高湿度条件の下で本質的に水不溶性で、画像のにじみを生じず、且つ耐退色性を有するインクジェット式記録媒体を提供することである。これらの特質は、インクジェット式印刷物に記録保持性を与える。本発明の他の目的は、設計工学での使用に適したインクジェット式記録媒体を提供することである。本発明の更に他の目的は、グラフィックやオフィス・システムへの応用に好適な不透明インクジェット式フィルムを提供することである。上記のすべての目的並びにその他の目的は、本発明のフィルムによって達成される。より具体的には、本発明は、以下のようなインクジェット受容性媒体を提供する:
【0013】(a)透明、半透明又は不透明な支持体と、該支持体の少なくとも1つの側に設けられた本質的に鮮明な水不溶性、吸水性及びインク受容性マトリックス層を包含し、該マトリックス層はヒドロゲルコンプレックスと、マトリックス層から容易には抽出されない重合高分子量第四級アンモニウム塩とを含有することを特徴とするフィルム複合体。
(b)透明、半透明又は不透明な支持体と、該支持体の少なくとも1つの側に設けられた水不溶性、吸水性及びインク受容性マトリックス層を包含し、該マトリックス層は、ヒドロゲルコンプレックスと、マトリックス層から容易には抽出されない重合高分子量第四級アンモニウム塩と、約2.2〜7. 0のモース硬度を有する顔料を含有し、且つ少なくとも20gの臨界一体 性値を有することを特徴とするマットフィルム複合体。
(c)(a)又は(b)に記載したフィルム複合体であって、カールを抑制し、インクの裏移り(offset)及び/又は印刷物間の接着(blocking)を抑制し且つインク移送性を確実にする役割を果たす、インク受容性マトリックス層の反対側に設けられた被覆(すなわち、バックコート)を有しているフィルム複合体。
(d)(a)、(b)又は(c)に記載のフィルム複合体であって、インク受容性マトリックス層よりも吸水性の高いトップコートがインク受容性マトリックス層の上に設けられているフィルム複合体。
【0014】本発明は、また、上記のインクジェット受容性媒体を用いて水性インク及び水性有機溶媒系インクでインクジェット式印刷物を製造する方法及びそのインクジェット式印刷システムに関する。更に本発明は、改良されたインクジェット式フィルム及び類似の媒体に必要な種々の条件及びそれらの新製品への広い応用も開示する。
【0015】当業者が本発明を実施する際の助けとなるよう以下の詳細な説明及び実施例を記載する。しかし、通常の当業者は本発明の範囲及び精神から離れることなく本発明と均等のインクジェット受容性媒体及び/またはインク受容性被覆を製造できうるものであるから、本発明はここにおける開示によって不当に限定されるべきではない。本発明のフィルム複合体は、支持体と、該支持体上に設けられた本質的に鮮明な水不溶性、吸水性及びインク受容性マトリックス層を包含し、該マトリックス層はヒドロゲルコンプレックスと重合高分子量第四級アンモニウム塩とを含有する。ここに開示するマットフィルム複合体は、ヒドロゲルコンプレックスと、重合高分子量第四級アンモニウム塩と、約2.2〜7.0のモース硬度を示す顔料とを含有し、且つ少なくとも20gの臨界一体性値(Critical Intergrity Value)を有するインク受容性マトリックス層を包含する。本発明の記録媒体の上記各構成要素について以下に詳しく述べる。インク受容性マトリックス層の支持体はポリエチレンテレフタレート、セルロースアセテート、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリオレフィンまたはその他の重合体よりなる支持体フィルムなどの好適なフィルムより選択することができる。これらの支持体フィルムは用途により透明でも半透明でも不透明でもよいが,オーバーヘッド画像投影に使用する場合には、透明でなければならない。この支持体の厚さは通常約25〜約175ミクロンである。設けられるインク受容性マトリックス層の組成に対する受容性を向上させるため、支持体フィルムの表面を接着促進物質で前処理してもよいし、当業界で一般的に知られている下塗り中間層を用いてもよい。あるいは、少なくともインク受容側表面に被覆あるいは積層された別のフィルム層を有する紙製の支持体でもよい。このようなペーパー/フィルム積層体の厚さは上述のものより厚くてもよい。
【0016】本発明で用いられるヒドロゲルコンプレックスとしては、ポリ(N−ビニル複素環)成分と水不溶性の櫛型グラフト共重合体などの水不溶性のコンプレックス化剤(complexing agent)とのコンプレックス化によって形成されるものが挙げられる。このポリ(N−ビニル複素環)成分は、ヘテロ環上のケトン官能基を含むことが好ましい。また、前記ポリ(N−ビニル複素環)成分を使用する共重合体を用いて、本発明のヒドロゲルコンプレックスを形成することもできる。
【0017】本発明のヒドロゲルコンプレックスを形成できる典型的なポリ(N−ビニル複素環)は、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリ(N−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリドン)等である。ポリ(N−ビニル複素環)成分とヒドロゲルコンプレックスを形成する最適な水不溶性重合体としてのコンプレックス化剤は、疎水性主鎖と親水性重合体側鎖とからなる櫛型グラフト共重合体などの水不溶性重合体である。これらの櫛型グラフト共重合体は、水不溶性ヒドロゲルコンプレックスを形成するのにきわめて有効である。しかし、所望の場合には、ここに開示した水不溶性の第四級アンモニウム塩もポリ(N−ビニル複素環)成分とのヒドロゲルコンプレックスを形成するのに好適なコンプレックス化剤として用いることができる。
【0018】本発明で用いられるヒドロゲルコンプレックスを形成するのに好適なコンプレックス化剤である櫛型グラフト共重合体の疎水性主鎖は、置換または非置換のポリエステル、ポリウレタン、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ビニルポリマー(例えば、ポリビニルクロライド及びポリビニルアセテート)、ジエンポリマー(例えば、ポリブタジエン)、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン及びポリプロピレン)、セルロース及びその誘導体(例えば、セルロースエステル及び混合エステル)、ポリスチレン及びこれらの共重合体が挙げられる。櫛型グラフト共重合体の親水性側鎖を形成するのに特に適した重合体及び共重合体として、1つ又は複数の置換または非置換のポリ(ヒドロキシアルキルアクリレート及びメタクリレート)、ポリアクリル酸及びポリメタクリル酸、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート/N−アルキロールアクリルアミド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリアクリルアミド及び第四級アンモニウム成分が挙げられる。コンプレックス化剤である櫛型グラフト共重合体の好ましい例としては、ポリ(メチルメタクリレート)が疎水性主鎖でありヒドロキシエチルメタクリレートが親水性側鎖であるもの、あるいはポリ(メチルメタクリレート)が疎水性主鎖でありポリ(N−ビニルピロリドン)が親水性側鎖であるものが挙げられる。
【0019】本発明で用いるコンプレックス化剤である櫛型グラフト共重合体における重合体主鎖の親水性側鎖に対する重量比は、この共重合体が本質的に水不溶性であるかぎり10:90〜90:10の範囲内のいずれでも良い。疎水性主鎖の親水性側鎖に対する重量比が約50:50〜約90:10の範囲内にあるコンプレックス化剤としての櫛型グラフト共重合体を使用するのが好ましい。いずれにせよ、親水性側鎖の疎水性主鎖に対する割合が、櫛型グラフト共重合体を水溶性にする割合を越えないことが重要である。
【0020】本発明に従って使用するグラフト共重合体は当業者に公知の技法により製造することができる。アール・ジェー・セレサ(R.J.Ceresa)編集、ニューヨークのジョン ワイリィ & サンズ社(John Wiley & Sons)より1976年に出版された“ブロック及びグラフト共重合(Blockand Graft Copolymerization)”の書籍シリーズにはこのようなグラフト共重合体の製造法の概説が記載されている。
【0021】一般的に、ヒドロゲルコンプレックス成分は単独でもあるいは湿潤剤、帯電防止剤、沈降防止剤及び分散助剤のような添加剤と組合せても用いることができる。本発明におけるヒドロゲルコンプレックスの正確な構造はわからない。しかし、櫛型グラフト共重合体とポリ(N−ビニル複素環)成分とからなるヒドロゲルコンプレックスの場合には、櫛型グラフト共重合体の親水性セグメント(segments)とN−ビニル複素環の親水性複素環成分とがコンプレックスを形成すると考えられる。しかしそれらの構造がいかなるものであろうと、本発明のヒドロゲルコンプレックスは水不溶性を保持しつつ水性及びグリコール濃度の高いインクの両者に対する高い親和性をインク受容性マトリックス層に付与する。したがって、このようなインク受容性マトリックス層は、本発明の記録媒体に高い画像密度と明るさを与え、汚れや裏移りを防ぐのに役立つ。
【0022】意外にも、比較的少量の櫛型グラフト共重合体(ヒドロゲルコンプレックスの重量の5〜35%の範囲)でポリ(N−ビニル複素環)成分と共に高い液体吸収性を示す水不溶性ヒドロゲルコンプレックスを形成するのに十分であることを知見した。これに対して、疎水性単位と親水性単位からなり、官能基を含有する比較的長い側鎖をもたない単なるブロック共重合体またはランダム共重合体では、一般に、同じポリ(N−ビニル複素環)成分により同等に水不溶性の組成物を形成するにはこのような共重合体の割合がずっと大きいことが必要である。しかも、これらのブロックまたはランダム共重合体から形成されたコンプレックスは、本発明に開示されているポリ(N−ビニル複素環)櫛型グラフト共重合体コンプレックスのような高い吸水性を示さない。考えられる理由としては、このようなランダムまたはブロック共重合体はポリ(N−ビニル複素環)成分とヒドロゲルコンプレックスを形成せず、したがって高い吸水性を有する組成物を提供しないのであろうということである。
【0023】驚くべきことに、本発明者らは、被覆形成用組成物に使用する溶媒ビヒクル(vehicle)の選択がインク受容層のヒドロゲルコンプレックスの形成に重要な役割を担うことを発見した。例えば、本発明においては、ヒドロゲル形成に適した媒体を提供するために、主に水性の溶媒系とは異なる有機溶媒系を用いることが重要である。しかしながら、すべての有機溶媒がヒドロゲル形成に有用なわけではない。従って、インク受容性マトリックス層におけるヒドロゲルの適切な形成を確実にするために、ヒドロゲルの成分は用いられる単数又は複数の溶媒に可溶でなければならない。例えば、ある種のグリコールエーテルの使用は本明細書で述べるようなポリ(N−ビニル複素環)成分及び櫛型グラフト重合体に関連してヒドロゲルコンプレックスを形成するのに有用であることが示された。特に、プロピレングリコールモノメチルエーテルのようなメチル化されたエーテル類は優れた耐水性ヒドロゲルコンプレックスを形成する。ある種の溶媒がヒドロゲルコンプレックス形成を阻害する作用を有する理由については不明である。しかし、おそらく、より親水性の大きい溶媒とのヒドロゲルコンプレックス化部位をめぐる競合によって悪影響が生じるものと思われる。
【0024】本発明の最も好ましい実施態様の一つによると、インク受容性マトリックス層は約65〜約90重量%のポリ(N−ビニル複素環)、特に好ましくはポリ(N−ビニルピロリドン)と約35〜約10%重量の櫛型グラフト共重合体との混合物を包含する。好ましくは、グラフト共重合体は15〜40重量%の親水性側鎖〔好ましくはポリ(ヒドロキシアルキルアクリレート)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート)またはポリ(N−ビニルピロリドン)から成る〕及び85〜60重量%の疎水性主鎖〔好ましくはポリ(メチルメタクリレート)から成る〕を包含する。このようなインク受容性マトリックス層は高いインク吸収性を示し、しかも水不溶性である。
【0025】インクジェット式印刷物の記録保持性を得るために、インク受容性マトリックス層において染料を固定することが必要である。従来、染料の固定は媒染剤を用いて行なわれている。一般にインクジェット式印刷に用いられるインクは陰イオン性染料を用いているので、重合体としての第四級アンモニウム塩やホスホニウム成分を用いた化合物などの陽イオン性化合物を用いて画像固定を行なうことができる。通常、染料固定には第四級アンモニウム塩が好ましく用いられる。しかし、通常、代表的な第四級アンモニウム塩を用いても、適切な低粘着性、耐退色性(fade resistance)、水不溶性又は高湿度における耐にじみ性(bleed resistance)を得ることができない。したがって、通常用いられるインクの場合、このような第四級アンモニウム塩は本発明のインクジェット受容性媒体において適切に作用しない。
【0026】適切な効果を得るために、本発明における第四級アンモニウム塩は次の4つの要件を満たすものでなければならない:(1)高分子量を有すること。(2)用いられる有機溶媒ビヒクルに可溶であること。(3)本明細書に記載のヒドロゲルコンプレックスと相溶性であること。(4)水によるヒドロゲルマトリックスよりの抽出に対して耐性のあること。第四級アンモニウム塩の平均分子量は、好ましくは約10,000〜500,000、最も好ましくは25,000〜250,000の範囲である。第四級アンモニウム塩は水溶性であってもよいが、水不溶性であることが好ましい。選ばれた第四級アンモニウム塩とヒドロゲルコンプレックスとの相溶性は、ヒドロゲルコンプレックスと第四級アンモニウム塩の両方を含有する約6.0g/m2のフィルムをキャスト成形することによって確認できる。乾燥時に透明なフィルムが得られれば相溶性のあることが判る。第四級アンモニウム塩の水抽出性は、コーティングを行なったサンプルを水に浸漬し、被覆層からの第四級アンモニウム塩の抽出量を測定することによって求められる。ここにいう「水抽出性」とは水による抽出性指数を意味する。水抽出性の測定方法は後で更に詳しく述べる。
【0027】本発明において好適に用いられる第四級アンモニウム塩の例としては、下記の式Iによって表わされるものを挙げることができる。


(但し、R1、R3及びR5は水素、或いは炭素原子数1〜8の直鎖又は分岐鎖低級アルキル基であり、R2、R4及びR6〜R8は炭素原子数1〜8の直鎖又は分岐鎖低級アルキル基であり、X-はCl-、I-、F-、ClO4-、SO4-2又はPO4-3などの1価、2価又は3価の陰イオンであり、nは2〜8であり、w、y、zは1又はそれ以上の正の整数を示す。)尚、更に好ましくは、上記式Iにおいて、R1、R3及びR5は水素、CH3又はC25であり;R2及びR4はCH3、CH2CH3、C(CH33又はC25OHであり;R6、R7及びR8はCH3又はCH3CH2を示す。
【0028】上記の第四級アンモニウム塩は、一般に約10,000〜500,000、好ましくは、約25,000〜250,000の範囲の平均分子量を有する。第四級塩の官能基は、通常ポリマー中の全モノマー数の15%〜40%を占める、また次のようにも表現される。


(式中、w,y,zは上記で定義したとおりである。)上記構造の第四級アンモニウム塩は、本発明のインクジェット媒体の画像の耐光退色性を改良する。
【0029】上記式Iに属する第四級アンモニウム塩を選択することは、本発明のフィルムに使用するのに適した第四級アンモニウム塩を選ぶひとつの方法である。もうひとつの有用な方法は、第四級アンモニウム塩の水抽出性指数〔Water Extractability Index(WEI)〕をもとにするもので、この方法では本発明で開示している方法を使用して選択ヒドロゲルマトリックスからの選択第四級アンモニウム塩の抽出性を測定する。
【0030】本発明に包含される第四級アンモニウム塩の水抽出性指数は、多数の要因、例えば、(1)第四級アンモニウム塩の分子量、(2)第四級アンニウム塩分子上の親水性および/または疎水性基の種類と数、(3)第四級アンモニウム塩の三次元化学構造、および(4)第四級アンモニウム塩が使用されているヒドロゲルの分子成分および構造などにより影響される。一般に、第四級アンモニウム塩は、低分子量で多くの水溶性基を有し、マトリックス中で使用されたヒドロゲルとの分子結合がわずかか、まったくないという性質を有する場合には、水抽出性が高くなる。逆に、選択された第四級アンモニウム塩が上記の性質をまったく持たない(あるいは有しても最小限)場合は水抽出性は低い。
【0031】用いた第四級アンモニウム塩の水抽出性が低ければ低いほど、より有効に染料が固定化されるので、上記の要因は、本発明によるフィルムのインク受容性マトリックス層に染料を固定化するにあたっての有効性を決定することにも使用できる。同様に、染料の固定化が良好であればあるほど、形成画像の耐水性、耐にじみ性、染料の耐退色性が改善される。
【0032】本発明者らは、ヒドロゲル被覆中の第四級アンモニウム塩につき実施例の部で開示している試験方法で測定した水抽出性指標が約40未満好ましくは約25未満である時、顕著に改良された特性を示すことを発見した。
【0033】好ましい第四級アンモニウム塩は、水不溶性、高分子量で、通常約25未満の低い水抽出性指数をもつものである。これらの第四級アンモニウム塩は、この塩を用いて得られる形成画像がひどい粘着性の問題は生じないので、特に高グリコール含有インクを用いる媒体中の使用に適している。低水抽出性指数を示す共重合体型の第四級アンモニウム塩は、通常、水溶性モノマーと水不溶性モノマーの2つのモノマー成分で構成されている。水溶性モノマー成分と、水不溶性モノマー成分のモル比が水抽出性指数を決定する。次の表1にこの関係を示す。
【0034】
表 1水溶性モノマー成分/水不溶性 水抽出性指数 水溶解性モノマー成分の比 15 8.5未満 不溶性 20 8.5未満 不溶性 25 13.3 不溶性 30 25.4 部分可溶性 45 36.1 可溶性
【0035】上記の表は、水不溶性モノマー成分がメチルメタアクリレートで、水溶性モノマー成分がメチルクロライドで四級化したジメチルアミノエチルメタアクリレートである特殊なケースのデータを示す。水不溶性第四級アンモニウム塩のもうひとつの例は、メチルメタアクリレート、n−ブチルアクリレートおよびジメチルアミノエチルメタアクリレートの重量比が55/20/25であり、平均分子量が約75,000の四級化共重合体である。
【0036】水不溶性および水溶性の高分子量第四級アンモニウム塩のどちらでも、好適な水抽出性指数が得られる。インク受容性マトリックス用に選択される第四級アンモニウム塩の水抽出性指数は画像形成システムとインクの組成によって決まる。
【0037】本発明で用いるヒドロゲルコンプレックスが特殊な性質をもつため、防水性、耐にじみ性を改良するためにある種の高分子量水溶性第四級アンモニウム塩を本発明の媒体中に使用できる。これらの水溶性第四級アンモニウム塩は一般に2成分を包含する共重合体からなる。両成分とも水溶性であり、そのうち一成分が第四級アンモニウム成分を含む。これらの水溶性第四級アンモニウム塩の代表例はビニルピロリドンとジメチルアミノエチルメタアクリレートの四級化共重合体およびビニルイミダゾリウムメソクロライドとビニルピロリドンの四級化共重合体である。一般に、四級塩成分は共重合体に大きな可溶性を付与し、低可溶成分に対する高可溶成分、比率を選択することで所望の性質を得る。好適な成分を選択しその比率を好適なものにすることにより、好適な四級アンモニウム塩を製造するために三元共重合体を使用することができる。いずれの場合も、好適な水溶性の第四級アンモニウム塩はその水抽出性にもとづいて選択する。本発明に包含される水溶性の第四級アンモニウム塩は、本発明に開示した試験法で決定した値として約40未満、好ましくは約25未満の水抽出性指数を有する。
【0038】通常の市販される水溶性第四級アンモニウム塩は低分子量であり、高分子量の水溶性第四級アンモニウム塩で得られるものに比べ劣る特性をインク受容媒体に与える。これは、特に耐水および耐にじみ性について言える。その結果、上記低分子量水溶性第四級アンモニウム塩は通常、本発明で規定する水抽出性指数の要件を充たさない。
【0039】ある種の水溶性第四級アンモニウム塩は本発明媒体中で使用でき、耐水性、耐にじみ性を媒体に与えるが、高グリコールベースのインクを使用したインクジェット式印刷システムとともに用いると通常べたつきを引き起こすという欠点を有することも認識されるべきである。本発明で規定する水抽出性指数の要件をみたす本発明の第四級アンモニウム塩は、耐水、耐にじみ性の他に、本発明によるインクジェット媒体の画像耐光退色性をも改良する。上記の染料固定用第四級アンモニウム塩が、インク受容性マトリックス層に5〜50%(重量/重量)、好ましくは5〜25%(重量/重量)存在する時、上記の予測されない効果の得られることが知見された。
【0040】上記の第四級アンモニウム塩の使用に加え、他の多価金属塩、特に、カルシウム、亜鉛、アルミニウム、クロム、コバルト等の金属塩を用いて本発明による媒体中の染料画像の固定化を促進することも可能である。インクジェット式印刷は、インクおよび/または鉛筆による書き込み性が通常要求される設計工学およびそれと技術的に同様の利用分野で用いる。本発明の書き込み可能なマットフィルムに使用する顔料は、インクジェット式印刷に要求される一連の独特な特質を達成できるように選択する。印刷操作中積み重ねトレー(stacking tray)で裏移りや汚れが生じるのを防止するために必要なインクの速乾性がこれらの特性の中で最も重要である。また、顔料は、インク点が横方向に拡散する作用を通じて良好な画像密度を提供できるように選択される。更に、選択する顔料は鉛筆で書き込んだ場合に良好な画像密度を提供できるのに十分な摩蝕性または硬さを有することが必要である。また、顔料は媒染性(dye mordanting properties)を提供するのに役立つ多価陽イオンを有するものを使用してもよい。更に、ジアゾ複写法におけるように紫外線透過型複写が求められる用途の場合、顔料は紫外線や可視光線を過度に吸収するものあってはならない。また、顔料を含有するマトリックスはその領域内で光を吸収及び過度に散乱してはならない。
【0041】本発明のヒドロゲルコンプレックスは良好なインク乾燥特性を示すが、しかし意図する用途に関して適切な速乾性を提供するためには不十分である。顔料および高い空隙容積率を提供する顔料濃度を用いることにより乾燥はかなり改良される。しかしながら、過剰の空隙容積率はマトリックス層が結合性あるいは物理的一体性を失う原因となる。したがって、マトリックス層が20g以上の臨界一体性値(Critical Integrity Value)を有するように顔料および顔料濃度を選択する。被覆層が弱すぎて意図する目的に役に立たなくなるまで、すなわち被覆層がもはや十分な結合性を有さなくなるまで顔料の結合剤に対する配合割合を増加した被覆層を作ってみることにより、臨界一体性値を求めることができる。本発明の目的の為には、ガードナー バランスト ビームスクレイプ−アドヒジョン アンド マー テスター(GARDNER Balanced Beam Scrape−Adhesion and Mar Tester)を用い、ホフマン ツール(Hoffman tool)を用いるASTM2197試験法に従って臨界一体性値〔結合力(cohesiveness)の欠如〕を測定することができる。ホフマンツールを使用して最初にインク受容性マトリックス層を貫通するのに必要な最少の重量を臨界一体性値と定義する(この試験操作については後に述べる)。本明細書で述べる試験法によって測定した場合、本発明において、上記マトリックス層の臨界一体性値は少なくとも約20gであることが必要である。
【0042】マトリックス層において顔料のヒドロゲルコンプレックスに対する重量比が高くなればなる程、空隙容積が増し、乾燥速度および画像密度が増すことがわかった。反対に、上記の重量比が低くなればなる程、マトリックス層の結合力と解像力が大きくなるが、乾燥速度は遅くなり画像密度は低くなる。実用上は、各種特性間の最良のバランスは臨界一体性値20gに近いが20g未満ではないことが発見された。上記臨界一体性値に等しいかそれ以上の値を得るのに必要な顔料のヒドロゲルコンプレックスに対する重量比は顔料や結合剤の種類によって変わることがわかった。したがって、顔料のヒドロゲルコンプレックスに対する最適の重量比を決定する前にこれらの材料の適切な選択をする。顔料のヒドロゲルコンプレックスに対する最も好ましい重量比は、目的とする重要な性能特性を評価し、また各種特性の最良のバランスが得られる量比を選ぶことによって決定される。
【0043】顔料のヒドロゲルコンプレックスに対する重量比が約0.2:1〜約3.5:1である場合、更に好ましくはこの重量比が約0.5:1〜約2:1であり、且つ平均粒径が約0.5〜約10ミクロン、更に好ましくは約2.0〜約6.0ミクロンである場合、各種特性間の適切なバランスが得られる。モース(Mohs)硬度が約2.2〜約7.0、好ましくは約4.0〜約7.0である顔料を選択することにより、鉛筆書込み性が得られる。紫外線透過性が必要な場合には、顔料の屈折率が約1.4〜約1.7であるものを選ぶ。本発明のヒドロゲルコンプレックスを使用することにより従来のペン用インクによるインク書込み性が達成できる。更に、インクおよびインク適用システムに最も適したインク点の広がり(dot spread)に調整するために顔料のヒドロゲルコンプレックスに対する重量比を上記に特定した範囲内で選択する。
【0044】本発明のヒドロゲルコンプレックスと一緒に使用し、必要とされる書込み性、速乾性、画像密度および化学光線透過性を提供する好ましい顔料があり、そのような顔料としては、非晶質シリカ、結晶シリカ、アルミナ三水和物、炭酸カルシウム、ケイ酸カリウムナトリウムアルミニウム、珪藻土、アルミニウム及びマグネシウムのケイ酸塩類およびこれらの混合物を挙げることができる。しかしながら、すべての顔料がインク受容性マトリックスの顔料主成分として一般に適しているわけではない。適した顔料主成分としては、例えば、粒子状ポリオレフィンや同様の有機材料、タルク、酸化亜鉛、リトポン、および二酸化チタン等が挙げられる。
【0045】場合によっては、画像形成をしたマットフィルムの視覚上のコントラストを増すことが望ましいこともある。これは二酸化チタンあるいは硫酸バリウム/硫化亜鉛混合物のような白い不透明な顔料をごく少量添加することにより達成できる。これらの顔料の典型的な濃度は顔料の全重量に対して約1〜約10重量%であり、好ましくは約1.0〜約3.0重量%である。インク受容性マトリックスにおいて、顔料及び顔料のヒドロゲルコンプレックスに対する重量比は上に述べた要件を充たすものでなければならない。
【0046】透過型複写においては、選択した顔料の屈折率が1.40〜1.70であることが必要であり、また、使用されたヒドロゲルコンプレックスの屈折率と同じかまたは近い屈折率であることが好ましい。反射型複写においては、化学光線透過性マットフィルムを用いる必要はないと思われる。従って、不透明なベース支持体を使用してもよいし、さらに/またはマトリックス層に含まれる顔料の屈折率が透過型フィルム用に関して述べたものより高くてもよい。
【0047】本発明の透明フィルムとマットの複合体においては、インクの横方向への拡がりと浸透との間の拡散率の制御を助けるために所望ならば、トップコートを用いることが出来る。理想的な拡散のバランスは、高い画像密度が得られるようにインクの点と点との間の空白部分が丁度埋まる程度にインクの点が拡がる場合である。インクの点が過剰に拡がると画像の鮮明度が失われる原因となる。また、このようなトップコートは、筆記のための粗面および/または鉛筆の消去性、ペンインクの受容性等の望ましい表面特性を得るために用いることもできる。トップコートはマトリックス層よりも高い液体吸収性を示すことが好ましい。実用上、以下の方法でインクジェット式マトリックス層の表面特性を変えることによってマトリックス層の特質を変えることができる。例えば、水溶性トップコート又はオーバーコートとしてはポリビニルアルコール、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の親水性重合体などがある。これらは単独でもしくは前に述べたようなポリ(N−ビニル複素環)成分〔例えばポリ(N−ビニルピロリドン)〕と混合して用いてもよい。該トップコート層はまた本発明で開示したインク受容性マトリックス層に使われているタイプの櫛型グラフト共重合体を含有することもできる。このような櫛型グラフト共重合体としては約30から約70重量%の親水性側鎖を含有するものが好ましい。例えば結合材重合体と顔料を含有する表面層をマトリックス層の上に設けることにより、書込み特性を変えることおよび/または鉛筆の消去性を付与することができる。実用上、透明及び書込み可能なインクジェット式記録媒体の被覆層中、すなわち、インク受容性マトリックス組成物又はトップコート組成物中あるいはその両方の組成物中に種々の添加剤を添加することができる。これらの添加剤としては、被覆層組成物の湿潤あるいは拡散性を制御する表面活性剤、静電防止剤、懸濁剤、摩擦特性を制御しまたは反射特性を変えあるいはスペーサーとして働く微粒子、被覆材の特性、特にpH等をコントロールする酸性基を有する化合物などを挙げることができる。
【0048】従来、画像フィルムの裏側すなわち画像受容層の反対側にコーティング(バックコートの形成)が行われている。このバックコートは顔料と結合材で構成されている。これは画像形成装置の中でのフィルムの移送を確実にすることとフィルムの両面の張力のバランスをとって印刷物が平らに置かれるようにする役目を果たす。透明なフィルムについては、使用する顔料の量を選択することによって、予想されるくもりの増加を最小限に抑制する。或る種のインクジェット式印刷機を用いる場合は、書き込みフィルムのバックコートには更にもう一つの重要な付加的特性が要求される。それは、或る種のインクジェット式印刷機では、印刷物の印刷画像側を下にしてスタッキング(積み重ね)トレイのなかに送りだしてしまうので、印刷機のスタッキングトレイの中に入ってくる画像形成完了したてのフィルムを次に出てくるプリントから分離しておくための「スペーサー」を提供しなければならないということである。もし印刷物と印刷物との間のスペースが不十分だとインクの裏移り(offset)が生じることがある。本発明者らは、シート間の密着を防ぐスペーサー顔料を入れた非インク吸収性バックコートを設けることによってこの裏移りの問題を解決できることを発見した。この目的のために用いられる顔料としては、非晶質および結晶シリカ、デンプン、微晶質セルロース、部分スルホン化ポリスチレンイオノマー、中空球体ポリスチレンビーズなどが挙げられる。この顔料の平均粒径は重要であり、10〜30ミクロン、好ましくは15〜20ミクロンの範囲である。フィルムのバックコートは80〜270シェフィールド単位[Sheffield units]のシェフィールド値を示すものでなければならない。80未満では効果的なスペースをつくるには不十分であり、270を越えると被覆の外観が荒くなりすぎる。しかし、裏移りが問題でない場合は低いシェフィールド値を示すものが使用できる。本発明に開示されるバックコートに使用される結合材の代表的なものとしては、吸水性のない重合体、例えば、アクリレート、メタクリレート、ポリスチレン、及び、ポリ塩化ビニル/ポリビニルアセテート共重合体が挙げられる。工学的用途においては(enginnering applications)、当業界でよく知られているように、本発明のマットフィルムの非画像側に公知の書込み式表面を設けることが有利である。こうすることによってフィルムの裏面に書き加えることができるからである。この場合、フィルムの表側の画像は逆読みとなる。本発明に開示されるインク受容性マトリックスの被覆保持量は使用するインクの種類と量によって決まる。しかしながら、インク受容性マトリックス層は一般に約2〜約20g/m2、好ましくは約3〜約10g/m2の量でフィルム支持体に塗布される。上記のトップコート層をインク受容性マトリックス層に塗布する際の好ましい量は約0.1〜約2.0g/m2、もしくはフィルム複合体の表面特性を変えるのに充分な量である。上記のバックコート層の被覆保持量は通常2〜12g/m2、好ましくは4〜8g/m2である。本発明のフィルム複合体中の各層を塗布形成する際には各種方法を採用することができる。例えば、ローラーコーティング、ワイヤーバーコーティング、ディップコーティング、エアーナイフコーティング、スライドコーティング、カーテンコーティング、ドクターコーティング、フレキソ印刷コーティング、あるいはグラビアコーティングが挙げられる。これらの方法は当業者には公知のものである。上述した本発明の実施態様の大部分においては、一般に、フィルム支持体はインク受容性マトリックス層と、所望ならば、トップコート層および/またはバックコート層を有している。しかし、紙や紙製品などに積層または塗布された重合体フィルムからなる支持体を有する被覆フィルム複合体も本発明の範囲に含まれる。本発明のインク受容性マトリックス層を有するフィルム複合体の主な用途はインクジェット印刷であるが、オフセット印刷、ペンによる記録、手書き(manual drafting)などの画像形成法にも有用である。
【0049】
【実施例】以下の実施例は本発明を更に説明するものであり、本発明の範囲を限定するものではない。組成物中の個々の成分につき挙げられた化学名は商品名を含み、実施例中の[部]はすべて重量部を示す。実施例中の記録媒体の製造には次の一般的手順を採用した。透明画用またはエンジニアリング用の光透過性支持体として又はグラフィックアート用の光反射性支持体としてポリエチレンテレフタレートフィルムを使用した。本フィルムの片面には、次の実施例に示す組成物をメイヤー棒(Meyerrod)を用いて塗布した。塗布した試験片は約250度Fの熱風循環炉の中で2〜3分乾燥させた。
【0050】得られた記録媒体につき、モノクロ及びカラーのインクジェット式記録テストを行った。実施例の画像形成テストには、特に記載のないかぎり、本質的に透明な被覆では印刷機としてペイントジェットXL300とデスクジェットCを用い、マットフィルムでは印刷機としてデザインジェットとデスクジェット500を用いた。耐水性および耐光退色性テストには異なる4色の水性インクを用いた。臨界一体性値(Critical Integrity Value)を求めるために用いた試験法は次の通りである。
【0051】非画像形成透過性試験片をTAPPI[Technical Association of Pulp and Paper Industry, NewYork)設定の条件下に一晩放置する。臨界一体性値は、ガードナー バランスト ビーム スクレイプ アドヒージョン テスター](Gardener Balanced Beam Scrape Adhesion Tester)#SG8101とホフマン ツール(Hoffmann Tool)SG−1611を用いてテストを行ない、その6回のテエスト結果の平均値を求めて決定する。その手順はASTM2197に従う。約1インチ/秒の一定の力で試験片を引っ張りホフマンツールを通過させた。荷重増加により貫通終了点を決定した。この終了点、すなわち、臨界一体性値は、被覆を除去して支持体に達する荷重である。この終了点の測定は、上記試験を経て様々な荷重に対応した刻み目を有する試験片をオーバーヘッドプロジェクターのステージに乗せ、部屋を暗くして、スクリーンに可視透過光線を映し出す刻み目に対応する最小の荷重を調べることにより行われる。
【0052】用いた第四級アンモニウム塩の水抽出性指数は、次の試験手順に従い求めた。対象のインク受容性マトリックス形成組成物に第四級アンモニウム塩(QUAT)を加えて平方メートル当たりの第四級アンモニウム塩成分の濃度を0.004モルとする。この組成物を4ミルのポリエチレンテレフタレートフィルム支持体上に塗布して100度Cで3分間乾燥させる。この乾燥した被覆はインク受容性フィルム被覆を形成する。
(第1ステップ)被覆フィルムの10インチ×2インチ試験片を1/4インチ×2 1/2インチの小片にカットし、5/8インチ×5 1/2 インチの試験管のなかに入れる。試験管中に脱イオン水20mlを加え試験片が完全に浸漬されていることを確かめる。試験片/水を一晩(および18時間)放置する。水抽出物をケメトリクスR タイトレッツ キット(CHEMetricsR Titrets Kit)に付属のサンプルガラス瓶の中にデカンテ−ションさせ、そのケメトリクスの手順にしたがって滴定を行う。[水溶液中の第四級アンモニウム化合物(QUAT)のレベルを測定する測定具一式であるケメトリクスR キットは、米国、バージニア州カルバートンのケメトリクス社(CHEMETRICS INC., Calverton, Virginia, U.S.A.)より入手できる。]
(第2ステップ)次の式を用いてサンプル被覆(QUATc)中の第四級アンモニウム塩の量を計算する。
QUATcのmg=gm/m12×QUAT%×12.9*(*式中、12.9は換算係数である)
(第3ステップ)次の式を用いて水抽出物(QUATwe)中の第四級アンモニウム塩の量を計算する。
QUATweのmg=スケールユニット×MW/448.1*×2(*式中、448.1は換算係数である)(第4ステップ)次の式を用いて被覆中の第四級アンモニウム塩の水抽出性指数(WEI)を計算する。
WEI=[QUATweのmg/QUATcのmg]×100上記の各式において、スケールユニットはケメトリクスRタイトレッツから得られ、MWはテスト下のQUATの分子量であり、WEIはインク受容性フィルム被覆から抽出されたQUATの%である。本発明のフィルム媒体においては、WEIは約40%未満であり、好ましくは約25%未満である。本発明で規定するWEIは上記の方法で簡便に測定できるが、このWEIはケメトリクス法とは別個に規定しているので、フィルム中のQUATの量と採用した抽出法によりフィルムから抽出されるQUATの量を測定できるいかなる方法によっても本WEIを測定評価することができる。実施例中で耐水性は、次の試験手順に従い決定する。水性インクを使用する300dpi(dots per inch)解像度のインクジェット式印刷機でサンプルの画像形成側に黒、シアン、マジェンタ及び黄色のカラーブロックを印刷する。各色1インチ×1インチの四角形にサンプルをカットして、脱イオン水の中に5分間浸漬する。そのあとサンプルを50度Cで30分空気乾燥する。非水洗サンプルと水洗サンプルの両方のカラーブロックのカラーパラメーター、L*、a*、b*を10度の角度でC光源をもったマクベスカラーアイ(Macbeth Color Eye)1500分光光度計を用いて測定する。次の式から色差△Eを得る。
△E=[(△L*)2+(△a*)2+(△b*)2]1/2実施例中の画像の耐光性、耐光退色性は、次の試験手順に従い求める。水性インクを使用する300dpi(dots per inch)のインクジェット式印刷機で黒、シアン、マジェンタ及び黄色のカラーブロックを印刷する。印刷したサンプルを蛍光灯のパネルに対向させ露光する(光強度はサンプルの表面近くで約10,000ルックスであった)。露光時間は24時間に設定して、露光前と露光後のカラープリントのカラーパラメーター、L*、a*、b*を測定する。次の式から色差△Eを算定する。
△E=[(△L*)2+(△a*)2+(△b*)2]1/2
【0053】実施例1 ベースコート組成 重量部PVP(K−90)1 6.8櫛形グラフト共重合体A2 1.2第四級樹脂A3 3.2澱粉顔料4 0.4ドワノール(Dowanol)PM5 120.0トップコート組成メトセル(Methocel)F−506 1.5メタノール 5.0水 93.51.PVP(K−90):ポリ(N−ビニルピロリドン)、平均分子量360,000、ジーエーエフ コーポレーション社(GAF Corporation)製。
2.櫛形グラフト重合体A:メチルメタクリレートの主鎖に2−ヒドロキシエチルメタクリレートの側鎖をグラフトした櫛形共重合体。重量比は78/22。平均分子量は35,000。
3.第四級樹脂A:重量比80/20のメチルメタクリレートとジメチルアミノエチルメタクリレートの共重合体であり四級化したもの。平均分子量は50,000。
4.澱粉顔料:トウモロコシ澱粉。平均粒径は16ミクロン。
5.ドワノール PM:プロピレングリコールモノメチルエーテル。
ダウケミカル社(Dow Chemical Corporation)製品。
6.メトセルF−50:ダウケミカル社製品。
【0054】アイシーアイメリネックス(ICI Melinex)3.8ミル厚の339型ポリエステルフィルムに42号のメイヤー(Meyer)棒を使って上記ベースコート組成物を塗布した。この被覆を250度Fで2分間乾燥させた後、上記トップコート組成物を同様の条件下で12号のメイヤー棒を使用して塗布した。得られた仕上げ被覆の乾燥被覆重量は約7g/m2である。
【0055】本実施例によって得られた媒体は、インク受容性に優れ、速乾性で、ベタ領域でべとつきのない画像をあたえた。また、本実施例では、優れた画像耐水性と良好な耐光退色性が示された。評価結果を表2に示す。
【0056】実施例2 組成 重量部 PVP(K−90) 6.8 櫛形グラフト重合体B1 1.2 第四級樹脂A 3.2 ドワノール PM 100.01.櫛形グラフト重合体B:メチルメタクリレートの主鎖にN−ビニルピロリドンをグラフトした櫛型共重合体。重量比は70/30。平均分子量は50,000。アイシーアイ メリネックス 054透明型と339不透明型の3.8ミル厚のポリエステルフィルム上に実施例1と同じ条件で上記組成物を塗布した。本実施例によって得られた媒体は実施例1において得られた媒体に匹敵する印刷特性、耐水性、耐画像退色性を発揮した。
【0057】実施例3 組成 重量部 PVP(K−90) 7.2 櫛形グラフト共重合体C1 0.8 第四級樹脂A 3.2 ドワノール PM 100.01.共重合体C:メチルメタクリレートにヒドロキシエチルメタクリレートとN−メチロールアクリルアミドをグラフトした櫛型共重合体。重量比は77/23。平均分子量は35,000。アイシーアイ メリネックス 054透明型と339不透明型の3.8ミル厚のポリエステルフィルム上に上記組成物を実施例1と同じ条件で塗布した。本実施例によって得られた媒体は実施例1の媒体と類似の品質特性を示した。
【0058】実施例4 ベースコート組成 重量部 PVP(K−90) 6.8 櫛形グラフト共重合体A 1.2 第四級樹脂B1 6.4 ドワノール PM 120.0トップコート組成 メトセル F−50 1.5 メタノール 5.0 水 93.51.第四級樹脂B:ビニルピロリドンとジメチルアミノエチルメタクリレートの共重合体。重量比は80/20であり、平均分子量は100,000。アイシーアイ メリネックス 054透明型2.64ミル厚のポリエステルフィルム上に上記組成物を実施例1と同じ条件で塗布した。本実施例により得られた媒体は実施例1の媒体と比べ改善された耐水性と耐光退色性を示した。水性インクの代りにハイグリコールインクを使用したところ類似の好結果が得られたが画像は非常にべとつくようになった。
【0059】実施例5 ベースコート組成 重量部 PVP(K−9) 5.8 櫛形グラフト共重合体A 1.0 第四級樹脂A 1.2 ダイアトマイト無機充填剤 6.4 (Diatomite Mineral Filler)1 [超微粒、スーパーフロス(superfloss)グレード)]
ドワノール PM 80.0 バックコート組成 重量部 エルバサイト(Elvacite)20462 20.0 澱粉顔料3 2.3 メチルエチルケトン 52.0 トルエン 52.01.ダイアトマイト無機充填剤:珪藻土充填剤であり平均粒径は4.0ミクロン。マンビル社(Manville Corporation)製品。
2.エルバサイト2046:n−ブチルメタクリレートとイソブチルメタクリレートの共重合体。重量比は50/50。デュポン社(DuPont deNemours & Co., Inc.)製品。
3.澱粉顔料:トウモロコシ澱粉、平均粒径16ミクロン。アイシーアイ メリネックス 054型の3.8ミル厚のポリエステルフィルム上に45号メイヤー棒を使って上記ベースコート組成物を塗布した。塗布後の被覆を250度Fで2.5分乾燥させた。乾燥した被覆重量は約9g/m2であった。本実施例によりえられた媒体を用いてヒュウレットパッカード(Hewlett Packard)デスクジェット500およびデザインジェット印刷機で画像を形成した。インクの乾きは速く、印刷物は高画質であり、画像を形成したサンプルを印刷物受け入れトレイの中に自動的に積み重ねたとき裏移りが生じなかった。カラー画像の耐水性試験結果も表3に示す。
【0060】比較例1 ベースコート組成 重量部 PVP(K−90) 6.8 櫛形共重合体A 1.2 澱粉顔料 0.4 ドワノール PM 100.0 トップコート組成 メトセルF−50 1.5 メタノール 5.0 水 93.5アイシーアイ メリネックス 339不透明型3.8ミル厚のポリエステルフィルム上に上記ベースコート組成物を42号メイヤー棒を使って塗布した。塗布後の被覆をまず250度Fで2分間乾燥させ、次に12号メイヤー棒を使って上記トップコート組成物を塗布して、同様に乾燥させた。仕上げ被覆の乾燥被覆重量は約7g/m2である。本比較例によって得られた媒体は画像汚れがなくまたインク癒着を生じさせることなく良好なインク受容性を示した。しかし、水性インクを使用した結果は表1に示すごとく耐水性と耐光退色性は劣っていた。水性インクの代わりにハイグリコールインクを使用すると、得られた製品は実施例1〜4の製品と比較して耐にじみ性(bleed resistance)が劣っていた。
【0061】比較例2 組成 重量部 PVP(K−90) 6.8 櫛形グラフト重合体A 1.2 第四級化合物C1 2.5 ドワノール PM 100.01.第四級化合物C: サイアスタット(Cyastat)609、低分子量第四級化合物、MW=474。アメリカン シアナミド社(AmericanCyanamid Corp.)製品。アイシーアイ メリネックス339不透明型3.8ミル厚のポリエステルフィルム上に上記組成物を実施例1と同じ条件で塗布した。本比較例によって得られた媒体は画像の耐水性が極めて悪かった。
【0062】比較例3 ベースコート組成 重量部 PVP(K−90) 5.8 櫛形グラフト共重合体A 1.0 ダイアトマイト無機充填剤 6.4 (超微粒、スーパーフロス グレード)
ドワノール PM 80.0 バックコート組成 エルバサイト 2046 20.0 澱粉顔料 2.3 メチルエチルケトン 52.0 トルエン 52.0アイシーアイ メリネックス 054透明型、3.8ミル厚のポリエステルフィルム上に上記組成物を実施例5と同じ条件で塗布した。本比較例により得られたサンプルは実施例5と異なり画像の耐水性が悪かった(表3参照)。
【0063】表2 耐水性△E サンプル シアン マジェンタ 実施例1 0.7 1.0 5.8 0.9 比較例1 35.5 53.3 24.5 85.7 耐光性△E サンプル シアン マジェンタ 実施例1 0.3 7.4 14.8 1.6 比較例1 0.4 21.0 10.3 6.0表2に列記してある結果は、水不溶性の第四級樹脂である第四級樹脂Aをヒドロゲルマトリックスに混入させたため染色画像の耐水性と耐光性が改良されたことを示している。
【0064】表3 耐水性△E サンプル シアン マジェンタ 実施例5 4.2 1.2 2.3 4.2 比較例3 19.3 51.1 22.1 36.0本発明を以上のように説明してきたが、本発明を多様に変化させることができるということは自明である。そのような変化は本発明の精神と範囲からの変更とみなされるべきではなく、当業者に自明なそのような改変は全て、上記の本願特許請求の範囲に包含されるものである。尚、本願発明明細書に引用した文献と特許の内容の全ては、その引用によって、本願明細書の記載の一部として明確に組み入れるものである。
【0065】
【発明の効果】本発明によって提供される記録媒体は、改善された記録保持性及び品質(耐光性、耐水性等)を有し、プレゼンテーション用図形作製、設計工学及びオフィスシステムでの利用に適する。
【0066】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のフィルム複合体の1つの好ましい態様の構成を示す。
【符号の説明】
図1において(1)は支持体、(2)はインク受容性マトリックス層、(3)はトップコート、(4)はバックコートを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 透明、半透明又は不透明な支持体と、該支持体の少なくとも1つの側に設けられた本質的に鮮明な水不溶性、吸水性及びインク受容性マトリックス層を包含し、該マトリックス層はヒドロゲルコンプレックスと重合高分子量第四級アンモニウム塩とを含有することを特徴とするフィルム複合体。
【請求項2】 該ヒドロゲルコンプレックスが、ポリ(N−ビニル複素環)成分と水不溶性コンプレックス化剤を包含し、該第四級アンモニウム塩が約10,000〜500,000の平均分子量を有することを特徴とする請求項1に記載のフィルム複合体。
【請求項3】 該ポリ(N−ビニル複素環)成分が、ポリ(N−ビニルピロリドン)及びポリ(N−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリドン)よりなる群から選ばれることを特徴とする請求項2に記載のフィルム複合体。
【請求項4】 該コンプレックス化剤が、疎水性主鎖と親水性側鎖を有する水不溶性櫛型グラフト共重合体であることを特徴とする請求項2に記載のフィルム複合体。
【請求項5】 該水不溶性櫛型グラフト共重合体が、メチルメタクリレートを包含する疎水性主鎖を有し、且つポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルメタクリレート、又はヒドロキシエチルメタクリレート/N−メチロールアクリルアミドを包含する親水性側鎖を有することを特徴とする請求項4に記載のフィルム複合体。
【請求項6】 該櫛型グラフト共重合体において、重合体主鎖の親水性側鎖に対する重量比が10:90〜90:10であることを特徴とする請求項4に記載のフィルム複合体。
【請求項7】 該インク受容性マトリックス層中の上記の重合高分子量第四級アンモニウム塩が、約10,000〜500,000の平均分子量を有し、且つ約40未満の水抽出性指数を有することを特徴とする請求項1に記載のフィルム複合体。
【請求項8】 上記の重合高分子量第四級アンモニウム塩が式Iの第四級アンモニウム塩であることを特徴とする請求項1に記載のフィルム複合体。式Iは、

(但し、R1、R3及びR5は水素、或いは炭素原子数1〜8の直鎖又は分岐鎖低級アルキル基であり、R2、R4及びR6〜R8は炭素原子数1〜8の直鎖又は分岐鎖低級アルキル基であり、X-はCl-、I-、F-、ClO4-、SO4-2又はPO4-3であり、nは2〜8であり、w、y、zは1又はそれ以上の正の整数を示す。)である。
【請求項9】 該ヒドロゲルコンプレックスが、ポリ(N−ビニルピロリドン)と水不溶性櫛型グラフト共重合体を含有することを特徴とする請求項7又は8に記載のフィルム複合体。
【請求項10】 該支持体が透明又は半透明であることを特徴とする請求項1に記載のフィルム複合体。
【請求項11】 該支持体が不透明であることを特徴とする請求項1に記載のフィルム複合体。
【請求項12】 透明、半透明又は不透明な支持体と、該支持体の少なくとも1つの側に設けられた水不溶性、吸水性及びインク受容性マトリックス層を包含し、該マトリックス層は、ヒドロゲルコンプレックス、重合高分子量第四級アンモニウム塩及び約2.2〜7.0のモース硬度を有する顔料を含有し、且つ少なくとも20gの臨界一体性値を有することを特徴とするマットフィルム複合体。
【請求項13】 該ヒドロゲルコンプレックスが、ポリ(N−ビニル複素環)成分と水不溶性コンプレックス化剤を含有し、該第四級アンモニウム塩が約10,000〜500,000の平均分子量を有することを特徴とする請求項12に記載のマットフィルム複合体。
【請求項14】 該ポリ(N−ビニル複素環)成分が、ポリ(N−ビニルピロリドン)及びポリ(N−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリドン)よりなる群から選ばれることを特徴とする請求項13に記載のマットフィルム複合体。
【請求項15】 該コンプレックス化剤が、疎水性主鎖と親水性側鎖を有する水不溶性櫛型グラフト共重合体であることを特徴とする請求項13に記載のマットフィルム複合体。
【請求項16】 該櫛型グラフト共重合体が、メチルメタクリレートを包含する疎水性主鎖を有し、且つポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルメタクリレート、又はヒドロキシエチルメタクリレート/N−メチロールアクリルアミドを包含する親水性側鎖を有することを特徴とする請求項15に記載のマットフィルム複合体。
【請求項17】 該櫛型グラフト共重合体において、重合体主鎖の親水性側鎖に対する重量比が10:90〜90:10であることを特徴とする請求項15に記載のマットフィルム複合体。
【請求項18】 該インク受容性マトリックス層中の上記の重合高分子量第四級アンモニウム塩が約10,000〜500,000の平均分子量を有し、且つ約40未満の水抽出性指数を有することを特徴とする請求項12に記載のマットフィルム複合体。
【請求項19】 該重合高分子量第四級アンモニウム塩が式Iの第四級アンモニウム塩であることを特徴とする請求項12に記載のマットフィルム複合体。式Iは、

(但し、R1、R3及びR5は水素、或いは炭素原子数1〜8の直鎖又は分岐鎖低級アルキル基であり、R2、R4及びR6〜R8は炭素原子数1〜8の直鎖又は分岐鎖低級アルキル基であり、X-はCl-、I-、F-、ClO4-、SO4-2又はPO4-3であり、nは2〜8であり、w、y、zは1又はそれ以上の正の整数を示す。)である。
【請求項20】 該ヒドロゲルコンプレックスが、ポリ(N−ビニルピロリドン)と水不溶性櫛型グラフト共重合体を含有することを特徴とする請求項18又は19に記載のマットフィルム複合体。
【請求項21】 該支持体が透明又は半透明であることを特徴とする請求項12に記載のマットフィルム複合体。
【請求項22】 該支持体が不透明であることを特徴とする請求項12に記載のマットフィルム複合体。
【請求項23】 該マトリックス層の該顔料の含有率が約1〜10重量パーセントの範囲であることを特徴とする請求項12に記載のマットフィルム複合体。
【請求項24】 該顔料が、結晶シリカ、アルミナ三水和物、炭酸カルシウム、ケイ酸カリウムナトリウムアルミニウム、珪藻土、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びこれらの混合物からなる群より選ばれることを特徴とする請求項12又は23に記載のマットフィルム複合体。
【請求項25】 該フィルム複合体が、更に、インク受容性マトリックス層の反対側に設けたバックコートを包含することを特徴とする請求項1又は12に記載のフィルム複合体。
【請求項26】 該フィルム複合体が、更に、該インク受容性マトリックス層の上に設けたトップコートを包含し、該トップコートは、その下のマトリックス層よりも高い液体吸収性を有することを特徴とする請求項1又は12に記載のフィルム複合体。
【請求項27】 インクジェット式印刷システムにして、透明、半透明又は不透明な支持体と、該支持体の少なくとも1つの側に設けられた本質的に鮮明な水不溶性、吸水性及びインク受容性マトリックス層を包含し、該マトリックス層はヒドロゲルコンプレックスと重合高分子量第四級アンモニウム塩とを含有してなるフィルム複合体を包含することを特徴とする改良されたインクジェット式印刷システム。
【請求項28】 該インク受容性マトリックス層中の上記の重合高分子量第四級アンモニウム塩が約10,000〜500,000の平均分子量を有し、且つ約40未満の水抽出性指数を有することを特徴とする請求項27に記載のインクジェット式印刷システム。
【請求項29】 インクジェット式印刷システムにして、透明、半透明又は不透明な支持体と、該支持体の少なくとも1つの側に設けられた水不溶性、吸水性及びインク受容性マトリックス層を包含し、該マトリックス層はヒドロゲルコンプレックス、重合高分子量第四級アンモニウム塩及び約2.2〜7.0のモース硬度を有する顔料を含有し、且つ少なくとも20gの臨界一体性値を有してなるマットフィルム複合体を包含することを特徴とする改良されたインクジェット式印刷システム。
【請求項30】 該インク受容性マトリックス層中の上記の重合高分子量第四級アンモニウム塩が約10,000〜500,000の平均分子量を有し、且つ約40未満の水抽出性指数を有することを特徴とする請求項29に記載のインクジェット式印刷システム。
【請求項31】 インクジェット式印刷物の製造方法にして、透明、半透明又は不透明な支持体と該支持体の少なくとも1つの側に設けられた本質的に鮮明な水不溶性、吸水性及びインク受容性マトリックス層を包含し、該マトリックス層はヒドロゲルコンプレックスと重合高分子量第四級アンモニウム塩を含有してなるフィルム複合体を用いることを特徴とする改良されたインクジェット式印刷物の製造方法。
【請求項32】 該インク受容性マトリックス層中の上記の重合高分子量第四級アンモニウム塩が約10,000〜500,000の平均分子量を有し、且つ約40未満の水抽出性指数を有することを特徴とする請求項31に記載のインクジェット式印刷物の製造方法。
【請求項33】 インクジェット式印刷物の製造方法にして、透明、半透明又は不透明な支持体と該支持体の少なくとも1つの側に設けられた水不溶性、吸水性及びインク受容性マトリックス層を包含し、該マトリックス層はヒドロゲルコンプレックス、重合高分子量第四級アンモニウム塩及び約2.2〜7.0のモース硬度を有する顔料を含有し、且つ少なくとも20gの臨界一体性値を有してなるマットフィルム複合体を用いることを特徴とする改良されたインクジェット式印刷物の製造方法。
【請求項34】 該インク受容性マトリックス層中の上記の重合高分子量第四級アンモニウム塩が約10,000〜500,000の平均分子量を有し、且つ約40未満の水抽出性指数を有することを特徴とする請求項33に記載のインクジェット式印刷物の製造方法。
【0001】

【図1】
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