説明

閃光装置

【課題】 本発明は、閃光の光路を遮ることなく光学部材の温度を精度良く測定する閃光装置を提供する。
【解決手段】 閃光装置は、昇圧部、主コンデンサ、光源部、光学部材、第1温度測定部、第2温度測定部、記憶部及び温度推定部を備える。昇圧部は、電源の電圧を昇圧する。主コンデンサは、昇圧部の昇圧動作に基づいて、電気エネルギを充電する。光源部は、主閃光発光を行なう。光学部材は、光源部からの閃光を透過させる。第1温度測定部は、光学部材から離れて装置内に設定された測定点の温度を測定する。第2温度測定部は、昇圧部の温度を測定する。記憶部は、測定点の温度と光学部材の温度との相関関係を示す演算係数を昇圧部の温度変化に応じて算出すると共に、その演算係数と測定点の温度とに基づいて光学部材の温度を推定する演算式を記憶する。温度推定部は、演算式に基づいて、光学部材の温度を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閃光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラ等の撮像装置に用いられる閃光装置では、連続発光を行なった場合に装置内部の温度が上昇する。そのため、装置内部の電源の温度を測定し、電源の電圧を昇圧する昇圧トランスの充電時間をその電源の温度に応じて変更する閃光装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。これにより、上記の技術では、装置内部の温度上昇を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3762009号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような閃光装置は、通常、光源の前面側(被写体側)に光を集光又は拡散する光学部材を備える。この光学部材は、例えばフレネルレンズ又は半透明板からなる。ここで、連続発光の光量がフルパワーに近い状態下において、電源の温度測定を行なった場合、電源の温度センサが急激な温度上昇に追従できなくなると、実際よりも低い温度を測定してしまう。その結果、光学部材は、連続発光により高温になり、溶けてしまうおそれが生じる。したがって、光学部材の温度を直接測定することが望ましい。
【0005】
しかしながら、光学部材に温度センサ等を直接配置すると、閃光の光路を一部遮るため、照射範囲に偏りが生じて光学性能に影響を与えてしまうという問題が生じる。
【0006】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み、閃光の光路を遮ることなく光学部材の温度を精度良く測定する閃光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明に係る閃光装置は、昇圧部と、主コンデンサと、光源部と、光学部材と、第1温度測定部と、第2温度測定部と、記憶部と、温度推定部とを備える。昇圧部は、電源の電圧を昇圧する。主コンデンサは、昇圧部の昇圧動作に基づいて、電気エネルギを充電する。光源部は、主コンデンサが充電した電気エネルギを光エネルギに変換して閃光発光を行なう。光学部材は、光源部からの閃光を透過させる。第1温度測定部は、光学部材から離れて装置内に設定された測定点の温度を測定する。第2温度測定部は、昇圧部の温度を測定する。記憶部は、測定点の温度と光学部材の温度との相関関係を示す演算係数を昇圧部の温度変化に応じて算出すると共に、その演算係数と測定点の温度とに基づいて光学部材の温度を推定する演算式を記憶する。温度推定部は、演算式に基づいて、光学部材の温度を推定する。
【0008】
第2の発明に係る閃光装置は、昇圧部と、主コンデンサと、光源部と、光学部材と、第1温度測定部と、第2温度測定部と、記憶部と、温度推定部とを備える。昇圧部は、電源の電圧を昇圧する。主コンデンサは、昇圧部の昇圧動作に基づいて、電気エネルギを充電する。光源部は、主コンデンサが充電した電気エネルギを光エネルギに変換して閃光発光を行なう。光学部材は、光源部からの閃光を透過させる。第1温度測定部は、光学部材から離れて装置内に設定された測定点の温度を測定する。第2温度測定部は、昇圧部の温度を測定する。記憶部は、昇圧部の温度に基づいて、測定点の温度から光学部材の温度を推定する複数の演算式を記憶する。温度推定部は、閃光の連続発光の開始時より適用する第1の演算式に基づいて、光学部材の温度を推定すると共に、昇圧部の温度が閾値に達した場合、その閾値に達した時より適用する第2の演算式に基づいて、光学部材の温度を推定する。
【0009】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、制御部は、温度推定部の推定結果に基づいて、閃光発光を制御する。
【0010】
第4の発明は、第2又は第3の発明において、演算式は、測定点の温度と光学部材の温度との相関関係を示す演算係数を昇圧部の温度の設定値に基づいて算出し、演算係数と測定点の温度とに基づいて光学部材の温度を推定する式である。
【0011】
第5の発明は、第1から第4の何れか1の発明において、光源部と第1温度測定部とは、絶縁体を介して設置されている。
【0012】
第6の発明は、第1から第5の何れか1の発明において、光学部材は、閃光を集光又は拡散するレンズ部材である。
【0013】
第7の発明は、第1から第5の何れか1の発明において、光学部材は、閃光を透過させるカバー部材である。
【0014】
第8の発明は、第1から第7の何れか1の発明において、制御部は、昇圧動作において間欠的に昇圧させる時間間隔を制御する。
【0015】
第9の発明は、第8の発明において、制御部は、昇圧部の温度が閾値に達した場合、前回の主コンデンサの充電時より時間間隔を長くする。
【0016】
第10の発明は、第1から第7の何れか1の発明において、制御部は、閃光発光の発光間隔を制御する。
【0017】
第11の発明は、第10の発明において、制御部は、昇圧部の温度が閾値に達した場合、発光間隔を前回の発光時より長くする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の閃光装置によれば、閃光の光路を遮ることなく光学部材の温度を精度良く測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態の閃光装置1の構成例を説明するブロック図
【図2】閃光装置1の概略断面図
【図3】発光回数と温度上昇との関係の一例を示す図
【図4】発光回数と温度上昇との関係の一例を示す図
【図5】閃光装置1の動作の一例を示すフローチャート
【図6】変形例における発光回数と温度上昇との関係の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
図1は、本実施形態の閃光装置1の構成例を説明するブロック図である。本実施形態の閃光装置1は、例えば、閃光装置を内蔵するカメラや外付けのカメラの閃光装置に適用される。
【0022】
閃光装置1は、図1に示す通り、電源10と、昇圧回路11と、昇圧回路用の温度測定部12と、整流素子13と、主コンデンサ14と、発光回路15と、キセノン管16と、レンズ用の温度測定部17と、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor、以下「IGBT」という)18と、環境用の温度測定部19と、メモリ20と、MPU(Micro Processing Unit)21とを備える。
【0023】
電源10は、例えば充電電池であり、閃光装置1は、電源10により電力を供給されて動作する。昇圧回路11は、いわゆるフライバック式の昇圧回路であって、電圧を昇圧する。この昇圧回路11は、昇圧動作用の1次コイル及び2次コイル(不図示)を備えている。
【0024】
昇圧回路用の温度測定部12は、昇圧回路11の温度を測定する温度センサである。この温度測定部12は、昇圧回路11に直接接して測定可能であり、応答性に優れている。整流素子13は、1次コイルに流れる1次電流がオフされた瞬間に昇圧回路11の2次コイルから発生するフライバックパルスを整流する。主コンデンサ14は、整流された2次電流を電気エネルギとして蓄える。発光回路15は、主コンデンサ14に充電された電気エネルギを光エネルギに変換する回路である。具体的には、発光回路15は、キセノン管16を放電させることにより閃光発光を行なう。
【0025】
レンズ用の温度測定部17は、後述するレンズ23(図2参照)から離れて装置内に設定された測定点の温度を測定する。このレンズ用の温度測定部17は、一例として温度IC(Integrated Circuit)センサである。そして、MPU21は、レンズ用の温度測定部17が有する温度検出素子を測定点として、その測定点からの温度のデータを取得する。
【0026】
IGBT18は、入力部がMOS構造で出力部がバイポーラ構造のパワー用トランジスタであって、高耐圧、大電流に適した半導体である。IGBT18を用いることにより、少ない電力で高電力を駆動できるので、発光回路15は、連続発光の光量がフルパワーに近い状態でキセノン管16を放電させることができる。
【0027】
環境用の温度測定部19は、環境温度を測定する温度ICセンサである。メモリ20は、書き換え可能な不揮発性のメモリである。メモリ20は、閃光装置1の制御を行なうプログラム等を予め記憶している。MPU21は、そのプログラムに従い、一例として後述の図5に示すフローの処理を実行する。また、メモリ20は、昇圧回路11の温度に応じて、測定点の温度から光学部材の温度を推定する複数の演算式を記憶している(詳細は後述する)。さらに、メモリ20は、演算式に用いる演算係数等のパラメータを記憶している。
【0028】
MPU21は、閃光装置1の動作を制御する。MPU21は、温度推定部21aと、制御部21bとしても機能する。温度推定部21aは、閃光発光の開始時より適用する第1の演算式に基づいて、レンズ23の温度を推定すると共に、昇圧回路11の温度が閾値に達した場合、その閾値に達した時より適用する第2の演算式に基づいて、レンズ23の温度を推定する(詳細は後述する)。
【0029】
制御部21bは、温度推定部21aの推定結果に基づいて、閃光発光を制御する。具体的には、制御部21bは、充電制御として昇圧回路11の昇圧動作において間欠的に昇圧させる時間間隔を制御する。この場合、制御部21bは、昇圧回路11の温度が閾値に達した場合、前回の主コンデンサ14の充電時より時間間隔を長くする。つまり、昇圧回路11の温度に応じて温度推定部21aの推定結果が変わるため、制御部21bは、昇圧回路11の温度をチェックすることにより、上記の時間間隔を制御しても良い。
【0030】
ここで、レンズ23の閾値(融点近くの温度)ではなく、昇圧回路11の閾値を採用しているのは、一般に昇圧回路11の動作特性に影響を及ぼす温度の方が、レンズ23の閾値よりも低いためである。なお、昇圧回路11の閾値は、動作特性に影響を及ぼす温度より低めに設定している。本実施形態では、昇圧回路11の温度に基づいて、レンズ23の温度を精度良く推定することにより、昇圧回路11の動作特性を担保している。
【0031】
また、制御部21bは、閃光発光の発光間隔を制御しても良い。具体的には、制御部21bは、発光制御として昇圧回路11の温度が閾値に達した場合、発光間隔を前回の発光時より長くする。
【0032】
図2は、閃光装置1の概略断面図である。閃光装置1は、主な構成として、レンズ用の温度測定部17、発光部22と、レンズ23と、フード24とを備える。
【0033】
レンズ23は、閃光を発する発光部22の前方に設けられた光学部材の一種であり、一例として、同心円状の不図示のフレネル溝を備えたフレネルレンズを構成する。発光部22は、光源となるキセノン管16と、キセノン管16で発せられた閃光を前方(被写体側)に反射するリフレクタ25とを備える。リフレクタ25は、表面に反射層を有する板部材を半円形状に形成した反射部材である。図2では、発光部22の光軸をOA(Optical Axis)で示す。なお、光学部材としては、レンズ23の代わりに閃光を透過させるカバー部材であっても良い。つまり、閃光装置1では、光学部材としてレンズ23又はカバー部材を採用することが好ましいからである。
【0034】
また、レンズ用の温度測定部17は、絶縁体のフード24を介して、発光部22の近傍に設置されている。フード24は、例えばプラスチック等の合成樹脂からなる。フード24を設置することにより、閃光装置1では、閃光発光の際、レンズ用の温度測定部17にトリガの高電圧が飛ばないように絶縁することができる。
【0035】
次に、通常の連続発光におけるレンズ23の温度を推定する演算式について説明する。
【0036】
ここで、一例として、環境温度が、0℃以上25℃未満の範囲では、実験結果に基づいて、演算式(1)として、
y=ax+b (1)の関係が成立する。
【0037】
また、環境温度が、25℃以上50℃未満の範囲では、実験結果に基づいて、演算式(2)として、
y=Ax+B (2)の関係が成立する。
【0038】
ここで、yは、レンズ23の推定温度、xは、レンズ用の温度測定部17の測定温度である。また、a、b、A、Bは、実験結果に基づいて、レンズ23の推定温度と実際のレンズ23との実測温度が合うように昇圧回路11の温度に基づいて設定した演算係数であって、一例として、a=1.4、b=20、A=0.2、B=50の値とする。このような値を設定するのは、レンズ23とレンズ用の温度測定部17の測定点とは、フード24を介して離れているため、フード24の熱伝達係数を考慮しているためである。
【0039】
なお、設定した値において大文字と小文字とは、値が異なる(以下同様)。すなわち、小文字は、環境温度が、25℃以上50℃未満の範囲で適用される。大文字は、環境温度が、25℃以上50℃未満の範囲で適用される。温度推定部21aは、環境温度に応じて演算式を使い分ける。これにより、温度推定部21aは、レンズ23の温度をより精度良く推定できる。つまり、温度推定部21aは、レンズ23の温度を間接的に精度良く測定できることとなる。
【0040】
次に、高速連続発光におけるレンズ23の温度を推定する演算式について説明する。ここで、本実施形態では、高速連続発光に伴う昇圧回路11の温度上昇に伴って、温度推定部21aの推定温度がレンズ23の温度に追従できるようにするため、以下の演算係数(3)〜(6)を定義する。演算係数は、レンズ用の温度測定部17の測定温度(x)とレンズ23の温度(y)との相関関係を示す。
【0041】
KTbst1=Tbst×u+m (3)
KTbst2=Tbst×v+n (4)
KTbst3=Tbst×U+M (5)
KTbst4=Tbst×V+N (6)
ここで、Tbstは、昇圧回路用の温度測定部12が測定した昇圧回路11の温度、u、v、U、Vは、係数(変数)、m、n、M、Nは、定数である。但し、KTbst1〜KTbst4は、昇圧回路11の温度(Tbst)が所定の温度(常温)で、0(ゼロ)の値となることとする。
【0042】
したがって、高速連続発光に伴う昇圧回路11の温度上昇を考慮した場合、環境温度が、0℃以上25℃未満の範囲では、実験結果に基づいて、演算式(7)として
y=(a+KTbst1)x+(b+KTbst2) (7)
の関係が成立する。つまり、(7)式は、(1)式を高速連続発光にも適用できるように一般化した演算式である。
【0043】
また、環境温度が、25℃以上50℃未満の範囲では、実験結果に基づいて、演算式(8)として、
y=(A+KTbst3)x+(B+KTbst4) (8)
の関係が成立する。つまり、(8)式は、(2)式を高速連続発光にも適用できるように一般化した演算式である。なお、本実施形態では、u、v、U、V、m、n、M、Nについても、実験により、フード24の熱伝達係数を考慮しつつ、レンズ23の推定温度と実際のレンズ23との実測温度が合うように求めている。この場合、本実施形態では、昇圧回路11の温度の設定値(Tbst)を閾値の温度に設定し、演算係数を算出する。
【0044】
温度推定部21aは、環境温度に応じて、演算式(7)又は演算式(8)を用いることにより、レンズ23の温度(y)を推定する。すなわち、温度推定部21aは、演算式(7)又は演算式(8)を用いることにより、上記の演算係数と、レンズ用の温度測定部17の測定温度(x)とに基づいて、レンズ23の温度(y)を推定する。以下、上記の演算式の適用例について具体的に説明する。
【0045】
図3、図4は、発光回数と温度上昇との関係の一例を示す図である。図3は、通常の連続発光の場合であり、図4は、高速連続発光の場合について示している。横軸は、発光回数、縦軸は、温度(℃)を示す。図3、図4は、工場出荷前に、上記の実験により得られたデータに基づいて作成される。図3、図4において、グラフ(a)は、レンズ23の実測温度の変化を表している。すなわち、実験では、温度ICセンサをレンズ23に実際に接触させて測定している。グラフ(b)は、昇圧回路用の温度測定部12を用いた昇圧回路11の温度の変化を表している。グラフ(c)は、温度推定部21aにより演算式を用いて推定されたレンズ23の温度の変化を表している。グラフ(d)は、レンズ用の温度測定部17を用いた測定点の温度変化を表している。すなわち、グラフ(d)は、レンズ23の近傍の温度変化を表している。
【0046】
図3において、通常の連続発光の場合、温度推定部21aは、演算式(1)又は(2)を適用して、レンズ23の温度を推定する。例えば、環境温度が、25℃以上50℃未満の範囲の場合、温度推定部21aは、演算式(2)を用いる。図3では、通常の連続発光の一例として、10秒間隔で50回の閃光発光を行なった場合について例示している。ここで、図3では、昇圧回路11の閾値(以下「第1閾値」という)は、一例として90℃とし、レンズ23の閾値(以下「第2閾値」という)は、一例として130℃とする(図4も同様)。
【0047】
図3に示す通り、昇圧回路11の温度は、50回の閃光発光を行なっても第1閾値には達しない(グラフ(b)参照)。また、測定点の温度も、50回の閃光発光を行なっても第2閾値には達しない(グラフ(d)参照)。さらに、レンズ23の実測温度(グラフ(a)参照)と演算式(2)による推定温度(グラフ(c)参照)は、ほぼ一致する。すなわち、通常の連続発光の場合、温度推定部21aの推定温度がレンズ23の温度に追従できることを示している。
【0048】
一方、図4において、高速連続発光の場合、温度推定部21aは、先ず、演算式(1)又は(2)を適用して、レンズ23の温度を推定する。例えば、環境温度が、25℃以上50℃未満の範囲の場合、温度推定部21aは、演算式(2)を用いる。図3では、高速連続発光の一例として、フルパワーに近い状態下において2秒間隔で閃光発光を行なった場合について例示している。
【0049】
図4に示す通り、昇圧回路11の温度の上昇率は、図3と比較して大きくなる。そのため、演算式(2)を用いた場合、レンズ23の実測温度と温度推定部21aによる推定温度とに開きが生じてくる(グラフ(a)、(c)参照)。例えば、発光回数30回において、昇圧回路11が第1閾値(90℃)に達した時に、レンズ23の実測温度も第2閾値(130℃)に近い値になっている。しかし、演算式(2)を用いた場合、温度推定部21aは、推定温度として約100℃を推定するため、このまま高速連続発光を続けると、レンズ23が溶けるおそれが生じる。
【0050】
そこで、本実施形態では、昇圧回路11の温度が第1閾値に達した場合、その第1閾値に達した時より適用する演算式(8)に基づいて、レンズ23の温度を精度良く推定するように演算式を変更する。演算式(8)の結果を示すグラフは、グラフ(e)となる。なお、発光回数30回において、図中に示す上向きの矢印は、演算式を変更した時点であることを示している。つまり、演算式(8)では、レンズ23の実測温度(グラフ(a)参照)のグラフに合うように、予めU(係数)、M(定数)が設定される。
【0051】
なお、実験では、レンズ23とレンズ用の温度測定部17とは、フード24を介しているため、フード24の熱伝達係数の影響により、レンズ用の温度測定部17の測定温度は、同時刻において、レンズ23よりも低くなる。すなわち、レンズ23の温度上昇に対しレンズ用の温度測定部17の温度検出素子の温度上昇は、フード24の熱伝達係数の影響により遅れるためである。この影響は、昇圧回路11の温度の上昇率に依存する。そのため、本実施形態では、上述した通り、フード24の熱伝達係数の影響を考慮して、演算係数を決定する。つまり、演算係数は、フード24等の使用する絶縁体によって値が変化する。
【0052】
以上、温度推定部21aは、昇圧回路11の温度が閾値に達した場合、演算式(2)を演算式(8)に変更することにより、レンズ23の温度を精度良く推定できる。
【0053】
次に、閃光装置1の動作について説明する。なお、閃光装置1は、例えば、外付けの電子カメラのホットシュー(不図示)を介して装着される。そして、閃光装置1のMPU21は、電子カメラ側から制御信号を受信して、閃光発光を行なうこととする。
【0054】
図5は、閃光装置1の動作の一例を示すフローチャートである。このフローの処理は、閃光装置1の電源10がオンされると開始する。
【0055】
ステップS101:MPU21は、初期チェックを行なう。具体的には、MPU21は、昇圧回路11を駆動する。また、MPU21は、昇圧回路用の温度測定部12、レンズ用の温度測定部17及び環境用の温度測定部19に指示を出して、それぞれの温度の測定を開始させる。MPU21は、各温度測定部の出力するデータを、時系列に沿ってメモリ20に一時的に記録する。また、MPU21の温度推定部21aは、例えば、環境温度が25℃以上50℃未満の範囲の場合、演算式(2)を用いて、レンズ23の温度の推定を開始する。
【0056】
ステップS102:MPU21は、主コンデンサ14の充電を開始する。具体的には、MPU21は、昇圧回路11に指示を出して、フライバック式の制御により電圧を昇圧する。これにより、整流素子13は、1次コイルに流れる1次電流がオフされた瞬間に昇圧回路11の2次コイルから発生するフライバックパルスを整流する。そして、主コンデンサ14は、整流された2次電流を電気エネルギとして蓄える。
【0057】
ステップS103:MPU21は、電源オフの有無を判定する。具体的には、電源オフの指示を示す信号を受け付けた場合(ステップS103:Yes)、MPU21は、図5に示すフローの処理を終了させる。一方、電源オフの指示を示す信号を受け付けない場合(ステップS103:No)、MPU21は、ステップS104の処理に移行する。
【0058】
ステップS104:MPU21は、閃光発光の指示入力の有無を判定する。具体的には、閃光発光の指示を示す信号(閃光発光用のトリガ信号)を電子カメラ側から受け付けない場合(ステップS104:No)、MPU21は、ステップS103の処理に戻る。一方、閃光発光の指示を示す信号を電子カメラ側から受け付けた場合(ステップS104:Yes)、MPU21は、ステップS105の処理に移行する。
【0059】
ステップS105:MPU21は、閃光発光を行なう。具体的には、MPU21は、閃光発光の条件に基づいて、発光回路15に対して閃光発光を行なわせる。すなわち、発光回路15は、主コンデンサ14に充電された電気エネルギを光エネルギに変換して、キセノン管16を放電させることにより閃光発光を行なう。
【0060】
ステップS106:MPU21は、昇圧回路用の温度測定部12からの出力値を参照して、現在の昇圧回路11の温度をチェックする。
【0061】
ステップS107:MPU21は、昇圧回路11の温度が第1閾値に達したか否かを判定する。昇圧回路11の温度が第1閾値に達していない場合(ステップS107:No)、MPU21は、ステップS102の処理に戻り、次の閃光発光の準備のため、主コンデンサ14の充電を開始する。一方、昇圧回路11の温度が第1閾値に達した場合(ステップS107:Yes)、MPU21は、ステップS108の処理に移行する。
【0062】
ここで、通常の連続発光等が行なわれている場合、温度推定部21aは、演算式(2)を適用することにより、レンズ23の温度を精度良く測定できる。一方、高速連続発光が行なわれている場合、温度推定部21aは、演算式(2)を適用した場合、昇圧回路11の温度上昇と共に、レンズ23の実際の温度と温度差のある値を推定するようになる。
【0063】
ステップS108:MPU21の温度推定部21aは、演算式を変更する。具体的には、温度推定部21aは、演算式(2)を演算式(8)に変更することにより、レンズ23の温度を推定する。すなわち、温度推定部21aは、演算式(8)を適用することにより、結果的にレンズ23の温度を精度良く測定できる。
【0064】
ステップS109:MPU21の制御部21bは、閃光発光の制御条件を変更する。具体的には、制御部21bは、前回の主コンデンサ14の充電時より時間間隔を長くする。或いは、制御部21bは、発光間隔を前回の発光時より長くする。
【0065】
これにより、閃光装置1は、レンズ23の温度上昇を抑制できる。つまり、閃光装置1は、レンズ23が融点に到達しないように、発光制御を行なうことができる。そして、MPU21は、ステップS102の処理に戻る。
【0066】
なお、上述した通り、ステップS103の処理において、電源オフの指示を示す信号を受け付けた場合、MPU21は、図5に示すフローの処理を終了させる。
【0067】
以上より、本発明の閃光装置1によれば、温度推定部21aが上記の演算式を使い分けることにより、レンズ23の温度を精度良く測定できる。したがって、閃光装置1は、レンズ23等の光学部材の温度を、閃光の光路を遮ることなく精度良く測定できる。これにより、閃光装置1は、レンズ23が融点に達することなく発光制御を行なうことができる。
【0068】
(変形例)
次に、本実施形態の変形例について説明する。本実施形態では、昇圧回路11の温度が第1閾値に達したか否かによって、演算式を変更することを特徴とした。本実施形態の変形例では、演算係数を昇圧回路11の温度変化に応じて算出すると共に、その演算係数とレンズ用の温度測定部17が測定する測定点の温度とに基づいてレンズ23の温度を推定する演算式を採用することを特徴とする。したがって、本実施形態と変形例とでは、温度推定部21aによる演算式の処理が異なるが、他の構成は同様である。
【0069】
すなわち、本実施形態では、昇圧回路11の温度(Tbst)の設定値を第1閾値に設定して、演算係数を算出した。変形例では、予め実験で昇圧回路11の温度(Tbst)を変数として、演算係数の導出に必要なパラメータ等(上記のm、n、M、N、u、v、U、V等)を予め求めておく。昇圧回路11の温度変化に対応するパラメータ等は、工場出荷前に予めメモリ20に記憶しておく。これにより、温度推定部21aは、昇圧回路11の温度変化に応じた演算係数を用いることができるので、1つの演算式でレンズ23の温度を精度良く推定することができる。
【0070】
図6は、変形例における発光回数と温度上昇との関係の一例を示す図である。図6では、高速連続発光の場合について示している。ここで、温度推定部21aは、昇圧回路11の温度に応じて、メモリ20を参照して演算係数を決定する。
【0071】
具体的には温度推定部21aは、環境温度が25℃以上50℃未満の範囲では、上記の(5)式において、現在の昇圧回路11の温度(Tbst)に対応するU、Mを代入してKTbst3’を算出する。また、温度推定部21aは、環境温度が25℃以上50℃未満の範囲では、上記の(6)式において、現在の昇圧回路11の温度(Tbst)に対応するV、Nを代入してKTbst4’を算出する。
【0072】
さらに、温度推定部21aは、上記の演算式(8)式に、KTbst3’、KTbst4’を代入して、現在のレンズ23の温度を推定する。
【0073】
すなわち、変形例では、図6に示す通り、予め実験でレンズ23の実測温度にレンズ23の推定温度が追従するように演算係数を算出している。そのため、温度推定部21aは、実際の使用時において、例えば上記の演算式(8)式に、KTbst3’、KTbst4’を代入して、演算式(8)’として、
y=(A+KTbst3’)x+(B+KTbst4’) (8)’
により、レンズ23の温度を推定する。したがって、変形例の閃光装置1は、レンズ用の温度測定部17の温度と演算係数とに基づいて、レンズ23の温度を結果的に精度良く測定できる。これにより、変形例の閃光装置1は、昇圧回路11の温度が第1閾値に達した場合、レンズ23が融点に達することなく上記の発光制御を行なうことができる。
【0074】
なお、通常の連続発光の場合、定義より、KTbst3’=0、KTbst4’=0となるので、上記の演算式(8)’は、高速連続発光に限られず、通常の連続発光にも適用することができる。
【0075】
(実施形態の補足事項)
(1)上記の実施形態では、温度ICセンサを用いたが、サーミスタにより温度を測定しても良い。
【0076】
(2)上記の実施形態では、説明をわかりやすくするため、MPU21に温度推定部21aを備えたが、レンズ用の温度測定部17に温度推定部21と同様の機能を備えるようにしても良い。
【0077】
(3)上記の実施形態では、説明をわかりやすくするため、図3、図4及び図6において、発光回数と温度上昇との関係を示す図を例示した。ここで、上記の実施形態では、発光回数や発光間隔等の条件をさらに変えて同様の実験を行ない、発光制御に必要な演算係数等のパラメータを予めメモリ20に記憶している。これにより、閃光装置1では、発光条件に応じて、演算係数を適宜選択することができる。
【0078】
(4)上記の実施形態では、発光制御の一例として、昇圧回路11の温度が第1閾値に達した場合、制御部21bは、発光間隔を前回の発光時より長くした。例えば、制御部21bは、レンズ23の融点よりも低い温度から徐々に発光間隔を長くしていき、昇圧回路11の温度が第1閾値に達した場合、制御部21bは、発光間隔を前回の発光時よりさらに長くしても良い。すなわち、制御部21bは、昇圧回路11を間欠的に昇圧させる間欠昇圧の比率を変化させることにより、昇圧回路11の温度上昇を抑制すると共に、発光間隔を長くすることで、レンズ23の温度上昇を抑制しても良い。
【符号の説明】
【0079】
1・・・閃光装置、11・・・昇圧回路、12・・・昇圧回路用の温度測定部、14・・・主コンデンサ、16・・・キセノン管、23・・・レンズ、17・・・レンズ用の温度測定部17、21a・・・温度推定部、21b・・・制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源の電圧を昇圧する昇圧部と、
前記昇圧部の昇圧動作に基づいて、電気エネルギを充電する主コンデンサと、
前記主コンデンサが充電した電気エネルギを光エネルギに変換して閃光発光を行なう光源部と、
前記光源部からの閃光を透過させる光学部材と、
前記光学部材から離れて装置内に設定された測定点の温度を測定する第1温度測定部と、
前記昇圧部の温度を測定する第2温度測定部と、
前記測定点の温度と前記光学部材の温度との相関関係を示す演算係数を前記昇圧部の温度変化に応じて算出すると共に、前記演算係数と前記測定点の温度とに基づいて前記光学部材の温度を推定する演算式を記憶する記憶部と、
前記演算式に基づいて、前記光学部材の温度を推定する温度推定部と、
を備えることを特徴とする閃光装置。
【請求項2】
電源の電圧を昇圧する昇圧部と、
前記昇圧部の昇圧動作に基づいて、電気エネルギを充電する主コンデンサと、
前記主コンデンサが充電した電気エネルギを光エネルギに変換して閃光発光を行なう光源部と、
前記光源部からの閃光を透過させる光学部材と、
前記光学部材から離れて装置内に設定された測定点の温度を測定する第1温度測定部と、
前記昇圧部の温度を測定する第2温度測定部と、
前記昇圧部の温度に基づいて、前記測定点の温度から前記光学部材の温度を推定する複数の演算式を記憶する記憶部と、
前記閃光の連続発光の開始時より適用する第1の演算式に基づいて、前記光学部材の温度を推定すると共に、前記昇圧部の温度が閾値に達した場合、該閾値に達した時より適用する第2の演算式に基づいて、前記光学部材の温度を推定する温度推定部と、
を備えることを特徴とする閃光装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の閃光装置において、
前記温度推定部の推定結果に基づいて、前記閃光発光を制御する制御部をさらに備えることを特徴とする閃光装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の閃光装置において、
前記演算式は、前記測定点の温度と前記光学部材の温度との相関関係を示す演算係数を前記昇圧部の温度の設定値に基づいて算出し、前記演算係数と前記測定点の温度とに基づいて前記光学部材の温度を推定する式であることを特徴とする閃光装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れか1項記載の閃光装置において、
前記光源部と第1温度測定部とは、絶縁体を介して設置されていることを特徴とする閃光装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れか1項記載の閃光装置において、
前記光学部材は、前記閃光を集光又は拡散するレンズ部材であることを特徴とする閃光装置。
【請求項7】
請求項1から請求項5の何れか1項記載の閃光装置において、
前記光学部材は、前記閃光を透過させるカバー部材であることを特徴とする閃光装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7の何れか1項記載の閃光装置において、
前記制御部は、前記昇圧動作において間欠的に昇圧させる時間間隔を制御することを特徴とする閃光装置。
【請求項9】
請求項8項に記載の閃光装置において、
前記制御部は、前記昇圧部の温度が閾値に達した場合、前回の前記主コンデンサの充電時より前記時間間隔を長くすることを特徴とする閃光装置。
【請求項10】
請求項1から請求項7の何れか1項記載の閃光装置において、
前記制御部は、前記閃光発光の発光間隔を制御することを特徴とする閃光装置。
【請求項11】
請求項10項に記載の閃光装置において、
前記制御部は、前記昇圧部の温度が閾値に達した場合、前記発光間隔を前回の発光時より長くすることを特徴とする閃光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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