説明

閉鎖型反応検出装置

【課題】長期間、安定に光学イメージングを行いつつも、被検試料に対する試薬等の供給が可能な微弱光検出装置を提供すること。
【解決手段】被検試料を外部から閉鎖した閉鎖環境下に維持するためのハウジングと、ハウジングの内部に配置される光学イメージング手段と、ハウジングの少なくとも内部(好ましくは内部と外部の両方)に密閉状態で配置され、被検試料に対する必要な試薬等を調節自在に供給する供給手段と、前記供給手段を手動または自動で操作するための操作手段とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞や組織等の生体試料中における生物学的活性をその活性を極力損なわないように所定の試薬等と反応させて、被検試料中の生物学的活性を検出するための閉鎖型反応検出装置に関する。本発明は、細胞や生体組織等のような一定の培養条件および/または遮光条件に長時間維持しながら、被検試料に対する必要な操作を簡単且つ何時でも実行できる反応検出装置も提供する。
【背景技術】
【0002】
生物学分野や医学分野の研究において、細胞等の生体試料の生物学的活性をレポータアッセイにより検出する技術が広く利用されてきた。レポータアッセイを用いると、視覚的に調べることが不可能な様様な生物学的活性を可視化することができる。従来の臨床的な検査は、生体試料から調べたい生体関連物質(核酸、血液、ホルモン、タンパク質等)のみを種々の分離方法により単離して、その単離した生体関連物質の量や活性を試薬と反応させていた。しかし、生命体においては、多様な生体関連物質同士の相互作用こそが真の生物学的活性を示すものである。近年、医療用薬剤を研究または開発する場合、生きた生体試料中での生物学的活性に対して最も効果的に作用する薬剤が決定的条件となっている。生きた生体試料を対象としたレポータアッセイには、生体試料と調べたい生体関連物質とを画像化して、生体試料内外におぇる動的変化を経時的に観察する必要性が高まってきている。
【0003】
具体的には、レポーター物質としての発光(生物発光、化学発光)や蛍光を用いる観察を利用する研究分野では、試料内のタンパク質分子の動的な機能発現を捉えるためにタイムラプスや動画撮像が求められている。現状では、蛍光試料を対象として撮像した画像による動的変化の観察(例えば、蛍光を利用したタンパク質1分子の動画観察)が行われている。蛍光試料の撮像の場合、励起光を照射し続けることで蛍光試料から発せられる光量が時間の経過とともに減少するという性質があるため、定量的な評価に利用できる安定した画像を経時的に撮ることが困難であったが、しかし、鮮明な、つまり、空間分解能の高い画像を短い露出時間で撮ることができた。一方、発光試料を対象とした画像による動的変化の経時的観察においては、発光試料からの発光が極めて小さいので、発光試料の観察には、イメージ・インテンシファイアを装着したCCDカメラを用いて行われていた。発光試料の撮像の場合、励起光を照射する必要がないため、定量的な評価に利用できる安定した画像を経時的に撮ることができた。
【0004】
これまで、発光試料の観察においては、発光試料からの発光量の測定が行われていた。例えば、ルシフェラーゼ遺伝子が導入された細胞の観察では、ルシフェラーゼ遺伝子の発現の強さ(具体的には発現量)を調べるために、ルシフェラーゼ活性に因る細胞からの発光量の測定が行われていた。そして、ルシフェラーゼ活性に因る細胞からの発光量の測定は、まず細胞を溶解した細胞溶解液とルシフェリンやATPやマグネシウムなどを含む基質溶液とを反応させ、ついで基質溶液と反応させた細胞溶解液からの発光量を光電子増倍管を用いたルミノメーターで定量する、という手順で行われていた。つまり、発光量は細胞を溶解した後に測定されていた。これにより、ある時点でのルシフェラーゼ遺伝子の発現量を細胞全体の平均値として測定することができた。ここで、ルシフェラーゼ遺伝子などの発光遺伝子をレポーター遺伝子として細胞に導入する方法には例えばリン酸カルシウム法やリポフェクチン法やエレクトロポーション法などがあり、各方法は目的や細胞の種類の違いに応じて使い分けられている。また、ルシフェラーゼ遺伝子がレポーター遺伝子として導入された細胞においてルシフェラーゼ遺伝子の発現の強さをルシフェラーゼ活性に因る細胞からの発光量を指標として調べる際、細胞に導入するルシフェラーゼ遺伝子の上流や下流に目的のDNA断片を繋ぐことで当該DNA断片がルシフェラーゼ遺伝子の転写に及ぼす影響を調べることができ、また、細胞に導入するルシフェラーゼ遺伝子の転写に影響を及ぼすと思われる転写因子などの遺伝子を発現ベクターに繋いでルシフェラーゼ遺伝子と共発現させることで当該遺伝子の遺伝子産物がルシフェラーゼ遺伝子の発現に及ぼす影響を調べることができる。
【0005】
また、時間経過に沿って発光遺伝子の発現量を捉えるには生きた細胞からの発光量を経時的に測定する必要がある。そして、生きた細胞からの発光量の経時的測定は、まず細胞を培養するインキュベーターにルミノメーターの機能を付け、ついで培養している全細胞集団からの発光量をルミノメーターで一定時間ごとに定量する、という手順で行われていた。これにより、一定の周期性をもった発現リズムなどを測定することができ、よって、細胞全体における発光遺伝子の発現量の経時的な変化を捉えることができた。ルミノメーターによる測定感度を充分確保するために、ホタルルシフェリンのような汎用の基質溶液を1mM以上の濃度で細胞を処理するようにしていた。この濃度設定においては、細胞を取り出して処理するので、培養環境に戻せるような生きた状態では処理されない。一方、発光遺伝子の発現が一過性である場合には、個々の細胞での発現量に大きなばらつきがある。例えば、HeLa細胞などのクローン化した培養細胞であっても、細胞膜表面のレセプターを介した薬剤の応答が個々の細胞でばらつくことがある。すなわち、細胞全体としての応答は検出されなくとも数個の細胞は応答している場合がある。このことから、発光遺伝子の発現が一過性である場合には、細胞全体からではなく個々の細胞から発光量を経時的に測定することが重要である。そして、顕微鏡を用いた生きた個々の細胞からの発光量の経時的測定は、各細胞の発光が極めて弱いので、液体窒素温度レベルの冷却CCDカメラで長時間露光したり、イメージ・インテンシファイアを装着したCCDカメラとフォトンカウンティング装置とを用いたりして行われていた。これにより、生きた個々の細胞における発光遺伝子の発現量の経時的な変化を捉えることができた。どのような培養期間であっても、発光のための試薬条件は変更されない。
【0006】
以上の説明において、例えば蛍光タンパク質をレポーター遺伝子として用いる遺伝子発現の解析方法および装置は特許文献1(特表2004−500576)に開示されている。また、ルミノメーターを用いて生物発光による遺伝子発現の解析方法およぼ装置は特許文献2(特開2005−118050)に開示されている。
【0007】
【特許文献1】特表2004−500576
【特許文献2】特開2005−118050
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、微弱な発光の発光試料を撮像する場合、発光試料からの発光量が極めて少ないため、どうしても肉眼では見ることが出来ず、CCDのような蓄積型の撮像手段を用いて光量を蓄積しなければ画像生成することができない、という制約が有る。しかも、単一の細胞ないし組織を構成する細胞群において、細胞1個当りから発生する微弱光は、あまりに弱過ぎるので、鮮明な画像を撮るのに必要な露出時間が長くなる、という問題点があった。即ち、撮像の時間間隔は単位時間あたりの光量に制約されるため、微弱な発光の発光試料を撮像する場合、鮮明な画像を長い時間間隔で、例えば60分間隔で、経時的に撮ることができても、10〜30分程度の短い露光時間、ひいては1〜5分の露光でリアルタイムに撮像することはできなかった、という問題点があった。特に生細胞を長時間(例えば、50分以上)露光すると、培養容器等の支持体上でさえ細胞自身が動いて鮮明な画像を形成できない場合がある。一般に、画像を用いた解析を行なうためには、正確な輪郭を認識できなければならない。従って、画像が不鮮明なときは解析結果が不正確である可能性が有る。かかる微弱光による検出を行う装置においては、なるべく外部の光から遮断した状態を維持したまま基質溶液の分注や薬剤等の刺激を行う必要がある。また、生きた細胞を含む被検試料においては、所定の培養条件を維持したまま、各種の反応や光検出などを実行する必要がある。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、細胞や組織等の生体試料中における生物学的活性をその活性を極力損なわないように所定の試薬等と反応させて、被検試料中の生物学的活性を検出するための閉鎖型反応検出装置を提供することを目的とする。また、本発明は、細胞や生体組織等のような一定の培養条件および/または遮光条件に長時間維持しながら、被検試料に対する必要な操作を簡単且つ何時でも実行できる反応検出装置を提供することをさらなる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の閉鎖環境型反応検出装置は、被検試料を外部から閉鎖した閉鎖環境下に維持するためのハウジングと、前記ハウジングの内部に配置される検出手段と、前記ハウジングの内部に密閉状態で配置され、前記被検試料に対する必要な操作を実行するための操作手段と、前記操作手段を前記ハウジングの外部から手動または自動で駆動するための遠隔駆動手段とを備えたことを特徴とする。
ここで、前記検出手段が、光学的なイメージングを行う光学イメージング手段を有することにより微弱光の検出を行うように出来る。また、前記ハウジングが、外部に対して光学的に閉鎖するための遮光部材を備えている場合には、微弱光の検出を高S/N比で行うことが可能となる。また、前記ハウジングが、ハウジング内部の物理学的環境条件および/または化学的環境条件を調節する環境条件調節手段を具備することにより、被検試料の生物学的活性を維持するのに適したものとなる。また、前記環境条件調節手段が生きた細胞を生存維持するための培養手段を備えていることにより、長期間、生物学的活性を一定に維持しながら、反応検出を行うことができる。また、前記操作手段が、試薬等を調節自在に供給する液体供給手段である場合には、被検試料に対する各種反応(発光反応、刺激反応等)を閉鎖環境で支障なく実施できる。
【0011】
また、前記液体供給手段が、被検試料の近傍に位置付けられたノズルと、前記ノズルと下流側端部において連結するとともに前記ハウジングの外部に密封状態を保って延在する送液チューブと、前記送液チューブの上流側端部において前記ノズル内の液体をハンドリングするためのシリンジ機構と連結している場合には、ハウジングの外部から被検試料に対する試薬等の液体供給のタイミングや供給量等を適切に制御できる。また、前記シリンジ機構が、前記ノズルから必要な液体を吐出するための手動操作部を有している場合には、使用者が随時所望のタイミングで液体供給を実行できる。また、前記送液チューブが、可撓性である場合には、手動操作部を所望の位置に配置しても必要な液体供給を実行できる。また、前記操作手段が、物理学的刺激を被検試料に対し実行する物理刺激手段である場合には、閉鎖環境下を維持しながら、所望のタイミングで被検試料に対する必要な刺激応答を行うことが可能である。また、前記ハウジングが、外側ハウジングと内側ハウジングの二重構造となっており、内側ハウジング内部に前記被検試料を収容するとともに、前記遠隔駆動手段を前記内側ハウジングの外部で且つ前記外側ハウジングの内部に配置した場合には、内側ハウジング内の閉鎖環境を維持しながら、遠隔駆動を行いたいときに外側ハウジングを開放状態に開けることにより必要な操作を実行できる。また、前記ハウジングが、外側ハウジングと内側ハウジングの二重構造となっており、内側ハウジング内部に前記被検試料を収容するとともに、前記光学イメージング手段を前記内側ハウジングの外部で且つ前記外側ハウジングの内部に配置する場合には、閉鎖型環境の影響を受けることなく、安定した光学イメージングを実行できる。ここで、光学イメージング手段は、内側ハウジングと別のハウジングに遮光条件下で収容されるようにしてもよい。
【0012】
また、被検試料を外部から閉鎖した閉鎖環境下に維持するためのハウジングと、前記被検試料から発生する光シグナルを検出するための検出手段と、前記ハウジングの内外を送液チューブを介して密閉状態を維持して配置され、前記送液チューブの下流側端部に前記被検試料へ必要な試薬等を供給するためのノズルを配置するとともに、前記送液チューブの上流端部に送液チューブ内の液体移送用媒体としての液体ないし気体の移動量を制御するための送液制御部を備えた場合には、閉鎖環境を維持したまま、正確な液体供給の操作をハウジングの外部で実行できるという利点が有る。また、前記ハウジングの少なくとも一部が開閉カバーと一体的に形成され、前記開閉カバーの外部に前記分注手段を手動または自動で駆動するためのシリンジ機構を配置した場合には、開閉カバーを開けることにより被検試料への液体供給を簡単に行うことができ、閉鎖カバーを閉めることにより容易に閉鎖環境を再現することができる。とくに、本発明は、前記分注手段が、カテーテル構造であることにより、ハウジングの外部からハウジング内の被検試料に対して正確な液体供給を実行できる。
【0013】
出願人の検討によると、培養期間に応じて基質濃度の設定を変更することにより、発光画像を長期間得ることと、細胞の生物学的活性を長期間維持することとを同時に達成できることも見出された。従って、本発明の反応検出装置において、液体供給手段による基質溶液の分注操作を濃度でもって選択できるように構成することができれば、種々の培養期間に対応した検出を実行できるので好ましい。具体的に選択すべき基質濃度としては、例えば培養期間が数日以上の場合には、前記基質を700μM以下の濃度とするのが好ましい。また、前記培養期間が数日未満の場合には、前記基質を800μm以上、1mM以下の濃度とすることが好ましい。前記基質濃度を200μM以上とすることにより、任意の培養期間において安定な発光反応量を得ることが可能となる。かかる基質溶液に含まれる基質としては、例えばホタルルシフェリンまたはセレンテラジンを例示できる。本発明の装置おいても、基質濃度範囲で培養し続けることにより、生物学的活性が低下しない状態を維持しながら、培養期間中、常に画像化可能な発光量を保つように構成するのが好ましい。なお、生きた細胞を発光用成分で処理するとともに、発光用成分に対し発光を誘起するための基質溶液を適宜の培養環境下で存在させることにより細胞を発光させて、細胞の発光画像に基づく解析を行うにあたり、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)の2乗の値が0.01以上である光学的条件で細胞からの発光を収集するとともに、基質濃度を600μM以下に設定することにより、光学イメージングと発光反応の両方を良好な状態で実行することが可能となり、生細胞の画像解析方法に適している。さらに、前記光学条件としての(NA÷β)の2乗の値が0.039以上である場合には、光学イメージングによる結果を短時間で高感度に検出できる。前記基質濃度を200μM以上で存在させるとともに、30分以内の撮像時間で発光画像を得ることも可能である。なお、本発明において、発光試料を光学イメージングするには、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)2の値が0.01以上である対物レンズを用いることにより、発光だけの画像も短時間でイメージングできるという利点がある。短時間で発光画像が得られれば画像解析を正確に行うに充分な画質を保証することが可能となる。また、同様の光学的条件によると、高価な極低温冷却型の撮像素子を使わずに小型且つ経済的な撮像が可能となる利点もある。
【0014】
とくに、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)2の値が0.039以上である対物レンズを用いることにより、従来よりも顕著に高速にイメージングを実行でき、動き易い細胞(神経細胞、シアノバクテリア等)の画像解析を確実に行える点で好ましい。
【0015】
さらに、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)2の値が0.071以上である場合に1分〜5分という短時間で対物レンズを用いることにより、あらゆる細胞解析において、リアルタイムなイメージングを実行できる点で好ましい。
【0016】
また、本発明は発光イメージングを高い開口数(NA)の対物レンズを用いて、短かい時間間隔の画像解析を行なうことが可能になるので、あらゆる刺激応答性を見逃さない。これにより、創薬や診断において優れた方法を提供する。また、発光量の少ない発光試料(例えば、発光タンパク質(例えば、導入された遺伝子(例えばルシフェラーゼ遺伝子)から発現された発光タンパク質)や、発光性の細胞または発光性の細胞の集合体や、発光性の組織試料や、発光性の個体(例えば動物や臓器など)など)でも、鮮明な画像を短い露出時間で、ひいてはリアルタイムな解析が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の閉鎖型反応検出装置によれば、細胞や組織等の生体試料中における生物学的活性をその活性を極力損なわないように所定の試薬等と反応させて、被検試料中の生物学的活性を検出することが出来る。また、細胞や生体組織等のような一定の培養条件および/または遮光条件に長時間維持しながら、被検試料に対する必要な操作を簡単且つ何時でも実行できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明にかかる閉鎖型反応検出装置およびその装置を用いた微弱光解析方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0019】
本発明にかかる方法を実施するための装置の構成について図1を参照して説明する。図1は、本発明の反応検出装置の第1の実施形態の構成を示す概略図である。図1に示すように、所定位置に配置された撮像対象であるサンプル1を短い露出時間で、ひいてはリアルタイムに撮像するためのものであり、対物レンズ2と集光レンズ3とCCDカメラ4とモニタ付きコンピュータ5と指示入力手段7とにより、発光反応を所定の指示に基づいて検出するようになっている。また、サンプル1に対して発光用試薬(例えば基質溶液)や刺激反応用試薬(例えば、抗がん剤)を分注するための分注手段8が、移送駆動部9により試薬容器10とサンプル1の間を3次元(XYZ)移送される構成となっている。コンピュータ5はCCDカメラ4による撮像動作と、分注手段に8による各種試薬の分注動作を所定の反応スケジュールに沿って制御している。なお、当該装置は図示の如くズームレンズ6をさらに備えてもよい。ここで、コンピュータ5および指示入力手段7を除く上記の構成要素の全ては、遮光性を確保するように設計されたハウジング11によって、充分な遮光環境下に格納されている。
【0020】
サンプル1は、発光試料であり、例えば、発光タンパク質(例えば導入された遺伝子(ルシフェラーゼ遺伝子など)から発現された発光タンパク質)や、発光性の細胞や、発光性の細胞の集合体や、発光性の組織試料や、発光性の臓器や、発光性の個体(動物など)などであり、所定の容器(例えば、培養シャーレやマイクロプレート等)に予め有効濃度の基質を均一に含有している培養用の培地上に生きた細胞が配置されている。ここでは、サンプル1として、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞の場合を説明する。対物レンズ2は、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)2の値が0.01以上のものである。集光レンズ3は、対物レンズ2を介して到達したサンプル1からの発光を集める。CCDカメラ4は、0℃程度の冷却CCDカメラであり、対物レンズ2や集光レンズ3を介してサンプル1を撮像する。コンピュータ5のモニタはCCDカメラ4で撮像した画像を出力する。必要であれば、図示するようにモニタ上に光学イメージングされた後の細胞の発光画像を表示しながら、分注対象である特定の細胞(図の矢印)に対して所要の刺激用試薬等を指示されたタイミングで分注するようになっている。この分注動作も、コンピュータ5のモニタによって観察可能となっている。
【0021】
そして、対物レンズ2や対物レンズ2の包装容器(パッケージ)には、(NA/β)2の値を表記する。従来の対物レンズにはレンズ種類(例えば“PlanApo”)、倍率/NA油侵(例えば“100×/1.40oil”)および無限遠/カバーガラス厚(例えば“∞/0.17”)が表記されていた。しかし、本発明の方法にかかる撮像手段の対物レンズ(対物レンズ2)には、レンズ種類(例えば“PlanApo”)、倍率/NA油侵(例えば“100×/1.40oil”)、無限遠/カバーガラス厚(例えば“∞/0.17”)の他に、さらには射出開口角(例えば、“(NA/β)2:0.05”)が表記されている。
【0022】
図2は、本発明の反応検出装置の第2の実施形態の構成を示す概略図である。図2では、図1と比較して、光学イメージング手段を構成する、対物レンズ2、集光レンズ3およびCCDカメラ4のセットをサンプル1の下方に配置した、いわゆる倒立タイプの撮像系とした点が異なる。また、この光学イメージング手段のセットはハウジング11の外部に配置している。こうすることによって、ハウジング11内部を、培養に有利な37℃の高湿度条件下に長時間維持するようにしても、対物レンズ2のような光学素子への影響を回避できる。但し、サンプル1と対物レンズ2との温度を適宜の温調手段12によってほぼ同一温度となるように調整することにより、撮像中の対物レンズ2の曇りや結露を防止して、長期間安定な発光画像の取得を可能にしている。
【0023】
図3は、本発明の反応検出装置の第3の実施形態の構成を示す概略図であり、上述した第2の実施形態を一部改良した変形例を示すものである。すなわち、図3では、図2と比較して、分注手段8がサンプル1を収容する収容部位の中心に位置固定されていて、代わりに、サンプル1を保持する載置台13が、搬送駆動手段14によりXY方向に自在に動くようになっている。この移動範囲は、固定位置の分注手段8に対してサンプル1が満弁なく位置付けられる程度であるのが好ましい。また、分注手段8は自動制御されたシリンジ機構15を介して所定の試薬容器10からの試薬を予め指示されたタイミングで繰り返し分注するようになっている。こうして、サンプル1中の複数の試料成分(例えば細胞)に対し、所望の順番および個数の発光反応ないし刺激反応を行うことが可能となっている。なお、基質溶液については、所定時間経過後に、発光反応を一定に維持するために継ぎ足すように設定してもよく、この場合、サンプル1を満遍なく移動させる動作と連携させることにより、所定の容器内の基質溶液を均一に撹拌させる動作も可能となっている。
【0024】
図3は、さらにサンプル1および分注手段8を所定の反応ないし培養環境条件に維持する為のハウジング11(第1ハウジングと称する)と装置全体を外気と外来光を適度に遮断する本体側ハウジング16(第2ハウジングと称する)との二重構造となっている。第1ハウジング11は、上方に開閉可能な遮蔽カバー17が取っ手17を手動で掴んで開閉することができ、第2ハウジング16の上部は、水平方向に開閉可能な前面カバー19が取っ手20を手動で掴むことで開閉可能となっている。このように、二重のハウジング11、16がいずれも開閉可能な遮蔽カバー17、19を備えることにより、使用者が、充分な作業スペースをサンプル1上に確保しながら、外来光および/または外気の侵入を最小限に抑えることが可能となっている。なお、この第3の実施形態において、各ハウジング11、16のカバー17、19の開閉方向が上下と水平方向というように、同一の作業スペースに対して互いに最小限の開閉スペースとなるようにレイアウトされていることは、サンプル1に対する閉鎖環境を良好に保つ一因ともなっている。
【0025】
図4は、本発明の反応検出装置の第3の実施形態の構成を示す概略図である。本体を構成する遮蔽ハウジング11の下部前面部分には、モニタ付きコンピュータ5がモニタ部分のみ露呈するように設置されており、その下方には、指示入力手段7が操作キーのみを露呈するように設置されている。遮蔽ハウジング11の内部には、細胞を所定の培地上に多数配置したシャーレ容器21がほぼ中央に載置されており、その容器内部の下方部位に試薬注入ノズル22を位置固定している。この試薬注入ノズル22は、可撓性チューブ23(例えばシリコン製)を介して小型の駆動手段としての手動シリンジ24と連結している(図4B)。この手動シリンジ24は、微量な液体を適度な分注精度で定量的に一度に(ないし分割して)吐出できる設計になっている。ここで、手動シリンジ24は、普段は、開閉カバーとしても機能する上部ハウジング11内部へスライド可能に収容されている。開閉カバーでもある上部ハウジング11が開閉しても、可撓性チューブ23は柔軟に撓む。また、この開閉動作の間、手動シリンジ24は安定に格納された状態であるために、誤って動作することも無い。ハウジング11の閉鎖状態において、使用者が、手動シリンジ24をハウジング11から引き出しすとともに(図4C)、予め可撓性チューブ23内に吸引により充填しておいた所望の発光用試薬を手動シリンジ24の吐出動作によって、シャーレ容器21内に適量注入する。注入が終わった手動シリンジ24は、引き出したのと反対方向に押し込んで元の格納された状態に戻される。一方、ハウジング11の内部には、上述した発光イメージング手段のセットがシャーレ容器21の下方に内蔵されているので、適宜の恒温環境ならびに遮光環境下で連続的に発光画像を取得することができる。この第4の実施形態では、発光反応を閉鎖環境下で連続的に実施できる構成を説明したが、複数の手動シリンジ24を同様に設置して、刺激用試薬も所望のタイミングで注入できるようにするのが好ましい。また、複数の手動シリンジ24を設置しなくとも、同一の可撓性チューブ内に、複数の異なる試薬を順番に吐出できるように順次吸引しておくことも可能である。特に、手動シリンジ24は市販の液体注入用のカテーテルを好適に活用することができる。カテーテルを使用することにより、適度の分注精度と良好な可撓性とを兼ね備えた小型分注手段を設置できるという利点が有る。カテーテルは、先端部のノズル形状が細長いので、容器内の被検試料の適当な部位に高精度に配設できる点でも好ましい。なお、全体の動作のうち、指示入力手段7により設定された自動制御の動作は、動作切り換えスイッチ25のオン・オフ動作により動作開始と停止を行う。
【0026】
以上、説明したように、本発明にかかる発光試料撮像方法を実施するための装置において、対物レンズ2は、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)2の値が0.01以上である。これにより、発光量の少ない発光試料(例えば、発光タンパク質(例えば、導入された遺伝子(例えばルシフェラーゼ遺伝子)から発現された発光タンパク質)や、発光性の細胞または発光性の細胞の集合体や、発光性の組織試料や、発光性の個体(例えば動物や臓器など)など)でも、鮮明な画像を短い露出時間で、ひいてはリアルタイムに撮ることができる。具体的には、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞を撮像対象として、鮮明な画像を短い露出時間で、ひいてはリアルタイムに撮ることができる。また、対物レンズ2は、従来の対物レンズと比較して、開口数が大きく且つ倍率が小さいので、対物レンズ2を用いれば広範囲を分解能よく撮像することができる。これにより、例えば動きのある発光試料や移動する発光試料や広い範囲に分布する発光試料を撮像対象とすることができる。また、対物レンズ2は、当該対物レンズ2および/または当該対物レンズ2を包装する包装容器(パッケージ)に、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)2の値(例えば0.01以上)を表記した。これにより、例えば発光画像観察を行う者は、表記された(NA÷β)2の値を確認すれば、発光試料を短い露出時間で、ひいてはリアルタイムに撮像するのに適した対物レンズを容易に選択することができる。
【0027】
従来、ルシフェラーゼ遺伝子を用いたレポーターアッセイにおいては、細胞を溶解した後に発光量を測定するため、ある時点での発現量しか捉えることができず、しかも細胞全体の平均値としての計測になってしまう。また、培養しながらの計測においては、細胞コロニーの経時的な発現量の変化を捉えることはできるが、個々の細胞での発現量の変化を捉えることはできない。そして、個々の細胞の発光を顕微鏡で観察するためには、生きた細胞からの発光量が極めて弱いため、液体窒素温度レベルの冷却CCDカメラで長時間露光したり、イメージ・インテンシファイアを装着したCCDカメラでフォトンカウンティングをしたりしなければならない。そのため、発光検出のカメラは高価で大掛かりなものになってしまう。しかし、レポーター遺伝子産物としてのルシフェラーゼ活性を示す個々の細胞の発光を顕微鏡によって観察する際、本発明にかかる発光試料撮像方法を実施するための装置を利用すれば、イメージ・インテンシファイアを装着することなく、0℃程度の冷却CCDカメラを用いて定量的な画像を取得することができる。すなわち、本発明にかかる発光試料撮像方法を実施するための装置を利用すれば、生きた状態で個々の細胞の発光を0℃程度の冷却CCDカメラによって観察することができるので、イメージ・インテンシファイアやフォトンカウンティングのための装置が不要である。つまり、低コストで発光試料の撮像を行うことができる。また、本発明にかかる発光試料撮像方法を実施するための装置を利用すれば、個々の生きた細胞の発光を、培養しながら経時的に観察することができ、さらにリアルタイムに観察することもできる。また、本発明にかかる発光試料撮像方法を実施するための装置を利用すれば、同じ細胞について、異なった条件での薬剤や刺激の応答をモニタすることができる。
【0028】
ここで、本発明にかかる発光試料撮像方法、発光細胞撮像方法および対物レンズの理解を容易にするために、従来の対物レンズおよびそれを用いた発光画像観察について簡単に説明する。
一般に、顕微鏡観察における空間分解能εは、下記数式1で表される。
ε=0.61×λ÷NA ・・・(数式1)
(数式1において、λは光の波長であり、NAは開口数である。)
また、観察範囲の直径dは、下記数式2で表される。
d=D÷M ・・・(数式2)
(数式2において、Dは視野数であり、Mは倍率である。なお、視野数は一般に22から26である。)
従来、顕微鏡用対物レンズの焦点距離は国際規格で45mmとされていた。そして、最近では、焦点距離を60mmとする対物レンズが使われはじめている。この焦点距離を前提にしてNAが大きい、つまり空間分解能が高いレンズを設計すると作動距離(WD)は一般には0.5mm程度であり、また長WD設計のものでも8mm程度であった。このような対物レンズを用いた場合、観察範囲は0.5mm径程度である。
【0029】
しかし、ディッシュやガラズボトムディッシュに分散した細胞群や組織、個体の観察を行う場合、観察範囲が1から数cmに及ぶことがある。このような範囲を分解能よく観察したいときには、低倍率でありながらNAを大きい値で維持しなければならない。換言すると、NAはレンズ半径と焦点距離との比であるので、NAが大きいまま広い範囲を観察できる対物レンズは、低倍である必要がある。そして、結果的に、このような対物レンズは大口径となる。なお、大口径の対物レンズの製作では、一般的に光学材料の物性の均一性やコーティングの均一性において、また、レンズ形状においても高い精度が求められる。
【0030】
また、顕微鏡観察の場合、光学系の透過率や対物レンズの開口数やCCDカメラのチップ面での投影倍率やCCDカメラの性能などが像の明るさに大きく影響してくる。そして、像の明るさは、開口数(NA)を投影倍率(β)で割った値の2乗、すなわち(NA/β)2で評価される。ここで、対物レンズには、一般に、入射開口角NAと射出開口角NA'との間に下記数式3の関係があり、NA'2が観察者の目やCCDカメラなどに届く明るさを示す値である。
NA'=NA÷β ・・・(数式3)
(数式3において、NAは入射開口角(開口数)であり、NA'は射出開口角であり、βは投影倍率である。)
一般の対物レンズにおいて、NA'は高々0.04であり、NA'2は0.0016である。また、現在市販されている一般的な顕微鏡の対物レンズにおける像の明るさ(NA/β)2の値を調査したところ、0.0005から0.002の範囲であった。
【0031】
ところが、上記のような現在市販されている対物レンズを装着した顕微鏡を用いて、例えば細胞内でルシフェラーゼ遺伝子を発現させ発光している細胞を観察しても、当該細胞からの発光を目視で観察することができないし、さらに0℃程度に冷却したCCDカメラを用いて撮像した発光画像を観察しても細胞からの発光を確認することができない。なお、発光試料を観察する場合には、蛍光観察に必要な励起光の投影は不要である。例えば、落射蛍光観察では、対物レンズは、励起光投影レンズと蛍光を集光して画像を形成するレンズとの両方の機能を満たしている。
そこで、光量の少ない発光を画像で観察するためには、大きなNAと小さいβの特性を有する対物レンズが必要である。そして、結果的に、当該対物レンズは大口径となる傾向がある。なお、このような対物レンズでは、励起光投影の機能を考慮することなく機能を単純化して設計、製造しやすくすることが求められる。
【0032】
また、発光や蛍光観察を利用する研究分野では、試料内のタンパク質分子の動的な機能発現を捉えるためにタイムラプスや動画撮像が求められている。最近では、蛍光を利用したタンパク質1分子の動画観察が行われている。これらの撮像では単位時間の撮像フレーム数が多いほど画像1フレームあたりの露出時間は短くなる。このような観察においては、明るい光学系、特に、明るい対物レンズが必要となる。しかし、蛍光に比べて発光タンパク質の光量は少ないので、1フレームの撮像に、例えば20分の露出時間を要することが多い。このような露出時間でタイムラプス観察を行うには動的な変化が非常に遅い試料に限られる。例えば、約1時間に一度分裂する細胞では、その周期内の変化を観察することはできない。従って、シグナル・ノイズ比を高く維持しながら少ない光量を効率よく画像化するために、光学系の明るさを向上することは重要である。
【0033】
以上の経緯を踏まえて製作された本発明の対物レンズは、上記の一般に市販されている対物レンズに比べて、大きなNAと小さいβの特性を有している。よって、本発明の対物レンズのNA'2は大きな値である。つまり、本発明の対物レンズは明るい対物レンズであると言うことができる。これにより、本発明の対物レンズのような明るい対物レンズを用いれば、光量の少ない発光試料からの発光を画像で観察することができる。また、より暗い像を観察するために、開口数の大きい本発明の対物レンズを実体顕微鏡に装着することで、イメージ・インテンシファイアを装着することなく、0℃程度に冷却したCCDカメラでも、細胞の発光を画像で観察することができる。また、液体窒素冷却を用いるCCDカメラで感度を上げる方法があるが、この場合CCDカメラが非常に高価に、大規模になる。しかし、本発明の対物レンズを用いれば、ペルチェ冷却によるCCDカメラでも、細胞の発光を画像で観察することができる。また、本発明の対物レンズは、数から10cm程度の大口径である。これにより、従来では撮像対象となり得なかった移動する発光試料や広い範囲に分布する発光試料などを撮像対象とすることができる。
【0034】
本発明の方法を実施するための測定原理、光学系の構成その他については、図1により既に説明したが、本出願人による出願(特願2005−267531号および特願2005−44737号)を参照してもよい。前記出願にも記載されるように、本出願人は、光学的実験を通じ、対物レンズの開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)の2乗の値が0.01以上の光学系で撮像することによって、単一の細胞から発生する発光だけで画像化できる証明データを取得した。さらに、本出願人は、検討を進め、同一シャーレ内で培養された複数の細胞において、遺伝子発現の変動パターンが異なることも発見した。驚くべきことに、上記の撮像条件は、本発明において実施される応用例で取り扱われる微弱な発光画像に対しても適用でき、短い時間(例えば1分〜20分)で生物発光のような微弱な発光成分による細胞画像を撮像できる。さらに、撮像装置の対物レンズを開口数(NA)/投影倍率(β)の2乗で表される光学的条件が0.071以上である場合に、1〜5分以内で画像化でき、画像解析も可能な細胞画像を提供できることも分かった。
【0035】
上述した図1に示すように、本発明にかかる撮像方法を実施するための装置は、撮像対象であるサンプル1を短い露出時間で、ひいてはリアルタイムに撮像するためのものであり、従来採用されたことの無い高開口数(NA)の対物レンズ2とCCDカメラ4とモニタ5とで基本的に構成されている。これらの基本構成を備える装置を、本発明では発光顕微鏡と称することとする。発光顕微鏡は、暗視野での撮像を行うために、適宜、遮光用のフタまたはハウジングによって収容されているのが好ましい。また、適当な培養条件を維持できる培養装置を発光顕微鏡と一体に組合せることで、撮像を長期間に亘り、自動的に実行できる。なお、撮像を行う機構を有する構造であれば、顕微鏡の形態である必要はなく、マイクロプレートリーダーのような測定機器の形態であってもよい。
【0036】
次に、本発明で使用する発光顕微鏡の構成、形態とその作用を説明する。 発光顕微鏡の基本的な特徴は、顕微鏡視野中の細胞に発現させた発光タンパク質から発する光を、対物レンズ(NA0.75)および光学フィルタを通してデジタルカメラで画像化することで、短時間でモニタリング出来ることである。遺伝子の発現パターンを発光画像としてリアルタイムに取得できるため、細胞を用いた遺伝子発現アッセイ系の幅広い研究対象に応用できると期待されている技術である。基本的な測定系の構成は、培養装置部に隣接した光学系を試料観察部とし、そこでの発光を対物レンズ(NA0.75、好ましくはNA0.75以上)および光学フィルタを通してデジタルカメラで捉えた後、デジタル画像取り込み用のパソコンでデータの記録と解析を行うようになっている。培養装置部はヒートプレートおよびチャンバーにより保温、保湿することができる。培養装置部内の温度は25−37℃に設定して試料を観察する。好ましくは37℃に設定して試料を観察する。湿度は0〜100%に設定して観察する。好ましくは60〜100%に設定する。 さらに、発光の光学イメージングを行なったときと同視野において明視野による画像を取得し、画像解析ソフト等で発光画像と明視野画像を重ね合わせることによって、発光している細胞を同定することができる。
【0037】
本発明の方法に関する用語の定義を以下に示す。
<刺激により発現が誘導される遺伝子のプロモーター領域>
本発明における刺激により発現が誘導される遺伝子プロモーター領域としては、最初期遺伝子のプロモーターが挙げられる。本発明で用いられる最初期遺伝子のプロモーターとしては、例えば、c-fosプロモーター領域が挙げられる。また、本発明で用いられるプロモーターとしては、前記プロモーターの任意の動物種の対応物も含まれる。ここでプロモーター領域とは、プロモーター活性を有するために必要な最小の塩基配列を含む任意の領域を意味する。例えば、該遺伝子の転写部位に対して上流500から2000塩基の領域の一部または全部を用いることができる。
【0038】
<レポーター遺伝子>
本発明におけるレポーター遺伝子は、検出可能な蛍光を発するレポータータンパク質をコードする遺伝子を意味する。例えば、蛍もしくはウミシイタケなどに由来するルシフェラーゼを挙げることができる。さらには、例えば、βガラクトシダーゼをコードする遺伝子、アルカリホスファターゼをコードする遺伝子を挙げることができる。かかるレポーター遺伝子を発光させるための基質としては、任意のものに適用できるが、とくにホタルルシフェリン、オキシルシフェリンに好適に適用できる。
【0039】
<光学イメージング>
本発明における光学イメージングとは、細胞や組織等の生体試料から発せられる検出可能なシグナルの存在、不在または強度をモニタリング、記録および分析するイメージング方法を意味する。例えば、レポーター遺伝子を導入した細胞においてレポーター遺伝子により光学イメージングを達成するためには、レポーター遺伝子により発せられるシグナルの強度が、シグナルを細胞の外部から分析することができるように、十分に高い感度でなければならない。光学イメージングは自動化に容易に適用可能であることから、多数の遺伝子発現を同時にモニタリングするのに用いることができる。なお、イメージングした試料画像の任意の位置について、時系列に2次元または3次元に画像情報を処理する技術は、本出願人による特願2004−172156、特願2004−178254、特願2004−342940、特願2005−267531等を参照してもよい。蛍光観察と発光観察における時系列な画像取得の違いは、発光観察が励起光による光学的走査(レーザスキャン)を必要としない点で余計な光による影響が無い点にある。本発明で行うイメージング技術によれば、リアルタイムに発光画像を撮像できる。
【0040】
B.遺伝子発現の光学イメージング方法
<遺伝子発現ベクターの作製>
動物細胞を用いる場合、発現ベクターは少なくともプロモーター、開始コドン、目的のタンパク質をコードするDNA、終止コドンを含んでいることが好ましい。また、シグナルペプチドをコードするDNA、エンハンサー配列、該タンパク質をコードする遺伝子の5'側および3'側の非翻訳領域、スプライシング接合部、ポリA付加シグナル、選択マーカー領域または複製可能単位などを含んでいてもよい。
【0041】
<細胞への遺伝子導入方法>
遺伝子を細胞へ導入する方法としては、塩化カルシウム法または塩化カルシウム/塩化ルビジウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法などが挙げられる。本発明で使用される遺伝子導入した細胞には一過性発現細胞あるいは安定発現細胞のいずれもが含まれる。
【0042】
<刺激による遺伝子発現の光学イメージング>
本発明は、任意の発光反応を誘起し得る物質を細胞に接触させる刺激により、発光量を時系列的に解析することが可能である。刺激および解析の対象となる細胞は、単一細胞でも細胞群でもよい。発光イメージングを行うことにより、任意の特定細胞をいつまでの追跡することが可能となり、細胞の違いによる発光強度ないし発光挙動を正確に評価できる。
【0043】
遺伝子導入された細胞の定数(例えば、1〜1x109個、好ましくは1x103〜1x106個)は所望の細胞培養が可能な器具(例えば、シャーレ、多数のウェルを有するマルチプレートなど)を用いて所望の栄養培地(例えば、D-MEM培地など)中で培養する。この定数の細胞からなる試料を、あらかじめ細胞にとって最適な温度(例えば、25〜37℃、好ましくは35〜37℃)に保温し、試料の乾燥を防ぐため水を注入して保湿した発光顕微鏡の培養装置部に設置し、該発光顕微鏡の試料観察部にある対物レンズを通してデジタルカメラで発光イメージを記録する。前記の試料に、細胞に接触させて刺激を行なうための物質(例えば、化合物)を所望の濃度(例えば、1pM〜1M、好ましくは100nM〜1mM)で加えて、所望の時間間隔(例えば5分間〜5時間、好ましくは10分間〜1時間)で発光イメージを記録することにより画像解析が可能な画像を準備することができる。準備した画像の画像解析は、市販または独自の解析アルゴリズムに設計された解析用ソフトウェアによって自動的に解析することが可能である。ディスプレイ画面に時系列の並列表示または動画映像で表示することにより、肉眼での解析も可能となる。上述した実施形態ではモニタ上に発光画像を表示しながら試薬分注等の操作を行えるので、長期間の撮像途中でも画像を確認しながら適切な分注等の操作を容易に行える。時系列の動画表示において、分注等の途中操作の有無または操作画像も同時にモニタ表示するようにして、追跡管理できるようにしてもよい。
【0044】
なお、本発明は上述した実施形態や実施例等に述べた説明にも限定されず、種々の態様やその均等物を含むことができる。また、本発明で述べた種々の処理条件同士の組合わせも任意に行なってもよい。さらに、本発明の処理方法を行なって製造され、流通可能に安定化処理(例えば、乾燥処理、真空パッケージング、シート形状化処理、増粘性糖類溶液含浸処理等)された生産物の形態でもよい。また、生体組織を肉薄にした2次元形状細胞群である場合には、単一のチップ基板ないし単一のシャーレ等の容器底面を必要な表面積について被覆してもよいし、多数の異なる生体組織を小断片化した各2次元形状細胞群をそれぞれ異なるアドレス位置にマトリックス状に点着することでマイクロアレイ化してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1の実施形態である閉鎖型反応検出装置の概要を示す図である。
【図2】本発明の第2の実施形態である閉鎖型反応検出装置の概要を示す図である。
【図3】本発明の第3の実施形態である閉鎖型反応検出装置の概要を示す図である。
【図4】本発明の第4の実施形態である閉鎖型反応検出装置の概要を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1 サンプル
2 対物レンズ
3 集光レンズ
4 CCDカメラ
5 モニタ
6 ズームレンズ
7 指示入力手段
8 分注手段
9 移動駆動部
10 試薬容器
11、16 ハウジング
12 温調手段
13 試料載置台
14 試料搬送駆動手段
15 シリンジ機構
17、19 開閉カバー
18,20 取っ手
21 シャーレ容器
22 注入用ノズル
23 可撓性チューブ
24 手動シリンジ
25 動作切り換えスイッチ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検試料を外部から閉鎖した閉鎖環境下に維持するためのハウジングと、前記ハウジングの内部に配置される検出手段と、前記ハウジングの内部に密閉状態で配置され、前記被検試料に対する必要な操作を実行するための操作手段と、前記操作手段を前記ハウジングの外部から手動または自動で駆動するための遠隔駆動手段とを備えたことを特徴とする閉鎖環境型反応検出装置。
【請求項2】
前記検出手段が、光学的なイメージングを行う光学イメージング手段を有することを特徴とする請求項1の反応検出装置。
【請求項3】
前記ハウジングが、外部に対して光学的に閉鎖するための遮光部材を備えていることを特徴とする請求項2に記載の反応検出装置。
【請求項4】
前記ハウジングが、ハウジング内部の物理学的環境条件および/または化学的環境条件を調節する環境条件調節手段を具備することを特徴とする請求項1または2に記載の反応検出装置。
【請求項5】
前記環境条件調節手段が生きた細胞を生存維持するための培養手段を備えていることを特徴とする請求項4に記載の反応検出装置。
【請求項6】
前記操作手段が、試薬等を調節自在に供給する液体供給手段であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の反応検出装置。
【請求項7】
前記液体供給手段が、被検試料の近傍に位置付けられたノズルと、前記ノズルと下流側端部において連結するとともに前記ハウジングの外部に密封状態を保って延在する送液チューブと、前記送液チューブの上流側端部において前記ノズル内の液体をハンドリングするためのシリンジ機構と連結することを特徴とする請求項6に記載の反応検出装置。
【請求項8】
前記シリンジ機構が、前記ノズルから必要な液体を吐出するための手動操作部を有していることを特徴とする請求項7に記載の反応検出装置。
【請求項9】
前記送液チューブが、可撓性であることを特徴とする請求項8に記載の反応検出装置。
【請求項10】
前記操作手段が、物理学的刺激を被検試料に対し実行する物理刺激手段であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の反応検出装置。
【請求項11】
前記ハウジングが、外側ハウジングと内側ハウジングの二重構造となっており、内側ハウジング内部に前記被検試料を収容するとともに、前記遠隔駆動手段を前記内側ハウジングの外部で且つ前記外側ハウジングの内部に配置したことを特徴とする請求項6または10に記載の反応検出装置。
【請求項12】
前記ハウジングが、外側ハウジングと内側ハウジングの二重構造となっており、内側ハウジング内部に前記被検試料を収容するとともに、前記光学イメージング手段を前記内側ハウジングの外部で且つ前記外側ハウジングの内部に配置したことを特徴とする請求項2または3に記載の反応検出装置。
【請求項13】
被検試料を外部から閉鎖した閉鎖環境下に維持するためのハウジングと、前記被検試料から発生する光シグナルを検出するための検出手段と、前記ハウジングの内外を送液チューブを介して密閉状態を維持して配置され、前記送液チューブの下流側端部に前記被検試料へ必要な試薬等を供給するためのノズルを配置するとともに、前記送液チューブの上流端部に送液チューブ内の液体移送用媒体としての液体ないし気体の移動量を制御するための送液制御部を備えたことを特徴とする閉鎖環境型反応検出装置。
【請求項14】
前記ハウジングの少なくとも一部が開閉カバーと一体的に形成され、前記開閉カバーの外部に前記分注手段を手動または自動で駆動するためのシリンジ機構を配置したことを特徴とする請求項13に記載の閉鎖環境型反応検出装置。
【請求項15】
前記分注手段が、カテーテル構造であることを特徴とする請求項13または14に記載の反応検出装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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