説明

閉鎖系の細胞回収装置及び細胞培養装置並びに細胞の回収方法及び培養方法

【課題】培養細胞の回収が自動化可能となる閉鎖系の細胞回収装置及び細胞の回収方法並びに効率的に継代培養することができる細胞培養装置及び細胞の培養方法を提供する。
【解決手段】培養細胞群が収容された培養容器1と、この培養容器に接続され、少なくとも培養細胞群の細胞接着性を低下させる剥離液を培養容器に供給する試薬供給手段3と、培養容器内の剥離液等の流体収容物を面方向に流動させ、培養容器の内壁面に付着している培養細胞群を内壁面から剥離させる剥離手段2と、培養容器に接続された培養細胞群の流通手段4とを備えた閉鎖系の細胞回収装置とした。上記流通手段と並列的に培養容器に接続されるとともに、試薬供給手段と直列的に培養容器に接続された廃液回収手段6と、流通手段の下流端部に接続可能に設けられ、培養細胞を再培養する細胞回収容器5とを備えた細胞培養装置とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、動物の組織や臓器を形成する接着依存性細胞を繰り返し継代培養することができる細胞培養装置及び細胞の剥離分散方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記接着依存性細胞等の培養細胞の回収は、細胞が接着しやすいように処理されているシャーレ等の培養容器内の培養細胞に、トリプシンやコラゲナーゼ等のタンパク質分解酵素を供給し、補助剤としてEDTA等を加えて、培養容器内壁面に細胞を付着させているインテグリン等の接着因子を切断するとともに、上記細胞同士を接着させているカドヘリン等の接着因子を切断した後に、培養容器の蓋を開け、培養細胞をピペッティングで培養容器から剥離することにより成されている。
【0003】
さらに、培養細胞の回収は、上記タンパク質分解酵素が上記接着因子以外の細胞表面マーカ、チャネルやレセプター等までも分解、破壊し、培養細胞に悪影響を与えてしまうため、培養細胞とともにピペッティングで回収されたタンパク質分解酵素をPBS等の緩衝液に置換する遠心操作等の処理が成されている。
【0004】
このように、上述の培養細胞の回収は、培養容器の蓋を開ける等、開放系の手作業となるために汚染物の混入の恐れがある上、煩わしさに耐えない。さらに、タンパク質分解酵素は生体由来タンパク質であり、プリオンやウイルス等が混入する可能性があり、培養細胞を医療に使用する場合は、タンパク質分解酵素の使用を避けることが望ましい。
そこで、培養細胞の回収は、閉鎖系の装置によって、簡易的に行えるよう自動化することが望まれているものの、ピペッティングや遠心操作が必要になる等、作業工程が複雑であるため、自動化することが困難とされてきた。
【0005】
これに対して、例えば特許文献1に示すように、タンパク質分解酵素等の剥離液、緩衝液等の洗浄液及び培地を供給する試薬供給手段と、これらの試薬供給手段に並列的に接続された複数の培養容器と、これらの培養容器と接続され、底部に培養細胞の通過を阻止するフィルタが設けられた処理容器と、処理溶液の底部に接続された培地供給手段とを有する細胞培養装置が提案されている。
【0006】
この細胞培養装置によれば、一の上記培養容器内の培養細胞群を、試薬供給手段から供給された剥離液によって、培養容器の内壁面から剥離させ、処理容器に供給することができる。
次いで、剥離された培養細胞群が剥離液とともに、一定の流速を有して処理容器に供給され、培養細胞群のみがフィルタを通過できずに蓄積され、剥離液等が処理容器から排出されると、培地供給手段によって処理容器の底部から培地が供給され、この培地とともにフィルタ上の培養細胞群が上記複数の培養容器に再供給される。
このように、培養細胞群を培養容器から剥離する際に、ピペッティングや遠心操作が不要であるため、自動化することが可能となり、培養細胞群の回収を簡易的に行うことができる。
【0007】
しかしながら、上述の細胞培養装置は、培養細胞群を剥離液との反応のみによって培養容器内から剥離するため、強力な剥離液を用いる必要がある。このため、上述のように、接着因子以外の細胞表面マーカ等までも破壊し、回収した細胞に悪影響が及ぶ危険性がある。
さらに、この回収した培養細胞群は、フィルタに補足されてしまい、再度、新たな培養容器に供給しても、継代培養による細胞の回収率が著しく低くなってしまうという問題がある。これに加えて、細胞同士の接着を解く手段がなく、多くの細胞同士が互いに接着したままでの状態で細胞密度が高く、細胞分裂を行えない状態である上に、細胞が底部から供給された培地に均等に分散されないため、培養容器に均等に分配できず、効率的に継代培養を行うことができないという問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開2005−198626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、剥離液による培養細胞への悪影響を抑えつつも、ピペッティング等を不要とし、培養細胞の回収を自動化することが可能となる閉鎖系の細胞回収装置及び細胞の回収方法並びに効率的に継代培養することができる細胞培養装置及び細胞の培養方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明に係る閉鎖系の細胞回収装置は、培養細胞群が収容された培養容器と、この培養容器に接続され、少なくとも上記培養細胞群の細胞接着性を低下させる剥離液を上記培養容器に供給する試薬供給手段と、上記培養容器内の上記剥離液等の流体収容物を面方向に流動させ、上記培養容器の内壁面に付着している上記培養細胞群を上記内壁面から剥離させる剥離手段と、上記培養容器に接続された上記培養細胞群の流通手段とを有することを特徴としている。
【0011】
ここで、細胞接着性とは、細胞同士の結合等の接着性と、細胞及び培養容器の内壁面等の細胞−マトリックス接着性とを含む広義の細胞接着性を意味するものである。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の閉鎖系の細胞回収装置において、上記剥離手段が上記培養容器を水平方向に振動させる加振装置であることを特徴としている。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の閉鎖系の細胞回収装置において、上記剥離手段が上記培養容器内に空気を供給する空気供給機構と、上記培養容器を上記流体収容物が面方向に流動するようにシーソー運動させる揺動機構とを有することを特徴としている。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の閉鎖系の細胞回収装置において、上記流通手段は、上記培養細胞群の細胞同士の接着を解く細管が介装されているとともに、この細管に上記培養細胞群を通過させる吸引機構が設けられていることを特徴としている。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の閉鎖系の細胞回収装置において、上記細管の内径が0.2mm以上であって、かつ1.0mm以下であることを特徴としている。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の閉鎖系の細胞回収装置を用いて、上記培養細胞を再培養する細胞培養装置であって、上記流通手段と並列的に上記培養容器に接続されるとともに、上記試薬供給手段と直列的に上記培養容器に接続された廃液回収手段と、上記流通手段の下流端部に接続可能に設けられ、上記培養細胞を再培養する細胞回収容器とが備えられていることを特徴としている。
【0017】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の細胞培養装置において、上記流通手段には、上記培養細胞を培地に希釈分散させる希釈機構が設けられており、かつ上記細胞回収容器は、複数設けられ、各々が上記流通手段の下流端部に並列的に接続可能に設けられていることを特徴としている。
【0018】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の細胞培養装置において、上記培養容器、上記試薬供給手段、上記剥離手段、上記流通手段、上記廃液回収手段及び上記細胞回収容器は、インキュベータ内に収容されていることを特徴としている。
【0019】
請求項9に記載の発明に係る細胞の回収方法は、培養細胞群が収容されている培養容器内に、上記培養細胞群の細胞接着性を低下させる剥離液を供給し、この剥離液と上記培養細胞群とを反応させる反応工程と、この反応工程の後に、上記培養容器内に洗浄液を供給し、上記培養細胞群を上記培養容器の内壁面に付着させたまま上記剥離液を洗い流すことにより、上記剥離液と上記洗浄液とを置換させる洗浄工程と、上記培養容器内に収容されている上記洗浄液等の流体収容物を面方向に流動させることにより、上記培養細胞群を上記培養容器の内壁面から剥離させる剥離工程とを有し、この内壁面から剥離された培養細胞群を、上記培養容器の排出口に接続されている流通手段に排出することを特徴としている。
【0020】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の細胞の回収方法において、上記剥離液が2価金属のキレート剤であることを特徴としている。
【0021】
請求項11に記載の発明は、請求項9又は10に記載の細胞の回収方法において、上記洗浄工程の後に、上記培養容器内に培地等のカルシウム含有溶液を供給し、上記培養容器内の上記洗浄液の一部を外部に流出させ、上記培養容器内の上記洗浄液の一部を上記カルシウム含有溶液に置換する置換工程が設けられており、上記培養容器内の上記カルシウム含有溶液及び上記洗浄液等の流体収容物を、上記剥離工程において面方向に流動させることを特徴としている。
【0022】
請求項12に記載の発明は、請求項9ないし11のいずれか一項に記載の細胞の回収方法において、上記剥離工程では、上記培養容器を水平方向に振動させることを特徴としている。
【0023】
請求項13に記載の発明は、請求項9ないし11のいずれか一項に記載の細胞の回収方法において、上記剥離工程においては、上記培養容器内に空気を供給するとともに、上記培養容器を上記流体収容物が面方向に流動するようにシーソー運動させることを特徴としている。
【0024】
請求項14に記載の発明は、請求項9ないし13のいずれか一項に記載の細胞の回収方法において、上記剥離工程の後に、上記培養容器の内壁面から剥離された培養細胞群を、上記流通手段に介装された細管に流通させることにより、上記培養細胞群の細胞同士の接着を解き、上記培養細胞を上記流体収容物に分散させる細胞分散工程を有することを特徴としている。
【0025】
請求項15に記載の発明は、請求項14に記載の細胞の回収方法において、上記培養細胞群を上記細管に複数回通過させることにより、上記培養細胞を流体収容物に分散させることを特徴としている。
【0026】
請求項16に記載の発明は、請求項14又は15に記載の細胞の回収方法を用いて、培養細胞を再培養する細胞の培養方法であって、上記細胞分散工程の後に、上記培養細胞群の細胞同士の接着が解かれた培養細胞を複数の細胞回収容器に供給する播種工程と、上記細胞回収容器内において上記培養細胞を再培養させる培養工程とを有することを特徴としている。
【0027】
請求項17に記載の発明は、請求項16に記載の細胞の培養方法において、上記細胞分散工程の後に、上記培養細胞を培地に希釈分散させる希釈工程が設けられており、この希釈分散された細胞液を、上記播種工程において、上記細胞回収容器に供給することを特徴としている。
【発明の効果】
【0028】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の閉鎖系の細胞回収装置によれば、試薬供給手段から培養容器に剥離液を供給し、培養容器に収容されている培養細胞群の培養容器の内壁面に対する接着性及び細胞同士の接着性を低下させ、剥離手段によって、培養容器内の流体収容物を面方向に流動させることにより、培養容器に付着している培養細胞群とその内壁面との間に剪断応力を作用させ、培養細胞群を剥離させることができる。
【0029】
この剥離手段としては、請求項2に記載の発明のように、培養容器を水平方向に振動させる加振装置を好適に用いることができる。また、請求項3に記載の発明のように、空気供給機構と揺動機構とを用いることができる。この場合には、空気供給機構によって培養容器内に空気を供給するとともに、揺動機構によって培養容器をシーソー運動させ、シーソー運動の度に流体収容物を面方向に流動させることにより、培養細胞群を剥離させることができる。
【0030】
このため、剥離液は、培養細胞群が剥離手段によって上記培養容器の内壁面から剥離可能なものであればよい。その結果、剥離液として、細胞接着性能を著しく低下させる強力なものを用いることによって、剥離液と培養細胞との反応により、細胞に悪影響を与えることを抑制でき、細胞の生存率を高めて、培養細胞群を回収することができる。
加えて、上述のように、培養細胞群をピペット等によって回収する必要がないため、装置全体を自動化することができる。
【0031】
次いで、この剥離された培養細胞群を流通手段に排出することにより、流通手段の下流端部に培地が収容された回収容器等を接続することによって、閉鎖系の装置内において汚染物の混入を防止し、簡易的に細胞培養群を回収することができる。
【0032】
その際、請求項4に記載の発明によれば、吸引機構によって、培養細胞群を流通手段に介装されている細管に通過させ、培養細胞群の細胞同士の接着を解くことができ、培養細胞として回収することができる。このため、剥離液は、細管によって細胞同士の接着を解くことが可能なものであればよく、剥離液との反応によって培養細胞に悪影響を与えることを抑制できる。
加えて、上述の接着が解かれた培養細胞を細胞回収容器に播種することによって、細胞回収容器内において効率的に増殖させることができる。
【0033】
特に、請求項5に記載の発明のように、細管の内径を0.2mm以上であって、かつ1.0mm以下にすることによって、数10μm〜数100μm程度の直径の培養細胞が塊状のまま培養細胞群として供給されても、細管内の中央部と内壁近傍と流速差により、細胞間に剪断応力を作用させて、細胞同士の接着を解くため、当該細胞群の外周に付着している細胞に傷が付くことを防止できる。このため、培養細胞の死滅を防止し、培養細胞の生存率を高めることができる。その際、細管の内径が小さめの場合には、流量を減少させ、内径が大きめの場合には、流量を増加させることによって、培養細胞群等の線速度を均一に保つことができる。
【0034】
また、請求項6に記載の発明によれば、廃液回収手段を上記試薬供給手段と直列的に接続するとともに、上記流通手段と並列的に接続し、かつこの流通手段の下流端部に細胞回収容器を接続可能に設けたため、培養容器内に収容されている剥離液を、例えば、試薬供給手段から洗浄液を培養容器に供給することによって、試薬供給手段と直列的に接続された廃液回収手段に排出させることができる。これにより、培養細胞群を剥離液から分離して、流通手段に供給することができるため、装置全体の自動化を現実的なものにすることができるとともに、培養細胞群をフィルタ上等に一時的に蓄積する必要がなく、培養細胞がフィルタ等の障害物によって補足されることを防止できる。
その結果、簡易的に継代培養を行うことができるとともに、細胞回収容器に植える培養細胞の生存率を高めて、継代培養による細胞の回収率を高めることができる。
【0035】
さらに、請求項8に記載の発明によれば、上記培養容器、上記試薬供給手段、上記剥離手段、上記流通手段、上記廃液回収手段をインキュベータ内に収容することによって、培養細胞を常に恒温条件に保つことができるため、確実に温度条件の劣悪による培養細胞の死滅を防ぐことができる。
【0036】
他方、請求項9ないし15のいずれか一項に記載の細胞の培養方法によれば、反応工程において、培養容器内に剥離液を供給し、培養容器に収容されている培養細胞群と反応させることにより、培養細胞群の培養容器の内壁面に対する接着性及び細胞同士の接着性を低下させることができる。
【0037】
次いで、洗浄工程においては、上記培養容器内に洗浄液を供給して、上記剥離液を洗い流し、上記剥離液と上記洗浄液とを置換させることにより、剥離液が接着因子以外の細胞表面マーカ等までも破壊し、培養細胞に悪影響を与えることを抑制できる。
【0038】
その後、請求項11に記載の発明によれば、置換工程において、培養容器内の洗浄液に、培地等のカルシウム含有溶液を添加することにより、剥離液によって失われたカルシウムを補給し、膜強度が下がり、壊れやすくなっている細胞を強化保護することができる。
【0039】
次いで、剥離工程においては、洗浄液等の流体収容物を面方向に流動させることによって、培養容器に付着している培養細胞とその付着面との間に剪断応力を作用させ、上記培養細胞群を上記培養容器の内壁面から剥離させることができる。
【0040】
具体的には、請求項12に記載の発明のように、培養容器を水平方向に振動させることによって、培養細胞群を上記剪断応力の作用により剥離させることができる。また、請求項13に記載の発明のように、培養容器内に空気を供給するとともに、培養容器をシーソー運動させることによって、シーソー運動の度に、流体収容物が面方向に流動するため、培養細胞群を上記剪断応力の作用により剥離させることができる。
【0041】
このため、培養細胞は、上述の細胞回収装置と同様に、剥離工程において培養細胞群が剥離可能なものであればよく、反応工程において培養細胞に悪影響を与えることを抑制できるとともに、培養細胞群をピペット等によって回収する必要がなく、回収方法を自動化することができる。
次いで、剥離された培養細胞群を、培養容器の排出口に接続されている流通手段に排出することにより、流通手段の下流端部から培養細胞群を回収することができる。
【0042】
その際、請求項14に記載の発明によれば、剥離工程の後の細胞分散工程において、培養細胞群を流通手段に介装されている細管に通過させ、培養細胞群の細胞同士の接着を解くことができるとともに、培養細胞を流体収容物に分散させることができる。
このため、剥離液としては、上述のように、培養細胞群が剥離工程において剥離可能であるとともに、細管によって細胞同士の接着を解くことが可能なものであればよく、請求項10に記載の発明のように2価のキレート剤を好適に用いることができる。その結果、剥離液との反応によって培養細胞に悪影響を与えることを抑制できる。
加えて、流体収容物に均一に分散された培養細胞を細胞回収容器に播種することによって、細胞の増殖を効率的に行うことができる。
【0043】
特に、請求項15に記載の発明によれば、培養細胞群を剥離液等とともに流通手段に介装された細管に複数回通過させることによって、細管を短く設計しても、複数倍の長さに設計した場合と同等の効率で細胞を流体収容物に均等に分散させることができる。このため、培養細胞群を細管に複数回通過させることによって、細管の長さを稼ぐことができ、細胞播種後の細胞の増殖を著しく効率的に行うことができる。
【0044】
次いで、請求項16に記載の発明によれば、播種工程において、培養細胞の細胞同士の接着が解かれた培養細胞を細胞回収容器に供給した後、培養工程において、当該細胞回収容器内にて上記培養細胞を培養させることによって、継代培養を行うことができる。
【0045】
また、請求項7又は17に記載の発明によれば、希釈機構又は希釈工程によって、培養細胞を培地に希釈分散させ、複数の細胞回収容器に均等に培養細胞を分配でき、その結果、培養細胞を繰り返し複数倍に増殖させることができ、効率的に継代培養を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
本発明に係る細胞培養装置の一実施形態について、図1及び図2を用いて説明する。
本実施形態の細胞培養装置は、図1に示すように、培養細胞群が収容された培養容器1を載置する載置台(加振装置)2と、培養容器1に試薬を供給する試薬供給手段3と、培養容器1から培養細胞群を排出する流通手段4と、この流通手段4の下流端部に接続可能に設けられた細胞回収容器5と、流通手段4と並列的に培養容器1に接続されている廃液回収手段6とによって概略構成されている。そして、これらの培養容器1、載置台2、試薬供給手段3、流通手段4、細胞回収容器5、廃液回収手段6は、全て炭酸ガスインキュベータ(図示を略す)内に収容されているとともに、これらの装置全体を作動させる制御システム(図示を略す)によって作動するようになっている。
【0047】
培養容器1及び細胞回収容器5は、いずれも透明の合成樹脂からなる平面視長方形状に形成されており、その中央部に、平面視略菱形形状の空洞11が形成され、培養細胞群が収容されている。そして、この空洞11における容器1の長手方向の両端角部に連通する流路12、13が形成されており、この流路12、13は、容器1の長手方向の一側面1aに向けて互いに平行に形成されている。
【0048】
この培養容器1を載置する上記載置台2は、図2に示すように、水平に配設された載置板21と、この載置板21の下部に一体的に設けられた垂直棒22と、この垂直棒22の下部と一体的に設けられ、2枚の水平円板が上下方向に配設されるとともに互いに連結されてなる回転数600rpm〜4200rpmの偏心カム23と、この偏心カム23を回転させるモータ24とを有している。
このモータ24は、その上部に水平に配設された円板状のホイール25を回転させ、このホイール25と偏心カム23における下部の水平円板との外周周りに配設された無端ベルト26を周方向に移動させることにより、偏心カム23を培養容器1内の培養細胞群の剥離のために回転数2000rpm以上で回転させるようになっている。すると、この偏心カム23は、上部の水平円板の中心外方に一体的に設けられた垂直棒22を回転中心周りに移動させることにより、支持枠体27上において載置板21を水平移動させるようになっている。
また、図示していない傾斜機構によって、載置板21は、培養容器1の流路12と流路13間の中央部を軸として、容器1の底部を45度に傾斜させるように流路13側が上方に移動可能に設けられている。
【0049】
試薬供給手段3は、カルシウム含有溶液が充填されているカルシウム供給用シリンジ31、EDTA等の剥離液が充填されている剥離液供給用シリンジ32及びPBS等の洗浄液が充填されている洗浄液供給用シリンジ33の3本のシリンジが設けられている。
ここで、カルシウム含有溶液には、培地や塩化カルシウム溶液が用いられ、好ましくは0.01〜40mMの塩化カルシウム溶液、さらに好ましくは1〜4mMの塩化カルシウム溶液が用いられる。
【0050】
また、剥離液としては、0、5mM〜10mMのEDTAの他、EGTA、DTPA、NTA、TTHA等の2価金属のキレート剤又は、トリプシンやコラゲナーゼ等のタンパク質分解酵素、又は、インテグリンやカドヘリン等の接着タンパク質の接着を競合的に阻害するペプチドが用いられる。好ましくは、培養細胞との反応により、培養細胞への悪影響を抑えることができるEDTA等の2価金属のキレート剤が用いられ、細胞接着性が強固な場合にも、2価金属のキレート剤を主として、一部タンパク質分解酵素、又は、上記ペプチドが混合されたものが用いられる。
洗浄液としては、カルシウムを含まず、かつ培養細胞に悪影響を与えないものが用いられており、例えば、PBS、HEPES、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝液(Tris)等の等張緩衝液や培養細胞と浸透圧が同一となる濃度のショ糖溶液、食塩水、塩化カリウム水溶液等の等張液が用いられる。
【0051】
そして、各シリンジ31、32、33は、充填剤の排出口にチューブ34が接続され、これらのチューブ34には、各シリンジに対応してチューブポンプ31a、32a、33aが介装されている。また、それぞれチューブ34の下流端部が4口の接続口を有する配管接続具36に接続され、残部の接続口に培養容器1に向けて水平に配設された接続チューブ37が接続されている。この接続チューブ37には、三つ又の配管接続具38が介装されており、配管接続具38の下流側のチューブ37が垂直に配設され、培養容器1の上記長手方向の一側部に一体的に設けられた細管10を介して流路12に接続されている。
【0052】
そして、上記制御システムによって、ポンプ32aが所定時間作動し、シリンジ32内の剥離液がチューブ34、配管接続具36、接続チューブ37及び細管10を介して培養容器1内に供給された後、ポンプ32aの作動が停止して、培養容器1内において剥離液と培養細胞群とが反応するようになっている。次いで、制御システムによって、ポンプ33aが所定時間作動し、シリンジ33内の洗浄液が同様に、培養容器1内に供給された後、ポンプ33aが停止し、その後、ポンプ31aが所定時間作動し、シリンジ31内のカルシウム含有溶液が同様に、培養容器1内に供給され、ポンプ31aが停止するようになっている。
【0053】
次いで、制御システムによって、上述の載置台2のモータ24を作動させ、偏心カム23が2000rpm〜4200rpmで回転し、載置板21が水平移動することにより、培養容器1内の洗浄液及びカルシウム含有溶液等の流体収容物が流動し、培養容器1に付着している培養細胞群とその付着面との間に剪断応力が作用し、培養細胞群が剥離されるようになっている。
【0054】
一方、上記配管接続具38の残部の接続口には、垂直に配設されたチューブ41が接続されており、このチューブ41は、ピンチバルブ41aが介装されるとともに、その下流端部が配管接続具42の上端部の配設口に接続されている。この配管接続具42は、垂直方向に配設されており、下端部の配設口にチューブ41の真下に配設されたシリンジポンプ44の排出口が接続されている。
【0055】
そして、上記制御システムによって、上記載置板2の載置板21を傾斜させるとともに、ピンチバルブ41aを開き、シリンジポンプ44のプランジャーを所定の速度で引くことにより、剥離された培養細胞群が流体収容物とともに流路12から細管10に供給されるようになっている。
このシリンジポンプ44は、チューブ41及び配管接続具42とともに吸引機構を構成している。
【0056】
この細管10は、内径が0.2mm以上であって、かつ1.0mm以下に形成されており、より好ましくは内径が0.3mm以上であって、かつ0.8mm以下に形成されている。内径が0.2mm未満の場合には、直径が数10μm〜数100μm程度である培養細胞群が塊状のまま流通し、外周に付着している細胞が傷付き、死滅する恐れがある。一方、1.0mmを超えると、培養細胞群が細管内の中央部のみを流通するため、細胞同士の接着を解くことができず、細胞回収容器5に再培養しても、細胞が周囲の細胞によって覆われ、増殖効率が低下し、均一に播種できないためである。
【0057】
これに対し、内径が0.2mm以上であって、かつ1.0mm以下の場合には、内径が小さめの場合には、流量を減少させ、内径が大きめの場合には、流量を増加させることによって、中央部と外周部との流速差により、細胞間に剪断応力を作用させて、細胞同士の接着を解き、培養細胞群を上記流体収容物に分散させることができる。特に、内径が0.3mmの場合には流量を0.18ml/sにすることができ、内径が0.5mmの場合には流量を0.45ml/sにすることができ、内径が0.8mmの場合には流量を1.28ml/sにすることができるため、内径が0.3mm以上であって、かつ0.8mm以下の場合には、流量を0.18〜1.28ml/sにすることができるため、実用的である。
【0058】
次いで、上記制御システムによって、上記シリンジポンプ44のプランジャーを所定の速度で押すことにより、培養細胞及び流体収容物等が細管10に流通し、培養容器1内に再供給されるようになっている。その後、上述のように載置板21を傾斜させるとともに、シリンジポンプ44を所定の速度で引くことにより、培養細胞等が細管10に流通し、上述のシリンジポンプ44等の作動が所定回数、繰り返されることにより、培養細胞が流体収容物に均一に分散され、細胞混濁液となる。
【0059】
一方、配管接続具42は、接続口を4口有しており、側部に設けられた残りの2口の配設口のうち上部の配設口には、細胞回収容器5に向けて配設されチューブ43が接続されている。また、下部の配設口には、培地が充填されたシリンジポンプ45の排出口とが接続されている。なお、チューブ43には、ピンチバルブ43aが介装されている。
【0060】
そして、制御システムによって、ピンチバルブ41aを閉じ、シリンジポンプ44、45のプランジャーを所定の速度で交互に所定回数押し出すことにより、接続具42を介してシリンジポンプ44内の培養細胞のシリンジポンプ45への供給及びシリンジポンプ45内の培地のシリンジポンプ44への供給が交互に繰り返し行われる。これにより、細胞混濁液が培地によって希釈分散され、細胞液となって、シリンジポンプ45のシリンジ内に充填される。その際に、ピンチバルブ41a、43aが閉じられているため、培養細胞等のチューブ41、43への流出が防止される。
このシリンジポンプ44、45は、このピンチバルブ41a、43a及び接続具42とともに、希釈機構を構成しており、上記細管10からチューブ37の一部、配管接続具38、チューブ41、シリンジポンプ44、45及び及びチューブ43は、上記流通手段4を構成している。
【0061】
他方、細胞回収容器5は、棚50内に上下方向に向けて複数枚積まれており、それぞれ上記チューブ43の下流端部が接続可能に設けられている。
そして、上記制御システムによって、ピンチバルブ43aを開き、シリンジポンプ45のプランジャーを押すことにより、所定の速度で所定量の細胞液が各容器5に播種される。
【0062】
一方、上記廃液回収手段6は、流路13に連通するように培養容器1の長手方向の一側面1aに接続されたチューブ61と、このチューブ61の下流端部が配設された回収瓶62と、この回収瓶62内に無菌フィルタ63aを介して外部の空気を供給する外気供給管63とによって構成されている。
そして、上記制御システムによって、ポンプ33aが作動している際に、培養容器1内の剥離液がチューブ61を通じて回収瓶62に排出されるようになっている。なお、上記制御システムは、上述の温度、回数等の各所定値を入力するインターフェースを備えている。
【0063】
[他の実施形態]
上記載置台2に換えて、上記廃液回収手段6を含む空気供給機構及び揺動機構(図示を略す)を用いて培養細胞群を培養容器1の内壁面から剥離させることができる。
廃液回収手段6は、シリンジポンプ44を引くことにより、無菌フィルタ63aを介して外気供給管63によって供給された回収瓶62内の外部の空気がチューブ61を介して流路13から培養容器1内に供給されるようになっており、シリンジポンプ44とともに空気供給機構を構成している。
【0064】
揺動機構は、載置台2と同様に、載置板上に培養容器1を載置するようになっている。そして、載置板が流路12と流路13との間の中央部を軸として流路12側を下方にして培養容器1を30度に傾斜保持可能であるとともに、流路13側を下方にして培養容器1を30度に傾斜保持可能になっている。さらには、載置板が培養容器1を流路12側と流路13側とが交互に下方に位置するように1回/秒の速度でシーソー運動させるようになっている。また、載置台2と同様に、傾斜機構を備えており、シーソー運動後に、流路12側を下方にして培養容器1を45度に傾斜させるようになっている。
【0065】
このため、上記制御システムによって、シリンジポンプ44を引いて、空気を培養容器1内に供給した後に、揺動機構により、培養容器1をシーソー運動させることにより、培養容器1内の洗浄液及びカルシウム含有溶液等の流体収容物が流動し、培養容器1に付着している培養細胞群とその付着面との間に剪断応力が作用し、培養細胞分が剥離されるようになっている。その後、上記制御システムによって、流路12側を下方にして培養容器1を45度に傾斜させることにより、この剥離された培養細胞群が流体収容物とともに流路12から細管10に排出され、細管10内において漸次、細胞同士の接着が解かれるようになっている。
【0066】
次いで、上述の細胞培養装置による本発明に係る細胞の培養方法について、説明する。
本実施形態の細胞の培養方法は、培養容器1内にEDTA等の剥離液を供給し、培養細胞群と反応させる反応工程の後に、培養容器1内にPBS等の洗浄液を供給する洗浄工程と、この洗浄液の一部をカルシウム含有溶液に置換する置換工程と、培養容器1を水平方向に振動させ、培養細胞群を培養容器1から剥離させる剥離工程と、この剥離された培養細胞群を細管に供給することにより、培養細胞同士の接着を解き、上記培養細胞をカルシウム含有溶液等と分散させる細胞分散工程と、この接着が解かれた培養細胞を培地に希釈分散させる希釈工程と、この希釈分散された細胞液を細胞回収容器に供給する播種工程と、細胞回収容器内において上記培養細胞を培養させる培養工程とを有している。
ここで、剥離液、洗浄液及びカルシウム含有溶液は、上述の細胞培養装置において説明したものと同様のものが用いられる。
【0067】
上記反応工程は、ピンチバルブ41a、43aを閉めた状態において、剥離液供給用シリンジ32を作動させるとともに、チューブポンプ32aを作動させることにより、剥離液を培養容器1内に供給する。そして、培養容器1内に培養細胞群とともに充填されている培地をチューブ61から回収瓶62へと排出させることにより、培養容器1内を剥離液に置換する。
そして、炭酸ガスインキュベータによって所定時間、温度及び二酸化炭素濃度を一定に保ち、培養細胞群と剥離液とを反応させることにより、培養細胞群の細胞接着性を低下させる。
【0068】
次いで、上記洗浄工程は、洗浄液供給用シリンジ33を作動させるとともに、チューブポンプ33aを作動させ、剥離液と同量の洗浄液を供給することによって、培養容器1内の約90%の剥離液を洗浄液に置換し、剥離液を回収瓶62へ排出させる。その際、培養細胞群は、培養容器1の内壁面に付着したままの状態である。
これにより、剥離液によって、接着因子以外の細胞表面マーカ等までが破壊されることを防止し、培養細胞群に悪影響が及ぶことを阻止する。
【0069】
次ぎに、上記置換工程は、カルシウム供給用シリンジ31を作動させるとともに、チューブポンプ31aを作動させることにより、培養容器1内の洗浄液の一部をカルシウム含有溶液に置換し、洗浄液の一部を回収瓶62へ排出させる。これにより、剥離液によって分解されたタンパク質等の細胞にとって必要とされる栄養分が補われ、細胞が強化保護される。
【0070】
そして、上記剥離工程においては、置換工程により、カルシウム含有溶液が供給された直後に(すなわち、カルシウム含有溶液が供給されることにより、培養細胞の細胞接着性が再現し、培養細胞群が培養容器に再度付着し、剥離できなくなる前に)、洗浄液及び培地等の流体収容物とともに培養細胞群が収容されている載置板21上の培養容器1を、載置台2のモータ24を作動させることにより、X軸方向及びY軸方向を合わせた面内の合成ベクトル方向に向けて水平移動させ、培養細胞群を培養容器1の内壁面から剥離する。
【0071】
なお、載置台2に換えて、上述の細胞培養装置と同様に、空気供給機構及び揺動機構を用いて、空気供給機構によってシリンジポンプ44を引いて、空気を培養容器1内に供給した後に、揺動機構によって培養容器1をシーソー運動させ、培養細胞群を培養容器1から剥離させることも可能である。
【0072】
次いで、上記細胞分離工程は、載置板21を培養容器1の流路12、13間の中央部を軸として、容器1の底部を45度に傾斜させるように流路13側を上方に移動させるとともに、ピンチバルブ41aを開き、シリンジポンプ44のプランジャーを引くことにより、培養細胞群を流体収容物とともに流路12から細管10に供給する。その際、上記プランジャーの引き具合によって、細管10内における流速を調整し、この細管10内において細胞同士の接着を解き、培養細胞を流体収容物に分散させる。
【0073】
続いて、シリンジポンプ44のプランジャーを押し出すことにより、培養細胞群等が流体収容物とともに培養容器1内に再供給される。その際、培養細胞群は、細管10内において、流れ方向が変化する際に、細胞同士に大きな剪断応力が発生するため、細胞同士の接着が効率的に解かれ、培養細胞が流体収容物に分散される。そして、再度、載置板21を傾斜させて、培養細胞等を細管10に供給する。
【0074】
上述のように、上記分離工程を所定回数(本実施形態においては10回)繰り返し、培養細胞を(20回)細管10に流通させることにより、確実に細胞同士の接着を解き、確実に培養細胞を流体収容物に分散させ、細胞混濁液にする。
その後、この細胞混濁液は、シリンジポンプ44のプランジャーを引くことにより、垂直方向下方に配設されている配管接続具38からチューブ41、配管接続具42を経てシリンジポンプ44のシリンジ内に充填される。
【0075】
次いで、上記希釈工程は、上記ピンチバルブ41aを閉じ、シリンジポンプ44、45を交互に4回ずつ作動させ、シリンジポンプ44のシリンジ内に充填された培養混濁液を、予めシリンジポンプ45のシリンジ内に充填されている培地に希釈分散させ、細胞液とした後に、同ポンプ44を作動させることによって細胞液をシリンジポンプ45のシリンジ内に充填する。
なお、上述の剥離工程におけるカルシウム含有溶液の供給から希釈工程までを5分以内に終了させる。
【0076】
次いで、上記播種工程は、バルブ41aを閉じるとともに、ピンチバルブ43aを開き、シリンジポンプ45のプランジャーを押し出すことにより、同ポンプ45のシリンジ内に充填されている細胞液をチューブ43に供給し、チューブ43の下流端部を各細胞回収容器5に順次接続することにより、細胞液を各細胞回収容器5に均等に分配する。すると、各細胞回収容器5内の空気が排出され、接続配管51を介して回収瓶62内に供給される。
【0077】
上記培養工程は、炭酸ガスインキュベータ内を所定期間、温度及び炭酸ガス濃度を一定に保つことにより、各細胞回収容器5内の細胞を培養する。その間、細胞ごとの適切な日数経過後に培地交換すると、各細胞回収容器5内の培養細胞が目的の細胞密度になる。その後、各細胞回収容器5を取り出し、順次、培養容器1として載置台2上に載置するとともに、棚50内に複数枚の新たな細胞回収容器5を積むことにより、繰り返し継代培養を行う。
【実施例】
【0078】
次いで、実施例として、ヒト肝癌由来細胞株(HepG2)及びシリアンハムスター膵β細胞由来細胞株(HIT−T15)を継代培養した。
【0079】
[実施例1(HepG2細胞の場合)]
まず、HepG2細胞を、12.8×104個/mlとなるように培地で希釈し、底面にプラズマ処理を行った培養容器中に、4.5ml播種し、3日間培養した。その後、この培養容器1を載置台2の載置板21上に載置した。
なお、チューブポンプ31a、32a、33aとしてペリスタポンプを用い、全て送液速度を3ml/分に設定するとともに、シリンジ31及びシリンジポンプ45のシリンジには1.8mM塩化カルシウム含有の培地、シリンジ32にはリン酸緩衝食塩液(PBS)で希釈した4mMのエデト酸ナトリウム(EDTA)、シリンジ33にはPBSをそれぞれ50mlずつ充填した。
【0080】
次いで、シリンジ32からPBS希釈のEDTAを培養容器1に3ml/分で3分間供給し、培養容器1の培地と置換した後、25℃で20分間インキュベートさせ、次いで、シリンジ33からPBSを培養容器1に3ml/分で3分間供給し、EDTAと置換した。次ぎに、シリンジ31から培地を3ml/分で1分間供給し、直ちに載置台2による2600rpmの振動を20秒間与えて培養細胞群を培養容器1から剥離し、培養容器1を45度に傾斜させるとともに、ピンチバルブ41aを開き、シリンジポンプ44のプランジャーを引いた。これにより、培養細胞群を培地等とともに、培養容器1から排出させ、細管10に流通させた後、培養細胞群を、同プランジャーを押すことにより、再度、細管10に流通させ、培養容器1に再供給した。そして、再度、載置台2によって培養容器1を傾斜させ、培養細胞群を細管10に流通させることを合計10セット繰り返し、シリンジポンプ44に供給した。
【0081】
次ぎに、シリンジポンプ44の先端を配管接続具42から外し、シリンジポンプ44から細胞混濁液を1ml採取し、細胞数を計数したところ、2.81×106個の細胞が回収され、後述する参考例1の細胞数に対して、98%という高い回収率が得られた。
【0082】
次いで、再度、シリンジポンプ44の先端を配管接続具42に接続した後、ピンチバルブ41aを閉じ、シリンジポンプ44、45のプランジャーを交互に4回ずつ押し出すことにより、シリンジポンプ44内に供給された細胞混濁液を、シリンジポンプ45の培地と希釈分散させ、細胞液とした後に、シリンジポンプ44のプランジャーを押して、シリンジポンプ45に収容した。その後、このシリンジポンプ45のプランジャーを押し出すことにより、細胞液をチューブ43に供給し、12枚の細胞回収容器5に分配した。
【0083】
次いで、分配直後に、12枚の細胞回収容器5内の培養細胞数をそれぞれ計数したところ約同数であった。
【0084】
[実施例2(HIT−T15細胞の場合)]
次ぎに、HIT−T15細胞を5×104個/mlとなるように培地で希釈し、底面にプラズマ処理を行った培養容器中に、4.5ml播種し、6日間培養した後、この培養容器を載置台2の載置板21上に載置した。また、チューブポンプ31a、32a、33aの種類及びその送液速度並びにシリンジ31、32、33、シリンジポンプ45のシリンジ内の充填剤は、実施例1と同一とした。
【0085】
次いで、実施例1と同様に、シリンジ32から供給したPBS希釈のEDTAによって、培養容器1の培地を置換した後、37℃で20分間インキュベートさせた。次ぎに、実施例1と同様に、シリンジ31から培地を供給し、直ちに振動を与えて、培養細胞群を剥離させ、培養容器1から排出させ、細管10に流通させた後に、培養容器1に再供給することを10セット繰り返し、シリンジポンプ44に供給した。
【0086】
次ぎに、シリンジポンプ44から細胞混濁液を1ml採取し、細胞数を計数したところ、1.14×106個の細胞が回収され、後述する参考例2の細胞数に対して、106%という高い回収率が得られた。
【0087】
次ぎに、シリンジポンプ44の先端を配管接続具42に接続し、シリンジポンプ44、45において希釈分散させ、実施例1と同様に、12枚の細胞回収容器5に分配した直後に、12枚の細胞回収容器5内の培養細胞数を計数したところ約同数であった。
【0088】
[実施例3(HepG2細胞の場合)]
まず、HepG2細胞を12.8×104個/mlとなるように培地で希釈し、実施例1と同様に、3日間培養した後、細胞が収容されている培養容器1を載置板21上に載置した。また、チューブポンプ31a、32a、33aの種類及びその送液速度並びにシリンジ31、32、33シリンジポンプ45のシリンジ内の充填剤は、実施例1と同一とした。
その後、シリンジ32からPBS希釈のEDTAを送液後、37℃で20分間インキュベートさせた。
【0089】
次いで、実施例1と同様に、シリンジ33からPBS及びシリンジ31から培地を供給した後に、空気供給機構であるシリンジポンプ44を2.4ml引いて、約2mlの空気を回収瓶62内からチューブ61を経由して培養容器1内に供給した。次いで、揺動機構によって培養容器1を1回/秒の速度で20秒間シーソー運動(10往復)させ、培養細胞を剥離した。その後、実施例1と同様に、培養容器1を45度に傾斜させ、培養細胞群等を細管10に流通させた後、シリンジポンプ44のプランジャーを押すことにより、培養細胞群を細管10に流通させ、培養容器1に再供給した。そして、上述と同様に、培養容器1を45度に傾斜させ、同様に培養細胞群を細管10に流通させることを合計10セット繰り返し、シリンジポンプ44に供給した。
【0090】
次ぎに、シリンジポンプ44の先端を配管接続具42から外し、シリンジポンプ44から細胞混濁液を1ml採取し、細胞数を計数したところ、3.05×106個の細胞が回収され、後述する参考例3の細胞数に対して、103%という高い回収率が得られた。
【0091】
[参考例1]
実施例1と同様に、HepG2細胞を、12.8×104個/mlとなるように培地で希釈し、底面にプラズマ処理を施した密閉容器に、4.5ml播種し、3日間培養した。
次いで、シリンジを用いてHepG2細胞の培地を捨て、密閉容器を分解後、底面部だけを取りだし、PBSで1回洗浄し、0.25%トリプシン、1mMのEDTAを溶液を1ml加え、37℃で10分間反応させた。
細胞が剥離していることを確認し、ピペッティングで細胞を底面から完全に剥離し、10ml遠沈管に採取し、1500rpmで3分遠心後、上清を捨て、ピペッティングで細胞を分散させた。この細胞混濁液に培地を2ml加え、培養細胞を計数したところ、2.86×106個の細胞が回収された。
【0092】
[参考例2]
実施例2と同様に、HIT−T15細胞を、5×104個/mlとなるように培地で希釈し、底面にプラズマ処理を施した密閉容器に、4.5ml播種し、6日間培養した。
次いで、シリンジを用いてHIT−T15細胞の培地を捨て、密閉容器を分解後、底面部だけ取りだし、参考例1と同様に、HIT−T15細胞をトリプシン及びEDTAを含有する剥離液と反応させ、密閉容器の底面部から剥離させ、ピペッティングで細胞を底面から完全に剥離し、10ml遠沈管に採取し、1500rpmで3分遠心後、上清を捨て、ピペッティングで細胞を分散させた。次いで、この細胞混濁液に培地を2ml加え、培養細胞を計数したところ、1.07×106個の細胞が回収された。
【0093】
[参考例3]
実施例3と同様に、HepG2細胞を12.8×104個/mlとなるように培地で希釈し、底面にプラズマ処理を施した密閉容器に、4.5ml播種し、6日間培養した。
次いで、シリンジを用いてHepG2細胞の培地を捨て、密閉容器を分解後、底面部だけ取りだし、参考例1と同様に、HepG2細胞をトリプシン及びEDTAを含有する剥離液と反応させ、密閉容器の底面部から剥離させ、ピペッティングで細胞を底面から完全に剥離し、10ml遠沈管に採取し、1500rpmで3分遠心後、上清を捨て、ピペッティングで細胞を分散させた。次いで、この細胞混濁液に培地を2ml加え、培養細胞を計数したところ、2.95×106個の細胞が回収された。
【0094】
上述の細胞培養装置又は細胞の培養方法によれば、剥離液供給用シリンジ32から培養容器に剥離液を供給し、培養容器に収容されている培養細胞群の培養容器の内壁面に対する接着性及び細胞同士の接着性を低下させた後、洗浄液供給用シリンジ33から洗浄液を供給することにより、剥離液が培養細胞に悪影響を与えることを抑制できる。
【0095】
次いで、カルシウム供給用シリンジ31からカルシウム含有溶液を供給した後に、載置台2によって、培養容器1を水平移動させることにより、培養容器1の底部内壁面に付着している培養細胞群とその接着面との間に、剪断応力をX軸方向及びY軸方向の合成ベクトル方向に作用させることができ、あらゆる方向に向けて付着している全ての培養細胞群を効率的に剥離させることができる。
【0096】
次いで、傾斜機構によって、載置板21を45度に傾斜させるとともに、ピンチバルブ41aを開き、シリンジポンプ44のプランジャーを引くことにより、培養細胞群をカルシウム含有溶液等とともに流路12から細管10に供給し、この細管10内の中央部と内壁近傍との流速差により細胞間に剪断応力を作用させて、細胞同士の接着を解くことができる。
【0097】
続いて、シリンジポンプ44のプランジャーを押し、細管10の培養細胞群を、培養容器1に供給する。すると、流れ方向が変化する際に、培養細胞同士に大きな剪断応力が発生し、細胞同士の接着を解き、効率的に培養細胞群を流体収容物に分散させることができる。
【0098】
そして、再度、載置板21を45度に傾斜させ、培養細胞を繰り返し細管10に流通させることによって、漸次、細胞同士の接着を解くことができる。
このため、培養細胞群を細管に一度流通させ、分散する場合と比較して、細管の内径を大きくし、細管の長さを短くし、流通速度を遅くしても、細胞同士の接着を解くとともに、カルシウム含有溶液等に分散させることができる。その結果、培養細胞の生存率を高め、継代培養による細胞の回収率を著しく高めることができる。
【0099】
次いで、培養細胞群をシリンジポンプ44に供給し、シリンジポンプ44、45を交互に作動させることによって、培養細胞を簡易的に培地に希釈分散させることができる。このため、細胞回収容器5に均等に培養細胞を供給することができ、その結果、効率的に継代培養を行うことができる。
【0100】
他方、廃液回収手段6を流路13に連通するチューブ61等によって構成し、流通手段4と並列的に設けたため、シリンジ33やチューブポンプ33aを用いて加圧的に洗浄液を流路12から培養容器に供給することにより、剥離液を簡易に流路13から回収瓶62に排出させることができ、装置全体の自動化を現実的なものにすることができる。
【0101】
また、培養容器1、試薬供給手段3、流通手段4、細胞回収容器5及び廃液回収手段6がチューブ34、37、41、43、61によって気密的に接続され、閉鎖系の細胞培養装置が構成されているため、系内に汚染物が混入し、細菌が汚染されることを防止できる。
さらに、試薬供給手段3、流通手段4及び廃液回収手段6におけるシリンジ31、32、33やチューブポンプ31a、32a、33a等の機器類が全て使い捨て可能なチューブ34、37、41、43、61、ピンチバルブ41a、43a及び配管接続具36、38、42によって接続されているため、繰り返し使用することによる汚染物の混入を防止することができる。
【0102】
なお、本発明は、上述の実施の形態に何ら限定されるものでなく、例えば、試薬供給手段3がシリンジ31、32、33、チューブ34、37、チューブポンプ31a、32a、33aや配管接続具36以外によって構成されていてもよい。また、細管10は、培養容器1の一側部に一体的に設けられていなくてもよく、流通手段4に介装されていればよいものである。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の細胞培養装置の一実施形態を示す概念説明図である。
【図2】載置台2の説明図であり、(a)が正面図、(b)が縦断面図である。
【符号の説明】
【0104】
1 培養容器
2 載置台(加振装置)
3 試薬供給手段
4 流通手段
5 細胞回収容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養細胞群が収容された培養容器と、この培養容器に接続され、少なくとも上記培養細胞群の細胞接着性を低下させる剥離液を上記培養容器に供給する試薬供給手段と、上記培養容器内の上記剥離液等の流体収容物を面方向に流動させ、上記培養容器の内壁面に付着している上記培養細胞群を上記内壁面から剥離させる剥離手段と、上記培養容器に接続された上記培養細胞群の流通手段とを有することを特徴とする閉鎖系の細胞回収装置。
【請求項2】
上記剥離手段は、上記培養容器を水平方向に振動させる加振装置であることを特徴とする請求項1に記載の閉鎖系の細胞回収装置。
【請求項3】
上記剥離手段は、上記培養容器内に空気を供給する空気供給機構と、上記培養容器を上記流体収容物が面方向に流動するようにシーソー運動させる揺動機構とを有することを特徴とする請求項1に記載の閉鎖系の細胞回収装置。
【請求項4】
上記流通手段は、上記培養細胞群の細胞同士の接着を解く細管が介装されているとともに、この細管に上記培養細胞群を通過させる吸引機構が設けられていることを特徴とする
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の閉鎖系の細胞回収装置。
【請求項5】
上記細管は、内径が0.2mm以上であって、かつ1.0mm以下であることを特徴とする請求項4に記載の閉鎖系の細胞回収装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の閉鎖系の細胞回収装置を用いて、上記培養細胞を再培養する細胞培養装置であって、
上記流通手段と並列的に上記培養容器に接続されるとともに、上記試薬供給手段と直列的に上記培養容器に接続された廃液回収手段と、上記流通手段の下流端部に接続可能に設けられ、上記培養細胞を再培養する細胞回収容器とが備えられていることを特徴とする細胞培養装置。
【請求項7】
上記流通手段には、上記培養細胞を培地に希釈分散させる希釈機構が設けられており、かつ上記細胞回収容器は、複数設けられ、各々が上記流通手段の下流端部に並列的に接続可能に設けられていることを特徴とする請求項6に記載の細胞培養装置。
【請求項8】
上記培養容器、上記試薬供給手段、上記剥離手段、上記流通手段、上記廃液回収手段及び上記細胞回収容器は、インキュベータ内に収容されていることを特徴とする請求項7に記載の細胞培養装置。
【請求項9】
培養細胞群が収容されている培養容器内に、上記培養細胞群の細胞接着性を低下させる剥離液を供給し、この剥離液と上記培養細胞群とを反応させる反応工程と、
この反応工程の後に、上記培養容器内に洗浄液を供給し、上記培養細胞群を上記培養容器の内壁面に付着させたまま上記剥離液を洗い流すことにより、上記剥離液と上記洗浄液とを置換させる洗浄工程と、
上記培養容器内に収容されている上記洗浄液等の流体収容物を面方向に流動させることにより、上記培養細胞群を上記培養容器の内壁面から剥離させる剥離工程とを有し、
この内壁面から剥離された培養細胞群を、上記培養容器の排出口に接続されている流通手段に排出することを特徴とする細胞の回収方法。
【請求項10】
上記剥離液は、2価金属のキレート剤であることを特徴とする請求項9に記載の細胞の回収方法。
【請求項11】
上記洗浄工程の後に、上記培養容器内に培地等のカルシウム含有溶液を供給し、上記培養容器内の上記洗浄液の一部を外部に流出させ、上記培養容器内の上記洗浄液の一部を上記カルシウム含有溶液に置換する置換工程が設けられており、上記培養容器内の上記カルシウム含有溶液及び上記洗浄液等の流体収容物を、上記剥離工程において面方向に流動させることを特徴とする請求項9又は10に記載の細胞の回収方法。
【請求項12】
上記剥離工程においては、上記培養容器を水平方向に振動させることを特徴とする請求項9ないし11のいずれか一項に記載の細胞の回収方法。
【請求項13】
上記剥離工程においては、上記培養容器内に空気を供給するとともに、上記培養容器を上記流体収容物が面方向に流動するようにシーソー運動させることを特徴とする請求項9ないし11のいずれか一項に記載の細胞の回収方法。
【請求項14】
上記剥離工程の後に、上記培養容器の内壁面から剥離された培養細胞群を、上記流通手段に介装された細管に流通させることにより、上記培養細胞群の細胞同士の接着を解き、上記培養細胞を上記流体収容物に分散させる細胞分散工程を有することを特徴とする請求項9ないし13のいずれか一項に記載の細胞の回収方法。
【請求項15】
上記培養細胞群を上記細管に複数回通過させることにより、上記培養細胞を流体収容物に分散させることを特徴とする請求項14に記載の細胞の回収方法。
【請求項16】
請求項14又は15に記載の細胞の回収方法を用いて、培養細胞を再培養する細胞の培養方法であって、
上記細胞分散工程の後に、上記培養細胞群の細胞同士の接着が解かれた培養細胞を複数の細胞回収容器に供給する播種工程と、
上記細胞回収容器内において上記培養細胞を再培養させる培養工程とを有することを特徴とする細胞の培養方法。
【請求項17】
上記細胞分散工程の後に、上記培養細胞を培地に希釈分散させる希釈工程が設けられており、この希釈分散された細胞液を、上記播種工程において、上記細胞回収容器に供給することを特徴とする請求項16に記載の細胞の培養方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−79554(P2008−79554A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−264647(P2006−264647)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、文部科学省、科学技術振興調整による委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【Fターム(参考)】