開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強部材、並びにこれを用いた補強構造及び方法
【課題】開口を有する鉄筋コンクリート梁において、当該開口回りを応力伝達機構を考慮して効率よく補強することができ、しかも施工を簡易に行い得る、開口回り補強部材、並びにこれを用いた補強構造及び方法の提供。
【解決手段】繊維入り補強モルタル又はコンクリートにより略リング状又は略筒状に形成した開口回り補強体10を梁の開口を形成する位置に配置し、上下の各開口回りせん断補強筋11を上下の各主筋21、22に係合させて、開口両側のせん断補強筋23とともにコンクリート母材26に一体化する。
【解決手段】繊維入り補強モルタル又はコンクリートにより略リング状又は略筒状に形成した開口回り補強体10を梁の開口を形成する位置に配置し、上下の各開口回りせん断補強筋11を上下の各主筋21、22に係合させて、開口両側のせん断補強筋23とともにコンクリート母材26に一体化する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強部材、並びにこれを用いた補強構造及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄筋コンクリート造の梁は、コンクリートのアーチ機構と、主筋及びせん断補強筋による配筋と、コンクリート母材とにより形成されるトラス機構によって、せん断力に対抗する耐力が付与されている。この梁に開口(孔)を設けると、この開口でトラス機構は途切れ、開口の周辺に局所的な応力が作用して、梁の強度は低下する。そこで、従来は、鉄筋コンクリート造の建物を構築する際に、梁に設備配管などを設置するため開口を形成する場合、図11に示すように、略Z形をなす複数の斜め筋3を開口30を囲むように斜め45°の方向に配置したり、図12に示すように、複数の鉄筋を網状に組み立てた補強金物4を開口40の回りに配置したりして、開口回りを補強している。この種の開口回りの補強構造は特許文献1などに記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−1833114公報(段落0002及び図17、図18)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の、図11の斜め筋を用いた開口回りの補強構造では、斜め筋3を開口30の回りに配置したにすぎず、応力伝達機構が考慮されていないため、構造上明確でなく、効率が悪い、という問題がある。この場合、図13に示すように、主筋31、32と斜め筋3との間で十分な引張力の伝達が行われることはなく、開口回りの位置でせん断補強筋の力は途切れ、空白の部分が生じることになる。また、上記従来の、図12の網状の補強金物を用いた開口回りの補強構造では、補強金物4をせん断補強筋と見なすことができるものの、この場合もまた、応力伝達機構が考慮された構造になっていないため、効率が悪く、さらに、開口40の周辺の配筋量が多いために、配筋作業、コンクリートの充填作業が複雑で、施工が難しい、という問題がある。さらに、これら斜め筋3や補強金物4を開口回りに配置する構造では、開口のない梁に比べて、梁の耐力の差が大きく、梁に大開口を設ける必要がある場合に対応が難しい、という問題がある。
【0005】
本発明は、このような従来の問題を解決するものであり、開口を有する鉄筋コンクリート梁において、当該開口回りを応力伝達機構を考慮して効率よく補強することができ、しかも施工を簡易に行い得る、開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強部材、並びにこれを用いた補強構造及び方法を提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、コンクリート母材に主筋とせん断補強筋とを配筋された鉄筋コンクリート梁に幅方向に貫通して形成された開口の回りを補強する、開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強部材であって、繊維入り補強モルタル又はコンクリートにより形成され、前記梁の開口をなす開口部を有する略リング状又は略筒状の開口回り補強体と、前記開口回り補強体の周面に一端を埋め込み固定され当該周面から突出されて、前記主筋に交差状に係合可能な開口回りせん断補強筋とを備えた、ことを要旨とする。この場合、開口回り補強体は多角形又は円形の断面形状を有することが好ましい。開口回り補強体の外周面にコッターを備えることが好ましい。開口回りせん断補強筋は突出端に主筋に係止可能に略J字形又は略U字形若しくは略コ字形のフックを備えることが好ましい。
【0007】
また、上記目的を達成するために、本発明は、コンクリート母材に主筋とせん断補強筋とを配筋された鉄筋コンクリート梁に幅方向に貫通して形成された開口の回りを補強する、開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強構造であって、上記開口回り補強部材を備え、前記開口回り補強体が前記梁の開口を形成する位置に配置され、前記開口回りせん断補強筋が前記主筋に係合されて、前記コンクリート母材に一体化される、ことを要旨とする。
【0008】
さらに、上記目的を達成するために、本発明は、コンクリート母材に主筋とせん断補強筋とを配筋された鉄筋コンクリート梁に幅方向に貫通して形成された開口の回りを補強する、開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強方法であって、上記開口回り補強部材を用い、前記開口回り補強体を前記梁の開口を形成する位置に配置し、前記開口回りせん断補強筋を前記主筋に係合して、前記コンクリート母材に一体化する、ことを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の開口回り補強部材、並びにこれを用いた補強構造及び方法によれば、繊維入り補強モルタル又はコンクリートにより略リング状又は略筒状に形成された開口回り補強体を梁の開口を形成する位置に配置し、(上下の)開口回りせん断補強筋を上下の各主筋に係合させて、コンクリート母材に一体化し、梁の開口を引張力が作用しても脆性的に壊れない繊維入り補強モルタル又はコンクリートを使用して形成するので、トラス機構によるコンクリートの圧縮力を伝達することができ、また、(上下の)開口回りせん断補強筋をこの引張力が作用しても脆性的に壊れない開口回り補強体を介して一体化し、この(上下の)開口回りせん断補強筋を上下の各主筋に係合するので、この(上下の)開口回りせん断補強筋に作用する応力を高強度の開口回り補強体を通して相互に伝達することができ、そして、これら開口回り補強部材、(上下の)主筋、せん断補強筋、及びコンクリートによりトラス機構を構成するので、開口回り補強部材とコンクリートとの間で応力の伝達を確実に行え、開口を有する鉄筋コンクリート梁のせん断耐力を著しく向上させることができるなど、開口を有する鉄筋コンクリート梁において、当該開口回りを応力伝達機構を考慮して効率よく補強することができる、という格別な効果を奏する。また、この補強構造及び方法では、従来のように開口の回りに複数の鉄筋を複雑な配置により配筋することがないので、開口回りの配筋作業が容易で、コンクリートの充填性がよいなど、施工を簡易に行うことができる、という顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施の形態における開口回り補強部材の構成を示す斜視図
【図2】(a)同開口回り補強部材を用いた開口回りの補強構造を示す正面断面図(b)同側面断面図
【図3】同開口回り補強部材を用いた開口回りの補強方法を示す斜視図
【図4】同開口回り補強部材を用いた開口回りの補強方法の具体的施工手順を示す図
【図5】同開口回り補強部材を用いた開口回りの補強方法の他の具体的な施工手順を示す図
【図6】同開口回り補強部材を用いた開口回りの補強性能を示す図
【図7】開口回り補強部材の変更例を示す斜視図
【図8】同開口回り補強部材を用いた開口回りの補強構造及び方法を示す斜視図
【図9】開口回り補強部材のまた別の変更例を示す斜視図
【図10】同開口回り補強部材を用いた開口回りの補強構造及び方法を示す斜視図
【図11】従来の開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回りの補強構造の一例を示す正面断面図
【図12】(a)従来の開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回りの補強構造の別の例を示す正面断面図(b)同側面断面図
【図13】図11に示す従来の開口回りの補強構造における補強性能を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、この発明を実施するための形態について図を用いて説明する。図1に鉄筋コンクリート梁に幅方向に貫通して形成される開口の回りを補強するのに使用する開口回り補強部材を示している。図1に示すように、開口回り補強部材1は開口回り補強体10と複数の開口回りせん断補強筋11とを備えて構成される。
【0012】
開口回り補強体10は繊維入り補強モルタル又はコンクリート(この記載は「繊維入り補強モルタル又は繊維入り補強コンクリート」を意味するもので、他の箇所においても同様である。)により、鉄筋コンクリート梁の開口をなす開口部101を有する断面多角形の略リング状(又は筒状)に形成される。この場合、繊維入り補強モルタル又はコンクリートに(超)高強度繊維補強モルタル又はコンクリートが採用され、開口回り補強体10は断面六角形の外形を有する略リング状(又は略筒状)に、所定の強度を保有するために必要な(比較的大きな)肉厚にして形成され、開口部101は所定の形状、ここでは所定の内径を有する円形に形成される。また、この開口回り補強体10には外周面102にコッター103を備え、この場合、外周面102の6面の略中央にそれぞれ、長方形の溝が形成される。なお、この開口回り補強体1の場合、外周面の6つの頂部のうち相互に対向する(任意の)2つの頂部を上下に向けた状態、又は外周面の6つの面のうち相互に対向する(任意の)2つの面を上下に向けた状態で使用するが、ここでは、前者の状態を使用時の態様とする。
【0013】
複数の開口回りせん断補強筋11はそれぞれ、先端にフック110を有する2本一対の鉄筋111からなり、各一対の鉄筋111が一端側を開口回り補強体10の外周面102の上部及び下部に所定のピッチで、(一方の開口101面を正面とした場合)上下対称にかつ上下各部で左右対称に埋め込み固定されて、当該外周面102の上部及び下部から上下対称にかつ上下各部で左右対称の配列で上下に向けて(上下の各主筋21、22に係合可能に)突出される。この場合、各開口回りせん断補強筋11は1本の鉄筋が略U字形(又は略コ字形)に折り曲げ加工されて全体が略U字形(又は略コ字形)に形成され、さらにその両端が(上下の各主筋21、22に係止可能に)内側に向けて略J字形に折り曲げられて両端にフック110が形成される。なお、これらの開口回りせん断補強筋11はそれぞれ、開口回り補強体10の外周面102の上下に向けられる斜めの各2面102U、102Dに固定され、上下方向の同じ所定の(高さ)位置(すなわち、梁の上下に配筋される主筋21、22に係合可能な位置)まで延ばされるため、各開口回りせん断補強筋11の長さは開口回り補強体10における固定位置によって異なり、開口回り補強体10の上下の頂部に近い位置に固定される開口回りせん断補強筋11は短く、当該頂部から離れた位置に固定される開口回りせん断補強筋11は長くなる。そして、これら開口回りせん断補強筋11はそれぞれ、各フック110とは反対側の略U字形の中間部分が開口回り補強体10の上下の各2面102U、102Dにそれぞれ所定のピッチで上下対称にかつ上下各部(左右2面102U、102D)で左右対称に埋め込み固定されて、先端にフック110を有する2本の鉄筋111が上下に向けて既述の所定の位置まで突出される。
【0014】
図2にこの開口回り補強部材1を用いた(開口を有する鉄筋コンクリート梁における)開口回りの補強構造1Sを示している。図2に示すように、この開口回りの補強構造1Sは、鉄筋コンクリート梁2の開口20が開口回り補強部材1の開口回り補強体10により形成され、この開口20の周辺がこの開口回り補強部材1の開口回り補強体10と複数の開口回りせん断補強筋11とにより補強される。
【0015】
この種の鉄筋コンクリート梁2は、梁が延設される水平方向に複数本の上端主筋21及び下端主筋22が配筋され、これら主筋21、22の長手方向に沿って所定のピッチでこれらの主筋21、22を交差状に取り囲むようにして複数のせん断補強筋23が配筋されて、これら主筋21、22及びせん断補強筋23がコンクリート母材26に埋設される構造になっており、開口20は梁の長手方向所定の位置に幅方向に向けて貫通して形成される。この開口回りの補強構造1Sでは、梁の開口20を形成する所定の位置に開口回り補強体10が配置され、上下の各開口回りせん断補強筋11が上下のフック110を介して上下の各主筋21、22に係合(係止)されて、これらの主筋21、22及びこの開口20の両側に配筋されるせん断補強筋23とともにコンクリート母材26に一体化される。
【0016】
図3にこの開口回り補強部材1を用いた(開口を有する鉄筋コンクリート梁における)開口回りの補強方法1Hを示している。図3に示すように、この補強方法1Hは、開口回り補強部材1を予め工場生産しておき、施工現場で当該開口回り補強体10を鉄筋コンクリート梁の開口20を形成する所定の位置に配置し、上下の各開口回りせん断補強筋11を上下のフック110を介して上下の各主筋21、22に係合(係止)して、これらの主筋21、22及びこの開口20の両側に配筋するせん断補強筋23とともにコンクリート母材に一体化する。
【0017】
この施工手順の具体例を図4に示している。まず、図4(1)に示すように、梁が延設される水平方向に複数本の下端主筋22を配筋する。次に、図4(2)に示すように、開口回り補強部材1を取り付ける。この場合、開口回り補強部材1を梁の開口20を形成する所定の位置に嵌め込み、下側の各開口回りせん断補強筋11を下端のフック110を介して外側の各下端主筋22に係合(係止)する。次いで、図4(3)に示すように、梁が延設される水平方向に複数本の上端主筋21を配筋し、開口回り補強部材1の上側の各開口回りせん断補強筋11を上端のフック110を介して外側の各上端主筋21に係合(係止)する。続いて、下端主筋22に下部幅止め筋25を取り付ける。さらに、図4(4)に示すように、上端主筋21に上部幅止め筋24を取り付ける。そして、この開口20の両側に複数本のせん断補強筋23を配筋した後、これら開口回り補強部材1及び各種の鉄筋の周囲に型枠を組み立て形成し、この型枠内にコンクリートを打設する。
【0018】
また、この補強方法は図5に示すような施工手順としてもよい。まず、図5(1)に示すように、梁が延設される水平方向に複数本の下端主筋22を配筋する。次に、図5(2)に示すように、下端主筋22に下部幅止め筋25を取り付ける。続いて、図5(3)に示すように、梁が延設される水平方向に複数本の上端主筋21を配筋する。次いで、図5(4)に示すように、開口回り補強部材1を取り付ける。この場合、開口回り補強部材1を梁の開口20を形成する所定の位置に嵌め込み、上側の各開口回りせん断補強筋11を上端のフック110を介して外側の各上端主筋21に係合(係止)し、下側の各開口回りせん断補強筋11をそれぞれ下部幅止め筋25に重ね合わせて配置する。続いて、図5(5)に示すように、上端主筋21に上部幅止め筋24を取り付ける。そして、この開口20の両側に複数本のせん断補強筋23を配筋した後、これら開口回り補強部材1及び各種の鉄筋の周囲に型枠を組み立て形成し、この型枠内にコンクリートを打設する。
【0019】
図6にかかる開口回りの補強性能を示している。図6に示すように、開口回り補強体10が梁の開口20を形成する位置に配置され、上下の各開口回りせん断補強筋11が上下の各主筋21、22に係合されて、コンクリート母材26に一体化されたことで、繊維入り補強モルタル又はコンクリートそれ自体が高い強度を有し、この繊維入り補強モルタル又はコンクリートの開口回り補強体10が鉄筋コンクリート梁2のコンクリート母材26内に埋入されるので、開口回り補強体10(繊維入り補強モルタル又はコンクリート)とコンクリート母材26との付着性が極めてよく、この両者間や開口回り補強体10周辺のコンクリート母材26に割れやひびが生じにくくなり、また、割れやひびが入った場合でも、それが大きく広がることがなく、しかも開口回り補強体10の外周面102の6面にそれぞれコッター103が設けられているので、開口回り補強体1とコンクリート母材26との接合性もまたよく、開口20の回りは高い強度を得て補強される。このようにして開口回り補強体10は引張力が作用しても脆性的に壊れることがなく、開口20部分の圧縮荷重を負担する。そして、上下の各開口回りせん断補強筋11はこの引張力が作用しても脆性的に壊れない開口回り補強体10を介して一体化され、上側の各開口回りせん断補強筋11が上端主筋21に係合され、下側の各開口回りせん断補強筋11が下端主筋22に係合されたことで、開口回り補強部材1全体と上端主筋21との間、及び開口回り補強部材1全体と下端主筋22との間での引張力の伝達が図られ、鉄筋コンクリート梁2に作用する曲げモーメント及びせん断力に対して、この開口回り補強部材1が梁2の全成に亘って引張力を負担し、これら開口回り補強部材1、上端主筋21又は下端主筋22、せん断補強筋23、及びコンクリート母材26によりトラス機構を構成する。例えば、鉄筋コンクリート梁2の中間部に鉛直下向きの集中荷重が作用したときの曲げモーメントに対しては上端主筋21が引張力を負担し、下端側のコンクリート母材26が圧縮力を負担することにより抵抗する。また、せん断力に対しては、開口20の部分では、鉄筋コンクリート梁2のコンクリート母材26及び繊維入り補強モルタル又はコンクリート(開口回り補強体10)に形成される圧縮ストラットと、開口回りせん断補強部材11が負担する引張力と、上端主筋21又は下端主筋22の付着力によって構成されるトラス機構により抵抗する。これにより、開口20を有する鉄筋コンクリート梁2のせん断耐力は開口による耐力の低下が小さい。
【0020】
以上説明したように、この開口回り補強部材1を用いた開口回りの補強構造1Sでは、繊維入り補強モルタル又はコンクリートにより略リング状(又は略筒状)に形成された開口回り補強体10が梁の開口20を形成する位置に配置され、上下の各開口回りせん断補強筋11が上下の各主筋21、22に係合されて、コンクリート母材26に一体化され、簡易な構造でありながら、開口20は引張力が作用しても脆性的に壊れない繊維入り補強モルタル又はコンクリートを使用して形成されるので、開口20部分の圧縮力を伝達することができ、また、上下の各開口回りせん断補強筋11がこの引張力が作用しても脆性的に壊れない開口回り補強体10を介して一体化され、上側の各開口回りせん断補強筋11が上端主筋21に係合され、下側の各開口回りせん断補強筋11が下端主筋22に係合されるので、上下の各開口回りせん断補強筋11に作用する応力を高強度の開口回り補強体10を通して相互に伝達することができ、そして、これら開口回り補強部材1、上端主筋21又は下端主筋22、せん断補強筋23、及びコンクリート母材26によりトラス機構を構成するので、開口回り補強部材1とコンクリート母材26との間で応力の伝達を確実に行うことができ、開口20を有する鉄筋コンクリート梁2のせん断耐力において、開口による耐力の低下を小さくすることができる。また、この補強構造1Sでは、従来のように開口の回りに鉄筋が複雑な配置で配筋されることがないので、コンクリートの充填性がよく、また、鋼材の使用量を減らしてコストを削減することができる、という利点がある。さらに、この種の鉄筋コンクリート梁2は、開口20の位置と大きさが梁の全長と全成などによって制限があるが、この制限を超えざるを得ないような場合でも、この補強構造1Sによれば、開口による耐力の低下が小さいので、柔軟な対応が可能で、開口20の位置の自由度を向上させることができ、開口20の大きさを可及的に拡大することができる。
【0021】
また、この補強構造1Sの場合、開口回り補強体10が繊維入り補強モルタル又はコンクリートにより多角形の断面形状で、最適な強度を確保するために必要な肉厚に形成されるので、開口回り補強体10の剛性を高くして、変形しにくくすることができる。なお、開口を例えば鋼材で補強しようとすると、鋼材は外力に対して変形しやすく、また、変形を防止するために、鋼材の肉厚を大きくしようとすれば、コストは大きく増大せざるを得ないため、この点でも、開口回り補強体10が繊維入り補強モルタル又はコンクリートで形成されることの利点は大きい。
【0022】
さらに、この補強構造1Sの場合、繊維入り補強モルタル又はコンクリートの開口回り補強体10がコンクリート母材26に一体化されるので、この両者間の付着性は極めてよく、この両者間や開口回り補強体10周辺のコンクリート母材26に割れやひびが生じにくく、また、割れやひびが入った場合でも、それが大きく広がることがない。しかもこの開口回り補強体10の外周面102の6面にそれぞれコッター103が設けられているので、開口回り補強体10とコンクリート母材26との接合性もまたよく、開口20回りを十分な強度で補強することができる。なお、開口を例えば鋼材で補強しようとすると、鋼材とコンクリートでは、繊維入り補強モルタル又はコンクリートとコンクリートに比べて、付着性の点で劣り、鋼材とコンクリートとの間が割れたり鋼材周辺のコンクリートにひびが入ったりしやすく、また、このひびから空気や水が入ったりすると、鋼材に錆びが発生するなど劣化が始まり、耐久性が損なわれることになって、この点でも、開口回り補強体10が繊維入り補強モルタル又はコンクリートで形成されることの利点は大きい。
【0023】
またさらに、この補強構造1Sの場合、開口回りせん断補強筋11は突出端に各主筋21、22に係止可能に略J字形のフック110が設けられているので、上下の各主筋21、22に簡易かつ確実に係合させることができる。
【0024】
また、この開口回り補強部材1を用いた開口回りの補強方法1Hでは、予め工場生産により製作した開口回り補強部材1を梁の開口20を形成する位置に配置し、上下の各開口回りせん断補強筋11をフック110により上下の各主筋21、22に係合させて、コンクリート母材26に一体化するので、開口20回りの配筋作業が容易で、コンクリートの充填性がよいなど、簡易な施工で、鉄筋コンクリート梁2に開口20を容易に形成でき、当該開口20の回りを既述のとおりの作用効果により確実に補強することができる。
【0025】
なお、この実施の形態では、開口回りせん断補強筋11の突出端に主筋21、22に係止可能に略J字形のフック110を設けたが、図7に示すように、略U字形若しくは略コ字形のフック110を設けてもよい。この場合、図8に示すように、このフック110に主筋21、22を通す必要があるため、略J字形のフックに比べて施工性の点で劣後するが、このようにしても開口回りせん断補強筋11を主筋21、22に確実に係合させることができ、上記と同様の作用効果を奏することができる。また、この実施の形態では、開口回り補強体(の外形)を六角形の断面形状に形成したが、例えば正方形や五角形など他の多角形の断面形状に形成してもよい。さらに、図9に示すように、この開口回り補強体10(の外形)を、円形の断面形状に形成してもよく、この場合においても、上記と同様に、開口回りせん断補強筋11の突出端に略J字形又は略U字形若しくは略コ字形のフック110を備えることで、図10に示すように、上下の各主筋21、22に係合させて、コンクリート母材に一体化することができる。このようにしても上記と同様の作用効果を奏することができる。またさらに、この実施の形態では、開口回り補強体10の外周面102にコッター103を溝状に形成したが、これとは反対に突状にしてもよく、このようにしても上記と同様の作用効果を奏することができる。また、コッター103はなくてもよく、この場合、コッター103を備えたものに比べて、開口回り補強体10とコンクリート母材26との接合性は若干劣後することになる。
【符号の説明】
【0026】
1 開口回り補強部材
10 開口回り補強体
101 開口部
102 外周面
103 コッター
11 開口回りせん断補強筋
110 フック
111 鉄筋
1S 開口回りの補強構造
1H 開口回りの補強方法
2 鉄筋コンクリート梁
20 開口
21 上端主筋
22 下端主筋
23 せん断補強筋
24 上部幅止め筋
25 下部幅止め筋
26 コンクリート母材
【技術分野】
【0001】
本発明は、開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強部材、並びにこれを用いた補強構造及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄筋コンクリート造の梁は、コンクリートのアーチ機構と、主筋及びせん断補強筋による配筋と、コンクリート母材とにより形成されるトラス機構によって、せん断力に対抗する耐力が付与されている。この梁に開口(孔)を設けると、この開口でトラス機構は途切れ、開口の周辺に局所的な応力が作用して、梁の強度は低下する。そこで、従来は、鉄筋コンクリート造の建物を構築する際に、梁に設備配管などを設置するため開口を形成する場合、図11に示すように、略Z形をなす複数の斜め筋3を開口30を囲むように斜め45°の方向に配置したり、図12に示すように、複数の鉄筋を網状に組み立てた補強金物4を開口40の回りに配置したりして、開口回りを補強している。この種の開口回りの補強構造は特許文献1などに記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−1833114公報(段落0002及び図17、図18)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の、図11の斜め筋を用いた開口回りの補強構造では、斜め筋3を開口30の回りに配置したにすぎず、応力伝達機構が考慮されていないため、構造上明確でなく、効率が悪い、という問題がある。この場合、図13に示すように、主筋31、32と斜め筋3との間で十分な引張力の伝達が行われることはなく、開口回りの位置でせん断補強筋の力は途切れ、空白の部分が生じることになる。また、上記従来の、図12の網状の補強金物を用いた開口回りの補強構造では、補強金物4をせん断補強筋と見なすことができるものの、この場合もまた、応力伝達機構が考慮された構造になっていないため、効率が悪く、さらに、開口40の周辺の配筋量が多いために、配筋作業、コンクリートの充填作業が複雑で、施工が難しい、という問題がある。さらに、これら斜め筋3や補強金物4を開口回りに配置する構造では、開口のない梁に比べて、梁の耐力の差が大きく、梁に大開口を設ける必要がある場合に対応が難しい、という問題がある。
【0005】
本発明は、このような従来の問題を解決するものであり、開口を有する鉄筋コンクリート梁において、当該開口回りを応力伝達機構を考慮して効率よく補強することができ、しかも施工を簡易に行い得る、開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強部材、並びにこれを用いた補強構造及び方法を提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、コンクリート母材に主筋とせん断補強筋とを配筋された鉄筋コンクリート梁に幅方向に貫通して形成された開口の回りを補強する、開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強部材であって、繊維入り補強モルタル又はコンクリートにより形成され、前記梁の開口をなす開口部を有する略リング状又は略筒状の開口回り補強体と、前記開口回り補強体の周面に一端を埋め込み固定され当該周面から突出されて、前記主筋に交差状に係合可能な開口回りせん断補強筋とを備えた、ことを要旨とする。この場合、開口回り補強体は多角形又は円形の断面形状を有することが好ましい。開口回り補強体の外周面にコッターを備えることが好ましい。開口回りせん断補強筋は突出端に主筋に係止可能に略J字形又は略U字形若しくは略コ字形のフックを備えることが好ましい。
【0007】
また、上記目的を達成するために、本発明は、コンクリート母材に主筋とせん断補強筋とを配筋された鉄筋コンクリート梁に幅方向に貫通して形成された開口の回りを補強する、開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強構造であって、上記開口回り補強部材を備え、前記開口回り補強体が前記梁の開口を形成する位置に配置され、前記開口回りせん断補強筋が前記主筋に係合されて、前記コンクリート母材に一体化される、ことを要旨とする。
【0008】
さらに、上記目的を達成するために、本発明は、コンクリート母材に主筋とせん断補強筋とを配筋された鉄筋コンクリート梁に幅方向に貫通して形成された開口の回りを補強する、開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強方法であって、上記開口回り補強部材を用い、前記開口回り補強体を前記梁の開口を形成する位置に配置し、前記開口回りせん断補強筋を前記主筋に係合して、前記コンクリート母材に一体化する、ことを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の開口回り補強部材、並びにこれを用いた補強構造及び方法によれば、繊維入り補強モルタル又はコンクリートにより略リング状又は略筒状に形成された開口回り補強体を梁の開口を形成する位置に配置し、(上下の)開口回りせん断補強筋を上下の各主筋に係合させて、コンクリート母材に一体化し、梁の開口を引張力が作用しても脆性的に壊れない繊維入り補強モルタル又はコンクリートを使用して形成するので、トラス機構によるコンクリートの圧縮力を伝達することができ、また、(上下の)開口回りせん断補強筋をこの引張力が作用しても脆性的に壊れない開口回り補強体を介して一体化し、この(上下の)開口回りせん断補強筋を上下の各主筋に係合するので、この(上下の)開口回りせん断補強筋に作用する応力を高強度の開口回り補強体を通して相互に伝達することができ、そして、これら開口回り補強部材、(上下の)主筋、せん断補強筋、及びコンクリートによりトラス機構を構成するので、開口回り補強部材とコンクリートとの間で応力の伝達を確実に行え、開口を有する鉄筋コンクリート梁のせん断耐力を著しく向上させることができるなど、開口を有する鉄筋コンクリート梁において、当該開口回りを応力伝達機構を考慮して効率よく補強することができる、という格別な効果を奏する。また、この補強構造及び方法では、従来のように開口の回りに複数の鉄筋を複雑な配置により配筋することがないので、開口回りの配筋作業が容易で、コンクリートの充填性がよいなど、施工を簡易に行うことができる、という顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施の形態における開口回り補強部材の構成を示す斜視図
【図2】(a)同開口回り補強部材を用いた開口回りの補強構造を示す正面断面図(b)同側面断面図
【図3】同開口回り補強部材を用いた開口回りの補強方法を示す斜視図
【図4】同開口回り補強部材を用いた開口回りの補強方法の具体的施工手順を示す図
【図5】同開口回り補強部材を用いた開口回りの補強方法の他の具体的な施工手順を示す図
【図6】同開口回り補強部材を用いた開口回りの補強性能を示す図
【図7】開口回り補強部材の変更例を示す斜視図
【図8】同開口回り補強部材を用いた開口回りの補強構造及び方法を示す斜視図
【図9】開口回り補強部材のまた別の変更例を示す斜視図
【図10】同開口回り補強部材を用いた開口回りの補強構造及び方法を示す斜視図
【図11】従来の開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回りの補強構造の一例を示す正面断面図
【図12】(a)従来の開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回りの補強構造の別の例を示す正面断面図(b)同側面断面図
【図13】図11に示す従来の開口回りの補強構造における補強性能を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、この発明を実施するための形態について図を用いて説明する。図1に鉄筋コンクリート梁に幅方向に貫通して形成される開口の回りを補強するのに使用する開口回り補強部材を示している。図1に示すように、開口回り補強部材1は開口回り補強体10と複数の開口回りせん断補強筋11とを備えて構成される。
【0012】
開口回り補強体10は繊維入り補強モルタル又はコンクリート(この記載は「繊維入り補強モルタル又は繊維入り補強コンクリート」を意味するもので、他の箇所においても同様である。)により、鉄筋コンクリート梁の開口をなす開口部101を有する断面多角形の略リング状(又は筒状)に形成される。この場合、繊維入り補強モルタル又はコンクリートに(超)高強度繊維補強モルタル又はコンクリートが採用され、開口回り補強体10は断面六角形の外形を有する略リング状(又は略筒状)に、所定の強度を保有するために必要な(比較的大きな)肉厚にして形成され、開口部101は所定の形状、ここでは所定の内径を有する円形に形成される。また、この開口回り補強体10には外周面102にコッター103を備え、この場合、外周面102の6面の略中央にそれぞれ、長方形の溝が形成される。なお、この開口回り補強体1の場合、外周面の6つの頂部のうち相互に対向する(任意の)2つの頂部を上下に向けた状態、又は外周面の6つの面のうち相互に対向する(任意の)2つの面を上下に向けた状態で使用するが、ここでは、前者の状態を使用時の態様とする。
【0013】
複数の開口回りせん断補強筋11はそれぞれ、先端にフック110を有する2本一対の鉄筋111からなり、各一対の鉄筋111が一端側を開口回り補強体10の外周面102の上部及び下部に所定のピッチで、(一方の開口101面を正面とした場合)上下対称にかつ上下各部で左右対称に埋め込み固定されて、当該外周面102の上部及び下部から上下対称にかつ上下各部で左右対称の配列で上下に向けて(上下の各主筋21、22に係合可能に)突出される。この場合、各開口回りせん断補強筋11は1本の鉄筋が略U字形(又は略コ字形)に折り曲げ加工されて全体が略U字形(又は略コ字形)に形成され、さらにその両端が(上下の各主筋21、22に係止可能に)内側に向けて略J字形に折り曲げられて両端にフック110が形成される。なお、これらの開口回りせん断補強筋11はそれぞれ、開口回り補強体10の外周面102の上下に向けられる斜めの各2面102U、102Dに固定され、上下方向の同じ所定の(高さ)位置(すなわち、梁の上下に配筋される主筋21、22に係合可能な位置)まで延ばされるため、各開口回りせん断補強筋11の長さは開口回り補強体10における固定位置によって異なり、開口回り補強体10の上下の頂部に近い位置に固定される開口回りせん断補強筋11は短く、当該頂部から離れた位置に固定される開口回りせん断補強筋11は長くなる。そして、これら開口回りせん断補強筋11はそれぞれ、各フック110とは反対側の略U字形の中間部分が開口回り補強体10の上下の各2面102U、102Dにそれぞれ所定のピッチで上下対称にかつ上下各部(左右2面102U、102D)で左右対称に埋め込み固定されて、先端にフック110を有する2本の鉄筋111が上下に向けて既述の所定の位置まで突出される。
【0014】
図2にこの開口回り補強部材1を用いた(開口を有する鉄筋コンクリート梁における)開口回りの補強構造1Sを示している。図2に示すように、この開口回りの補強構造1Sは、鉄筋コンクリート梁2の開口20が開口回り補強部材1の開口回り補強体10により形成され、この開口20の周辺がこの開口回り補強部材1の開口回り補強体10と複数の開口回りせん断補強筋11とにより補強される。
【0015】
この種の鉄筋コンクリート梁2は、梁が延設される水平方向に複数本の上端主筋21及び下端主筋22が配筋され、これら主筋21、22の長手方向に沿って所定のピッチでこれらの主筋21、22を交差状に取り囲むようにして複数のせん断補強筋23が配筋されて、これら主筋21、22及びせん断補強筋23がコンクリート母材26に埋設される構造になっており、開口20は梁の長手方向所定の位置に幅方向に向けて貫通して形成される。この開口回りの補強構造1Sでは、梁の開口20を形成する所定の位置に開口回り補強体10が配置され、上下の各開口回りせん断補強筋11が上下のフック110を介して上下の各主筋21、22に係合(係止)されて、これらの主筋21、22及びこの開口20の両側に配筋されるせん断補強筋23とともにコンクリート母材26に一体化される。
【0016】
図3にこの開口回り補強部材1を用いた(開口を有する鉄筋コンクリート梁における)開口回りの補強方法1Hを示している。図3に示すように、この補強方法1Hは、開口回り補強部材1を予め工場生産しておき、施工現場で当該開口回り補強体10を鉄筋コンクリート梁の開口20を形成する所定の位置に配置し、上下の各開口回りせん断補強筋11を上下のフック110を介して上下の各主筋21、22に係合(係止)して、これらの主筋21、22及びこの開口20の両側に配筋するせん断補強筋23とともにコンクリート母材に一体化する。
【0017】
この施工手順の具体例を図4に示している。まず、図4(1)に示すように、梁が延設される水平方向に複数本の下端主筋22を配筋する。次に、図4(2)に示すように、開口回り補強部材1を取り付ける。この場合、開口回り補強部材1を梁の開口20を形成する所定の位置に嵌め込み、下側の各開口回りせん断補強筋11を下端のフック110を介して外側の各下端主筋22に係合(係止)する。次いで、図4(3)に示すように、梁が延設される水平方向に複数本の上端主筋21を配筋し、開口回り補強部材1の上側の各開口回りせん断補強筋11を上端のフック110を介して外側の各上端主筋21に係合(係止)する。続いて、下端主筋22に下部幅止め筋25を取り付ける。さらに、図4(4)に示すように、上端主筋21に上部幅止め筋24を取り付ける。そして、この開口20の両側に複数本のせん断補強筋23を配筋した後、これら開口回り補強部材1及び各種の鉄筋の周囲に型枠を組み立て形成し、この型枠内にコンクリートを打設する。
【0018】
また、この補強方法は図5に示すような施工手順としてもよい。まず、図5(1)に示すように、梁が延設される水平方向に複数本の下端主筋22を配筋する。次に、図5(2)に示すように、下端主筋22に下部幅止め筋25を取り付ける。続いて、図5(3)に示すように、梁が延設される水平方向に複数本の上端主筋21を配筋する。次いで、図5(4)に示すように、開口回り補強部材1を取り付ける。この場合、開口回り補強部材1を梁の開口20を形成する所定の位置に嵌め込み、上側の各開口回りせん断補強筋11を上端のフック110を介して外側の各上端主筋21に係合(係止)し、下側の各開口回りせん断補強筋11をそれぞれ下部幅止め筋25に重ね合わせて配置する。続いて、図5(5)に示すように、上端主筋21に上部幅止め筋24を取り付ける。そして、この開口20の両側に複数本のせん断補強筋23を配筋した後、これら開口回り補強部材1及び各種の鉄筋の周囲に型枠を組み立て形成し、この型枠内にコンクリートを打設する。
【0019】
図6にかかる開口回りの補強性能を示している。図6に示すように、開口回り補強体10が梁の開口20を形成する位置に配置され、上下の各開口回りせん断補強筋11が上下の各主筋21、22に係合されて、コンクリート母材26に一体化されたことで、繊維入り補強モルタル又はコンクリートそれ自体が高い強度を有し、この繊維入り補強モルタル又はコンクリートの開口回り補強体10が鉄筋コンクリート梁2のコンクリート母材26内に埋入されるので、開口回り補強体10(繊維入り補強モルタル又はコンクリート)とコンクリート母材26との付着性が極めてよく、この両者間や開口回り補強体10周辺のコンクリート母材26に割れやひびが生じにくくなり、また、割れやひびが入った場合でも、それが大きく広がることがなく、しかも開口回り補強体10の外周面102の6面にそれぞれコッター103が設けられているので、開口回り補強体1とコンクリート母材26との接合性もまたよく、開口20の回りは高い強度を得て補強される。このようにして開口回り補強体10は引張力が作用しても脆性的に壊れることがなく、開口20部分の圧縮荷重を負担する。そして、上下の各開口回りせん断補強筋11はこの引張力が作用しても脆性的に壊れない開口回り補強体10を介して一体化され、上側の各開口回りせん断補強筋11が上端主筋21に係合され、下側の各開口回りせん断補強筋11が下端主筋22に係合されたことで、開口回り補強部材1全体と上端主筋21との間、及び開口回り補強部材1全体と下端主筋22との間での引張力の伝達が図られ、鉄筋コンクリート梁2に作用する曲げモーメント及びせん断力に対して、この開口回り補強部材1が梁2の全成に亘って引張力を負担し、これら開口回り補強部材1、上端主筋21又は下端主筋22、せん断補強筋23、及びコンクリート母材26によりトラス機構を構成する。例えば、鉄筋コンクリート梁2の中間部に鉛直下向きの集中荷重が作用したときの曲げモーメントに対しては上端主筋21が引張力を負担し、下端側のコンクリート母材26が圧縮力を負担することにより抵抗する。また、せん断力に対しては、開口20の部分では、鉄筋コンクリート梁2のコンクリート母材26及び繊維入り補強モルタル又はコンクリート(開口回り補強体10)に形成される圧縮ストラットと、開口回りせん断補強部材11が負担する引張力と、上端主筋21又は下端主筋22の付着力によって構成されるトラス機構により抵抗する。これにより、開口20を有する鉄筋コンクリート梁2のせん断耐力は開口による耐力の低下が小さい。
【0020】
以上説明したように、この開口回り補強部材1を用いた開口回りの補強構造1Sでは、繊維入り補強モルタル又はコンクリートにより略リング状(又は略筒状)に形成された開口回り補強体10が梁の開口20を形成する位置に配置され、上下の各開口回りせん断補強筋11が上下の各主筋21、22に係合されて、コンクリート母材26に一体化され、簡易な構造でありながら、開口20は引張力が作用しても脆性的に壊れない繊維入り補強モルタル又はコンクリートを使用して形成されるので、開口20部分の圧縮力を伝達することができ、また、上下の各開口回りせん断補強筋11がこの引張力が作用しても脆性的に壊れない開口回り補強体10を介して一体化され、上側の各開口回りせん断補強筋11が上端主筋21に係合され、下側の各開口回りせん断補強筋11が下端主筋22に係合されるので、上下の各開口回りせん断補強筋11に作用する応力を高強度の開口回り補強体10を通して相互に伝達することができ、そして、これら開口回り補強部材1、上端主筋21又は下端主筋22、せん断補強筋23、及びコンクリート母材26によりトラス機構を構成するので、開口回り補強部材1とコンクリート母材26との間で応力の伝達を確実に行うことができ、開口20を有する鉄筋コンクリート梁2のせん断耐力において、開口による耐力の低下を小さくすることができる。また、この補強構造1Sでは、従来のように開口の回りに鉄筋が複雑な配置で配筋されることがないので、コンクリートの充填性がよく、また、鋼材の使用量を減らしてコストを削減することができる、という利点がある。さらに、この種の鉄筋コンクリート梁2は、開口20の位置と大きさが梁の全長と全成などによって制限があるが、この制限を超えざるを得ないような場合でも、この補強構造1Sによれば、開口による耐力の低下が小さいので、柔軟な対応が可能で、開口20の位置の自由度を向上させることができ、開口20の大きさを可及的に拡大することができる。
【0021】
また、この補強構造1Sの場合、開口回り補強体10が繊維入り補強モルタル又はコンクリートにより多角形の断面形状で、最適な強度を確保するために必要な肉厚に形成されるので、開口回り補強体10の剛性を高くして、変形しにくくすることができる。なお、開口を例えば鋼材で補強しようとすると、鋼材は外力に対して変形しやすく、また、変形を防止するために、鋼材の肉厚を大きくしようとすれば、コストは大きく増大せざるを得ないため、この点でも、開口回り補強体10が繊維入り補強モルタル又はコンクリートで形成されることの利点は大きい。
【0022】
さらに、この補強構造1Sの場合、繊維入り補強モルタル又はコンクリートの開口回り補強体10がコンクリート母材26に一体化されるので、この両者間の付着性は極めてよく、この両者間や開口回り補強体10周辺のコンクリート母材26に割れやひびが生じにくく、また、割れやひびが入った場合でも、それが大きく広がることがない。しかもこの開口回り補強体10の外周面102の6面にそれぞれコッター103が設けられているので、開口回り補強体10とコンクリート母材26との接合性もまたよく、開口20回りを十分な強度で補強することができる。なお、開口を例えば鋼材で補強しようとすると、鋼材とコンクリートでは、繊維入り補強モルタル又はコンクリートとコンクリートに比べて、付着性の点で劣り、鋼材とコンクリートとの間が割れたり鋼材周辺のコンクリートにひびが入ったりしやすく、また、このひびから空気や水が入ったりすると、鋼材に錆びが発生するなど劣化が始まり、耐久性が損なわれることになって、この点でも、開口回り補強体10が繊維入り補強モルタル又はコンクリートで形成されることの利点は大きい。
【0023】
またさらに、この補強構造1Sの場合、開口回りせん断補強筋11は突出端に各主筋21、22に係止可能に略J字形のフック110が設けられているので、上下の各主筋21、22に簡易かつ確実に係合させることができる。
【0024】
また、この開口回り補強部材1を用いた開口回りの補強方法1Hでは、予め工場生産により製作した開口回り補強部材1を梁の開口20を形成する位置に配置し、上下の各開口回りせん断補強筋11をフック110により上下の各主筋21、22に係合させて、コンクリート母材26に一体化するので、開口20回りの配筋作業が容易で、コンクリートの充填性がよいなど、簡易な施工で、鉄筋コンクリート梁2に開口20を容易に形成でき、当該開口20の回りを既述のとおりの作用効果により確実に補強することができる。
【0025】
なお、この実施の形態では、開口回りせん断補強筋11の突出端に主筋21、22に係止可能に略J字形のフック110を設けたが、図7に示すように、略U字形若しくは略コ字形のフック110を設けてもよい。この場合、図8に示すように、このフック110に主筋21、22を通す必要があるため、略J字形のフックに比べて施工性の点で劣後するが、このようにしても開口回りせん断補強筋11を主筋21、22に確実に係合させることができ、上記と同様の作用効果を奏することができる。また、この実施の形態では、開口回り補強体(の外形)を六角形の断面形状に形成したが、例えば正方形や五角形など他の多角形の断面形状に形成してもよい。さらに、図9に示すように、この開口回り補強体10(の外形)を、円形の断面形状に形成してもよく、この場合においても、上記と同様に、開口回りせん断補強筋11の突出端に略J字形又は略U字形若しくは略コ字形のフック110を備えることで、図10に示すように、上下の各主筋21、22に係合させて、コンクリート母材に一体化することができる。このようにしても上記と同様の作用効果を奏することができる。またさらに、この実施の形態では、開口回り補強体10の外周面102にコッター103を溝状に形成したが、これとは反対に突状にしてもよく、このようにしても上記と同様の作用効果を奏することができる。また、コッター103はなくてもよく、この場合、コッター103を備えたものに比べて、開口回り補強体10とコンクリート母材26との接合性は若干劣後することになる。
【符号の説明】
【0026】
1 開口回り補強部材
10 開口回り補強体
101 開口部
102 外周面
103 コッター
11 開口回りせん断補強筋
110 フック
111 鉄筋
1S 開口回りの補強構造
1H 開口回りの補強方法
2 鉄筋コンクリート梁
20 開口
21 上端主筋
22 下端主筋
23 せん断補強筋
24 上部幅止め筋
25 下部幅止め筋
26 コンクリート母材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート母材に主筋とせん断補強筋とを配筋された鉄筋コンクリート梁に幅方向に貫通して形成された開口の回りを補強する、開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強部材であって、
繊維入り補強モルタル又はコンクリートにより形成され、前記梁の開口をなす開口部を有する略リング状又は略筒状の開口回り補強体と、
前記開口回り補強体の周面に一端を埋め込み固定され当該周面から突出されて、前記主筋に交差状に係合可能な開口回りせん断補強筋と、
を備えた、
ことを特徴とする開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強部材。
【請求項2】
開口回り補強体は多角形又は円形の断面形状を有する請求項1に記載の開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強部材。
【請求項3】
開口回り補強体の外周面にコッターを備える請求項1又は2に記載の開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強部材。
【請求項4】
開口回りせん断補強筋は突出端に主筋に係止可能に略J字形又は略U字形若しくは略コ字形のフックを備える請求項1乃至3のいずれかに記載の開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強部材。
【請求項5】
コンクリート母材に主筋とせん断補強筋とを配筋された鉄筋コンクリート梁に幅方向に貫通して形成された開口の回りを補強する、開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強構造であって、
請求項1乃至4のいずれかに記載の開口回り補強部材を備え、
前記開口回り補強体が前記梁の開口を形成する位置に配置され、前記開口回りせん断補強筋が前記主筋に係合されて、前記コンクリート母材に一体化される、
ことを特徴とする開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強構造。
【請求項6】
コンクリート母材に主筋とせん断補強筋とを配筋された鉄筋コンクリート梁に幅方向に貫通して形成された開口の回りを補強する、開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強方法であって、
請求項1乃至4のいずれかに記載の開口回り補強部材を用い、
前記開口回り補強体を前記梁の開口を形成する位置に配置し、前記開口回りせん断補強筋を前記主筋に係合して、前記コンクリート母材に一体化する、
ことを特徴とする開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強方法。
【請求項1】
コンクリート母材に主筋とせん断補強筋とを配筋された鉄筋コンクリート梁に幅方向に貫通して形成された開口の回りを補強する、開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強部材であって、
繊維入り補強モルタル又はコンクリートにより形成され、前記梁の開口をなす開口部を有する略リング状又は略筒状の開口回り補強体と、
前記開口回り補強体の周面に一端を埋め込み固定され当該周面から突出されて、前記主筋に交差状に係合可能な開口回りせん断補強筋と、
を備えた、
ことを特徴とする開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強部材。
【請求項2】
開口回り補強体は多角形又は円形の断面形状を有する請求項1に記載の開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強部材。
【請求項3】
開口回り補強体の外周面にコッターを備える請求項1又は2に記載の開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強部材。
【請求項4】
開口回りせん断補強筋は突出端に主筋に係止可能に略J字形又は略U字形若しくは略コ字形のフックを備える請求項1乃至3のいずれかに記載の開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強部材。
【請求項5】
コンクリート母材に主筋とせん断補強筋とを配筋された鉄筋コンクリート梁に幅方向に貫通して形成された開口の回りを補強する、開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強構造であって、
請求項1乃至4のいずれかに記載の開口回り補強部材を備え、
前記開口回り補強体が前記梁の開口を形成する位置に配置され、前記開口回りせん断補強筋が前記主筋に係合されて、前記コンクリート母材に一体化される、
ことを特徴とする開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強構造。
【請求項6】
コンクリート母材に主筋とせん断補強筋とを配筋された鉄筋コンクリート梁に幅方向に貫通して形成された開口の回りを補強する、開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強方法であって、
請求項1乃至4のいずれかに記載の開口回り補強部材を用い、
前記開口回り補強体を前記梁の開口を形成する位置に配置し、前記開口回りせん断補強筋を前記主筋に係合して、前記コンクリート母材に一体化する、
ことを特徴とする開口を有する鉄筋コンクリート梁における開口回り補強方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−17123(P2011−17123A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160435(P2009−160435)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(303057365)株式会社間組 (138)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(303057365)株式会社間組 (138)
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