説明

開口端付きグローブボックス

【課題】 アスベスト対策の現場では作業員の安全と周辺住民の安全を確保する有効な方法がなく、安全を確保するためには、負圧集じん機を取り付けた養生シートで作業空間を隔離することで周辺へのアスベスト粉塵飛散防止を、また、作業者は防護服、防護マスクの着用で自らの安全を守り、隔離空間からの出入りではセキュリティルームを通る方法しかなかった。膨大な作業時間と費用を準備作業に必要とした。
【解決手段】 本発明はアスベストに代表される有害な粉塵発生作業や有害な薬剤噴霧施工に際して開口端を持ったグローブボックスを対策表面に圧着することにより、作業者および周辺住民への有害物質暴露なしに養生空間を実現する。具体的には、開口端にグローブボックス本体を支え、クッション材を取り付けることにより対策面への密着性を高める枠構造を持ち、均等な圧力で対策面にグローブボックスを圧着するためのジャッキ、ターンバックル、バネあるいは梃子機構を持ったことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばグローブボックスに係り、特にアスベスト封じ込め工事またはアスベスト除去工事前のアスベスト湿潤化工程で使用するグローブボックスに関する。
【背景技術】
【0002】
できるだけ簡便な機材や養生方法によってアスベスト対策を行うことが施工現場の各所で要請されている。この要請に応える一法として、たとえば特許文献1および特許文献2に開示されるように、壁や天井が仕上げ材で覆ってある場合、仕上げ材に穿孔してノズル部分を挿入し薬剤を噴霧する方法が提案されている。また、特許文献3では壁や天井を構成する仕上げ材に穿孔するのではなく、あらたにアスベスト面から適当な距離を置いて養生シートによる壁を構成し、養生シートに穴を開けて薬剤を噴霧する方法が提案されている。さらに特許文献4では壁や天井の仕上げ材やあらたな養生シート壁面を構築する代わりに2重のダクト状カバー構造により、内側カバー内での薬剤の吹き付けと外部カバー部分での吸引により、薬剤およびアスベスト粉塵を吸引することを提案している。
【0003】
しかし、特許文献1および特許文献2の方法ではすでに仕上げ材に穿孔する段階で大量の粉塵を作業場内にまき散らす結果となり、アスベスト飛散防止の目的に逆行するものである。天井裏などに長い年月を経て降り積もったアスベストを含む粉塵は穿孔の一瞬で周囲に飛散してしまう。このような状況では作業者の安全と周辺住民の安全を確保するために作業室内を通常のアスベスト除去、封じ込めまたは囲い込みを行う際と同様、完全な養生を行い、また、作業者は防護服および防護マスクを装着、養生内への出入りのためにはセキュリティルームの設置が不可欠である。また、特許文献3の方法では壁や天井の仕上げ材に穿孔することはないため、積年のアスベストを含んだ粉塵を巻き上げることはないが、養生シートの壁を構築するためにはアスベストが露出する空間内での大工作業が必要となり、アスベスト粉塵飛散防止のための対処が必要になる。さらに特許文献4の方法では機材の押し付けによりアスベスト面は常に擦られる結果となり、内部カバーがアスベスト付着面全面を覆う大きさが無い限り、周囲へのアスベスト粉塵飛散を防ぐことは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−218069
【特許文献2】特開2008−202377
【特許文献3】特開2009−150129
【特許文献4】特開2009−114797
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、これまでのアスベスト除去、封じ込めまたは囲い込みの技術さらに特許文献1、2、3および4の方法では作業者および周辺住民の安全を確保するためには養生が欠かせないものであった。
【0006】
すなわち、従来技術は、肉厚シートを利用した厳重な密閉空間である養生を必要とし、さらにその養生内で作業者は自らの安全確保のための厳重な防護衣着用やセキュリティールームの設置なくして対策は困難なものであった。
【0007】
本発明はこうした従来技術上の問題点を解決することを企図したものであり、薬剤噴霧で必要な穿孔工具、薬剤噴霧用ノズル部、乾燥機送風口、排気装置排気口等を装着したグローブボックスを壁面または天井面に圧着することにより安全な作業環境を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するために、本願の請求項1に係るグローブボックスは、天井面あるいは壁面に加工をするための開口端を持ったことを特徴とする。これにより、作業者は一切アスベスト等の有害粉塵や薬剤に接触することなく、同時にグローブボックスの形成する隔離空間により、周辺への有害粉塵の飛散の無い対策を行うことができる。
【0009】
この場合、請求項2に示す本発明のように、前記グローブボックスの開口端部に対象面への密着性の確保と均等な圧着を目的としたクッション材を持たせた構造としてもよい。これにより、一連の作業中の有害粉塵飛散を防止し、また粉塵の飛散漏れを防止するための開口端部養生を不要とさせることができる。
【0010】
さらに、請求項3に示す本発明のように。前記クッション材を装着したグローブボックス全体を作業全体を通して確実に固定する目的でジャッキ、ターンバックル、バネあるいは梃子を持つような構造としてもよい。これにより、グローブボックス設置当初の固定によって安全な作業を行うことができる。
【0011】
また、請求項4に示す本発明のように、グローブボックス自体を通常のグローブボックスで見られるアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂あるいはガラスなどの硬質透明材料で構成することなしに、透明性は確保しながら柔軟性の高い塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂など、さらにはそれらの強度を高める目的で繊維を内蔵したシートで構成してもよい。これにより、グローブボックス全体の重量は小さくなり、取り扱いを容易にし、作業全体を効率の高いものとすることが可能となる。
【0012】
また、請求項5に示す本発明のように、通常1平面内に左右のグローブを装着するグローブボックスではなく、隣接する2面あるいは対抗する2面に左右のグローブを装着することにより天井ボードの穿孔などの作業の作業性を高める構造としてもよい。これにより、グローブを使用する作業における手の可動範囲を広げることが可能になる。
【0013】
請求項2のクッション材は圧着対象面凹凸やアルミフレームなどの厚みなどを吸収するだけの厚みと密着性を約束する素材であれば種々の材料を用いることができるが、ウレタンなどの発泡材料の場合には前記密着性のほか、有害粉塵等を抱え込まないよう表面の平滑性を持った材料を使用することが望ましい。
【0014】
また、クッション材のグローブボックスへの装着はグローブボックスの開口端面すなわちグローブボックス構成材料の切断面にまたがる構造でも可能であるが、グローブボックス全体を圧着対象面に押し付けることを考慮して、フランジ様の枠構造を持たせ、その枠の幅全体にクッション材を貼ることが圧着時の安定を得やすい。
【0015】
請求項3の「ジャッキ、ターンバックル、バネあるいは梃子構造」とは特に天井面を対象とする場合には、ジャッキあるいはターンバックルなどを用い、グローブボックス開口端面あるいはクッション材と圧着面の接触状況を確認しながら徐々にグローブボックスを持ちあげ、開口端面が全面、密着したところでジャッキあるいはターンバックルによる押し上げを止め、固定する。
【0016】
請求項3の「ジャッキ、ターンバックル、バネあるいは梃子構造」のうち、バネあるいは梃子構造は特に壁などの垂直な対象面に対して用い、グローブボックスを支える台座を作業面近傍に設置、固定したのち、台座あるいは台座支柱からバネあるいは適正重量の錘でバランスした梃子構造により、グローブボックスを壁面に押し付けることで安定した圧着を行うものである。
【0017】
請求項4の「各面を厚手のビニールシートや繊維内蔵シートなど透明性は確保しながら、柔軟かつ丈夫な材料の接着または溶着で構成」するとは、通常硬質透明材料で構成されるグローブボックスの構成材をビニールシートや繊維内蔵シートで構成するもので、有害粉塵の発生部位を確実に隔離することのほか、グローブボックス本来の目的であるグローブボックス内での作業の自由度を高めることを可能にする。グローブボックス内部に先に準備しておく、工具類などでシートを損傷することのないよう、強靭な材料を選定するが、さらに安全のためには、グローブボックス内に工具を保管する袋を入れておき、さらにその袋を開口端部の枠に固定しておくことで、グローブボックス下部への負荷のないようにすることも可能である。
【発明の効果】
【0018】
こうした構成を備える本発明のグローブボックスを用いることにより、アスベストに代表されるような有害粉塵との接触可能性の高い現場での工事や使用する薬剤自体の有害性の高い場合のコーティング工事などが簡単な準備作業で安全に実施することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係るグローブボックスの全体を示す構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るグローブボックスにおいて、ターンバックル機構を下部に取り付けたものを示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。なお、以下では、本発明の目的を達成するための説明に必要な範囲を模式的に示し、本発明の該当部分の説明に必要な範囲を主に説明することとし、説明を省略する箇所については公知技術によるものとする。
【0021】
本発明は基本的な構造として、図1に示すように、直方体を透明硬質材料で形成し、その一面のみを開放して構成される。図1ではグローブボックス開口端の強度を持たせ、密着性を向上させるためにフランジ構造を付与し、さらにクッション材を装着したものを示した。
【0022】
しばしばアスベスト封じ込め工事などでは天井ボードのメンテナンス口を利用して作業することになるが、その場合にはグローブボックス開口端がメンテナンス口全体を覆うように配置するため、開口端の一辺は60cm程度になるが、メンテナンス口を覆うことができれば、開口端大きさに特別に数値的な限定はない。
【0023】
また、天井ボードの適当な位置にメンテナンス口が無い場合にはあらためてボードを切断して、作業口を開けることになるが、その作業を容易するようグローブはグローブボックスの開口端に近いところに構成する。
【0024】
また、図1にはフランジ部を持った構成を記載したが、圧着対象面が平滑であり、養生テープやマスキングテープなどによる接着が可能な場合には、必ずしもフランジ部を持たないグローブボックスでも隙間部分を養生テープ等で密封することで有害粉塵や有害薬剤の隔離は可能である。
【0025】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を加えて実施することが可能である。
【0026】
また、上述した実施例は、本発明に係る技術思想を具現化するための実施形態の一例を示したにすぎないものであり、他の実施形態でも本発明に係る技術思想を適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の開口端付きグローブボックスを用いることにより、アスベストをはじめとする有害粉塵に暴露する可能性のある封じ込め等の作業あるいは使用する薬剤自体が有害な抗菌剤噴霧施工などで簡単な設置により、作業者あるいは周辺住民と完全に隔離した空間を作り出すことにより、各種薬剤噴霧にも幅広い可能性を提供するものである。
【0028】
本発明の開口端付きグローブボックスはアレルギー症の家人を抱える住宅で天井裏に蓄積した埃粉塵対策の目的で埃粉塵と接触して固まるでんぷんのり等の噴霧施工にも可能性を提供するものである。アレルギーの原因物質を埃とともに固定化することで対策は可能だと考えられているが、埃除去作業などで発塵させたのでは本末転倒である。
【0029】
本発明が天井裏や壁面に隠れたアスベストの封じ込め対策に適当な対策工法を提供することは先に説明したが、アスベストの除去工事にあっても、浸透性の高い湿潤剤を除去工事前にできるだけ噴霧施工することで、先に湿潤化を完了し、その後、ボード等をはがす作業に移行することでほとんど発塵のない作業ができる可能性を提供する。
【符号の説明】
【0030】
1 開口端
2 クッション材
3 ターンバックル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井ボード、壁面パネルおよび既アスベスト囲い込み工事によって構成されたボード面に圧着させ、その内部でボードに開口部を開け、アスベスト対策薬剤を噴霧して対策を行うことを可能にした圧着開口端付きグローブボックス。
【請求項2】
前記グローブボックスの開口端面にクッション材を取り付け、作業性および密封性を高めたことを特徴とする請求項1記載のグローブボックス。
【請求項3】
圧着対象面に均等な圧力を掛けながら開口端面を圧着するため、ジャッキ、ターンバックル、バネあるいは梃子機構を装備したことを特徴とする請求項1乃至2のうち1項記載のグローブボックス。
【請求項4】
グローブボックスの各面を厚手のビニールシートや繊維内蔵シートなど透明性は確保しながら、柔軟かつ丈夫な材料の接着または溶着で構成したことを特徴とするグルーブボックス。
【請求項5】
左右のグローブを2面に別々に取り付けたことにより、グローブボックス内での作業性を高めたことを特徴とする請求項1乃至4のうち1項記載のグローブボックス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−137349(P2011−137349A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−299580(P2009−299580)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(391039461)
【出願人】(509154615)
【Fターム(参考)】