説明

開環重合性の酸モノマーに基づく歯科材料

【課題】自己接着特性と低い重合収縮との両方を、良好な機械的特性および高い反応性と共に有する、歯科材料を提供すること。
【解決手段】一般式(I)


による少なくとも1種のラジカル重合性モノマーを含有する歯科材料であって、一般式(I)において、PG、X、X、Y、R、R、R、n、m、HG、R14、R15は、それぞれ本明細書中で定義される通りである歯科材料を提供する。式(I)および本明細書中に示される他の式は、全ての構造の形態および立体異性体の形態、ならびに異なる構造の形態および立体異性体の形態(例えば、ラセミ化合物)を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開環重合性の酸モノマーに基づく歯科材料に関する。これらの歯科材料は、複合材料、セメント、接着剤またはコーティングを調製するために、特に適切である。
【背景技術】
【0002】
線状モノマーと比較して、ラジカル重合性環式モノマーは、明らかに小さい重合収縮により特徴付けられる(非特許文献1を参照のこと)。歯科材料の場合、重合による収縮は、とりわけ、望ましくない収縮応力および縁部空隙の形成(充填複合材料の場合)、減少した置換物接着(固定複合材料およびコーティング材料の場合)、ならびにプロテーゼプラスチックの寸法安定性の損ないをもたらし得る。従って、収縮が低いモノマーは、歯科分野において、大きな関心をかき立てている(非特許文献2を参照のこと)。
【0003】
歯科用充填複合材料の、歯の硬い物質への接着を改善する目的で、これらの複合材料は、エナメル質−ぞうげ質接着促進剤と組み合わせて使用される。いわゆる「自己エッチング」エナメル質−ぞうげ質接着剤が、次第に使用されるようになっており、この接着剤を用いる場合、歯の硬い物質の、リン酸での前処理(慣用的に、酸エッチング技術を用いる)が、省略され得る(非特許文献3)。このような接着剤は、接着モノマーに基づく。これらのモノマーは、ラジカル重合性基に加えて、通常、強い酸性の接着基である(メタ)アクリレート基(例えば、リン酸基またはリン酸二水素基)を含む。最近、自己接着特性を示し、従って固定用セメントとして特に適切な複合材料もまた、これらのモノマーに基づいて調製されている。これらのモノマーの欠点は、これらのモノマーが、他のモノマーと適合性ではないことである。例えば、公知のラジカル開環性環式モノマー(例えば、スピロオルトエステル、スピロオルトカーボネートまたは環状ケテンアセタール)は、強酸の存在下では貯蔵安定ではなく、従って、強酸と一緒に使用され得ない。同様に、室温で貯蔵安定である均質混合物は、代表的なカチオン性開環性環式モノマー(例えば、グリシジルエーテル、脂環式エポキシドもしくはオキセタン、または他の環状エーテル)に基づいて、上記強酸モノマーと組み合わせて、調製され得ない。
【非特許文献1】R.K.Sadhir,R.M.Luck,「Expanding Monomers」,CRC Press,1992年、Boca Raton etc.
【非特許文献2】N.Moszner,U.Salz,Progress Polymer Sci.26、2001年、p.535−576
【非特許文献3】N.Moszner,U.Salz,J.Zimmermann,Dental Mater.21、2005年、p.895−910
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、自己接着特性と低い重合収縮との両方を、良好な機械的特性および高い反応性と共に有する、歯科材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、以下を提供する:
(項目1)
一般式(I):
【0006】
【化1】

による少なくとも1種のラジカル重合性モノマーを含有する歯科材料であって、一般式(I)において:
PGは、環式の開環重合性基であり;
は、存在しないか、またはO、S、エステル基、アミド基もしくはウレタン基であり;
は、存在しないか、またはO、S、エステル基、アミド基もしくはウレタン基であり;
Yは、存在しないか、またはO、S、エステル基、アミド基もしくはウレタン基であり;
Rは、(n+m)の価数を有し、1個〜35個の炭素原子および0〜8個のヘテロ原子を有する有機基であり、該有機基のH原子は、全てまたは一部が、F原子により置換され得;
は、存在しないか、またはO原子が介在し得るC〜C16アルキレン基であり;
は、存在しないか、またはO原子が介在し得るC〜C16アルキレン基であり;
nは、1、2、3、4、5または6であり;
mは、1、2または3であり;
HGは、−P=O(OH);−P=O(OH)(OR14);−O−P=O(OH)、−O−P=O(OH)(OR15)または−SOOHであり、ここで
14は、C〜C15アルキル基、フェニル基またはベンジル基であり;
15は、C〜C15アルキル基、フェニル基またはベンジル基である、
歯科材料。
(項目2)
PGが、以下の式:
【0007】
【化2】

のうちの1つを有する基であり、該式において:
Zは、O、S、
【0008】
【化3】

であり;
は、存在しないか、またはO原子が介在し得るC〜C16アルキレン基であり;
は、HまたはC10アルキル基であり;
は、HまたはC〜C10アルキル基であり;
は、H、C〜C10アルキル基、フェニル基またはベンジル基であり;
は、H、CN、CO−OR13、−CO−R13またはR13であり;
は、H、CN、CO−OR13、−CO−R13、またはR13であり;
〜R12は、互いに独立して、H、−CO−OR13、−CONHR13、−CO−R13,Oが介在し得るC〜C15アルキル基、脂環式C〜C12基、二環式C〜C12基、C〜C14アリール基またはC〜C20アルキルアリール基であり;
13は、Oが介在し得るC〜C15アルキル基、脂環式C〜C12基、二環式C〜C12基、C〜C14アリール基またはC〜C20アルキルアリール基であり、ここで、複数のR13基は、同じであっても異なっていてもよく;
qは、0、1、2または3であり;
pは、0、1、2または3であり;
rは、0または1である、
項目1に記載の歯科材料。
(項目3)
前記可変物のうちの少なくとも1つが、以下の好ましい意味:
は、存在しないか、またはO原子が介在し得るC〜C10アルキレン基であること;
は、HまたはC〜Cアルキル基であること;
は、HまたはC〜Cアルキル基であること;
は、C〜Cアルキル基、ベンジル基またはフェニル基であること;
は、H、CO−OR13、−CO−R13またはR13であること;
は、H、CO−OR13、−CO−R13、またはR13であること;
〜R12は、互いに独立して、H、−CO−OR13、−CO−R13、Oが介在し得るC〜C15アルキル基、脂環式C〜C基、二環式C〜C12基、フェニル基またはベンジル基であること;
13は、Oが介在し得るC〜C10アルキル基、脂環式C〜C基、フェニル基またはベンジル基であり、ここで複数のR13基は、同じであっても異なっていてもよいこと;
qは、0、1または2であること;
pは、0、1または3であること;
rは、0または1であること、
のうちの1つを有する、項目2に記載の歯科材料。
(項目4)
PGが、式:
【0009】
【化4】

の基である、項目2または3に記載の歯科材料。
(項目5)
前記可変物のうちの少なくとも1つが、以下の好ましい意味:
は、存在しないか、またはO、エステル基、アミド基もしくはウレタン基であること;
は、存在しないか、またはO、エステル基、アミド基もしくはウレタン基であること;
Yは、存在しないか、またはO、エステル基、アミド基もしくはウレタン基であること;
Rは、(n+m)の価数を有し、1個〜20個の炭素原子および0〜8個のヘテロ原子を有する有機基であり、該有機基のH原子は、全てまたは一部が、F原子により置換され得ること;
は、存在しないか、またはO原子が介在し得るC〜C12アルキレン基であること;
は、存在しないか、またはO原子が介在し得るC〜C12アルキレン基であること;
nは、1、2または3であること;
mは、1、2または3であること;
HGは、−P=O(OH);−O−P=O(OH)または−SOOHであること、
のうちの1つを有する、項目1〜4のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目6)
前記可変物のうちの少なくとも1つが、以下の好ましい意味:
は、存在しないか、またはエステル基であること;
は、存在しないこと;
Yは、存在しないこと;
Rは、2個〜12個の炭素原子を有する脂肪族有機基またはフェニレンであり、該脂肪族有機基のH原子は、全てもしくは一部が、F原子により置換され得ること;
は、存在しないこと;
は、存在しないか、またはメチレンもしくはエチレンであること;
nは、1または2であること;
mは、1であること;
HGは、−P=O(OH);−O−P=O(OH)または−SOOHであること、
のうちの1つを有する、項目5に記載の歯科材料。
(項目7)
ラジカル重合のための開始剤をさらに含有する、項目1〜6のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目8)
少なくとも1種のさらなるラジカル重合性モノマーをさらに含有する、項目1〜7のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目9)
2つ以上のラジカル重合性基を有する少なくとも1種のラジカル重合性モノマーを含有する、項目8に記載の歯科材料。
(項目10)
二官能性アクリレート、多官能性アクリレート、二官能性メタクリレート、多官能性アクリレート、ビスフェノール−A−ジ(メタ)アクリレート、ビス−GMA(メタクリル酸とビスフェノール−A−ジグリシジルエーテルとの付加生成物)、UDMA(2−メタクリル酸ヒドロキシエチルと2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとの付加生成物)、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、もしくはテトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールテトラ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレートまたは1,12−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1種のモノマーを含有する、項目9に記載の歯科材料。
(項目11)
少なくとも1種のラジカル開環重合性モノマーを含有する、項目8〜9のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目12)
一官能性ビニルシクロプロパンおよび多官能性ビニルシクロプロパン、二環式シクロプロパン誘導体または環式アリルスルフィドから選択される少なくとも1種のモノマーを含有する、項目11に記載の歯科材料。
(項目13)
少なくとも1種のさらなるラジカル重合性酸基含有モノマーを含有する、項目8〜12のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目14)
少なくとも1種の充填剤をさらに含有する、項目1〜13のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目15)
少なくとも1種の添加剤をさらに含有し、該添加剤は、安定剤、UV吸収剤、色素、顔料、溶媒および潤滑剤から選択される、項目1〜14のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目16)
(a)0.5重量%〜30重量%の、式(I)による酸開環重合性モノマー、
(b)0.01重量%〜5重量%の開始剤、
(c)5重量%〜90重量%の、さらなるラジカル重合性モノマー、
(d)0重量%〜85重量%の充填剤、
(e)必要に応じて、0.01重量%〜5重量%の添加剤、および
(f)0〜50重量%の溶媒、
を含有する、項目1〜15のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目17)
さらなるモノマーとして、(c)5重量%〜90重量%のさらなる開環重合性モノマーおよび0重量%〜50重量%の多官能性(メタ)アクリレートを含有する、項目16に記載の歯科材料。
(項目18)
歯科材料の調製のための、一般式(I)によるラジカル重合性モノマーの使用。
(項目19)
前記歯科材料が、複合材料、セメント、接着剤またはコーティング材料である、項目18に記載の使用。
(項目20)
成形体の調製のためのプロセスであって、該プロセスにおいて、項目1〜17のいずれか1項に記載の歯科材料が成形されて、望ましい形状を有する本体を製造し、次いで、部分的にかまたは完全に硬化される、プロセス。
【0010】
(要約)
一般式(I):
【0011】
【化9】

に従う少なくとも1種のラジカル重合性モノマーを含有する、歯科材料。一般式(I)において、PGは、環式の開環重合性基であり;Xは、存在しないか、O、S、エステル基、アミド基もしくはウレタン基であり;Xは、存在しないか、O、S、エステル基、アミド基もしくはウレタン基であり;Yは、存在しないか、O、S、エステル基、アミド基もしくはウレタン基であり;Rは、(n+m)の価数を有し、1個〜35個の炭素原子および0〜8個のヘテロ原子を有する有機基であり、この有機基のH原子は、全てまたは一部が、F原子により置換され得;Rは、存在しないか、またはO原子が介在し得るC〜C16アルキレン基であり;Rは、存在しないか、またはO原子が介在し得るC〜C16アルキレン基であり;nは、1、2、3、4、5または6であり;mは、1、2または3であり;HGは、−P=O(OH);−P=O(OH)(OR14);−O−P=O(OH)、−O−P=O(OH)(OR15)または−SOOHであり、ここでR14は、C〜C15アルキル基、フェニル基またはベンジル基であり;そしてR15は、C〜C15アルキル基、フェニル基またはベンジル基である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、自己接着特性と低い重合収縮との両方を、良好な機械的特性および高い反応性と共に有する、歯科材料が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
上記目的は、一般式(I)
【0014】
【化10】

による少なくとも1種のラジカル重合性モノマーを含有する、歯科材料により達成される。式(I)において、
PGは、環式の開環重合性基であり;
は、存在しないか、またはO、S、エステル基、アミド基もしくはウレタン基であり;
は、存在しないか、またはO、S、エステル基、アミド基もしくはウレタン基であり;
Yは、存在しないか、またはO、S、エステル基、アミド基もしくはウレタン基であり;
Rは、(n+m)の価数を有し、1個〜35個の炭素原子および0〜8個のヘテロ原子を有する有機基であり、この有機基のH原子は、全てまたは一部が、F原子により置換され得;
は、存在しないか、またはO原子が介在し得るC〜C16アルキレン基であり;
は、存在しないか、またはO原子が介在し得るC〜C16アルキレン基であり;
nは、1、2、3、4、5または6であり;
mは、1、2または3であり;
HGは、−P=O(OH);−P=O(OH)(OR14);−O−P=O(OH)、−O−P=O(OH)(OR15)または−SOOHであり、ここで、R14は、C〜C15アルキル基、フェニル基またはベンジル基であり;
15は、C〜C15アルキル基、フェニル基またはベンジル基である。
【0015】
これらの化合物は、開環重合性基PGに加えて、酸基HGを含む。式(I)および本明細書中に示される他の式は、全ての構造の形態および立体異性体の形態、ならびに異なる構造の形態および立体異性体の形態(例えば、ラセミ化合物)を包含する。これらの式は、化学原子化理論と矛盾しない化合物のみを包含する。
【0016】
「(例えば)Oが介在し得る基」という表示は、それらの原子または原子団が、その基の炭素鎖に挿入されていることを意味する。すなわち、これらの原子または原子団は、その両側が炭素原子に接している。従って、これらの外来原子または外来原子団の数は、炭素原子の数より少なくとも1小さく、そしてこれらの外来原子または外来原子団は、末端にはあり得ない。本発明によれば、ヘテロ原子が基を囲み得る全ての場合において、ヘテロ原子を含まない基が好ましい。
【0017】
Rは、脂環式基、脂肪族基または芳香族基、あるいはこれらの組み合わせであり得る。組み合わせとは、例えば、アルキレン−アリーレン基、アルキレン−アリーレン−アルキレン基およびアリーレン−アルキレン−アリーレン基を意味し、特に、−CH−Ph−基および−CH−Ph−CH−基を意味する。R中に必要に応じて存在するヘテロ原子は、好ましくはOおよび/またはNである。Rの水素原子は、全てまたは好ましくは一部が、F原子により置換され得る。フッ素置換基を有さない基が好ましい。
【0018】
好ましい開環重合性基PGは、
【0019】
【化11】

であり、ここで、
Zは、O、S、
【0020】
【化12】

であり;
は、存在しないか、またはO原子が介在し得るC〜C16アルキレン基であり;
は、HまたはC10アルキル基であり;
は、HまたはC〜C10アルキル基であり;
は、H、C〜C10アルキル基、フェニル基またはベンジル基であり;
は、H、CN、CO−OR13、−CO−R13またはR13であり;
は、H、CN、CO−OR13、−CO−R13、またはR13であり;
〜R12は、互いに独立して、H、−CO−OR13、−CONHR13、−CO−R13、Oが介在し得るC〜C15アルキル基、脂環式C〜C12基、二環式C〜C12基、C〜C14アリール基またはC〜C20アルキルアリール基であり;
13は、Oが介在し得るC〜C15アルキル基、脂環式C〜C12基、二環式C〜C12基、C〜C14アリール基またはC〜C20アルキルアリール基であり、ここで、複数のR13基は、同じであっても異なっていてもよく;
qは、0、1、2または3であり;
pは、0、1または3であり;
rは、0または1である。
【0021】
上に示される重合性基の可変物が以下の意味を有する、開環重合性モノマーが、特に好ましい。ここで、これらの意味は、互いに独立して選択され得る:
は、存在しないか、またはO原子が介在し得るC〜C10アルキレン基、特に、−(CH10−、−CH−CH−または−CHCH−O−CHCH−である;
は、HまたはC〜Cアルキル基である;
は、HまたはC〜Cアルキル基である;
は、C〜Cアルキル基、フェニル基またはベンジル基;特に、C〜Cアルキル基またはフェニル基である;
は、H、CO−OR13、−CO−R13またはR13である;
は、H、CO−OR13、−CO−R13、またはR13である;
〜R12は、互いに独立して、H、−CO−OR13、−CO−R13、Oが介在し得るC〜C15アルキル基、脂環式C〜C基、二環式C〜C12基、フェニル基、またはベンジル基、特に、H、−CO−OC、−CO−フェニル基、C〜Cアルキル基、二環式C〜C10基またはベンジル基である;
13は、Oが介在し得るC〜C10アルキル基、脂環式C〜C基、フェニル基またはベンジル基、特に、メチル、エチル、プロピル、フェニルおよびベンジルであり、ここで複数のR13基は、同じであっても異なっていてもよい;
qは、0、1または2である;
pは、0、1、2または3である;
rは、0または1である。
【0022】
PGが、以下の式:
【0023】
【化13】

のうちの1つによる基であるモノマーは、非常に特に好ましい。
【0024】
互いに独立して選択され得る、式(I)の他の可変物の好ましい定義は、以下のとおりである:
は、存在しないか、またはO、エステル基、アミド基もしくはウレタン基であり、特に、エステル基、アミド基またはウレタン基である;
は、存在しないか、またはO、エステル基、アミド基もしくはウレタン基であり、特に、エステル基、アミド基またはウレタン基である;
Yは、存在しないか、またはO、エステル基、アミド基もしくはウレタン基であり、特に、エステル基、アミド基またはウレタン基である;
Rは、(n+m)の価数を有し、1個〜20個の炭素原子および0〜8個、好ましくは、0〜4個のヘテロ原子を有する、環式または脂肪族の有機基であり、この有機基のH原子は、全てまたは一部が、F原子により置換され得る;
は、存在しないか、またはO原子が介在し得るC〜C12アルキレン基である;
は、存在しないか、またはO原子が介在し得るC〜C12アルキレン基である;
nは、1、2または3である;
mは、1、2または3である;
HGは、−P=O(OH);−O−P=O(OH)または−SOOHである。
【0025】
可変物のうちの少なくとも1つが以下の好ましい可変物のうちの1つを有するモノマーが、特に好ましい:
は、存在しないか、またはエステル基である;
は、存在しない;
Yは、存在しない;
Rは、脂肪族有機基(好ましくは、2個〜12個の炭素原子を有する線形有機基であり、この有機基のH原子は、全てもしくは一部がF原子により置換され得る)またはフェニレンである;
は、存在しない;
は、存在しないか、またはメチレンもしくはエチレンである;
nは、1または2である;
mは、1である;
HGは、−P=O(OH);−O−P=O(OH)または−SOOHである。
【0026】
全ての可変物が、好ましい意味のうちの1つ、そして特に、より好ましい意味の1つを有する化合物は、もちろん、特に好ましい。
【0027】
一般式(I)のモノマーは、適切に官能基化された環式モノマーから出発して、対応する酸基含有化合物との反応により、得られ得る。
【0028】
【化14】

具体例(n、m=1;X、Y、R、Rは存在しない;PG=3−メチレン;X=C−CO;HG=O−PO(OH)):
【0029】
【化15】

この反応において、保護基技術の局面が考慮されるべきである。すなわち、最初に、リン酸エステル、ホスホン酸エステルまたはスルホン酸エステルが、適切に官能基化された環式モノマーとカップリングされ、次いで、酸基が遊離される。
【0030】
一般式Iのモノマーの合成のために適切に官能基化された環式モノマーは、文献から公知である。例えば、ビニルシクロプロパンおよび二環式シクロプロピルアクリレートの合成は、N.Mosznerら,Macromol.Rapid.Commun.18(1997)775−780、およびA.de Meijereら,Eur.J.Org.Chem,2004,3669−3678によって記載されている。官能基化された環式アリルスルフィドの合成は、R.A.EvansおよびE.Rizzardoによって、J.Polym.Sci.,Part A.Polym.Chem.39(2001)202−215;Macromolecules 33(2000)6722−6731に公開されている。
【0031】
一般式Iの開環重合性酸モノマーの好ましい例は、以下である:
【0032】
【化16】

【0033】
【化17】

【0034】
【化18】

本発明による、式(I)のモノマーに基づく歯科材料は、例えば、Encyclopedia of Polymer Science and Engineering,第13巻,Wiley−Intersci.Pub.,New York etc.1988,754ffに記載されるように、公知のラジカル開始剤を用いて重合され得る。光開始剤(例えば、J.P.Fouassier,J.F.Rabek(publ.),Radiation Curing in Polymer Science and Technology,第II巻,Elsevier Applied Science,London and New York 1993から公知のもの)が、特に適切である。UV範囲または可視範囲について、ベンゾインエーテル、ジアルキルベンジルケタール、ジアルコキシアセトフェノン、アシルホスフィンオキシドもしくはビスアシルホスフィンオキシド、α−ジケトン(例えば、9,10−フェナントレンキノン)、ジアセチルキノン、フリルキノン、アニシルキノン、4,4’−ジクロロベンジルキノンおよび4,4’−ジアルコキシベンジルキノン、およびショウノウキノンが、光開始剤として好ましい。
【0035】
さらに、アゾ化合物(例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)もしくはアゾビス−(4−シアノバレリアン酸)、または過酸化物(例えば、過酸化ジベンゾイル、過酸化ジラウロイル、過オクタン酸tert−ブチル、過安息香酸tert−ブチルもしくはジ−(tert−ブチル)ペルオキシド)もまた、ラジカル重合のための開始剤として使用され得る。ベンゾピナコールおよび2,2’−ジアルキルベンゾピナコールは、熱硬化のための開始剤として特に好ましい。
【0036】
開始を加速するために、過酸化物およびα−ジケトンは、好ましくは、芳香族アミンと組み合わせて使用される。好ましいレドックス系は、過酸化ベンゾイルまたはショウノウキノンと、アミン(例えば、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチル−アミノ安息香酸エチルエステルまたは構造的に関連する系)との組み合わせである。さらに、過酸化物を、還元剤としてのアスコルビン酸、バルビツレートまたはスルフィン酸と組み合わせて含有するレドックス系もまた、適切である。
【0037】
本発明による歯科材料は、1種以上の式(I)のモノマーを含有し得る。式(I)のモノマーに加えて、これらの歯科材料は、1つ以上のラジカル重合性基を有するさらなるラジカル重合性モノマーを含有し得る。2つ以上、好ましくは2個〜3個の少なくとも1種のラジカル重合性基を有する、さらなるラジカル重合性モノマーを含有する歯科材料が、特に好ましい。多官能性モノマーは、架橋特性を有する。
【0038】
好ましいさらなるモノマーは、一官能性または多官能性の、(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリルアミド((メタ)アクリル化合物)である。二官能性(メタ)アクリル化合物とは、1つの(メタ)アクリル基を有する化合物を意味し、そして二官能性(メタ)アクリル化合物とは、2つ以上、好ましくは2個〜3個の(メタ)アクリル基を有する化合物を意味する。
【0039】
好ましい多官能性モノマーは、ビスフェノール−A−ジ(メタ)アクリレート、ビス−GMA(メタクリル酸とビスフェノール−A−ジグリシジルエーテルとの付加生成物)、エトキシ化ビスフェノール−A−ジ(メタ)アクリレート、UDMA(2−メタクリル酸ヒドロキシエチルと2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとの付加生成物)、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、もしくはテトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールテトラ(メタ)アクリレート、ならびにブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレートまたは1,12−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレートである。
【0040】
本発明による歯科材料は、式(I)のモノマーに加えて、好ましくは、少なくとも1種のさらなるラジカル重合性の酸基含有モノマーを含有する。これらの酸基含有モノマーはまた、以下において、酸モノマーと称される。好ましい酸基は、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基および/またはスルホン酸基であり、これらの基は、酸形態で存在しても、エステルの形態で存在してもよい。ホスホン酸基またはリン酸基を有するモノマーが、特に好ましい。これらのモノマーは、2つ以上の酸基を含有し得、1個〜2個の酸基を含有する化合物が、好ましい。
【0041】
好ましい重合性カルボン酸は、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリト酸および対応する無水物、10−メタクリロイルオキシデシルマロン酸、N−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル)−N−フェニルグリシンおよび4−ビニル安息香酸である。
【0042】
好ましいホスホン酸モノマーは、ビニルホスホン酸、4−ビニルフェニルホスホン酸、4−ビニルベンジルホスホン酸、2−メタクリロイルオキシエチルホスホン酸、2−メタクリルアミドエチルホスホン酸、4−メタクリルアミド−4−メチル−フェニル−ホスホン酸、2−[4−(ジヒドロキシホスホリル)−2−オキサ−ブチル]−アクリル酸および2−[2−ジヒドロキシホスホリル)−エトキシメチル]−アクリル酸−2,4,6−トリメチル−フェニルエステルである。
【0043】
好ましい酸重合性リン酸エステルは、2−メタクリロイルオキシプロピル一水素リン酸および2−メタクリロイルオキシプロピル二水素リン酸、2−メタクリロイルオキシエチル一水素リン酸および2−メタクリロイルオキシエチル二水素リン酸、2−メタクリロイルオキシエチル−フェニル−水素リン酸、ジペンタエリトリトール−ペンタメタクリロイルオキシホスフェート、10−メタクリロイルオキシデシル−二水素リン酸、ジペンタエリトリトールペンタメタクリロイルオキシホスフェート、リン酸モノ−(1−アクリロイル−ピペリジン−4−イル)−エステル、6−(メタクリルアミド)ヘキシル二水素ホスフェートならびに1,3−ビス−(N−アクリロイル−N−プロピル−アミノ)−プロパン−2−イル−二水素ホスフェートである。
【0044】
好ましい重合性スルホン酸は、ビニルスルホン酸、4−ビニルフェニルスルホン酸または3−(メタクリルアミド)プロピルスルホン酸である。
【0045】
非常に特に好ましいものは、式(I)の化合物と、既知の低収縮ラジカル開環重合性モノマーとの混合物である。この低収縮ラジカル開環重合性モノマーは、例えば、一官能性または多官能性の、ビニルシクロプロパンまたは二環式シクロプロパン誘導体(好ましくは、独国特許発明第196 16 183号および欧州特許第1 413 569号に開示されるモノマー)、あるいは環式アリルスルフィド(好ましくは、米国特許第6,043,361号および米国特許第6,344,556号に開示されるモノマー)である。さらに好ましいものはまた、式(I)の化合物と、少なくとも1種のさらなる開環重合性モノマー、および2つ以上のラジカル重合性基を有する少なくとも1種のラジカル重合性モノマー(特に、上に列挙された多官能性(メタ)アクリレート化合物)との混合物である。
【0046】
特に好ましい開環重合性モノマーは、ビニルシクロプロパン(例えば、1,1−ジ(エトキシカルボニル)−2−ビニルシクロプロパンもしくは1,1−ジ(メトキシカルボニル)−2−ビニルシクロプロパン)、あるいは1−エトキシカルボニル−2−ビニルシクロプロパン-カルボン酸または1−メトキシカルボニル−2−ビニルシクロプロパン-カルボン酸の、エチレングリコール、1,1,1−トリメチロールプロパン、1,4−シクロヘキサンジオールまたはレゾルシノールとのエステルである。好ましい二環式シクロプロパン誘導体は、2−(ビシクロ[3.1.0]ヘキサ−1−イル)アクリル酸のメチルエステルもしくはエチルエステル、またはこれらの3位での二置換生成物(例えば、(3,3−ビス(エトキシカルボニル)ビシクロ[3.1.0]ヘキサ−1−イル)アクリル酸のメチルエステルもしくはエチルエステル)である。好ましい環式アリルスルフィドは、とりわけ、2−(ヒドロキシメチル)−6−メチレン−1,4−ジチエパンまたは7−ヒドロキシ−3−メチレン−1,5−ジチアシクロオクタンと、2,2,4−トリメチルヘキシメチレン−1,6−ジイソシアネートまたは非対称ヘキサメチレンジイソシアネート三量体(Bayer AG製のDesmodur VP LS 2294)との付加生成物である。
【0047】
さらに、本発明による歯科材料は、1種以上の充填剤、好ましくは、有機粒子充填剤または無機粒子充填剤を、含有し得る。好ましい無機粒子充填剤は、10nm〜200nmの平均粒子直径を有する、酸化物に基づく非晶質球状ナノ粒子充填剤(例えば、発熱性ケイ酸または沈殿ケイ酸、ZrOおよびTiO、またはSiO、ZrOおよび/もしくはTiOの混合酸化物)、0.2μm〜5μmの平均粒子サイズを有するミニフィラー(例えば、石英、ガラスセラミックまたはガラス粉末)およびX線不透過性充填剤(例えば、三フッ化イッテルビウムまたはナノ粒子性酸化タンタル(V)もしくは硫酸バリウム)である。さらに、繊維性充填剤(例えば、ガラス繊維、ポリアミドまたは炭素繊維)もまた、使用され得る。
【0048】
最後に、さらなる添加剤(例えば、安定剤、UV吸収剤、色素もしくは顔料)、および溶媒または潤滑剤が、必要とされる場合に、式(I)のモノマーに基づく本発明による歯科材料に添加され得る。
【0049】
本発明による歯科材料は、好ましくは、
(a)0.5重量%〜30重量%の、式(I)による酸開環重合性モノマー、
(b)0.01重量%〜5重量%の開始剤、
(c)5重量%〜90重量%の、さらなるラジカル重合性モノマー、好ましくは、5重量%〜90重量%の、さらなる開環重合性モノマー、および0重量%〜50重量%の多官能性(メタ)アクリレート、
(d)0重量%〜85重量%の充填剤、
(e)必要に応じて、0.01重量%〜5重量%の添加剤、および
(f)0〜50重量%の溶媒、
を含有する。
【0050】
全ての百分率は、他に示されない限り、歯科材料の総重量に関連する。
【0051】
本発明による歯科材料は、歯科製品であり、そして複合材料、セメント、接着剤またはコーティング材料として、特に適切である。
【0052】
接着剤として使用するための歯科材料は、好ましくは、
(a) 1重量%〜30重量%の、式(I)による酸開環重合性モノマー、
(b) 0.1重量%〜2重量%の開始剤、
(c) 5重量%〜80重量%の、さらなるラジカル重合性モノマー、好ましくは、5重量%〜80重量%の、さらなる開環重合性モノマー、および0重量%〜30重量%の多官能性(メタ)アクリレート、
(d) 0重量%〜20重量%の充填剤、
(e) 必要に応じて、0.01重量%〜50重量%の添加剤、ならびに
(f)0〜50重量%の溶媒、
を含有する。
【0053】
セメントとして使用するための歯科材料は、好ましくは、
(a) 1重量%〜30重量%の、式(I)による酸開環重合性モノマー、
(b) 0.1重量%〜2重量%の開始剤、
(c) 5重量%〜30重量%の、さらなるラジカル重合性モノマー、好ましくは、5重量%〜30重量%の、さらなる開環重合性モノマー、および0重量%〜10重量%の多官能性(メタ)アクリレート、
(d) 0重量%〜70重量%の充填剤、ならびに
(e) 必要に応じて、0.01重量%〜5重量%の添加剤、
を含有する。
【0054】
複合材料として使用するための歯科材料は、好ましくは、
(a) 1重量%〜20重量%の、式(I)による酸開環重合性モノマー、
(b) 0.1重量%〜2重量%の開始剤、
(c) 5重量%〜20重量%の、さらなるラジカル重合性モノマー、好ましくは、5重量%〜20重量%の、さらなる開環重合性モノマー、および0重量%〜10重量%の多官能性(メタ)アクリレート、
(d) 0重量%〜85重量%の充填剤、ならびに
(e) 必要に応じて、0.01重量%〜2重量%の添加剤、
を含有する。
【0055】
本発明はまた、歯科材料(好ましくは、上に記載された歯科材料)の調製のための、式(I)のラジカル重合性モノマーの使用に関する。
【0056】
本発明はまた、成形体(例えば、歯冠、ブリッジ、インレーおよび義歯)の調製のためのプロセスに関し、このプロセスにおいて、本発明による歯科材料が、それ自体公知の様式で成形されて、成形体を製造し、次いで、少なくとも部分的に、好ましくは完全に、硬化される。この硬化は、好ましくは、ラジカル重合により行われる。
【0057】
本発明は、実施例を参照しながら、以下でより詳細に記載される。
【実施例】
【0058】
(実施例1:開環重合性二水素ホスフェートの合成)
(段階1: 炭酸−O−[5,5−ビス(エトキシカルボニル)オクタ−7−エン−2−イニル]−O’−メチルエステル(1))
【0059】
【化19】

アリルマロン酸ジエチルエステル(9.01g,45mmol)を、水素化ナトリウム(1.9g、鉱油中60%の分散物,47.5mmol)の、無水DMF(45ml)中の攪拌懸濁物に添加した。次いで、この反応混合物を10℃まで冷却し、そして炭酸−O−(4−クロロブタ−2−イニル)−O’−メチルエステル(7.4g,46mmol)(A.Steinig,A.de Meijere,(Eur.J.Org.Chem.1999,1333−1344)に従って調製した)を、30分以内に滴下した。この混合物を室温で24時間攪拌し、そしてその溶媒を、減圧下で留去した(Tbath<60℃,0.1mbar)。その残渣を200mlのエーテルに溶解し、50mlの5%硫酸、50mlの水および50mlの飽和NaCl溶液で洗浄し、次いで、硫酸マグネシウムで乾燥させた。その溶媒を減圧下で再度留去し、そしてその粗生成物(14.3g)をクロマトグラフィー(100mlフラッシュシリカゲル、ペンタン/エーテル10:1〜5:1を用いる)により精製した。収率:8.1g(55%)、無色〜淡黄色の油状物。
【0060】
H−NMR(250MHz,CDCl):δ=1.23(t,6H,2CH),2.76(ddd,2H,6−H),2.82(t,2H,4−H),3.79(s,3H,CH),4.19(q,4H,2CH),4.67(t,2H,1−H),5.10(ddd,1H,8−Htrans),5.15(ddd,1H,8−Hcis),5.60(ddd,1H,7−H)。
【0061】
(段階2: 2−[3,3−ビス(エトキシカルボニル)ビシクロ[3.1.0]ヘキサ−1−イル}アクリル酸(2))
【0062】
【化20】

Pd(OAc)(337mg,1.50mmol)を、トリス(2−フリル)ホスフィン(766mg,3.30mmol)、テトラメチルアンモニウムブロミド(254mg,1.65mmol)、BHT(397mg,1.80mmol)および1(=段階1,16.3g,50mmol)の、脱気した60%水性酢酸(1000ml)中の溶液に、アルゴン下で添加し、そしてこの混合物を、25℃で1時間攪拌した。次いで、この反応雰囲気を、一酸化炭素で完全に置き換え、そして炭酸エステル1が完全に転換するまで(約24時間、TLCで確認)室温で激しく攪拌した。減圧下(40℃/0.5mbar)での溶媒の留去後、その残渣を200mlのジエチルエーテルに懸濁させ、そしてセライトに通して濾別した。次いで、その生成物を、0.5Mのソーダ水溶液(250ml)で抽出し、そしてその水性抽出物を、50mlずつのジエチルエーテルで2回洗浄し、そして10mgのBHTを添加した後に、その水相を、12N HCl(約4ml〜5ml)を用いて、約1.0のpHにした。その有機相を分離し、そしてその水層を、NaClで飽和させ、そして50mlずつのジエチルエーテルで3回抽出した。次いで、合わせた有機相を、100mlの飽和NaCl溶液で洗浄し、そして無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。その溶媒の留去後、10.8g(収率73%)の、わずかに黄色の粘性油状物が得られた。これを、精製せずに、次の段階のために使用し得た。
【0063】
H−NMR(300MHz,CDCl):δ=0.54(dd,1H,6−Hendo),0.75(ddd,1H,6−Hexo),1.21(t,3H,CH),1.25(t,3H,CH),1.60(dddd,1H),2.57(dd,1H),2.58(dd,1H),2.62(ddd,1H),2.74(d,1H),4.14(q,2H,OCH),4.19(q,2H,OCH),5.73(d,1H,3’−Htrans),6.32(d,1H,3’−Hcis)および11.9(br.,1H,COOH)。
13C−NMR(75.5MHz,CDCl,DEPT):δ=14.0(2CH),16.5(CH),24.7(CH),30.8(C),35.9(CH),40.1(CH),59.9(C),61.6(CH),61.7(CH),128,2(CH),141.7(C),171.5(C),171.8(C)および172.7(C)。
1520(296.32):計算値C 60.80、H 6.80;実測値C 60.94、H 6.80。
【0064】
(段階3:10−{2−[3,3−ビス(エトキシカルボニル)ビシクロ[3.1.0]ヘキサ−1−イル}アクリロイルオキシ}デシル二水素ホスフェート(3))
【0065】
【化21】

アゾジカルボン酸ジエチル(2.82g,16.2mmol)を、2(4.67g,15.8mmol)、リン酸10−ヒドロキシデシル−ジ−tert−ブチル(5.80g,15.8mmol)およびトリフェニルホスフィン(4.25g,16.2mmol)の、40mmolの無水THF中の攪拌溶液に、アルゴン下で添加し、そして温度が−70℃より高く上昇しないように、約−78℃(ドライアイス/アセトン浴)で攪拌した。30分間の攪拌後、この冷浴を除き、この反応混合物を室温までゆっくりと温め、そしてその溶媒を、減圧下で留去した。次いで、その残渣を、攪拌しながら、10mlのtert−ブチルメチルエーテルに懸濁させ、そして50mlのペンタンを添加することにより希釈した。氷浴中で1時間攪拌した後に、この懸濁物を、シリカゲルカラムでのクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチルの混合物(6:1〜3:1)を用いる)により精製した。7.95g(収率78%)の、10−{2−[3,3−ビス(エトキシカルボニル)ビシクロ[3.1.0]ヘキサ−1−イル}アクリロイルオキシ}デシル−ジ−tert−ブチルホスフェートの粘性無色液体が得られた。これを、20mlのCClおよび2mlのトリフルオロ酢酸の混合物に溶解して、対応する二水素ホスフェート3を遊離させた。この混合物を、減圧下50℃で約1時間反応させ、この反応を、HPLCにより追跡し、そしれ得られた生成物は、非常に粘性の液体であった。
【0066】
H−NMR(400MHz,DMSO−d):δ=0.52(dd,1H,6−Hendo),0.74(ddd,1H,6−Hexo),1.21(t,3H,CH),1.24(t,2×3H,CH),1.26−1.40(m,12H,C〜C−デシル),1.51−1.68(m,5H,1−H+C2・9−デシル),2.51−2.62および2.71(m,3H+1H,両方2.4−H),3.75−3.85(m,2H,CHOP),4.15(q,2H,OCH),4.17(q,2H,OCH),5.67(d,1H,C=Htrans),6.09(d,1H,C=Hcis)。
31P−NMR(167.5MHz,DMSO−d):2.74(s)。
【0067】
(実施例2:モノマー3とUDMAとのラジカル共重合)
重合収縮を決定するために、2molの2−メタクリル酸ヒドロキシエチルと1molの2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとのウレタンジメタクリレート、ならびに0.3重量%(混合物全体に対して)のショウノウキノン(光開始剤)および0.5重量%の4−(ジメチルアミノ)−安息香酸エチルエステル(アミン促進剤)を、50重量%のモノマー3および50重量%のUDMA(Ivoclar Vivadent AG)の混合物に添加し、次いで、その全体を、歯科用光源(Spectramat(登録商標),Ivoclar Vivadent)で照射した。ほんの4.4%の重合収縮が、モノマー混合物の決定された密度と、形成された重合体の決定された密度との差から、純粋なUDMAの重合収縮(ΔV=6.1%)を考慮して、計算された。EAEPAの重合収縮は、接着性モノマーである2−[4−(ジヒドロキシホスホリル)−2−オキサブチル]−アクリル酸エチルエステル(EAEPA)とUDMAとの類似の混合物(50:50)の重合の結果から、7.7%であると計算された。
【0068】
実施例2は、(メタ)アクリレートと比較して、式(I)のビニルシクロプロパンまたはアクリル酸シクロプロパンが、明らかに小さい重合収縮によって特徴付けられることを示す。
【0069】
(実施例3:モノマー3に基づく光硬化性接着剤の調製)
ウシの歯へのぞうげ質の接着を調査するために、表1に与えられる組成を有するぞうげ質接着剤を調製した:
ウシの歯を、プラスチックとぞうげ質とが一片になるように、プラスチックの円筒に包埋した。37%リン酸を用いる15秒間のエッチングに続いて、水での徹底的なすすぎを行った。次いで、上記組成の接着剤の層を、マイクロブラシを用いて塗布し、扇風機で短時間風を吹き付けて溶媒を除去し、そしてハロゲンランプ(Astralis 7,Ivoclar Vivadent)で40秒間照射した。Tetric(登録商標) Ceram(Ivoclar Vivadent)の複合材料円筒を、この接着剤層の上に、それぞれ1mm〜2mmの2つの層として重合させた。次いで、これらの試験片を、水中に37℃で24時間貯蔵した。ISO guideline「ISO 2003−ISO TR 11405:Dental Materials Guidance on Testing of Adhesion to Tooth Structure」に従って、せん断強度を測定すると、26.8MPa(接着剤A)および29.9MPa(接着剤B)であった。
【0070】
【表1】

1) 2−[4−(ジヒドロキシホスホリル)−2−オキサブチル]アクリル酸エチルエステル
2) 2−メタクリル酸ヒドロキシエチルと2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとの付加生成物
3) メタクリル酸とビスフェノール−A−ジグリシジルエーテルとの付加生成物
4) ショウノウキノン(0.3%)、4−ジメチル−安息香酸エチルエステル(0.4%)およびアシルホスフィンオキシドであるLucerin TPO(1.0%)の混合物。
【0071】
(実施例4:実施例1から得られたモノマー3に基づく歯科セメントの調製)
以下の表2に対応して、複合固定セメントを、メタクリレート混合物(サンプルA、比較)に基づいて、および実施例1から得られた開環重合性リン酸3を含めて、「Exakt」ロールミル(Exakt Apparatebau,Norderstedt)を使用して、調製した。材料の対応する試験片を調製し、これらの試験片を、歯科用光源(Spectramat(登録商標),Ivoclar Vivadent AG)で3分間3回照射し、これによって硬化させた。曲げ強度、曲げE弾性率および発熱時間を、ISO標準ISO 4049 (Dentistry−Polymer−based filling,restorative and luting materials)に従って測定した。
【0072】
【表2】

1) 2molの2−メタクリル酸ヒドロキシエチルと1molの2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート−1,6とのウレタンジメタクリレート
2) ショウノウキノン(0.24%)、p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル(0.26%)の混合物。
【0073】
表3は、材料A(全く従来のメタクリレート混合物に基づく)と比較して、材料Bは、ほぼ匹敵する機械特性をもたらすことを示す。水中での貯蔵後の機械特性のわずかな低下は、この複合材料の、水溶性のリン酸に起因する親水性の増加が原因であると考えられ、そして歯科の分野において使用するためには、重要ではない。
【0074】
【表3】

1) WS=水中に貯蔵された試験片。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化1】

による少なくとも1種のラジカル重合性モノマーを含有する歯科材料であって、一般式(I)において:
PGは、環式の開環重合性基であり;
は、存在しないか、またはO、S、エステル基、アミド基もしくはウレタン基であり;
は、存在しないか、またはO、S、エステル基、アミド基もしくはウレタン基であり;
Yは、存在しないか、またはO、S、エステル基、アミド基もしくはウレタン基であり;
Rは、(n+m)の価数を有し、1個〜35個の炭素原子および0〜8個のヘテロ原子を有する有機基であり、該有機基のH原子は、全てまたは一部が、F原子により置換され得;
は、存在しないか、またはO原子が介在し得るC〜C16アルキレン基であり;
は、存在しないか、またはO原子が介在し得るC〜C16アルキレン基であり;
nは、1、2、3、4、5または6であり;
mは、1、2または3であり;
HGは、−P=O(OH);−P=O(OH)(OR14);−O−P=O(OH)、−O−P=O(OH)(OR15)または−SOOHであり、ここで
14は、C〜C15アルキル基、フェニル基またはベンジル基であり;
15は、C〜C15アルキル基、フェニル基またはベンジル基である、
歯科材料。
【請求項2】
PGが、以下の式:
【化2】

のうちの1つを有する基であり、該式において:
Zは、O、S、
【化3】

であり;
は、存在しないか、またはO原子が介在し得るC〜C16アルキレン基であり;
は、HまたはC10アルキル基であり;
は、HまたはC〜C10アルキル基であり;
は、H、C〜C10アルキル基、フェニル基またはベンジル基であり;
は、H、CN、CO−OR13、−CO−R13またはR13であり;
は、H、CN、CO−OR13、−CO−R13、またはR13であり;
〜R12は、互いに独立して、H、−CO−OR13、−CONHR13、−CO−R13,Oが介在し得るC〜C15アルキル基、脂環式C〜C12基、二環式C〜C12基、C〜C14アリール基またはC〜C20アルキルアリール基であり;
13は、Oが介在し得るC〜C15アルキル基、脂環式C〜C12基、二環式C〜C12基、C〜C14アリール基またはC〜C20アルキルアリール基であり、ここで、複数のR13基は、同じであっても異なっていてもよく;
qは、0、1、2または3であり;
pは、0、1、2または3であり;
rは、0または1である、
請求項1に記載の歯科材料。
【請求項3】
前記可変物のうちの少なくとも1つが、以下の好ましい意味:
は、存在しないか、またはO原子が介在し得るC〜C10アルキレン基であること;
は、HまたはC〜Cアルキル基であること;
は、HまたはC〜Cアルキル基であること;
は、C〜Cアルキル基、ベンジル基またはフェニル基であること;
は、H、CO−OR13、−CO−R13またはR13であること;
は、H、CO−OR13、−CO−R13、またはR13であること;
〜R12は、互いに独立して、H、−CO−OR13、−CO−R13、Oが介在し得るC〜C15アルキル基、脂環式C〜C基、二環式C〜C12基、フェニル基またはベンジル基であること;
13は、Oが介在し得るC〜C10アルキル基、脂環式C〜C基、フェニル基またはベンジル基であり、ここで複数のR13基は、同じであっても異なっていてもよいこと;
qは、0、1または2であること;
pは、0、1または3であること;
rは、0または1であること、
のうちの1つを有する、請求項2に記載の歯科材料。
【請求項4】
PGが、式:
【化4】

の基である、請求項2または3に記載の歯科材料。
【請求項5】
前記可変物のうちの少なくとも1つが、以下の好ましい意味:
は、存在しないか、またはO、エステル基、アミド基もしくはウレタン基であること;
は、存在しないか、またはO、エステル基、アミド基もしくはウレタン基であること;
Yは、存在しないか、またはO、エステル基、アミド基もしくはウレタン基であること;
Rは、(n+m)の価数を有し、1個〜20個の炭素原子および0〜8個のヘテロ原子を有する有機基であり、該有機基のH原子は、全てまたは一部が、F原子により置換され得ること;
は、存在しないか、またはO原子が介在し得るC〜C12アルキレン基であること;
は、存在しないか、またはO原子が介在し得るC〜C12アルキレン基であること;
nは、1、2または3であること;
mは、1、2または3であること;
HGは、−P=O(OH);−O−P=O(OH)または−SOOHであること、
のうちの1つを有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項6】
前記可変物のうちの少なくとも1つが、以下の好ましい意味:
は、存在しないか、またはエステル基であること;
は、存在しないこと;
Yは、存在しないこと;
Rは、2個〜12個の炭素原子を有する脂肪族有機基またはフェニレンであり、該脂肪族有機基のH原子は、全てもしくは一部が、F原子により置換され得ること;
は、存在しないこと;
は、存在しないか、またはメチレンもしくはエチレンであること;
nは、1または2であること;
mは、1であること;
HGは、−P=O(OH);−O−P=O(OH)または−SOOHであること、
のうちの1つを有する、請求項5に記載の歯科材料。
【請求項7】
ラジカル重合のための開始剤をさらに含有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項8】
少なくとも1種のさらなるラジカル重合性モノマーをさらに含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項9】
2つ以上のラジカル重合性基を有する少なくとも1種のラジカル重合性モノマーを含有する、請求項8に記載の歯科材料。
【請求項10】
二官能性アクリレート、多官能性アクリレート、二官能性メタクリレート、多官能性アクリレート、ビスフェノール−A−ジ(メタ)アクリレート、ビス−GMA(メタクリル酸とビスフェノール−A−ジグリシジルエーテルとの付加生成物)、UDMA(2−メタクリル酸ヒドロキシエチルと2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとの付加生成物)、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、もしくはテトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールテトラ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレートまたは1,12−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1種のモノマーを含有する、請求項9に記載の歯科材料。
【請求項11】
少なくとも1種のラジカル開環重合性モノマーを含有する、請求項8〜9のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項12】
一官能性ビニルシクロプロパンおよび多官能性ビニルシクロプロパン、二環式シクロプロパン誘導体または環式アリルスルフィドから選択される少なくとも1種のモノマーを含有する、請求項11に記載の歯科材料。
【請求項13】
少なくとも1種のさらなるラジカル重合性酸基含有モノマーを含有する、請求項8〜12のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項14】
少なくとも1種の充填剤をさらに含有する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項15】
少なくとも1種の添加剤をさらに含有し、該添加剤は、安定剤、UV吸収剤、色素、顔料、溶媒および潤滑剤から選択される、請求項1〜14のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項16】
(a)0.5重量%〜30重量%の、式(I)による酸開環重合性モノマー、
(b)0.01重量%〜5重量%の開始剤、
(c)5重量%〜90重量%の、さらなるラジカル重合性モノマー、
(d)0重量%〜85重量%の充填剤、
(e)必要に応じて、0.01重量%〜5重量%の添加剤、および
(f)0〜50重量%の溶媒、
を含有する、請求項1〜15のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項17】
さらなるモノマーとして、(c)5重量%〜90重量%のさらなる開環重合性モノマーおよび0重量%〜50重量%の多官能性(メタ)アクリレートを含有する、請求項16に記載の歯科材料。
【請求項18】
歯科材料の調製のための、一般式(I)によるラジカル重合性モノマーの使用。
【請求項19】
前記歯科材料が、複合材料、セメント、接着剤またはコーティング材料である、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
成形体の調製のためのプロセスであって、該プロセスにおいて、請求項1〜17のいずれか1項に記載の歯科材料が成形されて、望ましい形状を有する本体を製造し、次いで、部分的にかまたは完全に硬化される、プロセス。

【公開番号】特開2007−326856(P2007−326856A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146237(P2007−146237)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(501151539)イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト (54)
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL−9494 Schaan Liechtenstein
【Fターム(参考)】