説明

防振ゴム配合用ソフト系ファーネスカーボンブラック及びこれを配合した防振ゴム組成物

【課題】加工性能、支持性能、補強性能同等で防振性能の向上されたファーネスカーボンブラックおよびこれを含むゴム組成物を提供する。
【解決手段】窒素吸着比表面積(NSA)が10〜30m/g、ジブチルフタレート吸収量(DBPA)が30ml/100g以下、トルエン着色透過度(TT)が45%以上の領域にあるファーネスカーボンブラックにおいて、(1)NSAとよう素吸着量(IA)の比、下記式1の(X)が1.10を超え1.30未満であり、かつ、(2)透過型電子顕微鏡像から得られたカーボンブラックアグリゲートの周囲長(PM)の2乗を投影面積(A)と定数の積で割った下記式2で得られるアグリゲート形状の複雑さの尺度であり形状係数(Y)の値が100〜115の範囲にあることを特徴とする防振ゴム配合用ソフト系ファーネスカーボンブラック。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムのようなエラストマーに配合した場合、補強性と静的ばね定数を維持したまま動倍率〔動的ばね定数(Kd)/静的ばね定数(Ks)〕を下げることを可能にし、これによりこれまで通りの硬度調整の範囲を維持、すなわちゴムに高充填配合時でもゴム組成物の硬さ変化の割合を低位に維持しながら動倍率を従来よりもさらに一層下げることができる防振ゴム配合用ソフト系ファーネスカーボンブラックの提供及びこのカーボンブラックをゴム成分に配合したゴム組成物の提供に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に防振ゴム組成物からなる防振ゴムは、最も身近な例として自動車等のエンジンの支持および振動の伝達を抑制する部材として用いられている。防振性能を高める手法としては動倍率〔動的ばね定数(Kd)/静的ばね定数(Ks)〕の値を小さくすること(低動倍率化)が有効であるが、支持性能を満足させる為には実用上一定以上の弾性率(静的ばね定数)であることが必要とされている。
これら特性を調整する方法として、カーボンブラックの添加量等を調整する方法が一般的に用いられている。カーボンブラックの添加量の増加は、静的ばね定数増加の効果が見られ、支持性能を満足させるという点では有効である。しかし、カーボンブラックの添加量の増加は動的ばね定数の増加効果とも繋がり、結局、低動倍率化を図ることが困難となってくる。
そこで、カーボンブラック添加量の増量を行なわずに、低動倍率化を図る手法として、防振用のゴム材料として好適な、動倍率の低いゴム組成物とするためには粒子径が大きく比表面積の小さいカーボンブラックを用いることが必要であり、たとえば次のような特性を持ったカーボンブラックが防振ゴム配合用として提案されている。
【0003】
特許文献1では、窒素吸着比表面積(NSA)が14〜23m/g、造粒粒子の硬さ(IPH)が9cN以下、であって、DBP吸収量(ml/100g)が下記式値を満足することを特徴とする防振ゴム用カーボンブラックが提案されている。
DBP≧13×NSA−171
また、特許文献2では、CTAB比表面積が25m/g以下、DBP吸油量が90〜150ml/100gの範囲にあり、凝集体ストークス相当径分布のモード径(Dst)に対する凝集体ストークス相当径分布の半値巾(ΔDst)の比(ΔDst/Dst)が1.15未満の特性を備えることを特徴とする耐熱防振ゴム用カーボンブラックが提案されている。
上記特許文献1及び2に記載のカーボンブラックは、DBP吸収量が大きな数値を有しているものであり、これによりカーボンブラックの配合量を低下することによるゴム配合物での動倍率の低下を目指したものである。
しかしながら、この手段ではカーボンブラックよりも価格が高いポリマーやオイルの実質的な必要量が増加してしまい、ゴム組成物にコスト面でマイナスとなる。またこの手段では配合ゴム中の充填剤存在密度が減少してしまうので、配合ゴムの気体透過性能の低下を招くという結果となる。さらに、当該カーボンブラックの配合部数を増加させたゴム配合物において硬度を低位に保持することが困難となるという欠点がある。
他方、特許文献3では、よう素吸着量(IA)が20〜30mg/g、ジブチルフタレート吸収量値(DBPA)が25〜35ml/100gという基本特性を有し、かつ窒素吸着比表面積(NSA)とIAの比、NSA/IAが0.85〜1.10であり、遠心沈降法におけるカーボンブラック凝集体の△Dst/Dstが0.96〜1.02であることを特徴とするソフト系ファーネスカーボンブラック〔ここで、Dstは遠心沈降分析により得られたカーボンブラック凝集体のストークス径のモード値(nm)、△Dstは前記Dst頻度の1/2に相当する2点のストークス径の差を示すものとする〕が提案され、前記IAが22〜30mg/g、DBPAが26〜33ml/100g、NSA/IAが0.88〜1.06であるソフト系ファーネスカーボンブラックも開示されている。
この特許文献3に記載されている発明の目的は、カーボンブラックをゴムに配合したとき従来のサーマルブラック配合ゴム組成物と同等の低いゴム硬度と弾性率を維持しながら、抗張力および耐疲労特性が効果的に向上しているゴム組成物を得ることのできるソフト系ファーネスカーボンブラックおよびこれを含むゴム組成物を提供する点にある。そして、この特許文献3に開示されている発明は、大粒子径で低ストラクチャーという特性を有しており、このカーボンブラックも防振ゴム配合用として利用することは可能であろう。しかしながら、NSA/IAで表示されるカーボンブラックの表面活性指数が0.85〜1.10と低い数値にあり、補強性能においては満足できないレベルにある。
【0004】
近年では、防振ゴムに対する要求性能のレベルは高くなり、防振性能(動倍率で評価)、加工性能(未加硫物性で評価)、支持性能(静的ばね定数で評価)、補強性能(引張強さで評価)といった互いに一方を向上させると他方の特性が低下してしまうという相反する特性を同時に満足させ得るカーボンブラックに対する要求が出されているが未だにこれを満足させるカーボンブラックは得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−248118号公報
【特許文献2】特開平11−172145号公報
【特許文献3】特開平9−48933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、カーボンブラックをゴム及び/又はポリマーに配合したときに、従来のサーマルタイプのファーネスカーボンブラックと比較して加工性能、支持性能、補強性能を同等に維持したままで防振性能の更なる向上を可能にするゴム組成物を提供することのできる防振ゴム配合用ソフト系ファーネスカーボンブラックおよびこれを含むゴム組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、防振ゴムに使用されるゴム組成物配合時に、このゴム組成物の加工性能、支持性能、補強性能を保ちつつ防振性能を向上させることができるカーボンブラックの開発について鋭意研究を進めた結果、本発明の第1は、窒素吸着比表面積(NSA)が10〜30m/g、ジブチルフタレート吸収量値(DBPA)が30ml/100g以下、トルエン着色透過度(TT)が45%以上にあるファーネスカーボンブラックにおいて、NSAとよう素吸着量(IA)の比、下記式1の(X)が1.10を超え1.30未満であり、かつ、透過型電子顕微鏡像から得られたカーボンブラックアグリゲートの周囲長(PM)の2乗を投影面積(A)と定数の積で割った下記式2で得られるアグリゲート形状の複雑さの尺度である形状係数(Y)の値が
【数1】

【数2】

100〜115の範囲にあることを満足する防振ゴム配合用ソフト系ファーネスカーボンブラックであれば要求されるゴム特性を満たすことを見出したことが本発明の開始点であり、この特性を有するファーネスカーボンブラックをゴムに配合した場合にそのゴム組成物に対して本出願人が提出した特許文献3の従来のサーマルタイプのファーネスカーボンブラックと同等の加工性能、支持性能、補強性能を満足しながら、さらに防振性能を向上させる効果があることを見いだして本発明に到達したものである。
本発明の第2は、ジブチルフタレート吸収量(DBPA)が10ml/100g以上で28ml/100g未満、トルエン着色透過度(TT)が45〜85%の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の防振ゴム配合用ソフト系ファーネスカーボンブラックに関する。
本発明の第3は、下記式3で得られる窒素吸着比表面積(NSA)とCTAB吸着比表面積(CTAB)の比(Z)が0.96〜1.05であることを満足する請求項1または請求項2に記載の防振ゴム配合用ソフト系ファーネスカーボンブラックに関する。
【数3】

本発明の第4は、天然ゴム及び/又は合成ゴム成分100重量部に対して、請求項1ないし3いずれかに記載の防振ゴム配合用ソフト系ファーネスカーボンブラックを20〜220重量部配合したことを特徴とする防振ゴム組成物に関する。
【0008】
本発明に適応することのできるゴムとしては天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、アクリルニトリル−ブタジエンゴムなどを挙げることができ、これらの単独ゴムあるいは任意の組み合わせによるブレンドゴムをマトリックス成分として用いることができる。
【0009】
本発明カーボンブラックにおいてNSAが10m/gを下回る場合はゴム配合物において引張強さなどの補強性能が低下し、また30m/gを上回る場合は組成物の粘度や硬さが上昇するため、サーマルタイプのファーネスカーボンブラックの特徴である高充填配合時での、低硬度という特性の達成が困難となる。また、DBPAが30ml/100gを上回る場合には、ゴム配合物の硬さが増大して柔軟性が低下し、ゴムへの多量配合時での低硬度という特性の達成が困難となるので30ml/100gを上限範囲とするが28ml/100g未満においては上記のマイナス面はほとんど発現されないのでより好ましい。また、下限値の10ml/100gを下回った場合にはカーボンブラック生産時に生成したカーボンブラック粒子の製造装置への付着性が増大して連続的な操業が困難となるので好ましくなく、10ml/100gを上回った場合にはこの現象が見られなくなるのでさらに好ましい。トルエン着色透過度が85%を上回る場合はカーボンブラック粒子の製造装置内にコークス等の副生成物が蓄積しやすくなる為に連続的な操業が困難となるので好ましくなく、また45%を下回るとゴム配合物の汚染性を回避することが困難となるので、45〜85%の範囲であることが望ましい。
【0010】
本発明ではカーボンブラックの凝集体の複雑性を表す指標として、透過型電子顕微鏡像から式2で得られる凝集体の複雑さを表す形状係数(Y)をある特定範囲で制御することが必須である。
一般に、カーボンブラックの凝集体の大きさを表す指標としてDBPAが用いられているが、実際にはカーボンブラックの凝集体内部に吸収される量だけでなく、カーボンブラック凝集体間に生じる隙間にも吸収される量も含まれている。30ml/100gを下回った場合においては、DBPAという測定法が本来評価しようとしているDBPAに占めるカーボンブラック凝集体内の空隙の割合(粒子のつながり度合いにより影響を受ける)は小さくなり、逆に凝集体内の吸収量がほとんどを占めるようになるために、カーボンブラック凝集体におけるストラクチャーの発達度合いをDBPAにより精確に評価することは困難となる。そこで、本出願人はカーボンブラックの凝集体の発達度合いをより精確に評価する方法を研究した結果、透過型電子顕微鏡像の画像解析で得られる前述の式2で得られる複雑さを表す形状係数(Y)の値が本発明カーボンブラックのような低ストラクチャーのカーボンブラックでの粒子のつながり度合い(発達度合い)を表す指標として有用なことを見出した。
この複雑さを表す形状係数(Y)の値において、この数値が100の場合は完全な円、すなわち粒子のつながりが全くないことを表す。ストラクチャーが発達するのに伴い、複雑さを表す前記形状係数(Y)の値は増加する。通常のDBPAが30ml/100g程度のサーマルタイプのカーボンブラックであれば複雑さを表す形状係数(Y)は120程度の値となる。本発明でのカーボンブラックの形状係数(Y)は100〜115の範囲にあり、通常のサーマルタイプのカーボンブラックよりもさらに小さく、より複雑性(粒子のつながり)が小さいことを特徴としている。この複雑さを表す形状係数(Y)が100〜115の範囲にある場合は従来のサーマルタイプのファーネスカーボンブラックと同等の加工性能、支持性能、補強性能を満足しながら、さらに防振性能を向上させる効果がある。複雑さを表す形状係数(Y)115を上回る場合は加工性能の悪化、防振特性が悪化する傾向がある。なお、一般的にゴム用に使用されている通常のストラクチャーを持つカーボンブラックにおける形状指数(Y)の数値は180〜230である。加えて窒素吸着比表面積(NSA)とよう素吸着量(IA)の比(X)が1.10を下回る場合は動倍率が上昇するため防振性能が悪化する傾向があり、1.3を上回る場合はトルエン着色透過度が低下しゴム配合物の汚染性を回避することが困難となる傾向がある。さらに窒素吸着比表面積(NSA)とCTAB吸着比表面積(CTAB)の比(Z)が0.96を下回る場合はトルエン着色透過度が低下しゴム配合物の汚染性を回避することが困難となり、1.05を上回る場合はカーボンブラック粒子の製造装置内に副生成物が蓄積しやすくなる為に連続的な操業が困難となる傾向がある。また、本研究のファーネスカーボンブラックを天然ゴム及び/又は合成ゴム成分100重量部に対して、20重量部を下回って配合した場合、防振ゴム組成物として十分な硬さを得ることが困難になる傾向があり、220重量部を上回って配合した場合は引張強さの低下や動倍率の上昇が顕著になる傾向がある。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明のカーボンブラックは、従来のサーマルタイプのファーネスカーボンブラックの利点であるゴムに配合した場合、低硬度、高充填配合並びに低硬度での硬度調整用途に適しているという特長を維持したまま、加工性能、支持性能および補強性能を低下させることなく低動倍率化が可能であるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明カーボンブラックを製造するのに好適な製造炉の一例を示す縦断正面図である。左側が炉頭部であり、カーボンブラックの生成は左側から右側に進行する。
【図2】図2は、窒素吸着比表面積と動倍率における、複雑さの形状係数の関係を示したものである。
【実施例】
【0013】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明を更に詳しく説明する。
【0014】
〔製造例〕
特開平1−229074号(出願人 旭カーボン)に記載の円筒型製造炉と同様な構造の図1に示すオイルファーネス炉(直径600mm、長さ5000mm)を用いた。左側の炉頭部から原料噴霧ノズル設置用円筒1空間内に、原料油噴霧ノズルを先端部に備えた原料油導入管とこれを取り囲む原料油噴霧空気の流通空間を形成する円筒部材とからなる原料噴霧ノズル(図示せず)を挿入し、反応炉内に原料油と空気を噴霧した。反応炉の接線方向に上下一対に設けられた第1空気孔グループA(2、2′)、第2空気孔グループB(3、3′)ならびに第3空気孔グループC(4、4′)より適宜の空気量を導入し、各空気孔グループからの導入空気量ならびに原料油供給量を変化させることにより、物理化学特性値の異なるサーマルタイプのファーネスカーボンブラックを製造した。なお、DBPAの制御については通常のストラクチャー調整剤を適宜利用した。原料油の性状は表1に示した通りである。
【0015】
【表1】

実施例1〜5と比較例1〜6のカーボンブラックの製造条件を表2に示した。
【0016】
【表2】

また、表2記載の製造条件により得られたカーボンブラックの物理化学特性を表3に示した。参照例としてサーマルブラックMTの物理化学特性についても記載した。各空気孔グループからの導入空気量ならびに原料油供給量を変化させることにより、窒素吸着比表面積(NSA)を調整した。なお、DBP吸収量、複雑さ(Y)の制御については通常のストラクチャー調整剤を適宜利用した。
【0017】
【表3】

なお、実施例1〜5は本発明にかかるファーネスカーボンブラックであり、比較例1〜6は本発明のいずれかの物性要件において外れたカーボンブラックの例である。また参照例はCancarb社製のサーマルブラックThermax MTである。
【0018】
〔各特性の測定〕
本発明にかかるカーボンブラックの物理化学特性は次のようにして測定される。
(1)窒素吸着比表面積(NSA)
JIS K6217−2:2001に記載の方法により測定され、単位重量当たりに吸着される窒素量(m/g)で表示される。
(2)よう素吸着量(IA)
JIS K6217−1:2008に記載の方法により測定され、単位重量当たりに吸着されるよう素量(g/kg)で表示される。
(3)CTAB吸着比表面積(CTAB)
JIS K6217−3:2001に記載の方法により測定され、単位重量当たりに吸着されるCTAB量(m/g)で表示される。
上記の3つの表面積測定法により得られた測定値から、カーボンブラックの表面性状を評価する指数XおよびZが算出される。
【数4】

【数5】

(4)DBP吸収量(DBPA)
JIS K6217−4:2001に記載の方法により測定され、100g当たりに吸収されるDBPの容積(ml/100g)で表示される。
(5)トルエン着色透過度(TT)
JIS K6218−4:2005に記載の方法により測定され、カーボンブラック表面から抽出される物質によってトルエンが着色される程度を純粋なトルエンと比較させて透過度(%)として表示される。
(6)複雑さを表す形状係数(Y)
ASTM D 3849−07:2008に記載の方法により最終倍率5,000倍で表示された画像を株式会社ニレコ製の画像解析装置LUZEX―FSを用いて周囲長(PM)と投影面積(A)から下記の式2を用いて算出される。
【数6】

複雑さの測定意義・・・カーボンブラックの透過型電子顕微鏡像が円に近いほど100に近い値になり、逆に周囲の形状が複雑なものほど大きな値になるのでアグリゲート形状の複雑性を評価する指標となる。
【0019】
〔ゴム配合特性〕
表3に示したカーボンブラックを表4に示した割合でゴムに配合してゴム組成物とし、各種特性を測定した。この結果を表5にとりまとめて示した。
【0020】
【表4】

*1 商品名:JSO−790〔日本サン石油(株)製 〕
*2 商品名:ノクセラーTT〔大内新興化学工業(株)製〕
【0021】
【表5】

【0022】
上記実施例および比較例のカーボンブラックを天然ゴムに配合した表5のゴム特性の結果から、本発明カーボンブラックの効果について説明する。なお、上記各特性は次のようにして測定した。
・未加硫物性・・・・JIS K6300−1:2001第6項に記載の方法で125℃におけるムーニー粘度(ML1+4´)、最低粘度(Vm)と加硫時間(t5)を測定した。
・硬さ・・・・JIS K6253:2007に記載された方法により測定した。
・引張試験・・・・JIS K6251:2004に記載された方法によりリング状1号形試験片を用い、7.試験法に従って引張特性を測定した。
・動的ばね定数[Kd,N/mm]・・・・動的ばね定数の測定は(株)東洋精機製作所社製レオグラフソリッドL−1Rを用い、温度25℃、周波数100Hz、動的歪±0.1%の測定条件で貯蔵弾性係数を測定し、その値を用いた。
・静的ばね定数[Ks,N/mm]・・・・静的ばね定数は低伸長応力を測定することにより求めることがでる。まず、低伸長応力より静的せん断弾性率を求める。歪みεの低伸長応力σεと静的せん断弾性率Gεの関係はJIS K7312:1996の8.5.2記載の下記の式4および式5で表すことができる。
【数7】

【数8】

※25%歪みの場合、ε=25よりα=1.25となる
本発明では(株)東洋ボールドウイン社製テンシロンUTM−4−100を用いて25%歪みの低伸長応力(σ25)を測定し、その値を下記の式6のように1.639倍した値を静的せん断弾性率G25として算出した。
【数9】

次に静的せん断弾性率Gεから静的ばね定数Ksを求める。静的せん断弾性率Gεと静的ばね定数Ksとの関係はポアソン比νを用いて下記の式7のように表すことができる。
【数10】

本発明ではゴム組成物の体積が変化しないということを仮定し、ポアソン比νとして0.5を用いることにより、静的せん断弾性率G25を式8のように3倍することによって静的ばね定数を算出した。
【数11】

・動倍率・・・・JIS K6386:1999に記載された通り、動的ばね定数(Kd)/静的ばね定数(Ks)で表される。
【0023】
(1)防振性能(動倍率で評価)・支持性能(静的ばね定数で評価)について
一般的に動倍率はNSAが下がるに伴い、低下する傾向がある。そこで複雑さの形状係数(Y)が本発明の上限を越えた比較例1〜6および参照例(Y≒120および134)と実施例1〜3(Y≒113)をNSAで比較した結果(図2)、以下のことがわかった。
イ.同じNSAで比較例と実施例の動倍率を比較すると、実施例の方が低い。
ロ.複雑さの形状係数(Y)でまとめられるライン上に測定点が並び、複雑さの形状
係数が小さい方が動倍率も小さい。
動的ばね定数の低下やそれに伴う動倍率の低下に反して、静的ばね定数で評価される支持性能は大きくは変化しない。したがって支持性能については実施例、比較例ともに差がないにもかかわらず、実施例では支持性能同等で防振性能(動倍率)が向上していることがわかる。
(2)加工性能(未加硫物性)について
同じNSAレベルでは実施例と比較例の間に差がない。このことから、本発明のファーネスカーボンブラックは同じNSAレベルの一般的なサーマルタイプのファーネスカーボンブラックと加工性能(粘度および加硫時間)は同等であることがわかる。
(3)補強性能(引張強さと破断伸び)について
同じNSAレベルでは実施例と比較例の間に差がない。このことから、本発明のファーネスカーボンブラックは同じNSAレベルの一般的なサーマルタイプのファーネスカーボンブラックと補強性能は同等であることがわかる。
(4)その他の特性について
実施例3では式3で算出されるZ値が好ましい範囲の0.96を下回っており、動倍率等の特性では遜色はないがトルエン着色透過度の特性で低下(数値が小さい)が見られる。
(5)まとめ
上記(1)〜(3)から本発明のファーネスカーボンブラックは加工性能、補強性能、支持性能同等でありながら防振特性が向上していることがわかる。
【符号の説明】
【0024】
1 原料油噴霧ノズル設置用円筒
2 第1空気孔グループA
2′ 第1空気孔グループA
3 第2空気孔グループB
3′ 第2空気孔グループB
4 第3空気孔グループC
4′ 第3空気孔グループC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素吸着比表面積(NSA)が10〜30m/g、ジブチルフタレート吸収量(DBPA)が30ml/100g以下、トルエン着色透過度(TT)が45%以上の領域にあるファーネスカーボンブラックにおいて、(1)NSAとよう素吸着量(IA)の比、下記式1の(X)が1.10を超え1.30未満であり、かつ、(2)透過型電子顕微鏡像から得られたカーボンブラックアグリゲートの周囲長(PM)の2乗を投影面積(A)と定数の積で割った下記式2で得られるアグリゲート形状の複雑さの尺度であり形状係数(Y)の値が100〜115の範囲にあることを特徴とする防振ゴム配合用ソフト系ファーネスカーボンブラック。
【数12】

【数13】

【請求項2】
ジブチルフタレート吸収量(DBPA)が10ml/100g以上で28ml/100g未満、トルエン着色透過度(TT)が45〜85%の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の防振ゴム配合用ソフト系ファーネスカーボンブラック。
【請求項3】
下記式3で得られる窒素吸着比表面積(NSA)とCTAB吸着比表面積(CTAB)の比(Z)が0.96〜1.05であることを満足する請求項1または請求項2に記載の防振ゴム配合用ソフト系ファーネスカーボンブラック。
【数14】

【請求項4】
天然ゴム及び/又は合成ゴム成分100重量部に対して、請求項1ないし3いずれかに記載の防振ゴム配合用ソフト系ファーネスカーボンブラックを20〜220重量部配合したことを特徴とする防振ゴム組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−98995(P2011−98995A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252663(P2009−252663)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000116747)旭カーボン株式会社 (19)
【Fターム(参考)】