説明

防曇フィルム

【課題】 防曇性に優れ、かつ透明支持体層と防曇層の密着性に優れた防曇フィルムを提供すること。
【解決手段】 透明支持体層と、ポリビニルアルコール系樹脂の架橋物を含有する防曇層が直接積層された層構成を有する防曇フィルムであって、透明支持体フィルムの少なくとも一方の面をプラズマ処理した後、かかる処理面にアセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とグリオキシル酸塩を含有する塗工液を塗布、乾燥してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇フィルムに関し、さらに詳しくは透明支持体層と、ポリビニルアルコール系樹脂の架橋物を含有する防曇層を有する防曇フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス表面の結露による曇りは視認性を阻害するものである。その対策として、ガラスを電熱線などで保温する、ガラスの表面を超親水化処理する、などの方法がとられているが、いずれもコストアップは避けられない。そこで、簡易的な手段として、ガラス表面に防曇フィルムを貼付する方法が提案され、実用化されている。
【0003】
かかる防曇フィルムの防曇層には親水性と透明性に優れる高分子材料が用いられており、代表的なものとしてポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVA系樹脂と略記する。)が挙げられる。しかしながら、PVA系樹脂は水溶性高分子であるため、本質的に耐水性に乏しく、吸湿時や水濡れ時に物性が大きく変化するという問題点を有している。
かかる課題に対しては、PVA系樹脂を架橋させる方法が有効であり、例えば、反応性に優れるアセトアセチル基を側鎖に有する変性PVA系樹脂と架橋剤を含有する防曇層を有する防曇用シートが提案されている。(例えば、特許文献1参照。)
さらに、アセトアセチル基含有PVA系樹脂(以下、AA化PVA系樹脂と略記する。)の架橋剤として、耐水性と耐経時着色性に優れた架橋物が得られるグリオキシル酸塩を用いた防曇剤も提案されている。(例えば、特許文献2参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−00935号公報
【特許文献2】特開2010−77385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
防曇フィルムは、通常、強度保持や取扱い性を高めるため透明支持体層を有しており、防曇層は、かかる透明支持体層上に形成されている。しかしながら、防曇フィルムは、通常、高湿度下で使用されることから、両層の吸湿時の物性変化を考慮する必要がある。
例えば、防曇層に用いられるPVA系樹脂などの親水性高分子と、透明支持体層に用いられる疎水性の熱可塑性樹脂とは、一般的に親和性が乏しいことから、吸湿時の両層の寸法変化率の差に起因する層間剥離等を防ぐには、両層間に接着剤層などを介在させる必要がある。例えば、特許文献1ではゼラチンやラテックスなどの高分子バインダーを主成分とする下塗り層が設けられている。
【0006】
しかしながら、透明支持体層と防曇層の間に下塗り層を設けるには、例えば、透明支持体フィルムの表面に下塗り層塗工液を塗布、乾燥する工程が必要となり、製造コストの面で不利である。
また、フィルム全体の厚さが下塗り層によって厚くなったり、柔軟性などの特性が下塗り層の影響を受ける可能性がある点でも不利である。
【0007】
すなわち、本発明は、優れた防曇性能を有するとともに、防曇層と透明支持体層が直接積層され、吸湿時の両層間の密着性が良好である防曇フィルムの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、鋭意検討した結果、透明支持体層とPVA系樹脂の架橋物を含有する防曇層が直接積層された層構成を有する防曇フィルムであって、透明支持体フィルムの少なくとも一方の面をプラズマ処理した後、その処理面にAA化PVA系樹脂とグリオキシル酸塩を含有する塗工液を塗布、乾燥することにより得られる防曇フィルムによって本発明の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、防曇層に用いられるPVA系樹脂の架橋物としてAA化PVA系樹脂の架橋物を用い、かかるAA化PVA系樹脂の架橋剤としてグリオキシル酸塩を選択し、さらに、透明支持体の表面処理法としてプラズマ処理を選択し、これらを組合わせたことを最大の特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の防曇フィルムは、優れた防曇性能を有するとともに、防曇層と透明支持体層が直接積層され、両層間の密着性、特に吸湿時の密着性が良好であり、層間剥離がおこりにくいものである。
また、防曇層と支持体層の間に下塗り層などを設ける必要がないことから、製造コストの低減が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
〔透明支持体層〕
本発明の防曇フィルムにおける透明支持体層の材料としては、公知の透明な樹脂を用いることができ、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、およびポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂などを挙げることができる。
中でも強度、耐久性、寸法安定性、透明度に優れるポリエステル類が好ましく、特にポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0013】
かかるポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)はエチレングリコールとテレフタル酸を主構成成分とするものであるが、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、他のジカルボン酸成分、およびグリコール成分が共重合されたものでもよい。
かかるジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸などを挙げることができる。また、かかるグリコール成分としては、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール等を挙げることができる。
【0014】
本発明において透明支持体層に用いられる透明支持体フィルムは、未延伸フィルム、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムのいずれを使用することも可能であるが、透明性や強度の点から二軸延伸フィルムであることが好ましい。
また、かかる透明支持体フィルムの厚さ、すなわち本発明の防曇フィルムにおける透明支持体の厚さは、通常1〜500μmであり、特に3〜250μm、さらに5〜200μmである。かかる好ましい厚さは、防曇フィルムの使用目的や使われ方によって異なるが、一般的に薄すぎると防曇フィルムの強度が不十分となる傾向があり、厚すぎると柔軟性が損なわれる傾向がある。
【0015】
また、上記透明支持体フィルム、特にPETフィルムには、通常、これに含有される各種添加剤、例えば無機微粒子、ワックス類、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、減粘剤、熱安定剤、着色防止剤、紫外線吸収剤などが含有されていても良い。
【0016】
〔プラズマ処理〕
次に、上記透明支持体フィルムの少なくとも一方の面、すなわち防曇層と積層される面に施されるプラズマ処理について説明する。
かかるプラズマ処理は、対向する電極間に高周波電圧を印加して放電させ、雰囲気ガスをプラズマ状態とし、被処理物をこのプラズマ状態のガスに晒すことによって、その表面を活性化処理するものである。
かかる雰囲気ガスとしては、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウムなどを用いることができ、中でも安全性、排気ガスの後処理、ランニングコストなどの点から窒素が好ましく用いられる。
【0017】
かかるプラズマ処理の処理強度は、通常、0.1〜100W/cmであり、特に0.2〜80W/cm、殊に0.5〜50W/cmの範囲が好ましく用いられる。かかる処理強度が弱すぎると支持体フィルムの表面処理効果が小さく、防曇層との充分な接着力が得られなくなる傾向がある。また、処理強度が強すぎると支持体フィルムの表面が劣化する可能性がある。
【0018】
プラズマ処理時の雰囲気ガスの流量は、通常、プラズマ処理面の有効幅1m当り1〜5000L/分であり、特に2〜2500L/分の範囲が用いられる。かかる流量が少なすぎるとプラズマの発生量が少なくなって充分な処理効果がえられなくなる場合があい、多すぎるとガスの使用量が増え、コストの面で不利である。
【0019】
本発明は、透明支持体における防曇層との積層面にプラズマ処理を施すことを特徴とするものであるが、これに加えて、紫外線、電子線、イオン線などのエネルギー線を照射する表面処理を併用することも可能である。特に、紫外線源としては、Dランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、Xeランプ、Hg−Xeランプ、ハロゲンランプ、アーク放電、コロナ放電、無声放電による放電ランプ、あるいはエキシマレーザー、Ar+レーザー、Kr+レーザー、N2レーザー等のレーザー発振装置等が好ましく用いられる。
なお、かかるエネルギー線による表面処理は、プラズマ処理の前、後、あるいは同時のいずれでも可能である。
【0020】
〔AA化PVA系樹脂〕
次に、本発明の防曇フィルムにおける防曇層に含有されるAA化PVA系樹脂のグリオキシル酸の架橋物について説明する。
まず、AA化PVA系樹脂について説明する。
本発明の防曇層に用いられるAA化PVA系樹脂は、側鎖にアセトアセチル基を有するPVA系樹脂であり、その含有量は、通常、構造単位全体の0.1〜20モル%程度であり、その他の部分は、通常のPVA系樹脂と同様、ビニルアルコール構造単位と、酢酸ビニル構造単位である。
【0021】
かかるAA化PVA系樹脂の製造法としては、特に限定されるものではないが、例えば、PVA系樹脂とジケテンを反応させる方法、PVA系樹脂とアセト酢酸エステルを反応させてエステル交換する方法、酢酸ビニルとアセト酢酸ビニルの共重合体をケン化する方法等を挙げることができるが、製造工程が簡略で、品質の良いAA化PVA系樹脂が得られることから、PVA系樹脂とジケテンを反応させる方法で製造するのが好ましい。以下、かかる方法について説明する。
【0022】
原料となるPVA系樹脂としては、一般的にはビニルエステル系モノマーの重合体のケン化物又はその誘導体が用いられ、かかるビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済性の点から酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0023】
また、ビニルエステル系モノマーと該ビニルエステル系モノマーと共重合性を有するモノマーとの共重合体のケン化物等を用いることもでき、かかる共重合モノマーとしては、例えばエチレンやプロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類およびそのアシル化物などの誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル、等のビニル化合物、酢酸イソプロペニル、1−メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、塩化ビニリデン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、1,4−ジヒドロキシ−2−ブテン、ビニレンカーボネート等が挙げられる。
なお、かかる共重合モノマーの導入量はモノマーの種類によって異なるため一概にはいえないが、通常は全構造単位の10モル%以下、特には5モル%以下であり、多すぎると水溶性が損なわれたり、架橋剤との相溶性が低下したりする場合があるため好ましくない。
【0024】
又、ビニルエステル系モノマーおよびその他のモノマーを重合、共重合する際の重合温度を調整し、主として生成する1,3−結合に対する異種結合の生成量を増減して、PVA主鎖中の1,2−ジオール結合を1.0〜3.5モル%程度としたものを使用することが可能である。
【0025】
上記ビニルエステル系モノマーの重合体および共重合体をケン化して得られるPVA系樹脂とジケテンとの反応によるアセトアセチル基の導入には、PVA系樹脂とガス状或いは液状のジケテンを直接反応させても良いし、有機酸をPVA系樹脂に予め吸着吸蔵せしめた後、不活性ガス雰囲気下でガス状または液状のジケテンを噴霧、反応するか、またはPVA系樹脂に有機酸と液状ジケテンの混合物を噴霧、反応する等の方法が用いられる。
【0026】
上記の反応を実施する際の反応装置としては、加温可能で撹拌機の付いた装置であれば十分である。例えば、ニーダー、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、その他各種ブレンダー、撹拌乾燥装置を用いることができる。
【0027】
かくして得られるAA化PVA系樹脂の平均重合度は、その用途によって適宜選択すればよいが、通常、300〜5000であり、特に500〜2000、さらに1000〜1500のものが好適に用いられる。かかる平均重合度が小さすぎると、防曇層の強度が不十分となったり、十分な耐水性が得られなくなる傾向があり、逆に大きすぎると、防曇層形成用の塗工液の粘度が高くなりすぎ、作業性が低下する傾向がある。
【0028】
また、本発明に用いられるAA化PVA系樹脂のケン化度は、通常、60モル%以上であり、さらには80モル%以上、特には90モル%以上、殊に98モル%以上のものが好適に用いられる。かかるケン化度が低すぎると、得られた防曇層と水との親和性が低下するためか、防曇性が不十分となる傾向がある。なお、平均重合度およびケン化度はJIS K6726に準じて測定される。
【0029】
また、AA化PVA系樹脂中のアセトアセチル基含有量(以下AA化度と略記する。)は、通常、0.1〜20モル%であり、さらには1〜15モル%、特には3〜10モル%であるものが一般的に用いられる。かかる含有量が少なすぎると、防曇層の耐水性が不十分となる傾向があり、逆に多すぎると、防曇層と水の親和性が低下し、防曇精が不十分となる傾向がある。
【0030】
本発明においては、PVA系樹脂のすべてがAA化PVA系樹脂であることが好ましいが、AA化PVA系樹脂以外のPVA系樹脂が併用されていてもよく、その含有量は通常20重量%以下であり、特に10重量%以下であることが好ましい。
かかるAA化PVA系樹脂以外の各種のPVA系樹脂の例としては、未変性のPVAや各種変性PVA系樹脂、例えば、ビニルエステル系モノマーと該ビニルエステル系モノマーと共重合性を有するモノマーとの共重合体のケン化物等を用いることができ、かかるモノマーとしては、例えばエチレンやプロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類およびそのアシル化物などの誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル等のビニル化合物、酢酸イソプロペニル、1−メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、塩化ビニリデン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、1,4−ジヒドロキシ−2−ブテン、ビニレンカーボネート等が挙げられる。
【0031】
また、本発明のAA化PVA系樹脂には、製造工程で使用あるいは副生した酢酸ナトリウムなどのアルカリ金属の酢酸塩(主として、ケン化触媒として用いたアルカリ金属水酸化物とポリ酢酸ビニルのケン化によって生成した酢酸との反応物等に由来)、酢酸などの有機酸(PVA系樹脂にアセト酢酸エステル基を導入する際の、ジケテンとの反応時にPVAに吸蔵させた有機酸等に由来)、メタノール、酢酸メチルなどの有機溶剤(PVA系樹脂の反応溶剤、AA化PVA製造時の洗浄溶剤等に由来)が一部残存していても差し支えない。
【0032】
〔グリオキシル酸塩〕
次に、本発明の防曇フィルムの防曇層において、AA化PVA系樹脂の架橋剤として用いられるグリオキシル酸塩について説明する。
かかるグリオキシル酸塩としては、グリオキシル酸の金属塩やアミン塩などが挙げられ、金属塩としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、チタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅などの遷移金属、その他の亜鉛、アルミニウムなどの金属とグリオキシル酸の金属塩、また、アミン塩としては、アンモニア、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミンなどのアミン類とグリオキシル酸の塩が挙げられる。
中でも、優れた耐水性に優れた防曇層が得られる点から金属塩が好ましく、さらに防曇性に優れる点から特にアルカリ金属塩が好ましく用いられる。
【0033】
グリオキシル酸塩の製造法は、公知の方法を用いることができるが、例えば、(1)グリオキシル酸の中和反応による方法、(2)グリオキシル酸と酸解離定数がグリオキシル酸より大きい酸の塩との塩交換反応による方法、(3)グリオキシル酸エステルのアルカリ加水分解による方法(例えば、特開2003−300926号公報参照。)などを挙げることができる。特に、グリオキシル酸との中和反応に用いるアルカリ性化合物の水溶性が高い場合は(1)の方法が、また得られるグリオキシル酸塩の水溶性が低く、酸解離定数がグリオキシル酸より大きい酸の塩の水溶性が高い場合は(2)の方法が好ましく用いられる。
【0034】
なお、(1)の方法は通常、水を媒体として行われ、グリオキシル酸とアルカリ性化合物、例えば、各種金属の水酸化物やアミン化合物を水中で反応させ、析出したグリオキシル酸塩を濾別し、乾燥して製造することができる。
また、(2)の方法も一般的に水中で行われ、(1)の方法と同様にしてグリオキシル酸塩を得ることができる。なお、(2)の方法において用いられるグリオキシル酸より解離定数が大きい酸の塩としては、例えば、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム等の脂肪族カルボン酸のアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属塩を挙げることができる。
【0035】
なお、本発明の架橋剤には、グリオキシル酸塩の製造に用いられる原料や原料に含まれる不純物、製造時の副生成物等が含まれる可能性があり、例えば、グリオキシル酸、金属水酸化物、アミン化合物、脂肪族カルボン酸塩、グリオキザール、シュウ酸、またシュウ酸塩、グリコール酸またはグリコール酸塩などが含有される場合がある。
【0036】
また、本発明におけるグリオキシル酸塩は、そのアルデヒド基が、メタノール、エタノールなどの炭素数が3以下のアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの炭素数が3以下のジオール等によってアセタール化、およびヘミアセタール化された化合物を包含するものである。かかるアセタール基、およびヘミアセタール基は、水中、あるいは高温下では容易にアルコールが脱離し、アルデヒド基と平衡状態をとるため、アルデヒド基と同様に各種基材との反応性を有するものである。
【0037】
グリオキシル酸塩の配合量は、AA化PVA系樹脂に対して、通常0.1〜30重量%であり、さらに1〜20重量%、特に2〜15重量%、殊に4〜10重量%の範囲が好ましく用いられる。かかる配合量が少なすぎると防曇層の耐水性が不十分となる傾向があり、逆に多すぎると、防曇層形成用の塗工液の安定性が低下する傾向がある。
【0038】
なお、本発明は、防曇層に用いられるAA化PVA系樹脂の架橋剤としてグリオキシル酸塩を用いることを特徴とするものであるが、本発明の効果を阻害しない範囲内でAA化PVA系樹脂の架橋剤として公知のものを併用しても良い。そのような架橋剤としては、水溶性チタニウム化合物や水溶性ジルコニウムなどの多価金属化合物、エチレンジアミン、メタキシリレンジアミンなどのアミン化合物、アジピン酸ジヒドラジドなどのヒドラジン化合物、メチロール化メラミンなどのメチロール基含有化合物、グリオキザールなどのアルデヒド基含有化合物、などを挙げることができる。
【0039】
〔防曇フィルム〕
本発明の防曇フィルムは、透明支持体層とAA化PVA系樹脂のグリオキシル酸塩による架橋物を含有する防曇層が直接積層された層構成を有するものである。
かかる防曇層は、AA化PVA系樹脂とグリオキシル酸塩を含有する塗工液を透明支持体フィルムのプラズマ処理を施した面に塗布、乾燥して形成される。
【0040】
かかる塗工液としては、AA化PVA系樹脂の良溶媒であり、環境への負荷が小さい点から水を主媒体とする水性塗工液が好ましい。なお、乾燥速度の調整や、支持体フィルムとの濡れ性を調整する目的で、水との混和性を有する有機溶剤、例えばメタノールやエタノールなどの炭素数が1〜3のアルコール類、アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン類を少量配合することも可能である。
また、かかる水性塗工液には、本発明の特性を阻害しない範囲内で無機微粒子、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消泡剤、防黴剤、防腐剤、レベリング剤等の添加剤、などを配合しても良い。
【0041】
かかる水性塗工液の濃度は、通常、1〜30重量%であり、特に3〜20重量%、殊に5〜15重量%の範囲が好ましく用いられる。かかる濃度が小さすぎると、一回の塗布、乾燥で得られる塗工層の厚さが小さくなるため、所望の厚さを得るために複数回の塗工が必要となる場合がある。また、かかる濃度が大きすぎると、塗工液の粘度が高くなり、塗布時の作業性が低下したり、均一な膜厚の塗工層が得られにくくなる場合がある。
【0042】
かかる水性塗工液のpHは、通常2〜10、好ましくは3〜10、より好ましくは4〜9であり、その調整は、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸や、酢酸、クエン酸、酒石酸などの有機酸の添加により行うことができる。かかるpHが低すぎると、塗工液の製造、あるいは支持体への塗布に使用する装置の腐食等を招く場合があるため、その対策が必要となり、逆に高すぎると、塗工液の安定性が低下し、増粘しやすくなり、ポットライフが短くなる傾向にある。
【0043】
なお、かかる水性塗工液を調製する方法は特に限定されないが、例えば、(i)AA化PVA系樹脂とグリオキシル酸塩の混合物を水に投入して溶解する方法、(ii)予めAA化PVA系樹脂とグリオキシル酸塩を別々に溶解したものを混合する方法、(iii)AA化PVA系樹脂の水溶液にグリオキシル酸塩を添加して混合する方法、などによって調製できる。
【0044】
かくして得られた水性塗工液を前述の透明支持体のプラズマ処理を施した面上に塗工するにあたっては、ロールコーター法、エアードクター法、ブレードコーター法、などの公知の塗工方法を用いることができる。
かかる塗工量は、塗工液の濃度によって異なるため、一概にはいえないが、通常、1〜10000g/mであり、特に10〜5000g/m、殊に100〜2000g/mの範囲が好ましく用いられる。
【0045】
支持体上に塗工された保護層は次いで乾燥することが必要であるが、かかる乾燥方法としては特に制限されず、公知の方法を用いることができ、その熱源としても、熱風、赤外線、輻射熱、あるいはそれらを組合わせたものを用いることができる。乾燥温度としては、通常、70〜150℃であり、特に80〜130℃、殊に90〜120℃の範囲が用いられる。また、乾燥時間は、乾燥温度によってことなるため一概に言えないが、通常、1〜20分、特に3〜10分の範囲で行われる。
なお、工業的には上述の塗工液の塗工工程、および乾燥工程は連続で行うことが望ましい。
【0046】
本発明の防曇フィルムにおける防曇層の厚さは、通常、1〜1000μmであり、さらに2〜400μm、特に3〜100μm、殊に5〜20μmの範囲が好ましく、かかる厚さが薄すぎると防曇層の強度が不十分となる場合があり、また、厚すぎると吸湿等による厚み方向の寸法変化の差によって反りが生じる場合がある。
【0047】
かくして得られた、透明支持体層とAA化PVA系樹脂のグリオキシル酸塩による架橋物を含有する防曇層が直接積層された層構成を有する防曇フィルムは、さらに機能を付与するために他の層を積層させることも可能である。
例えば、透明支持体層の防曇層が積層された面の反対面に粘着剤層を設けることにより、ガラス面への貼付を容易にすることができる。
また、防曇層上に透湿性を有する保護層を設けることにより、耐久性を向上させることが可能となる。
【0048】
なお、かくして得られた本発明の防曇フィルムは、その総厚さが、通常、2〜2000μmであり、特に5〜1000μm、殊に10〜100μmである。かかる厚さが薄すぎると、強度が不十分となったり、ガラス等への貼付時の取扱い性が難しくなる場合があり、逆に厚すぎると、柔軟性が不足し、取扱い性が低下する傾向がある。
【実施例】
【0049】
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中、「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0050】
製造例1:AA化PVA系樹脂(1)
温度調節器付きリボンブレンダーに、未変性PVA樹脂(平均重合度1200、ケン化度99.2モル%)を、ニーダーに3600部仕込み、これに酢酸1000部加えて膨潤させ、回転数20rpmで攪拌しながら、60℃に昇温後、ジケテン550部を3時間かけて滴下し、更に1時間反応させた。反応終了後、メタノールで洗浄した後、70℃で6時間乾燥してAA化PVA樹脂(1)を得た。 得られたAA化PVA系樹脂(1)のAA化度は5.3モル%、ケン化度は98.9モル%であり、平均重合度は1200であった。
【0051】
製造例2:グリオキシル酸ナトリウム
2Lの2口反応缶中の50%グリオキシル酸水溶液456g(3.10モル)に、20%水酸化ナトリウム水溶液645g(3.22モル)を加え、生じた白色結晶をろ過、水洗した後、50℃にて1時間乾燥して、グリオキシル酸ナトリウム210g(1.84モル、収率59.5%)を得た。
【0052】
製造例3:グリオキシル酸カルシウム
2Lの2口反応缶中の25%グリオキシル酸水溶液202g(0.68モル)に、20%酢酸カルシウム水溶液268g(0.34モル)を2時間かけて滴下し、生じた白色結晶をろ過、水洗した後、50℃にて1時間乾燥して、グリオキシル酸カルシウム70.3g(0.32モル、収率93.6%)を得た。
【0053】
実施例1
PETフィルム(東レ社製「ルミラーT60」、厚さ100μm)の一方の表面に対し、下記に示す条件にてプラズマ処理を施した。
装置 :積水化学社製「常圧プラズマ表面処理装置」
処理強度:28W/cm
搬送速度:1000mm/s
窒素流量:25mL/分
【0054】
次に、製造例1で得られたAA化PVA系樹脂(1)の10%水溶液100重量部に、架橋剤として製造例2で得られたグリオキシル酸ナトリウムを0.5重量部(AA化PVA系樹脂100重量部に対して5重量部)添加して混合撹拌し、防曇層形成用水性塗工液とした。
かかる塗工液を上記PETフィルムのプラズマ処理を施した面上に、100μmのアプリケーターで塗工し、105℃の熱風乾燥機中で5分間乾燥し、厚さ10μmの防曇層を有する防曇フィルムを得た。
得られた防曇フィルムを以下の要領で評価した。
【0055】
<防曇性>
磯矢硝子工業株式会社製No.3Kのマヨネーズ瓶に95℃の温水を10mL入れ、瓶の口の部分に防曇フィルムを防曇層が内側となるように置き、湯気によって曇るまでの時間を測定した。結果を表1に示す。
【0056】
<層間接着性>
防曇フィルムの防曇層上にスポイトで水滴を3滴滴下し、30分後の状態を目視観察し、以下の通り評価した。結果を表1に示す。
○:透明支持体層と防曇層との間に剥離は認められない。
×:透明支持体層と防曇層との間で剥離した。
【0057】
実施例2
実施例1において、グリオキシル酸ナトリウムの添加量を0.3重量部(AA化PVA系樹脂100重量部に対して3重量部)とした以外は実施例1と同様に防曇フィルムを作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0058】
実施例3
実施例1において、グリオキシル酸ナトリウムの添加量を1重量部(AA化PVA系樹脂100重量部に対して10重量部)とした以外は実施例1と同様に防曇フィルムを作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0059】
実施例4
実施例1において、グリオキシルナトリウムに代えて製造例3で得られたグリオキシル酸カルシウムを用いた以外は実施例1と同様に防曇フィルムを作製し、同様に層間接着性を評価した。結果を表1に示す。
【0060】
比較例1、2
実施例1、および4において透明支持体にプラズマ処理を施さなかった以外は実施例1、4と同様に防曇フィルムを作製し、同様に層間接着性を評価した。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
上記結果から、AA化PVA系樹脂のグリオキシル酸塩による架橋物を含有する防曇層を有する防曇フィルムは、優れた防曇性を示すものであった。また、透明支持体フィルムにプラズマ処理を施したものは、水滴が付着したとしても透明支持体層と防曇層とが層間剥離することはなく、優れた接着性を有するものであった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の防曇フィルムは、防曇製に優れ、さらに支持体層と防曇層が直接関層されているにも関わらず、両層の密着性が良好であり、吸湿などによる層間剥離がおこらないことから、ガラス等に貼付することで防曇性を付与することが可能であり、例えば、建築物の窓ガラス、洗面所や浴室の鏡、食品用ショーケース、各種ディスプレーなどに適用が考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明支持体層と、ポリビニルアルコール系樹脂の架橋物を含有する防曇層が直接積層された層構成を有する防曇フィルムであって、透明支持体フィルムの少なくとも一方の面をプラズマ処理した後、かかる処理面にアセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とグリオキシル酸塩を含有する塗工液を塗布、乾燥してなることを特徴とする防曇フィルム。
【請求項2】
透明支持体が、ポリエステル系樹脂を主成分とするものである請求項1記載の防曇フィルム。
【請求項3】
グリオキシル酸塩がグリオキシル酸のアルカリ金属塩である請求項1または2記載の防曇フィルム。
【請求項4】
防曇層の厚さが1〜1000μmである請求項1〜3いずれか記載の防曇フィルム。

【公開番号】特開2012−46554(P2012−46554A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186830(P2010−186830)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】