説明

防水工法

【課題】 防水性の向上と材料及び作業コストの低減を図り、現場作業を簡略化し防水面等例えばコンクリート等下地に亀裂が発生した場合においても、防水層への亀裂を生じさせることなく、防水層下面に空気を溜めることもなく、防水下地面の接合箇所に於て、防水下地材料が熱によって膨張収縮したり、地震その他の振動によって接合箇所となる突き合わせ目地の隙間寸法が微妙に変化することがあっても。防水層には亀裂を生じることの無い防水工法を提供することである。
【解決手段】 防水施工下地の接合箇所となる突き合わせ目地に幅40〜100mmの穴開き基布をで敷設し、その上面に建築用シーリング材を塗布して表面を平滑に押さえ、しかる後防水施工面に合成樹脂エマルジョン系防水材の下塗り材を塗布し乾燥後、スパン繊維クロスを敷設して、再度下塗り材を塗布してスパン繊維クロスを防水施工面に貼着し、しかる後スパン繊維クロス面に合成樹脂エマルジョン系防水材を塗布する防水工法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物の屋根、屋上、バルコニー、床等の防水施工に穴開き基布及びスパン繊維クロスを使用する防水工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来建造物の屋根、屋上、バルコニー、床等の防水施工に於て、室内への雨水の侵入を防止するため防水シートが使用されているが、これらの防水シートはすべて穴の開いていないシートであり、従来穴開き防水シートを用いた防水工法は、全く行なわれていなかった。
【0003】
本出願人は、穴開き防水シートを用いた防水施工の技術開発を数々行ない、そこで得た知見を基にして穴開き防水シートを用いた防水工法の技術に関して多数の特許出願を行なってきた。特開平10−96302に於て、防水シートに所定間隔で1〜10mmの穴を開けた穴開き防水シートを用いて、これを防水施工面に敷設し防水シートの穴の部分に接着剤を塗布して接着剤を穴の部分から流し込み防水シートの穴部分周辺のみを防水施工下地面に点接合させ、しかる後穴開き防水シート面に防水材を塗布する、穴開き防水シートとその防水工法の技術を開示している。
【0004】
特開2000−186400に於て、寒冷砂の折り目を3〜50mm間隔で大略2〜15mmの直径の穴とほぼ同程度の面積となるように拡大し、この寒冷砂に合成樹脂エマルジョンを塗布して編み目部分を固め、拡大した編み目部分が穴を開けた形となる穴開き防水シートを作製し、この穴開き防水シートを用いて防水施工を行なう穴開き防水シート及びその防水工法の技術を開示している。
【0005】
又、特開2000−213115に於て、発泡プラスチックシートを3〜50mm間隔で2〜15mmの直径の穴を開けた穴開き防水シート及びこの穴開き防水シートを用いた防水施工法を開示している。特開2000−336861に於ては、プラスチックフイルム又はプラスチック製合成紙に3〜50mm間隔で直径1.2〜15mmの穴を開けた穴開きプラスチックフイルム又は穴開き合成紙を防水施工面に敷設し、プラスチックフイルム又はプラスチック製合成紙の穴の部分に接着剤を塗布して接着剤を穴の部分から流し込み、プラスチックフイルム又は穴開き合成紙の穴部分周辺のみを防水施工下地面に点接合させ、しかる後プラスチックフイルム又は穴開き合成紙面に防水材を塗布する防水工法の技術を開示している。
【0006】
更に特開2001−12022に於て、織物に3〜100mm間隔で直径1.2〜15mmの穴を開けた織物式穴開きシート又はこの織物式穴開きシートを酢酸ビニルとコーンスターチの混合溶液に浸積又は塗布して含浸硬化させた織物式穴開きシートを防水施工面に敷設し織物式穴開きシートの穴の部分に接着剤を塗布して接着剤を穴の部分から流し込み、織物式穴開きシートの穴部分周辺のみを防水施工下地面に点接合させ、しかる後織物式穴開きシートに防水材を塗布する織物式穴開きシートを用いた防水工法を開示しいる。
【0007】
穴の開いていない一般の防水シートを用いる場合、防水シートを防水施工面に直接鋲やタッカー等の固定手段によって下地に打ち付けたり、防水シートに接着剤を塗布して下地に敷設固定している。しかし鋲やタッカー等の固定手段によって防水シートを敷設固定した場合、固定手段が外面にで露出しているばかりか、下地にまで固定手段が達しているため鋲やタッカーの穿孔から雨水が侵入し、雨漏りの大きな原因となっていた。
【0008】
防水シートの裏面全体を接着剤を使用して貼着するのは、熟練作業者でなければ塗布作業ができず、手間が係りこのためコストアップの大きな要因でもあった。防水シートの裏面全体を防水施工面に接着剤で貼付した場合、防水面例えばコンクリート等下地に亀裂が生じると防水シート及び防水シートの上面に施工されている防水層にまで亀裂が入り雨水の侵入を生ずることになる。防水シートを用いる場合に、防水シートの全面接着工法のほかに部分接着する貼張り工法、防水面の末端部のみを下地に接着する浮し張り工法、絶縁工法などがあるが、いずれも現場作業に手間が係りコスト低下を図ることはできず、脱気が完全に行なわれないため防水層の亀裂を防止することができなかった。
【0009】
アスファルト防水シートに穴開きの防水シートがあるが、その目的は空気を抜くいわゆる脱気を図るための穴である。アスファルト防水工法は、厚塗りにするため空気の溜まりができやすくアスファルト防水層の膨れや劣化の大きな原因となっていた。防水面例えばコンクリート等下地の亀裂はアスファルト防水層へも亀裂を生じさせることになる。従って空気を抜くための脱気の穴を必要とするのであり、本発明に於て使用する穴開き基布即ち穴開きテープ及びスパン繊維クロスは、穴開き防水シートとは全く異なるものであり、本発明になる穴開き基布即ち穴開きテープ及びスパン繊維クロスなどを用いた防水工法は、この様な心配の無い防水工法なのである。
【0010】
防水面等例えばコンクリート等下地に亀裂が生じた場合、或いは防水層下面に空気の溜まりを生じさせた場合には、防水層への亀裂を生じさせることになる。穴開き防水シートを使用した防水工法に於ては、防水面等例えばコンクリート等下地の亀裂に対して、追従することができるため、防水層への亀裂を防止することができるのである。又穴開き防水シートを用いた防水工法は、逆に空気が入っても良い防水工法であるため、脱気を完全に行うことによって防水層への亀裂を防止することができるのである。しかし防水下地面が例えばコンクリートパネル、珪カル板、合板等で構成されている場合、これ等防水下地面の接合箇所に於ては、防水下地材料が熱によって膨張収縮したり、地震その他の振動によって接合箇所となる突き合わせ目地の隙間寸法が微妙に変化することがある。このような微妙な変化によって防水層にも亀裂が生ずることがあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような課題に鑑み発明されたものであって、防水性の向上と材料及び作業コストの低減を図り、現場作業を簡略化し防水面等例えばコンクリート等下地に亀裂が発生した場合においても、防水層への亀裂を生じさせることなく、防水層下面に空気を溜めることもなく、防水下地面が例えばコンクリートパネル、珪カル板、合板等で、これ等防水下地面の接合箇所に於て、防水下地材料が熱によって膨張収縮したり、地震その他の振動によって接合箇所となる突き合わせ目地の隙間寸法が微妙に変化することがあっても。防水層には亀裂を生じることの無い防水工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記のごとき課題を解決するため、防水施工下地の接合箇所となる突き合わせ目地に幅40〜100mmの穴開き基布を敷設し、その上面に建築用シーリング材を塗布して表面を平滑に押さえ、しかる後防水施工面に合成樹脂エマルジョン系防水材の下塗り材を塗布し乾燥後、スパン繊維クロスを敷設して、再度下塗り材を塗布してスパン繊維クロスを防水施工面に貼着し、スパン繊維クロス面に合成樹脂エマルジョン系防水材を塗布する防水工法によって前記課題を解決することができたのである。
【0013】
本発明に使用する穴開き基布は、テープ状態即ち穴開きテープが好適である。即ち防水施工下地の接合箇所となる突き合わせ目地に、幅40〜100mmの穴開き基布を敷設するためには、穴開きテープの形態であることが現場作業を簡略化し、防水性の向上と材料及び作業コストの低減を図ることができるからである。穴開きテープはポリエステル製が好適で、穴開きテープの厚さは0.1〜0.5mmの範囲が好ましい。あまり厚いテープでは防水層に段差が生ずるため、美観上好ましくないからである。穴開きテープは防水施工下地の接合箇所となる突き合わせ目地に建築用シーリング材で貼着し、接合箇所となる突き合わせ目地の隙間寸法が微妙に変化することがあっても破れることはなく防水補強材としての効果を有している。
【0014】
穴開きテープの織方はレース状のラッセルでその幅は、40〜100mmが良い。40mmより狭いと防水補強材としての効果が出ず、100mm以上の幅で作業性が劣りコスト低減が図れないからである。
【0015】
穴開きテープを防水施工下地の接合箇所となる突き合わせ目地に敷設し、その上面に塗布する建築用シーリング材は、穴開きテープの微妙な動きに対して追随し更に防水補強材としての効果を向上させるものである。表面を平滑に押さえることによって、防水層に段差を生じせしめることを防止している。建築用シーリング材の材質は、変性シリコーン系樹脂が好ましく、塗り幅は穴開きテープの幅の約2倍程度として、穴開きテープの全面及び穴開きテープの両端を均等に塗布する。
【0016】
穴開きテープを防水施工下地の接合箇所となる突き合わせ目地に敷設し、その上面に建築用シーリング材を塗布して表面を平滑に押さえ、しかる後防水施工面に合成樹脂エマルジョン系防水材の下塗り材を塗布し乾燥させる。この下塗り材を塗布した上にスパン繊維クロスを敷設する。スパン繊維クロスに、合成樹脂エマルジョン系防水材の下塗り材を塗布して防水施工面に貼着し、下塗り材乾燥後スパン繊維クロスの上面に、合成樹脂エマルジョン系防水材を塗布する。
【0017】
スパン繊維クロスは、繊維クロスの一種でその材質は、合成繊維クロス、天然繊維クロス、無機質繊維クロスなどが使用できるが、平織のポリエステル繊維クロスが好適に使用できる。厚さは0.2〜0.3mmの範囲で、1インチに縦横共に20本程度の密度のものが好ましい。
【0018】
本発明に使用する合成樹脂エマルジョンは、アクリル系合成樹脂エマルジョン、酢酸系樹脂エマルジョン、塩化ビニル系合成樹脂エマルジョン、塩化ビニリデン系合成樹脂エマルジョン、スチレン・ブタジエン系合成樹脂エマルジョン、エポキシ系合成樹脂エマルジョン、及びアクリル酸エステル、スチレン、エチレン、ビニルエステル、酢酸ビニル、合成ゴム等と共重合したものなどである。
【0019】
例えばこれらの共重合したものとしてアクリル/酢酸ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/ビニルアルコール共重合体、エチレン/アクリル酸共重合体エンカビニリデン/ブチルアクリレート共重合体、などが挙げられる。
【0020】
合成樹脂エマルジョン系防水材には,合成樹脂エマルジョンのほかに、成膜助剤、増粘剤、エマルジョンの泡立て防止を図るための消泡剤、分散剤として各種の界面活性剤、凍結防止剤、顔料、骨材等を添加する。
【0021】
又必要に応じて合成樹脂エマルジョン系防水材の性状を向上させるため、エマルジョンを安定化させる乳化剤、弛み防止剤、更に性能を向上させる目的で撓み性を与える可塑剤、黴の発生を防止する殺菌剤等を添加しても良い。
【発明の効果】
【0022】
本発明になる防水施工下地の接合箇所となる突き合わせ目地に、幅50mmのテープを敷設し、その上面に建築用シーリング材を60〜100mm幅で塗布して表面を平滑に押さえ、しかる後防水施工面に合成樹脂エマルジョン系防水材の下塗り材を塗布し乾燥後、スパン繊維クロスを敷設して、再度下塗り材を塗布してスパン繊維クロスを防水施工面に貼着し、スパン繊維クロス面に合成樹脂エマルジョン系防水材を塗布する防水工法を行い、振動によって接合箇所となる突き合わせ目地の隙間寸法を微妙に変化させたが、防水層には亀裂を生じることが無く極めて優れた性能を有していることが実証された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明を実施する場合、防水施工下地の接合箇所となる突き合わせ目地に使用する穴開き基布は、テープ状の形態が作業性等の面から好ましく穴開きテープが好適である。これは現場作業を簡略化し、コスト低減を図ることができ非熟練の作業者にも容易に施工ができるからである。穴開きテープの幅は、40〜100mmの範囲が良いが、作業のし易さ及び振動等による寸法の微妙な変化に対して、防水層に亀裂を生じることが無く、防水補強材としての効果の点から、50〜60mmの範囲がより好適である。
【0024】
防水施工下地の接合箇所となる突き合わせ目地に、幅40〜100mmの穴開きテープを敷設し、その上面に塗布する建築用シーリング材は、JIS A 5758の規格に規定されているものであれば良く、変性シリコーン系樹脂が好適に使用でき、塗幅は60〜100mmが好適である。
【0025】
防水材に使用する合成樹脂エマルジョンは、アクリル系樹脂エマルジョン及びエチレン酢ビ系樹脂エマルジョンが好適に使用できる。合成樹脂エマルジョンに成膜助剤、増粘剤、消泡剤、分散剤、凍結防止剤、骨材、希釈調整水、顔料等を添加する。合成樹脂エマルジョン系防水材は、下塗り材、中塗り材、保護防水材、上塗り材で構成されている。このうち下塗り材及び保護防水材は2回塗とする。
【0026】
スパン繊維クロスは、平織のポリエステル繊維クロスが好適に使用できる。厚さは0.2〜0.3mmの範囲で、1インチに縦横共に20本程度の密度のものが好ましい。
【実施例】
【0027】
本発明の実施例を図面を基にして詳述する。
【0028】
図1は、木製の下地で寸法が36×36mmの米松垂木を使用した垂木伏図である。この上に下張り野地板として、厚さ12mmの構造用合板を釘打ちしたのが図2の構造用合板下張り伏図である。図3は、構造用合板下張り伏図の上に上張り野地板として厚さ12mmの構造用合板を、試験のため移動できるよう仮止めした。そして幅50mmの穴開きテープを、防水施工下地である上張り野地板の接合箇所となる突き合わせ目地に敷設し、その上に60〜100mm幅で変性シリコーン系樹脂の建築用シーリング材を塗布し、表面を平滑に押さえた。この上にアクリル系合成樹脂エマルジョンからなる防水材の下塗り材を塗布し、乾燥後その上に、平織のポリエステル繊維クロスからなるスパン繊維クロスを防水施工面に貼着して、再度下塗り材を塗布したのが図4である。しかる後スパン繊維クロスの上に、アクリル系合成樹脂エマルジョンからなる防水材の中塗り材を1回塗布、保護防水材を2回塗布、上塗材を1回塗布した。図5は、これ等実施例の防水施工を示した切り欠き斜視図である。
【0029】
実施例に於て作製した防水施工の屋根構造材の防水施工下地である上張り野地板を、その接合箇所となる突き合わせ部の目地幅を約1.5mm大きくなるよう強制的に動かした。しかし、目地幅の移動に対して、穴開きテープ及び建築用シーリング材が吸収し、上部の防水層には影響を及ぼすことなく、亀裂を生じることはなかった。防水下地面の接合箇所に於て、防水下地材料が熱によって膨張収縮したり、地震その他の振動によって接合箇所となる突き合わせ目地の隙間寸法が微妙に変化することがあっても、防水層には亀裂を生じることの無い防水工法であることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明になる防水施工に穴開きテープ及びスパン繊維クロスを使用する防水工法は、建造物の屋根、屋上、バルコニー、床等の防水工事に対して、漏水の生じない完全な防水施工として、大幅にその利用を拡大することができた。防水下地面の接合箇所に於て、防水下地材料が熱によって膨張収縮したり、地震その他の振動によって接合箇所となる突き合わせ目地の隙間寸法が微妙に変化することがあっても、防水層には亀裂を生じることの無い充分信頼性に耐えられるものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】垂木伏図
【図2】合板下張り野地板伏図
【図3】合板上張り野地板伏図
【図4】スパン繊維クロス伏図
【図5】実施例防水施工切り欠き斜視図
【符号の説明】
【0032】
1.木製垂木
2.合板下張り野地板
3.合板上張り野地板
4.穴開きテープ
5.建築用シーリング材
6.突き合せ目地
7.スパン繊維クロス
8.釘
9.下塗り材
10.中塗り材
11.保護防水材
12.上塗り材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防水施工下地の接合箇所となる突き合わせ目地に、幅40〜100mmの穴開き基布を敷設し、その上面に建築用シーリング材を塗布して表面を平滑に押さえ、しかる後防水施工面に防水材の下塗り材を塗布し乾燥後、スパン繊維クロスを敷設して、再度下塗り材を塗布してスパン繊維クロスを防水施工面に貼着し、このスパン繊維クロス面に防水材を塗布することを特徴とする防水工法。
【請求項2】
防水材が合成樹脂エマルジョン系防水材であることを特徴とする請求項1記載の防水工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−9546(P2006−9546A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−216574(P2004−216574)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(392031158)株式会社リボール (8)