説明

防水靴及びその製造方法

【課題】本発明は、従来のセメンテッド方式の靴の製造において、吊り込み時の接着構造が簡単で作業性に優れ、防水機能を向上させた防水靴及びその製造方法を提供する。
【解決手段】表甲被材(1)の裏面に防水透湿フィルム層(2)を積層しライニング材(3)を重ねた甲被材(10)と、防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)を靴底接着面に一定厚みラミネートした中底材(5)を用い、防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)に甲被材(10)を吊り込み、防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)が溶融する温度により甲被材(10)を自己接着させた。
防水機能を備えた防水靴及びその製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防水靴及びその製造方法に関するものである。
本発明は、従来のセメンテッド方式の靴の製造において、甲被材の吊り込み時の中底材への接着構造及び製法に着目し、構造が簡単で作業性に優れ防水機能を向上させた防水靴を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のセメンテッド方式での防水靴吊り込み部の接着構造おいては、表甲被材の裏面に防水透湿フィルム層を積層しライニングを重ねた甲被材において防水透湿フィルム層とライニング材の周縁部を表甲被材の周縁部よりはみ出した吊り込み縁を中底材に塗布した接着剤により接着させる製法(特開2002-153301)または、ホットメルトによる接着(特開平8-299015)を用いることが多い。
【0003】
ガスケット法として防水フィルムまたは防水性熱可塑性ポリマーでコーティングされたポリエステル不織布(特表平9-500295)でシールドすることになるが、この場合、甲被材と中底材との接着剤の塗布量の均一性等、作業性に問題がある。
また、靴底材との接着性考慮するため吊り込み縁のバフ作業を行うことにより甲被材強度の低下及び防水透湿フィルムの損傷による防水機能の低下が考えられる。
さらに、吊り込み時の甲被材においてはラストの湾曲部において歪によるシワが発生し、接着時での凹凸が発生することとなる。
また、流動性の高い接着剤を甲被材と底材との隙間に充填する方法(特表平10-507380)においても同様に接着性及び作業の長期化及び複雑化などの問題が発生すると考えられる。
【0004】
従来の表甲被材の裏面に防水層を積層しライニング材を重ねた甲被材において防水透湿フィルム層とライニング材の周縁部を表甲被材の周縁部よりはみ出した吊り込み縁を中底材に接着した後、ガスケット法として防水フィルム等を接着した場合、水が、毛細管引力により表甲被材を介して中底材に移行し靴内部に浸透する現象が発生することが考えられる。
【0005】
毛細管引力により表甲被材を介して中底材に移行し靴内部に浸透する現象を解消するため、中底材下面に塩化ビニル、ポリウレタン、フッ素系の合成樹脂、ゴム等を塗布形成またはこれらのフィルムをラミネートする防水性中底材を用いる(特開平8-196305)が、吊り込み時の甲被材の接着は上記のような問題を発生させることが考えられる。
【0006】
【特許文献1】特開2002−153301号公報
【特許文献2】特開平08−299015号公報
【特許文献3】特開平08−196305号公報
【特許文献4】特表平10−507380号公報
【特許文献5】特表平09−500295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、これらの欠点を除去し、甲被材をラストに吊り込で靴底と接着させたセメンテッド方式の防水靴の製造において、構造が簡単で防水機能を向上させた防水靴を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、表甲被材の裏面に防水透湿フィルム層を積層しライニング材を重ねた甲被材を吊り込んで裏打ちし靴底を接着したセメンテッド方法の防水靴において、中底下面に防水性と自己接着性を持つ防水性低融点熱可塑性樹脂層を一定厚さに全面ラミネートした中底材を用いた構造を持つことを特徴とする防水靴である。
そして、低融点熱可塑性樹脂層を一定厚さに全面ラミネートした中底材を予め作成しておき、それに甲被材を吊り込んで裏打ちし、少なくとも吊り込み縁に当たる防水性低融点熱可塑性樹脂層を熱溶融して、甲被材と中底材を溶着接合したことを特徴とする防水靴およびその製造方法を提供する。
【0009】
表甲被材は、天然皮革、人工皮革及び織物等の素材である。
この中底材は、不織布、合成樹脂、パルプボード、ゴム、レザーボードまたはこれらの2種以上を積層又は中継ぎしたもので形成されたものである。
【0010】
防水性低融点熱可塑性樹脂は、エチレンビニルアセテート、ポリウレタン、ポリプロピレン等で構成されており70〜120℃の融点を持ち良好な耐水性、耐薬品性、伸縮性、弾性によって着用時の屈曲に耐え長期に亘って防水性を保持するものである。
【0011】
防水性低融点熱可塑性樹脂の中底材へのラミネートは0.5〜3.0mm程度の厚みを持ち、吊り込み時に表甲被材の裏面に防水透湿フィルム層を積層しライニング材を重ねた甲被材を溶融により甲被材中に浸透し、バフ作業により損傷した甲被材からの水の浸透を阻止する働きが考えられる。
防水性低融点熱可塑性樹脂の中底材へのラミネートは、その全体ではなく、一定の厚みをもって縁周部分の一定幅にのみラミネートし、縁周内には厚さを均等にするための他のフィルム素材を形成する構成でも、水の浸透を阻止することが考えられる。
【0012】
防水性低融点熱可塑性樹脂のもつ自己接着性により、従来の表甲被材の裏面に防水透湿フィルム層を積層しライニング材を重ねた甲被材吊り込み時のシワの発生を、防水性低融点熱可塑性樹脂で浸透及び被覆することにより歪による凹凸を解消し、靴底の接着性を向上させることが可能であると考えられる。
【0013】
従来の工程においては甲被材を吊り込み接着後、流動性の高いシーリング材を吊り込み縁と中底材の間の隙間に充填される作業を行うものもあるが、本発明の接着構造を使えばシーリング効果も期待され作業自体の簡素化及び作業時間の短縮も可能となる。
【0014】
さらに、防水性機能が必要な靴においてはガスケット法を用い、防水性低融点熱可塑性樹脂シートを吊り込み縁全面にシールドをすることにより、シーリング効果もさらに向上し防水性能が優れると考えられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の防水靴及びその製造方法は、セメンテッド方式の靴の製造において、甲被材の吊り込み時の中底材への接着構造及び製法に着目し、中底材に防水性低融点熱可塑性樹脂を0.5〜3.0mm程度ラミネートすることで溶融による自己接着で、従来の接着剤を塗布する工程によるバラツキ、また、吊り込み時の甲被材のシワにともなう隙間や甲被材のバフ作業による防水効果の低下を防水性低融点熱可塑性樹脂の浸透により改善し、作業工程の簡素化及び作業時間の短縮化、防水性能の向上ができると考えられる。
【0016】
中底材として不織布を用いた場合、耐水性(JIS L 1092 静水圧法)は非常に低い数値を示し、また繊維の毛細管現象により実質的な防水性は認められない。
しかし、本発明を実施した防水靴を検証すると、大幅な耐水性能の改善が確認され、さらにラミネートの厚みを増やすことにより耐水圧も相関して増大することが確認された。
【0017】
また、耐水持続性においても防水性低融点熱可塑性樹脂層をラミネートすることにより繊維の毛細管現象も軽減され水の浸透を防ぐ効果も確認された。
さらにパルプボードやレザーボード等は瞬時の耐水圧はそれなりの数値は示すものの毛細管現象により経時的に水の浸透は顕著に発生する。
【0018】
防水性低融点熱可塑性樹脂としてエチレンビニルアセテートを不織布中底材に0.5mmラミネートした中底材では、簡易試験として実施靴の甲被材と底材の接着部位よりも 高い水位になるように設定した水槽に24時間浸漬した場合においても実施靴の甲被材と底材の接着部位からの水漏れは確認されなかった。
【0019】
さらに、防水性低融点熱可塑性樹脂シートで吊り込み縁全面を覆うことにより水の浸透する隙間を完全に埋めることにより防水機能の優れた防水靴を提供することが可能であると考えられる。
以上のように防水性がきわめて高いという技術的効果が顕著である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、表甲被材(1)の裏面に防水透湿フィルム層(2)を積層しライニング材(3)重ねた甲被材(10)を、防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)をラミネートした中底材(5)に接着する前の工程を示すものである。
つまり、予め甲被材(10)として、表甲被材(1)に防水透湿フィルム層(2)を積層しライニング材(3)を重ねたものを作成する。
一方、中底材(5)の裏面全面に防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)をラミネートしておく。
防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)は、一定の厚みをもって均等にラミネートされているので中底材(5)は全体が同じ厚さとなる。
防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)の「一定厚み」とは、吊り込む甲被材(10)の厚さを包含できる一定の厚さを意味し、この一定の厚みの中に甲被材(10)の吊り込み部が、露出することなく埋め込まれる厚さである。
必要以上に厚くすることはないが、防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)は、0.5〜3.0mmである。
そして、甲被材(10)を、中底材(5)の防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)に吊り込み接着する。
【0021】
図2は、表甲被材(1)にライニング材(3)の裏面に防水透湿フィルム層(2)を積層し重ねた甲被材(10)を、防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)をラミネートした中底材(5)に吊り込み後、ヒートセットされ、自己接着された防水靴の断面図である。
防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)は、所定融点で溶融して自己接着性を有し、他に特段の手段を講じなくとも接着し接着を維持できる。
【0022】
図3は、表甲被材(1)にライニング材(3)の裏面に防水透湿フィルム層(2)を積層し重ねた甲被材(10)を、防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)をラミネートした中底材(5)に吊り込み後、ヒートセットされ、自己接着された後、さらにガスケット法を用い防水性低融点熱可塑性樹脂シート(6)で覆った防水靴の要部断面図である。
【実施例1】
【0023】
図1に示すように、防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)を一定厚み(1mm)で全面にラミネートした中底材(5)を準備し、一方表甲被材(1)の裏面に防水透湿フィルム層(2)を積層しライニング材(3)を重ねた甲被材(10)を準備した。
【0024】
前記防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)は、溶融することにより甲被材(10)と中底材(5)を圧着させることが可能な厚みを有した有機系熱可塑性ポリマーで、エチレンビニルアセテート、ポリウレタン、ポリプロピレン等で構成されており、熱圧着時に甲被材(10)を損傷しない融点70〜120℃により自己接着が可能であることが特徴である防水性低融点熱可塑性樹脂である。
【0025】
そして、防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)は、中底材(5)の風合いを損なうことのない柔軟性且つ剛性をもつ有機系熱可塑性ポリマーである。
【0026】
図2のように、甲被材(10)を中底材(5)の下面に吊り込み、次いで防水性低融点熱可塑性樹脂を溶融させることにより甲被材(10)と中底材(5)とを自己接着させ、樹脂の溶融で甲被材(10)と中底材(5)とへ浸透してゆき、接合しかつ防水機能を備えることになる。
【0027】
このようにして、表甲被材(1)の裏面に防水透湿フィルム(2)とライニング材(3)を積層して貼りあわせた甲被材(10)を、防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)を一定厚み全面ラミネートした中底材(5)に吊り込み、防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)を溶融させることにより自己接着させた防水機能を備えた防水靴を提供できる。
【0028】
さらには、より堅固な防水機能を付与するために、ガスケットシートとして防水性低融点熱可塑性樹脂シート(6)を用いて、溶融した吊り込み縁(51)全周囲をさらに被うように全面に接着させて、溶融成型して防水した防水靴を提供できる。
【0029】
なお、防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)をラミネートした中底材(5)は、甲被材(10)の吊り込み縁(51)を熱圧着させた際、靴底材との接着に適した均一なフラット性を備えた厚みを有していることが必要である。
全面に防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)を形成する場合も、縁周囲に一定幅で防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)を形成する場合も、均一なフラット性を備える対応が採られる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
このような構成の、防水靴及びその製造方法は、防水性低融点熱可塑性樹脂層を予め中底材の裏面に形成しておき、甲被材を吊り込んで熱溶着するものであるので、製造が簡易で水漏れの無い防水機能の高い防水靴を提供できるものである。
雨靴、カジュアルシューズ、ビジネスシューズ等の一般的な靴に適用できる製法であり、そのほか業務用の防水靴などにも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る防水靴及びその製造方法において、防水靴の製造方法の実施例を示すものであって、甲被材と中底材の吊り込み接合工程を示す説明図。
【図2】同じ実施例を示すもので、甲被材を中底材の防水性低融点熱可塑性樹脂層に吊り込み後、溶融した状態を示す工程説明図。
【図3】同じ実施例を示すもので、甲被材を中底材の防水性低融点熱可塑性樹脂層に吊り込み後溶融し、さらに、防水性低融点熱可塑性樹脂シートを付して溶融した状態を示す工程説明図。
【符号の説明】
【0032】
1 表甲被材
2 防水透湿フィルム層
3 ライニング材
10 甲被材
4 防水性低融点熱可塑性樹脂層
5 中底材
6 防水性低融点熱可塑性樹脂シート






【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏面に防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)を一定厚みでラミネートした中底材(5)に、表甲被(1)の裏面に防水透湿フィルム層(2)を積層しライニング材(3)を重ねた甲被材(10)を、前記防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)に吊り込み、その吊り込み縁(51)を溶融させることにより自己接着させ、防水機能を備えたことを特徴とする防水靴。
【請求項2】
中底材(5)に防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)を一定厚みで全面にラミネートしておき、表甲被(1)の裏面に防水透湿フィルム層(2)を積層しライニング材(3)を重ねた甲被材(10)を前記中底材(5)に吊り込み接合し、その吊り込み縁(51)を前記防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)を溶融させることにより自己接着させることを特徴とする防水靴の製造方法。
【請求項3】
前記請求項1又は請求項2において、前記防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)を溶融して接着した吊り込み縁(51)を、さらに防水性低融点熱可塑性樹脂シート(6)で下面全面を被って自己接着させたことを特徴とする請求項1、請求項2のいずれかに記載の防水靴又は防水靴の製造方法。
【請求項4】
前記中底材(5)にラミネートする防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)は、天然皮革、人工皮革及び織物等の表甲被材(1)、防水透湿フィルム層(2)、ライニング材(3)からなる甲被材(10)を溶融することにより圧着させることが可能な厚みを有した柔軟性且つ剛性をもつ有機系熱可塑性ポリマーで、エチレンビニルアセテート、ポリウレタン、ポリプロピレン等で構成されており、熱圧着時に甲被材(10)を損傷しない融点70〜120℃により自己接着が可能であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の防水靴又は防水靴の製造方法。
【請求項5】
全面に防水性低融点熱可塑性樹脂層(4)をラミネートした中底材(5)は、甲被材(10)の吊り込み縁(51)を熱圧着させた際、靴底材との接着に適した均一なフラット性を備えた厚みを有していることを特徴とする中底材(5)である請求項1〜請求項5のいずれかに記載の防水靴又は防水靴の製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−218154(P2006−218154A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−35677(P2005−35677)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(000149620)株式会社大裕商事 (5)
【Fターム(参考)】