説明

防汚性塗料用樹脂の製造方法、および防汚性塗料用樹脂

【課題】指紋拭き取り性、耐擦傷性、平滑性に優れ、十分な塗膜硬度を有する塗膜を形成できる塗料用の樹脂を少ない工程数で製造する方法の提供。
【解決手段】コロイダルシリカ(A)およびアゾ系重合触媒(B)の存在下で、アミド基を有するモノマー(c1)と、重合性シランカップリング剤(c2)とを含む重合性モノマー混合物(C)を重合することを特徴とする防汚性塗料用樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚性塗料用樹脂の製造方法、および防汚性塗料用樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内装品や各種ディスプレイなどのプラスチック製品は、人の手が触れやすいため、指紋等の汚れが付きやすい。そのため、このようなプラスチック製品の表面は防汚性を有するコーティング材で保護される場合が多い。
防汚性を有するコーティング材としては、コロイダルシリカを含む塗料が提案されている(例えば特許文献1、2参照。)。
特に、コロイダルシリカを一次粒子の状態で分散させた塗料より得られる塗膜は、防汚性(特に指紋拭き取り性)に加え、平滑性が高く、耐擦傷性に優れ、十分な塗膜高度をも有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−49236号公報
【特許文献2】特開2001−287308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、コロイダルシリカは塗料中での分散状態が悪く、二次凝集しやすかった。コロイダルシリカが二次凝集すると、この二次凝集がブツとなって塗料や塗膜に現れ、塗膜の平滑性が低下しやすかった。
【0005】
また、コロイダルシリカを含む塗料を製造する際は、コロイダルシリカの二次凝集を防ぐため、通常、塗料の主成分となる熱硬化性樹脂(塗料用の樹脂)を調製する工程(重合工程)と、得られた熱硬化性樹脂にコロイダルシリカを分散させる工程(分散工程)の少なくとも2工程を経る必要があり、手間がかかっていた。
しかし、重合工程と分散工程の2工程に分けて塗料を製造しても、コロイダルシリカが塗料中で二次凝集せずに一次粒子の分散状態を維持することは容易ではなかった。そのため、塗料の製造過程でブツが生じた場合にはブツ除去のためにろ過をしたり、塗料タンクを洗浄したりする必要があった。
【0006】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、指紋拭き取り性、耐擦傷性、平滑性に優れ、十分な塗膜硬度を有する塗膜を形成できる塗料用の樹脂を少ない工程数で製造する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の防汚性塗料用樹脂の製造方法は、コロイダルシリカ(A)およびアゾ系重合触媒(B)の存在下で、アミド基を有するモノマー(c1)と、重合性シランカップリング剤(c2)とを含む重合性モノマー混合物(C)を重合することを特徴とする。
また、前記コロイダルシリカ(A)、アゾ系重合触媒(B)および重合性モノマー混合物(C)を混合した後に、重合性モノマー混合物(C)を重合することが好ましい。
さらに、前記重合性モノマー混合物(C)100質量部に対して、コロイダルシリカ(A)を固形分換算で15〜23質量部用いることが好ましい。
また、前記重合性モノマー混合物(C)100質量%中、アミド基を有するモノマー(c1)を17.0〜55.0質量%、重合性シランカップリング剤(c2)を0.1〜3.0質量%含むことが好ましい。
さらに、前記重合性モノマー混合物(C)は、当該モノマー混合物(C)100質量%中、フッ素含有モノマー(c3)を0.1〜30.0質量%含むことが好ましい。
また、本発明の防汚性塗料用樹脂は、前記いずれかの方法で製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、指紋拭き取り性、耐擦傷性、平滑性に優れ、十分な塗膜硬度を有する塗膜を形成できる塗料用の樹脂を少ない工程数で製造する方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の防汚性塗料用樹脂(以下、単に「塗料用樹脂」という。)の製造方法は、コロイダルシリカ(A)(以下、「(A)成分」という。)およびアゾ系重合触媒(B)(以下、「(B)成分」という。)の存在下で、重合性モノマー混合物(C)(以下、「(C)成分」という。)を重合することを特徴とする。
【0010】
(A)成分は、コロイダルシリカである。
(A)成分は、通常、有機溶剤に分散した状態で用いる。有機溶剤としては、得られる塗料用樹脂の特性や重合性に適した溶剤が選ばれる。例えばメタノール、イソプロパノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。
このような(A)成分としては、市販品を使用できる。例えば日産化学工業株式会社製の「スノーテックスシリーズ」、扶桑化学工業株式会社製の「クォートロンPLシリーズ」などが好適である。
【0011】
重合の際に用いる(A)成分の使用量は固形分換算で、後述する(C)成分100質量部に対して15〜23質量部であることが好ましい。(A)成分の使用量が15質量部以上であれば、得られる塗料用樹脂を含む塗料より形成される塗膜の指紋拭き取り性および耐擦傷性が向上する。一方、(A)成分の使用量が23質量部以下であれば、製造過程や得られる塗料用樹脂中での(A)成分の分散性を良好に維持できる。また、製造コストの上昇を抑制できる。
【0012】
(B)成分は、アゾ系重合触媒である。
ところで、アミド基を有するモノマー(c1)を含む(C)成分の重合は、過度に発熱しやすく重合反応が暴走する傾向にある。一般的に、重合触媒として過酸化物系重合触媒を用いた場合、重合反応の暴走は顕著である。
アミド基と同様に窒素原子を含むアゾ系重合触媒は、重合時に過度に発熱するのを抑制でき、重合反応の暴走を防ぐことが知られている。従って、重合触媒として(B)成分を用いることで、アミド基を有するモノマー(c1)を含む(C)成分を重合したときに、重合反応を円滑に進行できる。
【0013】
(B)成分としては、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1、1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(2,4,4―トリメチルペンタン)などが挙げられる。
【0014】
重合の際に用いる(B)成分の使用量は、本発明の属する分野で通常行われる重合反応において一般的とされる量であり、具体的には後述する(C)成分100質量部に対して0.1〜10.0質量部程度である。
【0015】
(C)成分は、重合性モノマー混合物であり、アミド基を有するモノマー(c1)(以下、「(c1)成分」という。)と、重合性シランカップリング剤(c2)(以下、「(c2)成分」という。)とを含む。
(c1)成分は、アミド基を有するモノマーであり、(A)成分の分散性を向上させる役割を果たす。従って、(c1)成分を用いることで、(A)成分が二次凝集することなく(A)成分の存在下で(C)成分を重合させることができる。よって、(C)成分を重合した後に(A)成分を分散させる必要がなく(すなわち、重合工程と分散工程の2工程に分ける必要がなく)、工程数を1工程に削減できる。また、得られる塗料用樹脂中での(A)成分の分散性も向上するので、(A)成分が一次粒子のまま分散した状態を保つことができる。よって、ブツの発生が抑制され、塗料用樹脂を含む塗料より形成される塗膜の耐擦傷性および平滑性が向上すると共に、塗膜の硬度も良好に維持できる。
【0016】
(c1)成分を用いることで(A)成分の分散性が向上する理由は定かではないが、以下のように考えられる。
すなわち、(c1)成分はカチオン性モノマーであるため、プラスに近い電荷を帯びている。一方、(A)成分はマイナスに帯電しているので、一次粒子の(A)成分の周りに(c1)成分が引き寄せられやすい。その結果、(A)成分の二次凝集が妨げられ、分散性が向上する。
【0017】
(c1)成分としては、アミノ基を有するモノマーであればカチオン性を示すので特に制限されないが、例えば(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。これらは1種もしくは2種以上を併用してもよい。
なお、本発明において「(メタ)アクリルアミド」とは、メタクリルアミドとアクリルアミドの両方を示すものとする。
【0018】
(c1)成分の含有量は、(C)成分100質量%中、17.0〜55.0質量%であることが好ましく、より好ましくは22.0〜52.0質量%である。(c1)成分の含有量が17.0質量%以上であれば、(A)成分の分散性を良好に維持できる。一方、(c1)成分の含有量が55.0質量%以下であれば、重合の際に過度に発熱するのを抑制でき、重合反応が暴走するのを防げる。
【0019】
(c2)成分は重合性シランカップリング剤であり、架橋剤の役割を果たす。
(c2)成分としては、例えばビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ジアリルジメチルシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクロリキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクロリキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。これらは1種もしくは2種以上を併用してもよい。
【0020】
(c2)成分の含有量は、(C)成分100質量%中、0.1〜3.0質量%であることが好ましい。(c2)成分の含有量が0.1質量%以上であれば、(c1)成分等が十分に架橋するので、塗料用樹脂を含む塗料より形成される塗膜の強度が強まる。一方、(c2)成分の含有量が3.0質量%以下であれば、重合の際にゲル化が起こるのを抑制できる。
【0021】
(C)成分は、上述した(c1)成分および(c2)成分以外に、フッ素含有モノマー(c3)(以下、「(c3)成分」という。)を含むことが好ましい。(c3)成分を含む(C)成分を用いることで、塗料用樹脂を含む塗料より形成される塗膜の指紋拭き取り性がより向上する。
(c3)成分としては、例えば2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルアクリレート、1H、1H、5H−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは1種もしくは2種以上を併用してもよい。
【0022】
(c3)成分の含有量は、(C)成分100質量%中、0.1〜30.0質量%であることが好ましい。(c3)成分の含有量が0.1質量%以上であれば、塗料用樹脂を含む塗料より形成される塗膜の指紋拭き取り性を向上させる効果を十分に発揮できる。一方、(c3)成分の含有量が30.0質量%以下であれば、(c3)成分を含む(C)成分の、重合の際に使用する有機溶剤等の反応溶剤に対する溶解性を良好に維持できる。
【0023】
(C)成分は、さらに他のモノマー(c4)(以下、「(c4)成分」という。)を含んでもよい。
(c4)成分としては、塗料用の樹脂バインダーとして用いられる一般的な重合性モノマーであれば特に制限されないが、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アルキルビニルエーテル、ビニルトルエン、ビニルピリジン、ビニルピロリドン、イタコン酸ジアルキルエステル、フマル酸ジアルキルエステル、アリルアルコール、アクリルクロライド、メチルビニルケトン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルビニルケトン等が挙げられる。これらは1種もしくは2種以上を併用してもよい。中でも、塗膜の耐擦傷性をより向上させる点で、メチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸が好ましい。
なお、本発明において「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートの両方を示すものとし、「(メタ)アクリロニトリル」とは、メタアクリロニトリルとアクリロニトリルの両方を示すものとし、「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸とアクリル酸の両方を示すものとする。
【0024】
塗料用樹脂は、上述した(A)成分および(B)成分の存在下で(C)成分を重合することで得られる。
重合の方法としては公知の方法を用いることができ、例えば懸濁重合、溶液重合、乳化重合、塊状重合などが挙げられる。中でも有機溶剤中で重合を行う溶液重合が好ましい。
【0025】
重合の手順としては、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の全てを混合した後に重合するのが好ましい。その際、反応器中で(A)〜(C)成分の全てを混合し、そのまま重合を開始してもよいし、(A)〜(C)成分の全てを混合した混合液を反応器中に滴下しながら重合してもよい。
また、重合の手順としては上述した以外にも、反応器中に(A)成分または(C)成分を滴下しながら重合してもよいし、(A)成分と(C)成分をそれぞれ滴下しながら重合してもよい。滴下しながら重合する場合は、反応器中に滴下しない残りの成分と必要に応じて有機溶剤とを予め仕込んでおき、そこに(A)成分および/または(C)成分を滴下しながら重合するのが好ましい。
これらの手順の中でも、作業性や(A)成分の凝集防止の効果を考慮すると、(A)〜(C)成分の全てを混合した後に重合するのが特に好ましい。
【0026】
重合の条件としては特に制限されず、(C)成分の種類や量によって反応温度や反応時間を適宜設定すればよいが、通常、反応温度70〜85℃、反応時間4〜10時間である。
また、混合液、あるいは(A)成分および/または(C)成分を滴下しながら重合する場合、滴下時間は2〜4時間程度である。なお、上述した反応時間は、滴下が完了してから反応が終了するまでの時間である。
【0027】
重合の際に用いる有機溶剤としては、(C)成分を溶解せきればよく、例えばトルエン、キシレン、n−へキサン、シクロヘキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、第2ブチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の炭化水素系溶剤などが挙げられる。これらは1種もしくは2種以上を併用してもよい。
【0028】
本発明によれば、(A)成分が二次凝集することなく(A)成分の存在下で(C)成分を重合させることができる。よって、(C)成分を重合した後に(A)成分を分散させる必要がなく(すなわち、重合工程と分散工程の2工程に分ける必要がなく)、工程数を1工程に削減して塗料用樹脂を製造できる。また、(A)成分の分散性を良好に維持できるので、ブツの発生が抑制される。従って、製造過程においてろ過する手間が省け、塗料タンクを洗浄する場合には容易に洗浄できる。
【0029】
このようにして得られた塗料用樹脂は、通常、任意の濃度になるように有機溶剤で希釈して、塗料として使用する。また、溶液重合で重合を行う場合、塗料用樹脂は有機溶剤中に分散した状態で得られる。これをそのまま塗料として使用してもよいし、さらに有機溶剤で希釈してから使用してもよい。
希釈に用いる有機溶剤としては、重合の際に用いる有機溶剤として先に例示した炭化水素系溶剤などが挙げられる。重合の際に有機溶剤を用いる場合は、同じ種類の有機溶剤で希釈するのが好ましい。
【0030】
また、塗料用樹脂や有機溶剤で希釈した塗料用樹脂に、必要に応じて、塗料用として通常用いられる顔料、充填剤、可塑剤、表面調整剤、分散剤、塗面調製剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などの任意成分を添加し、これを塗料として使用してもよい。
これら任意成分の添加量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とすることができる。
【0031】
本発明の塗料用樹脂は、(A)成分の分散性が良好であり一次粒子の状態を保つことができる。よって、塗料に使用すれば、指紋拭き取り性、耐擦傷性、平滑性に優れ、十分な塗膜硬度を有する塗膜を形成できる。
本発明の塗料用樹脂は、自動車の内装品や各種ディスプレイなど、人の手が触れやすいプラスチック製品のコーティング材として好適である。
また、本発明の塗料用樹脂を含む塗料は、少ない工程数で製造できる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0033】
[実施例1]
<塗料用樹脂および塗料の製造>
冷却器、温度計、モノマー滴下装置、および攪拌機を備えた2Lの4つ口フラスコに、(A)成分としてコロイダルシリカ(日産化学工業株式会社製、「スノーテックスIPA−ST」、コロイダルシリカ30質量%含有イソプロパノール分散液)50.0質量部(固形分換算で15.0質量部)と、(B)成分として2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(ABN−E)1.0質量部と、(c1)成分としてN,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA)25.5質量部、(c2)成分として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)0.1質量部、(c3)成分として2,2,2−トリフルオロエチルメタアクリレート(フッ素含有モノマー)5.0質量部、(c4)成分としてメチルメタクリレート(MMA)27.9質量部、n−ブチルアクリレート(BA)4.8質量部、メタクリル酸(MAA)0.2質量部、n−ブチルメタクリレート(n−BMA)36.5質量部と、有機溶剤として酢酸エチル97.0質量部、イソプロパノール30.0質量部とを仕込み、フラスコ内温を75℃に昇温し、この温度を維持できるように冷却しながら発熱を抑え、1時間重合反応を行った後、80℃に昇温し2時間重合反応を行った。ついで、未反応のモノマーを処理するため、ABN−Eを0.5質量部投入し80℃で3時間重合反応を行い、有機溶剤に分散した状態の塗料用樹脂を得た。
重合反応終了後、50℃まで冷却し、酢酸エチル10.0質量部およびイソプロパノール15.0質量部を投入して希釈し、塗料用樹脂を含む塗料を得た。得られた塗料について、以下に示す評価を実施した。結果を表1に示す。
【0034】
<評価>
(分散性の評価1:初期分散性)
塗料をガラス板にアプリケーターまたはバーコーターで塗布し、乾燥させて塗膜(膜厚20μm)を形成した。得られた塗膜を目視にて観察し、以下の評価基準にて分散性を評価した。
○:ブツの発生がなく、透明である。
△:若干濁りがある。
×:ブツが発生し、完全に濁っている。
−:評価せず。
【0035】
(分散性の評価1:50℃×1ヶ月後の分散性)
塗料を密閉容器に入れ、50℃に設定した恒温槽中で1ヶ月間放置した。放置後の塗料の分散性について、分散性の評価1と同様にして評価した。
【0036】
(耐擦傷性の評価)
塗料をガラス板にアプリケーターまたはバーコーターで塗布し、乾燥させて塗膜(膜厚20μm)を形成した。得られた塗膜の表面を荷重1kgで1000往復擦った。擦った箇所について色差計を用いグロス値を測定し、以下の評価基準にて塗膜の艶光沢を評価し、これを耐擦傷性の評価とした。グロス値が高いほど、艶光沢を有し、耐擦傷性に優れることを意味する。
○:グロス値が80%以上。
△:グロス値が70%以上、80%未満。
×:グロス値が70%未満。
【0037】
(指紋拭き取り性の評価)
塗料をガラス板にアプリケーターまたはバーコーターで塗布し、乾燥させて塗膜(膜厚20μm)を形成した。得られた塗膜を直接指で触って皮脂を付着させた後、ガーゼで拭き取った。拭き取った後の塗膜の状態を目視にて観察し、以下の評価基準にて指紋拭き取り性を評価した。
○:皮脂の付着の状態や量に関わらず、指紋跡がない。
△:皮脂の付着の状態や量によっては、指紋跡が残る場合がある。
×:皮脂の付着の状態や量に関わらず、指紋跡が残る。
【0038】
(塗膜硬度の測定)
塗料をガラス板にアプリケーターまたはバーコーターで塗布し、乾燥させて塗膜(膜厚20μm)を形成した。得られた塗膜について、JIS K5600−5−4に基づいて鉛筆硬度(傷跡が生じなかった最も硬い鉛筆の硬度)を測定し、以下の評価基準にて塗膜硬度を評価した。
○:鉛筆硬度が2H以上。
△:鉛筆硬度がH〜HB。
×:鉛筆硬度がB以下。
【0039】
[実施例2〜12]
(c1)〜(c4)成分の配合量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして塗料用樹脂を含む塗料を製造し、各評価を行った。結果を表1に示す。
なお、実施例10では、(A)成分の配合量を75質量部(固形分換算で22.5質量部)に変更した。
【0040】
[比較例1]
(A)成分を用いなかった以外は、実施例1と同様にして重合反応を行った。重合反応終了後、50℃まで冷却し、(A)成分50.0質量部(固形分換算で15.0質量部)と、酢酸エチル10.0質量部およびイソプロパノール15.0質量部を投入し、塗料用樹脂を含む塗料を得た。得られた塗料について、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表2に示す。
【0041】
[比較例2]
(A)成分を用いなかった以外は、実施例1と同様にして塗料用樹脂を含む塗料を製造し、各評価を行った。結果を表2に示す。
【0042】
[比較例3、4]
(c1)〜(c4)成分の配合量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして塗料用樹脂を含む塗料を製造し、各評価を行った。結果を表2に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
表1から明らかなように、各実施例で得られた塗料用樹脂を含む塗料は、(A)成分の分散性が良好であり、概ねブツの発生を抑制できた。また、この塗料は、耐擦傷性、指紋拭き取り性に優れ、十分な塗膜硬度を有する塗膜を形成できた。
なお、実施例8、9は(C)成分中の(c1)成分の含有量が22.0質量%未満であったため、他の実施例に比べて(A)成分の分散性が若干劣っていたが、問題ない程度である。
実施例11は(C)成分中に(c3)成分が含まれていなかったので、他の実施例に比べて指紋拭き取り性が若干劣っていたが、問題ない程度である。
実施例12は(C)成分中に(c4)成分としてBAおよびMAAが含まれていなかったので、他の実施例に比べて耐擦傷性が劣っていたが、問題ない程度である。
【0046】
一方、表2から明らかなように、(C)成分を重合した後で(A)成分を分散させた比較例1は、工程数が各実施例に比べて1工程増え、塗料の製造に手間がかかった。また、得られた塗料用樹脂を含む塗料は、分散性が劣っていた。さらに、この塗料より形成された塗膜は、耐擦傷性および塗膜硬度が劣っていた。
(A)成分を用いなかった比較例2の塗料用樹脂を含む塗料より形成された塗膜は、耐擦傷性、指紋拭き取り性、および塗膜硬度が劣っていた。
(c1)成分を用いなかった比較例3の塗料用樹脂を含む塗料は、(A)成分が凝集したため分散性が劣っていた。
(c2)成分を用いなかった比較例4の塗料用樹脂を含む塗料より形成された塗膜は、(C)成分が十分に架橋しなかったため、塗膜の強度が低下しやすかった。そのため、耐擦傷性および塗膜硬度が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイダルシリカ(A)およびアゾ系重合触媒(B)の存在下で、アミド基を有するモノマー(c1)と、重合性シランカップリング剤(c2)とを含む重合性モノマー混合物(C)を重合することを特徴とする防汚性塗料用樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記コロイダルシリカ(A)、アゾ系重合触媒(B)および重合性モノマー混合物(C)を混合した後に、重合性モノマー混合物(C)を重合することを特徴とする請求項1に記載の防汚性塗料用樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記重合性モノマー混合物(C)100質量部に対して、コロイダルシリカ(A)を固形分換算で15〜23質量部用いることを特徴とする請求項1または2に記載の防汚性塗料用樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記重合性モノマー混合物(C)100質量%中、アミド基を有するモノマー(c1)を17.0〜55.0質量%、重合性シランカップリング剤(c2)を0.1〜3.0質量%含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の防汚性塗料用樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記重合性モノマー混合物(C)は、当該モノマー混合物(C)100質量%中、フッ素含有モノマー(c3)を0.1〜30.0質量%含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の防汚性塗料用樹脂の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法で製造されたことを特徴とする防汚性塗料用樹脂。

【公開番号】特開2011−68749(P2011−68749A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220103(P2009−220103)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【Fターム(参考)】