説明

防菌方法

【課題】 設備コストが低く、かつ保守を簡単にしながら、微生物の殺菌または増殖抑制の永続性を有する防菌方法を提供する。
【解決手段】 防菌面を導電性材料で形成し、該防菌面の両端に電極を接続して、該防菌面に2〜30ボルトの電圧を印加することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物の殺菌または増殖抑制を行う防菌方法に関し、さらに詳しくは、設備を低コストで保守を簡単にしながら、優れた防菌永続性を有する防菌方法、特にカビに対して有効な防菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の建築構造物は、防音・断熱・冷暖房などの機能が強化されていることに伴い気密性が向上している。しかし、気密性の向上に伴って、細菌やカビ(酵母を含む)による汚染問題が大きくクローズアップされるようになっている。
【0003】
従来の防菌方法としては、防菌剤を添加した塗料を壁面に塗布する方法が一般的であった。しかし、防菌剤の性能は経時的に劣化するため、その防菌効果を持続させるためには定期的に塗料の塗り替え作業をする必要があった。このような塗料の塗り替え作業などを必要とせずに、永続的な防菌効果を奏する手段として、細菌、カビ(酵母を含む)の発生しやすい気密空間に高電圧の電界を印加する方法が提案されている(例えば、特許文献1など)。
【0004】
しかし、上記のように高電圧を使用する防菌方法は、電気設備上のコストが大きく、かつ人が接触した場合のショック(感電)を防止することや、漏電による火災防止策など、多くの克服すべき課題があるため実用化には問題があった。
【特許文献1】特開平8−163975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、設備コストが低く、かつ保守を簡単にしながら、微生物の殺菌または増殖抑制の永続的効果を可能にする防菌方法を提供することにある。本発明の他の目的は、特にカビに対して有効な防菌方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の防菌方法は、防菌面を導電性材料で形成し、該防菌面の両端に電極を接続して、該防菌面に2〜30ボルトの電圧を印加することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、防菌面を導電性材料で形成し、その防菌面に2〜30ボルトの低電圧を印加するだけであるので、特別に絶縁措置を採らなくても感電や漏電の恐れがなく、保守が簡単な設備で微生物の殺菌または増殖抑制をすることができる。しかも、絶えず低電圧を印加するだけで永続的に防菌作用を持続することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において防菌面とは、建築構造物やその付属機器において細菌やカビ(酵母を含む)が発生しやすく、これらの発生を防止する必要のある表面であれば特に限定されない。例えば、建築構造物では、壁、床、天井などが対象になる。また、付属機器では、空調機や冷蔵庫などの設備内側の壁面が挙げられる。特に、空調機では、加湿器周辺、除湿器周辺、ダクト内壁、ドレン周りなどを形成する表面が挙げられる。
【0009】
本発明では、上記防菌面を導電性材料で構成する必要がある。導電性材料としては、金属のほか、導電性セラミックや導電性樹脂などを使用することができる。金属としては、特にアルミニウム、鉄、銀、銅、又はこれらの合金が好ましい。中でもアルミニウム及びその合金が特に好ましい。
【0010】
また、導電性セラミックとは、セラミックを構成する焼成材料中に金属などの導電性材料を配合したものをいう。また、導電性樹脂とは、樹脂中に金属,カーボンなどの導電性物質を粉粒物、破砕物、繊維状物などとして配合した組成物或いは複合材をいう。
【0011】
上記各導電性材料は、防菌面を構成する構造材全体を構成するようにしてもよく、或いは、防菌面の表面だけをフィルム状或いはシート状に被覆するものであってもよい。後者のようにフィルム状或いはシート状に表面だけを被覆する例としては、金属蒸着や金属メッキとして被覆したもの、炭素繊維織物や金属繊維織物などのシートとして被覆したもの、或いは導電性粉粒物を混合した樹脂フィルムを貼り付けたものなどを挙げることができる。
【0012】
本発明において、防菌面に低電圧を印加する方法としては、導電性材料で形成した防菌面の両縁部に正負の両電極を接続するか、または片側端に正または負の電極を連結すればよい。印加電圧は直流および交流のいずれでもよいが、好ましくは直流がよい。
【0013】
印加電圧の大きさは、2〜30ボルトにするものとし、好ましくは5〜20ボルトにするのがよい。印加電圧が30ボルトよりも大きいと、漏電対策や感電対策を施すことが必須になり、設備コストが大きくなる。印加電圧が2ボルトよりも小さいと、一般の細菌に対しては殺菌効果を奏するが、特にカビに対しては殺菌効果が低下し、安定的かつ永続性に優れた防カビを行うことが難しくなる。
【0014】
本発明によれば、印加電圧を2〜30ボルト、特に5〜20ボルトとすることにより、一般の細菌の殺菌は勿論であるが、殺菌が非常に難しいとされるカビ類の殺菌を効果的に行うことができる。殺菌が可能なカビの種類は限定されるものでなく、特に殺菌が難しいとされる真菌類も効果的に殺菌することができる。特に真菌類の中でも、不完全菌、接合菌類、子のう菌(特に真正子のう菌)などを殺菌することができる。
【0015】
電圧の印加により発生させる電流の大きさは、0.01〜20アンペア程度の微弱な電流でよく、より好ましくは0.1〜10アンペアにするのがよい。このような微弱電流に調整するため、適当な抵抗を電気回路に挿入するようにするとよい。
【0016】
本発明による防菌効果は、図1に示すように、例えば5cm×10cmの大きさの薄いアルミニウム板を防菌面1として、その表面で微生物を培養し、かつ防菌面1の両端縁に電極2,2を取り付け、この電極に直流または交流の低い電圧を印加することにより確認することができる。
【0017】
本発明の防菌方法は、上記のように低電圧を印加するだけで微生物の死滅或いは増殖を抑制するので電気設備が簡単になり、設備コストを著しく低くすることができる。また、低電圧であるため漏電による火災や感電の危険がなくなる。特に印加電圧を20ボルト以下にする場合には、労働安全衛生法で規定された感電の恐れがない電圧値以下になるので、感電防止用の絶縁手段を全く不要にすることができる。
【0018】
図2は、本発明の防菌方法が適用される空調機を例示する。
【0019】
21は空調機室である。空調機室21には加熱器22、冷却器23及び加湿フィルター24が内設され、また底面にはドレン排出口25が設けられている。また、空調機室21の一方の側壁にダクト27を介して送風機26が連結され、他方の側面に主ダクト28と分枝ダクト28aを介して各部屋のエア吹出口29が連結されている。上記加熱器22及び加湿フィルター24は主として冬期に稼働し、また冷却器23は夏期に稼働するように使用される。また、加湿フィルター24は加湿水を滴下する。
【0020】
上記構成の空調機において、各部屋又は外気から送風機26が空気を吸入し、その空気を空調機室21へ供給する。空調機室21では加熱器22により加熱または冷却器23により冷却を行うと共に、加湿フィルター24から水を滴下して必要な加湿を行った後、主ダクト28と分枝ダクト28aを介してエア吹出口29から吹き出すことで各部屋を空調する。このような運転において、図2中に多数のドットで示す箇所Sには水滴が付着しやすく、細菌やカビ(酵母を含む)が発生しやすくなる。
【0021】
上記のように少なくともドットで示す箇所Sを防菌面として導電性材料で構成し、この防菌面に対して本発明の防菌方法により低電圧を印加することにより、永続的に微生物の殺菌あるいは増殖を抑制することができる。
【実施例】
【0022】
実施例1〜3、比較例1,2
防菌面として5枚のアルミニウム板(5cm×10cm)を用意した。また、下記の試験条件により、3種類のカビ菌を混合した菌液を作った。この菌液をそれぞれ上記5枚のアルミニウム板の表面に塗布し、そのうち4枚には図1のように電極を取り付けると共に、それぞれ30ボルト、20ボルト、5ボルト、1ボルトの直流電圧を表1に記載の時間印加して微弱電流を流した(実施例1〜3,比較例1)。また、残り1枚のアルミニウム板には、電圧を印加せずに表1に記載の時間放置した(比較例2)。
【0023】
上記試験後に、5枚のアルミニウム板に残存したカビ菌をそれぞれ調べたところ、表1に示す結果を得た。表1の結果から、30ボルト、20ボルト、5ボルトの電圧を印加した実施例1〜3は、いずれも優れた殺菌又は増殖抑制を示しているが、印加電圧が1ボルトの比較例1と電圧を印加しなかった比較例2では、殺菌及び増殖抑制が小さいか又は無いことがわかる。
【0024】
〔試験条件〕
使用培地:クロラムフェニコール・グリセリン添加ポテトデキストロース寒天培地
培地面積:厚さ0.5mm×縦4cm×横7cmに塗布
培養条件:温度25〜27℃、湿度96〜99%
使用菌株:滅菌水3mlに対し下記3種類の菌株をそれぞれ1白金耳(合計3白金耳) を加えて菌液とし、その1mlを培地表面に塗沫した。
アスペルギルス属(Aspergillus sp.)
アルタナリア属(Alternaria sp.)
フザリウム属(Fusarium sp.)
分析方法:目視観察、光学顕微鏡観察
【0025】
【表1】

【0026】
実施例4、比較例3
防菌面として6枚のアルミニウム板(5cm×25cm)を用意し、それぞれの板上に厚さ0.2mmの細幅アルミニウムテープを貼り付け、図3に示すように、各アルミニウム板11の表面にアルミニウムテープ14で囲まれた3箇所の堰13を作った。これら6枚のアルミニウム板の堰13に、それぞれ下記試験条件で用意した菌液を50μlずつ滴下した。
【0027】
上記のように菌液を滴下したアルミニウム板のうちの3枚に、図3のように電極12,12を取り付け、表2に記載のように、直流電圧20ボルトを1枚目には1時間、2枚目には6時間及び3枚目には24時間それぞれ印加した後にスタンプ法により菌を採取して培養後、コロニーを目視により数えた(実施例4)。
【0028】
また、比較として、残り3枚のアルミニウム板については電圧を印加せず、それぞれ1時間後、6時間後及び24時間後にスタンプ法により菌を採取して培養後に、コロニーを目視により数えた(比較例3)。その結果を表2に示す。
【0029】
表2の結果から、実施例4の場合には優れた殺菌効果が確認できるが、比較例3では認められないことがわかる。
【0030】
〔試験条件〕
アルミテープに囲んだ堰の大きさ:3.2cm×3.2cm
環境条件:温度25〜27℃、湿度96〜99%
菌液:滅菌水2mlに対しアルタナリア属(Alternaria sp.)を2白金耳を加え105 倍希釈し菌液とした。
分析方法:一定時間経過後スタンプ培地を圧着し、72時間密閉状態で温度33〜34 ℃で培養した。培養後、目視でコロニー数を数えた。
【0031】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の防菌方法の一例を示す説明図である。
【図2】本発明の防菌方法を適用する空調機を例示する説明図である。
【図3】本発明の実施例で使用した試験設備の説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1,11 アルミニウム板
2,12 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防菌面を導電性材料で形成し、該防菌面の両端に電極を接続して、該防菌面に2〜30ボルトの電圧を印加することを特徴とする防菌方法。
【請求項2】
印加電圧を5〜20ボルトにする請求項1に記載の防菌方法。
【請求項3】
前記導電性材料が金属、導電性セラミック又は導電性樹脂である請求項1又は2に記載の防菌方法。
【請求項4】
前記防菌面を前記導電性材料の皮膜で形成した請求項1,2又は3に記載の防菌方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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