説明

防虫剤および害虫防除方法

【課題】 人体や環境に対する毒性が低く、かつ衣料害虫やダニなどの害虫による被害を有効に防止しうる手段を提供する。
【解決手段】 ヨウ素を有効成分として含有することを特徴とする、防虫剤、および、ヨウ素を有効成分として含有する防虫剤を使用することにより、害虫を防除する段階を有する、害虫防除方法により、上記の課題は解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防虫剤および害虫防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我々の生活環境に対して害を及ぼすものとして、種々の害虫が存在する。
【0003】
一例を挙げると、衣料を長期にわたって保存しておくためには、タンスやクローゼット等の収納家具を用い、これらの収納家具に衣料を収納するのが一般的である。
【0004】
しかし、これらの収納家具に衣料を収納し、長期間放置しておくと、場合によっては、種々の衣料害虫による食害が発生し、収納されていた衣料がダメージを受けることがある。
【0005】
かような食害を防止する目的で、従来、ナフタリン、パラジクロロベンゼン等の昇華性固体化合物が衣料害虫用防虫剤として用いられている。また最近では、臭いのしない衣料害虫用防虫剤として、エムペントリン等のピレスロイド系化合物のような常温揮散性油状化合物を有効成分として用いるものが開発されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0006】
一方、衣料害虫の他に、ダニもまた、我々の生活環境に種々の害をもたらす。例えば、人体の皮膚に接触することにより痒みや発赤などの炎症を生じさせたり、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患のアレルゲンとして作用することが知られている。
【0007】
このダニを防除するための防ダニ剤としても、上述したピレスロイド系化合物が有効であることが開示されている(例えば、特許文献2を参照)。また、繊維加工用防ダニ剤として、ジエチルトルアミド、安息香酸ベンジル、フタル酸ジエチル、IBTA、デヒドロ酢酸なども利用されている。
【0008】
しかしながら、上記の各種の化合物は、人体に対する毒性を有していたり、また、魚毒性を示すなど、環境に対して多大な負荷を与えたりする場合があるという問題がある。
【0009】
例えば人体に対する毒性について言えば、ナフタリンは、直接皮膚に接触すると、腫脹や発赤等の炎症反応を引き起こすことが知られている。また、パラジクロロベンゼンおよびピレスロイド系化合物は、眼、鼻、喉などに対して刺激性を示したり、悪化すると頭痛、めまい、全身のだるさ等の原因となることが知られている。さらに、ピレスロイド系化合物は、免疫毒性および変異原性を示すという報告もある。ここで、防虫剤中に含まれるこれらの化合物の含有量がたとえ微量であっても、大気放散の形で屋内外の生物や環境に対して悪影響を及ぼすことは否定できない。
【0010】
ところで、ヨウ素(I)は、種々の生物、特に微生物に対して優れた作用を示すことが広く知られている。また、人体に対する安全性も高く、環境に対する負荷も小さい。このため、従来、ヨウ素を有効成分として含有する殺菌剤、防カビ剤、防腐剤、消毒剤などが開発されており(例えば、非特許文献1を参照)、実用化に至っている。
【0011】
しかしながら、ヨウ素が害虫の防除に有効であるか否かはこれまで知られておらず、従来公知の文献にも、これに関する知見は全く記載されていないのが現状である。
【特許文献1】特開平10−87407号公報
【特許文献2】特開平10−87404号公報
【非特許文献1】芝崎勲、食品工業、29巻、1月下旬号、60−71頁、1986年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、人体や環境に対する毒性が低く、かつ衣料害虫やダニなどの害虫による被害を有効に防止しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ヨウ素を有効成分として含有することを特徴とする、防虫剤である。
【0014】
また本発明は、ヨウ素を有効成分として含有する防虫剤を使用することにより、害虫を防除する段階を有する、害虫防除方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の防虫剤および害虫防除方法によれば、衣料害虫やダニなどの害虫による被害が有効に防止されうる。また、本発明では、ヨウ素(I)を有効成分として用いているため、人体や環境に対する毒性が低減されうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
本発明の第1は、ヨウ素を有効成分として含有することを特徴とする、防虫剤である。
【0018】
本発明者らは、衣料害虫やダニなどの害虫による被害を防止しうる手段について鋭意研究を重ねた結果、ヨウ素(I)が、かような被害を防止する作用を有することを見出した。特に、ヨウ素がシクロデキストリンに包接されてなるヨウ素−シクロデキストリン包接化合物を用いることで、害虫による被害を長期にわたり防止しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0019】
本発明の防虫剤(以下「本防虫剤」と略記)は、ヨウ素(I)を有効成分として含有する。このため、本防虫剤によれば、衣料害虫やダニなどの害虫による被害が有効に防止されうる。また、前述のように、ヨウ素は、人体や環境に対する毒性がきわめて小さいため、使用による生活環境の汚染が抑制され、製造時の安全性も向上しうる。
【0020】
一般に「防虫」とは、我々の生活環境に対して害を及ぼす害虫を駆除し、または害虫による被害を防止するという概念である。本発明の防虫剤における「防虫」の概念もこれと同様であり、害虫を駆除し、または害虫による被害(例えば、衣料害虫による食害やダニによる皮膚炎など)を防止するという概念である。なお、「衣料害虫」とは、衣料に対して食害や損傷などの害を及ぼす害虫をいう。
【0021】
以下、本防虫剤の好ましい形態について説明する。
【0022】
本防虫剤において、防虫作用の本態はヨウ素(I)である。本防虫剤に含有されるヨウ素が揮散することで衣料害虫に対する防虫作用を発揮し、衣料害虫による食害が防止されうる。ヨウ素が如何にして衣料害虫に対して作用し、防虫作用を発揮するかについての詳細なメカニズムは、未だ不明であるが、ヨウ素(I)の不快臭や刺激性に基づく忌避作用によるものと推測される。なお、これはあくまでも推測であり、上記の推測が現実のメカニズムと異なっていたとしても、本発明の技術的範囲は何ら影響を受けることはない。
【0023】
本防虫剤において、ヨウ素が含有される形態は、特に制限されない。しかしながら、ヨウ素の単体は、揮発性が高く、また、特異な臭気を帯びている。さらに、ヨウ素の単体は、金属等に対して腐食性を示す場合もある。したがって、これらを緩和させる観点から、本防虫剤において、ヨウ素はヨードホールの形態で含有されることが好ましい。しかし、かような形態のみに制限されず、場合によっては、単体のヨウ素がそのまま含有されていてもよい。
【0024】
本願において、「ヨードホール」とは、ヨウ素(I)を担持しうる適当な担体にヨウ素が担持されてなる製剤を意味する。本防虫剤において、ヨウ素がヨードホールの形態で含有されると、含まれるヨウ素が一度に揮発してしまうことにより持続性が得られないという問題や、これに伴うヨウ素の特異な臭気等の問題が緩和されうる。
【0025】
ヨードホールの具体的な形態については、特に制限されず、適当な担体にヨウ素が担持されてなる任意の形態が用いられうる。ヨウ素が担持されうる適当な担体としては、例えば、シクロデキストリン(CD)、ポリビニルピロリドン(PVP)、非イオン性界面活性剤等の種々の界面活性剤などが例示される。新たに開発された担体が用いられてもよい。
【0026】
本発明者らは、さらに検討を重ねた結果、担体としてシクロデキストリンを用い、ヨウ素−シクロデキストリン包接化合物(以下「CDI」と略記)の形態でヨウ素を含有させることにより、本防虫剤の効果がより一層向上しうることを見出した。すなわち、本防虫剤において、ヨウ素は、CDIの形態で含有されることがより好ましい。よって、以下、ヨウ素がCDIの形態で含有される形態を例に挙げて本防虫剤の好ましい形態をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、下記の形態のみに制限されない。
【0027】
上述のように、CDIは、ヨウ素がシクロデキストリンによって包接された構造を有する化合物である。CDIは、ヨウ素の保持および放出の制御が容易であり、必要に応じてヨウ素およびシクロデキストリンの存在比を適宜調節することにより、ヨウ素による食害防止作用が調整されうる。
【0028】
また、CDIを構成するヨウ素は、動物における必須ミネラルであり、古くから消毒薬やうがい薬としても用いられてきた。さらに、シクロデキストリンのなかでも、非置換体は、食品添加物として認可されている。加えて、これらの成分は生分解性で、ヨウ素はイオン化されてカリウム塩やナトリウム塩となり、非置換体シクロデキストリンは土壌中の微生物によって水および二酸化炭素等に分解される。このため、本防虫剤は環境に対する負荷がほとんどなく、高い安全性を有する。
【0029】
本防虫剤では、CDIから放出されるヨウ素によって、害虫による被害を防止する効果に加えて、抗菌効果および消臭効果がもたらされる。また、CDI中に存在しているシクロデキストリンによって、消臭がなされる。このため、本防虫剤においてCDIを採用した場合には、害虫による被害を防止する効果に加えて、抗菌および消臭の複合効果が得られる。例えば、衣料が長期にわたり収納されるタンスやクローゼット等の内部においては、黴が発生しやすく、これが異臭の原因となる。本防虫剤にCDIが配合されると、衣料害虫による食害が防止されるのみならず、収納家具の内部で発生した黴やこれに伴う異臭を除去することも可能である。なお、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、抗菌や消臭等の複合効果が得られない場合であっても、本発明の技術的範囲から除外されることはない。
【0030】
本発明において、ヨウ素は、特に制限されず、市販品がそのまま用いられてもよい。また、ヨウ素は、ヨウ化カリウムと重クロム酸カリウムとを加熱蒸留するといった公知の方法により自ら合成したものが用いられてもよい。これは、ヨウ素が本防虫剤にCDIの形態で含有される形態のみならず、他の形態で含有される場合にも同様である。
【0031】
本発明において、シクロデキストリンは、特に制限されず、市販品がそのまま用いられてもよい。また、シクロデキストリンは、デンプンにBacillus macerans由来のアミラーゼを作用させるといった公知の方法により自ら合成したものが用いられてもよい。なお、本願において、「シクロデキストリン」は、それぞれ6個、7個、および8個の、環状α−(1→4)結合したD−グルコピラノース単位から構成されるα−、β−、およびγ−シクロデキストリンのみならず、例えば、アルキル化(メチル化、エチル化、プロピル化、イソプロピル化、ブチル化など)、モノアセチル化、トリアセチル化、モノクロロトリアジニル化された化学修飾体をも含む。シクロデキストリンの市販品の具体例としては、CAVAMAX(登録商標)W6シリーズとして市販されるα−シクロデキストリン、CAVAMAX(登録商標)W7シリーズとして市販されるβ−シクロデキストリン、CAVAMAX(登録商標)W8シリーズとして市販されるγ−シクロデキストリン、CAVASOL(登録商標)W7 Mシリーズとして市販されるメチル−β−シクロデキストリン、CAVASOL(登録商標)W7 HPシリーズとして市販されるヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、CAVASOL(登録商標)W7 TAとして市販されるトリアセチル−β−シクロデキストリン、CAVASOL(登録商標)W7 MCTとして市販されるモノクロロトリアジニル−β−シクロデキストリン等が挙げられる(いずれも、株式会社シクロケムより入手可能)。
【0032】
CDIを構成するシクロデキストリンは、用途や入手容易性等を考慮することにより、適宜選択されうる。例えば、CDIを水に溶解させ、水溶液の形態で本防虫剤に使用する場合には、水溶性に優れるメチル−β−シクロデキストリン(以下「MCDI」と略記)、α−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンなどを用いて、CDIを調製するとよい。また、CDIが固体の形態で本防虫剤に使用される場合には、β−シクロデキストリン(以下「BCDI」と略記)を用いて、CDIを調製するとよい。しかし、これらの形態に制限されるわけではない。
【0033】
CDIにおいて包接されるヨウ素量の調整のし易さや、経済性を考慮すると、CDIを構成するシクロデキストリンは、β−シクロデキストリン、またはこの化学修飾体(例えば、メチル−β−シクロデキストリン)であることが好ましい。安全性の観点からは、CDIを構成するシクロデキストリンは、食品添加物として認可されている非置換体シクロデキストリンであることが好ましい。
【0034】
本防虫剤において、ヨウ素がCDIの形態で含有される場合、含有されるCDIにおける有効ヨウ素は、CDI全質量に対して、好ましくは1〜35質量%、より好ましくは5〜25質量%、さらに好ましくは10〜20質量%である。有効ヨウ素がかような範囲内の値であると、ヨウ素の安定性が向上し、本防虫剤において、害虫による被害を防止する効果と、抗菌効果および消臭の複合効果とが、特に有効に発現する。CDIにおける有効ヨウ素は、CDIを製造する際に用いられるシクロデキストリンまたはヨウ素の添加量を調節することによって、制御されうる。また、CDIにおける有効ヨウ素を制御することによって、CDIからのヨウ素の放出が制御されうる。
【0035】
本発明において用いられるCDIの製造方法は、特に制限されず、従来公知の方法またはこれらの組み合わせが適宜採用されうる。例えば、特開昭51−88625号公報、特開昭51−100892号公報などに記載の方法;ヨウ素量とヨウ素溶解助剤(例えば、ヨウ化カリウム)量を所定の範囲に調整してヨウ素を溶解させ、これにシクロデキストリンを添加する方法;または、これらの方法により得られたCDIに、さらにシクロデキストリンを添加し、ヨウ素量を所望の範囲内の値とする方法などが挙げられる。
【0036】
これらのうち、ヨウ素量とヨウ素溶解助剤(例えば、ヨウ化カリウム)量を所定の範囲に調整してヨウ素を溶解させ、これにシクロデキストリンを添加する方法によれば、添加するシクロデキストリン量を調整することによって、シクロデキストリンに包接されるヨウ素量が制御されうる。かような方法を用いれば、有効ヨウ素が19質量%を超えるCDIを得ることも可能である。
【0037】
なお、「溶解助剤」とは、溶液へのヨウ素の溶解を補助する化合物をいう。溶解助剤としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、およびフッ化水素酸等のハロゲン酸や、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化バリウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化物が例示される。
【0038】
上記の説明においては、ヨウ素が、シクロデキストリンに包接されてなるCDIとして本防虫剤中に含有される形態について詳細に説明したが、上述したように、本発明の技術的範囲は、かような形態のみに制限されることはない。
【0039】
本防虫剤は、上記で説明した成分以外の成分を、添加剤として含有していてもよい。
【0040】
本防虫剤に添加されうる添加剤としては、香料、酸化防止剤、防腐剤、防カビ剤、抗菌剤、消臭剤、精油、共力剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、香料(ハーブ等)などが挙げられる。また、害虫による被害を防止しうる他の防虫剤や殺虫剤、忌避剤等が添加剤として含有されてもよい。これらの添加剤の具体的な形態は何ら制限されず、従来防虫剤に添加されていた添加剤の形態が同様に採用されうる。
【0041】
上記のような添加物を含有する場合、本防虫剤中の有効ヨウ素の好ましい範囲は、使用方法、使用場所、害虫の種類等に応じて変動しうるため、一概には決定できないが、好ましくは、本防虫剤中の有効ヨウ素は、衣料害虫に対して用いる場合には、防虫剤全質量に対して0.2〜35質量%、より好ましくは1〜25質量%である。防虫剤全質量に対する有効ヨウ素が0.2質量%を下回ると、防虫効果が充分に得られない虞がある。一方、ダニはヨウ素に対する感受性が高いと考えられ、使用範囲の下限値を設定することは困難である。例えば、後述する実施例7.4においては、850mLの空間に0.012mgのヨウ素が存在するのみでダニの生育に影響を及ぼすことが示されている。
【0042】
本防虫剤の製剤形態は、特に制限されず、固形製剤であってもよく、液体製剤であってもよい。また、可能であれば、ゲル状の製剤であってもよい。これらの製剤形態を適宜選択することによって、本防虫剤からのヨウ素の放出が制御されうる。
【0043】
固形製剤の形態としては、固体状のヨードホール(例えば、BCDI)が、粉末、顆粒、または錠剤として用いられる形態や、適当な担体に担持(含浸や展着)されて用いられる形態が挙げられる。ここで、適当な担体としては、例えば、紙、不織布、樹脂、木材に加えて、デンプン等の従来公知の賦形剤などが挙げられる。なお、CDI等のヨードホールが、担体に担持されずそのままの形態で用いられても、勿論よい。液体製剤の形態としては、例えばヨードホールが適当な溶媒中に分散または溶解した状態で用いられる形態が挙げられる。ここで、適当な溶媒としては、水のほか、エタノール等のアルコール類、メチルエチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ヘキサンやトルエン等の炭化水素類、酢酸エチル等のエステル類、塩化メチレン等のハロゲン化物などが挙げられる。CDIを例に挙げれば、例えばMCDIは水溶性であるため、MCDIは水に溶解した状態で液体製剤として用いられうる。
【0044】
なお、少ない有効ヨウ素で防虫作用を発揮しうるという観点からは、本防虫剤の形態としては粉末製剤が好ましい。これにより、限られた天然資源であるヨウ素の有効利用が図られる。本防虫剤の形態が粉末製剤である場合、本防虫剤は、例えば、ヨウ素を透過しうる適当な容器中に封入された形態で用いられうる。しかし、この形態のみには制限されず、可能であれば、容器に封入することなくそのままの形態で用いられてもよい。
【0045】
製剤の製造方法は、特に制限されず、防虫剤の製剤の製造について従来公知の知見が適宜参照されうる。上記で説明した固形製剤を製造する際には、例えば、上記で説明した液体製剤をまず調製し、これを適当な担体に担持して乾燥させることにより製造してもよい。
【0046】
本願によれば、害虫防除方法も提供される。すなわち、本発明の第2は、ヨウ素を有効成分として含有する防虫剤を使用することにより、害虫を防除する段階を有する、害虫防除方法である。
【0047】
本発明の第2の防除方法において用いられる防虫剤は、ヨウ素を有効成分として含有するものであれば特に制限されないが、好ましくは、本発明の第1の防虫剤が用いられうる。
【0048】
本発明の防除方法において、防虫剤が使用される場所は、特に制限されず、衣料が収納されている種々の場所において使用されうる。使用場所として、具体的には、衣料害虫を対象とする場合には、例えば、タンスの衣料吊下げ空間や引き出し、衣装箱、クローゼット、ファンシーケース、押入れ、倉庫、店舗等が挙げられる。また、防ダニ効果を得ようとする場合には、カーペットや畳の裏地、寝具類などにも適用されうる。
【0049】
本発明の防除方法において防除の対象とされる害虫は、特に制限されないが、衣料害虫としては、例えば、Tinea属のイガ(Tinea pellinella)、Tineola属のコイガ(Tineola bisselliella)、Attagenus属のヒメカツオブシムシ(Attagenus piceus)、Anthrenus属のヒメマルカツオブシムシ(Anthrenus verbasci)等が挙げられる。これらの他にも、Hofmannophila属、Endrosis属、Dermestes属等が挙げられる。また、ダニの種類も特に制限されず、従来公知の各種のダニが本発明の防除方法の対象とされうる。ダニの種類の一例を挙げると、例えば、チリダニ科(ヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニなど)、ツメダニ科(ホソツメダニ、クワガタツメダニなど)、ホコリダニ科(チャノホコリダニ、シクラメンホコリダニ等)、コナダニ科(ケナガコナダニ、ムギコナダニ等)、カザリヒワダニ科(カザリヒワダニ等)、ササラダニ科(イエササラダニ等)などに属する種が挙げられる。特にチリダニ科のダニは気管支喘息やアレルギー性鼻炎等のアレルギー性疾患のアレルゲンとして注目を集めている。また、ツメダニ科のダニが屋内で大量発生すると、偶発的に接触したヒトをさすことにより、痒みなどを伴う皮膚炎を引き起こすことが知られている。
【0050】
本発明の防除方法において使用される防虫剤の使用量も、特に制限されず、適宜設定されうる。防虫剤の使用量を決定するにあたっては、対象とする害虫に対するヨウ素の有効量等を考慮するとよい。例えば、衣料害虫に対しては、防虫剤をタンスや押入れ等の密閉空間において使用する場合、使用される防虫剤中に含有されるヨウ素量は、使用される空間1Lあたり、ヨウ素(I)質量として、好ましくは1〜350mgであり、より好ましくは5〜250mgであり、さらに好ましくは10〜200mgである。ここで、ヨウ素量が前記の範囲を下回ると、防虫効果が充分に得られない虞がある。一方、ヨウ素量が前記の範囲を上回っても、防虫効果はそれほど向上しない。一方、上述したように、ダニはヨウ素に対する感受性が極めて高いと考えられ、使用量の下限値を設定することが困難である。従って、防虫剤の用いられる形態(粉末、顆粒、錠剤などの形態のほか、担体に担持される形態など)や防除を希望するダニの種類、使用環境等に応じて適宜決定されうる。
【0051】
なお、本発明の防除方法において、ヨウ素を含有する防虫剤は、従来公知の種々の薬剤と併用されてもよい。併用可能な薬剤としては、本発明の防虫剤以外の防虫剤や、種々の消臭剤、抗菌剤、香料(ハーブ等)が挙げられる。
【0052】
以上、衣料害虫およびダニに対して用いられる場合を例に挙げて本発明の防虫剤および害虫防除方法を詳細に説明したが、これらが他の害虫に対して適用されてもよいことは勿論である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。
【0054】
<MCDIを用いた食害防止試験(強制食害法)>
実施例1.1
日宝化学株式会社より「MCDI−6」として市販されている、有効ヨウ素が6質量%のヨウ素−メチル−β−シクロデキストリン包接化合物水溶液を準備した。このMCDI−6の原液を、ペーパーディスク(直径:7mm、厚さ:1mm)に含浸させて乾燥させ、本発明の防虫剤試料を作製した。
【0055】
次に、シャーレ(直径:90mm、厚さ:18mm)を準備し、前記シャーレの中央に、平織のウールモスリン布(大きさ:3cm×3cm、質量:198.32g)を載置した。また、同じシャーレの一角に、上記で作製した防虫剤試料を載置した。なお、防虫剤試料中に含まれる有効ヨウ素は、0.125mgであった。
【0056】
次いで、シャーレ中のウールモスリン布上に衣料害虫であるイガ(Tinea pellinella)の幼虫15匹を放ち、温度25℃の条件下で食害防止試験を行った。シャーレには蓋をすることにより、シャーレを密閉した。
【0057】
15日間静置後、シャーレ中のウールモスリン布の質量を測定した。また、試験前の質量から試験後の質量を減ずることにより、食害量を算出した。さらに、下記式(1)により、食害率を算出した。これらの値を下記の表1に示す。
【0058】
【数1】

【0059】
実施例1.2〜1.6
防虫剤試料の個数を調節することにより、使用された防虫剤試料中に含まれる有効ヨウ素を下記の表1に示す値に制御し、ウールモスリン布の質量を下記の表1に示す値としたこと以外は、前記実施例1.1と同様の手法により、食害防止試験を行った。
【0060】
比較例1
防虫剤試料を使用せず、ウールモスリン布の質量を下記の表1に示す値としたこと以外は、前記実施例1.1と同様の手法により、食害防止試験を行った。
【0061】
この比較例1において算出された食害量を用いて、下記式(2)により、各実施例における防虫効率を算出した。これらの結果を下記の表1に示す。また、各実施例および比較例における試験後のウールモスリン布の様子を示す写真を図1に示す。
【0062】
【数2】

【0063】
【表1】

【0064】
実施例2.1〜2.6
衣料害虫として、イガの幼虫に代えてヒメカツオブシムシ(Attagenus piceus)の幼虫を用い、試験に用いたウールモスリン布の質量を下記の表2に示す値としたこと以外は、前記実施例1.1と同様の手法により、食害防止試験を行った。
【0065】
比較例2
防虫剤試料を使用せず、ウールモスリン布の質量を下記の表2に示す値としたこと以外は、前記実施例2.1と同様の手法により、食害防止試験を行った。
【0066】
以上の結果を下記の表2に示す。また、各実施例および比較例における試験後のウールモスリン布の様子を示す写真を図2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
<BCDIを用いた食害防止試験(強制食害法)>
実施例3.1
日宝化学株式会社より「BCDI−20」として市販されている、有効ヨウ素が20質量%のヨウ素−β−シクロデキストリン包接化合物粉末を準備した。
【0069】
この原末を、そのまま本発明の防虫剤試料としてシャーレの一角に載置したこと以外は、前記実施例1.1と同様の手法により、イガ(Tinea pellinella)の幼虫に対する食害防止試験を行った。なお、使用された防虫剤試料中に含まれる有効ヨウ素は、0.098mgであった。
【0070】
実施例3.2〜3.6
防虫剤試料としてのBCDI−20の原末の量を調節することにより、使用された防虫剤試料中に含まれる有効ヨウ素を下記の表3に示す値に制御し、ウールモスリン布の質量を下記の表3に示す値としたこと以外は、前記実施例3.1と同様の手法により、食害防止試験を行った。
【0071】
比較例3
防虫剤試料を使用せず、ウールモスリン布の質量を下記の表3に示す値としたこと以外は、前記実施例3.1と同様の手法により、食害防止試験を行った。
【0072】
以上の結果を下記の表3に示す。また、各実施例および比較例における試験後のウールモスリン布の様子を示す写真を図3に示す。
【0073】
【表3】

【0074】
実施例4.1〜4.6および比較例4
衣料害虫として、イガの幼虫に代えてヒメカツオブシムシ(Attagenus piceus)の幼虫を用い、試験に用いたウールモスリン布の質量を下記の表4に示す値としたこと以外は、前記実施例3.1と同様の手法により、食害防止試験を行った。
【0075】
比較例4
防虫剤試料を使用せず、ウールモスリン布の質量を下記の表4に示す値としたこと以外は、前記実施例4.1と同様の手法により、食害防止試験を行った。
【0076】
以上の結果を下記の表4に示す。また、各実施例および比較例における試験後のウールモスリン布の様子を示す写真を図4に示す。
【0077】
【表4】

【0078】
表1〜4および図1〜4によれば、本発明の防虫剤試料に含まれる有効ヨウ素を増加させるにつれて、食害量が減少し、防虫効率が上昇することがわかる。
【0079】
これにより、本発明の防虫剤および害虫防除方法は、衣料害虫であるイガやヒメカツオブシムシによる食害を有効に防止しうる手段であるということが示される。
【0080】
また、実施例1.1〜1.6および実施例2.1〜2.6と、実施例3.1〜3.6および実施例4.1〜4.6との比較から、防虫剤試料としてBCDIを用いた場合の方が、MCDIを用いた場合よりも、少ない有効ヨウ素で食害防止作用を発揮することが示される。
【0081】
なお、衣料害虫としてヒメカツオブシムシを用いた場合の方が、イガを用いた場合と比較して、概して食害率が低い。これは、ヒメカツオブシムシの方が、イガと比較して、一般に食害速度が小さいためであると考えられる。
【0082】
<MCDIを用いた防ダニ試験(忌避試験)>
実施例5.1
上記の実施例1.1と同様のMCDI−6を準備し、この原液をそれぞれ1質量%の濃度に水で希釈した。一方、濾紙を準備し、この濾紙に、上記で調製した希釈液を10mL/1m換算の量で含浸させた。
【0083】
次いで、直径4cmに切り抜いたMCDI含浸濾紙を直径4cmのシャーレの中に敷き、その中央に、目開き300μmの篩を通過した実験動物用粉末飼料(オリエンタル酵母工業株式会社製)と局方乾燥酵母エビオス粉末(アサヒビール薬品株式会社製)との1:1質量混合物であるダニ誘引用の餌(0.05g)を載置した。この際、濾紙に含浸しているMCDI中の有効ヨウ素は0.081mgであった。
【0084】
続いて、上記のシャーレを直径9cmのシャーレの中央に同心円状に置き、2つのシャーレの間に生存ヤケヒョウヒダニ一万匹を含むダニ培地を塗布し、忌避試験を開始した。
【0085】
試験開始24時間後に直径4cmのシャーレ中に移動した生存ダニ数を測定した。コントロールとして、MCDIを含浸していない濾紙を用いて同様の手法により試験を行い、コントロールの場合と比較した移動ダニ数の百分率を忌避率とした。本実験を2回行った結果、忌避率はそれぞれ、58.8%および68.6%であった。
【0086】
実施例5.2
MCDIの原液を5質量%の濃度に希釈したこと以外は、上記の実施例5.1と同様の手法により、ダニに対する忌避試験を行った。なお、本実施例において直径4cmの濾紙に含浸しているMCDI中の有効ヨウ素は0.405mgであった。本実験を2回行った結果、忌避率はそれぞれ、81.9%および64.5%であった。
【0087】
<BCDIを用いた防ダニ試験(忌避試験)>
実施例6.1
直径4cmに切り取った綿布を準備し、直径4cmのシャーレの中に敷いた。一方、日宝化学株式会社より「BCDI−5」として市販されている、有効ヨウ素が5質量%のヨウ素−β−シクロデキストリン包接化合物粉末を準備し、その0.002gをシャーレ中の綿布上に均一に散布した。なお、本実施例において綿布上に散布されているBCDI中の有効ヨウ素は0.1mgであった。
【0088】
その他の手法については上記の実施例5.1と同様の手法により、ダニに対する忌避試験を行った。その結果、忌避率は66.6%であった。
【0089】
実施例6.2
BCDIの0.008gを散布したこと以外は、上記の実施例6.1と同様の手法により、ダニに対する忌避試験を行った。なお、本実施例において綿布上に散布されているBCDI中の有効ヨウ素は0.4mgであった。その結果、忌避率は69.8%であった。
【0090】
実施例5および6の結果から、本発明の防虫剤および害虫防除方法は、ダニに対しても有効な忌避作用を発揮しうることが示される。
【0091】
<MCDIによるダニの増殖抑制試験>
実施例7.1
上記と同様のMCDI−6を準備した。準備したMCDIの原液を濾紙に20μL塗布し、塗布した濾紙を、容積850mLの瓶中に吊るした。本実施例において、濾紙上に塗布されているMCDI中の有効ヨウ素は1.2mgであった。
【0092】
一方、一辺が4cmの正方形のナイロンタフタ製の高密度織物の袋中に、ダニ培地0.1g、ヤケヒョウヒダニ雄20匹、及び同雌50匹を入れ、袋からダニが逃げ出さないようにヒートシールを施した。
【0093】
シールした袋を上記で準備した瓶の底に載置し、さらに調湿用の飽和食塩水の入った容器を入れ、蓋によりビンを密閉して25℃、76Rh%にて6週間飼育後、袋中のダニ数を計数した。コントロールとして、MCDI濾紙を吊るしていない瓶を用いて同様の手法により試験を行い、下記式(3)により、増殖抑制率を算出した。
【0094】
【数3】

【0095】
その結果、本実施例における増殖抑制率は43%であった。
【0096】
実施例7.2
MCDIの原液を50質量%の濃度に希釈した溶液を濾紙に塗布したこと以外は、上記の実施例7.1と同様の手法により、ダニの増殖抑制試験を行った。本実施例において、濾紙上に塗布されているMCDI中の有効ヨウ素は0.6mgであった。その結果、増殖抑制率は19%であった。
【0097】
実施例7.3
MCDIの原液を10質量%の濃度に希釈した溶液を濾紙に塗布したこと以外は、上記の実施例7.1と同様の手法により、ダニの増殖抑制試験を行った。本実施例において、濾紙上に塗布されているMCDI中の有効ヨウ素は0.12mgであった。その結果、増殖抑制率は19%であった。
【0098】
実施例7.4
MCDIの原液を1質量%の濃度に希釈した溶液を濾紙に塗布したこと以外は、上記の実施例7.1と同様の手法により、ダニの増殖抑制試験を行った。本実施例において、濾紙上に塗布されているMCDI中の有効ヨウ素は0.012mgであった。その結果、増殖抑制率は18%であった。
【0099】
実施例7の結果から、本発明の防虫剤および害虫防除方法は、ダニの増殖をほぼ用量依存的に抑制しうることが示される。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】実施例1.1〜1.6および比較例1の食害防止試験後のウールモスリン布の様子を示す写真である。
【図2】実施例2.1〜2.6および比較例2の食害防止試験後のウールモスリン布の様子を示す写真である。
【図3】実施例3.1〜3.6および比較例3の食害防止試験後のウールモスリン布の様子を示す写真である。
【図4】実施例4.1〜4.6および比較例4の食害防止試験後のウールモスリン布の様子を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素を有効成分として含有することを特徴とする、防虫剤。
【請求項2】
前記ヨウ素は、ヨードホールの形態で含有される、請求項1に記載の防虫剤。
【請求項3】
前記ヨードホールは、ヨウ素がシクロデキストリンに包接されてなるヨウ素−シクロデキストリン包接化合物である、請求項2に記載の防虫剤。
【請求項4】
前記ヨウ素−シクロデキストリン包接化合物における有効ヨウ素は、ヨウ素−シクロデキストリン包接化合物全質量に対して、1〜35質量%である、請求項3に記載の防虫剤。
【請求項5】
前記ヨウ素−シクロデキストリンを構成するシクロデキストリンは、β−シクロデキストリン、またはこの化学修飾体である、請求項3または4に記載の防虫剤。
【請求項6】
粉末製剤の形態である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の防虫剤。
【請求項7】
担体に担持されてなる形態である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の防虫剤。
【請求項8】
衣料害虫の防除に用いられる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の防虫剤。
【請求項9】
ダニの防除に用いられる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の防虫剤。
【請求項10】
ヨウ素を有効成分として含有する防虫剤を使用することにより、害虫を防除する段階を有する、害虫防除方法。
【請求項11】
使用される前記防虫剤中に含有されるヨウ素量は、使用される空間1Lあたり、ヨウ素(I)質量として1〜350mgである、請求項10に記載の害虫防除方法。
【請求項12】
前記害虫が衣料害虫である、請求項10または11に記載の害虫防除方法。
【請求項13】
前記害虫がダニである、請求項10または11に記載の害虫防除方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−45221(P2006−45221A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−200463(P2005−200463)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(000227652)日宝化学株式会社 (34)
【Fターム(参考)】