説明

防虫性板材

【課題】 本発明の課題は、板材に耐久性のある優れた防虫性を付与することにある。
【解決手段】塗装が施された基材の塗膜表面に、コロイダルシリカ水性分散液中に防虫剤を添加した防虫処理液を塗布する。即ち本発明では防虫剤を塗膜表面に固定するために塗料を使用しないので、塗料の樹脂による防虫剤の希釈はない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば建築板として使用される防虫性板材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建物等に使用される建築板は、白蟻等の害虫に侵されないように防虫性を保有することが望ましい。
従来、板材に防虫性を付与するには、着色鋼板のトップ層に防虫剤を含むトップ塗料を薄く塗布した構成(例えば特許文献1参照)、水性樹脂エマルジョンにコロイダルシリカ、シラン系撥水剤、防蟻剤等を配合したコーティング材を基材に塗布する構成(例えば特許文献2参照)、液状防虫剤をシリカゲル粒子に吸着させて基材表面に粘着層を介して固着した構成(例えば特許文献3参照)等が提供されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−127272号公報
【特許文献2】特開平11−256076号公報
【特許文献3】特開2001−158702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術では防虫剤を塗料に混合して基材に塗布するから、防虫剤が塗料の主成分である樹脂に希釈され、塗膜表面に存在する防虫剤の濃度が小さくなり、防虫剤の有する防虫効果が充分に発揮されない、と云う問題点がある。
更に防虫剤を塗料に混合した場合には、該塗料を基材表面に塗布した後は通常100〜150℃程度の加熱乾燥が行なわれるが、上記加熱乾燥によって防虫剤が変性劣化してしまうおそれがある。
液状防虫剤を吸着したシリカゲル粒子を粘着層によって基材表面に固着した構成では、該シリカゲル粒子が粘着層から剥離し易く、耐久性のある防虫効果を付与することが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、塗装が施された基材の塗膜表面に、コロイダルシリカ水性分散液中に防虫剤を添加した防虫処理液を塗布した防虫性板材を提供するものである。
通常防虫処理液は、コロイダルシリカの水−アルコール混合溶剤分散液に防虫剤を添加することによって調製されるが、この場合上記コロイダルシリカの水−アルコール混合溶剤分散液には分散剤として界面活性剤が添加されることが望ましい。
【発明の効果】
【0006】
〔作用〕
本発明の防虫処理液は、コロイダルシリカ水性分散液中に防虫剤を添加したものであり、樹脂を主成分とする塗料等は使用していないから、該防虫剤は樹脂によって希釈されることなくコロイダルシリカ表面の微小凹凸に定着し、該コロイダルシリカは基材表面の塗膜に水素結合を介して固定される。
【0007】
〔効果〕
したがって本発明では基材の塗膜表面にコロイダルシリカを媒体として防虫剤が高濃度で存在するから、防虫剤の防虫効果が効率良く発揮され、少量の防虫剤の使用でも大きな防虫効果を有する板材が得られる。また該防虫剤はコロイダルシリカを媒体として塗装表面に強固に固定されるから、耐久性のある防虫効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明を以下に詳細に説明する。
〔基材〕
本発明の対象とする基材とは、木片、木質パルプ、木質繊維等の木質補強材を添加したセメント板(木質セメント板)、セメント押出成形板、パルプセメント板、石膏板、ケイ酸カルシウム板、炭酸マグネシウム板、合板、ハードボード、中密度繊維板、鉄板、金属建築板等である。
【0009】
〔塗装〕
上記基材表面には塗装が施されるが、通常塗装は下塗り塗装、中塗り塗装、上塗り塗装、クリア塗装の多重塗装が適用される。上記下塗り塗装、中塗り塗装、上塗り塗装、クリア塗装共にアクリル樹脂水性エマルジョン塗料、シリコン−アクリル樹脂水性エマルジョン塗料等の水性エマルジョン塗料を使用することが望ましいが、例えばアクリル樹脂クリア溶液型塗料等の溶液型塗料も使用されてもよく、また水性エマルジョン塗料と溶液型塗料とを併用してもよい。
【0010】
〔防虫処理液〕
本発明の防虫処理液に使用するコロイダルシリカとは粒径5〜10nmの一次微粒子が10個程度会合して二次微粒子を形成したものであり、表面に微小凹凸が形成されており、酸化ケイ素の他酸化アルミニウム等他の成分を若干含有してもよい。
【0011】
本発明においては、上記コロイダルシリカの分散媒体として水にアルコールを添加することが望ましい。本発明に使用するアルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の水溶性のものが望ましい。該アルコールは本発明の防虫処理液の表面張力を低下せしめ、更に該防虫処理液と下側の塗膜との親和性を高めて該防虫処理液の濡れ性を向上せしめる。
【0012】
本発明の防虫処理液には分散剤として界面活性剤を添加することが望ましい。上記界面活性剤としては、通常のアニオン性、ノニオン性、カチオン性の界面活性剤のいずれも用いられ、例えばアニオン性界面活性剤としては高級アルコールサルフェート(Na塩またはアミン塩)、アルキルアリルスルフォン酸塩(Na塩またはアミン塩)、アルキルナフタレンスルフォン酸塩(Na塩またはアミン塩)、アルキルナフタレンスルフォン酸塩縮合物、アルキルフォスフェート、ジアルキルスルフォサクシネート、ロジン石鹸、脂肪酸塩(Na塩またはアミン塩)等があり、ノニオン性界面活性剤としてはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキロールアミン、ポリオキシエチレンアルキルアマイド、ソルビタンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等があり、カチオン性界面活性剤としてはオクタデシルアミンアセテート、イミダゾリン誘導体アセテート、ポリアルキレンポリアミン誘導体またはその塩、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、トリメチルアミノエチルアルキルアミドハロゲニド、アルキルピリジニウム硫酸塩、アルキルトリメチルアンモニウムハロゲニド等が例示される。また界面活性剤は二種以上混合使用されてもよい。また上記例示は本発明を限定するものではない。
該界面活性剤はアルコールと共に本発明の防虫処理液の表面張力を低下せしめ、更にコロイダルシリカを防虫処理液中に良好に分散せしめ、そして下の塗膜との親和性も高める。
【0013】
本発明の防虫処理液において、通常該コロイダルシリカは0.1〜2.0質量%、アルコールは2〜10質量%、界面活性剤は0.01〜0.25質量%配合され、残余は水とする。
上記アルコールが2質量%よりも少なく含有されている場合には該防虫処理液の濡れ性が悪くなり、また10質量%を越えて含有されている場合には、溶媒の揮発性が大きくなり、塗装作業に悪影響がもたらされる。また上記界面活性剤が0.01質量%よりも少なく添加されている場合には界面活性剤による表面張力の低下効果やコロイダルシリカの分散効果が顕著でなくなり、また0.25質量%を越えて添加されている場合には形成される防虫処理膜の強度、耐水性、耐久性等に悪影響がもたらされる。かくして該防虫処理液の表面張力は25℃で20dyne/cm以下であることが望ましい。
【0014】
上記防虫処理液に添加される防虫剤としては、人体への安全性の面からピレスロイド系化合物を選択することが望ましい。上記ピレスロイド系化合物としては、例えばペルメトリン、アレスリン、トラロメスリン、シラフルオフェン、エトフェンブロックス、フェノトリン等が例示される。
上記防虫剤は上記防虫処理液中に通常0.01〜5質量%程度添加される。
【0015】
〔防虫処理液の塗布〕
上記基材表面に塗装を施した後、最終乾燥工程では塗膜は通常100〜150℃の温度で加熱乾燥される。塗膜の加熱乾燥後は常温下に基材を放置し冷却する。防虫処理液の塗布は該塗膜の温度が望ましくは80℃以下、更に望ましくは70℃以下に下がった状態で行なう。上記温度以下においては、防虫剤の熱変性のおそれがない。通常上記防虫処理液の塗布はスプレー塗布が適用されるが、その他コーター塗布、ロール塗布等周知の方法が適用されてよい。
【0016】
塗布量は特に限定されないが、通常該防虫処理液塗布後乾燥して得られる防虫層の厚みが30〜80nm程度になるような塗布量とする。
【0017】
上記防虫処理液において、上記したようにコロイダルシリカは一次微粒子が複数個会合凝集した二次微粒子となっており、したがって粒子表面に微小凹凸が形成されているから、該防虫剤はコロイダルシリカ表面の微小凹凸に捕捉され吸着される。そして該防虫剤を捕捉吸収したコロイダルシリカは、水素結合によって基材の塗膜(クリヤ塗膜)表面に定着されると考えられる。
【0018】
以下に本発明を更に具体的に説明するための実施例をあげる。
下記の防虫処理液1,2を調製した。

防虫処理液1 防虫処理液2
コロイダルシリカ(二次粒子径5μm) 2 質量% 2 質量%
防虫剤(ペルメトリン) 0.2 〃 0.02 〃
エタノール 4 〃 4 〃
界面活性剤* 0.02 〃 0.02 〃
残余 水 水
*:ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル
木質セメント板基材表面にアクリル樹脂水性エマルジョン塗料によって下塗り塗装、中塗り塗装、上塗り塗装、およびアクリル樹脂溶液型塗料によってクリア塗装を施し、100℃〜110℃の加熱炉で20分間加熱乾燥した。
【0019】
上記加熱乾燥後該塗装基材を加熱炉から取出し室温に放置して冷却した。クリヤ塗膜表面温度が65℃にまで下がった時、上記防虫処理液1,2をスプレー塗装し、その後常温に放置してクリヤ塗膜の余熱によって該防虫処理液塗膜を乾燥させ、厚み50nmの防虫層を形成して試料1(防虫処理液1)、試料2(防虫処理液2)を作製した。
【0020】
比較として、該塗装基材に上記防虫処理液を塗布しない無処理試料(比較試料1)、クリヤ塗料に0.2質量%のペルメトリンを混合して塗装した比較試料2、該塗装基材表面にペルメトリンを直接塗布した比較試料3、該塗装基材の塗膜表面の温度が80℃の時に上記防虫処理液1を試料1と同様塗布した比較試料4を作製した。
【0021】
上記試料1,2、比較試料1,2,3,4について、害虫忌避効果持続性を評価した。
評価方法は(財)日本環境衛生センターの試験方法に準じた。
各試料の害虫忌避効果は、防虫処理液塗布乾燥直後、屋外放置40日後、屋外放置6ケ月後について測定した。実験開始日は平成16年5月1日、終了日(6ケ月後)は平成16年11月1日である。
得られた忌避率の結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
こゝに忌避率%は下記数1による。
【数1】

*対照区:比較試料1
【0024】
表1を参照すると、試料1と試料2とでは忌避率の値に余り変化はなく、両者共6ケ月後でも良好な防虫効果が持続していることが確認され、防虫剤の添加量と防虫効果とは相関関係を余りもたないことが認められた。
また塗料中に防虫剤を混合した比較試料2は6ケ月の経時で防虫効果が大きく低下し、直接防虫剤を塗布した比較試料3は6ケ月の経時により防虫効果は更に大きく低下し、また防虫処理液1を塗膜表面温度80℃で塗布した比較試料4は防虫剤が熱により変性して試料1よりも防虫効果が低下している。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明では、板材に耐久性のあるかつ効率の良い防虫効果を与えることが出来るから、産業上利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装が施された基材の塗膜表面に、コロイダルシリカ水性分散液中に防虫剤を添加した防虫処理液を塗布したことを特徴とする防虫性板材。
【請求項2】
上記防虫処理液は、コロイダルシリカの水−アルコール混合溶剤分散液に防虫剤を添加することによって調製される請求項1に記載の防虫性板材。
【請求項3】
上記コロイダルシリカの水−アルコール混合溶剤分散液には分散剤として界面活性剤が添加される請求項2に記載の防虫性板材。

【公開番号】特開2007−63182(P2007−63182A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−251072(P2005−251072)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000110860)ニチハ株式会社 (182)
【Fターム(参考)】