防雷設備
【課題】自励振動による損傷を防止することが可能な防雷設備を提供する。
【解決手段】防雷設備の電荷放散器10は、保護構造物に立設された支柱11と、支柱11の先端に設けられており、放射状に延びるように配置された複数の突針12と、突針12と交差するように配置され、二以上の突針12に跨って固定された緯線方向補強部材13及び経線方向補強部材14と、を備える。
【解決手段】防雷設備の電荷放散器10は、保護構造物に立設された支柱11と、支柱11の先端に設けられており、放射状に延びるように配置された複数の突針12と、突針12と交差するように配置され、二以上の突針12に跨って固定された緯線方向補強部材13及び経線方向補強部材14と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空中にイオンを放散して空中電界を緩和し、落雷から構造物を保護する防雷設備に関し、より詳細には、防雷設備における電荷放散器に関する。
【背景技術】
【0002】
帯電した雷雲の接近により雷雲と地面との間に電界が形成され、その電界強度が徐々に高まっていくと、ついには大気絶縁の破壊に至り、雷雲と大地の間に放電が起こる。これが落雷である。この落雷から保護しようとする構造物(建築物等)又はその周辺に電荷放散器(イオン放散器、イオナイザともいう)を設けて雷雲下部と逆の極性のイオンを上空に放散することによって構造物上空の電界を緩和し、落雷発生を遅らせる防雷設備が知られている(特許文献1,2参照)。
【0003】
従来の電荷放散器には、傘型電荷放散器、ボール型電荷放散器、放散ワイヤ等があり、これらは襲雷時に自然現象である先端放電現象を利用して、保護構造物、大地等に誘導された電荷を放散して電界を緩和することによって、急激な電荷の移動等を防止し、直撃雷による被害を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭53−39450号公報
【特許文献2】米国特許第5043527号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これらの電荷放散器は線径の細い針金、すなわち突針で構成されているため、着氷現象、着雪現象等でそれ自体の受風面積が増大する環境、又は、強風が発生する環境で使用される場合には、自励振動の発生によって電荷放散器が損傷する恐れがあるという課題があった。
【0006】
本発明は、前記した事情に鑑みて創作されたものであり、自励振動による損傷を防止することが可能な防雷設備を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、構造物又は地面に立設された支柱と、前記支柱の先端に設けられており、放射状に延びるように配置された複数の導電性針状物と、前記導電性針状物と交差するように配置され、二以上の前記導電性針状物に跨って固定された補強部材と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、着氷現象等で複数の導電性針状物の受風面積が増大する環境、又は、強風が発生する環境で使用される場合でも、自励振動による導電性針状物の損傷を防止し、安定した直撃雷被害の防止に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係る防雷設備を示す模式図である。
【図2】図1の設置状態の電荷放散器を上から見た図である。
【図3】図1の設置状態の電荷放散器を横から見た図である。
【図4】図3の止め具を示す斜視図である。
【図5】支柱と複数の突針とをテルミット接合した直後の状態を示す図である。
【図6】図5のナゲット及びラッパ管をX方向から見た一部破断拡大図である。
【図7】電荷放散器の樹脂コーティング領域を示す図であり、図1の電荷放散器を支柱の軸線に直交する方向から見た図である。
【図8】電荷放散器の樹脂コーティング領域を示す図であり、図1の電荷放散器を支柱の先端側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
<防雷設備>
まず、本発明の実施形態に係る防雷設備について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る防雷設備を示す模式図である。図1に示すように、本発明の実施形態に係る防雷設備1は、保護構造物(例えば、建築物)Sへの落雷を防止する設備であって、複数の電荷放散器(イオン放散器、イオナイザともいう)10と、接地20と、導電線(例えば、銅より線)30と、を備える。複数の電荷放散器10は、保護構造物Sの側壁に斜め上方へ向けて立設されており、複数の電荷放散器10のそれぞれに設けられた複数の突針12(図2参照)が、導電線30を介して接地20と電気的に接続されている。
【0012】
雷雲により生じた負電界が電荷放散器10の突針12(図2参照)の先端で極度に高まることによって、大気が電離して正に電離した正イオンが生じて上空に向かって放出される(先端放電現象、いわゆるコロナ放電)。電荷放散器10は、保護構造物S周辺の地面に接地20によって電気的に接続されており、正電荷が地面から電荷放散器10へ供給されるので、上空に雷雲があり負の電界が形成されている間、電荷放散器10は突針12から正イオンを放出し続ける。すなわち、接地20周辺の地面に集積した正電荷が、導電線30を通じて保護構造物Sに設置された電荷放散器10へ移動し、正イオンとして放出されると考えられる。電荷放散器10が正イオンを放出している間、電荷放散器10上部周辺の空間の電界が弱められるため、相対的に電界の強い空間が雷の経路になる。したがって、電界が弱い電荷放散器10周辺の空間は、電荷放散器10設置前に比べて雷の経路になりにくくなり、防雷設備1は、落雷しにくくなる防雷効果を発揮する。
【0013】
<電荷放散器>
続いて、本発明の実施形態に係る電荷放散器10の構造について説明する。図2は、図1の設置状態の電荷放散器を上から見た図であり、図3は、図1の設置状態の電荷放散器を横から見た図である。図4は、図3の止め具を示す斜視図である。図5は、支柱と複数の突針とをテルミット接合した直後の状態を示す図である。図6は、図5のナゲット及びラッパ管をX方向から見た一部破断拡大図である。図7は、電荷放散器の樹脂コーティング領域を示す図であり、図1の電荷放散器を支柱の軸線に直交する方向から見た図である。図8は、電荷放散器の樹脂コーティング領域を示す図であり、図1の電荷放散器を支柱の先端側から見た図である。
【0014】
図2及び図3に示すように、電荷放散器10は、いわゆるボール型電荷放散器であって、支柱11と、複数の突針12と、複数の緯線方向補強部材13と、複数の経線方向補強部材14と、複数の止め具15と、を備える。なお、図2において、複数の止め具15は省略されている。
【0015】
支柱11は、金属製(例えば、SUS鋼)の棒状部材であり、その基端が、ブラケット及びボルト等によって保護構造物Sに固定されている。
【0016】
複数の突針12は、支柱11の先端に設けられた導電性の針状物であって、少なくとも1本の突針12が上方を向くように、支柱11の先端から放射状に延設されている。本実施形態では、線径2.6mmのSUS鋼からなる32本の突針12が、支柱11の先端を中心とする外径1.2mの半球内に均一に分布するように放射状に延設されている。
【0017】
複数の緯線方向補強部材13は、支柱11の先端を中心とする半球の緯線方向に延設されたリング形状を呈する金属製(例えば、SUS鋼)の導電性部材であり、突針12と交差する場所において、止め具15によって突針12に固定されている。本実施形態では、半径の異なる4つの緯線方向補強部材13が、互いに間隔を空けて配置されている。
【0018】
複数の経線方向補強部材14は、支柱11の先端を中心とする半球の経線方向に延設された円弧形状を呈する金属製(例えば、SUS鋼)の導電性部材であり、突針12と交差する場所において、止め具15によって突針12に固定されている。本実施形態では、2つの経線方向補強部材14が、互いに直交するように配置されている。
【0019】
図4に示すように、複数の止め具15は、突針12及び緯線方向補強部材13又は経線方向補強部材14(図4では、緯線方向補強部材13)とカシメ固定されることによって、突針及び補強部材13,14を固定する金属製(例えば、SUS鋼)の導電性十字止め具である。
【0020】
図5及び図6に示すように、電荷放散器10は、ナゲット16と、ラッパ管17と、をさらに備える。
【0021】
ナゲット16は、支柱11の先端と複数の突針12とをテルミット溶接によって接合した際に形成される拡径部である。
【0022】
ラッパ管17は、複数の突針12の基端が挿通される円筒形状を呈する金属製部材(例えば、銅製)であり、ラッパ管17の先端側は、先端に向かうにつれて拡径するテーパ形状を呈する。
【0023】
また、図7及び図8に示すように、複数の突針12の先端を除いた部分、複数の緯線方向補強部材13、複数の経線方向補強部材14、複数の止め具15及びラッパ管17は、樹脂皮膜及び撥水性皮膜によって被覆されている(図7及び図8の樹脂コーティング領域C)。
【0024】
<電荷放散器の製造方法>
続いて、本発明の実施形態に係る電荷放散器10の製造方法について説明する。まず、図5及び図6に示すように、支柱11の先端と束ねられた複数の突針12の基端とをテルミット溶接によって接合する。すなわち、支柱11の先端と束ねられた複数の突針12の基端とを当接させた状態で樹脂製の型内に配置し、例えば銅及び錫の粉末を含むテルミット剤を火薬にて加熱して溶かして当接部位に流し込み、支柱11の先端と複数の突針12の基端とをテルミット溶接によって接合する。かかるテルミット溶接によって、ナゲット16が形成される。ナゲット16の形成後、溶接された支柱11及び複数の突針12を型から取り出し、複数の突針12をラッパ管17に挿通させ、ラッパ管17の基端とナゲット16の先端とを接着等によって固定する。
【0025】
続いて、図7及び図8に示すように、所定本数の突針12を基端側にて折り曲げて所定角度に開針し、開針された突針12に対応する緯線方向補強部材13を所定位置に配置し、突針12との交差場所において突針12及び緯線方向補強部材13を止め具15によって固定する。かかる作業は、折り曲げ角度が大きい突針12及び支柱11側の緯線方向補強部材13から順に、全ての突針12及び緯線方向補強部材13に関して繰り返される。
【0026】
全ての突針12を開針して放射状に延設するとともに全ての緯線方向補強部材13を止め具によって突針12にカシメ固定した後に、経線方向補強部材14を所定位置に配置し、突針12との交差場所において突針12及び経線方向補強部材14を止め具15によって固定する。かかる作業は、全ての経線方向補強部材14に関して繰り返される。
【0027】
緯線方向補強部材13及び経線方向補強部材14と突針12との固定は、交差した突針12及び緯線方向補強部材13(又は経線方向補強部材14)を十字止め具である止め具15の十字方向に配置された四つの溝内に収容し、治具(専用圧縮器)を用いて止め具15の溝をカシメることによって、突針12及び補強部材13,14と止め具15とをカシメ固定することによって実現される。
【0028】
なお、先端放電現象によって流れる放散電流は非常に微弱であるため、突針12と補強部材13,14とは電気的に低抵抗に接続されていることが望ましい。本実施形態では、金属製の十字止め具である止め具15を用いることによって、カシメ固定における圧着面の接触抵抗の低減化が図られている。
【0029】
続いて、ラッパ管17内に樹脂製塗料を流し込むとともに、複数の突針12の先端を除いた部分、複数の緯線方向補強部材13、複数の経線方向補強部材14、複数の止め具15及びラッパ管17に刷毛を用いて樹脂製塗料を塗布することによって、これらを樹脂皮膜によって被覆する(図7及び図8の樹脂コーティング領域)。なお、本実施形態では、樹脂皮膜上に刷毛を用いて撥水性コーティングを施すことによって、撥水性皮膜が形成される。
【0030】
本発明の実施形態に係る防雷設備1は、放射状に延設された複数の突針12が補強部材13,14によって互いに固定されているので、着氷現象等でそれ自体の受風面積が増大する環境、又は、強風が発生する環境で使用される場合でも、自励振動による電荷放散器10の損傷を防止し、安定した直撃雷被害の防止に寄与することができる。
また、本発明の実施形態に係る防雷設備1は、突針12と補強部材13,14とが十字止め具である止め具15を用いてカシメ固定されているので、圧着面の接触抵抗を低減することができる。
また、本発明の実施形態に係る防雷設備1は、支柱11及び複数の突針12がテルミット溶接によって接合されているので、複数の突針12の支柱への固定が容易である。
また、本発明の実施形態に係る防雷設備1は、複数の突針12が先端を露出した状態で樹脂皮膜及び撥水性皮膜によって被覆されているので、電荷放散器10の放散性能を確保しつつ、腐食を防ぐとともに着氷、着雪等を防ぐことができる。
【0031】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。突針12の本数及び放射方向は前記したものに限定されず、例えば120本の突針12が全球内に均一に配置されるように放射状に延設されている構成であってもよく、それ以外にも複数の突針12が三次元的に放射状に延設される構成であればよい。また、緯線方向補強部材13及び経線方向補強部材14の本数は前記したものに限定されず、緯線方向補強部材13及び経線方向補強部材14以外の補強部材を2本以上の突針12に跨って固定する構成であってもよい。また、突針12と補強部材13,14との固定は、十字止め具以外の止め具、溶接、接着等によるものであってもよい。また、本発明の電荷放散器10は、傘型電荷放電器の鉄塔の側面、建築物の屋上、小規模施設周辺の地面等にも設置可能である。また、補強部材は、導電性材料からなるものに限定されず、一の補強部材によって互いに固定される突針12の本数は、2本以上であればよい。
【符号の説明】
【0032】
1 防雷設備
10 電荷放散器
11 支柱
12 突針(導電性針状物)
13 緯線方向補強部材(補強部材)
14 経線方向補強部材(補強部材)
15 止め具
16 ナゲット
C 樹脂コーティング領域
S 保護構造物(構造物)
【技術分野】
【0001】
本発明は、空中にイオンを放散して空中電界を緩和し、落雷から構造物を保護する防雷設備に関し、より詳細には、防雷設備における電荷放散器に関する。
【背景技術】
【0002】
帯電した雷雲の接近により雷雲と地面との間に電界が形成され、その電界強度が徐々に高まっていくと、ついには大気絶縁の破壊に至り、雷雲と大地の間に放電が起こる。これが落雷である。この落雷から保護しようとする構造物(建築物等)又はその周辺に電荷放散器(イオン放散器、イオナイザともいう)を設けて雷雲下部と逆の極性のイオンを上空に放散することによって構造物上空の電界を緩和し、落雷発生を遅らせる防雷設備が知られている(特許文献1,2参照)。
【0003】
従来の電荷放散器には、傘型電荷放散器、ボール型電荷放散器、放散ワイヤ等があり、これらは襲雷時に自然現象である先端放電現象を利用して、保護構造物、大地等に誘導された電荷を放散して電界を緩和することによって、急激な電荷の移動等を防止し、直撃雷による被害を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭53−39450号公報
【特許文献2】米国特許第5043527号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これらの電荷放散器は線径の細い針金、すなわち突針で構成されているため、着氷現象、着雪現象等でそれ自体の受風面積が増大する環境、又は、強風が発生する環境で使用される場合には、自励振動の発生によって電荷放散器が損傷する恐れがあるという課題があった。
【0006】
本発明は、前記した事情に鑑みて創作されたものであり、自励振動による損傷を防止することが可能な防雷設備を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、構造物又は地面に立設された支柱と、前記支柱の先端に設けられており、放射状に延びるように配置された複数の導電性針状物と、前記導電性針状物と交差するように配置され、二以上の前記導電性針状物に跨って固定された補強部材と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、着氷現象等で複数の導電性針状物の受風面積が増大する環境、又は、強風が発生する環境で使用される場合でも、自励振動による導電性針状物の損傷を防止し、安定した直撃雷被害の防止に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係る防雷設備を示す模式図である。
【図2】図1の設置状態の電荷放散器を上から見た図である。
【図3】図1の設置状態の電荷放散器を横から見た図である。
【図4】図3の止め具を示す斜視図である。
【図5】支柱と複数の突針とをテルミット接合した直後の状態を示す図である。
【図6】図5のナゲット及びラッパ管をX方向から見た一部破断拡大図である。
【図7】電荷放散器の樹脂コーティング領域を示す図であり、図1の電荷放散器を支柱の軸線に直交する方向から見た図である。
【図8】電荷放散器の樹脂コーティング領域を示す図であり、図1の電荷放散器を支柱の先端側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
<防雷設備>
まず、本発明の実施形態に係る防雷設備について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る防雷設備を示す模式図である。図1に示すように、本発明の実施形態に係る防雷設備1は、保護構造物(例えば、建築物)Sへの落雷を防止する設備であって、複数の電荷放散器(イオン放散器、イオナイザともいう)10と、接地20と、導電線(例えば、銅より線)30と、を備える。複数の電荷放散器10は、保護構造物Sの側壁に斜め上方へ向けて立設されており、複数の電荷放散器10のそれぞれに設けられた複数の突針12(図2参照)が、導電線30を介して接地20と電気的に接続されている。
【0012】
雷雲により生じた負電界が電荷放散器10の突針12(図2参照)の先端で極度に高まることによって、大気が電離して正に電離した正イオンが生じて上空に向かって放出される(先端放電現象、いわゆるコロナ放電)。電荷放散器10は、保護構造物S周辺の地面に接地20によって電気的に接続されており、正電荷が地面から電荷放散器10へ供給されるので、上空に雷雲があり負の電界が形成されている間、電荷放散器10は突針12から正イオンを放出し続ける。すなわち、接地20周辺の地面に集積した正電荷が、導電線30を通じて保護構造物Sに設置された電荷放散器10へ移動し、正イオンとして放出されると考えられる。電荷放散器10が正イオンを放出している間、電荷放散器10上部周辺の空間の電界が弱められるため、相対的に電界の強い空間が雷の経路になる。したがって、電界が弱い電荷放散器10周辺の空間は、電荷放散器10設置前に比べて雷の経路になりにくくなり、防雷設備1は、落雷しにくくなる防雷効果を発揮する。
【0013】
<電荷放散器>
続いて、本発明の実施形態に係る電荷放散器10の構造について説明する。図2は、図1の設置状態の電荷放散器を上から見た図であり、図3は、図1の設置状態の電荷放散器を横から見た図である。図4は、図3の止め具を示す斜視図である。図5は、支柱と複数の突針とをテルミット接合した直後の状態を示す図である。図6は、図5のナゲット及びラッパ管をX方向から見た一部破断拡大図である。図7は、電荷放散器の樹脂コーティング領域を示す図であり、図1の電荷放散器を支柱の軸線に直交する方向から見た図である。図8は、電荷放散器の樹脂コーティング領域を示す図であり、図1の電荷放散器を支柱の先端側から見た図である。
【0014】
図2及び図3に示すように、電荷放散器10は、いわゆるボール型電荷放散器であって、支柱11と、複数の突針12と、複数の緯線方向補強部材13と、複数の経線方向補強部材14と、複数の止め具15と、を備える。なお、図2において、複数の止め具15は省略されている。
【0015】
支柱11は、金属製(例えば、SUS鋼)の棒状部材であり、その基端が、ブラケット及びボルト等によって保護構造物Sに固定されている。
【0016】
複数の突針12は、支柱11の先端に設けられた導電性の針状物であって、少なくとも1本の突針12が上方を向くように、支柱11の先端から放射状に延設されている。本実施形態では、線径2.6mmのSUS鋼からなる32本の突針12が、支柱11の先端を中心とする外径1.2mの半球内に均一に分布するように放射状に延設されている。
【0017】
複数の緯線方向補強部材13は、支柱11の先端を中心とする半球の緯線方向に延設されたリング形状を呈する金属製(例えば、SUS鋼)の導電性部材であり、突針12と交差する場所において、止め具15によって突針12に固定されている。本実施形態では、半径の異なる4つの緯線方向補強部材13が、互いに間隔を空けて配置されている。
【0018】
複数の経線方向補強部材14は、支柱11の先端を中心とする半球の経線方向に延設された円弧形状を呈する金属製(例えば、SUS鋼)の導電性部材であり、突針12と交差する場所において、止め具15によって突針12に固定されている。本実施形態では、2つの経線方向補強部材14が、互いに直交するように配置されている。
【0019】
図4に示すように、複数の止め具15は、突針12及び緯線方向補強部材13又は経線方向補強部材14(図4では、緯線方向補強部材13)とカシメ固定されることによって、突針及び補強部材13,14を固定する金属製(例えば、SUS鋼)の導電性十字止め具である。
【0020】
図5及び図6に示すように、電荷放散器10は、ナゲット16と、ラッパ管17と、をさらに備える。
【0021】
ナゲット16は、支柱11の先端と複数の突針12とをテルミット溶接によって接合した際に形成される拡径部である。
【0022】
ラッパ管17は、複数の突針12の基端が挿通される円筒形状を呈する金属製部材(例えば、銅製)であり、ラッパ管17の先端側は、先端に向かうにつれて拡径するテーパ形状を呈する。
【0023】
また、図7及び図8に示すように、複数の突針12の先端を除いた部分、複数の緯線方向補強部材13、複数の経線方向補強部材14、複数の止め具15及びラッパ管17は、樹脂皮膜及び撥水性皮膜によって被覆されている(図7及び図8の樹脂コーティング領域C)。
【0024】
<電荷放散器の製造方法>
続いて、本発明の実施形態に係る電荷放散器10の製造方法について説明する。まず、図5及び図6に示すように、支柱11の先端と束ねられた複数の突針12の基端とをテルミット溶接によって接合する。すなわち、支柱11の先端と束ねられた複数の突針12の基端とを当接させた状態で樹脂製の型内に配置し、例えば銅及び錫の粉末を含むテルミット剤を火薬にて加熱して溶かして当接部位に流し込み、支柱11の先端と複数の突針12の基端とをテルミット溶接によって接合する。かかるテルミット溶接によって、ナゲット16が形成される。ナゲット16の形成後、溶接された支柱11及び複数の突針12を型から取り出し、複数の突針12をラッパ管17に挿通させ、ラッパ管17の基端とナゲット16の先端とを接着等によって固定する。
【0025】
続いて、図7及び図8に示すように、所定本数の突針12を基端側にて折り曲げて所定角度に開針し、開針された突針12に対応する緯線方向補強部材13を所定位置に配置し、突針12との交差場所において突針12及び緯線方向補強部材13を止め具15によって固定する。かかる作業は、折り曲げ角度が大きい突針12及び支柱11側の緯線方向補強部材13から順に、全ての突針12及び緯線方向補強部材13に関して繰り返される。
【0026】
全ての突針12を開針して放射状に延設するとともに全ての緯線方向補強部材13を止め具によって突針12にカシメ固定した後に、経線方向補強部材14を所定位置に配置し、突針12との交差場所において突針12及び経線方向補強部材14を止め具15によって固定する。かかる作業は、全ての経線方向補強部材14に関して繰り返される。
【0027】
緯線方向補強部材13及び経線方向補強部材14と突針12との固定は、交差した突針12及び緯線方向補強部材13(又は経線方向補強部材14)を十字止め具である止め具15の十字方向に配置された四つの溝内に収容し、治具(専用圧縮器)を用いて止め具15の溝をカシメることによって、突針12及び補強部材13,14と止め具15とをカシメ固定することによって実現される。
【0028】
なお、先端放電現象によって流れる放散電流は非常に微弱であるため、突針12と補強部材13,14とは電気的に低抵抗に接続されていることが望ましい。本実施形態では、金属製の十字止め具である止め具15を用いることによって、カシメ固定における圧着面の接触抵抗の低減化が図られている。
【0029】
続いて、ラッパ管17内に樹脂製塗料を流し込むとともに、複数の突針12の先端を除いた部分、複数の緯線方向補強部材13、複数の経線方向補強部材14、複数の止め具15及びラッパ管17に刷毛を用いて樹脂製塗料を塗布することによって、これらを樹脂皮膜によって被覆する(図7及び図8の樹脂コーティング領域)。なお、本実施形態では、樹脂皮膜上に刷毛を用いて撥水性コーティングを施すことによって、撥水性皮膜が形成される。
【0030】
本発明の実施形態に係る防雷設備1は、放射状に延設された複数の突針12が補強部材13,14によって互いに固定されているので、着氷現象等でそれ自体の受風面積が増大する環境、又は、強風が発生する環境で使用される場合でも、自励振動による電荷放散器10の損傷を防止し、安定した直撃雷被害の防止に寄与することができる。
また、本発明の実施形態に係る防雷設備1は、突針12と補強部材13,14とが十字止め具である止め具15を用いてカシメ固定されているので、圧着面の接触抵抗を低減することができる。
また、本発明の実施形態に係る防雷設備1は、支柱11及び複数の突針12がテルミット溶接によって接合されているので、複数の突針12の支柱への固定が容易である。
また、本発明の実施形態に係る防雷設備1は、複数の突針12が先端を露出した状態で樹脂皮膜及び撥水性皮膜によって被覆されているので、電荷放散器10の放散性能を確保しつつ、腐食を防ぐとともに着氷、着雪等を防ぐことができる。
【0031】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。突針12の本数及び放射方向は前記したものに限定されず、例えば120本の突針12が全球内に均一に配置されるように放射状に延設されている構成であってもよく、それ以外にも複数の突針12が三次元的に放射状に延設される構成であればよい。また、緯線方向補強部材13及び経線方向補強部材14の本数は前記したものに限定されず、緯線方向補強部材13及び経線方向補強部材14以外の補強部材を2本以上の突針12に跨って固定する構成であってもよい。また、突針12と補強部材13,14との固定は、十字止め具以外の止め具、溶接、接着等によるものであってもよい。また、本発明の電荷放散器10は、傘型電荷放電器の鉄塔の側面、建築物の屋上、小規模施設周辺の地面等にも設置可能である。また、補強部材は、導電性材料からなるものに限定されず、一の補強部材によって互いに固定される突針12の本数は、2本以上であればよい。
【符号の説明】
【0032】
1 防雷設備
10 電荷放散器
11 支柱
12 突針(導電性針状物)
13 緯線方向補強部材(補強部材)
14 経線方向補強部材(補強部材)
15 止め具
16 ナゲット
C 樹脂コーティング領域
S 保護構造物(構造物)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物又は地面に立設された支柱と、
前記支柱の先端に設けられており、放射状に延びるように配置された複数の導電性針状物と、
前記導電性針状物と交差するように配置され、二以上の前記導電性針状物に跨って固定された補強部材と、
を備えることを特徴とする防雷設備。
【請求項2】
前記導電性針状物及び前記補強部材にカシメ固定されることによって前記導電性針状物及び前記補強部材を互いに固定する止め具を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の防雷設備。
【請求項3】
前記支柱と前記複数の導電性針状物とは、テルミット溶接によって互いに接合されている
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の防雷設備。
【請求項4】
前記複数の導電性針状物は、先端を露出した状態で樹脂によって被覆されている
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の防雷設備。
【請求項1】
構造物又は地面に立設された支柱と、
前記支柱の先端に設けられており、放射状に延びるように配置された複数の導電性針状物と、
前記導電性針状物と交差するように配置され、二以上の前記導電性針状物に跨って固定された補強部材と、
を備えることを特徴とする防雷設備。
【請求項2】
前記導電性針状物及び前記補強部材にカシメ固定されることによって前記導電性針状物及び前記補強部材を互いに固定する止め具を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の防雷設備。
【請求項3】
前記支柱と前記複数の導電性針状物とは、テルミット溶接によって互いに接合されている
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の防雷設備。
【請求項4】
前記複数の導電性針状物は、先端を露出した状態で樹脂によって被覆されている
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の防雷設備。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2013−81269(P2013−81269A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218711(P2011−218711)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】
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