説明

防食被覆コンクリート構造部材の目地部構造

【課題】 多くの時間や手間を必要とすることなく、防食被覆を施したコンクリート構造部材の接合部分を容易に防食被覆することのできる目地部構造を提供する。
【解決手段】 表面に防食被覆を施したコンクリート構造部材としてのセグメント10を複数連設一体化する際に、これの目地部13に設けられる目地部構造11であって、隣接するセグメント10の各端面に形成された切欠き溝14を対向配置することにより目地部13に沿って形成される、首部15から肩部16を介して拡幅するボトル状の断面形状を有する挿入溝17と、挿入溝17に挿入配置される、首部18と、この首部18の一方に肩部19を介して連接する拡幅部20と、首部18の他方に連接する蓋部21とからなる断面形状を有する防食挿入部材22とによって構成され、挿入溝17に防食挿入部材22を押し込むことによって容易に設置される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、防食被覆コンクリート構造部材の目地部構造に関し、特に、表面に防食被覆を施した、セグメント等のプレキャスト製のコンクリート構造部材を複数連設一体化する際に採用される目地部構造に関する。
【0002】
【従来の技術】例えば下水道などの腐食性の水に接するコンクリート構造物の防食方法としては、コンクリート表面に例えばエポキシ樹脂等の樹脂材料を塗布したり、コンクリート構造物を構成するセグメント等のプレキャスト構造部材の製造時に、コンクリートの表面部分の型枠に防食性の樹脂パネルや樹脂シートを取付けてコンクリートを打設し、あるいは打設したコンクリートの硬化後に樹脂材料を塗布したりすることによってコンクリート表面を防食被覆する方法が採用されている。
【0003】そして、コンクリートセグメント等のプレキャスト構造部材の製造時に予めこれらの表面の防食被覆を行った場合、かかる防食被覆されたコンクリート構造部材を複数連設一体化してシールドトンネルなどのコンクリート構造物が構成されることになるが、隣接するコンクリート構造部材の接合部にもまた現場において防食被覆を施す必要が生じることになる。
【0004】そしてかかる接合部の防食方法としては、従来より、セグメント等のコンクリート構造部材を組立てた後、目地部に樹脂材料を充填する方法や、合成樹脂製の防食被覆材同士を溶接により一体化する方法などが採用されていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、かかる従来の防食被覆コンクリート構造部材の接合部の防食方法によれば、樹脂材料を目地部に充填すなわちコーキングする方法では、コンクリート構造部材の接合部分の清掃や乾燥に相当の時間を必要とし、また、樹脂材料が硬化するまでに長期の養生期間を必要とするとともに、コーキング作業に多くの手間を必要とするという課題があった。
【0006】また、防食被覆材同士を溶接する方法によれば、施工現場に地下水などの水分が存在すると溶接能率が低下するとともに、必要な電源の確保などその準備や施工に多くの手間を必要とすることになるという課題があった。
【0007】そこで、この発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたもので、多くの時間や手間を必要とすることなく、防食被覆を施したコンクリート構造部材の接合部を容易に防食被覆することのできる、防食被覆コンクリート構造部材の目地部構造を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】この発明は、かかる目的を達成するためになされたもので、その要旨は、表面に防食被覆を施したコンクリート構造部材を複数連設一体化する際に、これの目地部に設けられる目地部構造であって、隣接するコンクリート構造部材の各端面に形成された切欠き溝を対向配置することにより前記目地部に沿って形成される、首部から肩部を介して拡幅するボトル状の断面形状を有する挿入溝と、該挿入溝に挿入配置される、首部と、該首部の一方に肩部を介して連接する拡幅部と、前記首部の他方に連接する蓋部とからなる断面形状を有する帯状弾性防食挿入部材とからなることを特徴とする防食被覆コンクリート構造部材の目地部構造にある。
【0009】また、この発明の目地部構造は、前記帯状弾性防食挿入部材の首部の側面に水膨潤性ゴムを取り付けることが好ましい。
【0010】そして、この発明の目地部構造によれば、隣接するコンクリート構造部材を、その端面同士を当接させて例えばボルト接合などにより接続固定すれば、予め各コンクリート構造部材の端面所定位置に形成された切欠き溝が対向配置されて、首部から肩部を介して拡幅するボトル状の断面形状を有する挿入溝が、コンクリート構造部材の接合部の表面にその首部を開口させた状態で形成されることになる。
【0011】そして、このように形成された挿入溝に対して、帯状弾性防食挿入部材を、その拡幅部を挿入溝の首部の開口に向けて配置するとともに、例えばこれをたたき込むようにして挿入溝の内部に押し込めば、帯状弾性防食挿入部材の拡幅部は、その弾性により収縮変形して挿入溝の首部を通過し、肩部より深い位置において復元して挿入溝の拡幅部に配置されるとともに、帯状可撓性防食挿入部材の蓋部は、接合部分の表面の目地部すなわち挿入溝の開口を覆うようにして当該表面に強固に密着配置されることになる。
【0012】すなわち、この発明の防食被覆コンクリート構造部材の目地部構造によれば、隣接するコンクリート構造部材の接合部分に形成された目地部としての挿入溝に、帯状弾性防食挿入部材を押し込むだけの作業により、止水性、及び防食性に富んだ目地部を容易に得ることができる。
【0013】また、前記帯状弾性防食挿入部材の首部の側面に水膨潤性ゴムを取り付けておけば、これが膨潤することにより挿入溝の首部と帯状可撓性防食挿入部材の首部との間の隙間を充填して、より確実な止水性を付与することが可能になる。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、この発明の好ましい実施形態を添付図面を参照して詳細に説明する。この実施形態の防食被覆コンクリート構造部材の目地部構造は、図1(a)及び(b)に示すようなシールドトンネル50の覆工体51を構成するコンクリート構造部材としてのコンクリートセグメント10の接合部12の目地部13に設けられるものである。
【0015】また、この実施形態によれば、シールドトンネル50は下水道用のトンネルであって腐食性の水に接するものであるため、各セグメント10の内周面を、これの製造時に予め防食性の被覆膜23によって覆うとともに(図2参照)、複数のセグメント10を連接一体化して覆工体51を形成する際に、隣接するセグメント10間の接合部12にも高い防食性、及び止水性を付与するために、この発明の防食被覆コンクリート構造部材の目地部構造を設けるものである。
【0016】すなわち、この実施形態の目地部構造11は、図2に示すように、隣接するセグメント10間の接合部12の目地部13に設けられるものであって、各セグメント10の端面に形成された切欠き溝14を対向配置することにより目地部13に沿って形成される、首部15から肩部16を介して拡幅するボトル状の断面形状を有する挿入溝17と、この挿入溝17に挿入配置される、首部18と、この首部18の一方に肩部19を介して連接する拡幅部20と、首部18の他方に連接する蓋部21とからなる断面形状を有する防食挿入部材22とによって構成されている。
【0017】ここで、コンクリートセグメント10は、予め工場等において製作型枠内にコンクリートを打設硬化させて製作される矩形円弧状のレキャストコンクリート製のもので、セグメント10の内周面側に配置される製作型枠の表面に被覆膜23を敷設配置した後にコンクリートを打設することにより、各セグメント10の内周面に容易に被覆膜23を貼着配置することが可能である。
【0018】また、被覆膜23は、防食性に富んだ、ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂材料からなるシート部材によって形成されるもので、例えばこれの裏面に多数の突起を有し、これをアンカーとしてセグメント10の内周面のコンクリート中に埋設することにより、当該内周面に被覆膜23が強固に密着固定されることになる。
【0019】一方、セグメント10の各端面には、図3に拡大して示すように、各セグメント10の周方向に沿って延長する切欠き溝14が設けられているとともに、各セグメント10の端部内側の適宜箇所には、隣接するセグメント10を締結固定する際に使用するボルトボックスなどが、一般のセグメントと同様に設けられている。
【0020】ここで、切欠き溝14は、セグメント10の製作時に箱抜き等を施して形成されるもので、斜面部分25を挟んでセグメント10の内側に位置する切欠き深さの小さい第一段部26と、斜面部分25を挟んでセグメント10の外側に位置する切欠き深さの大きい第二段部24とからなり、隣接するセグメント10の端面同士を当接させてボルト接合などにより接続固定することにより、各セグメント10の切欠き溝14が対向配置されて、首部15から肩部16を介して拡幅するボトル状の断面形状を有する挿入溝17が、セグメント10の接合部の表面にその首部15を開口させた状態で形成されることになる。
【0021】なお、隣接するセグメント10の間に例えば止水用のガスケット27などを挟んでこれらを接続固定すれば、ガスケット27を幅止め部材として挿入溝17の首部15が形成されることになるので、切欠き溝14を形成する際に、第一段部26を必ずしも設ける必要はない。また、第二段部24の内面には、ギザギザの突起28を設けておき、これによって、挿入溝17に挿入された防食挿入部材22をさらに抜けにくくすることができる。
【0022】そして、隣接するセグメント10の接続部に形成された目地部としての挿入溝17に挿入配置されるこの実施形態の防食挿入部材22は、図4に示すように、例えば高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂材料からなる、防食性に富むとともに弾性を有する帯状の部材であって、上述のように、首部18と、この首部18の一方に肩部19を介して連接する拡幅部20と、首部18の他方に連接する蓋部21とからなり、首部18、及び肩部19を介した拡幅部20の断面形状は、挿入溝17の断面形状と略合致する形状を備えているとともに、拡幅部20の下端部分には、これを挿入溝17の首部15の開口から挿入溝17内に打ち込みやすいように、先鋭部29が形成されている。
【0023】また、防食挿入部材22の首部18の側面には、水膨潤性のゴム30が取り付けられており、さらに防食挿入部材22の拡幅部20の側面はギザギザの凹凸面となるように加工されている。
【0024】そして、このような構成を有するこの実施形態の目地部構造11によれば、隣接するセグメント10を接続固定して形成された上述の挿入溝17に対し、防食挿入部材22を、その拡幅部20の先鋭部29を挿入溝17の首部15の開口に向けて配置するとともに、挿入溝17の内部に向けてたたき込めば、この防食挿入部材22は、その弾性により挿入溝17の内部に容易に押し込まれた後、復元して挿入溝17の拡幅部31を充填するとともに、防食挿入部材22の蓋部21は、挿入溝17の開口を覆うようにして接合部12の表面に強固に密着配置されることになる(図2参照)。
【0025】すなわち、この実施形態によれば、隣接するコンクリートセグメント10の接合部12に形成された目地部13としての挿入溝17に、防食挿入部材22をたたき込むだけの作業により、止水性、及び防食性に富んだ目地部構造11を容易に得ることができる。
【0026】また、防食挿入部材22の首部18の側面に取り付けられた水膨潤性のゴム30が膨潤することにより、挿入溝17の首部15と防食挿入部材22の首部18との間の隙間を充填して、より確実な止水性を付与することが可能になるとともに、挿入溝17の拡幅部31のギザギザの内周面と、防食挿入部材22の拡幅部20のギザギザの外壁面とが接触することにより、防食挿入部材22が挿入溝17から抜け出すのをより確実に防止することができる。
【0027】なお、この発明は、上記実施形態の実施の態様に限定されるものではなく、各請求項に記載された構成の範囲内において種々に変更して採用することができる。例えば、防食挿入部材22の首部18の側面に取り付けられた水膨潤性のゴム30や、挿入溝17の拡幅部の内周面あるいは防食挿入部材22の拡幅部20の外周面に形成されるギザギザは必ずしも設ける必要はない。
【0028】また、この発明は、シールドトンネル50の覆工体51を構成するコンクリートセグメント10に限定されることなく、表面に防食被覆が施された、その他の各種のプレキャスト製のコンクリート構造部材の接合部にも採用することができる。
【0029】
【発明の効果】以上詳細に説明したように、この発明の防食被覆コンクリート構造部材の目地部構造によれば、隣接するコンクリート構造部材の各端面に形成された切欠き溝を対向配置することにより目地部に沿って形成される、首部から肩部を介して拡幅するボトル状の断面形状を有する挿入溝と、この挿入溝に挿入配置される、首部と、首部の一方に肩部を介して連接する拡幅部と、首部の他方に連接する蓋部とからなる断面形状を有する帯状弾性防食挿入部材とからなるので、この帯状弾性防食挿入部材を挿入溝に押し込むだけの作業によって、多くの時間や手間を必要とすることなく、防食被覆を施したコンクリート構造部材の接合部を容易に防食被覆することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)及び(b)は、この発明の一実施形態に係る目地部構造を採用したシールドトンネルのセグメント覆工体を説明する、(a)は正面図、(b)は(a)をA−Aから見た内面図である。
【図2】この発明の一実施形態に係る目地部構造を示す断面図である。
【図3】この発明の一実施形態に係る目地部構造を構成する挿入溝を説明する拡大断面図である。
【図4】この発明の一実施形態に係る目地部構造を構成する防食挿入部材を説明する拡大断面図である。
【符号の説明】
10 セグメント(コンクリート構造部材)
11 目地部構造
12 接合部
13 目地部
14 切欠き溝
15 挿入溝の首部
16 挿入溝の肩部
17 挿入溝
18 防食挿入部材の首部
19 防食挿入部材の肩部
20 防食挿入部材の拡幅部
21 防食挿入部材の蓋部
22 防食挿入部材(締結部材)
23 被覆膜
25 斜面部分(切欠き溝)
26 第一段部(切欠き溝)
27 第二段部(切欠き溝)
30 水膨潤性ゴム
31 挿入溝の拡幅部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 表面に防食被覆を施したコンクリート構造部材を複数連設一体化する際に、これの目地部に設けられる目地部構造であって、隣接するコンクリート構造部材の各端面に形成された切欠き溝を対向配置することにより前記目地部に沿って形成される、首部から肩部を介して拡幅するボトル状の断面形状を有する挿入溝と、該挿入溝に挿入配置される、首部と、該首部の一方に肩部を介して連接する拡幅部と、前記首部の他方に連接する蓋部とからなる断面形状を有する帯状弾性防食挿入部材とからなることを特徴とする防食被覆コンクリート構造部材の目地部構造。
【請求項2】 前記帯状弾性防食挿入部材の首部の側面には水膨潤性ゴムが取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の防食被覆コンクリート構造部材の目地部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開平11−107691
【公開日】平成11年(1999)4月20日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−268773
【出願日】平成9年(1997)10月1日
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)