説明

防食被覆鋼材

【課題】従来の防食被覆鋼材に比べ、耐アルカリ性に優れた防食被覆鋼材を提供する。
【解決手段】素地鋼材と、該素地鋼材上に、直接または中間層を介して積層され、硫黄または珪素を含有する無機化合物ベースの防食被覆層とを有し、前記素地鋼材と接触する、防食被覆層の少なくとも鋼材側部分または中間層に、pH緩衝作用のある物質を含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として土木・建築用の資材に適用される耐アルカリ性に優れた防食被覆鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
防食被覆鋼材において、被覆層の傷等により鋼材が環境に露出した場合、露出した部分の鋼材がアノード、被覆層と鋼材の界面がカソードとなり、例えば、アルカリ環境下では、カソード反応(還元反応)によって水酸化物イオン(OH)が生成しやすく、この生成した水酸化物イオンと防食被覆層が反応することで防食被覆層が剥離しやすくなることが知られている。そのため、海洋鋼構造物などにおいてカソード防食法を防食被覆鋼材に用いた場合、素地鋼材の腐食が減少するのが通常であるが、上記と同様に生成した水酸化物イオン(OH)と、防食被覆層が反応することで防食被覆層が剥離(カソード剥離)しやすくなるといった問題がある。
【0003】
また、珪素や硫黄を主成分とする無機化合物は、有機被覆に比べて耐候性や、硬度が高いことによる耐傷つき性などに優れ、防食被覆として注目されており、無機ジンクリッチペイントのバインダーなど、一部は鋼材の防食被覆層として適用されている。
【0004】
また、耐酸性、強度に優れる硫黄を利用した土木・建築用資材が提案されており、例えば特許文献1では改質された硫黄と珪素を含んだ無機資材からなる耐酸性、強度に優れる材料が提案されており、防食被覆材料に適すると考えられる。しかし、これらの材料についても、耐酸性は有するが、アルカリ(OH)には溶解するという欠点がある。
【0005】
カソード剥離を抑制するための手段としては、例えば特許文献2に示すように、鋼材の下地処理としてクロメート処理を実施する方法や、また特許文献3に示すように、生成する水酸化物イオンを捕捉する目的でマイナスの固定電荷を持つ樹脂を含有する樹脂を用いた塗料を被覆する方法が提示されている。
【0006】
上記方法は、いずれもカソード剥離を抑制するための方法であるが、特にアルカリ環境下でのカソード剥離を意図したものではなく、アルカリ環境下におけるカソード剥離を十分に抑制できないという問題があった。加えて、特許文献1の方法は、環境上の観点から好ましくない。
【0007】
そのため、上記問題点を解決できるような耐アルカリ性に優れた防食被覆鋼材が望まれている。
【特許文献1】特開2001−163649号公報
【特許文献2】特開2001−288588号公報
【特許文献3】特開2003−147555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、耐アルカリ性に優れた防食被覆鋼材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決して耐アルカリ性に優れた防食被覆鋼材を得るために検討を重ねた結果、素地鋼材と、該素地鋼材上に、直接または中間層を介して積層され、硫黄または珪素を含有する無機化合物ベースの防食被覆層または有機化合物ベースの防食被覆層とを有し、前記素地鋼材と接触する、防食被覆層の少なくとも鋼材側部分または中間層に、pH緩衝作用のある物質を含有させることで、アルカリ雰囲気にて腐食などにより被覆下の鋼材面に水酸化物イオンが生成した際に、被覆下の鋼材面のpHを常に中性域に保持できる結果、耐アルカリ性に優れた防食被覆鋼材が得られることを見出した。
【0010】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、その要旨は以下の通りである。
【0011】
(1)素地鋼材と、該素地鋼材上に、直接または中間層を介して積層され、硫黄または珪素を含有する無機化合物ベースの防食被覆層とを有し、前記素地鋼材と接触する、防食被覆層の少なくとも鋼材側部分または中間層に、pH緩衝作用のある物質を含有させることを特徴とする防食被覆鋼材。
【0012】
(2)素地鋼材と、該素地鋼材上に中間層を介して積層され、硫黄と、珪素を含んだ無機資材とを含有する無機化合物ベースの防食被覆層とを有し、前記素地鋼材と接触する前記中間層に、pH緩衝作用のある物質を含有させることを特徴とする防食被覆鋼材。
【0013】
(3)素地鋼材と、該素地鋼材上に積層され、硫黄と、珪素を含んだ無機資材とを含有する無機化合物ベースの防食被覆層とを有し、該防食被覆層に、pH緩衝作用のある物質を含有させることを特徴とする防食被覆鋼材。
【0014】
(4)素地鋼材と、該素地鋼材上に、直接または中間層を介して積層され、有機化合物ベースの防食被覆層とを有し、前記素地鋼材と接触する、防食被覆層の少なくとも鋼材側部分または中間層に、pH緩衝作用のある物質を含有させることを特徴とする防食被覆鋼材。
【0015】
(5)前記(1)〜(4)において、pH緩衝作用のある物質は、フタル酸水素カリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素カルシウム、トリポリリン酸アルミニウム及び五酸化バナジウムの中から選択される1種または2種以上であることを特徴とする防食被覆鋼材。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、素地鋼材と、該素地鋼材上に、直接または中間層を介して積層され、硫黄または珪素を含有する無機化合物ベースまたは有機化合物ベースの防食被覆層とを有し、鋼材と接触する、防食被覆層の少なくとも鋼材側部分または中間層にpH緩衝作用のある物質を含有させることで、耐アルカリ性に優れた防食被覆鋼材を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の構成と限定理由を説明する。
【0018】
この発明の防食被覆鋼材は、素地鋼材と、該素地鋼材上に、直接または中間層を介して積層され、硫黄または珪素を含有する無機化合物ベースまたは有機化合物ベースの防食被覆層とを有し、鋼材と接触する、防食被覆層の少なくとも鋼材側部分または中間層にpH緩衝作用のある物質を含有させることを特徴とする防食被覆鋼材である。
【0019】
本発明の防食被覆鋼材の被覆層の構成例を図1および図2に示す。図1は、鋼材11の表面に、直接防食被覆層13を積層したものである。図2は、鋼材11の表面に中間層12、防食被覆層13を順次積層したものである。
【0020】
(素地鋼材)
本発明の防食被覆鋼材の母材となる素地鋼材としては、例えば、炭素鋼、低合金鋼及びステンレス鋼等が挙げられる。用途について特に限定はないが、土木建築資材に適用できるのもの、例えば、鉄筋、鋼管、鋳鉄管、鋼板(厚板など)、形鋼等が好ましい。また、素地鋼材に予め表面処理を施していてもよく、必要に応じて、ブラスト、ケレン、酸洗等を施してもよい。
【0021】
(防食被覆層、中間層)
本発明の防食被覆層は、前記素地鋼材の上に、直接または中間層を介して積層され、硫黄または珪素を含有する無機化合物ベースまたは有機化合物ベースの被覆層として形成する。
【0022】
中間層は、主として鋼材と防食被覆層との密着性向上のために形成され、例えば、エポキシ樹脂又はポリウレタン等の熱硬化性樹脂からなるプライマー、リン酸塩被膜、クロメート被膜などの化成被膜、シランカップリング剤の接着層等が挙げられる。密着性を向上するものであればどのようなものでも支障はないが、密着性だけでなく耐食性を向上できるものが好ましい。
【0023】
密着性と耐食性の点からエポキシ樹脂及び/又はポリウレタン等の熱硬化性樹脂からなるプライマーがより好ましい。このプライマーは、例えばエポキシ樹脂系では、主剤/硬化剤の組み合わせとして、ジャパンエポキシレジン社製jER 828/jER T、jER 828/jER LV11、jER 828/jER DC11等を用いることができる。またポリウレタン系としては第一工業製薬社製パーマガード331 主剤/硬化剤等を用いることが出来る。
【0024】
中間層が前述のプライマーの場合は、前述の樹脂を鋼材上に塗布したのち、指触乾燥前に防食被覆層を被覆し、防食被覆層とともに固化させることで形成できる。
【0025】
中間層の膜厚は、耐アルカリ性を向上させる観点から50μm以上が好ましく、経済性の観点から500μm以下が好ましい。
【0026】
硫黄を含有する無機化合物ベースの防食被覆としては、硫黄を溶融させ、必要に応じてジシクロペンタジエン等のジエン系炭化水素、ヒドロ芳香族炭化水素化合物等を加え改質し、必要に応じて無機資材と共に混練したもの(以下、硫黄の混練物とも呼ぶ)などを用いることができる。
【0027】
硫黄を含有する無機化合物ベースの防食被覆層は、先ず、上記硫黄の混練物を130〜150℃に加熱溶融し、無機資材を含有していれば当該無機資材をよく分散させるため混練し、この混練物を直接鋼材表面、または中間層を塗布した表面に塗布し、冷却固化させることで形成する。塗布の方法については、型枠を用いた流し込み法、スプレーを用いた吹付け法など、公知の方法を用いることができる。また直接鋼材に被覆する場合は加熱された防食被覆層が、鋼材にふれ急激に冷却固化し、密着不良が発生するのを防ぐため、あらかじめ鋼材を130〜150℃に加熱しておくことが好ましい。一方、プライマーを中間層として塗布する場合は防食被覆層の熱によりプライマーが固化し、防食被覆層と良好な密着性を示すため鋼材の加熱を行わなくてもよい。冷却方法は特に限定されるものではないが、空冷などの除冷が防食被覆層の急激な収縮を防ぐために好ましい。硫黄の改質方法については特許文献1に記載されている通りで、例えば硫黄を溶融させ、ジエン系炭化水素を加えて混練するときは、硫黄と、ジエン系炭化水素の混合割合は、硫黄100質量部に対して、ジエン系炭化水素は2〜20量部が好ましい。
【0028】
無機資材とは、防食被覆層に強度、難燃性を付与する無機系微粉末、防食被覆層に強度を付与する骨材等である。無機系微粉末は、石炭灰、シリカヒューム、ガラス粉末、アルミナ等の公知の無機系微粉末を使用でき、骨材は硅砂、シリカ、製鋼スラグ、砕石、砂利等の公知の骨材を使用できる。無機系微粉末は粒度分布が均一なものを大量に入手し易い点で石炭灰がより好ましく、骨材は珪砂、砕石等がより好ましい。特に珪砂を使用した場合は、珪素の純度が高く、耐酸性に優れるという利点がある。無機資材は、無機系微粉末の1種以上又は骨材の1種以上を使用するだけでもよいが、無機系微粉末の1種以上と骨材の1種以上を使用すると優れた耐衝撃性が発現されるのでより好ましい。
【0029】
無機系微粉末と骨材の両方を含む無機資材を加えて共に混練する場合、配合割合については、防食被覆層全体に対し、改質された硫黄と無機系微粉末との混合物が20〜70質量%、骨材が30〜80質量%であることが強度、耐酸性を向上させる観点から好ましい。さらに、改質された硫黄と無機系微粉末との混合割合は、改質された硫黄100質量部に対して無機系微粉末は20〜100質量部であることが、同様の観点から好ましい。
【0030】
硫黄を含有する無機化合物ベースの防食被覆の膜厚は、防食性の観点から2mm以上が好ましく耐衝撃性の観点から10mm以上がより好ましい。また経済性の観点から50mm以下が好ましい。膜厚が50mmを超えても有益な防食性向上は望めず経済的でないためである。
【0031】
珪素を含有する無機化合物ベースの防食被覆としてはアルキルシリケート樹脂やポリシラザンなどを塗布した後に、空気中の水分と反応させて珪素を含む被覆を形成させることができる。
【0032】
硫黄または珪素を材料として用いると、有機樹脂による被覆層に比べ、耐傷付き性に優れ、かつ低コストであるものの、珪素、硫黄はアルカリに弱い性質を有するため、本発明では、前記素地鋼材と接触する防食被覆層の少なくとも鋼材側部分または中間層に、pH緩衝作用のある物質を含有させることにより、さらに耐アルカリ性にも優れた防食被覆鋼材を得ることができる。
【0033】
珪素を含有する無機化合物ベースの防食被覆の膜厚は、防食性の観点から0.5μm以上が好ましく、また耐熱サイクル性の観点から10μm以下が好ましい。
【0034】
有機化合物ベースの防食被覆層は特に限定されるものではなく、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂やウレタンエラストマーやエポキシ樹脂等からなる熱硬化性樹脂を被覆しても良い。またポリウレタン、乾性油、エポキシ樹脂などからなる有機溶剤系、水系、無溶剤系の如何を問わず塗装による被膜でもかまわない。市販品を用いる場合は、例えばプライマ−としてジャパンエポキシレジン社製jER 828/jER Tを鋼材に塗装し、接着性ポリエチレンとして三井化学社製NE060、高密度ポリエチレンとして三井化学社製HiZEX5100Eをホットプレスにより被覆することで用いることができる。
【0035】
有機樹脂からなる防食被覆層は、無機化合物からなる防食被覆層に比べ、柔軟性に優れるため、輸送、施工時などに鋼材が衝撃や曲げ変形を受けるような環境下において、防食被覆層のひび割れの発生が抑制され、鋼材から剥離し難い点で有利である。
【0036】
有機樹脂からなる防食被覆層の膜厚は、防食性の観点から0.5mm以上が好ましく耐衝撃性の観点から2mm以上がより好ましい。また経済性の観点から6mm以下が好ましい。膜厚が6mmを超えても有益な防食性向上は望めず経済的でないためである。
【0037】
本発明者らは、鋼材面の腐食やカソード反応により発生した水酸化物イオン(OH)が、防食被覆層の剥離及び劣化・分解の原因であることに着目し、アルカリ環境下において防食被覆層の剥離等を抑制できる方法について鋭意研究を行った。
【0038】
その結果、鋼材と接触する、防食被覆層の少なくとも鋼材側部分または中間層にpH緩衝作用のある物質を含有させることで、鋼材の表面近傍に水酸化物イオンが発生した場合であっても、pH緩衝物質の作用によりOHによるpH変化を最小限に止め、防食被覆層の剥離及び劣化・分解を抑制できることを見出した。
【0039】
前記pH緩衝作用のある物質とは、水酸化物イオンが生成された場合でも、pHが変動しない緩衝作用を有する物質であれば特に限定されるものではないが、水酸化物イオンの濃度上昇を抑制しpHを中性域に保つ作用に優れる点から、フタル酸水素カリウム(C(COOK)(COOH))、クエン酸ナトリウム、(Na・2HO)、リン酸二水素カリウム(KHPO)、リン酸水素カルシウム(CaHPO)、トリポリリン酸アルミニウム(AlHPO10)及び五酸化バナジウム(V)の中から選択される1種または2種以上の混合物であることが好ましく、リン酸二水素カリウム、リン酸水素カルシウム、トリポリリン酸アルミニウム及び五酸化バナジウムの中から選択される1種または2種以上がより好ましい。
【0040】
前記pH緩衝作用のある物質は、鋼材面に直接接触している部分の防食被覆層または中間層に含有する必要がある。具体的には、鋼材面に接触している防食被覆層または中間層中にpH緩衝物質を含有させる方法か、防食被覆層中のpH緩衝物質が鋼材面側に偏在するように含有する方法がある。
【0041】
上記防食被覆層中のpH緩衝物質を鋼材面側に偏在させる方法としては、例えば、改質された硫黄と無機資材からなる被覆層の場合、鋼材への被覆時に鋼材を加熱し、改質された硫黄の溶融時間が長くなるため、硫黄よりも密度の大きいpH緩衝物質を用いれば被覆層中を沈降するため鋼材面近傍に偏在させることができる。
【0042】
前記pH緩衝作用のある物質の添加量は特に限定されるものではないが、防食被覆層に添加するときは、防食被覆層中の含有量は防食被覆層中の1〜50質量%の範囲内が好ましく、中間層に添加するときは、中間層中の含有量は中間層中の1〜50質量%の範囲内が好ましい。1質量%未満では、緩衝作用の効果が十分ではなく、50質量%を超えて添加しても緩衝作用の効果は変わらないためである。
【0043】
上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【0044】
本発明の実施例について以下に説明する。
【実施例1】
【0045】
(実施例1)
実施例1は、スチールグリッドブラストにより表面を十点平均粗さで50μm程度にしたサイズ100mm×l00mm×6mmの熱延鋼板(素地鋼材)(JIS SS400)を、型枠中に設置した。硫黄26質量部とジシクロペンタジエン1質量部を150℃にて溶融し、該溶融物27質量部と石炭灰13質量部を混錬し、該混練物40質量部と硅砂3号60質量部を混練した。該混練物90質量部に対してフタル酸水素カリウム10質量部を加え(フタル酸水素カリウムが防食被覆中の10質量%)混練したものを鋼板上に10mm厚さの防食被覆層となるように注入し、室温まで冷却して防食被覆鋼板を得た。
【0046】
(実施例2)
実施例2は、フタル酸水素カリウムが防食被覆中の5質量%であること以外は、実施例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0047】
(実施例3)
実施例3は、サイズ100mm×l00mm×6mmの熱延鋼板の表面を希硫酸により酸洗・中和した後、その鋼板上に、パーヒドロキシポリシラザン(クラリアント社製アクアミカ)が溶液中の5質量%となるキシレン溶液とフタル酸水素カリウムが溶液中で1質量%となるようにを混合したものをスプレー塗装した後、2週間大気中に放置して、平均膜厚2μmの防食被覆層を形成し、シリカガラスで被覆した防食被覆鋼板を得た。
【0048】
(実施例4)
実施例4は、スチールグリッドブラストにより表面を十点平均粗さで50μm程度にしたサイズ100mm×l00mm×6mmの熱延鋼板上に、フタル酸水素カリウムを1質量%添加したビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製jER 828/jER T)を平均膜厚は70μmの中間層として鋼板の表面にスプレー塗装し、室温にて24時間放置して硬化させた。その上に酸変性ポリエチレンを接着層(三井化学社製NE060)として高密度ポリエチレン(三井化学社製HiZEX5100E)を平均2mm厚さの防食被覆層になるように、ホットプレス機を用いて200℃のプレスを行い、防食被覆鋼板を得た。
【0049】
(実施例5)
実施例5は、フタル酸水素カリウムを含有せず、クエン酸ナトリウムを1質量%含有すること以外は、実施例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0050】
(実施例6)
実施例6は、フタル酸水素カリウムを含有せず、クエン酸ナトリウムを4質量%含有すること以外は、実施例2と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0051】
(実施例7)
実施例7は、フタル酸水素カリウムを含有せず、クエン酸ナトリウムを2質量%含有すること以外は、実施例3と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0052】
(実施例8)
実施例8は、フタル酸水素カリウムを含有せず、クエン酸ナトリウムを2質量%含有すること以外は、実施例4と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0053】
(実施例9)
実施例9は、フタル酸水素カリウムを含有せず、リン酸二水素カリウムを5質量%含有すること以外は、実施例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0054】
(実施例10)
実施例10は、フタル酸水素カリウムを含有せず、リン酸二水素カリウムを7質量%含有すること以外は、実施例2と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0055】
(実施例11)
実施例11は、フタル酸水素カリウムを含有せず、リン酸二水素カリウムを2質量%含有すること以外は、実施例3と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0056】
(実施例12)
実施例12は、フタル酸水素カリウムを含有せず、リン酸二水素カリウムを2質量%含有すること以外は、実施例4と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0057】
(比較例1)
比較例1は、表1に示すpH緩衝作用を有する物質を防食被覆層に含有しないこと以外は、実施例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0058】
(比較例2)
比較例2は、表1に示すpH緩衝作用を有する物質を防食被覆層に含有しないこと以外は、実施例3と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0059】
(比較例3)
比較例3は、表1に示すpH緩衝作用を有する物質を中間層に含有しないこと以外は、実施例4と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0060】
以上のようにして得られた各防食被覆鋼板について各種試験を行った。本実施例で行った試験の評価方法を以下に示す。
【0061】
(評価方法)
(1)耐アルカリ性
上記で作製した各防食被覆鋼板を、図3に示すように、一つの端部を残して鋼材面が露出しないようにシリコンシーラントによりシールし、3質量%のNaCl水溶液(60℃)中に21日間浸漬した後、被覆を鋼板から剥離して被膜の剥離長さを測定した。
【0062】
(2)耐候性
作製した各防食被覆鋼板を、スガ試験機(株)製サンシャインウエザオメーター(カーボンアーク)に2000時間暴露させ、暴露前後の60度鏡面光沢を測定し、その光沢保持率により耐候性を評価した。60度鏡面光沢の測定は日本電色工業(株)製の光沢計VG−2000により実施した。
【0063】
(3)表面硬度
作製した各防食被覆鋼板の表面硬度をJIS K7215に基づくデュロメーター硬さ(D)(上島製作所(株))により評価した。
【0064】
上記各試験の評価結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
これによれば、実施例1〜12の防食被覆鋼材は、比較例1〜3に比べて、いずれも被覆層の剥離長さが小さく、耐候性及び硬度については、同程度の値であった。結果、従来の防食被覆鋼材と同程度の耐候性及び硬度を有しつつ、従来のものより優れた耐アルカリ性を有していることがわかる。
【実施例2】
【0067】
(発明例1)
発明例1は、スチールグリッドブラストにより表面を十点平均粗さで50μm程度にしたサイズ100mm×l00mm×6mmの熱延鋼板(素地鋼材)(JIS SS400)上に、中間層として、リン酸水素カルシウムを10質量%添加したビスフェノールA型エポキシプライマ−(ジャパンエポキシレジン社製jER 828/jER DC11)を200μm塗布し、この鋼板を150℃のホットプレートで4分加熱後、型枠中に設置した。硫黄26質量部とジシクロペンタジエン1質量部を150℃にて溶融し、該溶融物27質量部と石炭灰13質量部を混練した。該混練物40質量部と硅砂3号30質量部と硅砂7号30質量部とを混練したものを鋼板上に30mm厚さの防食被覆層となるように注入し、室温まで冷却して防食被覆鋼板を得た。
【0068】
(発明例2)
発明例2は、中間層の厚さを100μm、防食被覆層の厚さを15mmとしたこと以外は、発明例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0069】
(発明例3)
発明例3は、中間層にリン酸水素カルシウムを含有せず、トリポリリン酸アルミニウムを10質量%含有し、その中間層の厚さを300μm、防食被覆層の厚さを20mmとしたこと以外は、発明例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0070】
(発明例4)
発明例4は、中間層にリン酸水素カルシウムを含有せず、トリポリリン酸アルミニウムを10質量%含有し、その中間層の厚さを400μm、防食被覆層の厚さを30mmとしたこと以外は、発明例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0071】
(発明例5)
発明例5は、中間層にリン酸水素カルシウムを含有せず、五酸化バナジウムを10質量%含有し、その中間層の厚さを60μm、防食被覆層の厚さを12mmとしたこと以外は、発明例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0072】
(発明例6)
発明例6は、中間層にリン酸水素カルシウムを含有せず、五酸化バナジウムを10質量%含有し、その中間層の厚さを200μm、防食被覆層の厚さを45mmとしたこと以外は、発明例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0073】
(発明例7)
発明例7には、中間層の厚さを100μm、防食被覆層の厚さを30mmとしたこと以外は、発明例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0074】
(発明例8)
発明例8比較例2には、中間層の厚さを150μm、防食被覆層の厚さを15mmとしたこと以外は、発明例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0075】
(発明例9)
発明例9は、中間層にリン酸水素カルシウムを含有せず、トリポリリン酸アルミニウムを10質量%含有し、その中間層の厚さを150μm、防食被覆層の厚さを20mmとしたこと以外は、発明例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0076】
(発明例10)
発明例10比較例4は、中間層にリン酸水素カルシウムを含有せず、トリポリリン酸アルミニウムを10質量%含有し、その中間層の厚さを180μm、防食被覆層の厚さを20mmとしたこと以外は、発明例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0077】
(発明例11)
発明例11は、中間層にリン酸水素カルシウムを含有せず、五酸化バナジウムを10質量%含有し、その中間層の厚さを100μm、防食被覆層の厚さを30mmとしたこと以外は、発明例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0078】
(発明例12)
発明例12比較例6は、中間層にリン酸水素カルシウムを含有せず、五酸化バナジウムを10質量%含有し、その中間層の厚さを200μm、防食被覆層の厚さを20mmとしたこと以外は、発明例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0079】
(比較例1)
比較例1は、中間層にpH緩衝物質を含有せず、その中間層の厚さを200μm、防食被覆層の厚さを50mmとしたこと以外は、発明例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0080】
(比較例2)
比較例2は、中間層を設けず、防食被覆層の厚さを50mmとしたこと以外は発明例1と同様の工程により防食被覆層を設け、防食被覆鋼板を得た。
【0081】
(比較例3)
比較例3は、中間層を設けず、防食被覆層の厚さを5mmとしたこと以外は発明例1と同様の工程により防食被覆層を設け、防食被覆鋼板を得た。
【0082】
(評価方法)
(1)耐アルカリ性
上記で作製した各防食被覆鋼板を、一つの端部を残して鋼材面が露出しないようにシリコンシーラントによりシールし、3質量%のNaCl水溶液(60℃)中に28日間浸漬した後、被覆を鋼板から剥離して被膜の剥離長さを測定した。
【0083】
(2)表面硬度
作製した各防食被覆鋼板の表面硬度をJIS K7215に基づくデュロメーター硬さ(D)(上島製作所(株))により評価した。
【0084】
(3)耐衝撃性
ASTM G14に準拠し、先端径15.9mm、重量5kgfの落錘を用いた−20℃での落錘衝撃試験を行った。防食被覆層の破壊は目視、および20kVの通電試験で確認し、破壊の生じない限界高さから衝撃強度を求めた。
【0085】
上記各試験の評価結果を表2に示す。
【0086】
【表2】

【0087】
これによれば、発明例1〜12の防食被覆鋼材は、比較例1、2の防食被覆鋼材に比べて、いずれも防食被覆層の剥離長さが小さく、耐アルカリ性に優れる。
【実施例3】
【0088】
(発明例1)
発明例1は、スチールグリッドブラストにより表面を十点平均粗さで50μm程度にしたサイズ100mm×l00mm×6mmの熱延鋼板(素地鋼材)(JIS SS400)を150℃のホットプレートで4分加熱後、型枠中に設置し、硫黄24.2質量部とジシクロペンタジエン0.8質量部を150℃にて溶融し、該溶融物25質量部と硅砂3号29質量部と硅砂7号29質量部と石炭灰12質量部とリン酸水素カルシウム5質量部とを混練した混練物(リン酸水素カルシウム含有量5質量%)を鋼板上に10mm厚さの防食被覆層となるように注入し、室温まで冷却して防食被覆鋼板を得た。
【0089】
(発明例2)
発明例2は、防食被覆層の厚さを30mmとしたこと以外は、発明例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0090】
(発明例3)
発明例3は、リン酸水素カルシウムを含有せず、トリポリリン酸アルミニウムを5質量%を含有し、防食被覆層の厚さを15mmとしたこと以外は、発明例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0091】
(発明例4)
発明例4は、リン酸水素カルシウムを含有せず、トリポリリン酸アルミニウム5質量%を含有し、防食被覆層の厚さを40mmとしたこと以外は、発明例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0092】
(発明例5)
発明例5は、リン酸水素カルシウムを含有せず、五酸化バナジウム5質量%を含有し、防食被覆層の厚さを20mmとしたこと以外は、発明例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0093】
(発明例6)
発明例5は、リン酸水素カルシウムを含有せず、五酸化バナジウム5質量%を含有し、防食被覆層の厚さを35mmとしたこと以外は、発明例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0094】
(発明例7)
発明例7は、防食被覆層の厚さを15mmとしたこと以外は、発明例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0095】
(発明例8)
発明例8は、防食被覆層の厚さを60mmとしたこと以外は、発明例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0096】
(発明例9)
発明例9は、リン酸水素カルシウムを含有せず、トリポリリン酸アルミニウム5質量%を含有し、防食被覆層の厚さを20mmとしたこと以外は、発明例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0097】
(発明例10)
発明例10は、リン酸水素カルシウムを含有せず、トリポリリン酸アルミニウム5質量%を含有し、防食被覆層の厚さを60mmとしたこと以外は、発明例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0098】
(発明例11)
発明例11は、リン酸水素カルシウムを含有せず、五酸化バナジウム5質量%を含有し、防食被覆層の厚さを20mmとしたこと以外は、発明例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0099】
(発明例12)
発明例12は、リン酸水素カルシウムを含有せず、五酸化バナジウム5質量%を含有し、防食被覆層の厚さを15mmとしたこと以外は、発明例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0100】
(比較例1)
比較例1は、防食被覆層にpH緩衝物質を含有せず、その防食被覆層の厚さを50mmとしたこと以外は、発明例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0101】
(比較例2)
比較例2は、防食被覆層にpH緩衝物質を含有せず、防食被覆層の厚さを5mmとしたこと以外は発明例1と同様の工程により防食被覆鋼板を得た。
【0102】
以上のようにして得られた各防食被覆鋼板について各種試験を行った。本実施例で行った試験の評価方法を以下に示す。
(評価方法)
(1)耐アルカリ性
上記で作製した各防食被覆鋼板を、一つの端部を残して鋼材面が露出しないようにシリコンシーラントによりシールし、3質量%のNaCl水溶液(60℃)中に14日間浸漬した後、被覆を鋼板から剥離して被膜の剥離長さを測定した。
【0103】
(2)表面硬度
作製した各防食被覆鋼板の表面硬度をJIS K7215に基づくデュロメーター硬さ(D)(上島製作所(株))により評価した。
【0104】
(3)耐衝撃性
ASTM G14に準拠し、先端径15.9mm、重量5kgfの落錘を用いた−20℃での落錘衝撃試験で衝撃性の評価を行った。防食被覆層の破壊は目視、および20kVの通電試験で確認し、破壊の生じない限界高さから衝撃強度を求めた。
【0105】
上記各試験の評価結果を表3に示す。
【0106】
【表3】

【0107】
これによれば、発明例1〜12の防食被覆鋼材は、比較例1の防食被覆鋼材に比べて、いずれも防食被覆層の剥離長さが小さく、耐アルカリ性に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明によれば、素地鋼材と、該素地鋼材上に、直接または中間層を介して積層され、硫黄または珪素を含有する無機化合物ベースの防食被覆層とを有し、鋼材と接触する、防食被覆層の少なくとも鋼材側部分または中間層にpH緩衝作用のある物質を含有させることで、耐アルカリ性に優れた防食被覆鋼材を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明の防食被覆鋼材の被覆層の構成例を示す断面図である。
【図2】本発明の防食被覆鋼材の被覆層の別の構成例を示す断面図である。
【図3】各実施例において作製した防食被覆鋼板の耐アルカリ性についての評価方法を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0110】
11 鋼材
12 中間層
13 防食被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼材と、該素地鋼材上に、直接または中間層を介して積層され、硫黄または珪素を含有する無機化合物ベースの防食被覆層とを有し、前記素地鋼材と接触する、防食被覆層の少なくとも鋼材側部分または中間層に、pH緩衝作用のある物質を含有させることを特徴とする防食被覆鋼材。
【請求項2】
素地鋼材と、該素地鋼材上に中間層を介して積層され、硫黄と、珪素を含んだ無機資材とを含有する無機化合物ベースの防食被覆層とを有し、前記素地鋼材と接触する前記中間層に、pH緩衝作用のある物質を含有させることを特徴とする防食被覆鋼材。
【請求項3】
素地鋼材と、該素地鋼材上に積層され、硫黄と、珪素を含んだ無機資材とを含有する無機化合物ベースの防食被覆層とを有し、該防食被覆層に、pH緩衝作用のある物質を含有させることを特徴とする防食被覆鋼材。
【請求項4】
素地鋼材と、該素地鋼材上に、直接または中間層を介して積層され、有機化合物ベースの防食被覆層とを有し、前記素地鋼材と接触する、防食被覆層の少なくとも鋼材側部分または中間層に、pH緩衝作用のある物質を含有させることを特徴とする防食被覆鋼材。
【請求項5】
前記pH緩衝作用のある物質は、フタル酸水素カリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素カルシウム、トリポリリン酸アルミニウム及び五酸化バナジウムの中から選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の防食被覆鋼材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−274400(P2008−274400A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29995(P2008−29995)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】