説明

除菌シート

【課題】強い除菌作用を発揮すると同時に、人体に対して無害な除菌シートを提供する。
【解決手段】不織布のシートに次亜塩素酸水を含浸させたものからなる。次亜塩素酸水は、次亜塩素酸ナトリウム、希塩酸および水を、5.0〜7.0のPH値を有し、塩化水素を共存させることなく次亜塩素酸と塩化ナトリウムとを含み、かつ10ppm〜500ppmの濃度を有するように混合したものからなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除菌シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
除菌シートとして、例えば、屋外や車内等、近くに洗面所等の洗浄設備がない場所で、手指や口元等の汚れを落として消毒・除菌するために使用する、不織布等のシートに消毒・除菌液を含浸させたウェットティッシュが知られている。
【0003】
この種のウェットティッシュとして、例えば、希釈された次亜塩素酸ナトリウム水溶液を不織布のシートに含浸させたものがある(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、次亜塩素酸ナトリウム水溶液は強アルカリ性であり、その希釈液もまたアルカリ性を有している。したがって、このウェットティッシュを使用すると、手肌が荒れやすく、これを防止するために次亜塩素酸ナトリウム水溶液の希釈率を上げると、十分な消毒・殺菌効果が得られないという問題があった。
【0004】
また、少なくとも表面が、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等の酸化されにくい素材からなる不織布に、PH値が3〜8で、残留塩素酸濃度が5〜80ppmの殺菌水を含浸させたものからなるウェットティッシュが知られている(例えば、特許文献2参照)。この場合、殺菌水として、塩化ナトリウム等の塩化物を添加した水を電気分解して得られた、PH値が3〜8の次亜塩素酸含有酸性水が用いられる。
【0005】
ところで、この酸性水中において、次亜塩素酸は、(1)式に示すように、副生する塩化水素と共存してのみ存在可能である。
Cl+HO→HClO+HCl (1)
こうして、次亜塩素酸の生成には塩化水素の副生を伴うため、
HCl→H+Cl (2)
HClO→H+ClO (3)
に示すように、生成後は必然的に強酸性水となる。この強酸性水のPH値を上昇させると、ルシャトリエの法則に従って、原系(次亜塩素酸)側に片寄っていた平衡状態は、生成系側に片寄り((3)式)、水素イオンと次亜塩素酸イオンへの電離がより促進され、次式に示す分解反応が生じる。
2HClO+ClO→ClO+2HCl (4)
【0006】
すなわち、このウェットティッシュに含浸された次亜塩素酸含有酸性水は、塩化水素共存下の強酸性領域のみでしか安定に存在することができない。そして、このような場合には、人体に有害な塩素ガスが発生するという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−13309号公報
【特許文献2】特開平9−173427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の課題は、強い除菌作用を発揮すると同時に、人体に対して無害な除菌シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、不織布のシートに次亜塩素酸水を含浸させたものからなり、前記次亜塩素酸水が、次亜塩素酸ナトリウム、希塩酸および水を、5.0〜7.0のPH値を有し、塩化水素を共存させることなく次亜塩素酸と塩化ナトリウムとを含み、かつ10ppm〜500ppmの濃度を有するように混合したものからなっていることを特徴とする除菌シートを構成したものである。
【0010】
上記構成において、前記不織布は、ポリエステル繊維またはポリエチレン繊維またはポリプロピレン繊維またはアクリル繊維または塩化ビニル繊維またはフッ素繊維またはそれらの2以上の組合せから形成されていることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、上記ウェットティッシュを、遮光性および防水性を有し、かつ次亜塩素酸と反応しないフィルムによって密封包装したものからなっていることを特徴とする除菌シートのパッケージを構成したものである。
【0012】
この構成において、前記フィルムとして、透明なプラスチックフィルムをアルミ箔にラミネートしたもの、または透明なプラスチックフィルムの少なくとも一方の面にアルミニウムを蒸着したものからなっていること、あるいは、透明なプラスチックフィルムの少なくとも一方の面に塗料をコーティングしたものを使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、除菌シートに含浸させた次亜塩素酸水は、塩化水素を共存させていないので、多量の次亜塩素酸を安定した化合物として含有しており、それによって、10ppm程度の濃度のものであっても強力な消毒・除菌作用を発揮し、また、人体に有害な塩素ガスが発生することもない。この次亜塩素酸水は、また、強力な脱臭作用を発揮する。
【0014】
さらに、次亜塩素酸水のPH値を人肌に近い弱酸性に調整したことで、除菌シートの使用によって手肌が荒れることを防止できる。しかも、次亜塩素酸は、人体中において異物を除去する成分として存在し、有機物に触れるとこれと瞬時に反応して微量の塩分を含んだ水になり、よって、誤って口から摂取されても、人体には無害である。
【0015】
こうして、本発明によれば、強力な消毒・除菌作用を発揮する一方で、人体には無害な除菌シートを提供することができる。
そして、本発明の除菌シートをウェットティッシュとして使用した場合には、洗面所等の洗浄設備がない場所においても、手指や口元等の汚れが付着した箇所をウェットティッシュで拭き取るだけで、簡単に、汚れを落とし、消毒・除菌することができる。また、本発明の除菌シートを、冷蔵庫内や生鮮食品等の運搬容器内に敷いておけば、生鮮食品等の保存期間をのばし、それと同時に、庫内および容器内の不快なにおいを脱臭することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(A)は、本発明による除菌シートのパッケージの一例を示す斜視図であり、(B)は、本発明による除菌シートのパッケージの別の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施例について説明する。本発明による除菌シートは、不織布のシートに次亜塩素酸水を含浸させたものからなっている。
不織布の形成材料は特に限定されず、公知の任意の材料から不織布を形成することができるが、不織布を、ポリエステル繊維またはポリエチレン繊維またはポリプロピレン繊維またはアクリル繊維または塩化ビニル繊維またはフッ素繊維またはそれらの2以上の組合せから形成することが好ましい。
【0018】
次亜塩素酸水は、次亜塩素酸ナトリウム、希塩酸および水を、5.0〜7.0のPH値を有し、塩化水素を共存させることなく次亜塩素酸と塩化ナトリウムとを含み、かつ10ppm〜500ppmの濃度を有するように混合したものからなっている。
【0019】
一般に、塩素は、水溶液のPH値によって形態を変化させることが知られており、例えば約25℃の水溶液中では、PH値が約2以下になると塩素ガス(Cl)の形態を、PH値が約7.5以上になると次亜塩素酸イオン(ClO)の形態を、PH値が約2〜7.5では次亜塩素酸(HOCl)の形態をそれぞれとる。この場合、次亜塩素酸は、次亜塩素酸イオンと比べて、約80倍の除菌速度と、4〜8倍の除菌力を有している。
【0020】
そして、本発明によれば、次亜塩素酸ナトリウム、希塩酸および水の混合液のPH値を、5.0〜7.0の弱酸性〜中性に安定させて、塩化水素を共存させず、多量の次亜塩素酸を安定に存在させるようにしたので、10ppm程度の濃度の次亜塩素酸水であっても強力な消毒・除菌作用を発揮し、また、人体に有害な塩素ガスが発生することもない。さらに、本発明の次亜塩素酸水は、強い脱臭作用を発揮する。
【0021】
次に、本発明の除菌シートに含浸させる次亜塩素酸水の消毒・除菌効果を調べる試験を行った。
(試験1:ウイルス不活性化試験)
(1)検体
検体として、PH値が6.13で、濃度が50ppmの本発明の次亜塩素酸水を使用した。
(2)試験ウイルス
ネコカリシウイルス(Feline calicivirus F-9 ATCC VR-782)、ネコカリシウイルスは、細胞培養が困難なノロウイルスの代替ウイルスとして知られている。
(3)使用細胞
CRFK細胞[大日本製薬株式会社]
(4)使用培地
(i)細胞増殖培地
イーグルMEM培地「ニッスイ」(1) [日本製薬株式会社製]に牛胎仔血清を10%加えたものを使用した。
(ii)細胞維持培地
イーグルMEM培地「ニッスイ」(1)に牛胎仔血清を2%加えたものを使用した。
【0022】
(5)ウイルス浮遊液の調製
(i)細胞の培養
細胞増殖培地を用いて、使用細胞を組織培養用フラスコ内に単層培養した。
(ii)ウイルスの接種
単層培養後に、フラスコ内から細胞増殖培地を除去し、試験ウイルスを接種した。次に、細胞維持培地を加えて37℃±1℃の炭酸ガスインキュベーター(CO濃度5%)内で1〜5日間培養した。
(iii)ウイルス浮遊液の調製
培養後、倒立位相差顕微鏡を用いて、細胞の形態を観察し、細胞に形態変化(細胞変性効果)が生じていることを確認した。次に、培養液を遠心分離(3000rpmで10分間)し、得られた上澄み液を精製水で10倍に希釈し、ウイルス浮遊液とした。
【0023】
(6)試験操作
検体1mlにウイルス浮遊液0.1mlを添加、混合し、作用液とした。この作用液を室温で作用させ、1分後、3分後および10分後に細胞維持培地を用いて10倍に希釈した。そして、細胞増殖培地を用い、使用細胞を組織培養用マイクロプレート(96穴)内で単層培養した後、細胞増殖培地を除去して細胞維持培地を0.1mlずつ加えた。次に、作用液の希釈液0.1mlを4穴ずつに接種し、37℃±1℃の炭酸ガスインキュベーター(CO濃度5%)内で4〜7日間培養した。培養後、倒立位相差顕微鏡を用いて細胞の形態変化(細胞変性効果)の有無を観察し、Reed-Muench法により50%組織培養感染量(TCID50、median tissue culture infectious dose)を測定し、作用液1ml当たりのウイルス感染価に換算した。また、精製水を対照として同様に試験し、開始時および10分後に測定を行った。
【0024】
試験1の結果を表1に示す。
【表1】

表1中、「<1.5」は「検出せず」を、「***」は「実施せず」をそれぞれ表す。
試験1の結果から、検体は、1分以内に、ネコカリシウイルスを確実に不活性化し得ることが確認された。
【0025】
(試験2:殺菌効果試験)
(1)検体
検体1として、PH値が6.13で、濃度が50ppmの本発明の次亜塩素酸水を使用した。また、検体2として、市販のアルコール消毒液を使用した。
(2)試験菌株
No.1:枯草菌(Bacillus subtilis NBRC 3134)
No.2:大腸菌(Escherichia coli NBRC 3972)
No.3:黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus subsp. aureus NBRC 127322)
(3)菌数測定用培地および培養条件
SCDLP寒天培地[日本製薬株式会社製]、混釈平板培養法、35℃±1℃で2日間
(4)試験菌液の調製
試験菌株No.1:
ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト寒天培地[栄研化学株式会社製]で、30℃±1℃で7〜10日間好気培養した試験菌株の菌体を、生理食塩水に懸濁させ、70℃±1℃で20分間加熱し、栄養細胞を死滅させた。この懸濁液を遠心分離して上澄み液を除去した後、菌体を生理食塩水に懸濁させ、菌数が10〜10/mlとなるように調製し、試験菌液とした。
試験菌株No.2およびNo.3:
試験菌株を普通寒天培地[栄研化学株式会社製]で、35℃±1℃で18〜24時間培養した後、生理食塩水に浮遊させ、菌数が10〜10/mlとなるように調製し、試験菌液とした。
【0026】
(5)試験操作
検体1および検体2のそれぞれの10mlに、試験菌液を0.1ml接種し、試験液とした。室温で保存し、1分後、3分後および10分後に、試験液をSCDLP寒天培地[日本製薬株式会社製]で直ちに10倍に希釈し、試験液中の生菌数を菌数測定用培地を用いて測定した。
なお、対照として、精製水(黄色ブドウ球菌は生理食塩水)を用いて同様に試験し、開始後および10分後に生菌数を測定した。
【0027】
試験2の結果を表2に示す。
【表2】

表2中、「<10」は「検出せず」を、「−」は「実施せず」をそれぞれ表す。
試験2の結果から、検体1は、大腸菌および黄色ブドウ球菌に対しては、検体2と同程度の殺菌効果を有していること、また、枯草菌に対しては、検体1は、検体2よりも強い殺菌効果を発揮することが確認された。
【0028】
こうして、本発明によれば、強力な消毒・除菌作用を発揮する一方で、人体には無害な除菌シートを提供することができる。
そして、本発明の除菌シートをウェットティッシュとして使用した場合には、洗面所等の洗浄設備がない場所においても、手指や口元等の汚れが付着した箇所をウェットティッシュで拭き取るだけで、簡単に、汚れを落とし、消毒・除菌することができる。また、本発明の除菌シートを、冷蔵庫内や生鮮食品等の運搬容器内に敷いておけば、生鮮食品等の保存期間をのばすとともに、庫内および容器内の不快なにおいを脱臭することができる。また、本発明の除菌シートによって袋を形成し、袋内に生鮮食品等を収容することで、生鮮食品等を腐敗させることなく、鮮度を保ったままで運搬および一時保管することができる。
【0029】
本発明による除菌シートに含浸させる次亜塩素酸水は、紫外線によって分解されやすく、また、外気に晒されている間に蒸発する。
そこで、本発明による除菌シートを、長期間にわたって安定に保存し、また容易に携帯できるようにするため、本発明の別の実施例によれば、図1(A)に示すように、本発明の除菌シートが、遮光性および防水性を有し、かつ次亜塩素酸と反応しないフィルム2によって密封包装され、除菌シートのパッケージ1とされる。この場合、除菌シートを、折り畳んだ状態で密封包装すれば、コンパクトなパッケージ1とすることができる。また、1枚の除菌シートを密封包装してもよいし、折り畳んだ除菌シートを複数枚積重ねたものを密封包装してもよい。
【0030】
フィルム2としては、公知の任意のフィルムを使用することができるが、透明なプラスチックフィルムをアルミ箔にラミネートしたもの、または透明なプラスチックフィルムの少なくとも一方の面にアルミニウムを蒸着したものを使用すること、あるいは、透明なプラスチックフィルムの少なくとも一方の面に塗料をコーティングしたものを使用することが好ましい。
【0031】
そして、除菌シートを使用する際には、密封包装を手で破り、中から除菌シートを簡単に取り出すことができる。
【0032】
本発明のさらに別の実施例によれば、図1(B)に示すように、図1(A)に示した除菌シートのパッケージ1のフィルム2による密封包装に、長手方向にのびる取出口3が形成され、取出口3には、シート状の開閉蓋4が設けられる。開閉蓋4は裏面全体に粘着剤層を有し、開閉蓋4の裏面には、取出口3と同一形状を有し、遮光部材として機能するアルミ箔5が貼着される。そして、アルミ箔5で取出口3が封鎖された状態で、開閉蓋4がフィルム2に着脱自在に貼着される。また、開閉蓋4には、開閉蓋4を剥がす操作を助けるつまみ4aが備えられている。
【0033】
こうして、複数枚の除菌シート6を密封包装内に収容しておき、必要に応じて、開閉蓋4をフィルム2から剥がして取出口3を開放し、必要枚数の除菌シート6を取り出した後、開閉蓋4を再びフィルム2に貼着して取出口3を閉鎖するようにすれば、除菌シート6がなくなるまで、除菌シートのパッケージを複数回にわたって繰り返し使用することができ、非常に効率的であり、資源の無駄遣いを防止することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 ウェットティッシュのパッケージ
2 フィルム
3 取出口
4 開閉蓋
4a つまみ
5 アルミ箔
6 除菌シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布のシートに次亜塩素酸水を含浸させたものからなり、前記次亜塩素酸水が、次亜塩素酸ナトリウム、希塩酸および水を、5.0〜7.0のPH値を有し、塩化水素を共存させることなく次亜塩素酸と塩化ナトリウムとを含み、かつ10ppm〜500ppmの濃度を有するように混合したものからなっていることを特徴とする除菌シート。
【請求項2】
前記不織布は、ポリエステル繊維またはポリエチレン繊維またはポリプロピレン繊維またはアクリル繊維または塩化ビニル繊維またはフッ素繊維またはそれらの2以上の組合せから形成されていることを特徴とする請求項1に記載の除菌シート。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の前記ウェットティッシュを、遮光性および防水性を有し、かつ次亜塩素酸と反応しないフィルムによって密封包装したものからなっていることを特徴とする除菌シートのパッケージ。
【請求項4】
前記フィルムは、透明なプラスチックフィルムをアルミ箔にラミネートしたもの、または透明なプラスチックフィルムの少なくとも一方の面にアルミニウムを蒸着したものからなっていることを特徴とする請求項3に記載の除菌シートのパッケージ。
【請求項5】
前記フィルムは、透明なプラスチックフィルムの少なくとも一方の面に塗料をコーティングしたものからなっていることを特徴とする請求項3に記載の除菌シートのパッケージ。

【図1】
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【公開番号】特開2011−229833(P2011−229833A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105378(P2010−105378)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(510121972)
【Fターム(参考)】