説明

陶磁器製お湯割りポットおよびその製造方法

【課題】満杯状態から最後に至るまで、一定の割合のお湯割りを注ぐことができ、また焼酎が全周から温められることにより焼酎特有の臭み成分を飛ばすことのできるお湯割りポットおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】側部上方に第1の注出穴1aを設けた内容器1と、内容器1が収容され、内容器1の第1の注出穴1aと高さが一致する位置に設けられた第2の注出穴2aおよびその側部に設けられた第3の注出穴2bを備えた外容器2と、外容器2の第2の注出穴2aおよび第3の注出穴2bの前方において外容器2に設けられた注ぎ口3とを有し、内容器1は、外容器2の内部に、第1の注出穴1aと第2の注出穴2aとが接触して連通するように付設されている陶磁器製お湯割りポット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼酎や泡盛のお湯割りを、常に一定の割合で注ぎ出すための陶磁器製お湯割りポットおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼酎や泡盛(以下、単に「焼酎」と総称することがある。)の飲み方としては、ストレートやロック、水割り、お湯割りで飲まれることが多い。お湯割りの場合、ロクヨン(焼酎6:お湯4)やゴーゴー(焼酎5:お湯5)の割合が適当であるといわれているようである。大抵の焼酎はアルコール度数が25度前後であり、ロクヨンの割合にするとアルコール度数が、日本酒と同じくらいの15度前後になるので、濃すぎず、薄すぎず、美味しく飲めるという理由である。しかし、ビールやチューハイの濃度に慣れている人にとっては、ロクヨンやゴーゴーでは度数が高いと感じるので、ヨンロク(焼酎4:お湯6)程度を好む人も多くなっている。このように、焼酎とお湯の割合は、人の好みによって異なるので、自分の好みの割合を毎回欲しいと思うが、この割合を目分量で配合すると、お代わりする度に、濃かったり薄かったりして、丁度いい割合になりにくい。目盛付きの計量カップ等で量りながら作るのも面倒である。
【0003】
そこで、毎回、一定の割合のお湯割りができるようなポットが考案されている。
特許文献1には、一つの容器の中に間仕切りの壁を作り、2室にして、出し口を1室は6/10とし、他の1室は4/10にして、2室から同時に注ぐことにより、6:4の比率でお湯割りを作るお湯差しが記載されている。
特許文献2にも、同様に、ポット本体内部と注ぎ口内部に、液体混合防止用の隔壁を設けたポットが記載されている。
特許文献3にも、やはり容器内部に隔壁を設けた徳利状の酒類等注ぎ用容器が記載されている。
【0004】
これらの特許文献1〜3に記載された容器は、いずれも、容器の内部に隔壁を設けて容器内部を2室に区切り、一方に焼酎、他方にお湯を入れて、所定の割合のお湯割りを注ぐことができるように考えられている。
【0005】
しかしながら、一つの容器内を隔壁で2分する構造では、隔壁で仕切られた一方の室に100℃近い熱湯を、他方の室に室温ないしそれ以下の温度の焼酎を注ぎ入れるため、温度差が大きく、焼酎の温度がなかなか上がらないという問題がある。特に、芋焼酎は、適度に温度を上げることで、独特の臭み成分が飛び、飲みやすくなるといわれている。
【0006】
特許文献4には、外周が円形に形成された筒状容器本体の内部に、仕切壁により区画された筒状の内室Aを設け、内室Aの外側に外室Bが形成されるようにし、内室Aに通じる孔と外室Bに通じる孔をそれぞれ設け、別体の注ぎ口付きのキャップを装着した液体容器が記載されている。この液体容器においては、容器本体を傾けたときに注ぎ口の部分で焼酎とお湯が混合されて出る構成になっている。キャップを回せば、比率を5:5から可変することができると記載されている。
【0007】
【特許文献1】実開昭54−145475号公報
【特許文献2】実開昭61−167876号公報
【特許文献3】特開2002−345618号公報
【特許文献4】実開昭62−93074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前掲の特許文献4に記載された液体容器では、比率を変えることができるのは、初回に注ぐときのみである。例えば、初回に、キャップを回して、焼酎の割合をお湯よりも多く注いだ場合、内室Aの焼酎の残量レベルは外室Bの湯の残量レベルより低くなり、次回に注いだ場合、まずお湯が外室B側の孔から出て、同じレベルになったときに焼酎が内室A側の孔から出るので、初回の割合とはならず、薄くなる。したがって、いつも同じ割合のお湯割りを注ぐことはできない。また、孔と注ぎ口のレベルがほぼ同じであるため、満量の場合は少し傾けただけでお湯割りが出てしまい、少なくなると相当傾けないと出てこない。
【0009】
そこで本発明は、満杯状態から最後に至るまで、一定の割合のお湯割りを注ぐことができ、また焼酎が全周から温められることにより焼酎特有の臭み成分を飛ばすことのできるお湯割りポットおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明の陶磁器製お湯割りポットは、側部上方に第1の注出穴を設けた内容器と、前記内容器が収容され、前記内容器の第1の注出穴と高さが一致する位置に設けられた第2の注出穴およびその第2の注出穴の側部に設けられた第3の注出穴を備えた外容器と、前記外容器の第2の注出穴および第3の注出穴の前方において前記外容器に設けられた注ぎ口とを有し、前記内容器は、前記外容器の内部に、前記第1の注出穴と前記第2の注出穴とが接触して連通するように付設されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の陶磁器製お湯割りポットの製造方法は、側部上方に第1の注出穴を設けた内容器と、前記内容器が入る大きさで、前記内容器の第1の注出穴と高さが一致する位置に設けられた第2の注出穴およびその第2の注出穴の側部に設けられた第3の注出穴を備えた外容器と、前記外容器の第2の注出穴および第3の注出穴の前方において前記外容器に取り付けられる注ぎ口とをそれぞれ陶土や粘土等の原料で成形する成形工程と、外容器の内部に、前記第1の注出穴が第2の注出穴に一致するように内容器を配置するとともに、外容器の第2の注出穴および第3の注出穴の前方を覆うように、外容器の外側に注ぎ口を接着する組立工程と、組立後、組立品を素焼きする素焼き工程と、素焼きされた半製品に釉薬を施す施釉工程と、施釉された半製品を本焼成する本焼成工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
本発明においては、第2の注出穴および第3の注出穴を設けた外容器内に、第1の注出穴を設けた内容器が収容され、第1の注出穴と第2の注出穴は連通しており、第2の注出穴と第3の注出穴の前方に注ぎ口が取り付けられている陶磁器製お湯割りポットである。
【0013】
このお湯割りポットは、内容器に焼酎を入れ、内容器と外容器の間の空間にお湯を注いで使用することを基本とする。内容器内の焼酎は、周囲のお湯の温度により暖められ、焼酎に含まれる揮発成分の一種である臭みが飛び、まろやかな味になる。お湯割り焼酎を湯飲みなどに注ぐためにお湯割りポットを傾けると、連通している第1の注出穴と第2の注出穴から焼酎が、そして第3の注出穴からお湯が注ぎ口に注ぎ出され、注ぎ口先端の口から湯飲みにお湯割りが注ぎ出される。その割合は、内容器の内部の断面積と、内容器の外壁と外容器の内壁に囲まれた部分の断面積の比となる。理論的には、お湯割りポットを所定の角度傾けたときの内容器の焼酎のレベルと、外容器内のお湯のレベルが同じになると、注ぎ口からのお湯割りの排出は止まる。次に注ぐときは、お湯割りポットを更に大きく傾けて注ぐ。注ぎ初めと注ぎ終わりで、常に焼酎のレベルとお湯のレベルは同じになるので、最後まで、一定の割合のお湯割りを供給することができる。
【0014】
内容器の第1の注出穴とは反対側の上部壁に、口すぼみ部を形成することにより、内容器と外容器の間の空間が広くなり、お湯を注ぎ入れるときに誤ってお湯が内容器側に入ることが少なくなる。
また、内容器の第1の注出穴は、内容器本体よりも隆起した隆起部に形成されている構成とすることにより、内容器を外容器に組み立てる際に、内容器側の第1の注出穴と外容器側の第2の注出穴との接触を確実にすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、外筒と内筒の断面積の割合で、一定の比率のお湯割りが出てくるので、満杯状態から最後に至るまで、一定の割合のお湯割りを注ぐことができる。また、内容器が、外容器と内容器の間に入れられるお湯によって、全周から温められることにより、内容器内の焼酎が温められる。このように、焼酎の温度が上がることにより、焼酎特有の臭み成分を飛ばすことができるので、まろやかな焼酎お湯割りを楽しむことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図1〜図3を用いて説明する。
図1は本発明の実施の形態に係る陶磁器製お湯割りポットの構成を示す分解斜視図、図2は本実施の形態に係る陶磁器製お湯割りポットの断面図、図3は図2のX−X線断面図である。
本実施の形態においては、お湯割りポットPは、内容器1と、外容器2と、注ぎ口3と、取っ手4と、蓋5とで構成されている。
【0017】
内容器1には、側部上方に隆起部1bが形成され、その中央部に第1の注出穴1aが設けられている。ポット本体となる外容器2の側部上方には、第2の注出穴2aと、その両側に第3の注出穴2bが形成されている。第2の注出穴2aの位置は、外容器2内に内容器1を収納したときに第1の注出穴1aが一致する高さとなっている。第3の注出穴2bの高さは、第2の注出穴2aよりも若干高く形成されている。外容器2における第2の注出穴2aおよび第3の注出穴2bの前方を覆うように、外容器2には口部3aを有する注ぎ口3が取り付けられる。また、注ぎ口3とは反対方向に、取っ手4が取り付けられる。外容器2の上部開口には、つまみ5aと空気穴5bを設けた蓋5が被せられる。
【0018】
内容器1の後部上方は、お湯を内容器1と外容器2の間に注ぐときに内容器1内にお湯が入り難いようにするために、口すぼみ部1cが形成されていて、この口すぼみ部1cの角部の位置が、お湯の満杯レベルともなっている。この、お湯の満杯レベルは、焼酎の満杯レベルである第1の注出穴1aよりも高いが、これは、外容器2の第3の注出穴2bが第2の注出穴2aよりも若干高く形成されていることに合わせたものである。
【0019】
内容器1の第1の注出穴1aの周囲に、隆起部1bを設けたのは、第1の注出穴1aと外容器2の第2の注出穴2aとを確実に接触させるためである。隆起部1bを設けないと、外容器2内壁のカーブ面と内容器1の外壁のカーブ面との接触部位が面接触になりにくく、製造時に第1の注出穴1aの周囲の部分と外容器2の第2の注出穴2aの周囲の部分との確実な接着が難しくなる。
【0020】
内容器1と外容器2の大きさは、図3に示すように、内容器1の内部の面積Aと、内容器1の外周と外容器2の内周との間の面積Bの比が、所望のお湯割りの比率、例えば4:6になるようにする。ゴーゴーを好む人にはA:B=5:5になるように、ロクヨンを好む人にはA:B=6:4に設定すればよい。
【0021】
お湯割りポットPを傾けたときに、第2の注出穴2aから出る焼酎の量と、第3の注出穴2bから出るお湯の量の比率が常に一定になるようにするには、理論的には、お湯割りポットPを水平面に置いたときの面積Aと面積Bの比率がどの高さにおいても一定となるようにするのではなく、お湯割りポットPを傾けたときの、第2の注出穴2aおよび第3の注出穴2bの位置と同じ水平面における面積Aと面積Bとの比が、傾きの角度を変えても一定の比率になるように、内容器1,外容器2の形状を設定することが望ましい。
【0022】
このお湯割りポットPを使用して焼酎のお湯割りを提供するには、焼酎を内容器1の第1の注出穴1aの位置まで注ぎ、熱湯を内容器1と外容器2の間に、口すぼみ部1cの角の位置まで注ぐ。しばらく置いておくと、内容器1内の焼酎は、外周の外容器2内のお湯により温められる。後は、取っ手4をつかんで湯飲みなどの器に向けてお湯割りポットPの注ぎ口3を近づけ、傾ければ、内容器1の第1の注出穴1aからは焼酎が、外容器2の第3の注出穴2bからはお湯が、注ぎ口3内で混ざり合って注ぎ口3の口部3aから注がれる。その割合は、お湯割りポットPの満杯状態から、最後まで、一定とすることができる。
【0023】
次に、本実施の形態に係るお湯割りポットを磁器で製造する場合の製造工程について説明する。
【0024】
(1)成形工程
内容器1と、外容器2と、注ぎ口3と、取っ手4と、蓋5をそれぞれ陶土で成形する。成型方法としては、ろくろ成形、形打ち成形、流し込み成形、押し型成形などがある。
【0025】
(2)組立工程
外容器2の内部に、内容器1の第1の注出穴1aが第2の注出穴2aに一致するように内容器1を配置するとともに、外容器2の第2の注出穴2aおよび第3の注出穴2bの前方を覆うように、外容器2の外側に注ぎ口3、取っ手4を接着する。
【0026】
(3)乾燥工程
素焼きに先立って、組立品および蓋5の素地を、陰干し、あるいは天日干しによりゆっくりと乾燥させ、素地の水分を放出する。
【0027】
(4)素焼き工程
乾燥した半製品の素地には水分が残っているので、水分を除去するために、窯に入れて800〜900℃で素焼きする。素焼き後、窯に入れたまま、ゆっくり冷ます。
【0028】
(5)下絵付け工程(オプション)
必要に応じて、半製品の表面に下絵を施す。
【0029】
(6)施釉工程
素焼きされた半製品、あるいは下絵を付けられた半製品に釉薬を施す。
【0030】
(7)本焼成工程
施釉された半製品を本焼成する。窯の中に半製品を入れ、まず、約600℃で乾燥を行う。次いで、約900℃であぶり焼きを行う。さらに1300℃まで温度を上げ、釉薬を溶かして熟成する。本焼成後、窯内でゆっくり温度が下がるのを待つ。白磁、染付、青磁、瑠璃等は、窯から出した時点で製品となる。この本焼成によって、製品は10数%収縮する。
【0031】
(8)上絵付け工程(オプション)
必要に応じて、上絵付けを行う。
【0032】
(9)上絵焼成工程(オプション)
上絵付け後、絵の具の定着のために、720〜820℃で焼成を行う。
【0033】
以上のようにして、外容器2内に内容器1が収納された一体の磁器製のお湯割りポットPを製造することができる。
【0034】
なお、陶土を用いて、陶器製のお湯割りポットPを製造することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、満杯状態から最後に至るまで、一定の割合のお湯割りを注ぐことができ、また焼酎が全周から温められることにより焼酎特有の臭み成分を飛ばすことのできるお湯割りポットとして、酒器およびその製造分野において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態に係る陶磁器製お湯割りポットの構成を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る陶磁器製お湯割りポットの断面図である。
【図3】図2のX−X線断面図である。
【符号の説明】
【0037】
P お湯割りポット
1 内容器
1a 第1の注出穴
1b 隆起部
1c 口すぼみ部
2 外容器
2a 第2の注出穴
2b 第3の注出穴
3 注ぎ口
3a 口部
4 取っ手
5 蓋
5a つまみ
5b 空気穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側部上方に第1の注出穴を設けた内容器と、
前記内容器が収容され、前記内容器の第1の注出穴と高さが一致する位置に設けられた第2の注出穴およびその第2の注出穴の側部に設けられた第3の注出穴を備えた外容器と、
前記外容器の第2の注出穴および第3の注出穴の前方において前記外容器に設けられた注ぎ口とを有し、
前記内容器は、前記外容器の内部に、前記第1の注出穴と前記第2の注出穴とが接触して連通するように付設されている陶磁器製お湯割りポット。
【請求項2】
前記内容器の第1の注出穴とは反対側の上部壁に、口すぼみ部を形成した請求項1記載の陶磁器製お湯割りポット。
【請求項3】
前記内容器の第1の注出穴は、内容器本体よりも隆起した隆起部に形成されている請求項1または2に記載の陶磁器製お湯割りポット。
【請求項4】
側部上方に第1の注出穴を設けた内容器と、前記内容器が入る大きさで、前記内容器の第1の注出穴と高さが一致する位置に設けられた第2の注出穴およびその第2の注出穴の側部に設けられた第3の注出穴を備えた外容器と、前記外容器の第2の注出穴および第3の注出穴の前方において前記外容器に取り付けられる注ぎ口とをそれぞれ陶土や粘土等の原料で成形する成形工程と、
外容器の内部に、前記第1の注出穴が第2の注出穴に一致するように内容器を配置するとともに、外容器の第2の注出穴および第3の注出穴の前方を覆うように、外容器の外側に注ぎ口を接着する組立工程と、
組立後、組立品を素焼きする素焼き工程と、
素焼きされた半製品に釉薬を施す施釉工程と、
施釉された半製品を本焼成する本焼成工程と、
を有する陶磁器製お湯割りポットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−104661(P2008−104661A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−290418(P2006−290418)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(506358306)有限会社新泉堂 (1)
【出願人】(506358269)
【出願人】(503387455)株式会社アイ・アンド・エフ (1)
【Fターム(参考)】