説明

陸上から船舶への給電方法及びそのシステム

【課題】 船舶の電源を船舶に搭載されている発電機から陸上の電源に切り換える際に、無駄な配線を行わず、より経済的な陸上から船舶への給電方法及びそのシステムを提供する。
【解決手段】 港に停泊し、船内に発電機20,21を備えている船舶に陸上から電力を給電する方法であって、船舶には、発電機20,21から電力の供給を受けかつ大容量の電力を必要とする推進補機負荷23を備え、陸上からの電力11を推進補機負荷の昇圧用変圧器31及び推進補機負荷の電力回線24を利用して船舶に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、港に停泊している船舶に陸上から高圧で大容量の電力を供給する給電方法及びそのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶は、一般に例えば、特許文献1で知られるように、エンジンによって発電機を回転し、その電力で船舶全体の電力を供給している。ところが、港内に長期間停泊する場合、あるいは短期間でも冷凍室等の大電力を消費する機器を船内に備える場合には、船舶内のエンジンを相当期間中運転しなければならず、これによって大量の排気ガスが発生し、海洋汚染及び大気汚染の問題を引き起こす。そこで、近年は船舶の接岸停泊時には、船舶のエンジン(発電機)を止めて陸上から給電することが行われている。
【0003】
図2には、従来の船舶の給電状況を示すが、図に示すように、発電機20,21に接続する主配線22を備え、これに、推進補機(例えば、バウスラスタ)負荷23(特許文献2参照)への電力回線24の他に、船内の照明、電子機器等の通常負荷25への配線26が、遮断器27,28を介して接続されている。主配線22と発電機20,21との間に設けられた遮断器29,30と、以上の遮断器27,28が、主配電盤32内に配置されている。
そして、船内の発電機20,21からの給電から陸上の電力に切り換える場合には、船内の発電機の電源と陸上から供給される電源との電圧、周波数及び位相を合わせて(すなわち、同期調整して)切り換え、陸上からの電力を受電用配電盤14、変圧器15及び遮断器16を介して主配線22に供給していた。なお31は推進補機負荷23の昇圧用変圧器を示す。
【特許文献1】特開2000−217275号公報
【特許文献2】特開2000−280985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、陸上から大容量の電力を供給する場合、陸電受電用の電力線(ケーブル)を主配電盤に接続することを必要とし、多大な改造努力を必要とするだけでなく、システム的にも負担がかかっていた。その上、陸上からの電力が大容量すぎて船内の主配電盤では対応できないこともあった。
【0005】
この発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、船舶の電源を船舶に搭載されている発電機から陸上の電源に切り換える際に、無駄な配線を行わず、より経済的な陸上から船舶への給電方法及びそのシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的に沿う請求項1記載の陸上から船舶への給電方法は、港に停泊し、船内に発電機を備えている船舶に陸上から電力を給電する方法であって、陸上からの電力と発電機からの電力との同期調整を行う工程と、同期調整を行った後、陸上からの電力と発電機からの電力の短時間並列運転を行う工程と、短時間並列運転の後、発電機からの電力を遮断し、陸上からの電力によって船舶に給電する工程とを有する陸上から船舶への給電方法において、船舶には、発電機から電力の供給を受けかつ大容量の電力を必要とする推進補機負荷を備え、陸上からの電力を推進補機負荷の昇圧用変圧器及び推進補機負荷の電力回線を利用して船舶に供給している。
【0007】
これによって、船舶の通常負荷への電力の供給は、推進補機負荷の昇圧用変圧器及び推進補機負荷の電力回線を利用して陸上からの電力を主配電盤に逆送電して行われる。
一般に推進補機負荷の回線は大電力用の大径の電線が使用され、しかも、推進補機負荷は港に停泊中は使用されないので、ここに回線を接続して陸電受電用ケーブルとしてこの推進補機負荷用回線を使用すると、主配電盤に電力線を追加改造しなくて済む。
【0008】
請求項2記載の陸上から船舶への給電システムは、港に停泊し、船内の照明機器及び電子機器に使用する通常負荷の他に、大容量の電力を必要とする推進補機負荷を備えている船舶に陸上から電力を給電するシステムであって、陸上からの電力を受電し、回線の電力のオンオフを行う遮断器を有する受電用配電盤と、回線から電力の供給を受け、切り換えスイッチを介して推進補機負荷の電力回線に接続される切り換え盤を有し、通常負荷は、切り換え盤、推進補機負荷の昇圧用変圧器及び推進補機負荷の電力回線を介して供給され、しかも、切り換え手段による船内の発電機から陸上の電力への切り換えは、発電機から発生する電力と回線によって供給される電力との同期調整を行った後に短時間の並列運転を行う短時間並列運転手段を介して行う。
ここで、同期調整とは、発電機からの電力と陸上からの電力との電圧、周波数及び位相を合わせて、両電力を電気的に連結させ、短時間発電機と陸上電力との並列運転をさせることをいう。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の陸上から船舶への給電方法及び請求項2記載の陸上から船舶への給電システムにおいては、推進補機負荷の昇圧用変圧器及び推進補機負荷の電力回線を用いて陸上からの電力を船舶に供給しているので、新たに変圧器を設置したり、主配電盤へ陸電受電用電力回線導入(ケーブル追加)という改造工事を行わずに済み、設備コストが低減する。
【0010】
特に、請求項2記載の陸上から船舶への給電システムにおいては、システムを、受電用配電盤、切り換え盤内にまとめているので、限られたスペースの機関室に設置されながらも重要な操作を行う主配電盤への改造が極めて少なく済み、既設の船舶に大いに役立つ方法である。
また、新設の船舶でも主配電盤への負担が少ないことからこの給電システムを比較的安価にかつ容易に取り入れられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態を説明する。
図1は、この発明の一実施の形態に係る陸上から船舶への給電システムを示す電気回路図である。図中、各回線は単線で示すが通常は2本(単相の場合)又は3本(三相の場合)の電力線から構成されている。なお、図2に示す従来例と同一の構成要素(例えば、部品、回路)については同一の符号を付す。
【0012】
図1に示すように、この発明の一実施の形態に係る陸上から船舶への給電システム1は、陸上からの電力11を受電し、陸上からの電力11を供給する回線12に設けられて、回線12の電力のオンオフを行う遮断器(VCB:真空回路遮断器)13を有する受電用配電盤14を有している。
【0013】
一方、船舶内には、既設の発電機20,21と、これに接続される主配電盤32とを有している。主配電盤32には、主配(母)線22を有し、これに発電機20,21が遮断器29,30を介して接続されている。また、主配線22は、推進補機負荷23の電力回線24と遮断器27を介して、通常負荷25の配線26と遮断器28を介してそれぞれ接続されている。
【0014】
推進補機負荷23と主配電盤32をつなぐ電力回線24上に、切り換え盤2を設置する(設置場所は電力回線24上の変圧器31と推進補機負荷23との間であればどこでもよい)。この切り換え盤2は、受電用配電盤14から回線12を介して電力が供給されている。また、電力回線24を推進補機負荷23から遮断し陸電供給を受けている回線12に切り換える切り換えスイッチ3を備えている。
この切り換えスイッチ3の手動操作によって連動する2台の開閉器4,5のオンオフが交互に行われる。従って、切り換えスイッチ3を陸側(SHORE)に切り換えた場合、開閉器5がオフとなった後、開閉器4がオンとなる。また、切り換えスイッチ3を主配電盤側(MSB)に切り換えると、開閉器4がオフとなった後、開閉器5がオンとなる。
【0015】
なお、通常既設の船舶に陸電受電用のシステムを組み込む場合には主配電盤32内の大幅な改造(陸電受電用の大径ケーブルを主配線につなぐ回路)を必要とするが、この給電システム1を組み込む場合には、主配電盤32への改造は推進補機負荷23の電力回線24用の切り換えスイッチ3を取付けるのみで済み、受電用配電盤14、切り換え盤2は主配電盤32に接続された変圧器31から推進補機負荷までの空いたスペースに設ければよいので限られた機関室のスペースに悩む必要がなくなる。
また、新設の船舶に関しても主配電盤の大きさが限られる場合、本システムの方法を取り入れれば、主配電盤内で接続場所を要する陸電受電用のケーブルのことで悩まずに済む。
【0016】
続いて、このシステム1を用いたこの発明の一実施の形態に係る陸上から船舶への給電方法について説明する。
船舶が接岸した直後の状態では、船内の複数の発電機20,21が作動し、通常負荷25に主配電盤32を介して電力を供給している。バウスラスタなどの推進補機負荷23は接岸又は離岸する場合に使用するが、一度接岸してしまうと停泊中は全く使用しない。
【0017】
この状態で、船内の電力を陸上からの電力11に切り換える場合には、切り換え盤2の切り換えスイッチ3を操作して、推進補機負荷23側の電源を切って、主配電盤32に、変圧器31を介して、陸上からの電力11の供給を受けている回線12を接続するようにするのだが、まず先に主配電盤32に運行中からずっと給電している船内発電機20,21について触れておく。
主配電盤32には、発電機20,21の周波数調整を手動で行うか自動で行うかの選択スイッチ17が設けられている。この選択スイッチ17は複数の発電機の並列運転を自動で行うか手動で行うかを決定するためのスイッチである。例えば、選択スイッチ17を手動にして発電機20,21の並列運転を行う場合には、複数の発電機20,21のいずれか一方、例えば発電機20を先に回転させて遮断器29をオンにして船内に供給していた状態で、発電機21を回転させると、発電機21からの電力が発生する。ここで、両発電機20,21の位相と電圧が一致しない状態で接続すると、回路の短絡を起こすので、両発電機20,21の位相、周波数、電圧を測定した後、発電機21の回転を制御して、発電機20との電圧、周波数、位相を合わせて、遮断器30をオンにする。これによって、負荷は複数の発電機20,21から電力の供給を受けることになり、選択スイッチ17を自動側にすると、自動的に各発電機20,21の分担負荷を均等にする並列運転を行う。
【0018】
この実施の形態においては、発電機20,21のいずれか又は双方の周波数、電圧、位相の調整は手動で行う。そして、大容量負荷である推進補機負荷23には発電機20,21から電力を供給していないので、残る通常負荷25へは発電機20か21のどちらか一台のみの電力で供給可能な状態である(ここでは発電機20一台を運転している状態とする)。
発電機20に接続する遮断器29はオンとなって、主配線22には発電機20からの電力が供給されている。切り換え手段の一例である遮断器27を開いた状態で、主配線22と、推進補機負荷23用の電力回線24に接続される回線12経由の陸上からの電源11との電圧、周波数、位相を図示しない電圧計、周波数計及び同期計(これらが、同期調整手段を構成する)で同期調整する。これによって船内発電機20からの電力(通常負荷25の電力)と陸上からの電力11の同期調整が行われる(以上、第1工程)。
【0019】
この後、直ちに遮断器27をオンにし、陸上からの電力11が主配線22に供給される。この時陸上からの電力11は通常、主配電盤32から推進補機負荷側に流れる電流方向とは逆方向で推進補機負荷23用の電力回線24を主配電盤側へ流れ、給電されることになる。遮断器27をオンにした直後陸上からの電力11と発電機20からの電力が同時に主配線22に供給されることになり、短時間の並列運転が行われる(これによって「短時間並列運転手段」が構成される、以上、第2工程)。
発電機20と陸上からの電力11の同時並列運転がされることとなるが、そのすぐ数秒後遮断器29は自動的に遮断し(遮断器27とのインターロックによって遮断器27がオンになると遮断器29は数秒後に自動的に遮断する。)発電機20からの電力供給を停止する(以上、第3工程)。
これらの工程を経て通常負荷25へ一時的停電を起こすことなく電力の切り換えができる。
【0020】
なお、電源を陸上からの電力11から船内の発電機20,21に切り換えるには以上の逆の操作を行う。まず1台の発電機を始動させる(ここでは発電機20)。その後主配線22と発電機20の電力の周波数、電圧の同期をとって遮断器29をオンにし主配線22に接続する。船内発電機20と陸上からの電力11との一時的な並列運転になるが数秒後すぐに陸上からの電力11を給電していた電力回線(回路)24の遮断器27が自動的に遮断され、主配線22には船内発電機20からのみの給電となる。陸電と発電機の切り換えは必ず発電機1台の状態で行うことに留意したい。主配線22への給電を発電機20のみにした後、複数発電機があれば(ここでは発電機21)それらを始動させ主配線22に同期調整した後投入し、並列運転をさせる。発電機20,21の並列運転は主配電盤32の選択スイッチ17を自動にすると負荷に合わせた自動運転ができる。
【0021】
次に、切り換え盤2の切り換えスイッチ3を主配電盤側(MSB)に作動させ、開閉器5をオンにし(自動的に開閉器4がオフになる)推進補機負荷23にも発電機20,21の電力が給電できるようにする。その後遮断器13をオフにして陸上からの電力11の供給を完全に遮断する。
【0022】
上記実施の形態においては、船内の発電機は2台であったが、1台又は3台以上の場合もこの発明は適用される。
また、上記実施の形態においては、陸上からの電力11と船内の電力を同期運転する場合、手動操作によって行っていたが、所定のシーケンスを組んで自動制御にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の一実施の形態に係る陸上から船舶への給電システムを示す電気回路図である。
【図2】従来例に係る船舶の電力系統の電気回路図である。
【符号の説明】
【0024】
1 陸上から船舶への給電システム
2 切り換え盤
3 切り換えスイッチ
4,5 開閉器
11 陸上からの電力
12 回線
13 遮断器
14 受電用配電盤
15 変圧器
16 遮断器
17 選択スイッチ
20,21 発電機
22 主配線
23 推進補機(バウスラスタ)負荷
24 電力回線
25 通常負荷
26 配線
27,28 遮断器
29,30 遮断器
31 変圧器
32 主配電盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
港に停泊し、船内に発電機を備えている船舶に陸上から電力を給電する方法であって、
陸上からの電力と前記発電機からの電力との同期調整を行う工程と、
前記同期調整を行った後、前記陸上からの電力と前記発電機からの電力の短時間並列運転を行う工程と、
前記短時間並列運転の後、前記発電機からの電力を遮断し、前記陸上からの電力によって前記船舶に給電する工程とを有する陸上から船舶への給電方法において、
前記船舶には、前記発電機から電力の供給を受けかつ大容量の電力を必要とする推進補機負荷を備え、前記陸上からの電力を前記推進補機負荷の昇圧用変圧器及び前記推進補機負荷の電力回線を利用して前記船舶に供給することを特徴とする、陸上から船舶への給電方法。
【請求項2】
港に停泊し、船内の照明機器及び電子機器に使用する通常負荷の他に、大容量の電力を必要とする推進補機負荷を備えている船舶に陸上から電力を給電するシステムであって、
陸上からの電力を受電し、回線の電力のオンオフを行う遮断器を有する受電用配電盤と、
前記回線から電力の供給を受け、切り換えスイッチを介して前記推進補機負荷の電力回線に接続される切り換え盤を有し、
前記通常負荷は、前記切り換え盤、前記推進補機負荷の昇圧用変圧器及び前記推進補機負荷の電力回線を介して供給され、しかも、切り換え手段による船内の発電機から前記陸上の電力への切り換えは、前記発電機から発生する電力と前記回線によって供給される電力との同期調整を行った後に短時間の並列運転を行う短時間並列運転手段を介して行うことを特徴とする、陸上から船舶への給電システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−178228(P2008−178228A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−9664(P2007−9664)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(000180966)寺崎電気産業株式会社 (30)
【Fターム(参考)】