陽極酸化処理装置及びその装置を用いた微細構造体の製造方法
【課題】陽極酸化皮膜を形成する際に、従来に比べて処理時間を短縮することができるので、効率的にマイクロポアを有する構造体を形成できるだけでなく、電解槽のコンパクト化を図ることができる。
【解決手段】電解槽22の長手方向に沿って電解液26中を連続走行するアルミニウム部材10に陽極酸化皮膜14を形成する装置であって、電解槽22の吐出部30にオリフィスノズル30Aを設けるとともに、電解槽22の下流側に加速手段40を設けた陽極酸化処理装置を20を用いて、陽極酸化皮膜を形成する。
【解決手段】電解槽22の長手方向に沿って電解液26中を連続走行するアルミニウム部材10に陽極酸化皮膜14を形成する装置であって、電解槽22の吐出部30にオリフィスノズル30Aを設けるとともに、電解槽22の下流側に加速手段40を設けた陽極酸化処理装置を20を用いて、陽極酸化皮膜を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は陽極酸化処理装置及びその装置を用いた微細構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属および半導体の薄膜、細線、ドット等の技術領域では、ある特徴的な長さより小さいサイズにおいて自由電子の動きが閉じ込められることにより、電気的、光学的および化学的に特異な現象が見られることが知られている。このような現象は「量子力学的サイズ効果(量子サイズ効果)」と呼ばれている。このような特異な現象を応用した機能性材料の研究開発が、現在、盛んに行なわれている。具体的には、数百nmより微細な構造を有する材料が、「微細構造体」または「ナノ構造体」と称されており、材料開発の対象の一つとされている。
【0003】
こうした微細構造体の製造方法としては、例えば、フォトリソグラフィ、電子線露光、X線露光等の微細パターン形成技術を初めとする半導体加工技術によって直接的にナノ構造体を製造する方法が挙げられる。
【0004】
中でも、規則的な微細構造を有する微細構造体を作製する方法についての研究が注目され、多く行われている。例えば、自己規制的に規則的な構造が形成される方法として、電解液中でアルミニウムに陽極酸化処理を施して得られる陽極酸化アルミナ膜(陽極酸化皮膜)が挙げられる。陽極酸化皮膜には、数nm程度から数百nm程度の直径を有する複数の微細孔(マイクロポア)が規則的に形成されることが知られている。この陽極酸化皮膜の自己規則化を用い、完全に規則的な配列を得ると、理論的には、マイクロポアを中心に底面が正六角形である六角柱のセルが形成され、隣接するマイクロポアを結ぶ線が正三角形を成すことが知られている。
【0005】
このようなマイクロポアを有する陽極酸化皮膜の用途例としては、平版印刷版のアルミニウム支持体、光機能性ナノデバイス、磁気デバイス、発光担体、触媒担持体等が知られている。例えば、特許文献1には、ポアを金属で封孔し局在プラズモン共鳴を発生させてラマン分光分析用装置へ応用する旨が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、表面に細孔を有し、該細孔に、陽極酸化と孔径拡大処理を組み合わせることで、連続的に細孔径が変化するテーパー形状を付与した陽極酸化ポーラスアルミナを製造することが記載されている。
【0007】
このようなマイクロポアを形成させる陽極酸化処理の前には、陽極酸化処理のマイクロポアの生成の起点となる窪みを形成させておく方法が知られている。このような窪みを形成させることにより、マイクロポアの配列およびポア径のばらつきを所望の範囲に制御することが容易となる。
【0008】
窪みを形成させる一般的な方法として、陽極酸化皮膜の自己規則性を利用した自己規則化法が知られている。これは陽極酸化皮膜のマイクロポアが規則的に配列する性質を利用し、規則的な配列をかく乱する要因を取り除くことで、規則性を向上させる方法である。
【0009】
この自己規則化法は、特許文献1に記載されているように、一度陽極酸化処理(プレ陽極酸化処理)した後、リン酸および6価クロム酸の混合水溶液への浸漬処理を施し、再度陽極酸化処理(本陽極酸化処理)を順に行うのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−307341号公報
【特許文献2】特開2005−156695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、陽極酸化処理、特に低速で行うプレ陽極酸化処理は処理時間に長時間(例えば数時間から十数時間)を要しており、処理時間の短縮が微細構造体の製造方法の製造効率を上げる上で重要な課題となっている。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、陽極酸化皮膜を形成する際に、従来に比べて処理時間を短縮することができるので、効率的にマイクロポアを有する構造体を形成できるだけでなく、電解槽のコンパクト化を図ることができる陽極酸化処理装置及びその装置を用いた微細構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明に係る陽極酸化処理装置は、電解槽の長手方向に沿って電解液中を連続走行するウェブ状金属板に陽極酸化皮膜を形成する装置であって、前記ウェブ状金属板の走行方向に沿って電極板が配置されると共に、前記長手方向一端側の吐出部から前記ウェブ状金属板と前記電極板との間に電解液を吐出し、前記電解槽の長手方向他端側の排出部から電解液を排出することにより電解液の流れを形成する陽極酸化処理装置において、前記吐出部を、前記ウェブ状金属板の走行方向から見た下流端位置に設けると共に、前記吐出部に、オリフィス構造を備えたオリフィスノズルを有する。
【0014】
本発明によれば、吐出部を、ウェブ状金属板の走行方向から見た下流端位置に設けると共に、吐出部に、オリフィス構造を備えたオリフィスノズルを有するので、陽極酸化反応がある程度進んで反応効率が低下し易いウェブ状金属板走行方向の下流位置に、吐出部からのフレッシュな電解液を供給することができる。
【0015】
更には、吐出部にオリフィスノズルを有するようにしたので、オリフィスノズルから吐出される噴出流によって電解液に乱流を発生させて、電解液の流れが停滞し反応効率の低下要因である境界層(ウェブ状金属板表面に形成される)を乱すことができる。
【0016】
これにより、電解槽の上流側から下流側までの全ての陽極酸化処理の処理長区間において高い反応効率を得ることができるので、従来に比べて処理時間を短縮することができる。
【0017】
なお、ウェブ状金属板の走行方向から見た下流端位置は、電解液の流れ方向から見た場合には上流端位置になる。即ち、電解液は、ウェブ状金属板の走行方向に対してカウンターカレントの流れを形成する。
【0018】
本発明の陽極酸化処理装置においては、前記電解液の流れ方向から見た下流側に、前記電解液流れの流速を加速する加速手段を設けることが好ましい。なお、電解液の流れ方向から見た下流側は、ウェブ状金属板の走行方向から見た場合には上流側になる。
【0019】
このように、吐出部から吐出された電解液流れ方向から見た下流側に、電解液の流速を加速する加速手段を設けたので、処理長の長い電解槽であっても電解槽の電解液流れ方向下流側における電解液の流速が低下することを効果的に抑制できる。
【0020】
これにより、電解槽の電解液流れ方向下流側、即ち排出部側においても、電解液に乱流を発生させることができるので、排出部側の境界層がフレッシュな電解液に更新される。したがって、電解槽の上流側から下流側までの全ての処理長区間において更に高い反応効率を得ることができるので、処理時間を一層短縮することができる。
【0021】
電解槽を流れる電解液の流速としては、レイノルズ数Reで3500以上になるようにすることが好ましい。したがって、吐出部からはオリフィスノズルによってReで3500以上となる初期流速で電解液を吐出すると共に、電解槽の下流側においても加速手段によってReで3500以上となる流速に加速することが好ましい。
【0022】
本発明の陽極酸化処理装置においては、前記下流側は、前記吐出部と前記排出部の中間よりも排出部側であることが好ましい。このような下流位置において、電解液流れの流速の低減にともなう反応効率の低下が顕著であり、処理時間を長くする原因だったからである。
【0023】
本発明の陽極酸化処理装置においては、前記加速手段はオリフィスノズルであることが好ましい。なお、加速手段としては、電解液の流れを加速できるものであればよく、例えば排出部に吸引力を付与することにより、下流位置での流速を加速する手段も使用できる。
【0024】
本発明の陽極酸化処理装置においては、前記加速手段は、前記吐出部から吐出された電解液の初期流速と、前記排出部近傍の電解液の終期流速とが同等になるように前記下流側の電解液の流速を加速することが好ましい。
【0025】
これにより、電解槽の上流から下流にかけて一定の反応効率で行うことができ、従来に比べて処理時間を短縮することができるだけでなく、反応の均一化をも図ることができる。
【0026】
本発明の陽極酸化処理装置においては、前記吐出部をオリフィス構造とすることにより、前記吐出部から吐出される初期流速を上げることが好ましい。
【0027】
吐出部から吐出される初期流速を上げることによっても反応効率を向上でき、下流側に設けた加速手段と相俟って処理時間の一層の短縮を図ることができる。
【0028】
本発明の陽極酸化処理装置においては、前記吐出部近傍に設けられ、前記吐出部から吐出された電解液の初期流速を測定する第1の流速測定手段と、前記排出部近傍に設けられ、前記排出部から排出される電解液の終期流速を測定する第2の流速測定手段と、前記第1及び第2の流速測定手段の測定結果に基づいて前記加速手段を制御する制御手段と、を備えることが好ましい。
【0029】
このように、初期流速と終期流速を実際に測定し、測定結果に基づいて加速手段を制御することで、下流側における電解液の流速が落ちないように精度よく制御できるので、反応効率の一層の向上を図ることができる。
【0030】
本発明の陽極酸化処理装置においては、前記ウェブ状金属板と電極板との間のスペースを囲むように、一対の側板が対向配置されていることが好ましい。
【0031】
電解液の流速が低下する領域では、電解液流れが横方向に逃げ易くなり、反応効率の低下要因となる。したがって、ウェブ状金属板と電極板との間のスペースを囲むように、一対の側板を対向配置し、電解液流れが横方向に逃げるのを防止すれば、加速手段と相俟って下流側での反応効率の低下を一層防止できる。
【0032】
本発明の陽極酸化処理装置においては、前記電極板が前記吐出部から前記排出部の間に複数枚離間配置されると共に、該離間隙間に、前記電極板の面と面一になるように整流板を配置することが好ましい。
【0033】
電解処理長の長い電解槽では、電極板が吐出部から排出部の間に複数枚離間配置されることが通常であり、この電極板同士の離間スペースから電解液の流れが逃げ易くなり、反応効率低下の一因となる。したがって、本発明では、離間スペースに整流板を配置したので、電解効率の低下を防止できる。
【0034】
この場合、側板と整流板との少なくとも1つを振動部材で構成することが好ましい。側板と整流板とを振動させることにより、電解液の流れを乱して上記した境界層を破壊し易くなるので、反応効率を一層向上できる。
【0035】
本発明の陽極酸化処理装置においては、前記電解槽の陽極酸化処理の処理長は10m以上であることが好ましい。電解槽の処理長が長くなればなるほど、下流側での電解液流れの流速が低下し易くなり、反応効率を向上する上で本発明が特に有効だからである。
【0036】
前記目的を達成するために、本発明に係る微細構造体の製造方法は、アルミニウム部材の表面にマイクロポアが存在する陽極酸化皮膜を有する微細構造体の製造方法において、請求項1〜10の何れか1の陽極酸化処理装置を用いて、前記アルミニウム部材の表面に陽極酸化処理を施して前記マイクロポアを形成する。
【0037】
本発明の微細構造体の製造方法によれば、請求項1〜10の何れか1の陽極酸化処理装置を用いて、前記アルミニウム部材の表面に陽極酸化処理を施して前記マイクロポアを形成するようにしたので、処理時間の短縮を図ることができる。
【0038】
本発明の微細構造体の製造方法においては、前記陽極酸化処理は、前記アルミニウム部材の表面に低速で陽極酸化皮膜を形成して前記表面に自己規則化による窪みを形成するプレ陽極酸化処理工程と、前記プレ陽極酸化処理工程で形成した陽極酸化皮膜を脱膜する脱膜工程と、その後に、前記アルミニウム部材に再び陽極酸化処理を施して、前記窪みの位置に前記マイクロポアを有する陽極酸化皮膜を形成する本陽極酸化処理工程と、を少なくとも有し、前記プレ陽極酸化処理工程及び前記本陽極酸化処理工程のうちの少なくともプレ陽極酸化処理工程を、請求項1〜10の何れか1の陽極酸化処理装置を用いて行うことが好ましい。
【0039】
プレ陽極酸化処理は規則的な窪みを形成するために低速な陽極酸化処理が必要で、長時間の処理時間を必要とするが、本発明の陽極酸化処理装置を用いることで、顕著な時間短縮を図ることができると共に、規則的な窪みを形成することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明の陽極酸化処理装置及びその装置を用いた微細構造体の製造方法によれば、陽極酸化皮膜を形成する際に、従来に比べて電解時間を短縮することができるので、短時間でマイクロポアを有する構造体を形成できるだけでなく、電解槽のコンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】微細構造体の製造方法のステップを示すブロック図
【図2】プレ陽極酸化処理工程によって窪みを形成した図
【図3】本陽極酸化処理工程によってマイクロポアを形成した図
【図4】規則化率を説明する図
【図5】本発明の実施の形態の陽極酸化処理装置の側面断面図
【図6】陽極酸化処理装置を上から見た平面図
【図7】陽極酸化処理装置の正面断面図
【図8】水中噴射ノズルを説明する断面図
【図9】水中噴射ノズルの供給路とオリフィスの孔径を説明する図
【図10】水中噴射ノズルの有る無と、境界層との関係を示す図
【図11】整流板を説明する図
【図12】実施例の試験Aにおける試験条件及び結果を示す表図
【図13】実施例の試験Bにおける試験条件及び結果を示す表図
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下添付図面に従って、本発明に係る陽極酸化処理装置及びその装置を用いた微細構造体の製造方法の好ましい実施の形態について詳述する。
【0043】
[微細構造体の製造方法]
図1にしたがって、微細構造体の製造方法のステップを説明する。
【0044】
<アルミニウム部材>
アルミニウム部材とは、少なくとも部材表面にアルミニウム表面を有する部材を言う。
【0045】
アルミニウム表面を有する部材は、特に限定されず、例えば、純度99.9%以上の高純度アルミニウム基板、低純度のアルミニウム(例えば、リサイクル材料)に純度99.9%以上の高純度アルミニウムを蒸着させた基板等のアルミニウム基板;シリコンウエハー、石英、ガラス等の表面に蒸着、スパッタ等の方法により高純度アルミニウムを被覆させた基板;アルミニウムをラミネートした樹脂基板が挙げられる。
【0046】
アルミニウム部材のうち、陽極酸化処理により陽極酸化皮膜を設ける表面は、アルミニウム純度が、99.5質量%以上であるのが好ましく、99.80質量%以上であることがより好ましく、また、99.99質量%未満であるのが好ましく、99.95質量%以下であるのがより好ましい。アルミニウム純度が99.5質量%以上であると、ポア配列の規則性が十分となり、99.99質量%未満であると安価に製造することができる。
【0047】
アルミニウム部材の表面は、あらかじめ脱脂処理工程(ステップ1)および鏡面仕上げ処理工程(ステップ2)を施されるのが好ましい。
【0048】
<脱脂処理工程>
脱脂処理工程は、酸、アルカリ、有機溶剤等を用いて、アルミニウム部材表面に付着した有機成分(主に脂分)等を溶解させて除去することを目的として行われる。脱脂処理には、従来公知の脱脂剤を用いることができる。具体的には、例えば、市販されている各種脱脂剤を所定の方法で用いることにより行うことができる。また、pH10〜13、温度30〜50℃程度の水酸化ナトリウム水溶液、pH1〜4、温度40〜70℃程度の硫酸水溶液等に、アルミニウム表面から気泡がわずかに発生する程度の時間、アルミニウム部材を浸せきさせることによっても行うことができる。
【0049】
好ましい脱脂処理としては、アルミニウム部材をアセトンで洗浄した後、pH4、温度50℃の硫酸に浸せきさせる方法が例示される。この方法によれば、アルミニウム部材表面の脂分が除去される一方で、アルミニウムの溶解がほとんど起こらないので好ましい。
【0050】
中でも、以下の各方法が好適に例示される。
【0051】
*各種アルコール、各種ケトン、ベンジン、揮発油等の有機溶剤を常温でアルミニウム部材表面に接触させる方法(有機溶剤法)。
【0052】
*石けん、中性洗剤等の界面活性剤を含有する液を常温から80℃までの温度でアルミニウム部材表面に接触させ、その後、水洗する方法(界面活性剤法)。
【0053】
*濃度10〜200g/Lの硫酸水溶液を常温から70℃までの温度でアルミニウム部材表面に30〜80秒間接触させ、その後、水洗する方法;濃度5〜20g/Lの水酸化ナトリウム水溶液を常温でアルミニウム表面に30秒間程度接触させつつ、アルミニウム部材表面を陰極にして電流密度1〜10A/dm2の直流電流を流して電解し、その後、濃度100〜500g/Lの硝酸水溶液を接触させて中和する方法。
【0054】
*各種公知の陽極酸化処理用電解液を常温でアルミニウム部材表面に接触させつつ、アルミニウム部材表面を陰極にして電流密度1〜10A/dm2の直流電流を流して、または、交流電流を流して電解する方法。
【0055】
*濃度10〜200g/Lのアルカリ水溶液を40〜50℃でアルミニウム部材表面に15〜60秒間接触させ、その後、濃度100〜500g/Lの硝酸水溶液を接触させて中和する方法。
【0056】
*軽油、灯油等に界面活性剤、水等を混合させた乳化液を常温から50℃までの温度でアルミニウム部材表面に接触させ、その後、水洗する方法(乳化脱脂法)。
【0057】
*炭酸ナトリウム、リン酸塩類、界面活性剤等の混合液を常温から50℃までの温度でアルミニウム部材表面に30〜180秒間接触させ、その後、水洗する方法(リン酸塩法)。
【0058】
脱脂処理は、アルミニウム部材表面の脂分を除去しうる一方で、アルミニウムの溶解がほとんど起こらない方法が好ましい。この点で、有機溶剤法、界面活性剤法、乳化脱脂法、リン酸塩法が好ましい。
【0059】
<鏡面仕上げ処理工程>
鏡面仕上げ処理工程は、アルミニウム部材の表面の凹凸をなくして、電着法等による封孔処理の均一性や再現性を向上させるために行われる。アルミニウム部材の表面の凹凸としては、例えば、アルミニウム部材が圧延を経て製造されたものである場合における、圧延時に発生した圧延筋が挙げられる。
【0060】
本実施の形態において、鏡面仕上げ処理工程は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、機械研磨、化学研磨、電解研磨が挙げられる。
【0061】
機械研磨としては、例えば、各種市販の研磨布で研磨する方法、市販の各種研磨剤(例えば、ダイヤ、アルミナ)とバフとを組み合わせた方法が挙げられる。具体的には、研磨剤を用いる方法を、用いる研磨剤を粗い粒子から細かい粒子へと経時的に変更して行う方法が好適に例示される。この場合、最終的に用いる研磨剤としては、#1500のものが好ましい。これにより、光沢度を50%以上(圧延アルミニウムである場合、その圧延方向および幅方向ともに50%以上)とすることができる。
【0062】
化学研磨としては、例えば、「アルミニウムハンドブック」,第6版,(社)日本アルミニウム協会編,2001年,p.164−165に記載されている各種の方法が挙げられる。
【0063】
また、リン酸−硝酸法、Alupol I、Alupol V、Alcoa R5、H3PO4−CH3COOH−Cu法、H3PO4−HNO3−CH3COOH法が好適に挙げられる。 中でも、リン酸−硝酸法、H3PO4−CH3COOH−Cu法、H3PO4−HNO3−CH3COOH法が好ましい。
【0064】
化学研磨により、光沢度を70%以上(圧延アルミニウムである場合、その圧延方向および幅方向ともに70%以上)とすることができる。
【0065】
電解研磨としては、例えば、「アルミニウムハンドブック」,第6版,(社)日本アルミニウム協会編,2001年,p.164−165に記載されている各種の方法が挙げられる。
【0066】
また、米国特許第2708655号明細書に記載されている方法が好適に挙げられる。
また、「実務表面技術」,vol.33,No.3,1986年,p.32−38に記載されている方法も好適に挙げられる。
【0067】
電解研磨により、光沢度を70%以上(圧延アルミニウムである場合、その圧延方向および幅方向ともに70%以上)とすることができる。
【0068】
これらの方法は、適宜組み合わせて用いることができる。例えば、研磨剤を用いる方法を、用いる研磨剤を粗い粒子から細かい粒子へと経時的に変更して行い、その後、電解研磨を施す方法が好適に挙げられる。
【0069】
鏡面仕上げ処理により、例えば、平均表面粗さRa0.1μm以下、光沢度50%以上の表面を得ることができる。平均表面粗さRaは、0.03μm以下であるのが好ましく、0.02μm以下であるのがより好ましい。また、光沢度は70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましい。
【0070】
なお、光沢度は、圧延方向に垂直な方向において、JIS Z8741−1997の「方法3 60度鏡面光沢」の規定に準じて求められる正反射率である。具体的には、変角光沢度計(例えば、VG−1D、日本電色工業社製)を用いて、正反射率70%以下の場合には入反射角度60度で、正反射率70%を超える場合には入反射角度20度で、測定する。
【0071】
<プレ陽極酸化処理工程(窪み形成)>
アルミニウム表面を有する部材の表面にマイクロポアを形成させる陽極酸化処理(以下「本陽極酸化処理」ともいう。)の前に、本陽極酸化処理のマイクロポアの生成の起点となる窪みを形成させておく方法が好ましい。このような窪みを形成させることにより、後述するマイクロポアの配列およびポア径のばらつきを所望の範囲に制御することが容易となる。
【0072】
窪みを形成させる方法は、自己規則化法、物理的方法、粒子線法、ブロックコポリマー法、レジスト干渉露光法が特に限定されないが、ここでは、陽極酸化皮膜の自己規則性を利用したプレ陽極酸化処理工程(ステップ3)について説明する。
【0073】
<自己規則化法によるプレ陽極酸化処理工程>
自己規則化法は、陽極酸化皮膜のマイクロポアが規則的に配列する性質を利用し、本陽極酸化処理工程の前にプレ陽極酸化処理を行う工程であり、規則的な配列を攪乱する要因を取り除くことで、規則性を向上させる方法である。具体的には、高純度のアルミニウムを使用し、電解液の種類に応じた電圧で、長時間(例えば、数時間から十数時間)かけて、低速で陽極酸化皮膜を形成させるプレ陽極酸化処理を行い、その後、脱膜処理工程(ステップ4)を行う。
【0074】
この方法においては、ポア径は電圧に依存するので、電圧を制御することにより、ある程度所望のポア径を得ることができる。
【0075】
自己規則化法の代表例としては、J.Electrochem.Soc.Vol.144,No.5,May 1997,p.L128(非特許文献6)、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.35(1996)Pt.2,No.1B,L126(非特許文献7)、Appl.Phys.Lett,Vol.71,No.19,10 Nov 1997,p.2771(非特許文献8)、上記非特許文献1が知られている。
【0076】
これらの公知文献に記載されている方法は、高純度の材料を用い、電解液に応じた特定の電圧で、比較的低温で長時間処理を施しているところに技術的特徴がある。具体的には、いずれもアルミニウム純度99.99質量%以上の材料を用いており、以下に示される条件で、自己規則化法を行っている。
【0077】
0.3mol/L硫酸、0℃、27V、450分(非特許文献6)
0.3mol/L硫酸、10℃、25V、750分(非特許文献6)
0.3mol/Lシュウ酸、17℃、40〜60V、600分(非特許文献7)
0.04mol/Lシュウ酸、3℃、80V、膜厚3μm(非特許文献8)
0.3mol/Lリン酸、0℃、195V、960分(非特許文献8)
また、これらの公知文献に記載されている方法では、陽極酸化皮膜を溶解させて除去する脱膜処理工程に、50℃程度のクロム酸とリン酸の混合水溶液を用いて、12時間以上をかけている。なお、沸騰した水溶液を用いて処理すると、規則化の起点が破壊され、乱れるので、沸騰させないで用いる。
【0078】
自己規則化法による陽極酸化皮膜は、アルミニウム部分に近くなるほど規則性が高くなってくるので、一度脱膜して、アルミニウム部分に残存した陽極酸化皮膜の底部分を表面に出して、規則的な窪みを得る。したがって、脱膜処理工程においては、アルミニウムは溶解させず、酸化アルミニウムである陽極酸化皮膜のみを溶解させる。
【0079】
その結果、これらの公知文献に記載されている方法では、マイクロポアのポア径は種々異なるが、ポア径のばらつき(変動係数)は3%以下となっている。
【0080】
本実施の形態に用いられる自己規則化法によるプレ陽極酸化処理は、例えば、酸濃度1〜10質量%の溶液中で、アルミニウム部材を陽極として通電する方法を用いることができる。陽極酸化処理に用いられる溶液としては、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、アミドスルホン酸等を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0081】
自己規則化法によるプレ陽極酸化処理の条件は、使用される電解液によって種々変化するので一概に決定され得ないが、一般的には電解液濃度1〜30質量%、液温0〜20℃、電流密度0.1〜50A/dm2、電圧10〜200V、電解時間2〜20時間であるのが適当である。
【0082】
自己規則化法によるプレ陽極酸化皮膜の膜厚は、5〜100μmであるのが好ましく、10〜50μmであるのがより好ましい。
【0083】
本実施の形態においては、自己規則化法によるプレ陽極酸化処理は、1〜16時間であるのが好ましく、2〜12時間であるのがより好ましく、2〜7時間であるのが更に好ましい。
【0084】
また、脱膜処理は、0.5〜10時間であるのが好ましく、2〜10時間であるのがより好ましく、4〜10時間であるのが更に好ましい。
【0085】
このように、自己規則化法により、プレ陽極酸化皮膜を形成させた後、これを溶解させて除去し、再度、同一の条件で後述する本陽極酸化処理を行うと、ほぼ真っ直ぐなマイクロポアが、膜面に対してほぼ垂直に形成される。
【0086】
図2は、プレ陽極酸化処理工程によって、アルミニウム部材10表面に窪み12が形成された模式的な断面図である。図2に示されるように、アルミニウム部材10には、その表面に窪み12が形成されている。
【0087】
<本陽極酸化処理>
上述したように、プレ陽極酸化処理工程によってアルミニウム部材10表面に窪み12を形成した後、本陽極酸化処理工程(ステップ5)により、陽極酸化皮膜を形成させる。
【0088】
本陽極酸化処理工程は、従来公知の方法を用いることができるが、上述した自己規則化法によるプレ陽極酸化処理工程の条件と同一の条件で行われるのが好ましい。
【0089】
また、直流電圧を一定としつつ、断続的に電流のオンおよびオフを繰り返す方法、直流電圧を断続的に変化させつつ、電流のオンおよびオフを繰り返す方法も好適に用いることができる。これらの方法によれば、陽極酸化皮膜に微細なマイクロポアが生成するため、特に後工程で電着処理により封孔処理する場合に、均一性が向上する点で、好ましい。
【0090】
上述した電圧を断続的に変化させる方法においては、電圧を順次低くしていくのが好ましい。これにより、陽極酸化皮膜の抵抗を下げることが可能になり、後に電着処理を行う場合に、均一化することができる。
【0091】
本陽極酸化処理工程を低温で行うと、マイクロポアの配列が規則的になり、また、ポア径が均一になる。また、本陽極酸化処理工程を比較的高温で行うことにより、マイクロポアの配列を乱し、また、ポア径のばらつきを所定の範囲にすることが容易となる。また、処理時間によっても、ポア径のばらつきを制御することができる。
【0092】
陽極酸化皮膜の膜厚は、0.1〜1μmが好ましく、マイクロポアの平均ポア径が0.01〜0.5μmであることが、後工程で封孔処理を行う場合に好ましい態様の一つである。また、平均ポア密度は50〜1500個/μm2であるのが好ましい。
【0093】
マイクロポアの占める面積率は、20〜50%であるのが好ましい。
【0094】
マイクロポアの占める面積率は、アルミニウム表面の面積に対するマイクロポアの開口部の面積の合計の割合である。マイクロポアの占める面積率の算出においては、マイクロポアには、金属により封孔されているものもいないものも含まれる。具体的には、封孔処理前に表面空隙率を測定して求められる。
【0095】
図3は、アルミニウム部材10の表面にマイクロポア16が存在する陽極酸化皮膜14を有する微細構造体18の模式図である。図3(A)は、部分断面斜視図であり、図3(B)は、断面図である。図3に示されるように、アルミニウム部材10は、その表面に陽極酸化皮膜14を有し、陽極酸化皮膜14にはマイクロポア16が形成されている。
【0096】
<ポアワイド処理工程>
ポアワイド処理工程(ステップ6)は、本陽極酸化処理工程後、アルミニウム部材10を酸水溶液またはアルカリ水溶液に浸漬させることにより、陽極酸化皮膜14を溶解させ、マイクロポア16のポア径を拡大する処理である。
【0097】
これにより、マイクロポア16の配列の規則性およびポア径のばらつきを制御することが容易となる。
【0098】
ポアワイド処理工程に酸水溶液を用いる場合は、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸等の無機酸またはこれらの混合物の水溶液を用いることが好ましい。酸水溶液の濃度は1〜10質量%であるのが好ましい。酸水溶液の温度は、25〜40℃であるのが好ましい。
【0099】
ポアワイド処理工程にアルカリ水溶液を用いる場合は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも一つのアルカリの水溶液を用いることが好ましい。アルカリ水溶液の濃度は0.1〜5質量%であるのが好ましい。アルカリ水溶液の温度は、20〜35℃であるのが好ましい。
【0100】
具体的には、例えば、50g/L、40℃のリン酸水溶液、0.5g/L、30℃の水酸化ナトリウム水溶液または0.5g/L、30℃の水酸化カリウム水溶液が好適に用いられる。
【0101】
酸水溶液またはアルカリ水溶液への浸せき時間は、8〜60分であるのが好ましく、10〜50分であるのがより好ましく、15〜30分であるのが更に好ましい。
【0102】
<ポア径の変動係数>
このようにして得ることができる微細構造体18は、マイクロポア16のポア径の変動係数が5〜50%、好ましくは10〜20%である。ポア径の変動係数が上記範囲であると、後工程で例えば封孔処理行う場合に封孔の効率が高くなり、金属粒子が近接して存在するようになるため、局在プラズモン共鳴が大きくなる。
【0103】
ポア径の変動係数(CV:Coefficient of Variation)は、ポア径のばらつきの指標であり、下記式により定義される。
【0104】
(ポア径の変動係数)=(ポア径の標準偏差)/(ポア径の平均)
ポア径の変動係数を5〜50%にするには、マイクロポア16の配列の規則性の程度を制御して行うこともできる。
【0105】
配列の規則性の程度は、直線上に連続して存在するマイクロポア16の個数の平均値を指標として評価することができる。
【0106】
具体的には、直線上に連続して存在するマイクロポア16の個数の平均値が3個未満である場合には、ポア径の変動係数が50%以上となり、3個以上5個未満である場合には、20%以上50%未満となり、5個以上10個未満である場合には、15%以上20%未満となり、10個以上15個未満である場合には、10%以上15%未満となり、15個以上20個未満である場合には、5%以上10%未満となり、20個以上である場合には、5%未満となる。
【0107】
上述した本発明の微細構造体の製造方法により、微細構造体18が得られる。
【0108】
本実施の形態の微細構造体18は、平均ポア密度が50〜1500個/μm2であるのが好ましい。また、本実施の形態の微細構造体18は、マイクロポア16の占める面積率が20〜50%であるのが好ましい。更に、本実施の形態の微細構造体18は、マイクロポアについて下記式(1)により定義される規則化度が50%以上であるのが好ましい。
【0109】
規則化度(%)=B/A×100 (1)
上記式(1)中、Aは、測定範囲におけるマイクロポア16の全数を表す。Bは、一のマイクロポア16の重心を中心とし、他のマイクロポア16の縁に内接する最も半径が短い円を描いた場合に、その円の内部に前記一のマイクロポア16以外のマイクロポア16の重心を6個含むことになる前記一のマイクロポア16の測定範囲における数を表す。
【0110】
図4は、ポアの規則化度を算出する方法の説明図である。図4を用いて、上記式(1)をより具体的に説明する。
【0111】
図4(A)に示されるマイクロポア16−1は、マイクロポア16の重心を中心とし、他のマイクロポアの縁に内接する最も半径が短い円3(マイクロポア16−2に内接している。)を描いた場合に、円3の内部にマイクロポア16−1以外のマイクロポアの重心を6個含んでいる。したがって、マイクロポア16−1は、Bに算入される。
【0112】
図4(B)に示されるマイクロポア16−4は、マイクロポア16−4の重心を中心とし、他のマイクロポアの縁に内接する最も半径が短い円6(マイクロポア16−5に内接している。)を描いた場合に、円6の内部にマイクロポア16−4以外のマイクロポアの重心を5個含んでいる。したがって、マイクロポア16−4は、Bに算入されない。また、図4(B)に示されるマイクロポア16−7は、マイクロポア16−7の重心を中心とし、他のマイクロポアの縁に内接する最も半径が短い円9(マイクロポア16−8に内接している。)を描いた場合に、円9の内部にマイクロポア16−7以外のマイクロポアの重心を7個含んでいる。したがって、マイクロポア16−7は、Bに算入されない。
【0113】
かかる微細構造体18の製造において、陽極酸化処理、特に低速で行うプレ陽極酸化処理工程は処理時間に長時間(例えば数時間から十数時間)を要しており、時間短縮が微細構造体18の製造方法における重要な課題となっている。
【0114】
そこで、本発明の実施の形態では、上記したプレ陽極酸化処理工程、及び本陽極酸化処理工程において、下記に説明する陽極酸化処理装置を用いることによって、処理時間の短縮化を図ると共に、装置のコンパクト化を図るようにした。
【0115】
[陽極酸化処理装置]
図5は、本発明の実施の形態における陽極酸化処理装置20の全体構成であり、電解槽22を断面図で示してあり、後記する側板及び整流板は省略してある。図6は図5を上から見た平面図であり、ウェブ状金属板は省略してある。図7は、図6のA−A線に沿った断面図である。また、ウェブ状金属板としては帯状のアルミニウム部材10の例で説明する。
【0116】
図5に示すように、前の工程(例えば、鏡面仕上げ工程あるいは脱膜工程)から走行してきたアルミニウム部材10は、複数のパスローラ24で形成された走行経路によって、電解槽22の電解液26中を電解槽22の長手方向一端側から他端側に走行し、電解槽22から搬出される。電解液26中を走行するアルミニウム部材10の下方には、複数枚の電極板28、28…がアルミニウム部材10に対向配置される。電極板28の数としては10〜200個の範囲が好ましい。
【0117】
そして、アルミニウム部材10を陽極とし、電極板28を陰極として陽極酸化反応が行われる。なお、図5では、電極板28の上方をアルミニウム部材10が走行するようにしたが、電極板28の下方をアルミニウム部材10が走行するように構成配置してもよい。
【0118】
また、電解槽22の長手方向一端側には電解液26の吐出部30が設けられると共に、長手方向他端側には電解液26の排出部32が設けられる。そして、図5から分かるように、吐出部30はアルミニウム部材10の走行方向から見た下流端位置に設けられると共に、吐出部30には、オリフィス構造を有するオリフィスノズル30Aが設けられる。即ち、アルミニウム部材10の走行方向に対して電解液26はカウンターカレントの流れを形成する。
【0119】
これにより、陽極酸化反応がある程度進んで反応効率が低下し易いアルミニウム部材10の走行方向下流位置に、吐出部30からのフレッシュな電解液26を供給することができる。
【0120】
更には、吐出部30にオリフィスノズル30Aを設けたので、オリフィスノズル30Aから吐出される噴出流によって電解液26に乱流を発生させて、電解液26の流れが停滞し反応効率の低下要因である境界層26B(アルミニウム部材10の表面に形成される)を乱すことができる(図10(B)参照)。この結果、境界層26Bが吐出部30から噴出されたフレッシュな電解液26に更新される。
【0121】
したがって、電解槽22の上流側から下流側までの全ての陽極酸化処理の処理長L区間において高い反応効率を得ることができるので、従来に比べて処理時間を短縮することができる。
【0122】
なお、境界層26Bについては、後記するオリフィスノズル40(加速手段)のところで詳しく説明する。
【0123】
吐出部30と排出部32とは電解液26を循環させる循環配管34によって連通され、循環配管34には循環ポンプ36及び電解液26の濃度調整を行うタンク38が設けられる。これにより、吐出部30からは一定濃度に濃度調整されたフレッシュな電解液26が一定の初期流速を有して電解槽22内に吐出される。吐出部30から吐出する電解液26の初期流速としては、レイノルズ数Reで3500以上になるようにすることが好ましい。
【0124】
また、吐出部30から吐出された電解液流れ方向から見て電解槽22の下流側、即ち排出部32側には、吐出部30から吐出された電解液流れの流速を加速するオリフィスノズル40(加速手段の一例)が設けられる。この場合、電解液流れ方向から見て、吐出部30と排出部32の中間よりも吐出部側を上流位置、排出部側を下流位置とすることが好ましい。電解槽22の処理長Lにもよるが、かかる下流位置において電解液26の流速低下に基づく反応効率の低下が発生し易いからである。
【0125】
図5において、オリフィスノズル40は下流位置の電解液流れ方向2箇所に配置した例で示してある。また、図6及び図7において、オリフィスノズル40は電解液流れの幅方向(電極板の幅方向及びアルミニウム部材の幅方向と同義)に3本配置した図で示してある。ただし、電解液流れ方向及び幅方向に配置するオリフィスノズル40の数は任意に設定することができる。
【0126】
図5に示すように、オリフィスノズル40は、前記した循環配管34の循環ポンプ36吐出側に枝配管42を介して接続されると共に、循環配管34及び枝配管42には、吐出部30及びオリフィスノズル40への電解液26の送液量を調整するバルブ44A,44B,44Cがそれぞれ設けられる。これにより、吐出部30から電解液26が噴出流(ジェット流)として噴出されると共に、オリフィスノズル40からも電解液26が噴出流(ジェット流)として吐出される。
【0127】
図8は吐出部30に設けたオリフィスノズル30A及びオリフィスノズル40の構造の一例を示す断面図であり、オリフィスノズル40の例で説明する。図8に示すように、円筒形のノズル本体40A内の同一軸線上に、枝配管42からの電解液26を供給する供給路40B、オリフィス40C、及び噴出路40Dが形成される。また、噴出路40D側のノズル本体40Aには複数の吸込口40Eが形成され、オリフィス40Cから噴出された電解液26によって吸込口40Eが負圧になる。これにより、オリフィスノズル40周囲の電解液26が噴出路40Dに吸い込まれ、吸い込んで増量した電解液26が噴出路40D先端から電解槽22中に噴出される。これにより、吐出部30から噴出され、電解槽22の下流側で流速の低下した電解液26を加速することができる。
【0128】
図9(A)はオリフィスノズル40を供給路40B側から見た図であり、図9(B)は供給路40Bの孔径Dに対するオリフィス40Cの孔径dで表す絞り直径比(d/D)示す横断面図である。d/Dが小さい方がオリフィスノズル40から噴出される噴出流によって電解液26に強い乱流を発生させることができるが、圧力損失も大きくなり循環ポンプ36に大きな能力を要する。したがって、d/Dは0.2〜0.7の範囲に設定することが好ましい。なお、吐出部30に設けたオリフィスノズル30Aの場合も同様である。
【0129】
このように、吐出部30から噴出された電解液流れ方向から見た電解槽22の下流側に、吐出部30から吐出された電解液26の流速を加速するオリフィスノズル40を設けたので、処理長Lの長い電解槽22であっても下流側において電解液26の流速が低下するのを効果的に抑制できる。
【0130】
電解槽22の下流側において、オリフィスノズル40を設ける位置は、予備試験等により、吐出部30からの初期流速が所定率減少する位置(例えば50%減少)を配置位置として決定することができる。
【0131】
また、図5に示すように、吐出部30の近傍に電解液26の初期流速を測定する第1の流速測定手段46を設けると共に、排出部32の近傍に排出部32から排出される電解液26の終期流速を測定する第2の流速測定手段48を設ける。そして、制御手段50が第1及び第2の流速測定手段46、48の測定結果に基づいてオリフィスノズル40を制御することが好ましい。
【0132】
制御手段50での制御方法としては例えば、初期流速と終期流速とが同等になるようにオリフィスノズル40を制御して、下流側の電解液流れを加速する。電解液流れを加速する度合いは、上記した絞り直径比(d/D)、オリフィスノズル40に供給する電解液26の供給量(バルブ44B,44Cの調整)、オリフィスノズル40の配置位置及び本数等を変えることにより調整できる。また、図5のように、電解液の流れ方向にオリフィスノズル40を2段設け、電解液流れを2段加速するようにしてもよい。オリフィスノズル40を何段設けるかは任意に設定できる。
【0133】
図10(A)は、オリフィスノズル40を設けた場合における電解槽22下流側での電解液26の流速分布を示す模式図であり、図10(B)は、オリフィスノズル40を設けない場合の模式図である。
【0134】
図10(B)に示すように、電解槽22下流側において電解液流れの流速が低下することによって、特に流動抵抗の大きなアルミニウム部材10の表面近傍の流れが小さくなる。これにより、アルミニウム部材10表面と電解液本流26Aとの間に、流れが停滞した境界層26Bが形成される。この境界層26Bによって、吐出部30から吐出されるフレッシュな電解液26の本流26Aがアルミニウム部材10面に到達しにくくなり、電解処理反応が遅くなる。
【0135】
これに対して、オリフィスノズル40を設けることで、図10(A)に示すように、電解槽下流側での流速が加速される。この結果、電解液本流26Aが乱流となるので、アルミニウム部材10表面に形成された境界層26Bを乱し、境界層26Bの電解液がフレッシュな本流26Aの電解液26と更新される。したがって、陽極酸化皮膜を形成する際に、電解槽22の下流側での反応効率が上流側に比べて低下しにくくなり、電解槽22の上流側から下流側までの全ての領域において高い反応効率を維持できる。したがって、吐出部30にオリフィスノズル30Aを設けたことと相俟って、処理時間を更に短縮することができる。
【0136】
この場合、上流位置と下流位置での電解液26の流速が同じであることが好ましく、レイノルズ数Reで3500以上になるようにすることが好ましい。
【0137】
また、図6及び図7に示すように、アルミニウム部材10と電極板28とで形成されるスペース41の両側を囲むように一対の側板52、52が設けられる。これにより、吐出部30から吐出された電解液26の流れがアルミニウム部材10の幅方向外側(単に、横方向と言うこともある)に逃げるのを防止できるので、反応効率を向上できる。特に、上記した電解槽22の下流側では電解液流れの流速が低下し易く、電解液26がアルミニウム部材10の幅方向外側に逃げ易くなる。したがって、吐出部30から排出部32の間の少なくとも下流位置に側板52を設けることが好ましい。
【0138】
図7に示すように、アルミニウム部材10から側板52までの距離Wは5〜50cmの範囲が好ましい。5cmより小さいと走行するアルミニウム部材10が側板52に接触する虞がある。また、50cmを超えて大きいと、電解液26の流れがアルミニウム部材10の幅方向外側に逃げるのを防止する効果が小さくなる。
【0139】
この場合、電極板28とアルミニウム部材10と一対の側板52とで囲まれたスペース41を流れる電解液の流速Vは、スペース41を流れる電解液の液量をQ,一対の側板52の離間距離をAH、アルミニウム部材10と電極板28との離間距離をDとしたときに、V=Q/(AH*D)で計算できる。
【0140】
また、図11に示すように、複数配列された電極板28同士の隙間には、電極板28との面が面一になるように整流板54を設けることが好ましい。これにより、電解液26の流れが電極板28同士の隙間から逃げることが抑制されるので、反応効率を向上することができる。
【0141】
なお、上記した側板52、及び整流板54として、超音波振動子を使用すると更に良い。これにより、アルミニウム部材10と電極板28との間を流れる電解液26に振動を与えて流れを乱すことができるので、一層反応効率を向上できる。
【0142】
なお、上記実施の形態では、加速手段としてオリフィスノズル40の例で説明したが、これに限定されず、電解液26の流速を加速できる部材又は装置であれば使用することができる。例えば、排出部32に吸引力を付与することで、電解槽22下流側の流速を上げるようにしてもよい。また、電解槽22の下流側にオリフィスノズル40を設けたが、更に吐出部30をオリフィス構造として、吐出部30から吐出する電解液流れの初期速度を高めるようにしてもよい。
【実施例1】
【0143】
(試験A)
次に、オリフィスノズル40の効果を確認する試験を行った。即ち、オリフィスノズル40を有する陽極酸化処理装置(本発明)と、オリフィスノズル40を有しない陽極酸化処理装置(従来法)と、を用いてアルミニウム部材10の表面に陽極酸化皮膜を形成する試験を行った。なお、オリフィスノズル40の効果を見る目的であるため、吐出部30から吐出する電解液の初期流速は同じになるようにした。
【0144】
〈試験条件〉
陽極酸化処理を下記の条件で実施すると共に、反応効率に影響のあると考えられる電解槽22の処理長L、吐出部30からの初期流速、アルミニウム部材10の走行速度、電極板28とアルミニウム部材10との距離については、複数の水準で行った。
【0145】
*電解槽:幅2m、高さ1m、長さ15mの長尺状の電解槽を使用し、処理長Lを5、10、15mの3水準で実施
*アルミニウム部材:板幅が1mのものを使用
*電極板の数:50個
*電流密度:10A/dm2
*電解液:濃度10質量%の硫酸
*吐出部からの初期流速:10、20、30cm/sの3水準で実施
*アルミニウム部材の走行速度:17、50、100、150、200m/minの5水準で実施
*電極板とアルミニウム部材との距離:5、10、15の3水準で実施
〈試験方法〉
本発明と従来法とについて、上記試験条件を同じにして陽極酸化処理を行ったときに、本発明と従来法とで、アルミニウム部材10表面に形成される陽極酸化皮膜の厚みがどのように異なるかを試験した。なお、陽極酸化皮膜の厚みは、図3(A),(B)におけるマイクロポア16の深さに比例するため、同じ処理時間であれば陽極酸化皮膜の厚みが厚いほど反応効率が良いことを意味する。
【0146】
また、本発明では、長さが15mの電解槽22の排出部32から5mの位置に、絞り直径比(d/D)が0.3のオリフィスノズル40を、アルミニウム部材10の幅方向に3本配置した。
【0147】
〈試験結果〉
試験結果を図12の表1に示す。
【0148】
表1に示されるように、試験1と12、試験2と13、試験3と14、試験4と15、試験5と16、試験6と17、試験7と18、試験8と19、試験9と20、試験10と21、試験11と22とが、オリフィスノズル40以外の試験条件が同じであり、対比可能である。
【0149】
表1の結果から分かるように、オリフィスノズル40を有する本発明の試験12〜22は、オリフィスノズル40を有しない従来法の試験1〜11に比べて、いずれも陽極酸化皮膜の厚みが厚くなった。これにより、陽極酸化皮膜を形成する際に、従来に比べて処理時間を短縮することができるので、短時間でマイクロポア16を有する微細構造体を製造できるだけでなく、電解槽22のコンパクト化を図ることができることが分かった。
【0150】
そして、この結果は、電解槽22の処理長L、吐出部30から吐出される電解液26の初期流速、アルミニウム部材10の走行速度、及び電極板28とアルミニウム部材10との距離を変えても変わらなかった。
【0151】
従来法の場合、処理長Lを長くしても、途中でアルミニウム部材10の幅方向外側に逃げる電解液26の液量が多くなり、境界層26Bへの電解液26の拡散が小さくなる。これにより、電解液流れ方向から見て電解槽22の下流側ほど陽極電解反応が進みにくくなるので、処理長Lを長くしても陽極酸化皮膜の厚みはさほど増加しない。
【0152】
更に、従来法の場合、アルミニウム部材10の走行速度を増すと、処理時間が短くなる分、陽極酸化皮膜の厚みが薄くなる。更には、電極板28とアルミニウム部材10との距離を狭くすると、電解液流れの流速は増す一方、横方向に逃げる電解液26の液量が増加するので、陽極酸化皮膜の厚みを厚くする要因にはならない。
【0153】
これに対して本発明では、吐出部30から吐出された電解液流れの流速が電解槽22の下流側で低下しても、オリフィスノズル40によって再度加速される。これにより、電解液26の本流26Aが乱流となり、境界層26Bに拡散される電解液26の拡散が大きくなる。この結果、電解槽22下流側の下流陽極酸化反応が促進され、電解槽22全体の反応効率が良くなるので、陽極酸化皮膜の厚みが従来法よりも厚くなる。
【0154】
また、電解液26の横方向の逃げは流速の低下し易い電解槽22の下流側で発生し易いが、オリフィスノズル40によって下流側の流速が加速され、流れ方向へのベクトルが大きくなるので、横方向へ逃げる電解液26の液量も減少する。
【0155】
(試験B)
試験Bでは、試験Aのオリフィスノズル40に加えて更に、側板52と整流板54とを用いた場合に、陽極酸化皮膜がどのようになるかを試験した。
【0156】
〈試験条件〉
側板52と整流板54以外の試験条件は本発明の試験12〜22と同様である。また、幅1mのアルミニウム部材10に対して、一対の側板52が1.2m離間して対向配置されるようにした。これにより、アルミニウム部材10と側板52との離間距離が10cmとなる。また、整流板54(振動子ではない)を図11のように、電極板28同士の間に面が面一になるように配置した。
【0157】
〈試験結果〉
試験結果を図13の表2に示す。
【0158】
表1の試験12〜22と、表2の試験12−1〜22−1とを対比すると、電解槽22の処理長Lが5mと短い場合(試験12−1)、電極板28とアルミニウム部材10との距離が5〜10cmと比較的狭く流速が速くなり易い場合(試験19−1〜22−1)では、側板52及び整流板54を設けた効果がでにくいが、試験13−1〜18−1のように処理長Lが10〜15mと長く、電極板28とアルミニウム部材10との距離が15cmと比較的広い場合には、側板52及び整流板54を設けた効果が明らかに認められた。
【0159】
特に、試験15−1のように、アルミニウム部材10の走行速度が17m/分と遅い場合には、側板52及び整流板54を設けない表1の試験15に比べて、陽極酸化皮膜の厚みが1.4μmも厚くなった。
【0160】
〈試験結果のまとめ〉
以上の試験A及び試験Bの結果から、次のことが分かった。
【0161】
(1)電解液流れから見て電解槽22の下流側にオリフィスノズル40を設けることにより、吐出部30から吐出され、下流側において流速が低下した電解液26の流れを再度加速することができるので、オリフィスノズル40を設けない場合に比べて陽極酸化皮膜の厚みを厚くできる。
【0162】
(2)アルミニウム部材10と電極板28との間のスペース41を囲むように、一対の側板52を対向配置すると共に、電極板28同士の間に整流板54を設けて、電解液流れが横方向に逃げたり、電極板28の隙間から逃げたりするのを防止することができる。この結果、オリフィスノズル40と相俟って電解槽下流側での反応効率の低下を一層防止できるので、側板や整流板がない場合に比べて陽極酸化皮膜の厚みを厚くできる。
【0163】
(3)電極板28とアルミニウム部材10との距離を狭くすると、電解液26が横方向に逃げ易くなるが、側板52を設けることで逃げを防止できる。したがって、側板52を設けた場合には、電極板28とアルミニウム部材10との距離を狭くして反応効率を上げることが可能となる。
【0164】
(4)なお、本実施例では記載しなかったが、吐出部30にオリフィスノズル30Aを設けて電解液26を噴出流(ジェット流)として吐出することにより、電解液26の流れに渦流が発生し、電解液26の明らかな乱れが観察された。
【符号の説明】
【0165】
10…アルミニウム部材、12…窪み、14…陽極酸化皮膜、16…マイクロポア、18…微細構造体、20…陽極酸化処理装置、22…電解槽、24…パスローラ、26…電解液、28…電極板、30…吐出部、30A…オリフィスノズル、32…排出部、34…循環配管、36…循環ポンプ、38…タンク、40…オリフィスノズル、42…枝配管、44…バルブ、46…第1の流速測定手段、48…第2の流速測定手段、50…制御手段、52…側板、54…整流板
【技術分野】
【0001】
本発明は陽極酸化処理装置及びその装置を用いた微細構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属および半導体の薄膜、細線、ドット等の技術領域では、ある特徴的な長さより小さいサイズにおいて自由電子の動きが閉じ込められることにより、電気的、光学的および化学的に特異な現象が見られることが知られている。このような現象は「量子力学的サイズ効果(量子サイズ効果)」と呼ばれている。このような特異な現象を応用した機能性材料の研究開発が、現在、盛んに行なわれている。具体的には、数百nmより微細な構造を有する材料が、「微細構造体」または「ナノ構造体」と称されており、材料開発の対象の一つとされている。
【0003】
こうした微細構造体の製造方法としては、例えば、フォトリソグラフィ、電子線露光、X線露光等の微細パターン形成技術を初めとする半導体加工技術によって直接的にナノ構造体を製造する方法が挙げられる。
【0004】
中でも、規則的な微細構造を有する微細構造体を作製する方法についての研究が注目され、多く行われている。例えば、自己規制的に規則的な構造が形成される方法として、電解液中でアルミニウムに陽極酸化処理を施して得られる陽極酸化アルミナ膜(陽極酸化皮膜)が挙げられる。陽極酸化皮膜には、数nm程度から数百nm程度の直径を有する複数の微細孔(マイクロポア)が規則的に形成されることが知られている。この陽極酸化皮膜の自己規則化を用い、完全に規則的な配列を得ると、理論的には、マイクロポアを中心に底面が正六角形である六角柱のセルが形成され、隣接するマイクロポアを結ぶ線が正三角形を成すことが知られている。
【0005】
このようなマイクロポアを有する陽極酸化皮膜の用途例としては、平版印刷版のアルミニウム支持体、光機能性ナノデバイス、磁気デバイス、発光担体、触媒担持体等が知られている。例えば、特許文献1には、ポアを金属で封孔し局在プラズモン共鳴を発生させてラマン分光分析用装置へ応用する旨が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、表面に細孔を有し、該細孔に、陽極酸化と孔径拡大処理を組み合わせることで、連続的に細孔径が変化するテーパー形状を付与した陽極酸化ポーラスアルミナを製造することが記載されている。
【0007】
このようなマイクロポアを形成させる陽極酸化処理の前には、陽極酸化処理のマイクロポアの生成の起点となる窪みを形成させておく方法が知られている。このような窪みを形成させることにより、マイクロポアの配列およびポア径のばらつきを所望の範囲に制御することが容易となる。
【0008】
窪みを形成させる一般的な方法として、陽極酸化皮膜の自己規則性を利用した自己規則化法が知られている。これは陽極酸化皮膜のマイクロポアが規則的に配列する性質を利用し、規則的な配列をかく乱する要因を取り除くことで、規則性を向上させる方法である。
【0009】
この自己規則化法は、特許文献1に記載されているように、一度陽極酸化処理(プレ陽極酸化処理)した後、リン酸および6価クロム酸の混合水溶液への浸漬処理を施し、再度陽極酸化処理(本陽極酸化処理)を順に行うのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−307341号公報
【特許文献2】特開2005−156695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、陽極酸化処理、特に低速で行うプレ陽極酸化処理は処理時間に長時間(例えば数時間から十数時間)を要しており、処理時間の短縮が微細構造体の製造方法の製造効率を上げる上で重要な課題となっている。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、陽極酸化皮膜を形成する際に、従来に比べて処理時間を短縮することができるので、効率的にマイクロポアを有する構造体を形成できるだけでなく、電解槽のコンパクト化を図ることができる陽極酸化処理装置及びその装置を用いた微細構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明に係る陽極酸化処理装置は、電解槽の長手方向に沿って電解液中を連続走行するウェブ状金属板に陽極酸化皮膜を形成する装置であって、前記ウェブ状金属板の走行方向に沿って電極板が配置されると共に、前記長手方向一端側の吐出部から前記ウェブ状金属板と前記電極板との間に電解液を吐出し、前記電解槽の長手方向他端側の排出部から電解液を排出することにより電解液の流れを形成する陽極酸化処理装置において、前記吐出部を、前記ウェブ状金属板の走行方向から見た下流端位置に設けると共に、前記吐出部に、オリフィス構造を備えたオリフィスノズルを有する。
【0014】
本発明によれば、吐出部を、ウェブ状金属板の走行方向から見た下流端位置に設けると共に、吐出部に、オリフィス構造を備えたオリフィスノズルを有するので、陽極酸化反応がある程度進んで反応効率が低下し易いウェブ状金属板走行方向の下流位置に、吐出部からのフレッシュな電解液を供給することができる。
【0015】
更には、吐出部にオリフィスノズルを有するようにしたので、オリフィスノズルから吐出される噴出流によって電解液に乱流を発生させて、電解液の流れが停滞し反応効率の低下要因である境界層(ウェブ状金属板表面に形成される)を乱すことができる。
【0016】
これにより、電解槽の上流側から下流側までの全ての陽極酸化処理の処理長区間において高い反応効率を得ることができるので、従来に比べて処理時間を短縮することができる。
【0017】
なお、ウェブ状金属板の走行方向から見た下流端位置は、電解液の流れ方向から見た場合には上流端位置になる。即ち、電解液は、ウェブ状金属板の走行方向に対してカウンターカレントの流れを形成する。
【0018】
本発明の陽極酸化処理装置においては、前記電解液の流れ方向から見た下流側に、前記電解液流れの流速を加速する加速手段を設けることが好ましい。なお、電解液の流れ方向から見た下流側は、ウェブ状金属板の走行方向から見た場合には上流側になる。
【0019】
このように、吐出部から吐出された電解液流れ方向から見た下流側に、電解液の流速を加速する加速手段を設けたので、処理長の長い電解槽であっても電解槽の電解液流れ方向下流側における電解液の流速が低下することを効果的に抑制できる。
【0020】
これにより、電解槽の電解液流れ方向下流側、即ち排出部側においても、電解液に乱流を発生させることができるので、排出部側の境界層がフレッシュな電解液に更新される。したがって、電解槽の上流側から下流側までの全ての処理長区間において更に高い反応効率を得ることができるので、処理時間を一層短縮することができる。
【0021】
電解槽を流れる電解液の流速としては、レイノルズ数Reで3500以上になるようにすることが好ましい。したがって、吐出部からはオリフィスノズルによってReで3500以上となる初期流速で電解液を吐出すると共に、電解槽の下流側においても加速手段によってReで3500以上となる流速に加速することが好ましい。
【0022】
本発明の陽極酸化処理装置においては、前記下流側は、前記吐出部と前記排出部の中間よりも排出部側であることが好ましい。このような下流位置において、電解液流れの流速の低減にともなう反応効率の低下が顕著であり、処理時間を長くする原因だったからである。
【0023】
本発明の陽極酸化処理装置においては、前記加速手段はオリフィスノズルであることが好ましい。なお、加速手段としては、電解液の流れを加速できるものであればよく、例えば排出部に吸引力を付与することにより、下流位置での流速を加速する手段も使用できる。
【0024】
本発明の陽極酸化処理装置においては、前記加速手段は、前記吐出部から吐出された電解液の初期流速と、前記排出部近傍の電解液の終期流速とが同等になるように前記下流側の電解液の流速を加速することが好ましい。
【0025】
これにより、電解槽の上流から下流にかけて一定の反応効率で行うことができ、従来に比べて処理時間を短縮することができるだけでなく、反応の均一化をも図ることができる。
【0026】
本発明の陽極酸化処理装置においては、前記吐出部をオリフィス構造とすることにより、前記吐出部から吐出される初期流速を上げることが好ましい。
【0027】
吐出部から吐出される初期流速を上げることによっても反応効率を向上でき、下流側に設けた加速手段と相俟って処理時間の一層の短縮を図ることができる。
【0028】
本発明の陽極酸化処理装置においては、前記吐出部近傍に設けられ、前記吐出部から吐出された電解液の初期流速を測定する第1の流速測定手段と、前記排出部近傍に設けられ、前記排出部から排出される電解液の終期流速を測定する第2の流速測定手段と、前記第1及び第2の流速測定手段の測定結果に基づいて前記加速手段を制御する制御手段と、を備えることが好ましい。
【0029】
このように、初期流速と終期流速を実際に測定し、測定結果に基づいて加速手段を制御することで、下流側における電解液の流速が落ちないように精度よく制御できるので、反応効率の一層の向上を図ることができる。
【0030】
本発明の陽極酸化処理装置においては、前記ウェブ状金属板と電極板との間のスペースを囲むように、一対の側板が対向配置されていることが好ましい。
【0031】
電解液の流速が低下する領域では、電解液流れが横方向に逃げ易くなり、反応効率の低下要因となる。したがって、ウェブ状金属板と電極板との間のスペースを囲むように、一対の側板を対向配置し、電解液流れが横方向に逃げるのを防止すれば、加速手段と相俟って下流側での反応効率の低下を一層防止できる。
【0032】
本発明の陽極酸化処理装置においては、前記電極板が前記吐出部から前記排出部の間に複数枚離間配置されると共に、該離間隙間に、前記電極板の面と面一になるように整流板を配置することが好ましい。
【0033】
電解処理長の長い電解槽では、電極板が吐出部から排出部の間に複数枚離間配置されることが通常であり、この電極板同士の離間スペースから電解液の流れが逃げ易くなり、反応効率低下の一因となる。したがって、本発明では、離間スペースに整流板を配置したので、電解効率の低下を防止できる。
【0034】
この場合、側板と整流板との少なくとも1つを振動部材で構成することが好ましい。側板と整流板とを振動させることにより、電解液の流れを乱して上記した境界層を破壊し易くなるので、反応効率を一層向上できる。
【0035】
本発明の陽極酸化処理装置においては、前記電解槽の陽極酸化処理の処理長は10m以上であることが好ましい。電解槽の処理長が長くなればなるほど、下流側での電解液流れの流速が低下し易くなり、反応効率を向上する上で本発明が特に有効だからである。
【0036】
前記目的を達成するために、本発明に係る微細構造体の製造方法は、アルミニウム部材の表面にマイクロポアが存在する陽極酸化皮膜を有する微細構造体の製造方法において、請求項1〜10の何れか1の陽極酸化処理装置を用いて、前記アルミニウム部材の表面に陽極酸化処理を施して前記マイクロポアを形成する。
【0037】
本発明の微細構造体の製造方法によれば、請求項1〜10の何れか1の陽極酸化処理装置を用いて、前記アルミニウム部材の表面に陽極酸化処理を施して前記マイクロポアを形成するようにしたので、処理時間の短縮を図ることができる。
【0038】
本発明の微細構造体の製造方法においては、前記陽極酸化処理は、前記アルミニウム部材の表面に低速で陽極酸化皮膜を形成して前記表面に自己規則化による窪みを形成するプレ陽極酸化処理工程と、前記プレ陽極酸化処理工程で形成した陽極酸化皮膜を脱膜する脱膜工程と、その後に、前記アルミニウム部材に再び陽極酸化処理を施して、前記窪みの位置に前記マイクロポアを有する陽極酸化皮膜を形成する本陽極酸化処理工程と、を少なくとも有し、前記プレ陽極酸化処理工程及び前記本陽極酸化処理工程のうちの少なくともプレ陽極酸化処理工程を、請求項1〜10の何れか1の陽極酸化処理装置を用いて行うことが好ましい。
【0039】
プレ陽極酸化処理は規則的な窪みを形成するために低速な陽極酸化処理が必要で、長時間の処理時間を必要とするが、本発明の陽極酸化処理装置を用いることで、顕著な時間短縮を図ることができると共に、規則的な窪みを形成することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明の陽極酸化処理装置及びその装置を用いた微細構造体の製造方法によれば、陽極酸化皮膜を形成する際に、従来に比べて電解時間を短縮することができるので、短時間でマイクロポアを有する構造体を形成できるだけでなく、電解槽のコンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】微細構造体の製造方法のステップを示すブロック図
【図2】プレ陽極酸化処理工程によって窪みを形成した図
【図3】本陽極酸化処理工程によってマイクロポアを形成した図
【図4】規則化率を説明する図
【図5】本発明の実施の形態の陽極酸化処理装置の側面断面図
【図6】陽極酸化処理装置を上から見た平面図
【図7】陽極酸化処理装置の正面断面図
【図8】水中噴射ノズルを説明する断面図
【図9】水中噴射ノズルの供給路とオリフィスの孔径を説明する図
【図10】水中噴射ノズルの有る無と、境界層との関係を示す図
【図11】整流板を説明する図
【図12】実施例の試験Aにおける試験条件及び結果を示す表図
【図13】実施例の試験Bにおける試験条件及び結果を示す表図
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下添付図面に従って、本発明に係る陽極酸化処理装置及びその装置を用いた微細構造体の製造方法の好ましい実施の形態について詳述する。
【0043】
[微細構造体の製造方法]
図1にしたがって、微細構造体の製造方法のステップを説明する。
【0044】
<アルミニウム部材>
アルミニウム部材とは、少なくとも部材表面にアルミニウム表面を有する部材を言う。
【0045】
アルミニウム表面を有する部材は、特に限定されず、例えば、純度99.9%以上の高純度アルミニウム基板、低純度のアルミニウム(例えば、リサイクル材料)に純度99.9%以上の高純度アルミニウムを蒸着させた基板等のアルミニウム基板;シリコンウエハー、石英、ガラス等の表面に蒸着、スパッタ等の方法により高純度アルミニウムを被覆させた基板;アルミニウムをラミネートした樹脂基板が挙げられる。
【0046】
アルミニウム部材のうち、陽極酸化処理により陽極酸化皮膜を設ける表面は、アルミニウム純度が、99.5質量%以上であるのが好ましく、99.80質量%以上であることがより好ましく、また、99.99質量%未満であるのが好ましく、99.95質量%以下であるのがより好ましい。アルミニウム純度が99.5質量%以上であると、ポア配列の規則性が十分となり、99.99質量%未満であると安価に製造することができる。
【0047】
アルミニウム部材の表面は、あらかじめ脱脂処理工程(ステップ1)および鏡面仕上げ処理工程(ステップ2)を施されるのが好ましい。
【0048】
<脱脂処理工程>
脱脂処理工程は、酸、アルカリ、有機溶剤等を用いて、アルミニウム部材表面に付着した有機成分(主に脂分)等を溶解させて除去することを目的として行われる。脱脂処理には、従来公知の脱脂剤を用いることができる。具体的には、例えば、市販されている各種脱脂剤を所定の方法で用いることにより行うことができる。また、pH10〜13、温度30〜50℃程度の水酸化ナトリウム水溶液、pH1〜4、温度40〜70℃程度の硫酸水溶液等に、アルミニウム表面から気泡がわずかに発生する程度の時間、アルミニウム部材を浸せきさせることによっても行うことができる。
【0049】
好ましい脱脂処理としては、アルミニウム部材をアセトンで洗浄した後、pH4、温度50℃の硫酸に浸せきさせる方法が例示される。この方法によれば、アルミニウム部材表面の脂分が除去される一方で、アルミニウムの溶解がほとんど起こらないので好ましい。
【0050】
中でも、以下の各方法が好適に例示される。
【0051】
*各種アルコール、各種ケトン、ベンジン、揮発油等の有機溶剤を常温でアルミニウム部材表面に接触させる方法(有機溶剤法)。
【0052】
*石けん、中性洗剤等の界面活性剤を含有する液を常温から80℃までの温度でアルミニウム部材表面に接触させ、その後、水洗する方法(界面活性剤法)。
【0053】
*濃度10〜200g/Lの硫酸水溶液を常温から70℃までの温度でアルミニウム部材表面に30〜80秒間接触させ、その後、水洗する方法;濃度5〜20g/Lの水酸化ナトリウム水溶液を常温でアルミニウム表面に30秒間程度接触させつつ、アルミニウム部材表面を陰極にして電流密度1〜10A/dm2の直流電流を流して電解し、その後、濃度100〜500g/Lの硝酸水溶液を接触させて中和する方法。
【0054】
*各種公知の陽極酸化処理用電解液を常温でアルミニウム部材表面に接触させつつ、アルミニウム部材表面を陰極にして電流密度1〜10A/dm2の直流電流を流して、または、交流電流を流して電解する方法。
【0055】
*濃度10〜200g/Lのアルカリ水溶液を40〜50℃でアルミニウム部材表面に15〜60秒間接触させ、その後、濃度100〜500g/Lの硝酸水溶液を接触させて中和する方法。
【0056】
*軽油、灯油等に界面活性剤、水等を混合させた乳化液を常温から50℃までの温度でアルミニウム部材表面に接触させ、その後、水洗する方法(乳化脱脂法)。
【0057】
*炭酸ナトリウム、リン酸塩類、界面活性剤等の混合液を常温から50℃までの温度でアルミニウム部材表面に30〜180秒間接触させ、その後、水洗する方法(リン酸塩法)。
【0058】
脱脂処理は、アルミニウム部材表面の脂分を除去しうる一方で、アルミニウムの溶解がほとんど起こらない方法が好ましい。この点で、有機溶剤法、界面活性剤法、乳化脱脂法、リン酸塩法が好ましい。
【0059】
<鏡面仕上げ処理工程>
鏡面仕上げ処理工程は、アルミニウム部材の表面の凹凸をなくして、電着法等による封孔処理の均一性や再現性を向上させるために行われる。アルミニウム部材の表面の凹凸としては、例えば、アルミニウム部材が圧延を経て製造されたものである場合における、圧延時に発生した圧延筋が挙げられる。
【0060】
本実施の形態において、鏡面仕上げ処理工程は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、機械研磨、化学研磨、電解研磨が挙げられる。
【0061】
機械研磨としては、例えば、各種市販の研磨布で研磨する方法、市販の各種研磨剤(例えば、ダイヤ、アルミナ)とバフとを組み合わせた方法が挙げられる。具体的には、研磨剤を用いる方法を、用いる研磨剤を粗い粒子から細かい粒子へと経時的に変更して行う方法が好適に例示される。この場合、最終的に用いる研磨剤としては、#1500のものが好ましい。これにより、光沢度を50%以上(圧延アルミニウムである場合、その圧延方向および幅方向ともに50%以上)とすることができる。
【0062】
化学研磨としては、例えば、「アルミニウムハンドブック」,第6版,(社)日本アルミニウム協会編,2001年,p.164−165に記載されている各種の方法が挙げられる。
【0063】
また、リン酸−硝酸法、Alupol I、Alupol V、Alcoa R5、H3PO4−CH3COOH−Cu法、H3PO4−HNO3−CH3COOH法が好適に挙げられる。 中でも、リン酸−硝酸法、H3PO4−CH3COOH−Cu法、H3PO4−HNO3−CH3COOH法が好ましい。
【0064】
化学研磨により、光沢度を70%以上(圧延アルミニウムである場合、その圧延方向および幅方向ともに70%以上)とすることができる。
【0065】
電解研磨としては、例えば、「アルミニウムハンドブック」,第6版,(社)日本アルミニウム協会編,2001年,p.164−165に記載されている各種の方法が挙げられる。
【0066】
また、米国特許第2708655号明細書に記載されている方法が好適に挙げられる。
また、「実務表面技術」,vol.33,No.3,1986年,p.32−38に記載されている方法も好適に挙げられる。
【0067】
電解研磨により、光沢度を70%以上(圧延アルミニウムである場合、その圧延方向および幅方向ともに70%以上)とすることができる。
【0068】
これらの方法は、適宜組み合わせて用いることができる。例えば、研磨剤を用いる方法を、用いる研磨剤を粗い粒子から細かい粒子へと経時的に変更して行い、その後、電解研磨を施す方法が好適に挙げられる。
【0069】
鏡面仕上げ処理により、例えば、平均表面粗さRa0.1μm以下、光沢度50%以上の表面を得ることができる。平均表面粗さRaは、0.03μm以下であるのが好ましく、0.02μm以下であるのがより好ましい。また、光沢度は70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましい。
【0070】
なお、光沢度は、圧延方向に垂直な方向において、JIS Z8741−1997の「方法3 60度鏡面光沢」の規定に準じて求められる正反射率である。具体的には、変角光沢度計(例えば、VG−1D、日本電色工業社製)を用いて、正反射率70%以下の場合には入反射角度60度で、正反射率70%を超える場合には入反射角度20度で、測定する。
【0071】
<プレ陽極酸化処理工程(窪み形成)>
アルミニウム表面を有する部材の表面にマイクロポアを形成させる陽極酸化処理(以下「本陽極酸化処理」ともいう。)の前に、本陽極酸化処理のマイクロポアの生成の起点となる窪みを形成させておく方法が好ましい。このような窪みを形成させることにより、後述するマイクロポアの配列およびポア径のばらつきを所望の範囲に制御することが容易となる。
【0072】
窪みを形成させる方法は、自己規則化法、物理的方法、粒子線法、ブロックコポリマー法、レジスト干渉露光法が特に限定されないが、ここでは、陽極酸化皮膜の自己規則性を利用したプレ陽極酸化処理工程(ステップ3)について説明する。
【0073】
<自己規則化法によるプレ陽極酸化処理工程>
自己規則化法は、陽極酸化皮膜のマイクロポアが規則的に配列する性質を利用し、本陽極酸化処理工程の前にプレ陽極酸化処理を行う工程であり、規則的な配列を攪乱する要因を取り除くことで、規則性を向上させる方法である。具体的には、高純度のアルミニウムを使用し、電解液の種類に応じた電圧で、長時間(例えば、数時間から十数時間)かけて、低速で陽極酸化皮膜を形成させるプレ陽極酸化処理を行い、その後、脱膜処理工程(ステップ4)を行う。
【0074】
この方法においては、ポア径は電圧に依存するので、電圧を制御することにより、ある程度所望のポア径を得ることができる。
【0075】
自己規則化法の代表例としては、J.Electrochem.Soc.Vol.144,No.5,May 1997,p.L128(非特許文献6)、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.35(1996)Pt.2,No.1B,L126(非特許文献7)、Appl.Phys.Lett,Vol.71,No.19,10 Nov 1997,p.2771(非特許文献8)、上記非特許文献1が知られている。
【0076】
これらの公知文献に記載されている方法は、高純度の材料を用い、電解液に応じた特定の電圧で、比較的低温で長時間処理を施しているところに技術的特徴がある。具体的には、いずれもアルミニウム純度99.99質量%以上の材料を用いており、以下に示される条件で、自己規則化法を行っている。
【0077】
0.3mol/L硫酸、0℃、27V、450分(非特許文献6)
0.3mol/L硫酸、10℃、25V、750分(非特許文献6)
0.3mol/Lシュウ酸、17℃、40〜60V、600分(非特許文献7)
0.04mol/Lシュウ酸、3℃、80V、膜厚3μm(非特許文献8)
0.3mol/Lリン酸、0℃、195V、960分(非特許文献8)
また、これらの公知文献に記載されている方法では、陽極酸化皮膜を溶解させて除去する脱膜処理工程に、50℃程度のクロム酸とリン酸の混合水溶液を用いて、12時間以上をかけている。なお、沸騰した水溶液を用いて処理すると、規則化の起点が破壊され、乱れるので、沸騰させないで用いる。
【0078】
自己規則化法による陽極酸化皮膜は、アルミニウム部分に近くなるほど規則性が高くなってくるので、一度脱膜して、アルミニウム部分に残存した陽極酸化皮膜の底部分を表面に出して、規則的な窪みを得る。したがって、脱膜処理工程においては、アルミニウムは溶解させず、酸化アルミニウムである陽極酸化皮膜のみを溶解させる。
【0079】
その結果、これらの公知文献に記載されている方法では、マイクロポアのポア径は種々異なるが、ポア径のばらつき(変動係数)は3%以下となっている。
【0080】
本実施の形態に用いられる自己規則化法によるプレ陽極酸化処理は、例えば、酸濃度1〜10質量%の溶液中で、アルミニウム部材を陽極として通電する方法を用いることができる。陽極酸化処理に用いられる溶液としては、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、アミドスルホン酸等を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0081】
自己規則化法によるプレ陽極酸化処理の条件は、使用される電解液によって種々変化するので一概に決定され得ないが、一般的には電解液濃度1〜30質量%、液温0〜20℃、電流密度0.1〜50A/dm2、電圧10〜200V、電解時間2〜20時間であるのが適当である。
【0082】
自己規則化法によるプレ陽極酸化皮膜の膜厚は、5〜100μmであるのが好ましく、10〜50μmであるのがより好ましい。
【0083】
本実施の形態においては、自己規則化法によるプレ陽極酸化処理は、1〜16時間であるのが好ましく、2〜12時間であるのがより好ましく、2〜7時間であるのが更に好ましい。
【0084】
また、脱膜処理は、0.5〜10時間であるのが好ましく、2〜10時間であるのがより好ましく、4〜10時間であるのが更に好ましい。
【0085】
このように、自己規則化法により、プレ陽極酸化皮膜を形成させた後、これを溶解させて除去し、再度、同一の条件で後述する本陽極酸化処理を行うと、ほぼ真っ直ぐなマイクロポアが、膜面に対してほぼ垂直に形成される。
【0086】
図2は、プレ陽極酸化処理工程によって、アルミニウム部材10表面に窪み12が形成された模式的な断面図である。図2に示されるように、アルミニウム部材10には、その表面に窪み12が形成されている。
【0087】
<本陽極酸化処理>
上述したように、プレ陽極酸化処理工程によってアルミニウム部材10表面に窪み12を形成した後、本陽極酸化処理工程(ステップ5)により、陽極酸化皮膜を形成させる。
【0088】
本陽極酸化処理工程は、従来公知の方法を用いることができるが、上述した自己規則化法によるプレ陽極酸化処理工程の条件と同一の条件で行われるのが好ましい。
【0089】
また、直流電圧を一定としつつ、断続的に電流のオンおよびオフを繰り返す方法、直流電圧を断続的に変化させつつ、電流のオンおよびオフを繰り返す方法も好適に用いることができる。これらの方法によれば、陽極酸化皮膜に微細なマイクロポアが生成するため、特に後工程で電着処理により封孔処理する場合に、均一性が向上する点で、好ましい。
【0090】
上述した電圧を断続的に変化させる方法においては、電圧を順次低くしていくのが好ましい。これにより、陽極酸化皮膜の抵抗を下げることが可能になり、後に電着処理を行う場合に、均一化することができる。
【0091】
本陽極酸化処理工程を低温で行うと、マイクロポアの配列が規則的になり、また、ポア径が均一になる。また、本陽極酸化処理工程を比較的高温で行うことにより、マイクロポアの配列を乱し、また、ポア径のばらつきを所定の範囲にすることが容易となる。また、処理時間によっても、ポア径のばらつきを制御することができる。
【0092】
陽極酸化皮膜の膜厚は、0.1〜1μmが好ましく、マイクロポアの平均ポア径が0.01〜0.5μmであることが、後工程で封孔処理を行う場合に好ましい態様の一つである。また、平均ポア密度は50〜1500個/μm2であるのが好ましい。
【0093】
マイクロポアの占める面積率は、20〜50%であるのが好ましい。
【0094】
マイクロポアの占める面積率は、アルミニウム表面の面積に対するマイクロポアの開口部の面積の合計の割合である。マイクロポアの占める面積率の算出においては、マイクロポアには、金属により封孔されているものもいないものも含まれる。具体的には、封孔処理前に表面空隙率を測定して求められる。
【0095】
図3は、アルミニウム部材10の表面にマイクロポア16が存在する陽極酸化皮膜14を有する微細構造体18の模式図である。図3(A)は、部分断面斜視図であり、図3(B)は、断面図である。図3に示されるように、アルミニウム部材10は、その表面に陽極酸化皮膜14を有し、陽極酸化皮膜14にはマイクロポア16が形成されている。
【0096】
<ポアワイド処理工程>
ポアワイド処理工程(ステップ6)は、本陽極酸化処理工程後、アルミニウム部材10を酸水溶液またはアルカリ水溶液に浸漬させることにより、陽極酸化皮膜14を溶解させ、マイクロポア16のポア径を拡大する処理である。
【0097】
これにより、マイクロポア16の配列の規則性およびポア径のばらつきを制御することが容易となる。
【0098】
ポアワイド処理工程に酸水溶液を用いる場合は、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸等の無機酸またはこれらの混合物の水溶液を用いることが好ましい。酸水溶液の濃度は1〜10質量%であるのが好ましい。酸水溶液の温度は、25〜40℃であるのが好ましい。
【0099】
ポアワイド処理工程にアルカリ水溶液を用いる場合は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも一つのアルカリの水溶液を用いることが好ましい。アルカリ水溶液の濃度は0.1〜5質量%であるのが好ましい。アルカリ水溶液の温度は、20〜35℃であるのが好ましい。
【0100】
具体的には、例えば、50g/L、40℃のリン酸水溶液、0.5g/L、30℃の水酸化ナトリウム水溶液または0.5g/L、30℃の水酸化カリウム水溶液が好適に用いられる。
【0101】
酸水溶液またはアルカリ水溶液への浸せき時間は、8〜60分であるのが好ましく、10〜50分であるのがより好ましく、15〜30分であるのが更に好ましい。
【0102】
<ポア径の変動係数>
このようにして得ることができる微細構造体18は、マイクロポア16のポア径の変動係数が5〜50%、好ましくは10〜20%である。ポア径の変動係数が上記範囲であると、後工程で例えば封孔処理行う場合に封孔の効率が高くなり、金属粒子が近接して存在するようになるため、局在プラズモン共鳴が大きくなる。
【0103】
ポア径の変動係数(CV:Coefficient of Variation)は、ポア径のばらつきの指標であり、下記式により定義される。
【0104】
(ポア径の変動係数)=(ポア径の標準偏差)/(ポア径の平均)
ポア径の変動係数を5〜50%にするには、マイクロポア16の配列の規則性の程度を制御して行うこともできる。
【0105】
配列の規則性の程度は、直線上に連続して存在するマイクロポア16の個数の平均値を指標として評価することができる。
【0106】
具体的には、直線上に連続して存在するマイクロポア16の個数の平均値が3個未満である場合には、ポア径の変動係数が50%以上となり、3個以上5個未満である場合には、20%以上50%未満となり、5個以上10個未満である場合には、15%以上20%未満となり、10個以上15個未満である場合には、10%以上15%未満となり、15個以上20個未満である場合には、5%以上10%未満となり、20個以上である場合には、5%未満となる。
【0107】
上述した本発明の微細構造体の製造方法により、微細構造体18が得られる。
【0108】
本実施の形態の微細構造体18は、平均ポア密度が50〜1500個/μm2であるのが好ましい。また、本実施の形態の微細構造体18は、マイクロポア16の占める面積率が20〜50%であるのが好ましい。更に、本実施の形態の微細構造体18は、マイクロポアについて下記式(1)により定義される規則化度が50%以上であるのが好ましい。
【0109】
規則化度(%)=B/A×100 (1)
上記式(1)中、Aは、測定範囲におけるマイクロポア16の全数を表す。Bは、一のマイクロポア16の重心を中心とし、他のマイクロポア16の縁に内接する最も半径が短い円を描いた場合に、その円の内部に前記一のマイクロポア16以外のマイクロポア16の重心を6個含むことになる前記一のマイクロポア16の測定範囲における数を表す。
【0110】
図4は、ポアの規則化度を算出する方法の説明図である。図4を用いて、上記式(1)をより具体的に説明する。
【0111】
図4(A)に示されるマイクロポア16−1は、マイクロポア16の重心を中心とし、他のマイクロポアの縁に内接する最も半径が短い円3(マイクロポア16−2に内接している。)を描いた場合に、円3の内部にマイクロポア16−1以外のマイクロポアの重心を6個含んでいる。したがって、マイクロポア16−1は、Bに算入される。
【0112】
図4(B)に示されるマイクロポア16−4は、マイクロポア16−4の重心を中心とし、他のマイクロポアの縁に内接する最も半径が短い円6(マイクロポア16−5に内接している。)を描いた場合に、円6の内部にマイクロポア16−4以外のマイクロポアの重心を5個含んでいる。したがって、マイクロポア16−4は、Bに算入されない。また、図4(B)に示されるマイクロポア16−7は、マイクロポア16−7の重心を中心とし、他のマイクロポアの縁に内接する最も半径が短い円9(マイクロポア16−8に内接している。)を描いた場合に、円9の内部にマイクロポア16−7以外のマイクロポアの重心を7個含んでいる。したがって、マイクロポア16−7は、Bに算入されない。
【0113】
かかる微細構造体18の製造において、陽極酸化処理、特に低速で行うプレ陽極酸化処理工程は処理時間に長時間(例えば数時間から十数時間)を要しており、時間短縮が微細構造体18の製造方法における重要な課題となっている。
【0114】
そこで、本発明の実施の形態では、上記したプレ陽極酸化処理工程、及び本陽極酸化処理工程において、下記に説明する陽極酸化処理装置を用いることによって、処理時間の短縮化を図ると共に、装置のコンパクト化を図るようにした。
【0115】
[陽極酸化処理装置]
図5は、本発明の実施の形態における陽極酸化処理装置20の全体構成であり、電解槽22を断面図で示してあり、後記する側板及び整流板は省略してある。図6は図5を上から見た平面図であり、ウェブ状金属板は省略してある。図7は、図6のA−A線に沿った断面図である。また、ウェブ状金属板としては帯状のアルミニウム部材10の例で説明する。
【0116】
図5に示すように、前の工程(例えば、鏡面仕上げ工程あるいは脱膜工程)から走行してきたアルミニウム部材10は、複数のパスローラ24で形成された走行経路によって、電解槽22の電解液26中を電解槽22の長手方向一端側から他端側に走行し、電解槽22から搬出される。電解液26中を走行するアルミニウム部材10の下方には、複数枚の電極板28、28…がアルミニウム部材10に対向配置される。電極板28の数としては10〜200個の範囲が好ましい。
【0117】
そして、アルミニウム部材10を陽極とし、電極板28を陰極として陽極酸化反応が行われる。なお、図5では、電極板28の上方をアルミニウム部材10が走行するようにしたが、電極板28の下方をアルミニウム部材10が走行するように構成配置してもよい。
【0118】
また、電解槽22の長手方向一端側には電解液26の吐出部30が設けられると共に、長手方向他端側には電解液26の排出部32が設けられる。そして、図5から分かるように、吐出部30はアルミニウム部材10の走行方向から見た下流端位置に設けられると共に、吐出部30には、オリフィス構造を有するオリフィスノズル30Aが設けられる。即ち、アルミニウム部材10の走行方向に対して電解液26はカウンターカレントの流れを形成する。
【0119】
これにより、陽極酸化反応がある程度進んで反応効率が低下し易いアルミニウム部材10の走行方向下流位置に、吐出部30からのフレッシュな電解液26を供給することができる。
【0120】
更には、吐出部30にオリフィスノズル30Aを設けたので、オリフィスノズル30Aから吐出される噴出流によって電解液26に乱流を発生させて、電解液26の流れが停滞し反応効率の低下要因である境界層26B(アルミニウム部材10の表面に形成される)を乱すことができる(図10(B)参照)。この結果、境界層26Bが吐出部30から噴出されたフレッシュな電解液26に更新される。
【0121】
したがって、電解槽22の上流側から下流側までの全ての陽極酸化処理の処理長L区間において高い反応効率を得ることができるので、従来に比べて処理時間を短縮することができる。
【0122】
なお、境界層26Bについては、後記するオリフィスノズル40(加速手段)のところで詳しく説明する。
【0123】
吐出部30と排出部32とは電解液26を循環させる循環配管34によって連通され、循環配管34には循環ポンプ36及び電解液26の濃度調整を行うタンク38が設けられる。これにより、吐出部30からは一定濃度に濃度調整されたフレッシュな電解液26が一定の初期流速を有して電解槽22内に吐出される。吐出部30から吐出する電解液26の初期流速としては、レイノルズ数Reで3500以上になるようにすることが好ましい。
【0124】
また、吐出部30から吐出された電解液流れ方向から見て電解槽22の下流側、即ち排出部32側には、吐出部30から吐出された電解液流れの流速を加速するオリフィスノズル40(加速手段の一例)が設けられる。この場合、電解液流れ方向から見て、吐出部30と排出部32の中間よりも吐出部側を上流位置、排出部側を下流位置とすることが好ましい。電解槽22の処理長Lにもよるが、かかる下流位置において電解液26の流速低下に基づく反応効率の低下が発生し易いからである。
【0125】
図5において、オリフィスノズル40は下流位置の電解液流れ方向2箇所に配置した例で示してある。また、図6及び図7において、オリフィスノズル40は電解液流れの幅方向(電極板の幅方向及びアルミニウム部材の幅方向と同義)に3本配置した図で示してある。ただし、電解液流れ方向及び幅方向に配置するオリフィスノズル40の数は任意に設定することができる。
【0126】
図5に示すように、オリフィスノズル40は、前記した循環配管34の循環ポンプ36吐出側に枝配管42を介して接続されると共に、循環配管34及び枝配管42には、吐出部30及びオリフィスノズル40への電解液26の送液量を調整するバルブ44A,44B,44Cがそれぞれ設けられる。これにより、吐出部30から電解液26が噴出流(ジェット流)として噴出されると共に、オリフィスノズル40からも電解液26が噴出流(ジェット流)として吐出される。
【0127】
図8は吐出部30に設けたオリフィスノズル30A及びオリフィスノズル40の構造の一例を示す断面図であり、オリフィスノズル40の例で説明する。図8に示すように、円筒形のノズル本体40A内の同一軸線上に、枝配管42からの電解液26を供給する供給路40B、オリフィス40C、及び噴出路40Dが形成される。また、噴出路40D側のノズル本体40Aには複数の吸込口40Eが形成され、オリフィス40Cから噴出された電解液26によって吸込口40Eが負圧になる。これにより、オリフィスノズル40周囲の電解液26が噴出路40Dに吸い込まれ、吸い込んで増量した電解液26が噴出路40D先端から電解槽22中に噴出される。これにより、吐出部30から噴出され、電解槽22の下流側で流速の低下した電解液26を加速することができる。
【0128】
図9(A)はオリフィスノズル40を供給路40B側から見た図であり、図9(B)は供給路40Bの孔径Dに対するオリフィス40Cの孔径dで表す絞り直径比(d/D)示す横断面図である。d/Dが小さい方がオリフィスノズル40から噴出される噴出流によって電解液26に強い乱流を発生させることができるが、圧力損失も大きくなり循環ポンプ36に大きな能力を要する。したがって、d/Dは0.2〜0.7の範囲に設定することが好ましい。なお、吐出部30に設けたオリフィスノズル30Aの場合も同様である。
【0129】
このように、吐出部30から噴出された電解液流れ方向から見た電解槽22の下流側に、吐出部30から吐出された電解液26の流速を加速するオリフィスノズル40を設けたので、処理長Lの長い電解槽22であっても下流側において電解液26の流速が低下するのを効果的に抑制できる。
【0130】
電解槽22の下流側において、オリフィスノズル40を設ける位置は、予備試験等により、吐出部30からの初期流速が所定率減少する位置(例えば50%減少)を配置位置として決定することができる。
【0131】
また、図5に示すように、吐出部30の近傍に電解液26の初期流速を測定する第1の流速測定手段46を設けると共に、排出部32の近傍に排出部32から排出される電解液26の終期流速を測定する第2の流速測定手段48を設ける。そして、制御手段50が第1及び第2の流速測定手段46、48の測定結果に基づいてオリフィスノズル40を制御することが好ましい。
【0132】
制御手段50での制御方法としては例えば、初期流速と終期流速とが同等になるようにオリフィスノズル40を制御して、下流側の電解液流れを加速する。電解液流れを加速する度合いは、上記した絞り直径比(d/D)、オリフィスノズル40に供給する電解液26の供給量(バルブ44B,44Cの調整)、オリフィスノズル40の配置位置及び本数等を変えることにより調整できる。また、図5のように、電解液の流れ方向にオリフィスノズル40を2段設け、電解液流れを2段加速するようにしてもよい。オリフィスノズル40を何段設けるかは任意に設定できる。
【0133】
図10(A)は、オリフィスノズル40を設けた場合における電解槽22下流側での電解液26の流速分布を示す模式図であり、図10(B)は、オリフィスノズル40を設けない場合の模式図である。
【0134】
図10(B)に示すように、電解槽22下流側において電解液流れの流速が低下することによって、特に流動抵抗の大きなアルミニウム部材10の表面近傍の流れが小さくなる。これにより、アルミニウム部材10表面と電解液本流26Aとの間に、流れが停滞した境界層26Bが形成される。この境界層26Bによって、吐出部30から吐出されるフレッシュな電解液26の本流26Aがアルミニウム部材10面に到達しにくくなり、電解処理反応が遅くなる。
【0135】
これに対して、オリフィスノズル40を設けることで、図10(A)に示すように、電解槽下流側での流速が加速される。この結果、電解液本流26Aが乱流となるので、アルミニウム部材10表面に形成された境界層26Bを乱し、境界層26Bの電解液がフレッシュな本流26Aの電解液26と更新される。したがって、陽極酸化皮膜を形成する際に、電解槽22の下流側での反応効率が上流側に比べて低下しにくくなり、電解槽22の上流側から下流側までの全ての領域において高い反応効率を維持できる。したがって、吐出部30にオリフィスノズル30Aを設けたことと相俟って、処理時間を更に短縮することができる。
【0136】
この場合、上流位置と下流位置での電解液26の流速が同じであることが好ましく、レイノルズ数Reで3500以上になるようにすることが好ましい。
【0137】
また、図6及び図7に示すように、アルミニウム部材10と電極板28とで形成されるスペース41の両側を囲むように一対の側板52、52が設けられる。これにより、吐出部30から吐出された電解液26の流れがアルミニウム部材10の幅方向外側(単に、横方向と言うこともある)に逃げるのを防止できるので、反応効率を向上できる。特に、上記した電解槽22の下流側では電解液流れの流速が低下し易く、電解液26がアルミニウム部材10の幅方向外側に逃げ易くなる。したがって、吐出部30から排出部32の間の少なくとも下流位置に側板52を設けることが好ましい。
【0138】
図7に示すように、アルミニウム部材10から側板52までの距離Wは5〜50cmの範囲が好ましい。5cmより小さいと走行するアルミニウム部材10が側板52に接触する虞がある。また、50cmを超えて大きいと、電解液26の流れがアルミニウム部材10の幅方向外側に逃げるのを防止する効果が小さくなる。
【0139】
この場合、電極板28とアルミニウム部材10と一対の側板52とで囲まれたスペース41を流れる電解液の流速Vは、スペース41を流れる電解液の液量をQ,一対の側板52の離間距離をAH、アルミニウム部材10と電極板28との離間距離をDとしたときに、V=Q/(AH*D)で計算できる。
【0140】
また、図11に示すように、複数配列された電極板28同士の隙間には、電極板28との面が面一になるように整流板54を設けることが好ましい。これにより、電解液26の流れが電極板28同士の隙間から逃げることが抑制されるので、反応効率を向上することができる。
【0141】
なお、上記した側板52、及び整流板54として、超音波振動子を使用すると更に良い。これにより、アルミニウム部材10と電極板28との間を流れる電解液26に振動を与えて流れを乱すことができるので、一層反応効率を向上できる。
【0142】
なお、上記実施の形態では、加速手段としてオリフィスノズル40の例で説明したが、これに限定されず、電解液26の流速を加速できる部材又は装置であれば使用することができる。例えば、排出部32に吸引力を付与することで、電解槽22下流側の流速を上げるようにしてもよい。また、電解槽22の下流側にオリフィスノズル40を設けたが、更に吐出部30をオリフィス構造として、吐出部30から吐出する電解液流れの初期速度を高めるようにしてもよい。
【実施例1】
【0143】
(試験A)
次に、オリフィスノズル40の効果を確認する試験を行った。即ち、オリフィスノズル40を有する陽極酸化処理装置(本発明)と、オリフィスノズル40を有しない陽極酸化処理装置(従来法)と、を用いてアルミニウム部材10の表面に陽極酸化皮膜を形成する試験を行った。なお、オリフィスノズル40の効果を見る目的であるため、吐出部30から吐出する電解液の初期流速は同じになるようにした。
【0144】
〈試験条件〉
陽極酸化処理を下記の条件で実施すると共に、反応効率に影響のあると考えられる電解槽22の処理長L、吐出部30からの初期流速、アルミニウム部材10の走行速度、電極板28とアルミニウム部材10との距離については、複数の水準で行った。
【0145】
*電解槽:幅2m、高さ1m、長さ15mの長尺状の電解槽を使用し、処理長Lを5、10、15mの3水準で実施
*アルミニウム部材:板幅が1mのものを使用
*電極板の数:50個
*電流密度:10A/dm2
*電解液:濃度10質量%の硫酸
*吐出部からの初期流速:10、20、30cm/sの3水準で実施
*アルミニウム部材の走行速度:17、50、100、150、200m/minの5水準で実施
*電極板とアルミニウム部材との距離:5、10、15の3水準で実施
〈試験方法〉
本発明と従来法とについて、上記試験条件を同じにして陽極酸化処理を行ったときに、本発明と従来法とで、アルミニウム部材10表面に形成される陽極酸化皮膜の厚みがどのように異なるかを試験した。なお、陽極酸化皮膜の厚みは、図3(A),(B)におけるマイクロポア16の深さに比例するため、同じ処理時間であれば陽極酸化皮膜の厚みが厚いほど反応効率が良いことを意味する。
【0146】
また、本発明では、長さが15mの電解槽22の排出部32から5mの位置に、絞り直径比(d/D)が0.3のオリフィスノズル40を、アルミニウム部材10の幅方向に3本配置した。
【0147】
〈試験結果〉
試験結果を図12の表1に示す。
【0148】
表1に示されるように、試験1と12、試験2と13、試験3と14、試験4と15、試験5と16、試験6と17、試験7と18、試験8と19、試験9と20、試験10と21、試験11と22とが、オリフィスノズル40以外の試験条件が同じであり、対比可能である。
【0149】
表1の結果から分かるように、オリフィスノズル40を有する本発明の試験12〜22は、オリフィスノズル40を有しない従来法の試験1〜11に比べて、いずれも陽極酸化皮膜の厚みが厚くなった。これにより、陽極酸化皮膜を形成する際に、従来に比べて処理時間を短縮することができるので、短時間でマイクロポア16を有する微細構造体を製造できるだけでなく、電解槽22のコンパクト化を図ることができることが分かった。
【0150】
そして、この結果は、電解槽22の処理長L、吐出部30から吐出される電解液26の初期流速、アルミニウム部材10の走行速度、及び電極板28とアルミニウム部材10との距離を変えても変わらなかった。
【0151】
従来法の場合、処理長Lを長くしても、途中でアルミニウム部材10の幅方向外側に逃げる電解液26の液量が多くなり、境界層26Bへの電解液26の拡散が小さくなる。これにより、電解液流れ方向から見て電解槽22の下流側ほど陽極電解反応が進みにくくなるので、処理長Lを長くしても陽極酸化皮膜の厚みはさほど増加しない。
【0152】
更に、従来法の場合、アルミニウム部材10の走行速度を増すと、処理時間が短くなる分、陽極酸化皮膜の厚みが薄くなる。更には、電極板28とアルミニウム部材10との距離を狭くすると、電解液流れの流速は増す一方、横方向に逃げる電解液26の液量が増加するので、陽極酸化皮膜の厚みを厚くする要因にはならない。
【0153】
これに対して本発明では、吐出部30から吐出された電解液流れの流速が電解槽22の下流側で低下しても、オリフィスノズル40によって再度加速される。これにより、電解液26の本流26Aが乱流となり、境界層26Bに拡散される電解液26の拡散が大きくなる。この結果、電解槽22下流側の下流陽極酸化反応が促進され、電解槽22全体の反応効率が良くなるので、陽極酸化皮膜の厚みが従来法よりも厚くなる。
【0154】
また、電解液26の横方向の逃げは流速の低下し易い電解槽22の下流側で発生し易いが、オリフィスノズル40によって下流側の流速が加速され、流れ方向へのベクトルが大きくなるので、横方向へ逃げる電解液26の液量も減少する。
【0155】
(試験B)
試験Bでは、試験Aのオリフィスノズル40に加えて更に、側板52と整流板54とを用いた場合に、陽極酸化皮膜がどのようになるかを試験した。
【0156】
〈試験条件〉
側板52と整流板54以外の試験条件は本発明の試験12〜22と同様である。また、幅1mのアルミニウム部材10に対して、一対の側板52が1.2m離間して対向配置されるようにした。これにより、アルミニウム部材10と側板52との離間距離が10cmとなる。また、整流板54(振動子ではない)を図11のように、電極板28同士の間に面が面一になるように配置した。
【0157】
〈試験結果〉
試験結果を図13の表2に示す。
【0158】
表1の試験12〜22と、表2の試験12−1〜22−1とを対比すると、電解槽22の処理長Lが5mと短い場合(試験12−1)、電極板28とアルミニウム部材10との距離が5〜10cmと比較的狭く流速が速くなり易い場合(試験19−1〜22−1)では、側板52及び整流板54を設けた効果がでにくいが、試験13−1〜18−1のように処理長Lが10〜15mと長く、電極板28とアルミニウム部材10との距離が15cmと比較的広い場合には、側板52及び整流板54を設けた効果が明らかに認められた。
【0159】
特に、試験15−1のように、アルミニウム部材10の走行速度が17m/分と遅い場合には、側板52及び整流板54を設けない表1の試験15に比べて、陽極酸化皮膜の厚みが1.4μmも厚くなった。
【0160】
〈試験結果のまとめ〉
以上の試験A及び試験Bの結果から、次のことが分かった。
【0161】
(1)電解液流れから見て電解槽22の下流側にオリフィスノズル40を設けることにより、吐出部30から吐出され、下流側において流速が低下した電解液26の流れを再度加速することができるので、オリフィスノズル40を設けない場合に比べて陽極酸化皮膜の厚みを厚くできる。
【0162】
(2)アルミニウム部材10と電極板28との間のスペース41を囲むように、一対の側板52を対向配置すると共に、電極板28同士の間に整流板54を設けて、電解液流れが横方向に逃げたり、電極板28の隙間から逃げたりするのを防止することができる。この結果、オリフィスノズル40と相俟って電解槽下流側での反応効率の低下を一層防止できるので、側板や整流板がない場合に比べて陽極酸化皮膜の厚みを厚くできる。
【0163】
(3)電極板28とアルミニウム部材10との距離を狭くすると、電解液26が横方向に逃げ易くなるが、側板52を設けることで逃げを防止できる。したがって、側板52を設けた場合には、電極板28とアルミニウム部材10との距離を狭くして反応効率を上げることが可能となる。
【0164】
(4)なお、本実施例では記載しなかったが、吐出部30にオリフィスノズル30Aを設けて電解液26を噴出流(ジェット流)として吐出することにより、電解液26の流れに渦流が発生し、電解液26の明らかな乱れが観察された。
【符号の説明】
【0165】
10…アルミニウム部材、12…窪み、14…陽極酸化皮膜、16…マイクロポア、18…微細構造体、20…陽極酸化処理装置、22…電解槽、24…パスローラ、26…電解液、28…電極板、30…吐出部、30A…オリフィスノズル、32…排出部、34…循環配管、36…循環ポンプ、38…タンク、40…オリフィスノズル、42…枝配管、44…バルブ、46…第1の流速測定手段、48…第2の流速測定手段、50…制御手段、52…側板、54…整流板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解槽の長手方向に沿って電解液中を連続走行するウェブ状金属板に陽極酸化皮膜を形成する装置であって、前記ウェブ状金属板の走行方向に沿って電極板が配置されると共に、前記長手方向一端側の吐出部から前記ウェブ状金属板と前記電極板との間に電解液を吐出し、前記電解槽の長手方向他端側の排出部から電解液を排出することにより電解液の流れを形成する陽極酸化処理装置において、
前記吐出部を、前記ウェブ状金属板の走行方向から見た下流端位置に設けると共に、前記吐出部に、オリフィス構造を備えたオリフィスノズルを有する陽極酸化処理装置。
【請求項2】
前記電解液の流れ方向から見た下流側に、前記電解液流れの流速を加速する加速手段を設けた請求項1に記載の陽極酸化処理装置。
【請求項3】
前記下流側は、前記吐出部と前記排出部の中間よりも排出部側である請求項2に記載の陽極酸化処理装置。
【請求項4】
前記加速手段はオリフィスノズルである請求項1又は2に記載の陽極酸化処理装置。
【請求項5】
前記加速手段は、前記吐出部から吐出された電解液の初期流速と、前記排出部近傍の電解液の終期流速とが同等になるように前記下流側の電解液の流速を加速する請求項2〜4の何れか1に記載の陽極酸化処理装置。
【請求項6】
前記吐出部近傍に設けられ、前記吐出部から吐出された電解液の初期流速を測定する第1の流速測定手段と、
前記排出部近傍に設けられ、前記排出部から排出される電解液の終期流速を測定する第2の流速測定手段と、
前記第1及び第2の流速測定手段の測定結果に基づいて前記加速手段を制御する制御手段と、を備えた請求項1〜5の何れか1に記載の陽極酸化処理装置。
【請求項7】
前記ウェブ状金属板と電極板との間のスペースを囲むように、一対の側板が対向配置されている請求項1〜6の何れか1に記載の陽極酸化処理装置。
【請求項8】
前記電極板が前記吐出部から前記排出部の間に複数枚離間配置されると共に、該離間隙間に、前記電極板の面と面一になるように整流板を配置した請求項1〜7の何れか1に記載の陽極酸化処理装置。
【請求項9】
前記側板と前記整流板との少なくとも1つを振動部材で構成した請求項8に記載の陽極酸化処理装置。
【請求項10】
前記電解槽の陽極酸化処理の処理長は10m以上である請求項1〜9の何れか1に記載の陽極酸化処理装置。
【請求項11】
アルミニウム部材の表面にマイクロポアが存在する陽極酸化皮膜を有する微細構造体の製造方法において、
請求項1〜10の何れか1の陽極酸化処理装置を用いて、前記アルミニウム部材の表面に陽極酸化処理を施して前記マイクロポアを形成する微細構造体の製造方法。
【請求項12】
前記陽極酸化処理は、
前記アルミニウム部材の表面に低速で陽極酸化皮膜を形成して前記表面に自己規則化による窪みを形成するプレ陽極酸化処理工程と、
前記プレ陽極酸化処理工程で形成した陽極酸化皮膜を脱膜する脱膜工程と、
その後に、前記アルミニウム部材に再び陽極酸化処理を施して、前記窪みの位置に前記マイクロポアを有する陽極酸化皮膜を形成する本陽極酸化処理工程と、を少なくとも有し、
前記プレ陽極酸化処理工程及び前記本陽極酸化処理工程のうちの少なくともプレ陽極酸化処理工程を、請求項1〜10の何れか1の陽極酸化処理装置を用いて行う請求項11に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項1】
電解槽の長手方向に沿って電解液中を連続走行するウェブ状金属板に陽極酸化皮膜を形成する装置であって、前記ウェブ状金属板の走行方向に沿って電極板が配置されると共に、前記長手方向一端側の吐出部から前記ウェブ状金属板と前記電極板との間に電解液を吐出し、前記電解槽の長手方向他端側の排出部から電解液を排出することにより電解液の流れを形成する陽極酸化処理装置において、
前記吐出部を、前記ウェブ状金属板の走行方向から見た下流端位置に設けると共に、前記吐出部に、オリフィス構造を備えたオリフィスノズルを有する陽極酸化処理装置。
【請求項2】
前記電解液の流れ方向から見た下流側に、前記電解液流れの流速を加速する加速手段を設けた請求項1に記載の陽極酸化処理装置。
【請求項3】
前記下流側は、前記吐出部と前記排出部の中間よりも排出部側である請求項2に記載の陽極酸化処理装置。
【請求項4】
前記加速手段はオリフィスノズルである請求項1又は2に記載の陽極酸化処理装置。
【請求項5】
前記加速手段は、前記吐出部から吐出された電解液の初期流速と、前記排出部近傍の電解液の終期流速とが同等になるように前記下流側の電解液の流速を加速する請求項2〜4の何れか1に記載の陽極酸化処理装置。
【請求項6】
前記吐出部近傍に設けられ、前記吐出部から吐出された電解液の初期流速を測定する第1の流速測定手段と、
前記排出部近傍に設けられ、前記排出部から排出される電解液の終期流速を測定する第2の流速測定手段と、
前記第1及び第2の流速測定手段の測定結果に基づいて前記加速手段を制御する制御手段と、を備えた請求項1〜5の何れか1に記載の陽極酸化処理装置。
【請求項7】
前記ウェブ状金属板と電極板との間のスペースを囲むように、一対の側板が対向配置されている請求項1〜6の何れか1に記載の陽極酸化処理装置。
【請求項8】
前記電極板が前記吐出部から前記排出部の間に複数枚離間配置されると共に、該離間隙間に、前記電極板の面と面一になるように整流板を配置した請求項1〜7の何れか1に記載の陽極酸化処理装置。
【請求項9】
前記側板と前記整流板との少なくとも1つを振動部材で構成した請求項8に記載の陽極酸化処理装置。
【請求項10】
前記電解槽の陽極酸化処理の処理長は10m以上である請求項1〜9の何れか1に記載の陽極酸化処理装置。
【請求項11】
アルミニウム部材の表面にマイクロポアが存在する陽極酸化皮膜を有する微細構造体の製造方法において、
請求項1〜10の何れか1の陽極酸化処理装置を用いて、前記アルミニウム部材の表面に陽極酸化処理を施して前記マイクロポアを形成する微細構造体の製造方法。
【請求項12】
前記陽極酸化処理は、
前記アルミニウム部材の表面に低速で陽極酸化皮膜を形成して前記表面に自己規則化による窪みを形成するプレ陽極酸化処理工程と、
前記プレ陽極酸化処理工程で形成した陽極酸化皮膜を脱膜する脱膜工程と、
その後に、前記アルミニウム部材に再び陽極酸化処理を施して、前記窪みの位置に前記マイクロポアを有する陽極酸化皮膜を形成する本陽極酸化処理工程と、を少なくとも有し、
前記プレ陽極酸化処理工程及び前記本陽極酸化処理工程のうちの少なくともプレ陽極酸化処理工程を、請求項1〜10の何れか1の陽極酸化処理装置を用いて行う請求項11に記載の微細構造体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−72089(P2013−72089A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209418(P2011−209418)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
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