説明

集塵装置

【課題】塗油又は塗装された溶接材をアーク溶接する際に発生する粘性を帯びたヒュームの捕集に適する集塵装置を提供すること。
【解決手段】アーク溶接により生ずる粘性を帯びたヒュームを周囲の空気と一緒に吸引して捕集する捕集ユニット10は、モータ装置25の回転軸28に、不織布により形成されたフィルタ材43を装着した回転式フィルタ38を取付けると共にヒュームの流入側の回転式フィルタ38の先端部中心に円盤型のワイヤブラシ51を設け、捕集ユニットのケース16内に流入する粘性を帯びたヒュームをワイヤブラシ51の回転による打撃作用によって粒状化させると共に回転式フィルタ38によりヒュームを分離除去して濾過された空気をルーツ式ブロワ67の吸入側へ排出させるように設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗油又は塗装された溶接材をアーク溶接する際に発生する粘性を帯びたヒュームを捕集する集塵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の集塵装置については、フィルタ方式、衝突板付水洗方式、電気集塵方式等の各種構造のものが知られている。アーク溶接作業時に発生するヒュームの回収は、フィルタ方式が簡便であり設備コストも安価である。ところが、ヒュームは乱流・衝突現象があると直ちに粒状化し、ヒュームを含む空気を吸い込む吸引管に設けられる弁等の背面(下流側)箇所に付着する現象を生ずることが研究・実験により確認されている。
【0003】
一般的なフィルタ式集塵装置では、メッシュ0.1μm〜0.5μmのフィルタを用いているが、塗油又は塗装された溶接材から発生する粘性を帯びたヒュームはフィルタの目詰まりを生じやすい。そこで、圧力エアーをフィルタの捕集面に噴射させることにより捕集面に付着したヒュームや粉塵を除去する方法が開発されている。
【0004】
特許文献1に記載された「ヒューム粉塵類の回収機」は、フィルタにヒューム粉塵類が付着して目詰まりを生じたときにルーツ式ブロワの駆動モータの回転方向を切り替える運転を行い、そのときに生じる圧力変動作用により濾過材に振動を付与してヒューム粉塵類の剥離を促進させる構造とされている。しかし、その回収機には、塗油又は塗装された溶接材から発生する粘性を帯びたヒュームを粒状化して吸引した空気から分離除去するという機能を備えていないので、ヒュームの回収には自ずと限界があった。
【特許文献1】特開平11−276832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、塗油又は塗装された溶接材をアーク溶接する際に発生する粘性を帯びたヒュームの捕集に適する集塵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために請求項1に記載した発明は、アーク溶接により生ずる粘性を帯びたヒュームを周囲の空気と一緒に吸引して捕集する捕集ユニットと、その捕集ユニットのケース内を負圧にすると共に当該ユニットを通過した空気を外部へ排出するルーツ式ブロワとから構成された集塵装置において、
前記捕集ユニットは、前記ケース内に臨むように配置したモータ装置の回転軸に、所定粗さの不織布により多数の襞がジグザグ状に連続して形成されたフィルタ材を多数の空気通過口を備えた筒体の外周部に装着した回転式フィルタを取付けると共に前記ヒュームの流入側の回転式フィルタの先端部中心に円盤型のワイヤブラシを設け、それら回転式フィルタ及びワイヤブラシをモータ装置により所定の回転速度で回転させるように設け、前記ケース内に流入する粘性を帯びたヒュームを該ワイヤブラシの回転による打撃作用によって粒状化させると共に前記回転式フィルタによりヒュームを分離除去して濾過された空気を前記ルーツ式ブロワの吸入側へ排出させるように設け、前記ケース内に配置したエアブローノズルから前記回転式フィルタの外周面に圧力エアーを吹き付けて同フィルタを清掃することができるように構成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
この集塵装置は、回転式フィルタとワイヤブラシを用いた捕集ユニットを採用しており、塗油又は塗装された溶接材をアーク溶接する際に発生する粘性を帯びたヒュームをワイヤブラシの回転による叩き動作とも言うべき打撃作用によって粒状化させて回転式フィルタによる分離除去を効率的に行なうことができる。さらに、エアブローノズルによって回転式フィルタに付着したヒュームを強制的に除去することにより、長時間に亘り安定した捕集機能を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の最良の形態例を図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る集塵装置の概要図、図2は捕集ユニットの要部の縦断面図、図3はワイヤブラシの斜視図、図4は本発明に係る集塵装置をアーク溶接作業に使用する場合の説明図である。
【0009】
本発明に係る集塵装置Cは、塗油又は塗装された溶接材をアーク溶接する際に発生する粘性を帯びたヒュームを周囲の空気と一緒に吸引して捕集する捕集ユニット10と、捕集ユニット10の吸入側を負圧状態として同捕集ユニットを通過した空気を外部へ排出させるルーツ式ブロワ67とから構成されている。
【0010】
図1において、捕集ユニット10のケーシング12は、下方に排気口13を形成し、その一側部に穴14が形成されており、その底部12aを架台11に固定している。回転式フィルタを収める横長円筒形のケース16は、右方の開口端16aをケーシング12の穴14に連通させた状態で当該ケーシング12に固定されている。ケース16の底部には、ヒューム粉塵の排出管18を一体に設けている。ケース16の左方の開口端16bには、吸入口21を備えたエンドカバー20を取付けている。
【0011】
ケーシング12の他側部の取付け座12bには、モータ装置25を取り付けている。その取付け座12bの中心部に形成された段付穴には、環状シール22とボールベアリング23とが順に装着されている。モータ装置25の出力軸28は、モータ本体26の後部に内蔵されたボールベアリング27と前記ボールベアリング23とにより回転自由に支持されている。
【0012】
ケーシング12内に臨むように配置された出力軸28の先端部には、正面に吸込口31を備えたフィルタホルダー30のボス30aを挿入してナット35を螺着することにより同ホルダー30を固定している。フィルタホルダー30の胴部には、複数の透孔32を形成すると共にシール用環状溝33が形成されている。フィルタホルダー30の吸込口31には、回転式フィルタ38の筒体39のフランジ39aをボルト36により締付け固定している。
【0013】
回転式フィルタ38は、図2に示すように、多数の空気通過孔40を形成した筒体39の外周部に、金網製のフィルタ補強材41を介して多数の襞44がジグザグ状に連続して形成されたフィルタ材43を装着している。フィルタ材43の両端には、面板46,47を夫々あてがってそれらを接着剤により固定している。フィルタ材43の粗さについては、メッシュ1〜0.3μm程度とする。
【0014】
筒体39の先端部中心には、円盤型のワイヤブラシ51が円形座板49を介してボルト56により締め付け固定されている。図3に示すように、ワイヤブラシ51は、軸穴53が形成された軸部52の外周囲に多数の細いワイヤブラシ片54が植設されている。
【0015】
上記回転式フィルタ38は、モータ装置25により毎分300回転程度で駆動回転されるように設けられている。
【0016】
ケース16の上部には、回転式フィルタ38の外側上方に配置するエアブローノズル61の固定具59を取付ける。固定具59の供給口59aには、エアー供給手段に接続される供給ホース60が連結される。エアブローノズル61には、数個の吹出し口62を設けている。
【0017】
エアー供給手段は、捕集ユニット10に用いるルーツ式ブロワ67とは別のルーツ式ブロワ又は工場設備のエアーを使用する。
ただし、エアー供給手段の空気量については、捕集ユニット10の吸込み空気量に対して約20〜60%とし、圧力は約20kPaとする。
【0018】
上記ヒューム粉塵の排出管18には、捕集ユニット10から除去されるヒューム粉塵を回収するためのキャスタを備えたタンク65を着脱可能に設ける。また、捕集ユニット10の排気口13には、3葉ロータ形式のルーツ式ブロワ67の吸込み側を接続する。この実施形態では、ルーツ式ブロワ67の吸気部68をケーシング12と一体に設けているが、これに限定されることなくて別体構造とすることもできる。69はルーツ式ブロワ67の排気側67bに連結されたサイレンサである。
以上により、本発明に係る集塵装置Cが構成される。
【0019】
つぎに、本発明に係る集塵装置Cの作用について述べる。
(1)図4に示すように、架台72にセットされた塗油又は塗装されたワーク73にアーク溶接を行なって粘性を帯びたヒュームhが発生したとする。
(2)集塵装置Cでは、吸入口21に接続された吸入管71と、ルーツ式ブロワ67の運転により捕集ユニット10内とが負圧に保持され、その負圧作用によって(1)で発生したヒュームhは周囲の空気と一緒に吸入管71を通ってケース16内に流入する。
(3)捕集ユニット10では、モータ装置25により回転式フィルタ38とワイヤブラシ51が毎分300回転で回転している。しかして、ケース16内に吸引された空気に含まれる粘性を帯びたヒュームhは、ワイヤブラシ51の回転による打撃作用によって粒状化されて回転式フィルタ38により分離除去される。
(4)回転式フィルタ38により分離除去されたヒューム粉塵は、排出管18を通って回収タンク65に落下して貯留される。
(5)回転式フィルタ38により浄化された空気は、吸気部68、ルーツ式ブロワ67、サイレンサ69を通って外部へ排出される。
【0020】
なお、回転式フィルタ38のフィルタ材43にヒュームが付着すると捕集性能が低下するので、所定時間毎にエアブローノズル61から噴出する圧力エアーをフィルタ材43に吹き付けることにより、同フィルタ材43を清掃することが好ましい。
【0021】
(実験1)
本発明に係る集塵装置Cについて、塗油又は塗装された溶接材をアーク溶接する際に発生する粘性を帯びたヒューム(ウェットヒューム)を捕集する捕集性能と、捕集ユニットの真空圧力損失(圧損)について、下記条件下で実験を行なった。その結果を図5のグラフに示す。
なお、実験装置は、1.5mmの溶接ワイヤーを使用して連続回転させた円形鉄板にアーク溶接を行なってヒュームを発生させ、そのヒュームを集塵装置Cにより捕集した。また、夜間の休止、溶接ワイヤーの交換作業等による溶接作業の中断があるが、グラフにはデータを連続的に表した。
【0022】
(集塵装置C)
捕集ユニット
回転式フィルタ :フィルタ材 化学合成不織布メッシュ0.3μm
直径200mm×長さ200mm
:ワイヤブラシ 3個
直径250mm×厚さ20mm
回転数 :300rpm
モータ装置の出力 :0.4kw
ルーツ式ブロワ :口径65mm×出力2.2kw
回転数 :2300rpm
吸引空気量 :2.5m/分
エアブロー用ルーツ式ブロワ :口径32mm×出力0.75kw
回転数 :2500rpm
吐出空気量 :0.50m/分
捕集ユニットの吸入側のウェットヒューム濃度:7〜10mg/m
【0023】
実験の結果、ルーツ式ブロワの排気口におけるヒューム濃度は約0.01mg/mであり、その低濃度状態を長期に亘り維持可能であることが確認された。圧損については、約−5kPaの値を長期に亘って示し、良好な成績が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る集塵装置の概要図
【図2】捕集ユニットの要部の縦断面図
【図3】ワイヤブラシの斜視図
【図4】本発明に係る集塵装置をアーク溶接作業に使用する場合の説明図
【図5】本発明の集塵装置における捕集性能と圧力損失の実験結果を示すグラフ
【符号の説明】
【0025】
C・・・本発明の第1実施形態の集塵装置
10・・・捕集ユニット
16・・・ケース
25・・・モータ装置
28・・・回転軸
38・・・回転式フィルタ
43・・・フィルタ材
51・・・ワイヤブラシ
61・・・エアブローノズル
67・・・ルーツ式ブロワ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク溶接により生ずる粘性を帯びたヒュームを周囲の空気と一緒に吸引して捕集する捕集ユニットと、その捕集ユニットのケース内を負圧にすると共に当該ユニットを通過した空気を外部へ排出するルーツ式ブロワとから構成された集塵装置において、
前記捕集ユニットは、前記ケース内に臨むように配置したモータ装置の回転軸に、所定粗さの不織布により多数の襞がジグザグ状に連続して形成されたフィルタ材を多数の空気通過口を備えた筒体の外周部に装着した回転式フィルタを取付けると共に前記ヒュームの流入側の回転式フィルタの先端部中心に円盤型のワイヤブラシを設け、それら回転式フィルタ及びワイヤブラシをモータ装置により所定の回転速度で回転させるように設け、前記ケース内に流入する粘性を帯びたヒュームを該ワイヤブラシの回転による打撃作用によって粒状化させると共に前記回転式フィルタによりヒュームを分離除去して濾過された空気を前記ルーツ式ブロワの吸入側へ排出させるように設け、前記ケース内に配置したエアブローノズルから前記回転式フィルタの外周面に圧力エアーを吹き付けて同フィルタを清掃することができるように構成したことを特徴とする集塵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−106945(P2009−106945A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278355(P2007−278355)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000127123)株式会社アンレット (41)