説明

集魚灯装置、イカ釣り漁船及びイカ釣り漁法

【課題】イカ釣り漁船の上で集魚灯装置を点灯してイカを釣るときに、釣果を得ながらも、省エネと安全を図ることができるようにする。
【解決手段】集魚灯装置14における光を照射する光源41として、可視光線を構成する紫、青、緑、黄、橙、赤すべての波長を含み、なかでも紫、緑、橙の波長のエネルギ割合が高い光を照射する光源41を用い、この光源41を、船舷に配設されたイカ釣り装置13の受け台32の中央部に角度調節可能に設けたイカ釣り漁船11。特異な波長の光と海中にできる明瞭な影62によって、イカの集魚をはかるとともに捕食を活発にさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、イカを釣るための装置と方法に関し、より詳しくは、釣果を確保しながらも省エネと安全を図ることができるような、集魚灯装置、イカ釣り漁船及びイカ釣り漁法に関する。
【背景技術】
【0002】
イカ釣漁における集魚灯装置の光源には、これまでメタルハライドランプが用いられてきた。すなわち、図14((a)は側面図、(b)は平面図である。)に示した如く、イカ釣り漁船101の左右方向中央の上方に架設したワイヤ102からメタルハライドランプ103を吊り下げて、点灯してイカを集め、船舷に設けられたイカ釣り装置104でイカを釣り上げていた。イカ釣り装置104の釣り糸105には、針付きの疑似餌(図示せず)が取り付けられており、これを捕食しようとするイカが疑似餌の針に引っ掛かるのである。
【0003】
しかし、メタルハライドランプ103を用いての漁には様々な問題があった。
【0004】
たとえば、メタルハライドランプ103を点灯させるためには大きな発電機が必要で、燃料消費量が非常に多い。このため、燃料費が高騰するという経済的な理由だけで、漁に出られないという事態が生じてしまう。
【0005】
また、メタルハライドランプ103は安定器から与えられた高電圧によって発光するものであるが、点灯してからも明るさが安定するまでに時間がかかって、作業効率が悪く、余分なコストもかかった。
【0006】
さらに、メタルハライドランプ103が点灯すると、甲板106を漁師もとろも照らすことになり、しかもメタルハライドランプ103は非常に高温になる。このため、甲板106の上が暑くなって作業環境が悪く、釣り上げたイカの品質も熱によって低下しやすい。そのうえ、メタルハライドランプ103は紫外線を多く出すので、漁師の肌がただれたり、電気コードなどが劣化したりして、安全性の面でも問題があった。
【0007】
加えて、点灯のために不可欠な銅鉄安定器または磁気式安定器などの安定器が大きくて重いため、狭い漁船内における安定器の設置が困難となり、これに伴って管理が行き届かなくなることもあった。このことを、図10(b)を用いて具体的に説明すると、一般に安定器は、機関室107と舵機室108の間の安定器室109に収納される。この安定器室109は、その位置の関係上、図示の如く入り組んだ形となっており、安定器はバランスも関係なく狭い空間に押し込まれた状態になりやすい。通常、安定器は安定器室109内の棚110(図10(b)中の仮想線)に並べられるが、安定器の台数はメタルハライドランプ103の数に応じて、例えば数十台など多く必要となり、安定器付近に隙間を設ける余裕がなくなってしまう。このため、熱をもつ安定器周辺の換気が不十分となることになり、湿気によって電路が短絡し、火災が起こるという事故も現実に起きている。また、安定器室109の出入り口との関係上、棚110の配置も左右不均等になりやすく、漁船における左右の重量バランスを崩し易い。
【0008】
これらのような事情を背景に、消費電力が少なく安定器も不要で、照射する光に紫外線を含まない発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)を用いた集魚灯装置が提案されている(例えば、下記特許文献1など)。発光ダイオードを用いた集魚灯装置では、光量が少なくて遠方まで光を届かせにくい欠点を補うため、発光ダイオードのなかでも青色の光を発する青色発光ダイオードが使用される。これは、波長が470nm程度の青い光がイカの視感度波長にあうから集魚効果があるだろうとの考えに基づく。
【0009】
しかしながら、青色発光ダイオードを用いたことによる釣果についての効果は未だ実証されるには到っていない。これは、水中光量が低いことも一因と考えられるが、そのほかに、演色性の悪さも原因にあるのではないかと思われる。つまり、光を照射するのが海の中であることに加え、青い光だけを照射しても却って色の見え方が不自然なのではないかと想像される。
【0010】
下記特許文献2にも、青系の光を用いる集魚灯装置が開示されている。
【0011】
この集魚灯装置は、青、緑、透明の発光ダイオードを光源として用いたもので、船舷から海側へ突出する、イカ釣り装置の受け台の下に取り付けられる。集魚灯装置の光源は受け台の下において発光し、受け台と同じ所定の仰角をもって海面を照らす。光は、発光ダイオードを内蔵した集魚灯の前面における透明のグローブを通って、海中に入射する。海面に近い位置で光を照射するので、水中光量の低下を抑制できるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−134967号公報
【特許文献2】登録実用新案第3096561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、この集魚灯装置では、受け台の角度と同じ所定の仰角で光を照射し、照射中に照射方向を変えることはできないので、たとえ水中光量の低下を抑制できたとしても、仕掛けを垂らしたところにイカを効率よく集めることができるとは限らない。
【0014】
特許文献2には、集魚灯を上下方向に回転可能にしてもよいとして、受け台の下に固定されるパネルの下面に設けられた複数本の集魚灯を、それぞれ取付部材で回転可能に支持する構造が記載されているが、これは、集魚灯の光照射方向が受け台の角度によって決まってしまうことを防ぐためのものにすぎない。
【0015】
そこで、この発明は、新規な観点に基づいて、釣果を確保しつつも省エネを図り、漁師の安全を図るようにすることを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
そのための手段は、イカ釣り漁船に取り付けられた光源から光を照射する集魚灯装置であって、前記光源として、可視光線を構成する紫、青、緑、黄、橙、赤すべての波長を含み、なかでも紫、緑、橙の波長のエネルギ割合が高い光を照射する光源が用いられ、該光源を保持する保持体が、船舷に備えられたイカ釣り装置における、起立傾倒可能で傾倒時に海側へ突出する受け台の中央部に対して、前記受け台の起立傾倒方向に回転可能に設けられ、前記保持体の回転角度を調節する角度調節機構が備えられた集魚灯装置である。
【0017】
別の手段は、光を照射する光源を備えたイカ釣り漁船であって、前記光源として、可視光線を構成する紫、青、緑、黄、橙、赤すべての波長を含み、なかでも紫、緑、橙の波長のエネルギ割合が高い光を照射する光源が用いられ、該光源を保持する保持体が、船舷に備えられたイカ釣り装置における、起立傾倒可能で傾倒時に海側へ突出する受け台の中央部に対して、前記受け台の起立傾倒方向に回転可能に設けられ、前記保持体の回転角度を調節する角度調節機構が備えられたイカ釣り漁船である。
【0018】
さらに別の手段は、イカ釣り漁船に取り付けられた光源から光を照射しながらイカ釣り装置によってイカを釣り上げるイカ釣り漁法であって、前記光源として、可視光線を構成する紫、青、緑、黄、橙、赤すべての波長を含み、なかでも紫、緑、橙の波長のエネルギ割合が高い光を照射する光源を用い、該光源を、船舷に備えられるイカ釣り装置における、起立傾倒可能で傾倒時に海側へ突出する受け台で発光させ、遠くと近くを、角度を変えて照射するイカ釣り漁法である。
【0019】
前記光は昼光と同様に紫、青、緑、黄、橙、赤すべての波長の光を有し、このうちの、エネルギ割合の高い紫、緑、橙と、他の色の成分とが協働して、良い演色性によってイカを集める。
【0020】
しかもその光りは、海面の上方に突き出す受け部の中央部から照射されて海面を照らし、照射方向は船舷の近くでも遠くでも適宜変更できる。
【0021】
なお、前記紫、青、緑、黄、橙、赤とは、一般的な区分に基づき、この発明ではそれぞれ、380nm〜450nm(紫)、450nm〜495nm(青)、495nm〜570nm(緑)、570nm〜590nm(黄)、590nm〜620nm(橙)、620nm〜750nm(赤)の波長であるものとする。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、昼光と成分は同じとしながらも特定のアクセントをつけた光となり、青色成分だけではなく、その他の色の成分との相乗作用により、集魚を図る。また、光源の位置が海面に近い受け部の中央部であり、照射方向が調節可能であることによって、光による集魚効果を向上させる。このため、釣果は確保できる。しかも、メタルハライドランプのように燃料消費がかさむことを回避できるとともに、強い紫外線を出さないようにすることも、安定器を小型化軽量化することもできて、安全性の向上にも資する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】イカ釣り漁船の側面図と平面図。
【図2】イカ釣り漁船の作用状態の正面図。
【図3】集魚灯装置とイカ釣り装置の側面図。
【図4】集魚灯装置の光源部分の断面図。
【図5】集魚灯装置の光源部分を取り付けた受け台の平面図。
【図6】図6の断面図。
【図7】集魚灯装置のブロック図。
【図8】光源が発する光の分光分布を示すグラフ。
【図9】比較例としてのメタルハライドランプと青色発光ダイオードの分光分布を示すグラフ。
【図10】集魚灯装置の作用状態の側面図。
【図11】集魚灯装置の作用状態の側面図。
【図12】他の例に係る集魚灯装置の側面図。
【図13】メタルハライドランプを用いた従来のイカ釣り漁船の作用状態の正面図。
【図14】従来のイカ釣り漁船の側面図と平面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
図1は、イカ釣り漁船11の側面図と平面図であり、図2はイカ釣り漁船11の作用状態の正面図である。
【0025】
これらの図に示すように、イカ釣り漁船11は、周知の船体12に、イカ釣り装置13と、二種類の集魚灯装置14を備えている。
【0026】
前記イカ釣り装置13は周知の構成で、図3にも示したように、左右両側に巻き上げドラム31aを有し船舷部分に固定される釣り機本体31と、起立傾倒可能に設けられて傾倒させたときに船舷よりも外側(海側)に向けて斜めに突き出すように突出する受け台32と、前記巻き上げドラム31aに巻く釣り糸33を案内して釣り糸33の投入及び巻き上げを円滑にするために前記受け台32の先に設けられた案内ローラ34を有する。
【0027】
前記受け台32は平面視横(船舷の延びる方向)に長い長方形状で、上面に網部材32a(図6、図7参照)が張り付けられている。この受け台32の先端縁の長手方向両側の2箇所に、前記案内ローラ34が設けられており、釣り糸33が巻き上げられてイカが釣り上げられると、イカは受け台32の長手方向両側部分で受けられ、この部分で甲板上のイカ誘導樋(図示せず)に導かれる。
【0028】
このようなイカ釣り装置13は、図1に示したように、船体12の両舷部分の必要箇所に、適宜間隔を隔てて配設される。
【0029】
前記集魚灯装置14は、船体12における比較的下方に備えられるものと、上方に備えられるものの二種類あり、いずれも、図3、図4、図5、図6に示したような光源41と、図7に示したように前記光源41に電源42(図示しない発電機)からの電流を制御する安定器43を有する。光源41と安定器43との接続にあたっては、インピーダンス整合がなされる。
【0030】
前記光源41には、図8の分光分布に示したように、可視光線を構成する紫、青、緑、黄、橙、赤すべての波長を含み、なかでも紫、緑、橙の波長のエネルギ割合が高い光を照射する光源を用いる。すなわち、昼光のように紫、青、緑、黄、橙、赤を含み、そのうち、イカの視感度波長に近いとされる青の成分を挟む紫と緑の成分と、青の補色である橙の成分を強く有する。
【0031】
分光分布について詳述すると、強い紫外線を含まず、紫である380nm〜450nmの波長と、緑である495nm〜570nmの波長と、橙である590nm〜620nmの波長が、青である450nm〜495nmの波長や黄である570nm〜590nmの波長、赤である620nm〜750nmの波長よりも強い値を示すものである。このとき、青は最も強い紫に対して0.15程度、黄は0.2程度、赤は0.5程度の強さである。図8の例では、紫と緑が強く、橙がやや低い例を示したが、橙が最も高い値を示す光であってもよい。
【0032】
この光は、図9(a)に示したメタルハライドランプの分光分布とも、図9(b)に示した青色発光ダイオードの分光分布とも、明らかに異なるものである。
【0033】
このような光を発する光源41としては、無電極放電ランプ又は無電極蛍光ランプ(例えば、三菱オスラム(株)製の「ENDURA」(登録商標))を好適に使用できる。この光源41は軽量で、点灯は迅速に行われる。このほか、例えば複数色の発光ダイオードを適宜配設して、前記のような光を発光できるようにしてもよい。この場合には、前記安定器は不要となる。
【0034】
図4は、上方に設けられる集魚灯装置14を示し、この集魚灯装置14は、前記光源41を前記安定器43から分離して、前記イカ釣り装置13より上方に配設する。光源41は、全方向に照射される光を一方向に照射するようにするため、保持体としての反射カバー部材44によって片面側が覆われている。
【0035】
反射カバー部材44は正面視方形状に形成され、正面視長方形枠状をなす前記光源41を、光源41の長手方向と直交する方向に2個並べて収容している。そして、2個の光源41の間には、断面三角形状に隆起する突部44aが設けられるとともに、光源41における長手方向に延びる部分に対向する部分に、光を前に押し出す傾斜面44bが形成され、この部分を含む反射カバー部材44の内側面全体が鏡面で構成されている。
【0036】
そして、反射カバー部材44の上面には軽量鋼材などからなる補強部材45が設けられ、この補強部材45が、固定金具46を介して支持具47に取り付けられる。支持具47は、断面円形をなす丸パイプで形成され、この一部に前記補強部材45が取り付けられる。反射カバー部材44の取り付け向きは、光源41の長手方向を横にする向きである。
【0037】
この取り付けは、光源41が水平を向く姿勢から下方を向く姿勢にかけて上下方向に角度変更可能に行われる。図4中、48はすべり止めのためのゴム製の介装部材である。
【0038】
前記支持具47は、前記光源41をイカ釣り装置13より上方に支持するためのもので、門型のフレーム形状に形成されて、図1に示したように、前記イカ釣り装置13を覆うように固定される。この結果、支持具47の上端の横杆47aは、イカ釣り装置13の上方に位置することになる。つまり、この横杆47a上で前記反射カバー部材44が傾動することによって前記のような角度変更が可能となり、船舷部分に配設された光源41からの光を、横、下方または斜め下方に向けて照射できるようになる。
【0039】
図5、図6は、下方に設けられる集魚灯装置14を示し、この集魚灯装置14は、前記光源41を安定器43から分離して、船舷の近傍に配設する。具体的には、船舷に備えられる前記イカ釣り装置13における前記受け台32の中央に設けられる。
【0040】
光源41は、全方向に照射される光を一方向に照射するようにするため、前記と同じ反射カバー部材44によって片面側が覆われている。光源41の収容の仕方なども前記と同じである。同一の部位については前記と同一の符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0041】
受け台32は、金属製のパイプ材かなる枠部材32bと、この上に張り付けられる前記網部材32aで構成され、この網部材32aの中央部には切欠部32cが形成されている。
【0042】
この切欠部32cが、前記反射カバー部材44を保持する部分である。前記のように、釣り上げられたイカは、受け台32の左右方向の両側部分で案内されるので、中央部分に切欠部32cがあってもイカを落下させてしまうことはない。
【0043】
反射カバー部材44は、起立傾倒する枠部材32bの回転軸部32dと平行に設けられた回転支持軸49に、固定金具46で相対回転不可能に保持される(図5のA−A断面図である図6(a)参照)。
【0044】
回転支持軸49は、金属パイプで構成され、枠部材32bの長手方向の両端部の中間部に回転可能に保持される。保持は、図6(b)に示したように、枠部材32bの下面に設けられて回転支持軸49の両端部を拘束する保持金具50で行う。図6(b)は、図5のB‐B拡大断面図である。
【0045】
回転支持軸49の両端は、前記保持金具50で保持される部分よりも大径に形成され、この大径部49aに、反射カバー部材44の回転角度を調節する角度調節のための角度調節機構の一部が形成される。すなわち、図6(c)に示したように、回転支持軸49の回転角度を固定するための固定ピン51を挿入するための固定孔52が複数形成されている。図6(c)は図5のC−C拡大断面図である。
【0046】
この固定ピン51は、枠部材32bの上面における前記大径部49aに対向する部位に設けられた固定板53から挿入される。すなわち、この固定板53の中央部には貫通孔53aが形成されており、この貫通孔53aから前記大径部49aの固定孔52に固定ピン51を挿入すれば、回転支持軸49の回転角度は固定される。前記固定ピン、固定孔52、貫通孔53aが、前記角度調節機構を構成する。
【0047】
回転支持軸49を保持する前記受け台32は、図3にも示したように海側に向けて斜め上に傾いた状態で張り出すものであるため、回転支持軸49に保持される反射カバー部材44が、少なくとも、図3に示した如く真下に向く姿勢と、図10に示したごとく斜め下に向く姿勢とに回転できるように、前記固定孔52の位置は設定される。図示例では、4段階の調節ができるように構成している(図6(c)参照)。受け台32を起立させたときの受け台32の角度にもよるが、図3に示したように受け台32に対して反射カバー部材44を回転させて反射カバー部材44を真下に向けた状態のまま受け台32を起立させたときに、図11に示したように反射カバー部材44が斜め下に向くように設定すると、受け台32を倒さずとも集魚を図ることができる利点がある。
【0048】
回転支持軸49の両端には、回転操作のためのハンドル54が設けられている。ハンドル54の傾きと回転支持軸49の回転角度との関係を明示するために、ハンドル54と前記固定板53に目印(図示せず)を付しておくとよい。また前記固定ピン51は、固定板53など適宜の箇所に繋留しておくとよい。
【0049】
前記いずれの集魚灯装置14においても、前記光源41に接続される前記安定器43(図7参照)は、前記光源41の取り付け位置から離して、イカ釣り漁船11の左右方向の中間位置を中心に均等に収容される。具体的には、図1示した如く従来と同様に、機関室12aと舵機室12bとの間の安定器室12c内の棚12dに収容されるが、安定器43は、従来のメタルハライドランプのそれよりも小さく軽く構成できるので、入り組んだ形状の狭い安定器室12cに対してであっても、場所をとらずに、安定器の周りに隙間を設けつつ、余裕をもって収容できる。しかも、余裕をもたせられるので、船体12の左右方向の中間位置に設置できるのはもちろんのこと、船体12の左右方向に分けて設置する場合でもバランスを考慮して収容することができる。
【0050】
以上のように構成された集魚灯装置14とイカ釣り漁船11の作用と、これを用いたイカ釣り漁法について、次に説明する。
【0051】
海上においてイカ釣り漁船11を停めて受け台32を倒し、集魚灯装置14の光源41を点灯する。
【0052】
このとき、受け台32の集魚灯装置14は、図10に示したように反射カバー部材44を斜め下に向くように角度調節機構を操作する。操作は、固定ピン51を外してからハンドル54を回し、反射カバー部材44が所望の角度になったときに固定ピン51を固定板53の貫通孔53aから回転支持軸49の大径部49aの固定孔52に挿入して行う。
【0053】
上方の集魚灯装置14の反射カバー部材44も斜め下に向ける。角度は、光源41の性能や環境条件によっても異なるが、たとえば船舷から舷側と直交する方向に4メートルなどの距離を照らすようにするとよい。
【0054】
光源41から照射される光のうち反射カバー部材44側のものは反射カバー部材44によって反射され、反射カバー部材44の姿勢に応じて前方に照射される。反射カバー部材44は前記のように斜め下に向いているので、光61は船舷の外側に照射され、海中に入射する。
【0055】
光源41からの光61の照射によりイカが寄ってきて、図2に示したように、船体12の下方には、境界が比較的明瞭な影62ができる。
【0056】
これは、従来のメタルハライドランプ103(図13参照)で全方向に光111を照射した場合とは、大きく異なる。すなわち、メタルハライドランプ103を用いた従来のイカ釣り漁船では、図13に示したように、メタルハライドランプ103の取り付け位置と、メタルハライドランプ103が裸電球であることから、船体12の下方にできる影112の境界部分が不明瞭となる。
【0057】
そしてイカが寄ってきたら、図2に示したように、受け台32の反射カバー部材44を真下に向ける。回転操作は前記のように固定ピン51を差し替えて行える。
【0058】
するとイカは、より明瞭になる船体12の下方の影62によって、船体12の下方に集まる。このとき、上方の集魚灯装置14の反射カバー部材44の向きも下方に傾けてもよい。
【0059】
なお、上方の集魚灯装置14のみでイカを寄せてから、予め真下に向けた下方の集魚灯装置14を点灯して、さらにイカを寄せるように使用してもよい。
【0060】
前記のように船体12の下方にできる船体12の影62は、明るい部分との境界が比較的明瞭である。このため、イカが集まる場所が定まりやすい。つまり、イカを集める範囲を限定できる。
【0061】
しかもその範囲は、図2に示したように船体12の両舷からほぼ鉛直下向きに影62の外縁ができるので、これは、イカ釣り装置13の釣り糸33が垂れる方向と略同一である。
【0062】
そして、イカ釣り装置13で海中に垂らした釣り糸33を上下動させると、イカは、疑似餌を捕食しようとして針に引っ掛かるわけであるが、海中を照らす光62は、前記のように可視光線を構成する紫、青、緑、黄、橙、赤すべての波長を含み、なかでも紫、緑、橙の波長のエネルギ割合が高い光であるので、昼光のようでありながらも、イカの視感度波長にあう青を挟む紫と緑と、青の補色である橙が他の波長に比して強いので、青を引き立たせることができる。この結果、イカにとって演色性を高めることができるものと考えられる。
【0063】
したがって、イカには捕食意欲がわき、より活発な捕食作用が促される。
【0064】
針に引っ掛かったイカは、所定時間おきに自動で巻き上げられる釣り糸33によって釣り上げられる。
【0065】
釣り上げられたイカは、水槽に入られるものとケースに入れられるものとに分けられるが、前記の光源41は、メタルハライドランプに比して熱くならないので、イカを熱で傷めるようなことはない。また、甲板が従来のように熱くならないことから、漁師の作業環境が良好になり、作業効率が向上するという効果も有する。
【0066】
さらに、光は強い紫外線を含まないので、漁師の肌を痛めたりすることはなく、安全性を高めることができる。同時に、イカ釣り漁船11の設備、たとえば電気コードなどを甚だしく損傷したりすることもないので、この点でも安全性の向上を図れ、さらにメンテナンスに要する手間やコストを抑えることもできる。
【0067】
また、集魚灯装置14は、安定器43を光源41から分離しており、そのうえ光源41が軽量であるので、光源41を船体12の両舷に配置しても、船体12のバランスを崩すこともない。このため、例えば図12に示したように、上方の集魚灯装置14において、支持具47で支持する光源41の反射カバー部材44を外側(海側)に迫り出させることもできる。図12の例では、前記支持具47の上部を外側に折曲して迫り出させた。
【0068】
一方、光源41から分離され、光源41に比して重量のある安定器43は、前記のように船体12の左右方向の中間にバランスよく収容できるので、この点からも船体12のバランスを崩すことを回避できる。
【0069】
さらに、受け台32に取り付けられる反射カバー部材44の回転のための構造と、その角度を規制する角度調節機構は簡素であるので、軽量に構成でき、前記バランスの崩壊防止の効果を確保できるとともに、固定ピン51を差し込む構造であるので強固な角度保持力を得られ、不測に角度が変わったりして所望の作用を発揮できないような不都合を回避できる。
【0070】
このように、前記イカ釣り漁船11と集魚灯装置14によれば、特異な波長を有する光62と、そのための光源41を所望の位置に配設することとにより、海中に、これまでにない光61の照射部分と影62の部分を作ることができる。これによって、イカを効率よく集めることができ、釣果を得られる。
【0071】
しかも、そのための光源41は、従来のメタルハライドランプを点灯する場合に比して、燃料の消費を抑えることができる。発電機の小型化も図れる。
【0072】
また、その光源41は強い紫外線を出さないので、人体に悪影響を与えることはなく、また電気コードなどの船体の装備品を甚だしく劣化させることもない。このため、安全性を高めるとともに、メンテナンス等におけるコストなどを軽減できる。
【0073】
さらに、光源41を点灯するための安定器43は、光源から分離しているので、光源41を前記のように所望の位置に配設できて、所望の集魚効果を得られるとともに、安定器43は船体12のバランスを考慮して配設されているので、船体12の安定性は良好である。
【0074】
加えて、前記安定器43は、従来のメタルハライドランプに用いる安定器に比して小型かつ軽量に構成できるので、狭い安定器室12cに対しても余裕をもって収容でき、不測の火災の発生を抑制できる。
【0075】
以上のように、釣果を上げながらも省エネと安全を図ることができる。
【0076】
この発明の構成と、前記一形態の構成との対応において、
この発明の角度調節機構は、前記固定ピン51、固定孔52及び貫通孔53aに対応し、
同様に、
保持体は、前記反射カバー部材44に対応するも、
この発明は前記構成のみに限定されるものではなく、その他の構成を採用することもできる。
【0077】
たとえば、光源は、前記の支持具47による取り付けのほか、軽量であるので、船体の上方から吊り下げるようにして取り付けることもできる。
【0078】
上方の集魚灯装置は、イカ釣り装置の上ではなく、それらの間を埋めるように配設されてもよい。上方の集魚灯装置を省略してもよい。
【0079】
角度調節機構は、段階的な調節のほか、連続的な調節を可能にするものであってもよい。また、角度調節機構及びハンドルは、前記のように回転支持軸の両端に設けるのではなく、片方のみに設けてもよい。
【符号の説明】
【0080】
11…イカ釣り漁船
13…イカ釣り装置
14…集魚灯装置
32…受け台
41…光源
43…安定器
44…反射カバー部材
51…固定ピン
52…固定孔
53a…貫通孔
61…光
62…影

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イカ釣り漁船に取り付けられた光源から光を照射する集魚灯装置であって、
前記光源として、可視光線を構成する紫、青、緑、黄、橙、赤すべての波長を含み、なかでも紫、緑、橙の波長のエネルギ割合が高い光を照射する光源が用いられ、
該光源を保持する保持体が、船舷に備えられたイカ釣り装置における、起立傾倒可能で傾倒時に海側へ突出する受け台の中央部に対して、前記受け台の起立傾倒方向に回転可能に設けられ、
前記保持体の回転角度を調節する角度調節機構が備えられた
集魚灯装置。
【請求項2】
前記光源が無電極放電ランプで構成された
請求項1に記載の集魚灯装置。
【請求項3】
前記光源に接続される安定器が、前記光源の取り付け位置から離して設けられた
請求項1または請求項2に記載の集魚灯装置。
【請求項4】
前記光源を保持する保持体が、船舷に備えられるイカ釣り装置よりも上方に対しても設けられた
請求項1から請求項3のうちのいずれか一項に記載の集魚灯装置。
【請求項5】
前記保持体が、前記光源を水平方向に向ける姿勢から下方に向ける姿勢にかけて、上下方向に角度変更可能である
請求項1から請求項4のうちのいずれか一項に記載の集魚灯装置。
【請求項6】
光を照射する光源を備えたイカ釣り漁船であって、
前記光源として、可視光線を構成する紫、青、緑、黄、橙、赤すべての波長を含み、なかでも紫、緑、橙の波長のエネルギ割合が高い光を照射する光源が用いられ、
該光源を保持する保持体が、船舷に備えられたイカ釣り装置における、起立傾倒可能で傾倒時に海側へ突出する受け台の中央部に対して、前記受け台の起立傾倒方向に回転可能に設けられ、
前記保持体の回転角度を調節する角度調節機構が備えられた
イカ釣り漁船。
【請求項7】
前記光源を保持する保持体が、船舷に備えられるイカ釣り装置よりも上方に対しても、上下方向に角度調節可能に設けられた
請求項6に記載のイカ釣り漁船。
【請求項8】
前記光源に接続される安定器が、当該イカ釣り漁船の左右方向の中間位置を中心に均等に収容された
請求項6または請求項7に記載のイカ釣り漁船。
【請求項9】
イカ釣り漁船に取り付けられた光源から光を照射しながらイカ釣り装置によってイカを釣り上げるイカ釣り漁法であって、
前記光源として、可視光線を構成する紫、青、緑、黄、橙、赤すべての波長を含み、なかでも紫、緑、橙の波長のエネルギ割合が高い光を照射する光源を用い、
該光源を、船舷に備えられるイカ釣り装置における、起立傾倒可能で傾倒時に海側へ突出する受け台で発光させ、遠くと近くを、角度を変えて照射する
イカ釣り漁法。
【請求項10】
前記光源の向きを、遠くを照射したのち近くに変えて、イカ釣り漁船の下方に影を作る
イカ釣り漁法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−125202(P2012−125202A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280616(P2010−280616)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【出願人】(301048563)株式会社SAK (3)
【出願人】(510331917)株式会社シーズテック (1)
【Fターム(参考)】