説明

雑音抑圧器

【課題】 WDM光通信に用いられる場合においても雑音光を抑圧して光SN比を向上させることができる雑音抑圧器を提供する。
【解決手段】 光ファイバ15Aから出力された光は、光学系14Aによりコリメートされて、空間型回折格子素子12Aにより波長毎に分波される。分波された各波長の光は、光学系13Aにより集光されて、可飽和吸収素子11上の互いに異なる位置に入力される。可飽和吸収素子11において、波長毎に、入力光のパワーが大きいときには該光は透過し、入力光のパワーが小さいときには該光は吸収される。可飽和吸収素子11を透過した各波長の光は、光学系13Bによりコリメートされて、空間型回折格子素子12Bにより合波される。この合波された光は、光学系14Bにより集光されて光ファイバ15Bの端面に入力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信において信号光に重畳された雑音光を抑圧するのに好適に用いられ得る雑音抑圧器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
可飽和吸収体は、入力光のパワーが小さいときには透過率が小さく、入力光のパワーが大きいときには透過率が大きい。このような可飽和吸収体を用いることで、光通信において信号光に重畳された雑音光(例えばASE光)を抑圧することができて、光SN比を向上させることができる。すなわち、可飽和吸収体に信号光が入力するときには、入力光パワーが大きいので、可飽和吸収体の透過率が大きく、信号光は雑音光とともに可飽和吸収体を透過して出力される。一方、可飽和吸収体に信号光が入力せず雑音光のみが入力するときには、入力光パワーが小さいので、可飽和吸収体の透過率が小さく、雑音光は可飽和吸収体により吸収される。特許文献1に開示された発明は、可飽和吸収体としてカーボンナノチューブを用いて、信号光に重畳された雑音光を抑圧して光SN比を向上させる雑音抑圧器を実現しようとするものである。
【特許文献1】特開2003−248251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載された雑音抑圧器は、波長分割多重(WDM: Wavelength Division Multiplexing)光通信において用いるには不適である。図8は、従来の雑音抑圧器の問題点を説明する為の図である。ここでは、2波長λ,λの光が可飽和吸収体に入力する場合を考える。同図(a)は可飽和吸収体に入力する波長λの光のパワーの時間的変化を示し、同図(b)は可飽和吸収体に入力する波長λの光のパワーの時間的変化を示し、同図(c)は可飽和吸収体から出力される波長λの光のパワーの時間的変化を示し、また、同図(d)は可飽和吸収体から出力される波長λの光のパワーの時間的変化を示す。
【0004】
この図に示されるように、可飽和吸収体に波長λの信号光および波長λの信号光が入力するときには、可飽和吸収体の透過率が大きく、信号光は雑音光とともに可飽和吸収体を透過して出力される。また、可飽和吸収体に波長λの雑音光および波長λの雑音光のみが入力するときには、可飽和吸収体の透過率が小さく、雑音光は可飽和吸収体により吸収される。
【0005】
しかし、可飽和吸収体に波長λの信号光が入力するとともに波長λの雑音光のみが入力するときには、可飽和吸収体の透過率が大きく、波長λの信号光が可飽和吸収体を透過して出力されるだけでなく、波長λの雑音光も可飽和吸収体を透過して出力されるので、波長λについては光SN比が向上しない。同様に、可飽和吸収体に波長λの信号光が入力するとともに波長λの雑音光のみが入力するときには、可飽和吸収体の透過率が大きく、波長λの信号光が可飽和吸収体を透過して出力されるだけでなく、波長λの雑音光も可飽和吸収体を透過して出力されるので、波長λについては光SN比が向上しない。
【0006】
このように多重化された多波長の信号光が可飽和吸収体に入力する場合には、光SN比を向上させることができない。また、可飽和吸収体において波長λの信号光と波長λの信号光との間でクロストークが生じて、伝送品質が著しく劣化する。
【0007】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、WDM光通信に用いられる場合においても雑音光を抑圧して光SN比を向上させることができる雑音抑圧器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る雑音抑圧器は、入力した光を波長毎に分波する光分波手段と、この光分波手段により分波された各波長の光を入力する複数の可飽和吸収素子と、この可飽和吸収素子から出力される各波長の光を合波して出力する光合波手段と、を備えることを特徴とする。この雑音抑圧器では、入力した光は光分波手段により波長毎に分波され、この光分波手段により分波された各波長の光は可飽和吸収素子に入力される。この可飽和吸収素子において、波長毎に、入力光のパワーが大きいときには該光は出力され、入力光のパワーが小さいときには該光は吸収される。そして、この可飽和吸収素子から出力された各波長の光は、光合波手段により合波されて出力される。
【0009】
可飽和吸収素子は、光分波手段により分波される各波長に対応して個別に設けられているのが好適である。本発明に係る雑音抑圧器は、光分波手段により分波された各波長の光を集光して可飽和吸収素子に入力させる光学系を更に備えるのが好適である。可飽和吸収素子は、一体型であり、光分波手段により分波された各波長の光は互いに異なる位置に入力されるものであるのが好適である。可飽和吸収素子は、反射型のものであるのが好適であり、また、透過型の可飽和吸収体と反射ミラーとを含むのが好適である。
【0010】
本発明に係る雑音抑圧器は、光分波手段および光合波手段の双方または何れか一方は空間型回折格子素子を含むのが好適である。このとき、本発明に係る雑音抑圧器は、入力した光を波長毎に分波する光分波手段としての第1空間型回折格子素子と、この第1空間型回折格子素子により分波された各波長の光を集光して透過型の可飽和吸収素子に入力させる第1光学系と、可飽和吸収素子を透過して出力される各波長の光をコリメートする第2光学系と、この第2光学系によりコリメートされた各波長の光を合波して出力する光合波手段としての第2空間型回折格子素子と、を備えるのが好適である。或いは、本発明に係る雑音抑圧器は、光分波手段および光合波手段としての共通の空間型回折格子素子と、この空間型回折格子素子により分波された各波長の光を集光して反射型の可飽和吸収素子に入力させるとともに、この可飽和吸収素子で反射して出力される各波長の光をコリメートして空間型回折格子素子に入力させる光学系と、を備えるのも好適である。
【0011】
本発明に係る雑音抑圧器は、光分波手段および光合波手段の双方または何れか一方は導波路型回折格子素子を含むのが好適である。このとき、本発明に係る雑音抑圧器は、入力した光を波長毎に分波して透過型の可飽和吸収素子に入力させる光分波手段としての第1導波路型回折格子素子と、この可飽和吸収素子を透過して出力される各波長の光を合波して出力する光合波手段としての第2導波路型回折格子素子と、を備えるのが好適である。また、第1導波路型回折格子素子および第2導波路型回折格子素子が共通の基板上に形成されており、第1導波路型回折格子素子と第2導波路型回折格子素子との間に設けられた基板上の溝に可飽和吸収素子が挿入されているのが好適である。或いは、本発明に係る雑音抑圧器は、光分波手段および光合波手段としての共通の導波路型回折格子素子を備え、この導波路型回折格子素子により分波された各波長の光を反射型の可飽和吸収素子に入力させ、この可飽和吸収素子で反射して出力される各波長の光を導波路型回折格子素子により合波するのもが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る雑音抑圧器は、WDM光通信に用いられる場合においても、雑音光を抑圧して光SN比を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
(第1実施形態)
先ず、本発明に係る雑音抑圧器の第1実施形態について説明する。図1は、第1実施形態に係る雑音抑圧器10の構成図である。この図に示される雑音抑圧器10は、透過型の可飽和吸収素子11、空間型回折格子素子12A、空間型回折格子素子12B、光学系13A、光学系13B、光学系14Aおよび光学系14Bを備え、光ファイバ15Aおよび光ファイバ15Bとともに用いられる。
【0015】
光学系14Aは、光ファイバ15Aの端面から出力された光を入力し、この光をコリメートして空間型回折格子素子12Aへ入力させる。空間型回折格子素子12Aは、光学系14Aによりコリメートされた光を入力して、この入力した光を波長毎に分波する。光学系13Aは、空間型回折格子素子12Aにより分波された各波長の光を入力し、これらの光を集光して可飽和吸収素子11に入力させる。
【0016】
分波された各波長の光は可飽和吸収素子11の互いに異なる位置に入力される。可飽和吸収素子11は、透過型のものであって、入力光のパワーが小さいときには透過率が小さく、入力光のパワーが大きいときには透過率が大きい。可飽和吸収素子11は、光学系13Aから到達した光を入力し、その入力光パワーに応じて透過率が変化する。この可飽和吸収素子11は可飽和吸収体としてカーボンナノチューブを含むものが好適に用いられる。
【0017】
光学系13Bは、可飽和吸収素子11を透過して出力される各波長の光を入力し、これらの光をコリメートして空間型回折格子素子12Bへ入力させる。空間型回折格子素子12Bは、光学系13Bによりコリメートされた各波長の光を入力して、これらの光を合波して出力する。光学系14Bは、空間型回折格子素子12Bにより合波されて出力された光を入力し、この光を集光して光ファイバ15Bの端面に入力させる。
【0018】
この雑音抑圧器10は以下のように動作する。光ファイバ15Aの端面から出力された光は、光学系14Aによりコリメートされて空間型回折格子素子12Aに入力され、この空間型回折格子素子12Aにより波長毎に分波される。空間型回折格子素子12Aにより分波された各波長の光は、光学系13Aにより集光されて、可飽和吸収素子11上の互いに異なる位置に入力される。この可飽和吸収素子11において、波長毎に、入力光のパワーが大きいときには該光は透過し、入力光のパワーが小さいときには該光は吸収される。可飽和吸収素子11を透過した各波長の光は、光学系13Bによりコリメートされて空間型回折格子素子12Bに入力され、この空間型回折格子素子12Bにより合波される。そして、空間型回折格子素子12Bにより合波された光は、光学系14Bにより集光されて光ファイバ15Bの端面に入力する。
【0019】
図2は、第1実施形態に係る雑音抑圧器10の動作を説明する為の図である。ここでは、2波長λ,λの光が雑音抑圧器10に入力する場合を考える。同図(a)は雑音抑圧器10に入力する波長λの光のパワーの時間的変化を示し、同図(b)は雑音抑圧器10に入力する波長λの光のパワーの時間的変化を示し、同図(c)は雑音抑圧器10から出力される波長λの光のパワーの時間的変化を示し、また、同図(d)は雑音抑圧器10から出力される波長λの光のパワーの時間的変化を示す。
【0020】
この図に示されるように、雑音抑圧器10に波長λの信号光および波長λの信号光が入力するときには、可飽和吸収素子11の透過率が大きく、信号光は雑音光とともに可飽和吸収素子11を透過して雑音抑圧器10から出力される。また、可飽和吸収素子11に波長λの雑音光および波長λの雑音光のみが入力するときには、可飽和吸収素子11の透過率が小さく、雑音光は可飽和吸収素子11により吸収される。
【0021】
雑音抑圧器10に波長λの信号光が入力するとともに波長λの雑音光のみが入力するときには、波長λの信号光および波長λの雑音光が可飽和吸収素子11上の互いに異なる位置に入力するので、波長λの信号光は可飽和吸収素子11を透過して雑音抑圧器10から出力され、その一方で、波長λの雑音光は可飽和吸収素子11により吸収される。同様に、雑音抑圧器10に波長λの信号光が入力するとともに波長λの雑音光のみが入力するときには、波長λの信号光および波長λの雑音光が可飽和吸収素子11上の互いに異なる位置に入力するので、波長λの信号光は可飽和吸収素子11を透過して雑音抑圧器10から出力され、その一方で、波長λの雑音光は可飽和吸収素子11により吸収される。
【0022】
このように、本実施形態に係る雑音抑圧器10は、多重化された多波長の信号光が入力する場合であっても、各波長の光が可飽和吸収素子11上の互いに異なる位置に入力するので、光SN比を向上させることができ、また、各波長の信号光の間でのクロストークの発生が抑制される。したがって、本実施形態に係る雑音抑圧器10は、WDM光通信に用いられる場合においても、雑音光を抑圧して光SN比を向上させることができる。
【0023】
なお、この第1実施形態に係る雑音抑圧器10の具体的構成例は以下のとおりである。空間型回折格子素子12Aおよび空間型回折格子素子12Bそれぞれは、格子数が1000本/mmであり、使用する回折次数が1である。光学系13Aおよび光学系13Bそれぞれは、焦点距離fが100mmのレンズである。光学系14Aから空間型回折格子素子12Aに入力する光の主光線と空間型回折格子素子12Aの法線とがなす角は48度であり、空間型回折格子素子12Bから光学系14Bに入力する光の主光線と空間型回折格子素子12Bの法線とがなす角は48度である。光ファイバ15Aの端面から出射される波長多重化された光の中心波長は、1550.0nmおよび1550.8nmである。空間型回折格子素子12Aにおける光の回折角は、波長1550.0nmの光では53.79度であり、波長1550.8nmの光では53.87度である。したがって、可飽和吸収素子11における2波長の光それぞれの集光位置の間隔は0.136mm(=f×tan(53.87−53.79))である。
【0024】
また、可飽和吸収素子11において各波長の光が互いに重ならないように各波長の光の集光径を小さく絞ることが必要である。このためには光学系14Aおよび光学系14Bそれぞれの焦点距離fを長くすればよいが、この焦点距離fが長すぎると光学系が大きくなってしまう。そこで、例えば、光学系14Aおよび光学系14Bそれぞれの焦点距離fは50mmであるのが好ましい。この場合、光ファイバ15Aの端面から出射される光のビーム直径φを0.01mmとすると、可飽和吸収素子11における各波長の光のビーム直径は、0.02mm(=φ×f/f)であり、両者の集光位置の距離0.136mmと比べると十分に小さい値となる。
【0025】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る雑音抑圧器の第2実施形態について説明する。図3は、第2実施形態に係る雑音抑圧器20の構成図である。図1に示した第1実施形態に係る雑音抑圧器10の構成と比較すると、この図3に示した第2実施形態に係る雑音抑圧器20は、可飽和吸収素子11に替えて、互いに分離された可飽和吸収素子11および可飽和吸収素子11を備える。
【0026】
すなわち、第2実施形態では、空間型回折格子素子12Aにより分波される各波長に対して個別に可飽和吸収素子が設けられている。可飽和吸収素子11は、空間型回折格子素子12Aにより分波された光のうち波長λの光が光学系13Aにより集光されて到達する位置に設けられている。同様に、可飽和吸収素子11は、空間型回折格子素子12Aにより分波された光のうち波長λの光が光学系13Aにより集光されて到達する位置に設けられている。
【0027】
この第2実施形態に係る雑音抑圧器20は、第1実施形態に係る雑音抑圧器10と同様の動作および効果を奏することができる。
【0028】
なお、この第2実施形態に係る雑音抑圧器10の具体的構成例は、前に第1実施形態で説明したものと同様である。可飽和吸収素子11における2波長の光それぞれの集光位置の間隔が0.136mmであるので、2つの可飽和吸収素子11および可飽和吸収素子11それぞれの中心位置の間の間隔は0.136mmであり、可飽和吸収素子11および可飽和吸収素子11それぞれの幅は例えば0.1mmである。
【0029】
(第3実施形態)
次に、本発明に係る雑音抑圧器の第3実施形態について説明する。図4は、第3実施形態に係る雑音抑圧器30の構成図である。この図に示される雑音抑圧器30は、反射型の可飽和吸収素子31、空間型回折格子素子32、光学系33および光学系34を備え、光ファイバ35とともに用いられる。
【0030】
光学系34は、光ファイバ35の端面から出力された光を入力し、この光をコリメートして空間型回折格子素子32へ入力させる。空間型回折格子素子32は、光学系34によりコリメートされた光を入力して、この入力した光を波長毎に分波する。光学系33は、空間型回折格子素子32により分波された各波長の光を入力し、これらの光を集光して可飽和吸収素子31に入力させる。
【0031】
分波された各波長の光は、可飽和吸収素子31の互いに異なる位置に入力される。可飽和吸収素子31は、反射型のものであって、入力光のパワーが小さいときには反射率が小さく、入力光のパワーが大きいときには反射率が大きい。可飽和吸収素子31は、光学系33から到達した光を入力し、その入力光パワーに応じて反射率が変化する。この可飽和吸収素子31は、互いに密着された可飽和吸収体31aおよび反射ミラー31bを含み、可飽和吸収体31aとしてカーボンナノチューブを含むものが好適に用いられる。
【0032】
光学系33は、可飽和吸収素子31で反射されて出力される各波長の光を入力し、これらの光をコリメートして空間型回折格子素子32へ入力させる。空間型回折格子素子32は、光学系33によりコリメートされた各波長の光を入力して、これらの光を合波して出力する。光学系34は、空間型回折格子素子32により合波されて出力された光を入力し、この光を集光して光ファイバ35の端面に入力させる。
【0033】
すなわち、この第3実施形態では、光分波手段および光合波手段としての共通の空間型回折格子素子32が設けられている。また、光学系33は、この空間型回折格子素子32により分波された各波長の光を集光して反射型の可飽和吸収素子31に入力させるとともに、この可飽和吸収素子31で反射して出力される各波長の光をコリメートして空間型回折格子素子32に入力させる。
【0034】
この雑音抑圧器30は以下のように動作する。光ファイバ35の端面から出力された光は、光学系34によりコリメートされて空間型回折格子素子32に入力され、この空間型回折格子素子32により波長毎に分波される。空間型回折格子素子32により分波された各波長の光は、光学系33により集光されて、可飽和吸収素子31上の互いに異なる位置に入力される。この可飽和吸収素子31において、波長毎に、入力光のパワーが大きいときには該光は反射され、入力光のパワーが小さいときには該光は吸収される。可飽和吸収素子31で反射された各波長の光は、光学系33によりコリメートされて空間型回折格子素子32に入力され、この空間型回折格子素子32により合波される。そして、空間型回折格子素子32により合波された光は、光学系34により集光されて光ファイバ35の端面に入力する。なお、光ファイバ35には、光サーキュレータまたは光カプラが結合されていて、これにより、入力光と出力光とが互いに分離される。この第3実施形態に係る雑音抑圧器30も、第1実施形態に係る雑音抑圧器10と同様の効果を奏することができる。
【0035】
(第4実施形態)
次に、本発明に係る雑音抑圧器の第4実施形態について説明する。図5は、第4実施形態に係る雑音抑圧器40の構成図である。図4に示した第3実施形態に係る雑音抑圧器30の構成と比較すると、この図5に示した第4実施形態に係る雑音抑圧器40は、可飽和吸収素子31に替えて、互いに分離された可飽和吸収素子311および可飽和吸収素子312を備える。
【0036】
可飽和吸収素子311は、反射型のものであって、互いに密着された可飽和吸収体311aおよび反射ミラー311bを含む。同様に、可飽和吸収素子312は、反射型のものであって、互いに密着された可飽和吸収体312aおよび反射ミラー312bを含む。可飽和吸収体311aおよび可飽和吸収体312aそれぞれとしてカーボンナノチューブを含むものが好適に用いられる。
【0037】
すなわち、第4実施形態では、空間型回折格子素子32により分波される各波長に対して個別に可飽和吸収素子が設けられている。可飽和吸収素子311は、空間型回折格子素子32により分波された光のうち波長λの光が光学系33により集光されて到達する位置に設けられている。同様に、可飽和吸収素子312は、空間型回折格子素子32により分波された光のうち波長λの光が光学系33により集光されて到達する位置に設けられている。
【0038】
この第4実施形態に係る雑音抑圧器40は、第3実施形態に係る雑音抑圧器30と同様の動作および効果を奏することができる。
【0039】
(第5実施形態)
次に、本発明に係る雑音抑圧器の第5実施形態について説明する。図6は、第5実施形態に係る雑音抑圧器50の構成図である。この図に示される雑音抑圧器50は、透過型の可飽和吸収素子51、導波路型回折格子素子52Aおよび導波路型回折格子素子52Bを備え、光ファイバ55Aおよび光ファイバ55Bとともに用いられる。
【0040】
導波路型回折格子素子52Aは、光ファイバ55Aの端面から出力された光を入力し、この光を波長毎に分波して可飽和吸収素子51に入力させる。導波路型回折格子素子52Aは、スラブ導波路521A、アレイ導波路522Aおよびスラブ導波路523Aを含む。アレイ導波路522Aは、スラブ導波路521Aとスラブ導波路523Aとの間に設けられた複数本の光導波路を含み、これら複数本の光導波路それぞれの光路長が異なる。導波路型回折格子素子52Aは、アレイ導波路522Aに含まれる複数本の光導波路それぞれの光路長が異なることを利用して、光ファイバ55Aからスラブ導波路521Aに入力した光を波長毎に分波して、その分波した波長毎の光をスラブ導波路523Aの出力側において互いに異なる位置から出力する。
【0041】
導波路型回折格子素子52Aにより分波された各波長の光は可飽和吸収素子51の互いに異なる位置に入力される。可飽和吸収素子51は、透過型のものであって、入力光のパワーが小さいときには透過率が小さく、入力光のパワーが大きいときには透過率が大きい。可飽和吸収素子51は、導波路型回折格子素子52Aから到達した光を入力し、その入力光パワーに応じて透過率が変化する。この可飽和吸収素子51は可飽和吸収体としてカーボンナノチューブを含むものが好適に用いられる。可飽和吸収素子51は、導波路型回折格子素子52Aのスラブ導波路523Aと、導波路型回折格子素子52Bのスラブ導波路521Bと、の間に挟まれている。
【0042】
導波路型回折格子素子52Bは、可飽和吸収素子51を透過して出力される各波長の光を入力し、これらの光を合波して、その合波した光を光ファイバ55Bの端面に入力させる。導波路型回折格子素子52Bは、スラブ導波路521B、アレイ導波路522Bおよびスラブ導波路523Bを含む。アレイ導波路522Bは、スラブ導波路521Bとスラブ導波路523Bとの間に設けられた複数本の光導波路を含み、これら複数本の光導波路それぞれの光路長が異なる。導波路型回折格子素子52Bは、アレイ導波路522Bに含まれる複数本の光導波路それぞれの光路長が異なることを利用して、スラブ導波路521Bの入力側において互いに異なる位置に入力した各波長の光を合波して、その合波した光をスラブ導波路523Bの出力側に接続された光ファイバ55Bに入力させる。
【0043】
この雑音抑圧器50は以下のように動作する。光ファイバ55Aの端面から出力された光は、導波路型回折格子素子52Aのスラブ導波路521Aに入力し、アレイ導波路522Aを導波して、スラブ導波路523Aの出力側において波長毎に異なる位置に出力される。導波路型回折格子素子52Aのスラブ導波路523Aから分波されて出力された各波長の光は、可飽和吸収素子51上の互いに異なる位置に入力される。この可飽和吸収素子51において、波長毎に、入力光のパワーが大きいときには該光は透過し、入力光のパワーが小さいときには該光は吸収される。そして、可飽和吸収素子51を透過した各波長の光は、導波路型回折格子素子52Bのスラブ導波路521Bに入力し、アレイ導波路522Bを導波し、スラブ導波路523Bの出力側において合波されて出力され、光ファイバ55Bの端面に入力する。この第5実施形態に係る雑音抑圧器50も、第1実施形態に係る雑音抑圧器10と同様の効果を奏することができる。
【0044】
なお、導波路型回折格子素子52Aおよび導波路型回折格子素子52Bが共通の基板上に形成されていて、導波路型回折格子素子52Aと導波路型回折格子素子52Bとの間に設けられた基板上の溝に可飽和吸収素子51が挿入されているのが好適である、或いは、導波路型回折格子素子52Aが第1基板上に形成され、スラブ導波路523Aの出力側が第1基板の端面に位置し、また、導波路型回折格子素子52Bが第2基板上に形成され、スラブ導波路521Bの入力側が第2基板の端面に位置していて、第1基板における導波路型回折格子素子52Aのスラブ導波路523Aの出力側の端面と、第2基板における導波路型回折格子素子52Bのスラブ導波路521Bの入力側の端面との間に、可飽和吸収素子51が挟まれていてもよい。
【0045】
(第6実施形態)
次に、本発明に係る雑音抑圧器の第6実施形態について説明する。図7は、第6実施形態に係る雑音抑圧器60の構成図である。この図に示される雑音抑圧器60は、反射型の可飽和吸収素子61および導波路型回折格子素子62を備え、光ファイバ65とともに用いられる。
【0046】
導波路型回折格子素子62は、光ファイバ65の端面から出力された光を入力し、この光を波長毎に分波して可飽和吸収素子61に入力させる。また、導波路型回折格子素子62は、可飽和吸収素子61で反射されて出力される各波長の光を入力し、これらの光を合波して、その合波した光を光ファイバ65の端面に入力させる。
【0047】
導波路型回折格子素子62は、スラブ導波路621、アレイ導波路622およびスラブ導波路623を含む。アレイ導波路622は、スラブ導波路621とスラブ導波路623との間に設けられた複数本の光導波路を含み、これら複数本の光導波路それぞれの光路長が異なる。導波路型回折格子素子62は、アレイ導波路622に含まれる複数本の光導波路それぞれの光路長が異なることを利用して、光ファイバ65からスラブ導波路621に入力した光を波長毎に分波して、その分波した波長毎の光をスラブ導波路623の出力側において互いに異なる位置から出力する。また、導波路型回折格子素子62は、スラブ導波路623の入力側において互いに異なる位置に入力した各波長の光を合波して、その合波した光をスラブ導波路621に接続された光ファイバ65に入力させる。
【0048】
導波路型回折格子素子62により分波された各波長の光は可飽和吸収素子61の互いに異なる位置に入力される。可飽和吸収素子61は、反射型のものであって、入力光のパワーが小さいときには反射率が小さく、入力光のパワーが大きいときには反射率が大きい。可飽和吸収素子61は、導波路型回折格子素子62から到達した光を入力し、その入力光パワーに応じて反射率が変化する。この可飽和吸収素子61は、互いに密着された可飽和吸収体61aおよび反射ミラー61bを含み、可飽和吸収体61aとしてカーボンナノチューブを含むものが好適に用いられる。
【0049】
すなわち、この第6実施形態では、光分波手段および光合波手段としての共通の導波路型回折格子素子62が設けられている。そして、この導波路型回折格子素子62により分波された各波長の光を反射型の可飽和吸収素子61に入力させ、この可飽和吸収素子61で反射して出力される各波長の光を導波路型回折格子素子62により合波する、
この雑音抑圧器60は以下のように動作する。光ファイバ65の端面から出力された光は、導波路型回折格子素子62のスラブ導波路621に入力し、アレイ導波路622を導波して、スラブ導波路623の出力側において波長毎に異なる位置に出力される。導波路型回折格子素子62のスラブ導波路623から分波されて出力された各波長の光は、可飽和吸収素子61上の互いに異なる位置に入力される。この可飽和吸収素子61において、波長毎に、入力光のパワーが大きいときには該光は反射され、入力光のパワーが小さいときには該光は吸収される。そして、可飽和吸収素子61で反射された各波長の光は、導波路型回折格子素子62のスラブ導波路623に入力し、アレイ導波路622を導波し、スラブ導波路621の出力側において合波されて出力され、光ファイバ65の端面に入力する。なお、光ファイバ65には、光サーキュレータまたは光カプラが結合されていて、これにより、入力光と出力光とが互いに分離される。この第6実施形態に係る雑音抑圧器60も、第1実施形態に係る雑音抑圧器10と同様の効果を奏することができる。
【0050】
なお、導波路型回折格子素子62が基板上に形成され、スラブ導波路623の出力側が基板の端面に位置していて、基板における導波路型回折格子素子62のスラブ導波路623の出力側の端面に可飽和吸収素子61が設けられているのが好適である。
【0051】
(変形例)
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上記の各実施形態では雑音抑圧器への光の入出力のために光ファイバが用いられているが、この光ファイバに替えて他の光学系が用いられてもよい。
【0052】
第1〜第4の実施形態それぞれにおいて、光ファイバと空間的回折格子素子との間の光学系、および、可飽和吸収素子と空間的回折格子素子との間の光学系それぞれは、1個または複数個のレンズを含むものであってもよいし、レンズに替わる他の集光光学系またはコリメート光学系であってもよい。また、光ファイバと空間的回折格子素子との間の光学系は、その光ファイバの先端に設けられたコリメータレンズであってもよい。
【0053】
第1および第3の実施形態の構成に対して、光分波手段により分波される各波長に対応して可飽和吸収素子が個別に設けられている構成として第2および第4の実施形態を示したが、第5および第6の実施形態の構成に対しても、光分波手段により分波される各波長に対応して可飽和吸収素子が個別に設けられている構成としてもよい。
【0054】
上記の各実施形態では入力光の波数を2としたが、これに限られない。
【0055】
上記の各実施形態では可飽和吸収素子がカーボンナノチューブを含むものであるとしたが、これに限られない。例えば、可飽和吸収素子は、多重量子井戸構造(MQW)の可飽和吸収体等の半導体のものを含むものであってもよい。
【0056】
第3,第4および第6の実施形態では、可飽和吸収体と反射ミラーとからなる可飽和吸収素子として、半導体可飽和ミラー(SESAM:Semiconductor Saturable Absorber Mirror)が用いられるのも好適である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】第1実施形態に係る雑音抑圧器10の構成図である。
【図2】第1実施形態に係る雑音抑圧器10の動作を説明する為の図である。
【図3】第2実施形態に係る雑音抑圧器20の構成図である。
【図4】第3実施形態に係る雑音抑圧器30の構成図である。
【図5】第4実施形態に係る雑音抑圧器40の構成図である。
【図6】第5実施形態に係る雑音抑圧器50の構成図である。
【図7】第6実施形態に係る雑音抑圧器60の構成図である。
【図8】従来の雑音抑圧器の問題点を説明する為の図である。
【符号の説明】
【0058】
10・・・雑音抑圧器、11,11,11…可飽和吸収素子、12A,12B…空間型回折格子素子、13A,13B…光学系、14A,14B…光学系、15A,15B…光ファイバ、20…雑音抑圧器、30…雑音抑圧器、31…可飽和吸収素子、32…空間型回折格子素子、33…光学系、34…光学系、35…光ファイバ、40…雑音抑圧器、311,312…可飽和吸収素子、50…雑音抑制器、51…可飽和吸収素子、52A,52B…導波路型回折格子素子、55A,55B…光ファイバ、60…雑音抑制器、61…可飽和吸収素子、62…導波路型回折格子素子、65…光ファイバ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力した光を波長毎に分波する光分波手段と、この光分波手段により分波された各波長の光を入力する可飽和吸収素子と、この可飽和吸収素子から出力される各波長の光を合波して出力する光合波手段と、を備えることを特徴とする雑音抑圧器。
【請求項2】
前記可飽和吸収素子は、前記光分波手段により分波される各波長に対応して個別に設けられている、ことを特徴とする請求項1記載の雑音抑圧器。
【請求項3】
前記光分波手段により分波された各波長の光を集光して前記可飽和吸収素子に入力させる光学系を更に備えることを特徴とする請求項1記載の雑音抑圧器。
【請求項4】
前記光分波手段により分波された各波長の光は、前記可飽和吸収素子の互いに異なる位置に入力される、ことを特徴とする請求項1記載の雑音抑圧器。
【請求項5】
前記可飽和吸収素子は反射型のものであることを特徴とする請求項1記載の雑音抑圧器。
【請求項6】
前記可飽和吸収素子は透過型の可飽和吸収体と反射ミラーとを含むことを特徴とする請求項5記載の雑音抑圧器。
【請求項7】
前記光分波手段および前記光合波手段の双方または何れか一方は空間型回折格子素子を含むことを特徴とする請求項1記載の雑音抑圧器。
【請求項8】
入力した光を波長毎に分波する前記光分波手段としての第1空間型回折格子素子と、
この第1空間型回折格子素子により分波された各波長の光を集光して透過型の前記可飽和吸収素子に入力させる第1光学系と、
前記可飽和吸収素子を透過して出力される各波長の光をコリメートする第2光学系と、
この第2光学系によりコリメートされた各波長の光を合波して出力する前記光合波手段としての第2空間型回折格子素子と、
を備えることを特徴とする請求項7記載の雑音抑圧器。
【請求項9】
前記光分波手段および前記光合波手段としての共通の空間型回折格子素子と、
この空間型回折格子素子により分波された各波長の光を集光して反射型の前記可飽和吸収素子に入力させるとともに、この可飽和吸収素子で反射して出力される各波長の光をコリメートして前記空間型回折格子素子に入力させる光学系と、
を備えることを特徴とする請求項7記載の雑音抑圧器。
【請求項10】
前記光分波手段および前記光合波手段の双方または何れか一方は導波路型回折格子素子を含むことを特徴とする請求項1記載の雑音抑圧器。
【請求項11】
入力した光を波長毎に分波して透過型の前記可飽和吸収素子に入力させる前記光分波手段としての第1導波路型回折格子素子と、
この可飽和吸収素子を透過して出力される各波長の光を合波して出力する前記光合波手段としての第2導波路型回折格子素子と、
を備えることを特徴とする請求項10記載の雑音抑圧器。
【請求項12】
前記第1導波路型回折格子素子および前記第2導波路型回折格子素子が共通の基板上に形成されており、
前記第1導波路型回折格子素子と前記第2導波路型回折格子素子との間に設けられた前記基板上の溝に前記可飽和吸収素子が挿入されている、
ことを特徴とする請求項11記載の雑音抑圧器。
【請求項13】
前記光分波手段および前記光合波手段としての共通の導波路型回折格子素子を備え、
この導波路型回折格子素子により分波された各波長の光を反射型の前記可飽和吸収素子に入力させ、この可飽和吸収素子で反射して出力される各波長の光を前記導波路型回折格子素子により合波する、
ことを特徴とする請求項10記載の雑音抑圧器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−337909(P2006−337909A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−165439(P2005−165439)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】