説明

雑音除去装置

【課題】 リアルタイム性を損なわず、インパルス状磁気雑音を除去可能な雑音除去装置を提供すること。
【解決手段】 インパルス状磁気雑音の発生に同期して動作する予測値計算部13と、窓関数係数値を算出する窓関数計算部14を備え、予測値計算部13と窓関数計算部14を乗じて雑音推定補間信号が算出され、雑音推定補間信号を入力信号11から減じることにより、インパルス状磁気雑音を除去する雑音除去装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサで取得した入力信号に含まれるインパルス状磁気雑音を除去するための雑音除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気センサの高感度化、小型化により、磁気センサを利用する環境が多様となり、設置環境で発生する磁気が出力信号に及ぼす影響が大きくなっている。
【0003】
特に磁気センサをデバイスに搭載した場合、デバイス内の他の電子機器が動作する時に同期して発生するインパルス状磁気雑音の影響は大きく、磁気センサの検出レベルの何十倍という雑音を発生させている。
【0004】
従来、雑音を除去する方法としては、特許文献1、2に記載されているような手法が使用されている。特許文献1では、環境雑音が存在する環境下で音声がときどき入力されるような場合には、雑音スペクトル更新部が、フーリエ分析部の出力と雑音スペクトル記憶部内の前の雑音スペクトルとに基づいて、現在の雑音スペクトルを求め、雑音スペクトル記憶部内の前の雑音スペクトルと求めた現在の雑音スペクトルとを、雑音信号判定部の判定に基づいて切り換え、推定雑音スペクトルとして出力し、雑音スペクトル記憶部内の前の雑音スペクトルを現在の雑音スペクトルに更新し、雑音が重畳した音声から雑音を除去している。
【0005】
また、特許文献2では、入力信号の音響特徴量をフレームごとに抽出し、クリーン音声信号と無音信号の確率モデルを利用して、雑音モデルパラメータを、並列処理により、かつ時間軸に対し順方向だけでなく逆方向にも推定する。そして、フレーム毎に非音声状態/音声確率及び非音声状態確率に対する音声確率の比を算出し、当該音声確率の比と閾値を比較して音声区間推定を行う。さらに、各確率モデルのパラメータと非音声状態/音声確率とを用い、雑音信号を除去する周波数応答フィルタを生成し、当該周波数応答フィルタをインパルス応答フィルタに変換し、入力信号に対して当該インパルス応答フィルタを畳み込んで雑音除去音声信号を生成して出力している。
【0006】
図4は特許文献1に示す従来の雑音除去装置の動作フローの一例を示す図である。図4において、雑音の重畳した入力波形に対し、10ms〜20ms程度の局所時間データを切出し、窓掛け部21によりデータの連続性を保つため窓関数を掛ける。続いてFFT分析部22により周波数分析を行い、この分析結果を振幅スペクトルと位相スペクトルに分解する。振幅スペクトルは、音声区間検知部23、雑音スペクトル更新部24、雑音引き算部25に出力される。一方、位相スペクトルは、音声波形の再合成のためにIFFT合成部27に出力される。
【0007】
音声区間検知部23では、入力された雑音信号の重畳した音声信号のある音声区間、および音声の無い雑音信号のみの雑音区間を判別し、雑音スペクトル更新部24に出力する。雑音スペクトル更新部24では、音声区間および雑音区間における雑音信号を推定する。雑音引き算部25では、FFT分析部からの雑音信号の重畳した振幅スペクトルから、雑音スペクトル更新部24で推定された雑音信号を各周波数について減じる処理を行う。負係数0化部26では、雑音引き算部25での引き算の結果、振幅が負になる周波数についてその振幅を0にする。雑音信号が除かれた振幅スペクトルと位相スペクトルを、IFFT合成部27により合成処理および逆フーリエ変換を行い、さらに、窓掛け波形の加算による合成部28にて連続波形を再生、出力することによって、雑音が除去された音声信号の波形を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−160994号公報
【特許文献2】特開2009−210647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した従来の雑音除去装置は、サンプリング間隔が10ms〜20ms程度の音声信号処理では利点を有している。しかし、サンプリング間隔が大きくなる場合には、FFT分析とIFFT合成を実施することに伴う遅延とメモリ量増加が問題となる。すなわち、一旦周波数領域への変換を行い、周波数成分で雑音推定、除去を行い、再び時間領域へ再変換および合成を行うため、例えば50Hz以下の低周波信号のような、サンプリング間隔100msを超える信号の場合には、より長いデータ処理時間が必要となる。そのため、リアルタイム性と雑音除去性能を両立することが困難であった。
【0010】
そこで本発明は、リアルタイム性を損なわず、インパルス状磁気雑音を除去可能な雑音除去装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するため、本発明の雑音除去装置は、低周波観測信号に対し、時間軸領域での単純処理を行い、リアルタイム性を損なわず、インパルス状磁気雑音を除去可能としたものである。
【0012】
本発明によれば、インパルス状磁気雑音が混在した入力信号から前記インパルス状磁気雑音を除去する雑音除去装置であって、前記インパルス状磁気雑音の発生に同期して動作する予測値計算部と、窓関数係数値を算出する窓関数計算部を備え、前記予測値計算部と前記窓関数計算部を乗じて雑音推定補間信号が算出され、前記雑音推定補間信号を前記入力信号から減じることにより、前記インパルス状磁気雑音を除去することを特徴とする雑音除去装置が得られる。
【0013】
本発明によれば、前記予測値計算部は、前記インパルス状磁気雑音の発生と共に、前記予測値計算部のメモリ内に保持した過去のデータから近似予測値を算出することを特徴とする上記の雑音除去装置が得られる。
【0014】
本発明によれば、前記窓関数計算部は、前記インパルス状磁気雑音の発生を起点として、1から0へ連続的に変化する窓関数係数値を出力することを特徴とする上記の雑音除去装置が得られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、インパルス状磁気雑音の発生を起点として予測値計算と窓関数計算を行うことにより、雑音推定補間信号を算出し、この信号を入力信号から減じることとで、インパルス状磁気雑音を除去可能となる。また、本発明においては、周波数成分分析が不要なことから、リアルタイム性を損なわない雑音除去装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による雑音除去装置を示す図。
【図2】インパルス状磁気雑音の除去結果を示す図で、図2(a)は、周波数−パワースペクトル特性図で、図2(b)は時間−磁気レベル特性図。
【図3】窓関数計算部による窓関数係数出力値を示す図。
【図4】従来の雑音除去装置の動作フローの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0018】
図1は本発明による雑音除去装置を示す図である。本発明の雑音除去装置1について、以下に説明する。磁気センサで検出した入力信号11に、インパルス状磁気雑音としてインパルス発生トリガ信号12を入力し、サンプリングを行う。予測値計算部13は、インパルス発生トリガ信号12が入力されるまで、過去データを使用し、以下に示す(数1)により回帰直線係数a、bを逐次算出している。(数1)は回帰直線係数を算出する数式である。インパルス発生トリガ信号12が入力されると同時に、最新の回帰直線係数に固定し、インパルス発生トリガ信号12入力からの時間経過による算出データ数に対応した近似予測値を出力するよう構成され、入力信号11に対する近似予測を行う。(数1)において、Nは算出データ数、x(i)はNで規定される最も古い過去データをゼロとしたデータ番号、y(i)はx(i)に対応する入力信号とする。入力信号11から予測値計算部13で出力された近似予測値を減算し、雑音推定信号を出力する。
【0019】
【数1】

【0020】
本実施の形態では、予測値計算部13において、回帰直線での近似を行ったが、これは本実施例では、低周波信号に対してインパルス状磁気雑音の発生時間が短いことを想定しており、直線的に近似しても入力信号に対する影響は微小であるためである。また、回帰直線での近似以外にも、2次数の近似式でも本発明の効果が得られる。
【0021】
インパルス発生トリガ信号12入力からの時間経過に伴う算出データ数が増えるに従い、近似予測値を減算した雑音推定信号は、入力信号11に対し時間差による遅延誤差が増加する。この遅延誤差の増加を抑制するために、雑音推定信号に窓関数計算部14で計算された窓関数係数を掛け合わせ、雑音推定信号を窓関数で補間するのが好ましい。図3は、窓関数計算部による窓関数係数出力値を示す図である。窓関数計算部14は、インパルス発生トリガ信号12入力中に1〜0へ変化するように、以下に示す(数2)より窓関数係数を算出し、図3のような係数が出力されるよう構成されている。窓幅WNのi番目データに対する窓関数係数出力値W(i)は(数2)のように示される。ここで重み決定係数COEは、経過データ数に対する窓関数係数出力値W(i)を変化させる係数である。
【0022】
【数2】

【0023】
入力信号11から近似予測値による変化分を減じた雑音推定信号に、窓関数計算部14で計算された窓関数係数出力値を掛け合わせ補間して得られた雑音推定補間信号を、入力信号11から減算することで、インパルス状磁気雑音が除去された出力信号15を得ることが出来る。
【0024】
なお、窓関数計算部14は、インパルス発生トリガ信号12が入力されていない場合は、ゼロを出力するよう構成されているため、入力信号11は出力信号15へと無補償で出力される。
【実施例】
【0025】
本実施例では、入力信号のサンプリング間隔100ms、(数1)での回帰直線係数の算出データ数Nを2〜100とし、(数2)での窓幅WNを11〜61、重み決定係数COEを1〜32として、雑音除去前の入力信号と、雑音除去後の出力信号を周波数解析し、周波数−パワースペクトル特性を測定し、雑音除去レベルを算出した。雑音除去レベルは、10Hzにおいて、インパルス発生トリガ信号が混在した入力信号の最大値から出力信号の最大値を減算した値である。表1は、各条件での雑音除去レベルの算出結果である。
【0026】
【表1】

【0027】
表1からわかるように、本発明の雑音除去装置によると、雑音除去前の入力信号から−15dB〜−30dB程度の雑音除去効果が得られていることが確認できる。なお、10Hz以外の周波数においても同レベルの雑音除去効果が得られた。
【0028】
本発明の雑音除去装置において、入力信号のサンプリング間隔は50ms未満であると、正確な信号を再現できず、500msより大きいと必要以上にデータ数が多くなり信号処理に時間がかかるため、50ms〜500msが望ましい。(数1)での回帰直線係数の算出データ数Nは、100以上では予測値計算時間が長くなることで低周波信号の影響を受け補間誤差が増えて本発明の実施効果が得られないため2〜100が望ましい。また、(数2)での窓幅WNは21〜61が望ましく、21〜61の範囲外のとき、表1からわかるように、雑音除去効果が得られない。重み決定係数COEは、32を超えると単なる直線近似補間に近づき補間誤差が増え本発明による実施効果が得られないため1〜32程度が望ましい。
【0029】
また、入力信号のサンプリング間隔を100ms、(数1)での回帰直線係数の算出データ数Nを5、(数2)での窓幅WNを41、重み決定係数COEを10としたときの周波数−パワースペクトル特性と、時間領域での振幅特性として磁気レベルを測定した。図2は、インパルス状磁気雑音の除去結果を示す図で、図2(a)は、周波数−パワースペクトル特性図で、図2(b)時間−磁気レベル特性図である。
【0030】
図2(a)から明らかなように、本発明の雑音除去装置によると、雑音除去後は測定した全周波数において高い雑音除去レベルが得られている。また、図2の(b)から明らかなように、磁気雑音除去前後の磁気レベルを測定した結果、インパルス状磁気雑音に対する雑音除去効果が得られており、時間軸で信号遅延も発生しないことが確認できた。
【0031】
本発明の雑音除去装置は、コンピュータでのプログラムとして構成してもよいし、少なくとも一部をハードウエアとして構成しても良い。本発明は上述の実施の形態に限定されるものではないことは言うまでもなく、各部の構成値は目的や要求性能に応じて設計変更可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 雑音除去装置
11 入力信号
12 インパルス発生トリガ信号
13 予測値計算部
14 窓関数計算部
15 出力信号
21 窓掛け部
22 FFT分析部
23 音声区間検知部
24 雑音スペクトル更新部
25 雑音引き算部
26 負係数0化部
27 IFFT合成部
28 窓掛け波形の加算による合成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インパルス状磁気雑音が混在した入力信号から前記インパルス状磁気雑音を除去する雑音除去装置であって、前記インパルス状磁気雑音の発生に同期して動作する予測値計算部と、窓関数係数値を算出する窓関数計算部を備え、前記予測値計算部と前記窓関数計算部を乗じて雑音推定補間信号が算出され、前記雑音推定補間信号を前記入力信号から減じることにより、前記インパルス状磁気雑音を除去することを特徴とする雑音除去装置。
【請求項2】
前記予測値計算部は、前記インパルス状磁気雑音の発生と共に、前記予測値計算部のメモリ内に保持した過去のデータから近似予測値を算出することを特徴とする請求項1に記載の雑音除去装置。
【請求項3】
前記窓関数計算部は、前記インパルス状磁気雑音の発生を起点として、1から0へ連続的に変化する窓関数係数値を出力することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の雑音除去装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−68342(P2012−68342A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211608(P2010−211608)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)