説明

離型フイルム

【目的】 塩化ビニル樹脂、ポリウレタン、アクリル樹脂、等の樹脂からなる艶消しシートの成形に有用な離型フイルムを提供する。
【構成】 表面粗さRaが0.05μm以上で、光沢度が80%以下のポリエステルフイルムの少なくとも片面に、直接または水可溶性有機シラン化合物を用いた下塗り層を介して、側鎖または末端に水酸基を有するポリシロキサン部分加水分解物を用いた塗膜を設けてなることを特徴とする樹脂成形用離型フイルム。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は樹脂成形用離型フイルムに関し、さらに詳しくは塩化ビニル樹脂、ポリウレタン、アクリル樹脂等の樹脂からなる艶消しシートの成形に有用な離型フイルムに関する。
【0002】
【従来の技術】近年、プラスチック、ゴム等の成形の中で、特に塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリエステル樹脂等のシート成形では、通常その成形性を保持させるために、固化又は硬化反応の工程を、シリコーン等をコーティングしたフイルムや紙の上にそれらの樹脂をキャスティングする方法で行っている。
【0003】これら樹脂の中でも、例えば、塩化ビニル樹脂成形においては、シート状では軟質シート、レザーであることが多く、さらにはその表面は皮革、織物などに似せた凹凸模様で艶消しにすることが多い。
【0004】塩化ビニルシート表面を凹凸状の艶消しにする方法として、通常、シート成形後の工程にてエンボス加工、例えば所望の凹凸模様を有するエンボスロールとバックアップロールからなり、さらに約150℃の加熱装置を有するエンボス装置を用いてエンボス加工する方法がある。
【0005】しかし、このような方法では、各種塩化ビニルシートに対応するためにはエンボス装置への設備投資、コストアップ等が免れ得ない。また、シート表面に微小な凹凸による艶消しを形成させるには技術的にも手間がかかる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明者は、シート成形時シート表面に凹凸模様が形成できれば上記の問題点が解消できることに着目し、シート表面に微細凹凸模様を形成し得る離型フイルムを開発すべく鋭意研究した結果、本発明に到達したものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明は、表面粗さRaが0.05μm以上で、光沢度が80%以下のポリエステルフイルムの少なくとも片面に、側鎖または末端に水酸基を有するポリシロキサン部分加水分解物を用いた塗膜を設けてなることを特徴とする樹脂成形用離型フイルムである。
【0008】本発明におけるポリエステルは、芳香族二塩基酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とから製造される線状飽和ポリエステルであり、具体的にはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン―2,6―ナフタレートなどが例示される。また、これらの一部が第三成分で置換された共重合体や、ポリアルキレングリコールあるいは他の樹脂との混合物であってもよい。
【0009】本発明におけるポリエステルフイルムは、基本的には、従来から知られている方法で製造することができる。例えば、上記ポリエステルを乾燥後溶融し、ダイ(例えばT―ダイ、I―ダイ等)から冷却ドラム上に押出し、急冷して未延伸フイルムを得、続いて該未延伸フイルムを縦方向に2〜4倍延伸し、横方向に2〜4倍延伸し、更に180〜240℃で熱固定することで製造することができる。フイルム厚みは特に制限がないが、5〜200μmが望ましい。
【0010】ポリエステルフイルムとしては表面粗さRaと光沢度の点から透明である必要はなく、またフイルムの滑り性、加工性の点から、滑剤、例えば炭酸カルシウム、カオリン、シリカ、酸化チタンなどのような無機微粒子及び/または触媒残渣の析出微粒子等を含有させたフイルムであってもよく、またドデシルスルホン酸ソーダのような酸化防止剤、色調調整剤等のような他の添加剤を含有させたフイルムであってもよい。
【0011】ポリエステルフイルムに0.05μm以上の表面粗さ(Ra)及び80%以下の光沢度を付与するには、粒径の大きな滑剤例えば、酸化ケイ素、酸化チタン、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子等を含有させることが好ましく、例えば平均粒径1〜10μmの二酸化ケイ素を、ポリエステルの重量当り0.1〜5.0重量%添加含有させることが好ましい。フイルムの表面粗さRaは0.1μm以上、さらには0.2μm以上であることが好ましい。
【0012】本発明において、下塗り層を形成するのに用いる水可溶性有機シラン化合物は、通常ケイ素原子に結合している加水分解性の基と各種の有機官能性基とを有する構造をもつものである。この下塗り層は、離型層の長期安定性の点から存在した方が望ましい。
【0013】かかる水可溶性有機シラン化合物としては、例えばγ―アミノプロピルトリメトキシシラン、γ―アミノプロピルトリエトキシシラン、γ―アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ―ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ―ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ―グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ―グリシドキシメチルジメトキシシラン、γ―グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N―β―(アミノエチル)―γ―アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N―β―(アミノプロピル)―γ―アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N―β―(アミノエチル)―γ―アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらは、本発明に使用できる水可溶性有機シラン化合物の一部を例示したものであり、これらに限定されるものではない。また、水可溶性有機シラン化合物は1種または2種以上を用いることができる。
【0014】水可溶性有機シラン化合物における加水分解性の基は、加水分解によって水酸基を形成し、下塗り層の上に塗布されるポリシロキサン部分加水分解物の水酸基との結合を強める作用をすると考えられ、また活性の強い有機官能基はポリエステルフイルム、被覆層バインダ樹脂との親和力が強く、例えば分子中の1級または2級のアミノ基は水酸基、カルボキシル基、エポキシ基をはじめとする多くの官能基と反応し、フイルムと下塗り層、下塗り層と上塗り層との結合を強固なものにすると考えられる。
【0015】水可溶性有機シラン化合物は、水溶液として、通常0.1〜5.0%の濃度で用いられ、ポリエステルフイルムの表面への塗布量としては0.02〜0.2g/m2 (乾燥後)が好ましい。水可溶性有機シラン化合物の塗布はポリエステルフイルムの製膜工程中で行ってもよく、製膜工程とは違うところで行ってもよい。製膜工程中で行う場合、未延伸フイルム、一軸延伸フイルム(特に縦延伸フイルム)、二軸延伸フイルム、二軸延伸・熱固定後のフイルム等に塗布できる。これらのうち横延伸に供する前の縦延伸フイルムに塗布するのが好ましい。塗布方法としては、例えばスピンコート法、グラビアロールコート法、キスコート法、バーコート法、リバースロールコート法等の各種塗布法を用いることができる。塗布はポリエステルフイルムの片面または両面である。
【0016】本発明において、離型層を形成する側鎖または末端に水酸基を有するポリシロキサン部分加水分解物は、4官能性のケイ素化合物、例えば(Cl2 SiO)n等のクロルポリシロキサン、あるいは加水分解を起こし易いアルコキシシランや、例えばエチルシリケートのようなアルコキシポリシロキサン等に水を作用させて部分加水分解させたもので、側鎖及び末端の基の8割以上が水酸基で置換された、次式で示される化合物(但し、便宜上側鎖の全てが水酸基で置換されたものとして示す)である。
【0017】
【化1】


【0018】この部分加水分解物は、アルコールに溶解するため、アルコール溶液として使用し、直接ポリエステルフイルムの上に、または前記下塗り層の上に塗布し、加熱乾燥させることで被膜を形成する。この加熱乾燥において雰囲気中の水分によって加水分解し、生成したシラノールは縮合反応を起こして三次元結合の酸化ケイ素の膜を形成する。
【0019】これらの反応は知られており、模式的に示すと次の通りである。
【0020】
【化2】


【0021】この部分加水分解物は、市場から入手することができ、例えばコルコートP、コルコートR、コルコート920等を挙げることができる。
【0022】離型層を直接ポリエステルフイルムの上、または水可溶性有機シラン化合物を用いた下塗り層の上に設けるにあたり、コーティングの方法としてはドクターブレード法、バーコート法、グラビアロールコート法、リバースロールコート法等の従来から知られている方法が利用できる。
【0023】本発明の離型フイルムは、塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂等の樹脂からなる艶消しシートの成形用離型フイルムとして、長期間にわたり塗膜密着性の安定した離型性能を奏する。
【0024】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明する。なお、例中のフイルム特性は次の方法で測定した。
【0025】(1)フイルムの表面粗さRa小坂研究所(株)製の触針式表面粗さ計(サーフコーダ30C)を用いて針の半径2μm、触針圧30mgの条件下にチャート(フイルム表面粗さ曲線)をかかせる。フイルム表面粗さ曲線から、その中心線の方向に測定長さLの部分を抜き取り、この抜き取り部分の中心線をX軸とし、縦倍率の方向をY軸として、粗さ曲線をY=f(x)で表わしたとき、次の式(数1)で与えられるRa(μm)をフイルム表面粗さとして定義する。
【0026】
【数1】


【0027】(2)フイルムの光沢度デジタル光沢計GM―3D(村上色彩技術研究所(株)製)を用い、測定角(鏡面反射角)60°における光沢度を測定する。
【0028】
【実施例1】平均粒径約6μmの二酸化ケイ素をポリエステル重量当り1.5%添加した溶融ポリエチレンテレフタレートをダイから押出し、約40℃に維持した回転冷却ドラム上で静電印加を行いながら密着、急冷して未延伸フイルムを得、次いで該未延伸フイルムを縦方向に2.8倍、続いて横方向に3.0倍に延伸し、その後220℃で熱固定を行い75μmの厚さの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフイルムを得た。このフイルムは表面粗さRa0.38μm、光沢度40%であった。
【0029】テトラアルコキシシランの部分加水分解物であるコルコート社(株)製の商品名コルコートPをイソプロピルアルコール(IPA)により希釈し、固形分1.5%の溶液を調整した。
【0030】この塗液を前記二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフイルム上に塗布量6g/m2 (wet)でコーティングし、乾燥温度120℃、乾燥時間1分で乾燥させた。
【0031】このようにして得られた離型フイルムの上に塩化ビニル樹脂をキャスティングし、その後離型することで、シート状の塩化ビニル樹脂が得られた。また、離型された樹脂シートの表面は艶消し表面となっていた。
【0032】
【比較例1】平均粒径約0.6μmの二酸化ケイ素をポリエステル重量当り0.2%添加した溶融ポリエチレンテレフタレートをダイから押出し、約40℃に維持した回転冷却ドラム上で静電印加を行いながら密着、急冷して未延伸フイルムを得、次いで該未延伸フイルムを縦方向に3.6倍、続いて横方向に3.9倍に延伸し、その後220℃で熱固定を行い75μmの厚さの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフイルムを得た。このフイルムは表面粗さRa0.02μm、光沢度92%であった。
【0033】テトラアルコキシシランの部分加水分解物であるコルコート社(株)製の商品名コルコートPをイソプロピルアルコール(IPA)により希釈し、固形分1.5%の溶液を調整した。
【0034】この塗液を前記二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフイルム上に塗布量6g/m2 (wet)でコーティングし、乾燥温度120℃、乾燥時間1分で乾燥させた。
【0035】このようにして得られた離型フイルムの上に塩化ビニル樹脂をキャスティングし、その後離型することで、シート状の塩化ビニル樹脂が得られたが、離型されたその樹脂シートの表面は光沢のあるものであった。
【0036】
【発明の効果】本発明によれば、塩化ビニル樹脂等の樹脂に対し優れた離型性を有し、また離型された樹脂シート表面に艶消しを形成させる離型フイルムを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 表面粗さRaが0.05μm以上で、光沢度が80%以下のポリエステルフイルムの少なくとも片面に、側鎖または末端に水酸基を有するポリシロキサン部分加水分解物を用いた塗膜を設けてなることを特徴とする樹脂成形用離型フイルム。
【請求項2】 表面粗さRaが0.05μm以上で、光沢度が80%以下のポリエステルフイルムの少なくとも片面に、水可溶性有機シラン化合物を用いた下塗り層を介し、側鎖または末端に水酸基を有するポリシロキサン部分加水分解物を用いた塗膜を設けてなることを特徴とする樹脂成形用離型フイルム。