説明

難溶性被験物質のための細胞毒性試験法

【課題】難溶性物質を被験物質とする細胞毒性試験方法を開発する。
【解決手段】本発明は、新規な細胞毒性試験方法を提供する。本発明の細胞毒性試験方法は、可逆的にゲル化可能な生体適合性ゲルがゾル化した液体を用意するステップと、前記液体に細胞を懸濁して該細胞の懸濁液を得るステップと、前記細胞懸濁液をゲル化させて、前記細胞を包埋したゲルを得るステップと、前記細胞を包埋したゲルに被験物質を接触させるステップと、前記細胞を包埋したゲルをゾル化して前記細胞を分離するステップと、前記細胞の生存率を測定するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な細胞毒性試験方法に関し、具体的には、可逆的にゲル化可能な生体適合性ゲルを用いて、液体培地に溶解することが困難な被験物質による前記細胞の生存率を測定する、難溶性被験物質のための細胞毒性試験法に関する。
【背景技術】
【0002】
動物愛護の見地から、毒性試験の対象を動物個体から細胞に転換することは重要である。現在では、さまざまな細胞タイプの細胞を用いた毒性試験方法が開発されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】日本組織培養学会編、細胞トキシコロジー試験法、朝倉書店(1991年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
化粧品や皮膚製剤では、難溶性の有効成分が分散したクリーム又は軟膏として皮膚に塗布して使用される場合がある。かかる難溶性物質は培養液の表面に浮いたり、培養容器の底に沈殿してしまうので、水溶性物質のように単に培養液中に添加して細胞に対する影響を調べることはできない。そこで、難溶性物質を被験物質とする細胞毒性試験方法を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、可逆的にゲル化可能な生体適合性ゲルがゾル化した液体を用意するステップと、前記液体に細胞を懸濁して該細胞の懸濁液を得るステップと、前記細胞懸濁液をゲル化させて、前記細胞を包埋したゲルを得るステップと、前記細胞を包埋したゲルに被験物質を接触させるステップと、前記細胞を包埋したゲルをゾル化して前記細胞を分離するステップと、前記細胞の生存率を測定するステップとを含む、細胞毒性試験方法を提供する。
【0006】
本発明の細胞毒性試験方法において、前記細胞を包埋したゲルをゾル化する前に前記被験物質を除去するステップを含む場合がある。
【0007】
本発明の細胞毒性試験方法において、前記可逆的にゲル化可能な生体適合性ゲルは温度応答性ゲルの場合がある。
【0008】
本発明の細胞毒性試験方法において、前記温度応答性ゲルはメビオールゲル(登録商標)の場合がある。
【0009】
本発明は、メビオールゲル(登録商標)がゾル化した液体を用意するステップと、前記液体にヒト由来の培養細胞を懸濁して該細胞の懸濁液を得るステップと、前記細胞懸濁液をゲル化させて、前記細胞を包埋したゲルを得るステップと、前記細胞を包埋したゲルと、難溶性被験物質を分散させた基材を接触させるステップと、前記細胞を包埋したゲルをゾル化して前記細胞を分離するステップと、前記細胞の生存率を測定するステップとを含む、細胞毒性試験方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の細胞毒性試験の細胞培養条件を検討した結果を示すグラフ。
【図2】本発明の細胞毒性試験の被験物質適用条件を検討した結果を示すグラフ。
【図3】被験物質としてSDSを用いた本発明の細胞毒性試験の結果を示すグラフ。
【図4】被験物質としてHCAを用いた本発明の細胞毒性試験の結果を示すグラフ。
【図5】被験物質としてDNCBを用いた本発明の細胞毒性試験の結果を示すグラフ。
【0011】
本明細書において「可逆的にゲル化可能」とは、温度その他の物理的条件か、低分子の添加その他の化学的条件かを変化させることによって、ゾル状態からゲル状態に転移させ、さらに、ゲル状態からゾル状態に転移させることができることをいう。
【0012】
本明細書における「可逆的にゲル化可能な生体適合性ゲル」は、ゲル状態でも、ゾル状態でも、毒性試験の期間中本発明の細胞の生存率その他の生理状態に関する指標に実質的に影響を与えない。前記ゲルは、ゲル化可能なポリマーと、本発明の細胞の生理状態を維持することのできる培養液又は培地を含む。
【0013】
本明細書において「細胞」とは、古細菌、前核生物及び真核生物のいずれかの種の細胞をいう。本発明の試験方法に用いる細胞は、脊椎動物、特にメダカ、ゼブラフィッシュ等の魚類と、アフリカツメガエル、ネッタイツメガエルその他の両生類と、哺乳動物、特に、マウス、ラットその他の齧歯目と、ブタ、シカ、ウシ、クジラ等の鯨偶蹄目と、イヌ、ネコその他の食肉目と、サル、ヒトその他の霊長目とに属する種の生物に由来することが好ましい。前記細胞は生体から採取された初代培養の細胞の場合と、樹立された細胞株の場合とがある。
【0014】
本明細書において「前記細胞を分離する」には、遠心分離を含むが、これに限られない分離方法を用いることができる。
【0015】
本明細書において「細胞の生存率を測定する」とは、標識されたヌクレオチド前駆体の核内への取り込みその他の細胞増殖活性や、トリパンブルーその他の物質の細胞内への侵入の阻止その他の生体膜の能動輸送活性や、ATP産生、酸化還元酵素活性その他の代謝活性を検出するいずれかの測定方法を実施することをいう。本発明のMTT染色法は、水溶性で黄色のMTT(3−[4,5−dimethylthiazol−2−yl]−2,5−diphenyltetrazolium bromide)が、細胞内に取り込まれると、細胞内のミトコンドリアにある脱水素によって青色の非水溶性の結晶であるホルマザンに変換されることを利用して、570nmにおける吸光度によって、ホルマザン産生量から、ミトコンドリアの脱水素酵素活性を測定する方法である。
【0016】
本明細書において「温度応答性ゲル」とは、該ゲルに包埋された細胞に被験物質を接触させながら培養する温度条件ではゲル状態であって、細胞の生存率その他本発明の試験方法に用いる指標に影響を与えない温度条件でゾル状態に転移することができる生体適合性ゲルをいう。好ましい温度応答性ゲルは、例えば、特開平5−262882号公報、特開2005−60570号公報等に説明される。具体的な製品としては、メビオール株式会社から入手可能な、メビオールゲル(Mebiol Gel、登録商標)がある。
【0017】
本明細書において「難溶性被験物質」とは、本発明の細胞の培養液への溶解度が低いため、細胞の生存率に実質的に影響がないか、IC50が算出できないか、生存率の再現性が低いかのために毒性を評価することが困難な物質をいう。
【0018】
本明細書において難溶性被験物質を分散させる「基材」とは、ワセリンその他の軟膏、乳液、クリームその他の両親媒性物質等をいう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下の実施例によって本発明について詳細な説明を行なうが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【実施例1】
【0020】
1.細胞培養条件検討
温度応答性ゲルを細胞培養担体としたときの細胞培養条件として、温度応答性ゲル及び細胞の混合物の各ウェルの体積と、各ウェルの播種細胞数とを検討した。
【0021】
1−1.方法
(使用した材料)
播種する細胞として、THP−1(ロット番号3374053)が使用された。細胞培養用の培地として、ウシ
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(FCS)を10%含有するRPMI1640(MPバイオ)が使用された。温度応答性ゲルとしてMebiol Gel(登録商標、メビオール株式会社、型番:PMW20−1005)が使用された。培養容器として平底96穴マルチウェルプレートが使用された。
【0022】
(温度応答性ゲルの準備)
クリーンベンチ内で温度応答性ゲルMebiol Gel(凍結乾燥品10mL希釈用)入りのフラスコに培地10mLが添加され、低温(0〜4°C)下で3時間以上静置後、振とうして温度応答性ゲルMebiol Gelが完全に溶解された。完全に溶解した温度応答性ゲルは、数時間〜数日間低温下で静置保存され、消泡された。
【0023】
(温度応答性ゲルと細胞との混合)
THP−1細胞の数は計算盤を使用して計測された。各ウェルの体積が50、80又は100μL、各ウェルの細胞数が0.25x10個、0.5x10個又は1x10個となるように、4°C以下の低温でMebiol GelとTHP−1細胞とが混合され、温度応答性ゲル及び細胞の混合液が調製された。
【0024】
(播種及び培養)
上記のとおり調製された温度応答性ゲル及び細胞の混合液は、各ウェルの体積が50、80又は100μLとなるように96穴マルチウェルプレートに添加され、COインキュベーターで37°C、2分程度培養されることにより温度応答性ゲル及び細胞の混合液がゲル化された。前記混合液はCOインキュベーターで37°C、1〜2分間培養することによりゲル化された。その後、添加した混合液と等量の培地がそれぞれのウェルに添加され、96穴マルチウェルプレートがCOインキュベーターで37°C、2時間培養された。
【0025】
(細胞の回収及び生存率測定)
培養開始から2時間経過後、前記96穴マルチウェルプレートが氷冷され、温度応答性ゲル、細胞等を含む混合液がゾル化された。ゾル化した混合液に培地300μLが添加、混合され、上清が除去された後、200μLの新鮮な培地が96穴マルチウェルプレートに添加された。22時間培養後、MTT染色が施された。
【0026】
(MTT染色及び吸光度の測定)
培養後、1.67mg/mL MTTのPBS溶液を25μL添加し、さらに3時間培養した。その後570nm及び660nmでの吸光度が測定された。、
【0027】
1−2.結果
図1は、温度応答性ゲル及び細胞の混合液の各ウェルの体積と、各ウェルの播種細胞数との条件ごとに、細胞培養後のMTTアッセイにより測定された吸光度を示した結果である。図1において、温度応答性ゲル及び細胞の混合物の各ウェルの体積が横軸で、各条件において同一条件ごとに2個のウェルについて行った吸光度の測定値の平均と、ブランクの吸光度の測定値の平均との差が縦軸で、ウェルあたり播種細胞数0.25x10個のウェルの吸光度が白抜きの棒グラフ、0.5x10個のウェルの吸光度がハッチングの棒グラフ、1x10個のウェルの吸光度が黒塗りの棒グラフである。図1に示すとおり、各ウェルの混合液の体積80μL又は100μL、各ウェルの播種細胞数0.5x10個又は1x10個という条件で細胞の生存率が高かった。したがって以下の実施例では、各ウェルの温度応答性ゲル及び細胞の混合物の体積を80μL、各ウェルの播種細胞数を0.5x10個とする細胞培養条件が用いられた。
【実施例2】
【0028】
2.被験物質適用条件検討
温度応答性ゲルMebiol Gelを細胞培養担体として細胞毒性試験を行なうときの被験物質適用条件として、細胞への被験物質の添加量が、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を被験物質として検討された。
【0029】
2−1.方法
(被験物質の調製)
細胞、培地及び温度応答性ゲルは実施例1と同様に調製された。SDSを生理食塩水に溶解させた後、RPMI培地を用いて、濃度100μg/mLのSDSを含む培地が調製された。
【0030】
(播種及び培養)
温度応答性ゲル及び細胞の混合液は、各ウェルの体積が80μLとなるように96穴マルチウェルプレートに播種された。ウェルは無処理群とSDS処理群との2群に分けられ、無処理群にはSDSを含まない培地が、SDS処理群にはSDSを含む培地が、それぞれ各ウェル25、30、50μLずつ添加され、37°Cのインキュベーターで2時間培養された。
【0031】
(細胞の回収及び生存率測定)
培養開始から2時間経過後、前記96穴マルチウェルプレートは氷冷され、温度応答性ゲル、THP−1細胞等を含む混合液がゾル化された。ゾル化した混合液にRPMI培地300μLが添加及び混合され、上清が除去された後、RPMI培地が200μL添加され、別の96穴マルチウェルプレートに移された。22時間培養後、MTT染色が施され、吸光度が測定された。
【0032】
2−2.結果
図2は、被験物質を含む培地のウェルあたりの体積と、被験物質の種類との条件ごとに、細胞培養後のMTTアッセイにより測定された吸光度を示した結果である。図2において、温度応答性ゲル及び細胞の混合物に添加された、被験物質を含む培地のウェルあたりの体積が横軸で、細胞のMTT染色の吸光度が縦軸で、SDSを含まない培地に曝露された細胞の吸光度が白抜きの棒グラフ、SDSを含む培地に曝露された細胞の吸光度がハッチングの棒グラフである。図2に示すとおり、SDSを含まない培地が添加された対照条件では、培地の添加量にかかわらず吸光度が約1.0に達し、細胞の生存率が高かった。それに対し、SDSを含む培地が添加された条件では、吸光度が、添加量25μL又は30μLでは約0.7に、添加量50μLでは約0.2に、それぞれ低下し、SDSにより細胞の生存率が下がった。添加量50μLの条件は細胞の生存率の低下が著しいため、この条件で細胞毒性試験を行なうのは適切でない。そこで以下の実施例では、各ウェルの添加量25μLとする被験物質適用条件が用いられた。
【実施例3】
【0033】
3.細胞毒性試験
水溶性被験物質としてのSDSと、脂溶性被験物質としてのヒドロキシクエン酸(HCA)と、クリームに分散して利用される難溶性被験物質としてのジニトロクロロベンゼン(DNCB)とを用いて、温度応答性ゲルMebiol Gelを細胞培養担体として用いる細胞毒性試験を実施した。
【0034】
3−1.方法
【0035】
(被験物質の調製)
SDSが生理食塩水に溶解された後、250μg/mLのSDSを含むRPMI培地が調製され、RPMI培地を用いて公比1.2で10段階希釈され、40.4μg/mLから250μg/mLまで11種類の濃度のSDSを含むRPMI培地が調製された。また、HCAがDMSOに溶解された後、1000μg/mLのHCAを含むRPMI培地が調製され、RPMI培地を用いて公比2で10段階希釈され、1.0μg/mLから1000μg/mLまで11種類の濃度のHCAを含むRPMI培地が調製された。また、DNCBを分散させたクリームがDMSOに溶解された後、100μg/mLのDNCBを含むRPMI培地が調製され、RPMI培地を用いて公比2で10段階希釈され、0.1μg/mLから100μg/mLまで11種類の濃度のDNCBを含むRPMI培地が調製された。
【0036】
(温度応答性ゲル中の細胞への被験物質の曝露)
実施例2と同様の手順で温度応答性ゲル及び細胞の混合液が調製された。この混合液80μLに異なる濃度の前記被験物質を含む培地25μLが混合され、COインキュベーターで37°C、2時間培養された。
【0037】
(生存率の算出)
同一条件のウェルを3個ずつ用意して測定する実験を2回行った。それぞれの濃度の被験物質を含む培地を添加したウェルのMTT染色結果の吸光度の測定値3個の平均を出し、被験物質を添加しない培地を温度応答性ゲル及び細胞に添加した対照実験のウェルの吸光度の測定値3個の平均値で除算した結果の百分率を各回の実験の生存率の数値として算出した。つぎに、それぞれの濃度の被験物質の条件ごとの各回の実験の生存率の数値から平均及び標準誤差を算出して、被験物質ごとに折れ線グラフ及び誤差棒として表示した。
【0038】
3−2.結果
以下の表1ないし3は、それぞれ、被験物質SDS、HCA及びDCNBに温度応答性ゲル中でTHP−1細胞に曝露する細胞毒性試験の結果を示す表である。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
図3ないし5のグラフは、それぞれ、被験物質SDS、HCA及びDCNBに温度応答性ゲル中でTHP−1細胞に曝露する細胞毒性試験の結果を示す生存率曲線のグラフである。図3ないし5のグラフの横軸は、各ウェルの80μLの温度応答性ゲル及び細胞の混合液に添加された25μLの被験物質を含む培地における被験物質の濃度である。縦軸は2回の実験の生存率の平均値である。表3及び図5には、被験物質のDCNBを分散させるのに用いた媒体(vehicle)であるクリームだけをDMSOに溶解させた条件での生存率も含まれる。表1ないし3と、図3ないし5とから、いずれの被験物質についても生存率の標準誤差は低く、本発明の細胞毒性試験の再現性が高いことが証明された。
【実施例4】
【0043】
4.本発明の細胞毒性試験と、通常の細胞毒性試験との比較
本発明の温度応答性ゲルを細胞培養担体として用いた細胞毒性試験の結果と、通常の細胞毒性試験の結果との比較を行なうことにより、本発明の細胞毒性試験の再現性、in vivoのデータの反映性等を検討した。
【0044】
5−1.方法
従来の細胞毒性試験として、h−CLAT(human Cell Line Activation Test)法を採用した。Ashikaga,T.ら(Toxicol. In Vitro, 20:767−773(2006))に説明される手順にしたがって、SDS又はHCAを被験物質としてTHP−1細胞によるCD86及びCD54マーカーの発現を指標とするh−CLATを実施し、応答曲線を作成した(図示されない)。前記h−CLAT法によりSDS又はHCAを被験物質として作成された応答曲線と、本発明の温度応答性ゲルMebiol Gelを細胞培養担体として用いた細胞毒性試験によりSDS又はHCAを被験物質として作成された生存曲線とから、50%阻害濃度(IC50)を算出した。また、SDS又はHCAを被験物質として、動物試験により、in vivoの毒性指標として、急性経皮毒性の指標である経皮50%致死濃度(dermal LD50)と、局所リンパ節アッセイ(LLNA)において耳に検体を塗布した際に対照群と比較して耳介のリンパ細胞が3倍に増殖する塗布濃度であるEC3とを評価した。経皮50%致死濃度及びEC3のプロトコールは、それぞれOECDガイドライン402及び429に記載のとおりである。SDS及びHCAの経皮50%致死濃度は、それぞれOECDスクリーニング情報データセット(SIDS)と、Moreno,O.M.、1971年3月24日付け香粧品香料原料安全性研究所報告(Report to RIFM)とに記載される。
【0045】
5−2.結果
表4は、SDS及びHCAを被験物質とするさまざまな試験の結果得られたIC50又はEC3の値をまとめた表である。表で「gel」と表されるのが本発明の温度応答性ゲルに細胞を包埋する方法の結果である。
【0046】
【表4】

【0047】
表4からは、in vitroの毒性試験のうち本発明の温度応答性ゲルを用いる試験法では、in vivoの毒性試験の結果と同様に、SDSの毒性はHCAの毒性と同じか数倍高いという結果が得られた。これに対し、in vitroの毒性試験のうち、h−CLAT法では、逆に、HCAの毒性のほうがSDSの毒性より数倍高い結果となった。したがって、本発明の温度応答性ゲルを用いる試験法のほうが、h−CLAT法よりも生体反映度が高い可能性が示唆される。
【0048】
また、本発明の温度応答性ゲルを用いる試験法と、h−CLAT法とでSDS及びHCAのIC50の平均及び標準誤差を独立した2回の実験を行ってその算出したところ、SDSについては本発明の試験法では124μg/mL±3.72μg/mLであるのに対し、h−CLAT法では80μg/mL±10.5μg/mLであった。また、HCAについては本発明の試験法では741μg/mL±4.25μg/mLであるのに対し、h−CLAT法では31μg/mL±11.5μg/mLであった。これらの結果から、本発明の温度応答性ゲルを用いる試験法のほうが、h−CLAT法よりも再現性に優れていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可逆的にゲル化可能な生体適合性ゲルがゾル化した液体を用意するステップと、前記液体に細胞を懸濁して該細胞の懸濁液を得るステップと、前記細胞懸濁液をゲル化させて、前記細胞を包埋したゲルを得るステップと、前記細胞を包埋したゲルに被験物質を接触させるステップと、前記細胞を包埋したゲルをゾル化して前記細胞を分離するステップと、前記細胞の生存率を測定するステップとを含むことを特徴とする、細胞毒性試験方法。
【請求項2】
前記細胞を包埋したゲルをゾル化する前に前記被験物質を除去するステップを含むことを特徴とする、請求項1に記載の細胞毒性試験方法。
【請求項3】
前記可逆的にゲル化可能な生体適合性ゲルは温度応答性ゲルであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の細胞毒性試験方法。
【請求項4】
前記可逆的にゲル化可能な生体適合性ゲルはメビオールゲル(登録商標)であることを特徴とする、請求項3に記載の細胞毒性試験方法。
【請求項5】
メビオールゲル(登録商標)がゾル化した液体を用意するステップと、前記液体にヒト由来の培養細胞を懸濁して該細胞の懸濁液を得るステップと、前記細胞懸濁液をゲル化させて、前記細胞を包埋したゲルを得るステップと、前記細胞を包埋したゲルと、難溶性被験物質を分散させた基材を接触させるステップと、前記細胞を包埋したゲルをゾル化して前記細胞を分離するステップと、前記細胞の生存率を測定するステップとを含むことを特徴とする、細胞毒性試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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