説明

難燃フラットヤーン

【課題】第1の課題は、現在難燃剤として知られる難燃剤を配合することなく酸素指数が26.0%を超える難燃性が付与された難燃フラットヤーンを提供すること、第2の課題は、市販の難燃剤と併用しても酸素指数が26.0%を超える難燃性が付与された難燃フラットヤーンを提供すること。
【解決手段】本発明に係る難燃フラットヤーンは、ポリエステル樹脂に、難燃剤として酸素指数が20.0%以下のポリプロピレン又はポリエチレンを含有する樹脂組成物を延伸して得られたことを特徴とし、好ましくは、前記樹脂組成物が、他の難燃剤を含有しないことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃フラットヤーンに関し、詳しくは、延伸下で機能する難燃剤として酸素指数の小さい樹脂成分を含有させた難燃フラットヤーンに関する。
【背景技術】
【0002】
難燃性フラットヤーンを得るために、難燃剤を添加することが広く行われている。
【0003】
難燃剤としては、ラジカルトラップ系(ハロゲン系難燃剤、ヒンダードアミンなど)、チャー形成系(リン酸エステルなど)、吸熱・希釈系(水酸化マグネシウムなど)が知られている。
【0004】
特許文献1には、ポリオレフィン、ナイロン、ポリエステル等の熱可塑性樹脂にピペリジル基を含有するトリアジン誘導体を難燃剤として添加した熱可塑性樹脂フィルムから得られる難燃性フラットヤーンが開示されている。このフラットヤーンは、トリアジン誘導体を難燃剤として使用しているために、ハロゲン系難燃剤やリン系難燃剤のように燃焼時に有毒ガスの発生の恐れがない利点がある。しかし、トリアジン誘導体はコストが高く、実用的な難燃性フラットヤーンではない。
【0005】
また、特許文献2には、ポリオレフィン樹脂に赤燐を難燃剤として添加した難燃性フラットヤーンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−333941号公報
【特許文献2】特開2001−322208号公報
【特許文献3】特開平2−187450号公報
【特許文献4】特開2003−049323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、ポリエステル製の難燃性フラットヤーンの開発を行う中で、従来知られているリン系難燃剤を使用した実験を継続したところ、延伸前は酸素指数が32.5%と、通常難燃性に優れるとされる酸素指数26.0%を超えていたが、延伸後には、23.8%まで下がって、難燃効果が発揮できないことがわかった(比較例2)。
【0008】
延伸によって酸素指数が低下することは比較例1でも証明されていることであり、本発明のような延伸フラットヤーンを製造する際には、この延伸後の酸素指数が極めて重要であることがわかった。
【0009】
本発明者は、かかる実験過程で、難燃剤を全く使用せず、しかも、酸素指数が20.0%以下のポリプロピレン又はポリエチレンをポリエステルに配合するだけで、延伸後の酸素指数が26.0%以上のフラットヤーンを得ることができることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明者は、酸素指数が20.0%以下のポリプロピレン又はポリエチレンは、ポリエステルの延伸フラットヤーンにおいて、難燃剤として機能することを発見したものであり、この知見は従来の知見にない新規な思想で、まさに驚くべき知見である。
【0011】
また本発明者は、さらに実験を重ね、従来市販のリン系難燃剤とポリプロピレンを併用する場合には、ポリプロピレンの配合量を所定範囲に制限することによって、酸素指数が27.0%を超える難燃フラットヤーンが得られることを見出した。
【0012】
なお、特許文献3、4には、ポリエステルにポリプロピレンが添加された延伸テープや延伸フラットヤーンが記載されている。しかし、これらの文献はポリプロピレンを添加したことによって難燃性が付与されたという認識は無く、その示唆もされていない。
【0013】
そこで、本発明の第1の課題は、現在難燃剤として知られる難燃剤を配合することなく酸素指数が26.0%を超える難燃性が付与された難燃フラットヤーンを提供することにある。
【0014】
第2の課題は、市販の難燃剤と併用しても酸素指数が26.0%を超える難燃性が付与された難燃フラットヤーンを提供することにある。
【0015】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0017】
(請求項1)
ポリエステル樹脂に、難燃剤として酸素指数が20.0%以下のポリプロピレン又はポリエチレンを含有する樹脂組成物を延伸して得られたことを特徴とする難燃フラットヤーン。
【0018】
(請求項2)
前記樹脂組成物が、他の難燃剤を含有しないことを特徴とする請求項1記載の難燃フラットヤーン。
【0019】
(請求項3)
前記樹脂組成物が、他の難燃剤を含有し、
前記ポリプロピレン又はポリエチレンを前記ポリエステルに対して、5〜18重量%含有することを特徴とする請求項1記載の難燃フラットヤーン。
【0020】
(請求項4)
前記他の難燃剤が、リン系難燃剤であることを特徴とする請求項3記載の難燃フラットヤーン。
【発明の効果】
【0021】
一般に、延伸フラットヤーンは、フィルムを延伸するので、延伸前に比べて厚みが薄くなることと、延伸方向の燃焼速度が大きくなることで酸素指数が低下する(比較例1参照)。しかし、本発明では、酸素指数が20.0%以下のポリプロピレン又はポリエチレンをポリエステルに配合してこの酸素指数の低下も防ぐことができる。ポリプロピレン又はポリエチレンは、延伸フラットヤーンにおいて難燃剤として機能するという驚くべき効果を発揮する。
【0022】
すなわち、本発明によれば、現在難燃剤として知られる難燃剤を配合することなく酸素指数が26.0%を超える難燃性が付与された難燃フラットヤーンを提供することができる。また、市販の難燃剤と併用しても酸素指数が26.0%を超える難燃性が付与された難燃フラットヤーンを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明において、難燃性とは、JIS K7201−2に準拠して測定された酸素指数が26.0%以上、好ましくは27.0%以上のものを指す。酸素指数が20.0%以下は可燃性(燃えやすい)とされる。
【0024】
本発明の難燃フラットヤーンは、ポリエステル樹脂に、難燃剤として酸素指数が20.0%以下のポリプロピレン又はポリエチレンを含有する樹脂組成物を一軸延伸して得られる。
【0025】
本発明において、酸素指数が20.0%以下のポリプロピレン又はポリエチレンのなかでも、ポリプロピレンはMFR(JIS K6922−2)が0.1〜30.0g/10分、密度(JIS K7112)が0.89〜0.91g/cmのもの、ポリエチレンはMFR(JIS K6922−2)が0.1〜30.0g/10分、密度(JIS K7112)が0.89〜0.97g/cmのものが好ましく用いられる。
【0026】
本発明において、ポリプロピレンやポリエチレンの酸素指数は、「ポリマーの難燃化」(西沢 仁 大成社)には、ポリプロピレンの酸素指数が17.4%、ポリエチレンの酸素指数が17.4〜17.5%と記載されており、「最新 難燃剤・難燃化技術[技術資料集]」(技術情報協会)には、ポリプロピレンの酸素指数が19〜20と記載されているので、20.0%以下と表現している。
【0027】
本発明者の実験によると、以下の知見が得られている。ポリエステル樹脂は、延伸前は酸素指数が29.2%と比較的高い素材であるが、延伸すると、酸素指数22.5%と下がり、難燃性は低く燃えやすい素材になる(比較例1)。このポリエステルに市販のリン系難燃剤を配合すると、延伸前の酸素指数32.5%から延伸後に23.8%まで下がる(比較例2)。リン系難燃剤を配合すると、難燃性はわずかに上昇しているが、酸素指数26.0%以上にはほど遠い値であった。
【0028】
ポリエステル樹脂に酸素指数が20.0%以下のポリプロピレン又はポリエチレンを添加することは、燃えやすい物質を添加することになるので、酸素指数の低下を招くと予想されたが、逆に酸素指数が上昇して26.0%を超え、難燃性に分類されるという正反対の結果が得られた。
【0029】
このような驚くべき効果が得られる理論は現在解明されていないが、少なくとも、ポリポリプロピレン又はポリエチレンが、延伸前であれば難燃剤としては機能することは考えにくいが、延伸後では難燃剤として機能していることが実験によって判明している。
【0030】
本発明において、ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートを挙げることができる。これらは、単独で用いても混合して用いても良い。
【0031】
本発明の好ましい第1の態様は、前記樹脂組成物が、他の難燃剤を含有しないことである。ここで他の難燃剤としては、含臭素有機系、メラミン系、リン酸系、燐酸エステル系、三酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、赤リン等の市販あるいは公知の難燃剤が挙げられる。
【0032】
これらの難燃剤を配合しないことにより、市販の難燃剤の組成に起因する有害ガスの発生や、コスト高を招くことがない効果を発揮する。
【0033】
前記ポリプロピレン又はポリエチレンの前記ポリエステルに対する配合量は、格別限定されないが、好ましくは5〜20重量%含有することである。
【0034】
次に本発明の好ましい第2の態様を説明する。
【0035】
この態様は、前記樹脂組成物が、他の難燃剤を含有し、前記ポリプロピレン又はポリエチレンを前記ポリエステルに対して、5〜18重量%含有することである。
【0036】
ポリプロピレン又はポリエチレンがこの範囲を超えると、延伸後の酸素指数が26.0%未満になり、本発明の効果を発揮しえない。
【0037】
含有できる他の難燃剤としては、含臭素有機系、メラミン系、リン酸系、燐酸エステル系、三酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、赤リン等の市販あるいは公知の難燃剤が挙げられ、中でもリン系難燃剤が好ましい。
【0038】
本発明の難燃フラットヤーンを製造するにあたり、フィルムの製造方法および延伸方法は格別限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
【0039】
本発明のフラットヤーンは、本発明の難燃効果を発揮できるものであれば、単層であってもよく、積層体であってもよい。
【0040】
延伸してフラットヤーンを得るには、樹脂組成物フィルムを一軸方向に延伸した後、これをテープ状にスリットしてもよく、あるいは、樹脂組成物フィルムをスリットした後、一軸方向に延伸してもよい。
【0041】
延伸方法としては、熱ロールによる延伸、熱板による延伸、熱風炉内でロールによって延伸する方法等によって行なうことができる。延伸倍率は、3〜12倍、好ましくは3〜10倍程度が適当である。
【0042】
得られた難燃性の延伸フラットヤーンは、平織などの織製により、あるいは多数のフラットヤーンを並列し、その上に交差するように別のフラットヤーンを並列して交点を結合して交差結合布としたりして、布状体として用いることができる。
【0043】
本発明の延伸フラットヤーンには、本発明の効果を損なわない範囲で、
フェノール系、有機ホスファイト系、ホスナイトなどの有機リン系、チオエーテル系等の酸化防止剤;
ヒンダードアミン系等の光安定剤;
ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系等の紫外線吸収剤;
ノニオン系、カチオン系、アニオン系等の帯電防止剤;
ビスアミド系、ワックス系、有機金属塩系等の分散剤;
アミド系、ワックス系、有機金属塩系、エステル系等の滑剤;
有機顔料;無機顔料;金属イオン系などの無機、有機抗菌剤等を含有してもよい。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0045】
(実施例1)
ポリエステル(ベルポリプロダクツ製「EFG85A」、MFR 1.2g/10分)94重量%と、ポリプロピレン(日本ポリプロ製「FY6H」、密度 0.90g/cm、MFR 1.9g/10分)6重量%を配合した樹脂組成物をインフレーション成形法によって厚み26μmのフィルムとし、得られたフィルムをレザーによってスリットした。
【0046】
次いで、温度80〜120℃の熱板上で3倍に延伸して、幅60mm、厚み15μmの延伸フラットヤーンを得た。
【0047】
JIS K7201−2に準拠して延伸前と延伸後の酸素指数を測定し、その結果を表1に示した。
【0048】
(実施例2)
実施例1において、樹脂組成物を、ポリエステル91重量%と、ポリプロピレン6重量%、リン系難燃剤(大日精化工業製「PT−RM8R6182N」)3重量%を配合した樹脂組成物に代えた以外は、同様にして、延伸フラットヤーンを製造し、得られたフラットヤーンについて、実施例1と同様に酸素指数を測定し、その結果を表1に示した。
【0049】
(実施例3)
実施例1において、樹脂組成物を、ポリエステル85重量%と、ポリプロピレン12重量%、リン系難燃剤3重量%を配合した樹脂組成物に代えた以外は、同様にして、延伸フラットヤーンを製造し、得られたフラットヤーンについて、実施例1と同様に酸素指数を測定し、その結果を表1に示した。
【0050】
(実施例4)
実施例1において、樹脂組成物を、ポリエステル85重量%と、ポリエチレン(日本ポリエチレン製「HY333」、密度 0.96g/cm、MFR 0.55g/10分)6重量%、リン系難燃剤3重量%を配合した樹脂組成物に代えた以外は、同様にして、延伸フラットヤーンを製造し、得られたフラットヤーンについて、実施例1と同様に酸素指数を測定し、その結果を表1に示した。
【0051】
(実施例5)
実施例1において、樹脂組成物を、ポリエステル79重量%と、ポリプロピレン18重量%、リン系難燃剤3重量%を配合した樹脂組成物に代えた以外は、同様にして、延伸フラットヤーンを製造し、得られたフラットヤーンについて、実施例1と同様に酸素指数を測定し、その結果を表1に示した。
【0052】
(比較例1)
実施例1において、樹脂組成物を、ポリエステル100重量%のみからなる樹脂に代えた以外は、同様にして、延伸フラットヤーンを製造し、得られたフラットヤーンについて、実施例1と同様に酸素指数を測定し、その結果を表1に示した。
【0053】
(比較例2)
実施例1において、樹脂組成物を、ポリエステル97重量%と、リン系難燃剤3重量%を配合した樹脂組成物に代えた以外は、同様にして、延伸フラットヤーンを製造し、得られたフラットヤーンについて、実施例1と同様に酸素指数を測定し、その結果を表1に示した。
【0054】
(比較例3)
実施例1において、樹脂組成物を、ポリエステル94重量%と、ポリプロピレン3重量%と、リン系難燃剤3重量%を配合した樹脂組成物に代えた以外は、同様にして、延伸フラットヤーンを製造し、得られたフラットヤーンについて、実施例1と同様に酸素指数を測定し、その結果を表1に示した。
【0055】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂に、難燃剤として酸素指数が20.0%以下のポリプロピレン又はポリエチレンを含有する樹脂組成物を延伸して得られたことを特徴とする難燃フラットヤーン。
【請求項2】
前記樹脂組成物が、他の難燃剤を含有しないことを特徴とする請求項1記載の難燃フラットヤーン。
【請求項3】
前記樹脂組成物が、他の難燃剤を含有し、
前記ポリプロピレン又はポリエチレンを前記ポリエステルに対して、5〜18重量%含有することを特徴とする請求項1記載の難燃フラットヤーン。
【請求項4】
前記他の難燃剤が、リン系難燃剤であることを特徴とする請求項3記載の難燃フラットヤーン。