説明

難燃剤およびその製造方法、ならびに樹脂組成物およびその製造方法

【課題】難燃性を向上させると共に難燃性を長期安定的に確保することが可能な難燃剤を提供する。
【解決手段】高分子重合体を含む内部層11と、内部層11の外側に形成されると共にスルホン酸基およびスルホン酸塩基のうちの少なくとも1種が結合した高分子重合体を含む難燃因子層12とを備えている。これにより、難燃因子層12を備えないものと比較して、水分が吸収しにくくなり、難燃剤が互いに付着することが抑制される。よって、ブロッキングが抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃剤およびその製造方法、ならびに難燃剤を含む樹脂組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゴムやプラスチックなどの樹脂組成物は、成形性や耐衝撃性に優れていることから、家電製品や自動車部品などに広く用いられている。これに伴い、耐久性や安全性などの高い樹脂組成物が求められている。中でも、火災時における安全性の向上が望まれており、例えば、樹脂組成物に難燃性を付与する技術の開発が進められている。
【0003】
樹脂組成物に難燃性を付与する技術としては、樹脂用難燃剤を含有させる方法が検討されている。この樹脂用難燃剤としては、例えば、金属水酸化物系(水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム)難燃剤、珪素系(シリコーン、シリカ)難燃剤、ハロゲン(臭素)系難燃剤、あるいはリン系(燐酸エステル、赤燐等)難燃剤などが挙げられる。ところが、金属水酸化物系難燃剤を用いた場合には、樹脂組成物に添加する量が多くなるため、機械的特性が低下しやすくなるという問題があり、ハロゲン系難燃剤を用いた場合には、樹脂組成物の衝撃強度が低下しやすくなるという問題がある。また、珪素系難燃剤は、適用可能な樹脂組成物が限られるため、その用途が限定されるという問題がある。
【0004】
このため、これらの難燃剤の中でもリン系難燃剤が現在注目されている。ところが、このリン系難燃剤を用いた場合には、樹脂組成物を射出成形する時にガスが発生したり、耐衝撃性や耐熱性が低下しやすくなるという問題がある。
【0005】
また、最近では、難燃剤として芳香族環を有するポリマーをスルホン化したものを用いてポリカーボネート樹脂などと共に含有させ、樹脂組成物に難燃性を付与する技術が提案されている(例えば、特許文献1〜5参照。)。
【特許文献1】特開2001−181342号公報
【特許文献2】特開2001−181444号公報
【特許文献3】特開2005−272537号公報
【特許文献4】特開2005−272538号公報
【特許文献5】特開2005−272539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した特許文献1〜5に記載の技術では、難燃剤が水分を吸収しやすいことから、ブロッキングが生じやすくなり、この難燃剤を用いた樹脂組成物を製造する際に、分散させづらくなるという問題がある。また、製造された樹脂組成物では、水分の吸収に伴い、物性が低下しやすくなるという問題がある。
【0007】
最近の家電製品や自動車部品などでは、軽量化と共にそのデザイン性が重視されるため、加工性の高い樹脂組成物がさらに広く用いられる傾向にある。このため、樹脂組成物の物性を長期間安定的に確保すると共に、さらなる安全性の向上、特に難燃性のより一層の向上が望まれている。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、難燃性を向上させると共にその難燃性を長期間安定的に確保することが可能な難燃剤およびその製造方法、ならびに樹脂組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の難燃剤は、粒子状の高分子重合体を含む難燃剤であって、高分子重合体の表層部にスルホン酸基およびスルホン酸塩基のうちの少なくとも1種が結合しているものである。また、本発明の樹脂組成物は、樹脂と、上記した難燃剤とを含有するものである。
【0010】
本発明の難燃剤の製造方法は、水分含有量が3.5重量%以下であると共に粒子状の高分子重合体をスルホン化することにより、スルホン酸基およびスルホン酸塩基のうちの少なくとも1種を表層部に結合させるものである。また、本発明の樹脂組成物の製造方法は、樹脂と、上記した方法により製造された難燃剤とを含有させるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の難燃剤およびそれを含有する樹脂組成物によれば、難燃剤が粒子状の高分子重合体を含み、その高分子重合体の表層部にスルホン酸基およびスルホン酸塩基のうちの少なくとも1種が結合しているので、高湿度環境下であっても、水分の吸収が抑制される。これにより、難燃性を向上させると共にその難燃性を長期間安定的に確保することができる。
【0012】
本発明の難燃剤の製造方法およびそれにより製造された難燃剤を含有させる樹脂組成物の製造方法によれば、難燃剤を、水分含有量が3.5重量%以下であると共に粒子状の高分子重合体をスルホン化することにより、スルホン酸基およびスルホン酸塩基のうちの少なくとも1種を表層部に結合させて形成するので、難燃剤が互いに付着しにくくなり、均一に分散しやすくなるため、相溶性が向上する。これにより、優れた難燃性と共にその難燃性が長期間安定的に確保される樹脂組成物を安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施の形態に係る難燃剤の断面構成を表している。この難燃剤は、樹脂組成物に対して難燃性を付与するものであり、粒子状の内部層11を有し、この内部層11の外側には難燃因子層12が形成されている。
【0015】
内部層11は、高分子重合体により構成されている。この高分子重合体は、任意に設定可能であるが、芳香族環および二重結合からなる群のうちの少なくとも1種を有していてもよい。
【0016】
高分子重合体としては、例えば、ポリスチレン(PS)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS:スチレン−ブタジエン共重合体)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン樹脂(ACS)、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート共重合体(ASA)、アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン共重合体(AES)、アクリロニトリル−エチレン−プロピレン−ジエン−スチレン樹脂(AEPDMS)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスルホン(PSF)、ポリ乳酸(PLE)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンゴム(EPDM)、シリコーンゴム(Q)、あるいは熱可塑性エラストマー(TPE)などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、複数種を混合した混合物(アロイ)として用いてもよい。混合物(アロイ)としては、例えば、ABS/PCアロイ、PS/PCアロイ、AS/PCアロイ、HIPS/PCアロイ、PET/PCアロイ、PBT/PCアロイ、PVC/PCアロイ、PLA/PCアロイ、PPO/PCアロイ、PS/PPOアロイ、HIPS/PPOアロイ、ABS/PETアロイあるいはPET/PBTアロイなどが挙げられる。これらの中でも、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート共重合体、アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン共重合体、アクリロニトリル−エチレン−プロピレン−ジエン−スチレン樹脂、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、あるいはポリスルホンが好ましい。この高分子重合体としては、例えば、熱可塑性樹脂や、熱硬化性樹脂が挙げられるが、樹脂組成物に含有させた場合に、高い相溶性が得られることから、熱可塑性樹脂が好ましい。
【0017】
難燃剤の表層部に形成された難燃因子層12は、難燃性因子としてスルホン酸基(−SO3 H)およびスルホン酸塩基のうちの少なくとも1種(以下、スルホン酸基等と呼ぶ。)が結合した高分子重合体を含んで構成されている。その高分子重合体は、内部層11に含まれる高分子化合物と同様のもので構成されている。すなわち、難燃因子層12は、粒子状の高分子重合体の表層部にスルホン酸基等を結合させることにより、形成されたものである。なお、難燃因子層12は、内部層11の全面を覆うように形成されていてもよいし、内部層11の外側の一部に形成されていてもよく、また、層状に形成されていなくてもよい。この難燃因子層12が難燃剤の表層部に設けられていることにより、湿度の高い環境下に晒された場合であっても、内部まで水分が浸透しにくくなり、水分の吸収が抑制され、難燃剤の粒子が互いに付着しにくくなり、ブロッキングが抑制される。よって、この難燃剤を樹脂組成物に含有させると、ハンドリング性と共に分散性が向上し、相溶性も向上する。このため、少ない添加量で樹脂組成物の難燃性が向上すると共に難燃性や機械的強度などの物性の長期安定性が確保される。
【0018】
スルホン酸基等は、難燃性を適切に付与する難燃性因子である。スルホン酸基等は高分子重合体に均一に結合していてもよいし、不均一に結合していてもよい。スルホン酸基等中の硫黄(S)が難燃剤全体に対して占める割合は、0.1重量%以上10重量%以下であるのが好ましい。高い効果が得られるからである。詳細には、0.1重量%未満であると、安定して樹脂組成物に難燃性を付与しづらくなり、10重量%超であると、相溶性が低下したり、その難燃剤を含有する樹脂組成物の機械的強度を安定的に維持するのが困難になる可能性がある。中でも、スルホン酸基等の硫黄が占める割合は、0.3重量以上7.5重量%以下が好ましく、0.5重量%以上5重量%以下がより好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0019】
なお、難燃剤に対してスルホン酸基等の硫黄が占める割合は、例えば、燃焼フラスコ法などにより、算出することができる。また、例えば、スルホン酸基等を金属イオンなどで塩にして、その金属イオンを定量することにより、測定することもできる。
【0020】
スルホン酸基等としては、スルホン酸基の他に、例えば、スルホン酸塩基であるスルホン酸金属塩基や、スルホン酸基がアンモニアやアミン化合物で中和された状態の基などが挙げられる。スルホン酸金属塩基としては、例えば、スルホン酸ナトリウム(Na)塩基、スルホン酸カリウム(K)塩基、スルホン酸リチウム(Li)塩基、スルホン酸カルシウム(Ca)塩基、スルホン酸マグネシウム(Mg)塩基、スルホン酸アルミニウム(Al)塩基、スルホン酸亜鉛(Zn)塩基、スルホン酸アンチモン(Sb)塩基、あるいはスルホン酸スズ(Sn)塩基などが挙げられる。また、スルホン酸基がアンモニアやアミン化合物で中和された状態の基としては、例えば、スルホン酸アンモニウム塩基などが挙げられる。これらは、高分子重合体に1種が結合していてもよいし、2種以上が結合していてもよい。中でも、スルホン酸基等としては、スルホン酸金属塩基が好ましい。より高い効果が得られるからである。スルホン酸金属塩としては、中でも、スルホン酸ナトリウム塩基、スルホン酸カリウム塩基、あるいはスルホン酸カルシウム塩基が好ましい。
【0021】
この難燃剤では、難燃因子層12の厚さは任意に設定可能であるが、難燃因子層12の厚さの割合が難燃剤の粒子径に対して50%以下であるのが好ましい。ブロッキングが抑制され、高いハンドリング性が得られるからである。これにより、樹脂組成物に含有させた場合に、良好な相溶性が得られると共に、含有させる量が少なくても、高い難燃性が付与される。また、その場合に水分の吸収が抑制されるため、物性の長期安定性も確保される。中でも、難燃因子層12の厚さの割合は、難燃剤の粒子径に対して、30%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、10%以下が特に好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0022】
この「難燃因子層12の厚さの割合」は、TOF−SIMS(Time of Flight-Secondary Ion Mass Spectrometry)を用いて測定可能である。ここで、図2を参照してTOF−SIMSを用いて測定した場合を例に挙げて、「難燃因子層12の厚さの割合」について説明する。図2(A)は、難燃剤の略中央における断面構成を模式的に表している。図2(B)は、(A)の点線X1に沿って測定した場合の硫黄元素の二次イオン強度の分布を模式的に表しており、横軸は走査距離(μm)、縦軸は二次イオン強度を示している。TOF−SIMSを用いて難燃剤の断面を図2(A)の点線X1に沿って走査しながら、硫黄元素の二次イオン強度を測定すると、図2(B)に示したように、難燃因子層12が有するスルホン酸基等の硫黄に起因して、2つの大きなピークが検出される。この場合には、難燃剤外縁の位置を、この2つのピークの二次イオン強度の最大値Y11における走査距離X11およびX12とし、その差(走査距離X12−走査距離X11)から難燃剤の粒子径(μm)が算出される。また、難燃因子層12と内部層11との境界面の位置を、走査距離X11とX12との間に存在し、最大値Y11の50%値Y12における走査距離X21およびX22とし、その差(走査距離X22−走査距離X21)から内部層11の径(μm)が算出される。この難燃剤の粒子径および内部層11の径から、難燃因子層12の厚さの割合(%)=[(難燃剤の粒子径−内部層11の径)/難燃剤の粒子径]×100を算出する。なお、難燃因子層12の厚さの割合は、算出可能であれば、上記の測定方法や算出方法に限定されないことは言うまでもない。
【0023】
次に、本実施の形態における難燃剤の製造方法の一例について図3の流れ図を参照して説明する。
【0024】
最初に、例えば、高分子重合体を粉砕し(ステップS101)、粒子状とする。
【0025】
粉砕する高分子重合体は、芳香族環および二重結合からなる群のうちの少なくとも1種を有するのが好ましい。後述するスルホン化処理の際にスルホン酸基等の導入が容易になるからである。高分子重合体中における芳香族環および二重結合の含有量は、1mol%以上100mol%以下であることが好ましい。この範囲外の場合よりも十分にスルホン酸基等が導入されるからである。中でも、2mol%以上100mol%以下であるのが好ましく、50mol%以上100mol%以下であるのがより好ましい。より高い効果が得られるからである。なお、高分子重合体は芳香族環および二重結合のうちのいずれか1種を有していればよいが、2種以上を有していてもよい。2種以上有する場合には、その構成比は任意に設定可能であるが、芳香族環を多く有するのが、製造する上で好ましい。
【0026】
この高分子重合体の重量平均分子量は、5,000以上20,000,000以下であることが好ましい。難燃剤において良好な機械的特性や耐熱性が得られるからである。詳細には、重量平均分子量が5,000未満であると難燃剤における機械的特性や耐熱性が低下しやすくなり、重量平均分子量が20,000,000超であると樹脂組成物に含有させる場合に十分な分散性が得られづらくなるからである。中でも、10,000以上1,000,000以下であるのが好ましく、50,000以上500,000以下であるのが好ましい。高い効果が得られるからである。
【0027】
この高分子重合体としては、例えば、上記した内部層11が含む高分子重合体と同様のものが挙げられる。また、高分子重合体としては、例えば、使用済みになった回収材(リサイクル材)や高分子重合体を製造する際に排出される端材を用いてもよい。これにより、資源の有効利用や低コスト化を図ることができる。
【0028】
高分子重合体を粉砕する方法としては、例えば、液体窒素を用いて凍結粉砕する方法などが挙げられる。粉砕された高分子重合体は、60メッシュ(250μm)以下の粒子が30重量%以上含まれると共に、80メッシュ(180μm)以下の粒子が10重量%以上含まれることが好ましい。スルホン化処理の際に、スルホン酸基等が良好に導入されるからである。詳細には、粒径が60メッシュ以上であると、粒子の表面積が小さくなるため、スルホン化処理の際に、スルホン酸基等の導入量が低下するからである。また、製造された難燃剤を樹脂組成物に含有させる場合に、分散が不均一になりやすく、十分な難燃性が得られない可能性があるからである。一方、粒子径が小さい場合には、スルホン化処理の際に特に問題は生じないが、難燃剤の粒子径が小さくなるので、必要に応じて粉塵対策を行うことが望ましい。中でも、この粒子は、60メッシュ以下の粒子が50重量%以上含まれると共に80メッシュ以下の粒子が30重量%以上含まれることが好ましく、60メッシュ以下の粒子が70重量%以上含まれると共に80メッシュ以下の粒子が50重量%以上含まれることがより好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0029】
なお、粒子状の高分子重合体が用意可能であれば、粉砕しなくてもよい。この場合には、高分子重合体をモノマーから製造する際に、種々の重合方法(例えば、懸濁重合、塊状重合あるいはパール重合など)において、重合段階の条件により粒子状とし、その粒子径を調整してもよい。
【0030】
続いて、粉砕された高分子重合体の水分含有量が3.5重量%以下か確認する(ステップS102)。その水分含有量が3.5重量%超の場合(S102のN)には、粉砕された高分子重合体を乾燥(ステップS103)し、そののち再度、水分含有量を確認する。粉砕された高分子重合体の水分含有量を3.5重量%以下とするのは、スルホン化処理の際に良好にかつ安定してスルホン酸基等が導入されるからである。詳細には、水分含有量が3.5重量%超であると、粒子状の高分子重合体の表面に水分が付着して水の被膜が形成されるからである。これにより、スルホン化処理の際に用いるスルホン化剤と水とが先に反応し、高分子重合体との反応が抑制されるため、スルホン酸基等が導入されづらくなる。よって、高分子重合体の粒子間においてスルホン化処理にばらつきが生じ、その難燃剤を用いた樹脂組成物では、十分な難燃性が得られない可能性がある。中でも、水分含有量は2重量%以下が好ましく、1重量%以下がより好ましい。高い効果が得られるからである。
【0031】
続いて、粉砕された高分子重合体の水分含有量が3.5重量%以下の場合(S102のY)に、粒子状の高分子重合体にスルホン化剤を用いてスルホン化処理する(ステップS104)。これにより、粒子状の高分子重合体の表層部に難燃因子層12が形成される。
【0032】
このスルホン化剤としては、例えば、無水硫酸、発煙硫酸、クロルスルホン酸、濃硫酸、あるいはポリアルキルベンゼンスルホン酸類などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。また、スルホン化剤としては、例えば、アルキルリン酸エステルやジオキサンなどのルイス塩基との錯体物も用いることができる。なお、シアノ基などの加水分解されやすい置換基を高分子重合体が有する場合には、スルホン化剤の中に水分が含まれていると、スルホン化反応(主反応)とは別に、加水分解反応(副反応)も起こることになる。これにより、シアノ基などの置換基の加水分解が促進される。すなわち、スルホン化反応が抑制されることにより、スルホン酸基等の導入量も低下することになる。このため、スルホン化剤としては、それに含まれる水分が極力少ないもの、具体的には、無水硫酸、発煙硫酸、クロルスルホン酸、濃硫酸、あるいはポリアルキルベンゼンスルホン酸類などが好ましい。スルホン化剤中の水分含有量の目安としては、例えば、3重量%以下であり、好ましくは1重量%以下である。
【0033】
スルホン化処理する方法は、粒子状の高分子重合体とスルホン化剤とが反応する方法であれば任意に設定可能であり、例えば、以下の第1〜第3の方法などが挙げられる。第1の方法では、例えば、粒子状の高分子重合体を有機溶媒中に分散させたのち、スルホン化剤(例えば、液状あるいはガス状)を所定量添加してスルホン化反応させる。第2の方法では、例えば、粒子状の高分子重合体をスルホン化剤に直接投入してスルホン化反応させる。第3の方法では、例えば、粒子状の高分子重合体にスルホン化ガス(例えば、三酸化硫黄;SO3 ガス)を直接吹きかけてスルホン化反応させる。中でも、第1の方法、あるいは第3の方法が好ましい。特に、有機溶剤を使用しない観点(環境保全や低コスト化の面)から、第3の方法がより好ましい。
【0034】
なお、このスルホン化処理をする際には、スルホン酸基等中の硫黄が難燃剤全体に対して占める割合が0.1重量%以上10重量%以下になるように調整するのが好ましい。または、難燃因子層12の厚さの割合が難燃剤の粒径に対して、50%以下になるように調整するのが好ましい。難燃剤において高い効果が得られるからである。この場合における、スルホン酸基等の導入率は、高分子重合体の粒子径(表面積)、スルホン化剤の添加量、スルホン化反応させる時間、スルホン化反応時の温度あるいは圧力、またはルイス塩基の種類あるいは添加量などにより任意に調整可能である。中でも、高分子重合体の粒子径や、スルホン化剤の添加量や、スルホン化反応させる時間や、反応温度などにより調整するのが好ましい。
【0035】
続いて、スルホン化処理が良好に行われたか、あるいはスルホン酸基等が所定量導入されているかを確認するために硫黄分を測定する(ステップS105)。なお、この際、硫黄分は測定してもよいし、測定しなくてもよく、測定しない場合には、難燃剤が完成したのち測定してもよい。そののち、難燃因子層12が形成された高分子重合体を、アルカリ水溶液を用いて中和処理する(ステップS106)。これにより、スルホン化剤が中和され、スルホン化反応が停止する。
【0036】
最後に、ろ過などにより、中和液と分離することで、取り出したのちに乾燥する(ステップS107)。これにより、上記した難燃剤が完成する。
【0037】
この難燃剤では、例えば、炎が近接した程度の温度上昇が生じた場合には、高分子重合体とスルホン酸基またはスルホン酸塩基との結合が解裂し、ラジカルが発生する。これにより、樹脂組成物に含有させた場合において、燃焼しにくくする。また、この難燃剤では、スルホン酸基等が表層部に導入されているので、湿度の高い環境下に曝された場合には、内部まで水分が浸透しにくくなり、水分の吸収が抑制される。これにより難燃剤の粒子が互いに付着しにくくなり、樹脂組成物に含有させる場合に、ハンドリング性と共に分散性が向上する。また、形成された樹脂組成物においても相溶性が向上し、水分を吸収しにくくなる。
【0038】
この難燃剤によれば、粒子状の高分子重合体を含み、その高分子重合体の表層部にスルホン酸基およびスルホン酸塩基のうちの少なくとも1種が結合した難燃因子層12を備えているので、粒子の内部まで浸透し全体に渡ってスルホン酸基等が導入されている難燃剤よりも、少ない添加量で樹脂組成物の難燃性の向上に寄与することができる。また、湿度の高い環境下に曝されてもブロッキングが抑制され、樹脂組成物に含有させた場合にも、水分の吸収が抑制され、難燃性の長期間安定的な確保に寄与することができる。また、この場合、機械的強度などの物性についても長期間安定的な確保に寄与することができる。
【0039】
また、高分子重合体が、芳香族環および二重結合のうちの少なくとも1種を有する、あるいは熱可塑性樹脂を含有していれば、高い効果が得られる。
【0040】
さらに、スルホン酸基およびスルホン酸塩基のうちの少なくとも1種中の硫黄が占める割合が、難燃剤全体に対して、0.1重量%以上5重量%以下である、あるいは難燃因子層12の厚さの割合が50%以下であれば、より高い効果が得られる。
【0041】
この難燃剤の製造方法によれば、水分含有量が3.5重量%以下であると共に粒子状の高分子重合体をスルホン化するので、水分が粒子状の高分子重合体表面に付着することによるスルホン化反応の阻害が抑制される。これにより、難燃因子層12を安定して形成することができる。
【0042】
次に、本実施の形態の樹脂組成物について説明する。
【0043】
樹脂組成物は、樹脂に上記した難燃剤を含有したものである。この樹脂組成物は、例えば、家電製品、自動車製品、事務機器、文具、雑貨、建材、あるいは繊維などに用いられるものである。
【0044】
樹脂は、任意に設定可能である。具体例としては、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、ポリスチレン(PS)、スチレン−ブタジエン共重合体(HIPS:ハイインパクトポリスチレン)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスルホン(PSF)、熱可塑性エラストマー(TPE)、ポリブタジエン(PB)、ポリイソプレン(PI)、ニトリルゴム(アクリロニトリル−ブタジエンラバー)、ナイロン、あるいはポリ乳酸(PLA)などが挙げられる。これらなかの1種を単独で用いてもよいし、複数種を混合した混合物(アロイ)として用いてもよい。中でも、上記した樹脂のうちのいずれか1種または2種以上を5重量%以上の割合で含んでいるのが好ましい。特に、ポリカーボネート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、PC/TPEアロイ、ABS/PCアロイ、AS/PCアロイ、PC/PBTアロイ、PC/HIPSアロイ、PC/PLAアロイ、PVC/PCアロイ、PET/PCアロイ、PPO/PCアロイ、HIPS/PPOアロイ、HIPS/ABS/PETアロイ、あるいはPET/PBTアロイなどが好ましく、ポリカーボネートあるいはポリカーボネートを含む熱可塑性ポリマーのアロイがより好ましい。上記した難燃剤と共に含有することにより、十分な効果が得られるからである。
【0045】
また、樹脂としては、上記の他に、使用済みになった回収材(リサイクル材)や樹脂を製造する際に排出される端材を用いてもよい。これにより、資源の有効利用や低コスト化を図ることができる。
【0046】
ここでの難燃剤は、上記した難燃剤を含んでいる。含有量を少なくしても難燃性が向上すると共にその難燃性が長期間安定的に確保されるからである。これにより、樹脂本来の物性を損なうことなく、高湿度環境下に曝されても樹脂本来の物性が長期間安定的に維持される。上記した難燃剤の含有量は0.001重量%以上10重量%以下であることが好ましい。十分な効果が得られるからである。詳細には、0.001重量%より少ないと安定して難燃性を発揮することが難しくなり、10重量%より多くなると難燃性が低下する傾向にあるからである。中でも、難燃剤の含有量としては、0.01重量%以上5重量%以下であるのが好ましく、0.1重量%以上3重量%以下であるのがより好ましい。高い効果が得られるからである。
【0047】
なお、難燃剤は、上記した難燃剤の他に、必要に応じて他の難燃剤を含有していてもよい。他の難燃剤としては、例えば、有機リン酸エステル系難燃剤、ハロゲン化リン酸エステル系難燃剤、無機リン系難燃剤、ハロゲン化ビスフェノール系難燃剤、ハロゲン化合物系難燃剤、アンチモン系難燃剤、窒素系難燃剤、ホウ素系難燃剤、金属塩系難燃剤、無機系難燃剤、あるいは珪素系難燃剤などの従来公知の難燃剤が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。これら他の難燃剤の具体例を以下に記す。
【0048】
有機リン酸エステル系難燃剤としては、例えば、トリフェニルフォスフェート、メチルネオベンジルフォスフェート、ペンタエリスリトールジエチルジフォスフェート、メチルネオペンチルフォスフェート、フェニルネオペンチルフォスフェート、ペンタエリスリトールジフェニルジフォスフェート、ジシクロペンチルハイポジフォスフェート、ジネオペンチルハイポフォスファイト、フェニルピロカテコールフォスファイト、エチルピロカテコールフォスフェート、あるいはジピロカテコールハイポジフォスフェートなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。
【0049】
ハロゲン化リン酸エステル系難燃剤としては、例えば、トリス(βークロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(βーブロモエチル)ホスフェート、トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、トリス(ジブロモフェニル)ホスフェート、トリス(トリブロモフェニル)ホスフェート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、縮合型ポリホスフェート、あるいは縮合型ポリホスフォネートなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。
【0050】
無機リン系難燃剤としては、例えば、赤燐、あるいは無機系リン酸塩などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。
【0051】
ハロゲン化ビスフェノール系難燃剤としては、例えば、テトラブロモビスフェノールAあるいはこのオリゴマー、またはビス(ブロモエチルエーテル)テトラブロモビスフェノールAなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。
【0052】
ハロゲン化合物系難燃剤としては、例えば、デカブロモジフェニルエーテル、ヘキサブロモベンゼン、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモ無水フタル酸、(テトラブロモビスフェノール)エポキシオリゴマー、ヘキサブロモビフェニルエーテル、トリブロモフェノール、ジブロモクレジルグリシジルエーテル、デカブロモジフェニルオキシド、ハロゲン化ポリカーボネート、ハロゲン化ポリカーボネート共重合体、ハロゲン化ポリスチレン、ハロゲン化ポリオレフィン、塩素化パラフィン、あるいはパークロロシクロデカンなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。
【0053】
アンチモン系難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、あるいはアンチモン酸ソーダなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。
【0054】
窒素系難燃剤としては、例えば、メラミン、アルキル基あるいは芳香族置換メラミン、メラミンシアヌレート、イソシアヌレート、メラミンフォスフェート、トリアジン、グアニジン化合物、尿素、各種シアヌール酸誘導体、またはフォスファゼン化合物などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。
【0055】
ホウ素系難燃剤としては、例えば、ホウ素酸亜鉛、メタホウ素酸亜鉛、あるいはメタホウ素酸バリウムなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。
【0056】
金属塩系難燃剤としては、例えば、パーフルオロアルカンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、ハロゲン化アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、あるいはナフタレンスルホン酸などのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。
【0057】
無機系難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、ドロマイト、ハイドロタルサイト、塩基性炭酸マグネシウム、水素化ジルコニウム、あるいは酸化スズなどの水和物である無機金属化合物の水和物や、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化マンガン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化コバルト、酸化ビスマス、酸化クロム、酸化スズ、酸化ニッケル、酸化銅、あるいは酸化タングステンなどの金属酸化物や、アルミニウム、鉄(Fe)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、スズ、亜鉛、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、ビスマス(Bi)、クロム(Cr)、タングステン(W)、あるいはアンチモンなどの金属粉や、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、あるいは炭酸バリウムなどの炭酸塩や、マグネシウムの含水ケイ酸塩であるタルクなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。中でも、難燃性や経済性の観点から、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、タルク、塩基性炭酸マグネシウム、マイカ、ハイドロサルサイト、アルミニウム金属粉などが好ましい。なお、使用済みとなった回収材や製造する際に排出された端材などには、上記したような無機系難燃剤を含んでいることから、それらを無機系難燃剤として用いてもよい。
【0058】
珪素系難燃剤としては、例えば、ポリオルガノシロキサン樹脂(シリコーン、有機シリケート等)、あるいはシリカなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。このポリオルガノシロキサン樹脂としては、例えば、ポリメチルエチルシロキサン樹脂、ポリジメチルシロキサン樹脂、ポリメチルフェニルシロキサン樹脂、ポリジフェニルシロキサン樹脂、ポリジエチルシロキサン樹脂、ポリエチルフェニルシロキサン樹脂、あるいはこれらの混合物などが挙げられる。上記のポリオルガノシロキサン樹脂のアルキル基部分は、例えば、アルコキシ基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、シラノール基、メルカプト基、エポキシ基、ビニル基、アリールオキシ基、ポリオキシアルキレン基、水素基、あるいはハロゲン等の官能基であってもよいし、アルキル基が、さらに官能基を有していてもよい。中でも、アルキル基、アルコキシ基、水酸基あるいはビニル基などを有しているのが好ましい。このポリオルガノシロキサン樹脂の平均分子量としては、100以上が好ましく、500以上5000000以下がより好ましい。また、その形態については、例えば、オイル状、ワニス状、ガム状、粉末状、あるいはペレット状のいずれであってもよい。また、シリカとしては、例えば、炭化水素系化合物のシランカップリング剤で表面処理されたものが好ましい。
【0059】
他の難燃剤の種類や必要とされる難燃性のレベルとしては、樹脂の種類によって異なるが、他の難燃剤の含有量は、通常、樹脂に対して0.001重量%以上50重量%以下であり、好ましくは0.01重量%以上30重量%以下であり、さらに好ましくは0.1重量%以上10重量%以下である。
【0060】
また、樹脂組成物は、上記した樹脂等の他に、必要に応じて添加剤として無機充填剤やドリップ抑制剤などを含有していてもよい。これにより、さらに難燃性の向上や機械的強度の向上が図れる。
【0061】
無機充填剤は、例えば、機械的強度の向上や難燃性の向上に寄与するものである。無機充填剤としては、例えば、従来公知のものが挙げられる。具体例としては、結晶性シリカ、溶融シリカ、アルミナ、マグネシア、タルク、マイカ、カオリン、クレー、珪藻土、ケイ酸カルシウム、酸化チタン、ガラス繊維、フッ化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸カルシウム、炭素繊維、カーボンナノチューブ、あるいはチタン酸カリウム繊維などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。中でも、タルク、マイカ、カーボン、ガラス、あるいはカーボンナノチューブが好ましい。樹脂組成物中における無機充填剤の含有量は、0.1重量%以上90重量%以下であるのが好ましく、0.5重量%以上50重量%以下であるのがより好ましく、1重量%以上30重量%以下であるのがさらに好ましい。高い効果が得られるからである。詳細には、0.1重量%より少なくなると、樹脂組成物の剛性や難燃性の改善効果が低下しやすくなるからである。また、90重量%より多くなると、射出成形する際に溶融させた樹脂組成物の流動性が低下したり、製造された樹脂組成物の機械的強度が低下したりする可能性があるからである。
【0062】
ドリップ抑制剤は、燃焼時のドリップ現象を抑制するものであり、例えば、フルオロオレフィン樹脂などが挙げられる。このフルオロオレフィン樹脂の具体例としては、例えば、ジフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレンとエチレン系モノマーとの共重合体などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。中でも、テトラフルオロエチレン重合体が好ましく、その平均分子量は50000以上であるのが好ましく、100000以上20000000以下であるのがより好ましい。なお、フルオロオレフィン樹脂としては、フィブリル形成能を有するものがより好ましい。樹脂組成物中におけるフルオロオレフィン樹脂の含有量は、0.001重量%以上5重量%以下であるのが好ましく、0.01重量%以上2重量%以下であるのが好ましく、0.1重量%以上0.5重量%以下であるのがさらに好ましい。高い効果が得られるからである。詳細には、その含有量が0.001重量%より少なくなると、ドリップ現象を抑制させることが困難になり、5重量%より多くなると、ドリップ現象を抑制できる効果が飽和し、コスト高になったり、機械的強度や樹脂の流れ性が低下しやすくなったりするからである。
【0063】
また、樹脂組成物は、上記した添加剤の他に、他の添加剤として、例えば、酸化防止剤(フェノール系、リン系、硫黄系)、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、可塑剤、相溶化剤、着色剤(顔料、染料)、抗菌剤、加水分解防止剤、あるいは表面処理剤など含有していてもよい。これにより、射出成形性、耐衝撃性、外観、耐熱性、耐候性、あるいは剛性などが改善される。
【0064】
この樹脂組成物は、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0065】
まず、例えば、上記した製造方法により内部層11および難燃因子層12を備えた難燃剤を製造する。続いて、樹脂およびその難燃剤と、必要に応じて添加剤等とを混合する。この際、例えば、タンブラー、リブレンダー、ミキサー、押出機、コニーダ等といった混練装置にて略均一に分散させる。続いて、この混合物を、射出成形、射出圧縮成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、プレス成形、発泡成形、あるいは超臨界成形などといった成形法により所定の形状(例えば、家電、自動車、情報機器、事務機器、電話機、文房具、家具、あるいは繊維などの各種製品の筐体や部品材)に成形し、上記した樹脂組成物が完成する。
【0066】
この樹脂組成物では、上記した内部層11および難燃因子層12を備えた難燃剤を含有しているので、炎に接した場合に、温度が上昇することにより難燃剤が熱分解する。この際、高分子重合体とスルホン酸基またはスルホン酸塩基との結合が解裂して、ラジカルを発生する。このラジカルが樹脂と反応して、炎と接する部分の炭化(チャー化)が促進される。この炭化によって生じる炭化層が樹脂組成物を覆うことにより、外界の酸素を遮断する。よって燃焼が停止する。
【0067】
この樹脂組成物によれば、上記した内部層11および難燃因子層12を備えた難燃剤を含有しているので、難燃性を向上させることができる。また、高湿度環境下に曝された場合であっても、水分の吸収が抑制され、難燃性を長期間安定的に確保することができる。その場合、樹脂本来の物性も長期間安定的に確保することができる。また、その難燃剤の含有量が0.001重量%以上10重量%以下であれば、高い効果を得ることができる。
【0068】
さらに、樹脂としてポリカーボネート、またはポリカーボネートを含む熱可塑性ポリマーの混合物を含有していれば、十分な効果を得ることができる。
【0069】
この樹脂組成物に関する他の作用および効果は、上記した難燃剤(内部層11および難燃因子層12を備えた難燃剤)について説明した場合と同様である。
【0070】
この樹脂組成物の製造方法によれば、内部層11および難燃因子層12を備えた難燃剤を含有させるので、優れた難燃性と共にその難燃性が長期間安定的に確保される樹脂組成物を安定して製造することができる。
【実施例】
【0071】
本発明の実施例について詳細に説明する。
【0072】
(実施例1−1)
図3の流れにしたがって図1の難燃剤を作製した。
【0073】
まず、高分子重合体としてポリスチレン(PS)のペレット(重量平均分子量:210,000、スチレン単位:100mol%)をラボ粉砕機により液体窒素を用いて凍結粉砕したのち、80メッシュスクリーン通して粉末状にした。この際、この粉状体中の水分含有量は3.9重量%であった。そこで、減圧乾燥機にて80℃、1時間で乾燥して、水分含有量が0.12重量%の粉状体を得た。なお、この粉状体は、80メッシュ以下の粒子を99重量%含んでいた。
【0074】
続いて、乾燥後の粉状体を用いてスルホン化処理した。この場合には、この粉状体20gをナス型フラスコに投入したのち、ロータリーエバポレータに取り付け、60℃に加温して回転させた。この際、粉状体は、ロータリーエバポレータの回転により、ナス型フラスコ内で流動状体であった。次に、真空ポンプによりフラスコ内を脱気することにより密閉した。続いて、バルブの操作により、あらかじめ60℃に加熱しておいたスルホン化剤である三酸化硫黄(SO3 )のタンク(充填量1g)からSO3 ガスを脱気したフラスコ内に送り込んだ。この際、SO3 ガスの注入により、フラスコ内の圧力はすぐに常圧となったが、反応の進行と共に徐々に減圧状態に戻ったため、再度、SO3 ガスを吹き込んだ。この操作を数回繰り返すことにより合計で1gのSO3 ガスをフラスコ内に吹き込み、60℃で4時間反応させることにより反応物を得た。こののち、フラスコ内のSO3 ガスを窒素で置換した。
【0075】
続いて、フラスコに水酸化カリウム水溶液を投入することにより反応物を中和(pH7.0に調整)した。最後に、グラスフィルターで中和した反応物をろ過し、そのろ過物を水洗した。再度、ろ過したのちに循風乾燥機(100℃)にて乾燥して難燃剤(白色の粉末)21gを得た。
【0076】
この難燃剤について、硫黄分を分析したところ、難燃剤に対するスルホン酸基等中の硫黄が占める割合(スルホン酸基等のS割合)は、1.5重量%であった。また、TOF−SIMSを用いて難燃剤の断面を測定したところ、図4に示した結果が得られた。図4(A)は、難燃剤の断面における硫黄元素の二次イオン強度からイメージングしたものであり、図4(B)は(A)を模式的に表したものである。また、図4(C)は、(A)の2本の緑色の線の間の領域、すなわち(B)の線D1およびD2の間に挟まれた領域における硫黄元素の二次イオン強度の分布を表している。なお、図4(C)に示した走査距離X11およびX12は、難燃剤の外縁の位置を表し、走査距離X21およびX22は難燃因子層12と内部層11との境界面の位置を示していた。このことから、スルホン酸カリウム塩基が難燃剤の表層部に結合することにより、難燃因子層12が形成されたことが確認された。また、その場合における難燃因子層12の厚さの割合は、難燃剤の粒子径に対して、6.7%であった。
【0077】
なお、上記した硫黄分の分析およびTOF−SIMSを用いた測定については、以降の実施例および比較例においても同様に行った。
【0078】
(実施例1−2)
高分子重合体としてアクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)を用いたことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。この際、ASとして使用済業務用ビデオカセットの透明リール廃材の再生ペレット(重量平均分子量(ポリスチレン換算):110,000、アクリロニトリル単位:43mol%、スチレン単位:57mol%)を用いて凍結粉砕したところ、得られた粉状体の水分含有量は5.7重量%であった。そこで、減圧乾燥機にて100℃、1時間で乾燥して、水分含有量が0.25重量%の粉状体を得た。なお、この粉状体は、80メッシュ以下の粒子を98重量%含んでいた。この乾燥後の粉状体を用いて、実施例1−1と同様の手順によりスルホン化処理したのち、難燃剤(淡黄色の粉末)を得た。
【0079】
この難燃剤について、硫黄分を分析したところ、スルホン酸基等のS割合は、0.87重量%であった。また、TOF−SIMSを用いて難燃剤の断面を測定したところ、スルホン酸カリウム塩基が難燃剤の表層部に結合することにより、難燃因子層12が形成されたことが確認された。また、その場合における難燃因子層12の厚さの割合は、難燃剤の粒子径に対して、8.5%であった。
【0080】
(実施例1−3)
高分子重合体としてPSである回収発砲スチロールの再生ペレット(重量平均分子量:220,000、スチレン単位:100mol%)を用いたことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。この際、凍結粉砕したのち、得られた粉状体の水分含有量は3.4重量%であった。なお、この粉状体は、80メッシュ以下の粒子を99重量%含んでいた。この粉状体を用いて、実施例1−1と同様の手順によりスルホン化処理したのち、難燃剤(淡黄色の粉末)を得た。
【0081】
この難燃剤について、硫黄分を分析したところ、スルホン酸基等のS割合は、0.63重量%であった。また、TOF−SIMSを用いて難燃剤の断面を測定したところ、スルホン酸カリウム塩基が難燃剤の表層部に結合することにより、難燃因子層12が形成されたことが確認された。また、その場合における難燃因子層12の厚さの割合は、難燃剤の粒子径に対して、4.8%であった。
【0082】
(比較例1−1)
高分子重合体を有機溶媒に溶解させてスルホン化処理することにより、難燃剤を作製した。この際、高分子重合体として実施例1−1の乾燥後の粉状体(水分含有量:0.12重量%)を用いた。この場合には、粉状体20gを有機溶媒である1,2−ジクロロエタン180gが入った丸底フラスコに投入して溶解させ、1,2−ジクロロエタン150gと、トリエチルホスフェート6.5gと、液状のSO3 15gとの錯体を室温で1.5時間かけて丸底フラスコ内に滴下し、滴下後2時間、60℃で熟成した。これによりスルホン化処理をした。続いて、反応物を取り出しメタノールに溶解させたのち、水酸化カリウム水溶液で中和した。この溶液にジエチルエーテルを加えることにより、析出させ、白色状の固体を得た。こののち循風乾燥機(100℃)にて乾燥することにより難燃剤25gを得た。
【0083】
この難燃剤について、硫黄分を分析したところ、スルホン酸基等のS割合は、13.2重量%であった。また、TOF−SIMSを用いて難燃剤の断面を測定したところ、図5に示した結果が得られた。図5は、難燃剤の断面における硫黄元素の二次イオン強度からイメージングしたものであり、オレンジ色の像はそれぞれ粒子を示している。このことから、スルホン酸カリウム塩基は、難燃剤全体に導入され、難燃因子層12および内部層11が形成されていないことが確認された。すなわち、スルホン酸カリウム塩基が導入された領域の割合は、難燃剤の粒子径に対して、100%であった。
【0084】
(比較例1−2)
市販のポリスチレンスルホン酸ソーダ(重量平均分子量:70,000)を難燃剤とした。この難燃剤について、硫黄分を分析したところ、スルホン酸基等のS割合は、15.3重量%であった。また、TOF−SIMSを用いて難燃剤の断面を測定したところ、スルホン酸ナトリウム塩基は、難燃剤全体に導入され、難燃因子層12および内部層11が形成されていないことが確認された。すなわち、スルホン酸ナトリウム塩基が導入された領域の割合は、難燃剤の粒子径に対して、100%であった。
【0085】
(比較例1−3)
乾燥前の粉状体(水分含有量:3.9重量%)を用いたことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。得られた難燃剤(白色の粉末)について、硫黄分を分析したところ、スルホン酸基等のS割合は、0.08重量%であった。また、実施例1−1と同様にしてTOF−SIMSを用いて難燃剤の断面を測定したところ、硫黄の二次イオンは検出されず、スルホン酸カリウム塩基の導入は確認されなかった。
【0086】
(比較例1−4)
乾燥前の粉状体(水分含有量:5.7重量%)を用いたことを除き、実施例1−2と同様の手順を経た。得られた難燃剤(白色の粉末)について、硫黄分を分析したところ、スルホン酸基等のS割合は、0.04重量%であった。また、TOF−SIMSを用いて難燃剤の断面を測定したところ、硫黄の二次イオンは検出されず、スルホン酸カリウム塩基の導入は確認されなかった。
【0087】
これらの実施例1−1〜1−3および比較例1−1〜1−4の難燃剤について、吸湿性試験したところ、表1に示した結果が得られた。
【0088】
吸湿性試験する際には、難燃剤を室温で24時間放置したのち、流動性および粒子間の付着具合を評価し、変化の無い場合は○とし、ブロッキングが発生していた場合は×とした。また、放置前と24時間後との重量を測定し、その重量増加率(%)を求めた。
【0089】
【表1】

【0090】
表1に示したように、スルホン酸基等が表層部に導入された実施例1−1〜1−3では、ブロッキングが発生せず、重量増加率も1%未満であった。一方、粒子内部まで導入された比較例1−1,1−2ではブロッキングが発生し、重量増加率が10%以上であった。この結果は、高分子重合体の種類に関係なく、スルホン酸基等が表層部に導入されると、水分の吸収が抑制されるが、粒子内部まで導入された場合には水分を吸収しやすくなることにより、粒子が互いに付着しやすくなることを表している。
【0091】
また、スルホン化処理する際に、水分含有量が3.5重量%以下の粒状体を用いて作製した実施例1−1〜1−3では難燃因子層12が形成されたが、水分含有量が3.5重量%超の粒状体を用いた比較例1−3,1−4では難燃因子層12が形成されなかった。この結果は、高分子重合体の種類に関係なく、水分含有量が3.5重量%超であると、粉状体表面に付着した水分がスルホン化反応を阻害していることを表している。なお、比較例1−3,1−4では、スルホン酸基等がほとんど導入されていないため、ブロッキングは発生せず、重量増加率も1%未満であった。
【0092】
このことから、粒子状の高分子重合体を含む難燃剤では、高分子重合体の表層部にスルホン酸基およびスルホン酸塩基のうちの少なくとも1種が結合し難燃因子層12を形成することにより、水分の吸収が抑制されることが確認された。この場合には、水分含有量が3.5重量%以下であると共に粒子状の高分子重合体をスルホン化することにより、本発明の難燃剤を製造できることが確認され、しかも、ばらつき無く安定して製造できることが示唆された。
【0093】
なお、本実施例では示していないが、難燃剤に対するスルホン酸基等中の硫黄が占める割合が5重量%超、あるいは難燃因子層12の厚さの割合が50%超でもブロッキングは発生しなかったが、難燃剤に対するスルホン酸基等中の硫黄が占める割合が5重量%以下、あるいは難燃因子層12の厚さの割合が50%以下であるほうが、水分の吸収がより抑制され、安定性が高いことが確認された。
【0094】
(実施例2−1)
上記実施の形態で説明した樹脂組成物の具体例として樹脂組成物からなるペレットおよび短冊状の試験片を作製した。
【0095】
樹脂として汎用グレードの中分子量ポリカーボネート(PC(M)、重量平均分子量(GPC法,ポリスチレン換算):43,000)99.5質量部と、実施例1−1の難燃剤(スルホン系)0.2質量部と、ドリップ抑制剤としてフィブリル形成性を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)0.3質量部とを混合して樹脂組成物前駆体を調製した。続いて、この樹脂組成物前駆体を押出機に供給し、所定の温度で混練することによりペレット化した。続いて、このペレットを射出成形機に投入して所定の温度で射出形成することにより、厚さ1.6mmの樹脂組成物からなる短冊状の試験片が完成した。
【0096】
(実施例2−2,2−3)
実施例1−1の難燃剤に代えて、実施例1−2の難燃剤(スルホン系:実施例2−2)あるいは1−3(スルホン系:実施例2−3)の難燃剤を用いたことを除き、実施例2−1と同様の手順を経た。
【0097】
(実施例2−4)
樹脂として廃DVD(使用済塗装膜付き、重量平均分子量(GPC法,ポリスチレン換算):32,000)の低分子量ポリカーボネート(PC(L))を加えたことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。この際、樹脂組成物前駆体の組成(PC(M):PC(L):スルホン系:PTFE)を重量比で69.5:30:0.2:0.3とした。
【0098】
(実施例2−5)
樹脂としてコンパウンド用グレードのアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS、重量比でアクリロニトリル:ポリブタジエン:スチレン=17:32:51)と、珪素系難燃剤(Si系:メチルフェニル系固形シリコンレジン)と、無機充填剤としてタルクとを加え、樹脂組成物前駆体の組成を変更したことを除き、実施例2−2と同様の手順を経た。この際、樹脂組成物前駆体の組成(PC(M):ABS:スルホン系:Si系:PTFE:タルク)を重量比で82.5:5:1.0:1.0:0.5:10とした。
【0099】
(実施例2−6)
樹脂として低分子量PCを加え、樹脂組成物前駆体の組成を変更したことを除き、実施例2−5と同様の手順を経た。この際、樹脂組成物前駆体の組成(PC(M):PC(L):ABS:スルホン系:Si系:PTFE:タルク)を重量比で48.5:30:7.5:1.0:0.1:0.4:12.5とした。
【0100】
(比較例2−1〜2−4)
実施例1−1の難燃剤に代えて、比較例1−1(比較例2−1)、比較例1−2(比較例2−2)、比較例1−3(比較例2−3)あるいは比較例1−4(比較例2−4)の難燃剤を用いたことを除き、実施例2−1と同様の手順を経た。
【0101】
(比較例2−5)
実施例1−1の難燃剤に代えて、比較例1−1の難燃剤を用いたことを除き、実施例2−4と同様の手順を経た。
【0102】
(比較例2−6,2−7)
実施例1−2の難燃剤に代えて、比較例1−1の難燃剤を用いたことを除き、実施例2−5(比較例2−6)あるいは2−6(比較例2−7)と同様の手順を経た。
【0103】
これらの実施例2−1〜2−6および比較例2−1〜2−7の樹脂組成物からなるペレットおよび試験片について、燃焼性試験、高温高湿度保存後の特性評価およびリサイクル性評価をしたところ、表2に示した結果が得られた。
【0104】
燃焼性試験をする際には、試験片を用いてUL94(アンダーライターズラボラトリー・サブジェクト94)のV−0、V−1、V−2規格に従って垂直燃焼試験をした。燃焼性の評価結果としては、各規格に合格した場合、その規格に対応したV−0、V−1、V−2とし、V−2規格不合格の場合、×とした。なお、UL94のV−0、V−1、V−2規格とは、具体的には、以下の手順によって評価する。まず、試験片を5個ずつ用意し、略垂直状に支持した短冊状試験片に対して下側からバーナー炎をあてて10秒間保ち、そののち、バーナー炎を短冊状試験片から離す。炎が消えれば直ちにバーナー炎をさらに10秒間あてたのち、バーナー炎を離す。この際、1回目と2回目の接炎終了後の有炎燃焼持続時間、2回目の接炎終了後の有炎燃焼持続時間および無炎燃焼持続時間の合計、5本全ての試験片の有炎燃焼時間の合計、燃焼滴下物の有無で判定する。その場合、V−0規格は、1回目、2回目ともに10秒以内に、V−1、V−2規格は、1回目、2回目ともに30秒以内に有炎燃焼を終えたときである。また、2回目の有炎燃焼持続時間と無炎燃焼持続時間との合計がV−0規格は30秒以内、V−1及びV−2規格は60秒以内である。さらに、5本の試験片の有炎燃焼時間の合計がV−0規格は50秒以内、V−1及びV−2規格は250秒以内である。さらにまた、燃焼落下物は、V−2規格のみに許容される。すなわち、UL燃焼試験法(UL94)では、V−0、V−1、V−2規格の順で難燃性が高くなる。
【0105】
高温高湿度保存後の特性評価をする際には、80℃、相対湿度(RH)80%の雰囲気に4週間暴露させて、外観の変化、分子量保持率および燃焼性試験により評価した。外観変化は、高温高湿度保存前と比較し、ヘイズの発生を目視で評価し、変化の無い場合は○とし、ヘイズが発生していた場合は×とした。分子量保持率は、保存前の重量平均分子量に対する保存後の重量平均分子量の割合(%)から算出した。燃焼性試験は保存後の試験片を用いて上記した燃焼性試験と同様にした。
【0106】
リサイクル性の評価をする際には、繰り返しペレット化することにより、Izod衝撃強度(JIS K7110)の保持率を求めた。まず、試験片を用いてIzod衝撃強度を測定した(初期強度)。次に、試験片を粉砕したのち、押出機に供給し、280℃で混練することによりペレット化した。この工程を合計5回繰り返したのち、このペレットを射出成形機に投入して所定の温度で射出形成することにより、厚さ1.6mmの樹脂組成物からなる短冊状の試験片を再度作製した。この試験片のIzod衝撃強度を測定した(リペレット後の強度)。この初期強度に対するリペレット後の強度の割合(%)から強度保持率を算出した。
【0107】
【表2】

【0108】
表2に示したように、実施例1−1〜1−3の難燃剤を含有する実施例2−1〜2−3では、燃焼性評価がV−0となり、高温高湿度保存後の外観等も良好に維持され、強度保持率も98%超と高くなった。一方、比較例1−1,1−2の難燃剤を含有する比較例2−1,2−2では、燃焼性評価がV−0あるいはV−1となったが、高温高湿度保存後の外観等が著しく劣化し、強度保持率も85%以下と著しく低くなった。この結果は、実施例1−1〜1−3の難燃因子層12を備えた難燃剤を含有させると、分散性および相溶性が向上し、水分の吸収が抑制されることを表している。なお、比較例1−3,1−4の難燃剤を含有する比較例2−3,2−4では、高温高湿度保存後の外観および分子量保持率ならびに強度保持率は、実施例2−1〜2−3と同等であったが、燃焼性評価および高温高湿度保存後の燃焼性評価がV−2であった。すなわち、比較例1−3,1−4の難燃剤では、スルホン酸基等が導入されていないため、燃焼性評価は低くなり、その分、水分の吸収が低くなり高温高湿度保存後の外観等の劣化は生じなかった。
【0109】
このことから、樹脂組成物では、上記した難燃剤を含有することにより、難燃性が向上し、高湿度環境下に曝されても長期間安定的に樹脂本来の物性が維持され、難燃性も確保されることが確認された。また、高いリサイクル性も確認された。この場合には、上記した難燃剤が水分を吸収しにくいため、ハンドリング性が向上し、樹脂組成物を製造する際に、分散性が向上し、優れた相溶性が得られることが確認された。
【0110】
また、樹脂として低分子量PCやABS等と共に実施例1−1,1−2の難燃剤を含有する実施例2−4〜2−6では、燃焼性評価がV−0となり、高温高湿度保存後の外観等も良好に維持され、強度保持率も98%超と高くなった。一方、樹脂として低分子量PCやABS等と共に比較例1−1,1−2の難燃剤を含有する比較例2−5〜2−7では、燃焼性評価がV−1あるいはV−2と低く、高温高湿度保存後の外観等も著しく劣化し、強度保持率も70%程度あるいはそれ以下と著しく低くなった。なお、実施例2−5,2−6および比較例2−6,2−7については、外観の変化を評価しなかった。
【0111】
このことから、樹脂組成物では、本発明の難燃剤を含有することにより、樹脂の種類や添加剤に関係なく、難燃性が向上し、長期間安定的に樹脂本来の物性が維持されると共に難燃性も確保されることが確認された。また、高いリサイクル性も確認された。
【0112】
なお、本実施例では示していないが、樹脂組成物における本発明の難燃剤の含有量が10重量%超でも、高い難燃性および長期安定性が得られたが、10重量%以下のほうが、優れた難燃性と共に樹脂本来の物性が確保されることが確認された。
【0113】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明の難燃剤およびその製造方法ならびに樹脂組成物およびその製造方法を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、それらの難燃剤およびその製造方法ならびに樹脂組成物およびその製造方法の構成は自由に変更可能である。
【0114】
具体的には、上記の実施の形態および実施例では難燃因子層12が表層部に一層設けられた難燃剤としたが、本発明では、必ずしもこれに限定されず、例えば、一層以上設けられた難燃剤としてもよい。
【0115】
また、上記の実施の形態および実施例では、難燃因子層12の厚さの割合を求める際に、TOF−SIMSを用いる場合について説明したが、他の方法により求めてもよい。
【0116】
また、上記した実施の形態および実施例では、本発明の難燃剤の製造方法における高分子重合体の水分含有量などについて、実施例の結果から導き出された数値範囲を適正範囲として説明しているが、その説明は、含有量などが上記した範囲外となる可能性を完全に否定するものではない。すなわち、上記した適正範囲は、あくまで本発明の効果を得る上で特に好ましい範囲であり、本発明の効果が得られるのであれば、割合や含有量が上記した範囲から多少外れてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の一実施の形態に係る難燃剤の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した難燃剤の断面構造と二次イオン強度の分布との関係を表す模式図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る難燃剤の製造方法を表す流れ図である。
【図4】実施例1−1の難燃剤の断面を二次イオン強度によりイメージングした写真およびその模式図ならびに二次イオン強度の分布を表す図である。
【図5】比較例1−1の難燃剤の断面を二次イオン強度によりイメージングした写真である。
【符号の説明】
【0118】
11…内部層、12…難燃因子層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状の高分子重合体を含む難燃剤であって、
前記高分子重合体の表層部にスルホン酸基およびスルホン酸塩基のうちの少なくとも1種が結合している
ことを特徴とする難燃剤。
【請求項2】
前記高分子重合体は、芳香族環および二重結合のうちの少なくとも1種を有することを特徴とする請求項1記載の難燃剤。
【請求項3】
前記高分子重合体は、熱可塑性樹脂を含有することを特徴とする請求項1記載の難燃剤。
【請求項4】
前記スルホン酸基およびスルホン酸塩基のうちの少なくとも1種中の硫黄(S)が占める割合は、全体に対して、0.1重量%以上5重量%以下である
ことを特徴とする請求項1記載の難燃剤。
【請求項5】
前記表層部の厚さの割合は、前記高分子重合体の粒子径に対して、50%以下であることを特徴とする請求項1記載の難燃剤。
【請求項6】
水分含有量が3.5重量%以下であると共に粒子状の高分子重合体をスルホン化することにより、スルホン酸基およびスルホン酸塩基のうちの少なくとも1種を表層部に結合させる
ことを特徴とする難燃剤の製造方法。
【請求項7】
前記高分子重合体は、芳香族環および二重結合のうちの少なくとも1種を有することを特徴とする請求項6記載の難燃剤の製造方法。
【請求項8】
前記高分子重合体は、熱可塑性樹脂を含有することを特徴とする請求項6記載の難燃剤の製造方法。
【請求項9】
前記高分子重合体は、60メッシュ以下の粒子を30重量%以上含む共に、80メッシュ以下の粒子を10重量%以上含むことを特徴とする請求項6記載の難燃剤の製造方法。
【請求項10】
前記高分子重合体の水分含有量が3.5重量%より多い場合には、その水分含有量が3.5重量%以下となるように調整した
ことを特徴とする請求項6記載の難燃剤の製造方法。
【請求項11】
前記スルホン酸基およびスルホン酸塩基のうちの少なくとも1種中の硫黄(S)が占める割合が、全体に対して、0.1重量%以上5重量%以下になるようにスルホン化することを特徴とする請求項6記載の難燃剤の製造方法。
【請求項12】
前記表層部の厚さの割合が前記高分子重合体粒子の径に対して、50%以下になるようにスルホン化することを特徴とする請求項6記載の難燃剤の製造方法。
【請求項13】
樹脂と、難燃剤とを含有する樹脂組成物であって、
前記難燃剤は、粒子状の高分子重合体を含み、
前記高分子重合体の表層部にスルホン酸基およびスルホン酸塩基のうちの少なくとも1種が結合している
ことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項14】
前記高分子重合体は、芳香族環および二重結合のうちの少なくとも一方を有することを特徴とする請求項13記載の樹脂組成物。
【請求項15】
前記高分子重合体は、熱可塑性樹脂を含有することを特徴とする請求項13記載の樹脂組成物。
【請求項16】
前記スルホン酸基およびスルホン酸塩基のうちの少なくとも1種中の硫黄(S)が占める割合は、前記難燃剤に対して、0.1重量%以上5重量%以下である
ことを特徴とする請求項13記載の樹脂組成物。
【請求項17】
前記表層部の厚さの割合は、前記高分子重合体粒子の径に対して、50%以下であることを特徴とする請求項13記載の樹脂組成物。
【請求項18】
前記難燃剤の含有量は、0.001重量%以上10重量%以下であることを特徴とする請求項13記載の樹脂組成物。
【請求項19】
前記樹脂は、ポリカーボネート、またはポリカーボネートを含む熱可塑性ポリマーの混合物であることを特徴とする請求項13記載の樹脂組成物。
【請求項20】
樹脂と、難燃剤とを含有する樹脂組成物の製造方法であって、
前記難燃剤を、水分含有量が3.5重量%以下であると共に粒子状の高分子重合体をスルホン化することにより、スルホン酸基およびスルホン酸塩基のうちの少なくとも1種を表層部に結合させて形成する
ことを特徴とする樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−46572(P2009−46572A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−213413(P2007−213413)
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】