説明

難燃性ポリアミド繊維および難燃性布帛

【課題】強度、耐摩耗性等の物理的特性及び難燃性、耐候性、耐薬品性等の化学的特性に優れるばかりか、実用に供されている間の難燃性能劣化が非常に小さい難燃性ポリアミド繊維および布帛を提供する。
【解決手段】単糸繊度1.5〜100dtex、強度4.5〜9.0cN/dtex、沸騰水収縮率が5〜15%のボリアミドマルチフィラメント、または繊度が80〜80000dtex、強度が4.5〜9.0cN/dtexのボリアミドモノフィラメントであって、平均粒子径が0.1〜2.3μm、最大粒子径が5μm未満のトリアジン系化合物を0.5〜20重量%含有することを特徴とする難燃性ポリアミド繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性を有する難燃性ポリアミド繊維および難燃性布帛に関するものであり、さらに詳しくは、強度、耐摩耗性等の物理的特性及び難燃性、耐候性、耐薬品性等の化学的特性に優れるばかりか、実用に供されている間の難燃性能劣化が非常に小さい難燃性ポリアミド繊維および難燃性布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド繊維は、その高強力、強靱性および優れた耐久性を活かして、例えば、タイヤコ−ド、エアバッグ、テント、タ−ポリン、ベルト、ロ−プ、陸上ネットおよび漁網等の産業資材用途に広く用いられている。
【0003】
しかしながら、産業資材用途では、ポリアミド繊維の高強力、強靱性、耐久性等に加え、難燃性が同時に求められる用途が多いにもかかわらず、十分な実用化は進んでいないのが実情である。その理由は、ポリアミド繊維に配合する適当な難燃剤がなく難燃化が困難であったこと、難燃化を達成しようとして必要量の難燃剤を含有させると、繊維自体の強度低下や、製糸の不安定化が招かれるため、高強度で耐候性の優れた難燃性ポリアミド繊維が得られなかったことにある。
【0004】
耐候性や耐磨耗性に優れたポリアミド繊維に難燃性を付与する技術に関しては、従来からよく知られているが、十分な難燃性が付与され、かつ高強度のポリアミド繊維については、未だに実現していないのが現状である。
【0005】
例えば、ポリアミド97〜85重量%とメラミンシアヌレ−ト3〜15重量%とからなり、該メラミンシアヌレ−トの約100重量%が30μm以下且つ80重量%以上が7μm以下の粒径でポリアミド中に分散されてなるポリアミド組成物からなる単糸径10〜100μmの難燃性繊維(例えば、特許文献1参照)が提案されており、当該技術によれば、ポリアミドの本来の諸特性を損なうことなく優れた難燃性の付与された難燃性ポリアミド繊維が得られると主張されている。しかるに、当該技術では、メラミンシアヌレ−トの約100重量%が30μ以下且つ80重量%以上が7μ以下の粒径でポリアミド中で分散されてなるポリアミド組成物からなる難燃性繊維であることを必要としており、ポリアミド繊維中のメラミンシアヌレ−トの粒子径が大きいために、得られる難燃性ポリアミド繊維の強度は高々4.5〜4.9g/dであり、産業用繊維として求められる強度としては不十分であるという問題が残されていた。
【0006】
また、ポリアミド樹脂99.9〜97.0重量部とメラミン系難燃剤0.1〜3.0重量部とからなる防炎性人工芝用ヤーン(例えば、特許文献2参照)が提案されており、当該技術によれば、良好な防炎性を発現し、消防法や政令で指定された場所で使用することのできる防炎性人工芝用ヤーン及び防炎性人工芝が得られると主張されている。しかるに、当該技術では、用途が人工芝用途に限定されており、メラミン系難燃剤の分散性については何ら考慮されてはいないことから、実施例に記載されるようにメラミン系難燃剤の粉末を他の原料と同時に紡糸機に供給し、粉末粒子の分散性を向上する処方を何ら取らずに製糸を行うため、粒子の2次凝集により繊維中にメラミン系難燃剤粉末の粗粒を生じていることが考えられる。その結果、当該技術によって得られる防炎性人工芝用ヤーンの強度は、実施例に記載されるように高々3.5〜4.5g/d程度であり、産業用繊維として求められる強度としては不十分なものであった。
【0007】
さらに、相対粘度2.0〜4.0のポリアミド樹脂98〜80重量部及びトリアジン系難燃剤2〜20重量部を配合したポリアミド樹脂組成物を用いてなる難燃性ポリアミド・マルチフィラメントであって、JIS L 1013に準拠した測定法による引張強度が2.0cN/dtex以上であり、かつ、マルチフィラメント中に分散しているトリアジン系難燃剤の平均粒径が5μm未満である難燃性ポリアミドマルチフィラメント(例えば、特許文献3参照)が提案されており、当該技術によれば、ハロゲン化合物を含まずに、難燃性及び強度に優れた安全なポリアミドマルチフィラメントが得られるとされている。しかるに、当該技術の実施例で使用されているトリアジン系化合物の平均粒子径は2.5μmと大きいため、繊維中におけるトリアジン系化合物の分散状態が悪く、また、最大粒子径が5μm以上のトリアジン系化合物が2次凝集した場合には、繊維にとって異物とされることになるため、得られる繊維の強度はたかだか4.4cN/dtexが最高であり、さらなる高強度の要求される産業資材用途には適していないという問題を有していた。また、当該技術によれば、単糸繊度の太いマルチフィラメントにおいてはそれ相応の効果を発揮することが予想されるが、産業資材の高強力、強靱性、耐久性等の向上の為に近年用いられるようになった単糸細繊度マルチフィラメントの難燃化については具体的に開示するものではなかった。
【特許文献1】特開昭56−107012号公報
【特許文献2】特開2000−303257号公報
【特許文献3】特開2002−173829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものであり、強度、耐摩耗性等の物理的特性及び難燃性、耐候性、耐薬品性等の化学的特性に優れるばかりか、実用に供されている間の難燃性能劣化が非常に小さい難燃性ポリアミド繊維および難燃性布帛の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明によれば、単糸繊度1.5〜100dtex、強度4.5〜9.0cN/dtex、沸騰水収縮率が5〜15%のボリアミドマルチフィラメントであって、平均粒子径が0.1〜2.3μm、最大粒子径が5μm未満のトリアジン系化合物を0.5〜20重量%含有することを特徴とする難燃性ポリアミド繊維、および繊度が80〜80000dtex、強度が4.5〜9.0cN/dtexのボリアミドモノフィラメントであって、平均粒子系が0.1〜2.3μm、最大粒子径が5μm未満のトリアジン系化合物を0.5〜20重量%含有することを特徴とする難燃性ポリアミド繊維が提供される。
【0010】
なお、本発明の難燃性ポリアミド繊維においては、
動的粘弾性測定における損失正接(tanδ)の主分散ピーク温度が103〜120℃であること、
定長拘束法でのDSC融解曲線の融解ピーク温度が227〜280℃であること、
前記トリアジン系化合物を0.5〜10重量%、好ましく0.5〜1.9重量%含有すること、
前記トリアジン系化合物がメラミンシアヌレートであること、
前記難燃性ポリアミド繊維がさらに銅化合物を銅金属量として10〜500ppm含有すること、
前記ポリアミド繊維がさらに有機または無機顔料を0.1〜1重量%含有すること
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【0011】
また、本発明の難燃性布帛は、上記の難燃性ポリアミド繊維を用いてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下に説明するとおり、強度、耐摩耗性等の物理的特性及び難燃性、耐候性、耐薬品性等の化学的特性に優れるばかりか、実用に供されている間の難燃性能劣化が非常に小さい難燃性ポリアミド繊維および難燃性布帛を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明を具体的に説明する。
【0014】
本発明の高強度で耐候性に優れた難燃性ポリアミド繊維は、単糸繊度1.5〜100dtex、強度4.5〜9.0cN/dtex、沸騰水収縮率が5〜15%のボリアミドマルチフィラメントであって、平均粒子径が0.1〜2.3μm、最大粒子径が5μm未満のトリアジン系化合物を0.5〜20重量%含有することを特徴とする難燃性ポリアミド繊維、および繊度が80〜80000dtex、強度が4.5〜9.0cN/dtexのボリアミドモノフィラメントであって、平均粒子系が0.1〜2.3μm、最大粒子径が5μm未満のトリアジン系化合物を0.5〜20重量%含有することを特徴とする難燃性ポリアミド繊維である。
【0015】
本発明で特筆すべき技術的特徴は、平均粒子径が0.1〜2.3μm、最大粒子径が5μm未満のトリアジン系化合物を用いることであり、それにより0.5〜20重量%のトリアジン系化合物を含有しても、製糸性良く高強度なポリアミド繊維を得ることが可能となること、及びトリアジン系化合物を含有し、かつ単糸繊度が本発明の範囲を満足するポリアミドマルチフィラメント繊維において、単糸繊度が太い繊維と比較して繊維表面積が大きくなるため、産業資材として高次加工された布帛の燃焼時に難燃剤であるトリアジン系化合物と炎との接触面積が増加し優れた難燃効果を発現することにある。
【0016】
本発明の難燃性ポリアミド繊維に添加するトリアジン系化合物は、その平均粒径が0.1〜2.3μmであることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜1.5μm、最も好ましくは0.1〜1.0μmである。平均粒子径が0.1μm未満のトリアジン系化合物をポリアミドポリマに添加しても構わないが、かえって、コスト高となり実用的ではない。また、平均粒子系が2.3μmを越えると、産業資材用途として好適な高強度の難燃性ポリアミド繊維を収率よく得ることが困難となる。
【0017】
トリアジン系化合物の最大粒子径としては5μm未満が好ましく、さらに好ましくは3.5μm以下である。本発明の難燃性ポリアミド繊維にトリアジン系化合物を使用する場合に、トリアジン系化合物の最大粒子径が5μmを超えると、溶融ポリマ中で他のトリアジン系化合物と凝集する確率が高くなり、製糸性が著しく低下したり、また、繊維中におけるトリアジン系化合物の分散状態が悪くなったりして、産業資材用途に好適な高強度繊維を得ることが困難となる。繊維中におけるトリアジン系化合物の分散状態を確認する手法としては、ミクロトームで5〜10μmに切断した糸サンプルをNikon製ECLIPSE E600W POL偏光顕微鏡を用いて、400〜500倍で撮影した写真によって確認することができる。
【0018】
上記の粒径を有するトリアジン系化合物は、トリアジン系化合物をボールミル等の手段で粉砕した後、乾式分級するなどの方法で得ることができる。
【0019】
本発明におけるポリアミドとしては、アミノカルボン酸やそのラクタムから重縮合されるナイロン4、ナイロン6、ナイロン11や、ジカルボン酸とジアミドの重縮合で得られるポリナイロン4−6、ナイロン6−6、ナイロン6−10等の公知のポリアミド等を用いることができる。また、ポリアミド繊維には、本発明の効果を阻害しない範囲、好ましくは10重量%以下であれば、共重合化合物や異種ポリマ等を含有しても良いし、各種の耐光剤、防炎剤、顔料、難燃剤、艶消剤、滑剤等の添加剤を用いても良い。
【0020】
本発明のポリアミド繊維の単糸断面は、丸断面以外にも、異型断面であっても良く、異形断面形状としては扁平型、三角型、C型、Y型、団子型、中空型、あるいはそれらの組合せ等を例示することができるがこれに限られるものではない。
【0021】
本発明の難燃性ポリアミド繊維のうち、難燃性ポリアミドマルチフィラメントは、資材用繊維として高強度であることが必要なため、高分子量ポリマが用いられる。ここでいう高分子量ポリマとは、硫酸相対粘度が3.0〜5.0、好ましくは、3.5〜4.5の高粘度ポリマである。3.0未満では高強度繊維が得にくく、一方、5.0を越えると、製糸しにくく、3000m/分以上の製糸速度では糸切れや毛羽の少ない安定な製糸が困難である。
【0022】
また、本発明の難燃性ポリアミドマルチフィラメント繊維は、単糸繊度が1.5〜100dtexであり、産業資材用繊維として好適な単糸繊度である。単糸繊度が1.5dtex未満の場合には、トリアジン系化合物の大きさと比較して単糸太さが細く、繊維製造工程で毛羽や糸切れが発生する可能性がある。また、単糸繊度が100dtexを超える場合には、得られるマルチフィラメントから産業資材として高次加工された布帛のコシが強過ぎて収納性や施工性に劣る可能性がある。
【0023】
また、本発明の難燃性ポリアミド繊維は、強度が4.5〜9.0cN/dtex、好ましくは6.0〜8.5cN/dtexである。4.5cN/dtex未満では、産業資材用繊維としての強度が十分でなく有用できない。一方、強度が9.0cN/dtexを越える難燃性ポリアミド繊維も得ることはできるが、その場合には製糸の収率が劣り、毛羽が多く発生するため品位の良い難燃性ポリアミド布帛を得ることができない。
【0024】
本発明の難燃性ポリアミド繊維がマルチフィラメントである場合は、その沸騰水収縮率が5〜15%、好ましくは8〜13%であることが必要である。高強度ポリアミドマルチフィラメント繊維として十分に分子鎖を配向させると共に、高強度繊維構造を固定するために高温で熱処理された結果として、上記範囲の沸騰水収縮率であることが必要とされるからである。沸騰水収縮率が5%未満、あるいは15%を越えると、十分な延伸がなされずに配向度の低いものしか得られないか、十分に熱処理されず繊維構造が固定化されていないかのいずれかに当たるため好ましくないからである。
【0025】
次に、本発明の難燃性ポリアミド繊維がモノフィラメントの場合には、単糸繊度が80〜80000dtex、強度が5.0〜9.0cN/dtexであることが必要である。
【0026】
繊度は80〜80000dtex、好ましくは、80〜20000dtexである。80dtex未満の高強度の難燃性モノフィラメントも得られるが、この場合には好適な用途が少なく、一方、80000dtexを越える太いモノフィラメントの場合には、断面内外層が均一で、高強度のモノフィラメントを得ることが困難である。
【0027】
本発明の難燃性ポリアミド繊維は、上記の粒径を有するトリアジン系化合物を0.5〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%、さらに好ましくは0.5〜1.9重量%含有することが、優れた難燃特性を発現するために必要である。
【0028】
本発明の難燃性ポリアミド繊維に含まれるトリアジン系化合物の含有量が0.5重量%未満では、必要とされる難燃性が得られず、逆に20重量%を越える場合には、難燃性効果が飽和し、むしろ強度が低下したり、糸切れや毛羽が発生して製糸の収率が低下したりしてしまうため好ましくない。
【0029】
本発明で用いるトリアジン系化合物としては、メラミン類やシアヌル酸類、またメラミン類とシアヌル酸類の付加物等が挙げられる。シアヌル酸類としては、シアヌル酸やイソシアヌル酸は勿論のこと、エノール形、ケト形を問わずトリメチルシアヌレート、トリエチルシアヌレート、メチルシアヌレート、ジエチルシアヌレート、トリノルマルプロピルシアヌレートなどのシアヌル酸誘導体を用いることができる。また、シアヌル酸類は水和物であっても無水物であってもよい。メラミン類としては、メラミンは勿論のこと、アンメリド、アンメリン、ホルモグアナミン、グアニルメラミン、シアノメラミン、アリルグアナミン、メラム、メレム、リン酸メラミン等を例示することができる。メラミン類とシアヌル酸類との付加物としては、メラミンとイソシアヌル酸の付加物であるメラミンシアヌレートを例示することができるが、前記メラミン類とシアヌル酸類の付加物、好ましくは等モル付加物であれば種類を限定されるものではない。また、例えばメラミン類とシアヌル酸類の水溶液を混合して両者の塩を形成させた後、濾過して得られるメラミン類とシアヌル酸類の塩には未反応のメラミン類やシアヌル酸類が含まれていても良い。
【0030】
これらトリアジン系化合物難燃剤のうちでも、シアヌル酸、イソシアヌル酸、メラミン、メラミシアヌレートが好ましく用いられ、特にメラミンシアヌレートの使用が難燃性発現および加工性の面から最も好ましい。
【0031】
また、本発明の難燃性ポリアミド繊維に添加するトリアジン系化合物は、各種の難燃剤を併用することによって、更に難燃性を向上させることができる。併用する好ましい難燃剤としては、次亜リン酸アルカリ金属又は次亜リン酸土類金属塩、例えば、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸バリウム、次亜リン酸マグネシウム、次亜リン酸アルミニウム、および水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウム等が挙げられ、これらの添加量としては、通常0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜3重量%である。
【0032】
本発明の難燃性ポリアミド繊維は、動的粘弾性測定における損失正接(tanδ)の主分散ピーク温度が103〜120℃であることが好ましい。tanδの主分散ピーク温度が103℃未満では、ポリアミド繊維中の非晶部の分子鎖の拘束力が弱いため、本発明が目的とする高強度の難燃性ボリアミド繊維を得ることが難しい。また、120℃以上では繊維の製造工程で糸切れが多発し安定した生産が困難になる。
【0033】
また、本発明の難燃性ポリアミド繊維は、定長拘束法でのDSC融解曲線の融解ピーク温度が227〜280℃であることが好ましい。融解ピーク温度が227℃未満では、ポリアミド繊維分子鎖の配向が低く、本発明が目的とする高強度の難燃性繊維を得ることが難しい。また、融解ピーク温度が280℃以上では、繊維の製造工程で高い応力を繊維に加える必要が生じるため、繊維の破断を生じやすくなり、安定した生産が困難になる。
【0034】
tanδの主分散ピーク温度および定長拘束法でのDSC融解曲線の融解ピーク温度を上記の範囲にすることにより、本発明が目的とする強度を発揮することが容易になる。これらの特性は、別途述べているように、特定の難燃剤粒子を高度に微分散させ、なおかつ、高度な紡糸、延伸技術を組み合わせることではじめて達成することができる。
【0035】
さらに、本発明の難燃性ポリアミド繊維の耐候劣化及び耐熱強力劣化を防ぐためには、ボリアミド繊維がさらに銅化合物を銅金属量として10〜500ppm含有することが好ましい。銅金属量が10ppm未満の場合には、銅化合物による耐候・耐熱性向上効果が低く、銅金属量が500ppmを超える場合には、銅化合物が異物となり製糸性が悪化する危険性を有している。含有する銅金属量としては20〜300ppmが好ましく、30〜250ppmがより好ましく、難燃性ポリアミド繊維の用途および目的によって添加量を選択する。例えば、エアバッグ用繊維として用いる場合は、熱酸化劣化防止の目的で30〜150ppm程度の添加量で良く、建築工事用シ−ト等屋外に暴露され、耐候性を目的とする場合は、100〜1000ppmの高濃度が必要である。銅化合物としては、沃化銅、塩化銅、臭化銅等を例示することができるがこれに限られるものではなく、従来知られた無機及び有機銅塩や銅金属単体を用いることができる。
【0036】
また、ポリアミド繊維は銅化合物に加えて、さらに他の耐熱剤を含有してもよい。耐熱剤としては、アミン化合物、メルカプト化合物、リン系化合物、ヒンダードフェノール化合物、ハロゲン化合物、ハロゲン化アルカリ金属、ハロゲン化アルカリ土類金属等が挙げられるが、これに限られるものではなく、また、これらを2種類以上組み合わせたものでも良い。アミン系化合物としては、N, N' −ジフェニル−p−フェニレンジアミン、ジアリル−p−フェニレンジアミン、ジ−β−ナフチル−p−フェニレンジアミン等を例示することができ、メルカプト化合物としては、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトチアゾールが例示でき、リン系化合物としては、ステアリルフォスフェート、亜リン酸またはその塩等の有機・無機リン酸等を例示できるがこれらに限られるものではない。銅化合物と前記耐熱剤は別々に添加しても良いし、錯体を形成させて添加しても良い。銅化合物とともに加える耐熱剤としては、なかでもメルカプト化合物が好ましく、特に2−メルカプトベンゾイミダゾールを組み合わせることが好ましい。その時のメルカプト化合物添加量としては、300〜3000ppmであることが、熱酸化劣化防止性および製糸性の観点から好ましい。
【0037】
また、本発明の難燃性ポリアミド繊維は、さらに有機又は無機の顔料を、0.1〜1.0重量%含有する原着難燃性ポリアミド繊維であることが好ましい。ポリアミド繊維を原着化することにより、染色の必要が無く、低コストで染色廃液が発生しない等の利点が得られ、環境に与える負荷の小さい難燃性ポリアミド繊維を得ることが可能となる。有機又は無機顔料の添加量は、好ましくは0.02〜0.08重量%である。顔料添加量が0.1重量%未満の場合には、求める色調を有する繊維を得られない可能性がある。また、添加量が1重量%を超える場合には、顔料が異物となって析出するため、繊維製造工程で製糸性良く得ることができない可能性がある。
【0038】
好ましい顔料としては、亜鉛華、酸化チタン、ベンガラ、チタンイエロ−、亜鉛−鉄系ブラウン、チタンーコバルト系グリ−ン、コバルトグリ−ン、コバルトブル−、銅−鉄系ブラック、群青、炭酸カルシウム、マンガンバイオレット、カ−ボンブラック、アルミニウム粉、ブロンズ粉、チタン被覆雲母等の無機顔料、および銅フタロシアニンブル−、銅フタロシアニングリ−ン、臭素化銅フタロシアニングリ−ン、ジアンスラキノンレッド、ベリレンスカ−レット、ベリレンレッド、ベリレンマル−ン、ジオキサンバイオレット、イソインドリノンイエロ−、金属錯塩アゾメチン等の有機顔料が挙げられる。
【0039】
また、黒色顔料としては、カ−ボンブラック、酸化鉄ブラック、スピネルブラック、マンガンプロック、コバルトブラック等が用いられるが、特にカ−ボンブラックが好ましい。
【0040】
上記有機又は無機の銅化合物およびあるいは有機又は無機の顔料を含有する難燃性ポリアミド繊維は、著しく優れた耐候性を有し、屋外で使用される資材用途、例えば、建築用ネット、養生メッシュ、テント、タ−ポリン、テント等に好適である。本発明者らの検討によると、特定の難燃剤と銅化合物さらに好ましくは特定の顔料を組み合わせて使用した場合には、著しく耐光性が向上することが確認できた。その作用は明かではないが、本発明のごとく難燃剤を高度に微分散化することによって、繊維表面で光を遮断する効果が高いこと、および銅化合物と難燃剤の距離が近くなることから、光劣化時に生じるラジカルが難燃剤に選択的に生じ、銅化合物の効果によりポリアミド分子鎖と反応しにくくなっていることなどの相乗効果によるものと推定される。
【0041】
上記した本発明の条件を満足していれば、難燃性ポリアミド繊維の伸度や交絡数等の諸物性にとくに決まりは無い。
【0042】
また、本発明の難燃性ポリアミド繊維は、製織して布帛として用いる。布帛の形態は、通常の織物全てに適用可能であり、平織物、斜紋織物、朱子織物、スダレ織、ラッセル網、
等にして用いることができる。
【0043】
以下に、本発明の難燃性ポリアミド繊維、即ち、難燃性ポリアミドマルチフィラメントおよび難燃性モノフィラメントおよびそれらを用いてなる難燃性ポリアミド布帛の製造法の一例を説明するが、難燃性ポリアミド繊維および難燃性ポリアミド布帛の製造方法はこれに限られるものではない。
【0044】
ポリアミドポリマとしては、前記した高粘度のポリアミドポリマのチップを用いる。ポリアミドチップと難燃剤、銅化合物および原着用顔料との混合は、ポリアミドの重縮合完了直後からポリアミド繊維が紡糸口金から紡出されるまでの任意の段階で行うことができる。例えば、重縮合が完了した直後に重合缶で、溶融状態のポリアミドに難燃剤等を添加・混練し、常法によりチップ化した後固相重合し、次いでエクストル−ダー式紡糸機で溶融紡糸・延伸する方法、あるいは乾燥したポリアミドチップに、難燃剤等を混練して溶融紡糸・延伸する方法、あるいは、予め難燃剤等を高濃度含有させたマスタ−チップを製造し、このマスタ−チップとポリアミドチップを混合しながら溶融紡糸・延伸する方法等がある。難燃剤を微分散化するためには、難燃剤の濃度を5〜30%の範囲としたマスタ−チップをポリアミドチップ100に対して1〜100の混合比率で混合することが好ましい。難燃剤の濃度と混合比率が上述の範囲を外れる場合には、繊維の難燃性が低下する、あるいは難燃剤粒子の2次凝集が生じ高強度の繊維が得ることが困難になるなどの問題が生じやすくなる。また、難燃剤の微分散化を進めるために、押出機としては2軸のエクストルーダー型押出機を用いることが好ましく、さらに紡糸機内の溶融ポリマの流路にスタティックミキサー等の静止型混合器を組み込むことにより、溶融時に難燃剤の微分散化を促進することが好ましい。静止型混合器の組み込み位置としては、溶融ポリマ流路であればどの位置でもよいが、流路の末端に近いほど繊維中の難燃剤の微分散化の効果が高いため、紡糸パックの直上あるいは、紡糸パック内に組み込むことなどがより好ましい。また、静止型混合器のエレメント数としては4〜30段が好ましく、6〜20段であることがより好ましい。エレメント数が少ない場合は混合の効果が低く、多すぎる場合は装置およびポリマの流路が長くなるためポリマーの分解、劣化等の弊害が生じてくる。
【0045】
ポリアミドチップと難燃剤等の混練および溶融紡糸は、本発明の難燃性ポリアミドマルチフィラメントおよび難燃性ポリアミドモノフィラメントとも共通の方法で行うことができる。
【0046】
溶融紡糸された難燃性ポリアミドマルチフィラメントは、冷却固化したのち油剤を付与され、300〜2000m/分で回転する引き取りローラに捲回して一旦巻き取った後、もしくは連続して2段以上の多段で熱延伸を施し、巻取り機にて巻取る。熱延伸温度は[ガラス転移点−10〜50℃]、延伸倍率は2.5〜7.0倍の範囲で行い、本発明の難燃性ポリアミドマルチフィラメントの物性となるよう製造する。
【0047】
一方、溶融紡糸された難燃性ポリアミドモノフィラメントの場合は、40〜100℃、好ましくは60〜80℃の温水浴中で冷却固化した後、1段延伸を60〜100℃の温水浴中で2.0〜5.0倍に延伸し、次いで150℃〜ポリアミドの融点近傍の乾熱炉中で、総合延伸倍率が4.0〜7.0倍の範囲で延伸する。更に連続して、150℃〜融点近傍の乾熱炉中で0.8〜1.0倍で弛緩熱処理をして製造する。
【0048】
かくして、本発明の高強度で、耐候性に優れた難燃性ポリアミド繊維が得られる。
【0049】
上記で得られたポリアミド繊維は、常法により、布帛に製織する。例えば、メッシュシ−トに製織して養生ネット、平織に製織してタ−ポリンやテント、ラッセル網、無結節網地、蛙又結節網地に製織して安全ネットやスポ−ツ用ネット、果樹ネット等に用いることができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例によって本発明の態様を更に詳しく説明する。明細書本文および実施例に用いた特性の定義および測定法は次の通りである。
【0051】
(1)繊度
JIS L1017(2002)8.3の方法で正量繊度を測定した。
【0052】
(2)強度・伸度
JIS L1017(2002)8.5の方法で測定した。
【0053】
(3)限界酸素指数(LOI)
JIS L1091(2002)繊維製品の燃焼性試験方法E法(酸素指数法試験)によって測定した。LOIが25以上であれば必要とされる難燃性を満足する。
【0054】
(4)沸騰水収縮率
JIS L1017(2002)によって測定した。
【0055】
(5)動的粘弾性測定における損失正接(tanδ)の主分散ピーク温度
(株)オリエンテック社製DDV−II型動的粘弾性測定装置を用い、振動数110Hz、昇温速度3℃/分で室温から200℃までの範囲で測定を行い、損失正接(tanδ)がピークを示す温度を求めた。
【0056】
(6)定長拘束法でのDSC融解曲線の融解ピーク温度
J.Polym.Sci.Phy.Ed.VOL.15,1507「Melting of Constrained Drawn Nylon 6 Yarns」に記載の方法に準じて、以下のとおり測定を行った。秤量した繊維試料を、4.0X2.5X0.4mmのアルミ板に、たるみの無いように巻き付け、試料両端に結びつけた細い針金を用いてアルミ板に固定し、アルミニウム製標準容器に入れ測定サンプルとした。測定にはセイコーインスツルメンツ社製SSC5200熱分析システムを用い、昇温速度10℃/分で20℃から300℃まで測定を行った。
【0057】
(7)トリアジン系化合物最大粒径および平均粒径
トリアジン系化合物粉末の最大粒径および平均粒径は以下の2種類の方法を用いて測定できる。
A)粒度分布測定機(SK Laser Micron Sizer:セイシン企業製)を用いて測定し、最大粒径および平均粒径を求めた。
B)トリアジン系化合物粉末をイオンコーター(Eiko Engineering社製 IB−3)を用いて金蒸着した。作製サンプルをSEM(トプコン株式会社製 ABT−55)を用いて観察し、粒子100個の最大直径を測定し、その平均を平均粒径、最も大きい粒子の最大直径を最大粒子径とした。
【0058】
(8)繊維中におけるトリアジン系化合物の分散状態、最大粒子径および平均粒子径
ミクロトームで5〜10μmに切断した糸サンプルをNikon製ECLIPSE E600W POL偏光顕微鏡を用いて、400〜500倍で撮影した写真によって繊維中におけるトリアジン系化合物の分散状態を観察し、その繊維断面に確認できるトリアジン系化合物の最大粒子径、平均粒子径を測定した。なお、分散状態の良し悪しについては、添加したトリアジン系化合物の平均粒子径の3倍以上の径を有する二次凝集粒子径が、繊維中に確認できるか否かによって、○、×で判断した。
【0059】
(9)硫酸相対粘度
ポリマ試料を98%硫酸に1重量%の濃度で溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃で測定し、次式に従い求めた。
硫酸相対粘度(ηr)=(試料溶液の滴下秒数)/(硫酸溶液滴下秒数)
各サンプルにつき2回の測定を行い、その平均値を採用した。
【0060】
(10)耐候性強度保持率
スガ試験機株式会社製キセノンウェザーメーター(Super Xenon Weather Meter)を用い、試験条件を温度63℃、水噴霧有り、ブラックパネル法として耐候性試験を100時間実施し、試験前のサンプルの強度(100%)に対する試験後のサンプルの強度の割合(%)を求めた。
【0061】
(11)耐候性試験後のLOI測定
屋外にて800日放置したネットを前記限界酸素指数測定法にて測定した。
【0062】
[実施例1]
硫酸相対粘度3.8のナイロンポリマと、平均粒径1.2μmで最大粒径3.1μmのメラミンシアヌレート粉末を10重量%、カーボンブラックを0.5重量%添加したナイロン6マスターポリマを計量器で連続的計量しながら、7:3の比率で285℃の2軸エクストルーダー式押出機に連続的に供給し連続的に溶融した。それぞれのポリマには沃化銅を100ppm添加した。
【0063】
溶融ポリマを、285℃の配管を通じて8段のスタティックミキサーで混練し、ギヤポンプにて総繊度が1700dtexとなるように計量した後、285℃の紡糸パックに導き、パック内では30ミクロンカットのフィルターを通過させ、孔径0.5mm、孔長1.1mmの単孔が200個開けられた口金より押し出した。
【0064】
紡出糸条を口金下に設けた長さ20cm、雰囲気温度310℃の加熱筒を通過させた後、ユニフロー型チムニーを用いて30℃の冷風を40m/分の速度で吹き付け固化させた後、油剤ローラにて油剤を付与した。油剤を付与した糸条を475m/分の表面速度を有する第1ローラ(非加熱)で巻き取った後、連続して延伸工程に供した。
【0065】
第1ローラを通過した糸条を速度500m/分の第2ローラ(55℃)、速度1375m/分の第3ローラ(90℃)、速度1800m/分の第4ローラ(155℃)、速度2250m/分の第5ローラ(195℃)、速度2150m/分の第6ローラ(130℃)に連続して供すことにより、延伸を行い、総繊度1700dtexのナイロン6マルチフィラメントを得た。得られたナイロン6マルチフィラメントの特性を表1に示した。
【0066】
得られたナイロン6マルチフィラメントをラッセル編機によって網糸の総繊度が13600dtex、網目1辺の長さ15mmとなるように製網した。得られたネットはテンターを用いて熱セット温度180℃で1分間の処理に供した。得られたネットの限界酸素指数および耐候性試験後の限界酸素指数を測定し、結果を表1に示した。
【0067】
[実施例2]
口金の孔径を1.5mm孔長を1.8mmとし、加熱筒を使用しないこと以外は、実施例1と同様の装置で口金よりポリマを押し出した。得られた糸を連続して、20℃の水中で冷却し10m/分の速度で引き取りロールによって引き取った後、連続して95℃の温水浴中で3.8倍延伸を行い引き続いて180℃に加熱したポリエチレングリコール中で1.6倍延伸を行い引き続いて90℃の温水浴中で0.95倍の延伸比で延伸を行い、総繊度2000dtexのナイロン6モノフィラメントを得た。得られたナイロン6モノフィラメントの特性を表1に示した。
【0068】
得られたナイロン6モノフィラメントをラッセル編機によって網糸の総繊度が16000dtex、網目1辺の長さ15mmとなるように製網した。得られたネットはテンターを用いて熱セット温度180℃で1分間の処理に供した。得られたネットの限界酸素指数および耐候性試験後の限界酸素指数を測定し、結果を表1に示した。
【0069】
[実施例3]
ナイロン6ポリマとナイロン6マスターポリマを2:8の比率で混合して紡糸工程に供したこと、平均粒径2.0μmで最大粒径4.5μmのメラミンシアヌレートを添加したこと、および孔数が20個の口金を用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0070】
得られたナイロン6マルチフィラメントおよびネットの特性を評価し、結果を表1に示した。
【0071】
[実施例4]
ナイロン6ポリマとナイロン6マスターポリマを9:1の比率で混合して紡糸工程に供したこと、平均粒径0.7μmで最大粒径2.5μmのメラミンシアヌレートを添加したこと、カーボンブラックを0.7重量%添加したこと、それぞれのポリマに沃化銅を20ppm添加したこと、および孔数が360個の口金を用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0072】
得られたナイロン6マルチフィラメントおよびネットの特性を評価し、結果を表1に示した。
【0073】
[実施例5]
ナイロン6マスターポリマと平均粒径0.7μmで最大粒径2.5μmのメラミンシアヌレート粉末を20重量%、カーボンブラックを0.2重量%添加したナイロン6マスターポリマを1:9の比率で混合して紡糸工程に供したこと、それぞれのポリマに沃化銅を300ppm添加したこと、および、各ローラ速度を、第1ローラ560m/分、第2ローラ590m/分、第3ローラ1406m/分、第4ローラ1830m/分、第5ローラ2250m/分、第6ローラ2150m/分に変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0074】
得られたナイロン6マルチフィラメントおよびネットの特性を評価し、結果を表1に示した。
【0075】
[実施例6]
ナイロン6ポリマとナイロン6マスターポリマを2:8の比率で混合して紡糸工程に供したこと、平均粒径2.0μmで最大粒径4.5μmのメラミンシアヌレートを添加したこと、カーボンブラックを0.2重量%添加したこと、それぞれのポリマに沃化銅を200ppm添加したこと、総繊度7000dtexのモノフィラメントを得たこと、および得られたナイロン6モノフィラメントをラッセル編機によって網糸の総繊度が56000dtex、網目1辺の長さ15mmとなるように製網したこと以外は、実施例2と同様に行った。
【0076】
得られたナイロン6モノフィラメントおよびネットの特性を評価し、結果を表1に示した。
【0077】
[比較例1]
マスターチップを用いずに、1軸エクストルーダー式押出し機を用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。得られたネットを難燃剤(大京化学製 ビゴールNA−7)40%、水58.8%、硬仕上げ剤(住友化学製 Sumitex Resin M-3)1%、触媒(住友化学製 Sumitex Accelerator ACX)0.2%の溶液でピックアップ70%となるようにディップし、140℃で2分間乾燥した。
【0078】
得られたナイロン6マルチフィラメントおよびネットの特性を評価し、結果を表1に示した。
【0079】
[比較例2]
マスターチップを用いずに、1軸エクストルーダー式押出し機を用いたこと以外は、実施例2と同様に行った。得られたネットを難燃剤(大京化学製 ビゴールNA−7)40%、水58.8%、硬仕上げ剤(住友化学製 Sumitex Resin M-3)1%、触媒(住友化学製 Sumitex Accelerator ACX)0.2%の溶液でピックアップ70%となるようにディップし、140℃で2分間乾燥した。
【0080】
得られたナイロン6モノフィラメントおよびネットの特性を評価し、結果を表1に示した。
【0081】
[比較例3]
ナイロン6ポリマとナイロン6マスターポリマを2:8の比率で混合して紡糸工程に供したこと、平均粒径2.5μmで最大粒径5.2μmのメラミンシアヌレートを添加したこと、および各ローラ速度を、第1ローラ660m/分、第2ローラ695m/分、第3ローラ1470m/分、第4ローラ1850m/分、第5ローラ2250m/分、第6ローラ2150m/分に変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0082】
得られたナイロン6マルチフィラメントおよびネットの特性を評価し、結果を表1に示した。
【0083】
[比較例4]
ナイロン6ポリマとナイロン6マスターポリマを2:8の比率で混合して紡糸工程に供したこと、平均粒径2.5μmで最大粒径5.2μmのメラミンシアヌレートを添加したこと、連続して95℃の温水浴中で3.4倍延伸を行い引き続いて180℃に加熱したポリエチレングリコール中で1.1倍延伸を行い引き続いて90℃の温水浴中で0.9倍の延伸比で延伸を行い、総繊360dtexのナイロン6モノフィラメントを得たこと、および得られたナイロン6モノフィラメントをラッセル編機によって網糸の総繊度が2880dtex、網目1辺の長さ15mmとなるように製網したこと以外は、実施例2と同様に行った。
【0084】
得られたナイロン6モノフィラメントおよびネットの特性を評価し、結果を表1に示した。
【0085】
[比較例5]
各ローラ速度を、第1ローラ690m/分、第2ローラ725m/分、第3ローラ1470m/分、第4ローラ1850m/分、第5ローラ2250m/分、第6ローラ2150m/分に変更したこと、および総繊度240dtexのマルチフィラメントを得たこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0086】
得られたナイロン6マルチフィラメントおよびネットの特性を評価し、結果を表1に示した。
【0087】
[比較例6]
連続して95℃の温水浴中で3.0倍延伸を行い引き続いて180℃に加熱したポリエチレングリコール中で1.0倍延伸を行い引き続いて90℃の温水浴中で0.9倍の延伸比で延伸を行い、総繊82000dtexのナイロン6モノフィラメントを得たこと、および得られたナイロン6モノフィラメントをラッセル編機によって網糸の総繊度が656000dtex、網目1辺の長さ15mmとなるように製網したこと以外は、実施例2と同様に行った。
【0088】
得られたナイロン6モノフィラメントおよびネットの特性を評価し、結果を表1に示した。
【0089】
[比較例7]
ナイロン6ポリマを用いずに、平均粒径3.2μmで最大粒径6.1μmのメラミンシアヌレート粉末を24重量%、カーボンブラックを0.5重量%添加したナイロン6マスターポリマのみを用いて、1軸エクストルーダー式押出し機を用いたこと、孔数が12個の口金を用いたこと、および各ローラ速度を、第1ローラ660m/分、第2ローラ695m/分、第3ローラ1470m/分、第4ローラ1850m/分、第5ローラ2250m/分、第6ローラ2150m/分に変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0090】
得られたナイロン6マルチフィラメントおよびネットの特性を評価し、結果を表1に示した。
【0091】
[比較例8]
ナイロン6ポリマとナイロン6マスターポリマを9.7:0.3の比率で混合して紡糸工程に供したこと、平均粒径3.2μmで最大粒径6.1μmのメラミンシアヌレート粉末を添加したこと、および各ローラ速度を、第1ローラ660m/分、第2ローラ695m/分、第3ローラ1470m/分、第4ローラ1850m/分、第5ローラ2250m/分、第6ローラ2150m/分に変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0092】
得られたナイロン6マルチフィラメントおよびネットの特性を評価し、結果を表1に示した。
【0093】
【表1】

【0094】
表1より明らかなように、本発明の条件を満足する実施例1〜6のネットは、後加工を施さなくても製網後の難燃性に優れた難燃性ポリアミド繊維および布帛であり、その難燃性能は劣化試験に供した後においても殆ど変化しない。
【0095】
しかしながら、比較例1および2に示すような、後加工によって難燃性を付与した布帛は、難燃加工直後のLOIは高く難燃性に優れたポリアミド繊維布帛となるものの、屋外に長時間曝露された場合の難燃性低下が激しいものであった。
【0096】
比較例3および4のように、トリアジン系化合物の平均粒径、最大粒子径が本発明の規定を超える場合には、ポリアミドフィラメント繊維の採取は可能であったものの、ポリアミド繊維製造工程において毛羽の発生が多発し、安定的に繊維を採取することはできなかった。
【0097】
比較例5のように、単糸繊度が本発明の規定を下回る場合には、ポリアミドマルチフィラメント製造工程において毛羽および糸切れが多発し、実用に供するに値するポリアミドマルチフィラメント繊維を得ることができなかった。
【0098】
比較例6のように、総繊度が本発明の規定を越える場合には、ポリアミドモノフィラメント製造工程において、毛羽および糸切れが多発し、実用に供するに値するポリアミドモノフィラメント繊維を得ることができなかった。
【0099】
比較例7のように、トリアジン系化合物含有量が本発明の規定を超える場合、単糸繊度が本発明の規定を越える場合には、ポリアミドマルチフィラメントの採取は可能であったものの、ポリアミドマルチフィラメント製造工程において毛羽の発生が多発し、安定的に繊維を採取することはできなかった。
【0100】
比較例8のように、トリアジン系化合物の含有量が本発明の規定に満たない場合には、必要とされる難燃性が得られず、実用に供するに値する難燃性を有するポリアミドマルチフィラメント繊維を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の難燃性ポリアミド繊維および難燃性布帛は、強度、耐摩耗性等の物理的特性及び難燃性、耐候性、耐薬品性等の化学的特性に優れるばかりか、実用に供されている間の難燃性能劣化が非常に小さいという特性を有していることから、タイヤコ−ド、エアバッグ、テント、タ−ポリン、ベルト、ロ−プ、陸上ネットおよび漁網等として有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糸繊度1.5〜100dtex、強度4.5〜9.0cN/dtex、沸騰水収縮率が5〜15%のボリアミドマルチフィラメントであって、平均粒子径が0.1〜2.3μm、最大粒子径が5μm未満のトリアジン系化合物を0.5〜20重量%含有することを特徴とする難燃性ポリアミド繊維。
【請求項2】
繊度が80〜80000dtex、強度が4.5〜9.0cN/dtexのボリアミドモノフィラメントであって、平均粒子系が0.1〜2.3μm、最大粒子径が5μm未満のトリアジン系化合物を0.5〜20重量%含有することを特徴とする難燃性ポリアミド繊維。
【請求項3】
動的粘弾性測定における損失正接(tanδ)の主分散ピーク温度が103〜120℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性ポリアミド繊維。
【請求項4】
定長拘束法でのDSC融解曲線の融解ピーク温度が227〜280℃であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の難燃性ポリアミド繊維。
【請求項5】
前記トリアジン系化合物を0.5〜10重量%含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の難燃性ポリアミド繊維。
【請求項6】
前記トリアジン系化合物を0.5〜1.9重量%含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の難燃性ポリアミド繊維。
【請求項7】
前記トリアジン系化合物がメラミンシアヌレートであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の難燃性ポリアミド繊維。
【請求項8】
前記難燃性ポリアミド繊維が、さらに銅化合物を銅金属量として10〜500ppm含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の難燃性ポリアミド繊維。
【請求項9】
前記難燃性ポリアミド繊維が、さらに有機または無機顔料を0.1〜1重量%含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の難燃性ポリアミド繊維。
【請求項10】
請求項1〜9項のいずれか1項に記載の難燃性ポリアミド繊維を用いてなることを特徴とする難燃性布帛。

【公開番号】特開2007−56392(P2007−56392A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−241986(P2005−241986)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】