説明

難燃性ポリエステル系人工毛髪

【課題】通常のポリエステル繊維の耐熱性、強伸度など繊維物性を維持し、セット性、触感、光沢、透明性、加工安定性に優れ、高い難燃性を有するポリエステル系人工毛髪を提供する。
【解決手段】ポリエステルに臭素含有難燃剤、ホウ酸亜鉛および/または錫酸亜鉛を含んでなる組成物、さらには、有機微粒子および/または無機微粒子を含んでなる組成物を溶融紡糸することにより、通常のポリエステル繊維の耐熱性、強伸度など繊維物性を維持し、セット性、触感、光沢、透明性に優れた難燃性ポリエステル系人工毛髪が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルに臭素含有難燃剤、ホウ酸亜鉛および/または錫酸亜鉛を含んでなる組成物、さらには、有機微粒子および/または無機微粒子を含んでなる組成物から形成された難燃性ポリエステル系人工毛髪に関する。さらに詳しくは、耐熱性、強伸度などの繊維物性を維持し、セット性、触感、透明性、加工安定性に優れた難燃性ポリエステル系人工毛髪に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステルからなる繊維は、高融点、高弾性率で優れた耐熱性、耐薬品性を有していることから、カーテン、敷物、衣料、毛布、シーツ地、テーブルクロス、椅子張り地、壁装材、人工毛髪、自動車内装資材、屋外用補強材、安全ネットなどに広く使用されている。
【0003】
一方、かつら、ヘアーウィッグ、付け毛、ヘアーバンド、ドールヘアーなどの頭髪製品においては、従来、人毛や人工毛髪(モダクリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維)などが使用されてきている。しかし、人毛の提供は困難になってきており、人工毛髪の重要性が高まってきている。人工毛髪素材として、難燃性の特長を生かしてモダクリルが多く使用されてきたが、耐熱温度の点では不十分であった。近年になり、耐熱性に優れるポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルを主成分とする繊維を用いた人工毛髪繊維が提案されるようになってきた。しかしながら、人工毛髪素材として使用するにあたっては、安全性の観点から難燃性付与が必要となってきている。従来のポリエステル繊維は、易燃性であるため、ポリエステル繊維の難燃性を向上させようとする試みは種々なされており、たとえばリン原子を含有する難燃性モノマーを共重合させたポリエステルからの繊維にする方法や、ポリエステル繊維に難燃剤を含有させる方法などが知られている。
【0004】
前者の難燃性モノマーを共重合させる方法としては、たとえば、リン原子が環員子となっていて熱安定性の良好なリン化合物を共重合させる方法(特許文献1)、また、カルボキシホスフィン酸を共重合させる方法(特許文献2)、ポリアリレートを含むポリエステルにリン化合物を配合または共重合させる方法(特許文献3)などが提案されている。前記難燃化技術を人工毛髪に適用したものとしては、たとえばリン化合物を共重合させたポリエステル繊維が提案されている(特許文献4)。しかしながら、人工毛髪には高い耐燃性が要求されるため、これらの共重合ポリエステル繊維を人工毛髪に使用するには、その共重合量を多くしなければならず、その結果、ポリエステルの耐熱性が大幅に低下し、溶融紡糸が困難になったり、火炎が接近した場合、着火・燃焼はしないが、溶融・ドリップするという別の問題が発生する。
【0005】
一方、後者の難燃剤を含有させる方法としては、ポリエステル繊維に、微粒子のハロゲン化シクロアルカン化合物を含有させる方法(特許文献5)、臭素原子含有アルキルシクロヘキサンを含有させる方法(特許文献6)などが提案されている。前記ポリエステル繊維に難燃剤を含有させる方法では、充分な耐燃性を得るために、含有処理温度を150℃以上の高温にすることが必要であったり、含有処理時間を長時間にする必要があったり、あるいは大量の難燃剤を使用しなければならないといった問題があり、繊維物性の低下や生産性の低下、製造コストがアップするなどの問題が発生する。
【0006】
また、難燃助剤としてアンチモン化合物を添加して、難燃性向上を図ることが提案されているが(特許文献7、8)、繊維において実施した場合、溶融粘度低下により紡糸加工性が不安定になったり、アンチモン粒子による糸切れなどが発生する。
【0007】
このように、従来のポリエステル繊維の耐熱性、強伸度などの繊維物性を維持し、セット性、難燃性に優れた人工毛髪は、いまだ得られていないのが実状である。
【特許文献1】特公昭55−41610号公報
【特許文献2】特公昭53−13479号公報
【特許文献3】特開平11−124732号公報
【特許文献4】特開平3−27105号公報
【特許文献5】特公平3−57990号公報
【特許文献6】特公平1−24913号公報
【特許文献7】特許2693331号公報
【特許文献8】特開2002−128998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前述のごとき従来の問題を解決し、通常のポリエステル繊維の耐熱性、強伸度など繊維物性を維持し、セット性、触感、光沢、透明性、加工安定性に優れ、高い難燃性を有するポリエステル系人工毛髪を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ポリエステルに臭素含有難燃剤、ホウ酸亜鉛および/または錫酸亜鉛を含んでなる組成物、さらには、有機微粒子および/または無機微粒子を含んでなる組成物を溶融紡糸することにより、通常のポリエステル繊維の耐熱性、強伸度など繊維物性を維持し、セット性、触感、光沢、透明性、加工安定性に優れた難燃性ポリエステル系人工毛髪が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、ポリアルキレンテレフタレートおよびポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルの1種以上からなるポリエステル(A)100重量部に対し、臭素含有難燃剤(B)5〜30重量部、ホウ酸亜鉛および/または錫酸亜鉛(C)0.5〜10重量部を溶融混練して得られる組成物から形成されたポリエステル系人工毛髪であり、好ましくは、(A)成分が、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートよりなる群から選ばれた少なくとも1種のポリマーである上記ポリエステル系人工毛髪、(B)成分が、臭素化芳香族系難燃剤、臭素含有リン酸エステル系難燃剤、臭素化ポリスチレン系難燃剤、臭素化ベンジルアクリレート系難燃剤、臭素化エポキシ系難燃剤、臭素化フェノキシ系難燃剤、臭素化ポリカーボネート系難燃剤、テトラブロモビスフェノールA誘導体、臭素含有トリアジン系化合物、臭素含有イソシアヌル酸系化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物である上記ポリエステル系人工毛髪であり、さらには、(D)成分が、ポリアリレート、ポリアミド、フッ素樹脂、シリコン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリスチレンよりなる群から選ばれた少なくとも1種である上記ポリエステル系人工毛髪、(E)成分が、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、タルク、カオリン、モンモリロナイト、ベントナイト、マイカよりなる群から選ばれた少なくとも1種である上記ポリエステルに関する。
【0010】
また、上記難燃性ポリエステル系人工毛髪は、単繊維繊度が10〜100dtexであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
従来、難燃助剤として用いられるアンチモン化合物、たとえば三酸化アンチモンの粒子径は、分散性、難燃性の均一性、入手の容易さなどの点から、0.5〜1μm程度のものが広く使用されてきた。しかしながら、ポリエステル繊維の難燃助剤として三酸化アンチモンを用いた場合、ポリエステル繊維の屈折率が繊維軸方向で1.72、繊維軸と直交する方向で1.54であるのに対し、三酸化アンチモンの屈折率は2.09〜2.29であるため、透明性が低下する傾向を示す。また、三酸化アンチモンは、0.4〜1.5μmの範囲の隠ぺい力が強く、この範囲の三酸化アンチモンを使用した場合、得られるフィラメントの色相が低下(白化)する傾向がある。
【0012】
本発明で使用するホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛は、屈折率がそれぞれ、1.58、1.90であり、ポリエステル繊維の屈折率に近いため、透明性および色相の低下が小さい。
【0013】
本発明によると、通常のポリエステル繊維の耐熱性、強伸度など繊維物性を維持し、セット性、触感、光沢、透明性に優れ、高い難燃性を有するポリエステル系人工毛髪が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の難燃性ポリエステル系人工毛髪は、ポリアルキレンテレフタレートおよびポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルの1種以上からなるポリエステル(A)、臭素含有難燃剤(B)、ホウ酸亜鉛および/または錫酸亜鉛(C)を含んでなる組成物、さらに、有機微粒子(D)および/または無機微粒子(E)を含んでなる組成物を溶融紡糸した繊維である。
【0015】
本発明に用いられるポリエステル(A)に含まれるポリアルキレンテレフタレートまたはポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルとしては、たとえばポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートおよび/またはこれらのポリアルキレンテレフタレートを主体とし、少量の共重合成分を含有する共重合ポリエステルがあげられる。
【0016】
前記主成分とするとは、80モル%以上含有することをいう。
【0017】
前記共重合成分としては、たとえばイソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スぺリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの多価カルボン酸、それらの誘導体、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルなどのスルホン酸塩を含むジカルボン酸、その誘導体、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、4−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトンなどがあげられる。
【0018】
前記共重合ポリエステルは、通常、主体となるテレフタル酸および/またはその誘導体(たとえばテレフタル酸メチル)と、アルキレングリコールとの重合体に少量の共重合成分を含有させて反応させることにより製造するのが、安定性、操作の簡便性の点から好ましいが、主体となるテレフタル酸および/またはその誘導体(たとえばテレフタル酸メチル)と、アルキレングリコールとの混合物に、さらに少量の共重合成分であるモノマーまたはオリゴマー成分を含有させたものを重合させることにより製造してもよい。
【0019】
前記共重合ポリエステルは、主体となるポリアルキレンテレフタレートの主鎖および/または側鎖に前記共重合成分が重縮合していればよく、共重合の仕方などには特別な限定はない。
【0020】
前記ポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルの具体例としては、たとえばポリエチレンテレフタレートを主体とし、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテルを共重合したポリエステル、1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエステル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルを共重合したポリエステルなどがあげられる。
【0021】
前記ポリアルキレンテレフタレートおよび共重合ポリエステルは、1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうちでは、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、共重合ポリエステル(ポリエチレンテレフタレートを主体とし、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテルを共重合したポリエステル、1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエステル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルを共重合したポリエステルなど)が好ましく、これらは2種以上混合したものも好ましい。
【0022】
(A)成分の固有粘度としては、0.5〜1.4、さらには0.6〜1.2であるのが好ましい。固有粘度が0.5未満の場合、得られる繊維の機械的強度が低下する傾向が生じ、1.4をこえると、分子量の増大に伴い溶融粘度が高くなり、溶融紡糸が困難になったり、繊度が不均一になる傾向が生じる。
【0023】
本発明に用いられる臭素含有難燃剤(B)にはとくに限定はなく、一般に用いられている臭素含有難燃剤であれば使用することができる。
【0024】
(B)成分の具体例としては、ペンタブロモトルエン、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモジフェニル、デカブロモジフェニルエーテル、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、テトラブロモ無水フタル酸、エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)、オクタブロモトリメチルフェニルインダン、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェートなどの臭素含有リン酸エステル類、一般式(1)で表される臭素化ポリスチレン類、一般式(2)で表される臭素化ポリベンジルアクリレート類、一般式(3)で表される臭素化エポキシオリゴマー類、臭素化フェノキシ樹脂、一般式(4)で表される臭素化ポリカーボネートオリゴマー類、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(アリルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)などのテトラブロモビスフェノールA誘導体、トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジンなどの臭素含有トリアジン系化合物、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートなどの臭素含有イソシアヌル酸系化合物などが挙げられる。これらは1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
【化1】

(式中、Yは1〜5、nは5〜200を示す)
【0026】
【化2】

(式中、mは5〜100を示す)
【0027】
【化3】

(式中、R1は炭素数1〜10の炭化水素基、アリール基、アラルキル基、反応性基を含む炭化水素基、臭素含有アリール基、または臭素含有アラルキル基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい、pは1〜80を示す)
【0028】
【化4】

(式中、R2は水素または臭素原子であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい、qは1〜80を示す)
これらの中では、臭素含有リン酸エステル系難燃剤、臭素化ポリスチレン系難燃剤、臭素化ベンジルアクリレート系難燃剤、臭素化エポキシ系難燃剤、臭素化フェノキシ樹脂系難燃剤、臭素化ポリカーボネート系難燃剤、テトラブロモビスフェノールA誘導体、臭素含有トリアジン系化合物、臭素含有イソシアヌル酸系化合物が好ましく、臭素含有リン酸エステル系難燃剤、臭素化エポキシ系難燃剤、臭素化フェノキシ樹脂系難燃剤がさらに好ましい。
【0029】
上記(B)成分の使用量は、(A)成分100重量部に対し、5〜30重量部が好ましく、6〜25重量部がより好ましく、7〜20重量部がさらに好ましい。使用量が5重量部より少ないと難燃効果が不十分となり、30重量部より多いと機械的特性、耐熱性、耐ドリップ性が損なわれる。
【0030】
(B)成分を配合することにより難燃性は発現されるが、シリコン系の繊維処理剤を使用した場合や可燃性繊維と混合使用した場合には、十分な難燃性を得るには至らないが、(C)成分を配合することにより難燃効果が著しく向上し、十分な難燃性を得ることができる。
【0031】
本発明に用いられるホウ酸亜鉛および/または錫酸亜鉛(C)の使用量は、(A)成分100重量部に対し、0.5〜10重量部が好ましく、0.6〜9重量部がより好ましく、0.7〜8重量部がさらに好ましい。使用量が0.5重量部より少ないと、難燃効果の向上が小さく、10重量部より多いと、加工安定性が損なわれる。
【0032】
(C)成分の平均粒子径は、一般に用いられる粒子径のものが使用可能であるが、1〜10μmが好ましく、1.5〜8μmがより好ましく、2〜6μmがさらに好ましい。また、必要に応じてエポキシ化合物、シラン化合物、イソシアネート化合物、チタネート化合物等で表面処理されてもよい。
【0033】
本発明の難燃性ポリエステル系人工毛髪用繊維は、有機微粒子(D)および/または無機微粒子(E)を混合して、繊維表面に微細な突起を形成し、繊維表面の光沢、つやを調整することができる。
【0034】
(D)成分としては、主成分である(A)成分と相溶しないか、部分的に相溶しない構造を有する有機樹脂成分であれば使用することができ、たとえば、ポリアリレート、ポリアミド、フッ素樹脂、シリコン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリスチレンなどが好ましく用いられる。これらは1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。安定的に光沢調整効果を発現するためには、耐熱性、分散性の点から架橋ポリエステル粒子、架橋アクリル粒子が好ましい。
【0035】
前記架橋ポリエステル粒子は、不飽和ポリエステルとビニル系単量体を水分散させ、架橋硬化させることで得られる。ここで使用される不飽和ポリエステルとしては、とくに限定はなく、たとえば、α,β−不飽和酸もしくはそれと飽和酸との混合物と二価アルコールもしくは三価アルコールとを重合させたものなどを挙げることができる。不飽和酸としては、たとえば、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などが、飽和酸としてはたとえば、フタル酸、テレフタル酸、コハク酸、グルタル酸、テトラヒドロフタル酸、アジピン酸、およびセバチン酸などが挙げられる。また、二価アルコールおよび三価アルコールとしては、たとえば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。一方、ビニル系単量体としては、とくに限定はなく、たとえば、スチレン、クロルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、アクリル酸、メチルアクリレート、アクリロニトリル、エチルアクリレート、およびジアリルフタレートなどが挙げられる。
【0036】
前記架橋アクリル粒子は、アクリル系単量体と架橋剤を水分散させ、架橋硬化させることで得られる。ここで使用されるアクリル系の単量体としては、アクリル酸、アクリル酸の誘導体、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリロニトリル、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、あるいはメタクリル酸、メタクリル酸の誘導体、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸N−ビニル−2−ピロリドン、メタクリロニトリル、メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどの1分子中に1個のビニル基を有するビニル系単量体が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組合せて使用することができる。また、架橋剤としては1分子中に2個以上のビニル基を有する単量体であればいずれでもよいが、1分子中に2個のビニル基を有するものが好ましい。その好ましい単量体としては例えば、ジビニルベンゼン、グリコールとメタクリル酸あるいはアクリル酸との反応生成物、例えばエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレートなどがあるが、これらに限定されるものではない。その添加量は、ビニル基を1個有する単量体100重量部に対して0.02〜5重量部が好ましい。重合開始剤としては、過酸化物系ラジカル重合開始剤が好ましく、例えば、過酸化ベンゾイル、過安息香酸2−エチルヘキシル、過酸化ジtert−ブチル、クメンヒドロペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシドなどが挙げられる。ラジカル重合開始剤は、ビニル基を1個有する単量体100重量部に対して0.05〜10重量部使用されるのが好ましい。
【0037】
(E)成分としては、繊維の透明性、発色性への影響から、(A)および/または(B)成分の屈折率に近い屈折率を有するものが好ましく、たとえば、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、タルク、カオリン、モンモリロナイト、ベントナイト、マイカなどが挙げられる。
【0038】
本発明に使用する難燃性ポリエステル系組成物は、たとえば、(A)、(B)および(C)成分と必要に応じ(D)および/または(E)成分を事前にドライブレンドした後、種々の一般的な混練機を用いて溶融混練することにより製造することができる。
【0039】
前記混練機の例としては、たとえば一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどがあげられる。これらのうちでは、二軸押出機が、混練度の調整、操作の簡便性の点から好ましい。
【0040】
本発明のポリエステル系人工毛髪は、前記ポリエステル系組成物を通常の溶融紡糸法で溶融紡糸することにより製造することができる。
【0041】
すなわち、たとえば、押出機、ギアポンプ、口金などの温度を270〜310℃とし、溶融紡糸し、紡出糸条を加熱筒に通過させたのち、ガラス転移点以下に冷却し、50〜5000m/分の速度で引き取ることにより紡出糸条が得られる。また、紡出糸条を冷却用の水を入れた水槽で冷却し、繊度のコントロールを行なうことも可能である。加熱筒の温度や長さ、冷却風の温度や吹付量、冷却水槽の温度、冷却時間、引取速度は、吐出量および口金の孔数によって適宜調整することができる。
【0042】
得られた紡出糸条は熱延伸されるが、延伸は紡出糸条を一旦巻き取ってから延伸する2工程法および巻き取ることなく連続して延伸する直接紡糸延伸法のいずれの方法によってもよい。熱延伸は、1段延伸法または2段以上の多段延伸法で行なわれる。熱延伸における加熱手段としては、加熱ローラ、ヒートプレート、スチームジェット装置、温水槽などを使用することができ、これらを適宜併用することもできる。
【0043】
本発明のポリエステル系人工毛髪には、必要に応じて、耐熱剤、光安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、静電防止剤、顔料、可塑剤、潤滑剤などの各種添加剤を含有させることができる。顔料を含有させることにより、原着繊維を得ることができる。
【0044】
このようにして得られる本発明のポリエステル系人工毛髪は、非捲縮生糸状の繊維であり、その繊度は、通常、10〜100dtex、さらには20〜90dtexであるのが、人工毛髪に適している。また、人工毛髪としては、160〜200℃で美容熱器具(ヘアーアイロン)が使用できる耐熱性を有しており、着火しにくく、自己消火性を有していることが好ましい。
【0045】
本発明のポリエステル系人工毛髪が原着されている場合、そのまま使用することができるが、原着されていない場合、通常のポリエステル系繊維と同様の条件で染色することができる。
【0046】
染色に使用される顔料、染料、助剤などとしては、耐候性および難燃性のよいものが好ましい。
【0047】
本発明のポリエステル系人工毛髪は、美容熱器具(ヘアーアイロン)を用いたカールセット性に優れ、カールの保持性にも優れる。また、繊維表面の凹凸により、適度に艶消されており、人工毛髪として使用することができる。さらに、繊維表面処理剤、柔軟剤などの油剤を使用し、触感、風合を付与して、より人毛に近づけることができる。
【0048】
また、本発明の難燃性ポリエステル系人工毛髪は、モダアクリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ナイロン繊維など、他の人工毛髪素材と併用してもよいし、人毛と併用してもよい。
【実施例】
【0049】
つぎに、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
なお、特性値の測定法は、以下のとおりである。
(紡糸加工性)
紡糸加工性は、紡糸により得られた未延伸糸を目視および手で触れて、糸の性状を評価する 。○:糸切れのない良好な性状の未延伸糸が得られる。
【0051】
△:ごくわずかの糸切れがある。
【0052】
×:糸切れがある、または、糸ががさついている。
(強度および伸度)
インテスコ社製、INTESCO Model201型を用いて、フィラメントの引張強伸度を測定する。長さ40mmのフィラメント1本をとり、フィラメントの両端10mmを、接着剤を糊付けした両面テープを貼り付けた台紙(薄紙)で挟み、一晩風乾させて、長さ20mmの試料を作製する。試験機に試料を装着し、温度24℃、湿度80%以下、荷重1/30gF×繊度(デニール)、引張速度20mm/分で試験を行ない、強伸度を測定する。同じ条件で試験を10回繰り返し、平均値をフィラメントの強伸度とする。
(透明性)
長さ30cm、総繊度10万dtexのトウフィラメントを太陽光のもと、目視により、標準フィラメント(ポリエチレンテレフタレートからなる総繊度10万dtexのトウフィラメント)と比較評価する。
【0053】
○:標準フィラメントと同レベルである
△:標準フィラメントに比べ、わずかに濁りがある
×:標準フィラメントに比べ、明らかに濁りがある
(光沢)
長さ30cm、総繊度10万dtexのトウフィラメントを太陽光のもと、目視により評価する。
【0054】
◎:人毛に等しいレベルに光沢が調整されている
○:適度に光沢が調整されている
△:若干光沢が多すぎる、または、若干光沢が少なすぎる
×:光沢が多すぎる、または、光沢が少なすぎる
(触感)
長さ30cm、総繊度10万dtexのトウフィラメントを手で触り、フィラメント表面のベタツキ感を評価する。
【0055】
○:ベタツキ感なし
△:若干ベタツキ感がある
×:ベタツキ感がある
(難燃性)
繊度約50dtexのフィラメントを150mmの長さに切り、0.7gを束ね、一方の端をクランプで挟んでスタンドに固定して垂直に垂らす。有効長120mmの固定したフィラメントに20mmの炎を3秒間接炎させ、燃焼させて評価する。
【0056】
−燃焼性−
◎:残炎時間が0秒(着火しない)
○:残炎時間が3秒未満
△:残炎時間が3〜10秒
×:残炎時間が10秒以上
(限界酸素指数)
16cm/0.25gのフィラメントを秤量し、端を軽く両面テープでまとめ、懸撚器で挟み撚りをかける。十分に撚りがかかったら、試料の真中を二つに折り2本を撚り合わせる。端をセロテープ(登録商標)で止め、全長7cmになるようにする。105℃で60分間前乾燥を行ない、さらにデシケーターで30分以上乾燥する。乾燥したサンプルを所定の酸素濃度に調整し、40秒後8〜12mmに絞った点火器で上部より着火し、着火後点火器を離す。5cm以上燃えるか、3分以上燃え続けた酸素濃度を調べ、同じ条件で試験を3回繰り返し、限界酸素指数とする。
(アイロンセット性)
ヘアーアイロンによるカールセットのしやすさ、カール形状の保持性の指標である。フィラメントを180℃に加熱したヘアーアイロンにかるく挟み、3回扱き予熱する。このときのフィラメント間の融着、フィラメントの縮れ、糸切れを目視評価する。つぎに、予熱したフィラメントをヘアーアイロンに捲きつけ、10秒間保持し、アイロンを引き抜く。このときの抜きやすさ(ロッドアウト性)、抜いたときのカールの保持性を目視評価する。
【0057】
−融着−
○:なし
△:若干あり
×:あり
−縮れ/糸切れ−
○:なし
△:若干あり
×:あり
−ロッドアウト−
○:アイロンロッドが抵抗なく抜ける
△:若干抵抗がある
×:抵抗があり、抜け難い
−セット性−
○:セットが付きやすく、カールが安定している
△:セットは付く安いが、若干カールが崩れる
×:セットが付き難い、または、カールが崩れる
(実施例1〜10)
表1、2に示す比率の組成物を、水分量100ppm以下に乾燥し、着色用ポリエステルペレットPESM6100 BLACK(大日精化工業(株)製、カーボンブラック含有量30%、ポリエステルは(A)成分に含まれる)2部を添加してドライブレンドし、二軸押出機に供給し、280℃で溶融混練し、ペレット化したのちに、水分量100ppm以下に乾燥させた。ついで、溶融紡糸機を用いて280℃でノズル径0.5mmの丸断面ノズル孔を有する紡糸口金より溶融ポリマーを吐出し、口金下30mmの位置に設置した水温50℃の水浴中で冷却し、100m/分の速度で巻き取って未延伸糸を得た。得られた未延伸糸に対し、85℃に加熱したヒートロールを用いて4倍に延伸し、200℃に加熱したヒートロールを用いて熱処理を行い、30m/分の速度で巻き取り、単繊維繊度が50dtex前後のポリエステル系繊維(マルチフィラメント)を得た。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

*1:ポリエチレンテレフタレート、カネボウ合繊(株)製
*2:トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、大八化学工業(株)製
*3:臭素化エポキシ系難燃剤、阪本薬品工業(株)製
*4:臭素化ポリカーボネートオリゴマー、帝人化成(株)製
*5:錫酸亜鉛、平均粒子径2.5μm、日本軽金属(株)製
*6:無水ホウ酸亜鉛、平均粒子径3μm、ボラックス・ジャパン(株)製
*7:架橋アクリル粒子、平均粒子径1.8μm、綜研化学(株)製
*8:球状微粉末シリカ、平均粒子径2.7μm、富士シリシア(株)製
*9:三酸化アンチモン、平均粒子径0.5μm、日本精鉱(株)製
得られた繊維を用いて、紡糸加工性、強伸度、透明性、触感、難燃性、アイロンセット性を評価した結果を表3、4に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

(比較例1〜4)
表2に示す比率の組成物を、水分量100ppm以下に乾燥し、実施例と同様にして、単繊維繊度が50dtex前後のポリエステル系繊維(マルチフィラメント)を得た。
【0062】
得られた繊維を用いて、紡糸加工性、強伸度、透明性、光沢、触感、難燃性、アイロンセット性を評価した結果を表4に示す。
【0063】
表3、4に示したように、比較例に対し、実施例では、ホウ酸亜鉛および/または錫酸亜鉛を使用することで、紡糸加工性、透明性、触感、アイロンセット性などの低下がなく、高い難燃性を示すことが確認された。従って今回のホウ酸亜鉛および/または錫酸亜鉛を含む組成物を使用した人工毛髪用繊維は、従来の人工毛髪用繊維に比べ、ポリエステルの機械的特性、熱的特性を維持したまま、紡糸加工性、透明性、光沢、触感、セット性、難燃性が改善された人工毛髪として有効に用いることが可能となることを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキレンテレフタレートおよびポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルの1種以上からなるポリエステル(A)100重量部に対し、臭素含有難燃剤(B)5〜30重量部、ホウ酸亜鉛および/または錫酸亜鉛(C)0.5〜10重量部を溶融混練して得られる組成物から形成された難燃性ポリエステル系人工毛髪。
【請求項2】
(A)成分が、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートよりなる群から選ばれた少なくとも1種のポリマーである請求項1記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪。
【請求項3】
(B)成分が、臭素化芳香族系難燃剤、臭素含有リン酸エステル系難燃剤、臭素化ポリスチレン系難燃剤、臭素化ベンジルアクリレート系難燃剤、臭素化エポキシ系難燃剤、臭素化フェノキシ系難燃剤、臭素化ポリカーボネート系難燃剤、テトラブロモビスフェノールA誘導体、臭素含有トリアジン系化合物、臭素含有イソシアヌル酸系化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の難燃剤である請求項1または2記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪。
【請求項4】
(A)、(B)および(C)成分からなる組成物に、さらに有機微粒子(D)および/または無機微粒子(E)が混合された、繊維表面に微細な突起を有する請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪用繊維。
【請求項5】
(D)成分が、ポリアリレート、ポリアミド、フッ素樹脂、シリコン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリスチレンよりなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項4記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪。
【請求項6】
(E)成分が、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、タルク、カオリン、モンモリロナイト、ベントナイト、マイカよりなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項4記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪。
【請求項7】
単繊維繊度が10〜100dtexである請求項1〜6のいずれかに記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪。

【公開番号】特開2006−118068(P2006−118068A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−304502(P2004−304502)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】