説明

難燃性マルチング材

【課題】 難燃性であって、施工地とは異なる雑草や病害虫の発生を防止でき、大雨によって流亡することがなく、施工地の自然環境等に悪影響を与える恐れのないマルチング材を提供する。
【解決手段】 C/N比が35以下で水分率55〜65%において比重が1以上であって、繊維長が15mm以上である広葉樹の樹皮の堆肥化物に、水溶性粉末状水溶性ポリアクリルアミド粘着糊、水溶性有機燐酸窒素化合物難燃剤が添加されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、難燃性マルチング材に関するものである。さらに詳しくは、この発明は、公園、道路の緑地帯や路側帯、造成地や工場敷地等における緑化事業、農林業等において使用される難燃性マルチング材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
緑化事業や農林業等においては、苗木、樹木、作物等の根元やその周囲の土壌をマルチング材で覆うことが行われている。マルチング材を使用することで、雑草の生育の抑制や病害虫の発生防止、土壌の乾燥防止、降雨による土壌の流出の防止、シルトや粘土の表土への浮き出しによる防水土膜形成の防止、外気温の変化の地温への影響の緩和・調節、人の土壌への立ち入り等による土壌の固結化を阻止することで苗木等の生育阻害の防止等をはかることができ、公園、道路等の緑化事業にとっては、さらに、美粧性を向上させることができる。
【0003】
マルチング材としては、敷き藁、敷き草等が使用されていたが、入手性、取り扱い性、経済性等から、化成フィルム等からなるマルチング材、すなわち、防草シートが多用されている。このような防草シートは、雑草の生育の抑制に優れているが、前記した病害虫の発生防止、土壌の乾燥防止、土壌の流出の防止、防水土膜形成の防止、外気温の変化の地温への影響の緩和・調節、人の立ち入り等による土壌の固結化による苗木等の生育阻害の防止、美粧性の向上には十分な機能を果たしているとはいえない。
【0004】
防草シートに替え、木質材料を粉砕加工したものをそのままマルチング材としたものも使用されているが、例えば、粉砕加工を行った地の雑草の種子がついていると、マルチング材を施す土壌には、それまで見られなかった雑草が発生することになる。このような雑草がはびこると、その地の生態系に悪影響を与える恐れが高い。同様なことは、病害虫についてもいえることである。このマルチング材は、保水性が低く、夏場での土壌からの水分の蒸発を防止する機能が不十分であり、強風によって飛散し易く、比重は1を超えることはなく水に浮かぶことから、大雨によって流亡したりする。そして、冬場の異常乾燥時には、投げ捨てられたタバコ等の火種によって、容易に着火して火災を引き起こしたりするといった欠点を有している。
【0005】
特許文献1には、樹皮を粉砕したものに、植生糊としての水性エマルジョン、難燃剤を混合した難燃性マルチング材が開示されている。しかしながら、このような難燃性マルチング材においても、その比重は最大吸水時においても1を超えることはなく、水に浮かぶことから大雨によって流亡したりすることに変わりはない。また、マルチング材を施す土壌に見られる雑草とは異なった雑草が発生したり、その土地では見られない病害虫が発生したりすることも変わりはない。雑草の発生、病害虫の発生を防止するために熱処理等を行うと、手間とコストがかかることになる。また、流亡しないように比重を1以上とするのに、無機鉱物等を添加することが考えられるが、無機鉱物等がマルチング材から脱落しないように固定するために、例えば、植生糊を多量に消費することが必要となったり、原料として無機鉱物等が必要となり、製品単価を上昇させることにもなる。
【特許文献1】特開平8−89097号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような実情に鑑み鋭意研究を行ったところ、本発明者等は、樹皮の堆肥化物は、堆肥化の過程において、約70℃の発酵温度に達することから、雑草の種子、病害虫の原因となる細菌や害虫、その卵等はほぼ確実に死滅しているものであること、および、水分をよく吸収し、迅速に水分率が55〜65%前後にまで達し、その際の、比重が1以上となり、水に沈むことになること、とりわけ、広葉樹の樹皮の堆肥化物は、繊維長が長く、気相が確保しやすく、乾燥時にはふんわりとし、雨の日には締まるといった特性を有すること等に着目し、この発明を完成するに至ったものであり、難燃性であって、施工地とは異なる雑草や病害虫の発生を防止でき、大雨によって流亡することがなく、施工地の自然環境等に悪影響を与える恐れのないマルチング材を提供することを目的としている。さらに、前記目的に加え、マルチング材の施工後にキノコやカビ等の菌類が生じることのない難燃性のマルチング材を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明の難燃性マルチング材は、(1).広葉樹の樹皮の堆肥化物に、水溶性高分子粘着糊、水溶性難燃剤が添加されてなることを特徴とする。
そして、(2).前記(1)において、前記堆肥化物は、C/N比が35以下で水分率55〜65%において比重が1以上であり、堆肥化された樹皮の繊維長が15mm以上であることが好ましい。
(3).前記(1)または(2)において、前記水溶性高分子粘着糊が、粉末状水溶性ポリアクリルアミドであることが好ましい。
(4).前記(1)、(2)または(3)において、前記難燃剤が、水溶性有機燐酸窒素化合物難燃剤であることが好ましい。
(5).前記(1)、(2)、(3)または(4)において、水溶性有機窒素系防腐剤が添加されてなることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
この発明は、以上説明したように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏する。
すなわち、広葉樹の樹皮の堆肥化物は、堆肥化の過程において、約70℃の発酵温度を経たものであり、樹皮等に雑草の種子、病害虫の原因となる細菌や害虫、その卵等が付着していたとしてもほぼ確実に死滅しており、針葉樹の樹皮の堆肥化物と比べ、繊維長が長く、気相が確保しやすく、乾燥時にはふんわりとし雨の日には締まるものであって、水分をよく吸収し、水分率は迅速に55〜65%前後にまで達し、比重は1以上となり、水に沈むことになり、施工後のマルチング材が大雨によって流亡する恐れがない。また堆肥化物に水溶性高分子粘着糊、水溶性難燃剤がなじみ易く、品質の均一なマルチング材を得ることができる。
【0009】
この発明のマルチング材は、難燃性であることから、タバコの投げ捨てによって着火することがなく安全である。
【0010】
また、施工地とは異なる雑草や病害虫の発生を防止でき、施工地の自然環境等に悪影響を与える恐れがなく、自然に優しいマルチング材を提供できる。そして、マルチング材自体も長期間の内に風化して、自然に還るものであり、肥料としても機能する。堆肥化物は、一般に遠距離まで輸送して用いるものではなく、製造地近辺において使用するものであり、堆肥化物の製造に用いる発酵微生物も堆肥化物の使用地の環境に悪影響を与えるものを使用することはない。そのため、この発明のマルチング材に含まれる発酵微生物が使用地の自然環境に悪影響を与えることにはならないことはいうまでもない。
【0011】
また、水溶性高分子粘着剤は、分子量が大きく粘性が高いため、その粘着性の発現によって堆肥化物の繊維相互の絡み合いと相俟って繊維相互の結合が強固に行われることになる。そのため、強風によって堆肥化物が飛散する恐れがない。また、傾斜した施工地に施工した場合に、マルチング材の重量によって繊維同士の結合を分離しようとする力が働いても水溶性高分子粘着剤の粘着力によって阻止され、長期間にわたるマルチングの効果を持続させることができる。そして、このことは、雨等によってマルチング材が吸水し、水分がマルチング材に加わることになっても、水溶性高分子粘着剤の粘着力によってマルチング材の繊維同士の結合が容易に分離されることにならない。
【0012】
そして、マルチング材としての前記した以外の機能、すなわち、土壌の乾燥防止、降雨による土壌の流出の防止、シルトや粘土の表土への浮き出しによる防水土膜形成の防止、外気温の変化の地温への影響の緩和・調節、人の土壌への立ち入り等による土壌の固結化を阻止することで苗木等の生育阻害の防止等をはかることができることはいうまでもない。これは、主に、堆肥化物の繊維が長く、気相が確保しやすく、乾燥時にはふんわりとし、雨の日には締まるといった特性を有することによるものと考えられる。
【0013】
この発明のマルチング材は、前記した堆肥化物に、水溶性高分子粘着剤、水溶性難燃剤を添加したものであることから、材料費、製造コストを含め安価である。
また、この発明のマルチング材は、一般に堆肥化物により暗褐色を呈しており、施工地の景観を落ち着いた雰囲気とすることができ、しかも、長期間にわたり色が変化しないことから、公園、道路等の緑化事業において美粧性を確保しやすい。なお、必要に応じ適宜の着色剤等を使用することができることは、もちろんである。
【0014】
また、水溶性有機窒素系防腐剤を添加することで、マルチング材の施工後に、土壌に存在したり、飛散してきたりしたキノコやカビ等の菌類の生育が阻止される。従って堆肥物の分解が阻止され、キノコやカビ等の菌類が生育することによる美粧上の劣化を防止でき、しかも、長期にわたり難燃性のマルチング材の効果を持続させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、発明を実施するための最良の形態を示し、さらに詳しくこの発明について説明する。もちろんこの発明は以下の実施の形態によって限定されるものではない。
【0016】
この発明で使用される広葉樹の樹皮の堆肥化物としては、広葉樹の樹皮を破砕したものを通常の方法で堆肥化すればよく、例えば、広葉樹の樹皮の破砕物に、米糠、尿素等を混入したものを、好気性発酵微生物を用いて発酵させることで製造することができる。発酵により約70℃に達し、堆肥化までには、通常、6ヶ月ほどを要する。堆肥化するまでの間に、適宜水分の補給と数回の切り返しを行う。堆肥化過程において、発酵温度の上昇によって、広葉樹の樹皮に付着していた雑草の種子、病害虫の原因となる細菌や虫、卵等はほぼ確実に死滅する。堆肥化は、炭素率(C/N比)が35以下となるまで行うことが好ましい。C/N比が35以下のものであれば、水分の吸収が良好で、水分率が迅速に55〜65%前後にまで達し、比重が1以上となり、水に沈むことになる。また、水溶性高分子粘着剤、水溶性難燃剤とのなじみもよい。C/N比が35を超えるものでは、比重が1に達せず、水に浮くことから好ましくない。
得られた堆肥化物は、広葉樹の樹皮を使用していることから、針葉樹の樹皮を使用したものと比べ、繊維長が長く、気相が確保しやすく、乾燥時にはふんわりとし、雨の日には締まるといった特性を有する。
【0017】
堆肥化が完了した後、選別機によって、堆肥化物の繊維長を揃えることが好ましい。繊維長としては、15mm以上であることが繊維の絡み合いを有効利用できる上に、水溶性高分子粘着剤による繊維相互を結合させるための結合点が少なくて済み、水溶性高分子粘着剤の使用量が少なく、経済的となる。繊維長が、15mm未満では、水溶性高分子粘着剤による繊維相互を結合させるための水溶性高分子粘着剤の使用量が多くなり、好ましくない。なお、選別機によって選別された繊維長15mm未満の堆肥化物は、肥料として使用すればよい。
なお、広葉樹の樹皮以外の堆肥化物が使用できないということではなく、本願発明の作用・効果を損なわない範囲であれば、例えば、針葉樹の樹皮を用いた堆肥化物を使用することができることはいうまでもない。
【0018】
広葉樹の樹皮としては、ブナ、ナラ、クヌギ、トチ等が例示できるが、これに限られるものではない。そして、広葉樹の樹皮が、国内産であれば、樹皮に含まれる塩分濃度が低く好ましいが、これに限られるものではない。広葉樹の樹皮は、パルプを製造する際に原木から剥ぎ取ったものを利用することが、循環社会構築の面からリユースを推進することになり好ましい。
【0019】
水溶性高分子粘着剤としては、粘着力が優れ、長期にわたり粘着性が持続され、動植物への害が少なく、最終的には、無害なものに分解され、自然環境に還るものであることが好ましい。この種の水溶性高分子粘着剤は、植生糊として分類することができるものである。この水溶性高分子粘着剤の分解速度は、堆肥化物の分解速度と同様であることが望ましい。また、後述する水溶性難燃剤と相溶性が良好であり、また、安価であることが好ましい。
【0020】
この発明で使用する水溶性高分子粘着剤としては、粉末状水溶性ポリアクリルアミドが好ましい。粉末状水溶性ポリアクリルアミドは、粉末状であることから、取り扱いや水分を積極的に付与しない状態での堆肥化物との混合等が容易である。そして、分子量が大きく所定の水分において高い粘着性を発現し、堆肥化物の繊維相互の絡み合いと相俟って繊維相互の結合を強固に行うことができる。そして、後述する水溶性難燃剤との相溶性も良好である。粉末状水溶性ポリアクリルアミドの具体的な商品としては、クリコート C−402(栗田工業(株))が例示できる。クリコート C−402は、例えば、ヒメダカに対する魚毒性が低いものであり、環境負荷が少ないものである。そして、粘着性としては、30℃での粘度が200〜500mPa・sを示す。なお、この発明において、粉末状とは顆粒粉末を含むものである。
【0021】
水溶性高分子粘着剤は、前述したように粉末状であることが好ましいが、これに限られるものではなく、液体状としたものであってもよい。液体状の場合には、多量の水を用い粘着性が発現しないようにして使用すればよい。従って、液体状の場合には、水分蒸発等によって十分な粘着力を発現させる必要があり、その点では、作業性が低くなる。
【0022】
水溶性難燃剤としては、前記水溶性高分子粘着剤と相溶性のある水溶性有機燐酸窒素化合物難燃剤であることが好ましい。
この難燃剤は、Cn+22n+4n+24n+3
で表示されnが1〜10のものが該当する。
この難燃剤によれば、燃焼時の加熱によって含有するリンがメタリン酸からポリメタリン酸へと変化し、ポリメタリン酸が熱分解して生成したリン酸層の保護皮膜によって酸素の遮断が行われ、また、ポリメタリン酸による脱水作用により堆肥物中の有機質が炭化し(すなわち、リン化合物が脱水触媒となり生成物は燃えにくい炭素に変化)、炭化皮膜が形成されることで難燃性が発現するものと解される。水溶性有機燐酸窒素化合物難燃剤の具体的な商品としては、フランS−72G(大和化学工業(株))が例示できる。フランS−72Gは、例えば、毒性が低く、分解しやすく、また、蓄積性もなく、環境負荷が少ないものである。
【0023】
水溶性有機窒素系防腐剤としては、前記水溶性高分子粘着剤、水溶性難燃剤と相溶性があるものが好ましい。水溶性有機窒素系防腐剤の具体的は商品としては、AA−55super(大和化学工業(株))が例示できる。
【0024】
水溶性高分子粘着剤の量は、粉末状の場合、堆肥化物(水分率60±5%のものを意味する。以下同様)100重量部に対し、0.5〜1.5重量部であることが好ましい。0.5重量部未満では、堆肥化物を結合させるのに不十分であり、飛散し易くなること等から好ましくない。また、1.5重量部を超えても、堆肥化物の結合効果の向上には限界があり、粘着性が高くなりすぎ作業性が悪くなり、また、不経済となることから好ましくない。
【0025】
水溶性難燃剤の量は、堆肥化物100重量部に対し、2.5〜3.5重量部であることが好ましい。2.5重量部未満では、十分な難燃効果が得られないことから好ましくない。また、3.5重量部を超えても難燃効果の向上には限界があり、降雨等によって難燃剤が溶出したものにより、環境への悪影響が生じることもあり、また、不経済となることから好ましくない。また、水溶性難燃剤は濃縮液状態であることから、堆肥化物に均一に付与するため希釈する必要があるが、作業工程における手間をできるだけ省く必要がある。水溶性有機燐酸窒素化合物難燃剤の場合、多量に使用すると、降雨等によって溶出した成分によって河川等が富栄養化をもたらすこともある。
【0026】
水溶性有機窒素系防腐剤の量は、堆肥化物100重量部に対し、1.0〜2.5重量部であることが好ましい。1.0重量部未満では、十分な防腐効果が得られないことから好ましくない。また、2.5重量部を超えても防腐効果の向上には限界があり、毒性が強くなり、また、不経済となることから好ましくない。また、水溶性有機窒素系防腐剤は濃縮液状態であることから、堆肥化物に均一に付与するため希釈する必要があるが、作業工程における手間をできるだけ省く必要がある。
【0027】
本願発明の難燃性マルチング材には、界面活性剤、着色剤等が適宜添加されたものであってもよい。これらは、1種または2種以上であってもよい。
【0028】
本願発明の難燃性マルチング材を製造するには、例えば、以下(i)のようにして行えばよい。
すなわち、(i)広葉樹の樹皮の堆肥化物であって、その繊維長が所定の範囲になるように選別機によって選別されたものを、水分率を勘案して所定量計量して混合容器に投入する。次いで、水溶性難燃剤をその溶液中の水の割合を勘案して所定量計量し、必要に応じて水で希釈したものを混合容器に投入し、攪拌用ショベル等の工具を用いて堆肥化物と水溶性難燃剤とが均一に混合されるまで攪拌する。得られた混合物に、水溶性高分子粘着剤としての粉末状水溶性ポリアクリルアミドをふりかけつつ前記工具を用いて均一に混合し、難燃性マルチング材を得る。得られた難燃性マルチング材の水分量を、この段階では、粉末状水溶性ポリアクリルアミドの粘着性が十分発現するまでの水分には到達しないように事前に計算しておくことで、取り扱いを容易にすることができる。
【0029】
また、本願発明の水溶性有機窒素系防腐剤が添加された難燃性マルチング材を製造するには、例えば、以下(ii)のようにして行えばよい。
すなわち、(ii)堆肥化物と水溶性難燃剤との混合は、前記(i)と同様にして行う。次いで、得られた混合物に、水溶性有機窒素系防腐剤を含まれている水の濃度を勘案して所定量計量し、必要に応じて水で希釈したものを混合容器に投入し、攪拌用ショベル等の工具を用いて水溶性有機窒素系防腐剤が均一に混合されるまで攪拌する。次に、得られた混合物に、水溶性高分子粘着剤としての粉末状水溶性ポリアクリルアミドをふりかけつつ前記工具を用いて均一に混合し、難燃性マルチング材を得る。得られた難燃性マルチング材の水分量を、この段階では、前記(i)でのものよりは水分が多いものの、粉末状水溶性ポリアクリルアミドの粘着性が十分発現するまでの水分には到達しないように事前に計算しておくことで、取り扱いを容易にすることができる。
【0030】
堆肥化物と水溶性難燃剤、水溶性有機窒素系防腐剤の混合は、噴霧によってもよいことはもちろんである。
【0031】
得られた難燃性マルチング材の施工は、例えば、苗木、樹木、作物等の根元やその周囲に所定厚さになるように敷き詰め、上面よりスコップ等で軽く転圧すればよい。そして、必要に応じ水分を付与することで、マルチング材中の水溶性高分子難燃剤の粘着力が発現し、堆肥化物の繊維を互いに強固に粘着固定することになる。
【実施例】
【0032】
次に、実施例を比較例とともに示しさらに詳しく説明する。
(実施例1)
マルチング材を以下のようにして製造した。
国内産の広葉樹の樹皮を使用した堆肥物として、名古屋パルプ(株)製の堆肥化物(商品名:ラインマルチ)を使用した。これをスクリーンでふるい分けし、繊維長15mm以上のものをマルチング材の堆肥化物に採用した。この堆肥化物は、吸水性が良く、吸水時の水分率はほぼ60%に達し、比重は1以上である。
該堆肥化物100重量部を混合容器に投入し、次いで、水溶性難燃剤(商品名;フランS−72G、大和化学工業(株)製)2.5重量部を投入し、攪拌用ショベルを用いて均一になるまで混合した。
次いで、該混合物に顆粒状粉末の水溶性高分子粘着剤(商品名;クリコートC−402、栗田工業(株)製)0.5重量部をふりかけつつ攪拌用ショベルを用いて均一になるまで混合し、マルチング材を得た。この状態では水溶性高分子粘着剤は粘性を十分に発現しておらず、取り扱いが容易であった。
得られたマルチング材を用いて、着火試験を以下のようにして行った。
【0033】
<着火試験>
図1に示すように400×400mmの木枠1の中に土2を敷き、その上にマルチング材3を50mm厚に転圧して敷き、30℃で5日間放置した後、着火したタバコ4をマルチング材の上に置き、タバコが燃え尽きるまでの燃焼状態を(a)マルチング材表面の着火の有無、(b)マルチング材表面からの発煙の有無、(c)マルチング材表面の焦げた部分の大きさを確認した。なお、引火性を高めるため、タバコの火元に向けて斜め上方より風速6m/sの風をあてた。
試験において、フィルターまでのタバコ燃焼に約7分を要した。試験の結果、表面の着火、発煙の発生は認められなかった。
【0034】
なお、実施例1のマルチング材を屋外に施工し、雑草、病害虫の発生の有無を4月〜6月の3ヶ月にわたり確認したところ、マルチング材に起因する雑草、病害虫の発生はなかった。
【0035】
(実施例2)
水溶性有機窒素系防腐剤を使用した点が実施例1とは相違するマルチング材を以下のようにして作製した。
すなわち、実施例1と同じ堆肥化物をスクリーンでふるい分けし、繊維長15mm以上のものをマルチング材の堆肥化物に採用した。該堆肥化物100重量部を混合容器に投入し、実施例1で使用したと同一の水溶性難燃剤2.5重量部を投入し、攪拌用ショベルを用いて均一になるまで混合した。
次いで、水溶性有機窒素系防腐剤(商品名;AA−55Super、大和化学工業(株)製)1重量部を10重量部の水で希釈し、混合容器に投入し、攪拌用ショベルで均一になるまで混合した。
次に、得られた混合物に、実施例1で使用したと同一の顆粒状粉末の水溶性高分子粘着剤0.5重量部をふりかけつつ攪拌用ショベルを用いて均一になるまで混合し、マルチング材を得た。この状態では水溶性高分子粘着剤は粘性を十分に発現しておらず、取り扱いが容易であった。
【0036】
得られたマルチング材を用いて、着火試験を実施例1に記載した方法で行った。
試験において、フィルターまでのタバコ燃焼に約7分を要した。試験の結果、表面の着火、発煙の発生は認められなかった。
【0037】
次に、得られたマルチング材を用いて、カビ、キノコ等の菌類発生試験を以下のようにして行った。
<菌類発生試験>
屋外の穏やかな傾斜地に1,000×1,000mmの木枠を設け、そこにマルチング材を50mm厚に転圧して敷き、カビ、キノコ等の菌類の飛散による菌類の発生の有無を6ヶ月間経過観察した。菌類の発生の有無の観察は、週1回目視により行った。なお、試験に際し土壌消毒し、カビ、キノコ等の菌類は土壌中に存在しないようにした。
得られたマルチング材の菌類発生試験は、12月下旬から6月末までの期間行ったが観察期間中カビ、キノコ類の発生は全く認められなかった。
【0038】
(比較例1)
水溶性難燃剤を混合していない点が実施例1とは相違するマルチング材を作製した。
すなわち、実施例1と同じ堆肥化物をスクリーンでふるい分けし、繊維長15mm以上のものをマルチング材の堆肥化物に採用した。該堆肥化物100重量部を混合容器に投入し、実施例1と同一の顆粒状粉末の水溶性高分子粘着剤0.5重量部をふりかけつつ攪拌用ショベルを用いて均一になるまで混合しマルチング材を得た。この状態では水溶性高分子粘着剤は粘性を十分に発現しておらず、取り扱いが容易であった。
【0039】
得られたマルチング材を用いて、着火試験を実施例1に記載した方法、菌類発生試験を実施例2に記載した方法で行った。
着火試験において、フィルターまでのタバコ燃焼に約7分を要した。試験の結果、表面の着火は認められなかったが、表面から発煙の発生は認められ、タバコを置いたマルチング材の表面に焦げ跡が線状についていた。
【0040】
菌類発生試験は、実施例2と同期間行った。5月末にはカビ、キノコの発生が一部の領域において確認でき、6月末の試験終了時には、広がった領域と新たに発生した領域を含めカビ、キノコが試験面積のほぼ1/3において視られた。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】マルチング材の着火試験の説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1 木枠
2 土
3 マルチング材
4 たばこ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
広葉樹の樹皮の堆肥化物に、水溶性高分子粘着糊、水溶性難燃剤が添加されてなることを特徴とする難燃性マルチング材。
【請求項2】
前記堆肥化物は、C/N比が35以下で水分率55〜65%において比重が1以上であり、堆肥化された樹皮の繊維長が15mm以上であることを特徴とする請求項1記載の難燃性マルチング材。
【請求項3】
前記水溶性高分子粘着糊が、粉末状水溶性ポリアクリルアミドであることを特徴とする請求項1または2記載の難燃性マルチング材。
【請求項4】
前記難燃剤が、水溶性有機燐酸窒素化合物難燃剤であることを特徴とする請求項1、2または3記載の難燃性マルチング材。
【請求項5】
水溶性有機窒素系防腐剤が添加されてなることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の難燃性マルチング材。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−61045(P2006−61045A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−245872(P2004−245872)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(591015810)名古屋パルプ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】