説明

難燃性合成繊維、難燃繊維複合体及びそれを用いた布張り家具製品

【課題】繊維素材が本来有する良好な加工性や風合い、触感を保持しつつ高い難燃性をも付与した難燃性合成繊維、難燃繊維複合体及びそれを用いた布張り家具製品を提供する。
【解決手段】アクリロニトリルを70重量%以上含む重合体、好ましくは前記重合体がアクリロニトリル80〜95重量%および共重合可能な単量体5〜20重量%からなる重合体100重量部に対し、ガラス成分、好ましくは200〜700℃にガラス転移温度を有するガラス成分を1〜100重量部含む難燃性合成繊維(A)、該繊維(A)10重量%以上と天然繊維および/または化学繊維のうち少なくとも1種の繊維(B)、好ましくはポリエステル系繊維を難燃繊維複合体中に40重量%以下となるように含有する繊維(B)90重量%以下からなる難燃繊維複合体及び該難燃繊維複合体により布張りされた家具製品は、良好な加工性や風合い触感を保持しつつ、高い難燃性をも有するものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性合成繊維、難燃繊維複合体及びそれを用いた布張り家具製品に関する。さらに詳しくは、難燃性合成繊維、それを用いた布帛等の難燃繊維複合体、並びに該繊維複合体を用いて製造されたベッドマットレス、椅子、ソファー等の布張り家具製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衣食住の安全性確保の要求が強まり、その中でも特に防炎の観点において、発生時に人的被害が大きい就寝中の火災を防止するために、寝具等の家具製品に用いられる素材への難燃性付与の必要性が高まってきている。
【0003】
これら家具製品においては、使用時の快適さや意匠性を高めるために綿やポリエステル、ウレタンフォームなどの易燃性素材がその内部や表面に用いられることが多い。防炎性の確保には、適当な難燃素材をこれら製品中に用いることで、易燃性素材への着炎を長時間に渉り防止する高度な難燃性を具備させることが重要である。また、前記難燃素材は、家具製品の快適さや意匠性を損なわないものでなければならない。
【0004】
このような家具製品に関し、過去様々な難燃性合成繊維や防炎薬剤が検討されてきたが、高度な難燃性と家具製品に求められる快適さや意匠性といった要件を充分に兼ね備えたものは未だ現れていない。
【0005】
例えば綿布には、防炎薬剤を塗布する、いわゆる後加工防炎という手法があるが、防炎薬剤を均一に付着させることの困難性、付着させることによる布の硬化、洗濯による防炎薬剤の脱離、安全性などの問題があった。
【0006】
また、安価な素材であるポリエステル繊維は、燃焼時に溶融するため、布帛にした際、穴が空き、構造を維持することができず、前述の寝具や家具等の内部に用いられる綿やウレタンフォームへ着炎してしまい、性能としては全く不充分であった。
【0007】
また、アラミド繊維やメラミン繊維、炭素繊維等に代表される耐熱性繊維は、難燃性は優れているが極めて高価であり、さらに加工時の開繊性の問題や、吸湿性や触感の悪さ、そして当該繊維自身が着色している場合もあり、意匠性の高い色柄を得るのが難しいという問題もあった。
【0008】
また、モダクリル繊維やポリノジック繊維等に代表される含ハロゲン繊維は、含有しているハロゲン原子の作用効果により求められる難燃性を付与することは容易だが、繊維中のハロゲン含有量が多くなるほど、強度や染色性、耐熱性等の繊維としての基本特性が低下する傾向にあり、前記特性の制御が難しくなるという問題があった。
【0009】
更には、アクリロニトリルを主成分とするアクリル繊維は、触感や染色性は良好で意匠性の高い製品を得ることはできるが、求められる難燃性を付与することが難しいため、これら難燃性家具製品の分野への用途展開は制限されたものであった。
【0010】
これらの家具製品に使用される難燃性合成繊維の欠点を改良し、一般的な特性として要求される優れた風合い、吸湿性、触感を有し、かつ、安定した難燃性を有する素材として、難燃剤を大量に添加し高度に難燃化した含ハロゲン繊維と、難燃化していない他の繊維とを組み合わせた難燃繊維複合体が、提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、耐熱性繊維を少量混ぜることで、作業服用途に使用可能な高度難燃繊維複合体で、風合いや吸湿性に優れ、高度な難燃性を有するとの記載はあるが(例えば、特許文献2参照)、耐熱性繊維は一般に着色しているため布帛の白度が不十分であり、また染色による発色にも問題があり、意匠性に問題のある難燃繊維複合体であった。更に、本質的に難燃性である繊維と含ハロゲン繊維からなり嵩高さを有する難燃性不織布が提案されているが(例えば、特許文献3)、この場合、複数の繊維を複合化して用いなければ高度な難燃性が得られず、製品の製造工程が複雑になり、また、耐熱性繊維や本質的に難燃性である繊維は一般的に高価でありコスト的に不利であるという問題点があった。また、ガラス成分により難燃化した難燃ポリエステル素材もあるが、ガラス成分量が著しく多いため繊維化時の工程安定性やコスト面に問題があり繊維化には至っていない(例えば、特許文献4)。
【0011】
【特許文献1】特開昭61−89339号公報
【特許文献2】特開平8−218259号公報
【特許文献3】国際公開第03/023108号パンフレット
【特許文献4】特開平9−278999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、繊維素材が本来有する良好な加工性や風合い、触感を保持しつつ、高い難燃性をも付与した難燃性合成繊維、難燃繊維複合体及びそれを用いた布張り家具製品を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記問題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、アクリロニトリルを主成分とする合成繊維にガラス成分を含有させることで、アクリル繊維の持つ加工性や風合い、触感を保持したまま、難燃性を改良できることを見出した。
【0014】
さらに詳しくは、アクリロニトリルを70重量%以上含む重合体にガラス成分を添加した難燃性合成繊維(A)は、加工性や風合い、触感が良好で意匠性を損なうことなく、燃焼時に極めて高い炭化性を発現することで燃焼後においても繊維形態を維持する高度な難燃性をも備えたものとなることを見出し、さらには、前記難燃性合成繊維(A)と、天然繊維と化学繊維のうち少なくとも1種の繊維(B)とを組み合わせて得られる難燃繊維複合体は、高度な難燃性を要求される布張り家具製品に用いることが可能となることを見出した。また、例えば、アラミド繊維やメラミン繊維、炭素繊維等に代表される前記耐熱繊維を単独で使用する場合と比較して、加工性や価格において有利となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち本発明は、アクリロニトリルを70重量%以上含む重合体100重量部に対し、ガラス成分を1〜100重量部含む難燃性合成繊維に関する。
【0016】
ここで、前記ガラス成分が、200〜700℃にガラス転移温度を有することが好ましい。
【0017】
また、前記アクリロニトリルを70重量%以上含む重合体が、アクリロニトリル80〜95重量%、および共重合可能な単量体5〜20重量%からなることが好ましい。
【0018】
さらに、前記ガラス成分がSiO2−PbO系、SiO2−PbO−ZnO系、SiO2−B23−Na2O系、SiO2−B23−PbO系、SiO2−Al23系、B23−PbO系、B23−ZnO系、B23−Na2O−PbO系、B23−PbO−ZnO系、B23−P25系、B23−Bi23−ZnO系、P25−ZnO系から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0019】
また、本発明は、アクリロニトリルを70重量%以上含む重合体100重量部に対しガラス成分を1〜100重量部含む前記難燃性合成繊維(A)10重量%以上と、天然繊維と化学繊維のうち少なくとも1種の繊維(B)90重量%以下とからなる難燃繊維複合体に関する。
【0020】
ここで、前記繊維(B)にポリエステル系繊維を含有し、該ポリエステル系繊維を前記難燃繊維複合体中に40重量%以下含有することが好ましく、前記ポリエステル系繊維が、低融点バインダー繊維であることがより好ましい。
また、前記難燃繊維複合体が、不織布であることが好ましく、該不織布が、炎遮蔽バリア用不織布であることがより好ましい。
【0021】
また、本発明は、前記難燃繊維複合体により布張りされた家具製品に関する。
【発明の効果】
【0022】
以上にしてなる本発明の難燃性合成繊維、難燃繊維複合体及びそれを用いた布張り家具製品は、繊維素材が本来有する良好な加工性や風合い、触感を保持しつつ、高い難燃性をも有するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の難燃性合成繊維(A)は、アクリロニトリルを70重量%以上含む重合体100重量部に対し、ガラス成分を1〜100重量部含むものである。
【0024】
前記アクリロニトリルを70重量%以上含む重合体としては、たとえばアクリロニトリルからなる重合体、アクリロニトリルとアクリロニトリルを含有しない単量体とからなる共重合体、アクリロニトリルからなる重合体とアクリロニトリルを含有しない重合体とを混合したもの等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
前記アクリロニトリルを70重量%以上含む重合体におけるアクリロニトリルの下限としては70重量%、より好ましくは80重量%であり、上限としては100重量%、より好ましくは95重量%である。アクリロニトリル含有量が70重量%未満の場合には、強度や耐熱性等繊維としての基本物性に劣る傾向があるため好ましくない。
【0026】
前記アクリロニトリルを70重量%以上含む重合体が、アクリロニトリル80〜95重量%、およびそれと共重合可能な単量体5〜20重量%からなることが、得られる繊維が強度、難燃性、染色性などの所望の性能及び製造時の安定性を有しつつ、アクリル繊維本来の風合いを維持するため特に好ましい。
【0027】
前記アクリロニトリルと共重合可能な単量体としては、たとえばアクリル酸やアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルといったアクリル酸及びそのエステル類、メタクリル酸やメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルといったメタクリル酸及びそのエステル類、アクリルアミドやメタクリルアミドといったアミド類、酢酸ビニルや蟻酸ビニルといったカルボン酸ビニル類、塩化ビニルやフッ化ビニル、臭化ビニルといったハロゲン含有ビニル単量体、塩化ビニリデンやフッ化ビニリデン、臭化ビニリデンといったハロゲン含有ビニリデン単量体、ビニルスルホン酸及びその塩、メタリルスルホン酸及びその塩、スチレンスルホン酸及びその塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びその塩といったスルホン酸基含有単量体などが挙げられ、それらの1種または2種以上が用いられる。
【0028】
アクリロニトリルを70重量%以上含む重合体における前記アクリロニトリルと共重合可能な単量体の含有量は0〜30重量%であり、好ましくは5〜20重量%である。前記含有量が0重量%でも繊維化は可能で繊維としての物性は得られるが、繊維化時の製造工程においてこれら共重合体を溶解する適当な溶媒を選択することが困難となり、また曳糸性が劣り生産性が低下する傾向がある。一方、前記含有量が30重量%を超えると強度等の繊維としての基本物性が劣る傾向がある。
【0029】
前記アクリロニトリル、およびそれと共重合可能な単量体とからなる共重合体の具体例としては、例えばアクリロニトリル85重量%、アクリル酸メチル13重量%、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ソーダ2重量%からなる共重合体、アクリロニトリル90重量%、酢酸ビニル8重量%、メタリルスルホン酸ナトリウム2重量%からなる共重合体等が挙げられる。これらは、懸濁重合法や溶液重合法等の既知の重合方法で得ることができる。
【0030】
前記ガラス成分としては、例えばSiO2−PbO系、SiO2−PbO−ZnO系、SiO2−B23−Na2O系、SiO2−B23−PbO系、SiO2−Al23系、B23−PbO系、B23−ZnO系、B23−Na2O−PbO系、B23−PbO−ZnO系、B23−P25系、B23−Bi23−ZnO系、P25−ZnO系などを挙げることができるがこれらに限定されるものではない。またこれらを組み合わせて使用しても何ら支障はない。
【0031】
前記ガラス成分の使用量は、アクリロニトリルを70重量%以上含む重合体100重量部に対して1〜100重量部、好ましくは10〜80重量部、更に好ましくは20重量部以上50重量部未満である。1重量部未満だと燃焼時に炭化層の形態保持効果が得られず求める難燃性を得ることが難しくなり、100重量部を超えると十分な形態保持効果は得られるが繊維化時の製造工程において糸切れなどが発生したり、コスト高となるため好ましくない。
【0032】
また、前記ガラス成分のガラス転移温度は200℃〜700℃であることが好ましく、より好ましくは300〜600℃である。200℃未満だと燃焼時のガラス成分の溶融が早いため、また700℃を超えると燃焼時にガラス成分が溶融しにくくなるため、何れも意図する炭化効果を得ることが難しくなる傾向にある。
【0033】
また、前記ガラス成分としては粒子状のものが好ましく、その平均粒子径としては、3μm以下であることが繊維の製造工程上におけるノズル詰りなどのトラブル回避、繊維の強度向上、繊維中でのガラス成分粒子の分散などの点から好ましい。更に前記ガラス成分は、ブロッキング性改善のために粒子表面に化学的修飾を施しても支障ない。
【0034】
本発明の難燃性合成繊維(A)には、必要に応じて帯電防止剤、熱着色防止剤、耐光性向上剤、白度向上剤、失透性防止剤、着色剤、難燃剤といったその他添加剤を含有せしめても良い。例えば、難燃剤としては、ヘキサブロモベンゼン、ヘキサブロモシクロドデカン、塩化パラフィンなどのハロゲン系化合物、トリス(2,3−ジクロロプロピル)ホスフェートなどの含ハロゲンリン化合物、ポリリン酸アンモニウム、ジブチルアミノホスフェートなどのP系化合物、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム などのMg系化合物、酸化第2スズ、メタスズ酸、オキシハロゲン化第2スズ、水酸化第1スズ、4塩化スズ、ZnSnO3、ZnSn(OH)6などのSn系化合物、酸化亜鉛、硼酸亜鉛などのZn系化合物、酸化モリブデンなどのMo系化合物、酸化チタン、チタン酸バリウムなどのTi系化合物、硫酸メラミン、スルファミン酸グアニジンなどのN系化合物、水酸化アルミニウムなどのアルミニウム系化合物、酸化ジルコニウムなどのジルコニウム系化合物、錫酸マグネシウム、錫酸ジルコニウム、錫酸亜鉛、ヒドロキシ錫酸亜鉛などのスズ化合物、三酸化アンチモンや五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウムなどのアンチモン化合物などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0035】
本発明の難燃性合成繊維は短繊維でも長繊維でもよく、使用方法において適宜選択することが可能であり、例えば他の天然繊維および化学繊維と複合させて加工するには複合させる繊維に近似なものが好ましく、繊維製品用途に使用される他の天然繊維および化学繊維に合わせて、1.7〜12dtex程度、カット長38〜128mm程度の短繊維が好ましい。
【0036】
本発明の難燃性合成繊維(A)が高度に優れた難燃性を示す理由は、以下のように考えられる。難燃性合成繊維(A)を火炎源により燃焼させると、ガラス成分は溶融するのみで焼失しない。この溶融したガラス成分は、前記繊維(A)表面を覆い、該繊維(A)から発生する可燃性ガスの放出を阻止し、それ以上の繊維(A)の燃焼を抑制する。更には繊維(A)の燃焼により生成した炭化物間に入り込み、固化することで強固な炭化層を形成する。これらの結果、難燃性合成繊維(A)は燃焼後も崩壊することなく炭化物の状態で形態を保持するので火炎は遮断され、それ以上の延焼が抑制されることで高度に優れた難燃性を示す。
【0037】
本発明に用いる天然繊維および/または化学繊維(B)は、本発明の難燃繊維複合体に優れた風合い、触感、意匠性、製品強力、耐洗濯性、耐久性を与えるための成分であり、また、難燃繊維複合体を家具製品の布張りに用いる際の加工性を良好にする成分であり、必要に応じて例えば以下のものから適宜選択される。
【0038】
前記天然繊維の具体例としては、例えば綿、麻、などの植物性繊維や、羊毛、らくだ毛、山羊毛、絹などの動物繊維などが挙げられ、また前記化学繊維の具体例としては、たとえばビスコースレーヨン繊維、キュプラ繊維などの再生繊維、アセテート繊維などの再生繊維、あるいはナイロン繊維、ポリエステル繊維、ポリエステル系低融点バインダー繊維、アクリル繊維などの合成繊維などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これら天然繊維や化学繊維は単独で難燃性合成繊維(A)と組み合わせてもよく、2種類以上で難燃性合成繊維(A)と組み合わせてもよい。
【0039】
本発明の難燃繊維複合体は、前述のごとき繊維(A)、(B)を複合させたものであり、織物編物、不織布などの布帛、スライバーやウエブなどの繊維の集合体、紡績糸や合糸・撚糸などの糸状物、編み紐、組み紐などのヒモ状物のごとき形態のものである。
【0040】
前記複合とは、前記繊維(A)、(B)をさまざまな方法で混ぜ合わせて所定の比率で含有する布帛、不織布などを得ることをいい、例えば混綿、紡績、撚糸、織り、編みの段階でそれぞれの繊維や糸を組み合わせることを意味する。
【0041】
本発明の難燃繊維複合体において、前記繊維(B)にポリエステル系繊維を含有する場合には、燃焼時に溶融物が生じ、これが難燃繊維複合体を覆うことで該難燃繊維複合体により形成される炭化層がより強固なものとなり、激しい炎に長時間晒されても寝具や家具に用いられる綿やウレタンフォームへの着炎を防ぐ炎遮蔽バリア性能を付与することができること、難燃繊維複合体に加工した際の嵩高性が得やすいこと、開繊機(カード)において難燃性合成繊維(A)の強度の問題により繊維が破損することを緩和することから、前記繊維(B)として、ポリエステル系繊維を含むことが好ましい。この場合のポリエステルの含有量としては、難燃繊維複合体中に40重量%以下とすることが好ましく、15〜25重量%とすることがより好ましい。
【0042】
本発明の難燃繊維複合体を不織布の形態とする場合、その製造方法としては一般的な熱溶融接着法、ケミカルボンド法、ウォータージェット法、ニードルパンチ法、ステッチボンド法等の方法を用いることが可能であり、複数の種類の繊維を混綿した後にカードにより開繊、ウェブ作製を行い、このウェブを不織布製造装置にかけることにより作製される。これらの製造方法のうち、一般的な方法であり生産性が高い熱溶融接着法を選択する場合には、前記繊維(B)としてポリエステル系低融点バインダー繊維を、難燃繊維複合体中に少なくとも10重量%となるように含むことが好ましいが、これに限定されるものではない。ポリエステル系低融点バインダー繊維としては、低融点ポリエステル単一型繊維でもよく、ポリエステル/低融点ポリプロピレン、低融点ポリエチレン、低融点ポリエステルからなる並列型もしくは芯鞘型複合型繊維でも良い。低融点ポリエステルの融点は110〜200℃、低融点ポリプロピレンの融点は140〜160℃、低融点ポリエチレンの融点は95〜130℃であり、110〜200℃で融解するものであれば特に限定はない。
【0043】
前記繊維(B)として低融点でないポリエステル系繊維を使用する場合には、装置の簡便さからはニードルパンチ方式が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0044】
本発明の難燃繊維複合体は、難燃性合成繊維(A)10重量%以上と、天然繊維と化学繊維のうち少なくとも1種の繊維(B)90重量%以下とからなる。前記繊維(A)と前記繊維(B)との混合割合は、前述の範囲内において、得られる難燃繊維複合体から製造される最終製品に要求される難燃性とともに、吸水性、風合い、吸湿性、触感、意匠性、製品強力、耐洗濯性、耐久性などの品質に応じて適宜決定される。さらに、前記繊維(A)95〜10重量%と前記繊維(B)5〜90重量%とを複合することが好ましく、前記繊維(A)60〜20重量%と前記繊維(B)40〜80重量%とを複合することがより好ましい。前記難燃繊維複合体に含まれる難燃性合成繊維(A)の量が10重量%未満の場合、激しい炎に長時間晒されたときに、後述する家具製品の内部構造体への着炎を防ぐための炭化層形成が不充分となり、所望とする高度な難燃性能を得ることが難しくなる。
【0045】
本発明の難燃繊維複合体は、炎遮蔽バリア用として好適に用いられる。ここでいう炎遮蔽バリアとは、難燃繊維複合体が炎に晒された際に該複合体が繊維の形態を維持したまま炭化することで炎を遮蔽し、炎に晒された面とは反対側に炎が移るのを防ぐものであり、具体的には例えばマットレス等の布張り家具製品における表面布地と内部構造体との間に本発明の難燃繊維複合体を挟むことで、火災などにより炎に晒された際に内部構造物への着炎を防ぎ、被害を最小限に食い止めることができるものである。
【0046】
本発明の難燃繊維複合体には、必要に応じて帯電防止剤、熱着色防止剤、耐光性向上剤、白度向上剤、失透性防止剤などを含有せしめてもよいし、染料や顔料などによる着色や染色を行っても何ら支障ない。
【0047】
このようにして得られる本発明の難燃繊維複合体は、所望の高い難燃性を有し、風合い、触感、吸湿性、意匠性などに優れた特性を有する。
【0048】
本発明の布張り家具製品は、前述の難燃繊維複合体により内部構造物を覆った、ベッドマットレス等の寝具、椅子、ソファー、車両用座席等に関する。ここで、「布張り」とは、張り地として特に織物を用いたものに限定されるものではなく、様々な形態の布帛、不織布等を張り地として用いたものを広く含む概念である。
【0049】
前記ベッドマットレスとしては、例えば、金属製のコイルが内部に用いられたポケットコイルマットレス、ボックスコイルマットレス、あるいはスチレンやウレタン樹脂などを発泡させたインシュレーターが内部構造物として使用されたマットレス等がある。また、椅子としては、屋内にて使用される、ストゥール、ベンチ、サイドチェア、アームチェア、ラウンジチェア・ソファー、シートユニット(セクショナルチェア、セパレートチェア)、ロッキングチェア、フォールディングチェア、スタッキングチェア、スィーブルチェア、あるいは屋外で車両用座席等に使用される、自動車シート、船舶用座席、航空機用座席、列車用座席などが挙げられる。
【0050】
本発明の布張り家具製品は、内部構造物の柔軟性や弾力が発揮されるとともに、本発明の難燃繊維複合体による防炎性が発揮されることにより、前記マットレス内部構造物への延焼が防止できるため、何れの構造のマットレスおいても、難燃性と同時に風合いや触感に優れたものとなる。
【0051】
また、テンピュール素材(テンピュールワールド社製、Tempur World,Inc.)に代表される圧力分散機能を有する低反発ウレタンフォームを内部構造物として使用したマットレスや椅子においては、通常のスチレンやウレタン樹脂を発泡させたフォーム材料を用いたマットレスや椅子に比べて極めて易燃性であるが、本発明の難燃繊維複合体による防炎性が発揮されることにより、内部構造物である低反発ウレタンフォームへの延焼が防止できる。
【0052】
布張り家具製品における本発明の難燃繊維複合体の用い方としては、表面の生地として例えば織布やニットの形態で内部構造物を覆ってもよいし、従来の表面の生地と内部構造物との間に例えば織布やニット、不織布の形態で挟み込んでもよい。表面の生地として用いる場合には、従来の表面の生地に替えて本発明の難燃繊維複合体を用いればよい。表面の生地と内部構造物の間に本発明の難燃繊維複合体を挟む場合には、表面の生地を従来の生地として、これと内部構造物との間に本発明の難燃繊維複合体を挟み込んで用いてもよいし、表面の生地をも難燃繊維複合体として、本発明の難燃繊維複合体を2枚重ねる要領で用いてもよい。表面の生地と内部構造物の間に本発明の難燃繊維複合体を挟み込む場合には、内部構造物全体に本発明の難燃繊維複合体を被せ、その上から表面の生地を張ることになる。
【0053】
本発明の難燃繊維複合体を用いて布張り家具を製造すると、前記難燃繊維複合体が有する優れた特性、すなわち高い難燃性を有し、風合い、触感、吸湿性、意匠性などにも優れた特性を有する布張り家具製品が得られる。
【実施例】
【0054】
以下、実施をあげて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0055】
実施例における繊維の難燃性は、繊維単独を用いて下記のようにして測定した。なお総合判定は、LOI値による難燃性評価、紡糸性評価を総合して、合格○、不合格×と判定した。
【0056】
(紡糸性評価)
紡糸時に延伸が可能なものを○、不可能なものを×とした。○が合格である。
【0057】
(LOI値による難燃性評価)
以下の製造例に従って作製した繊維を2g取り、これを8等分して約6cmのコヨリを8本作製し酸素指数測定器(スガ試験機株式会社製、ON−1型)のホルダーに直立させ、この試料が5cm燃え続けるのに必要な最小酸素濃度を測定し、これをLOI値とした。LOI値が大きいほど燃えにくく、難燃性が高いことを示す。
【0058】
(総合評価)
紡糸性評価及びLOI値による難燃性評価を総合して評価した。
【0059】
(合成繊維の製造例)
アクリロニトリル90重量%、酢酸ビニル単量体8重量%およびp−スチレンスルホン酸ソーダ2重量%よりなるアクリロニトリル含有共重合体をN,N−ジメチルホルムアミドに共重合体濃度が30%になるように溶解させ、該共重合体100重量部に対して後述する量のガラス成分(P25−ZnO系 旭ファイバーグラス(株)製 ZP150 ガラス転移温度約350℃、平均粒子径2μm)を添加し紡糸原液とした。ガラス成分を含んだ紡糸原液をノズル孔径0.10mmおよび孔数1000ホールのノズルを用い、50%N,N−ジメチルホルムアミド水溶液中へ押し出し凝固させ5倍に延伸した後、水洗、乾燥、さらに湿熱処理し切断することで繊維を得た。得られた繊維は繊度7.8dtexで、カット長51mmの短繊維とした。
【0060】
(実施例1〜3、比較例1〜2)
前記合成繊維の製造例に従い、ガラス成分を表1の量で添加したアクリロニトリル含有合成繊維を作製し、紡糸性評価及びLOI値による難燃性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0061】
実施例1〜3は、紡糸性評価も良好であり、LOI値による難燃性評価においても数値が高く総合評価は合格とした。また、得られた合成繊維は、アクリル繊維が本来持つ良好な風合いや触感を保持していた。これに対して比較例1は、ガラス成分が無いため紡糸性は良好だが、LOI値による難燃性評価において数値が低く総合評価が不合格となった。比較例2は、ガラス成分が多いため紡糸性が不良で繊維が確保出来ず、LOI値による難燃性評価が行えなかったため総合評価が不合格となった。
【0062】
【表1】

【0063】
以下の実施例における繊維複合体の難燃性は不織布の形態で下記のようにして測定した。これは、マットレス、椅子、ソファー等の布張り家具製品の表面布地と内部構造体であるウレタンフォームや詰め綿等との間に本発明の難燃繊維複合体を挟むことで、火災の際に内部構造物への炎の着火を防ぐことを想定した簡易評価方法である。
【0064】
(難燃性評価試験用繊維複合体の製造例)
後述する割合で混合した繊維をカードにより開繊した後、ニードルパンチ法により、目付け400g/m2、縦20cm×横20cmの不織布の形態とした繊維複合体を作製した。表面布地として従来のポリエステル製織布(目付120g/cm2)を用い、該表面布地で前記繊維複合体片面を覆い、難燃性評価試験用繊維複合体とした。
【0065】
(繊維複合体の難燃性評価)
縦200mm×横200mm×厚さ10mmのパーライト板の中心に直径15cmの穴を空けたものを準備し、その上に難燃性評価試験用繊維複合体をセットし、加熱時に該繊維複合体が収縮しないよう4辺をクリップで固定した。この試料を難燃性評価試験用繊維複合体の面を上にして、株式会社パロマ工業製ガスコンロ(PA−10H−2)にバーナー面より40mmの所に試料の中心とバーナーの中心が合うようにセットした。燃料ガスとしては純度99%以上のプロパンを用い、炎の高さは25mmとし、着炎時間は60秒とした。難燃性評価試験用繊維複合体に穴が無くかつひびもない場合を◎、炭化膜に貫通した穴がない場合、またはひびがない場合を○、穴およびひびがある場合を×と評価した。◎または○が合格である。
【0066】
(実施例4〜6、比較例3)
合成繊維の製造例に従ってガラス成分を表2の量で添加したアクリロニトリル含有繊維を作製し、得られたアクリロニトリル含有合成繊維(A)と、ポリエステル繊維(B)(6.6dtex、カット長51mm)、レーヨン繊維(B)(1.7dtex、カット長38mm)を所定の割合で混合した繊維複合体を上記難燃性評価試験用繊維複合体の製造例に従って作製し、該繊維複合体の難燃性評価を実施した。結果を表2に示す。
【0067】
実施例4〜6は、難燃性評価が良好であり合格とした。これに対して比較例3は、ガラス成分を含むアクリロニトリル含有合成繊維の比率が低いため、難燃性が不合格となり、総合評価が不合格となった。
【0068】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリルを70重量%以上含む重合体100重量部に対し、ガラス成分を1〜100重量部含む難燃性合成繊維。
【請求項2】
前記ガラス成分が、200〜700℃にガラス転移温度を有する請求項1記載の難燃性合成繊維。
【請求項3】
前記アクリロニトリルを70重量%以上含む重合体が、アクリロニトリル80〜95重量%、および共重合可能な単量体5〜20重量%からなる請求項1または2記載の難燃性合成繊維。
【請求項4】
前記ガラス成分がSiO2−PbO系、SiO2−PbO−ZnO系、SiO2−B23−Na2O系、SiO2−B23−PbO系、SiO2−Al23系、B23−PbO系、B23−ZnO系、B23−Na2O−PbO系、B23−PbO−ZnO系、B23−P25系、B23−Bi23−ZnO系、P25−ZnO系から選ばれる少なくとも一種である請求項3記載の難燃性合成繊維。
【請求項5】
アクリロニトリルを70重量%以上含む重合体100重量部に対しガラス成分を1〜100重量部含む難燃性合成繊維(A)10重量%以上と、天然繊維と化学繊維のうち少なくとも1種の繊維(B)90重量%以下とからなる難燃繊維複合体。
【請求項6】
前記ガラス成分が、200〜700℃にガラス転移温度を有する請求項5記載の難燃繊維複合体。
【請求項7】
前記アクリロニトリルを70重量%以上含む重合体が、アクリロニトリル80〜95重量%、および共重合可能な単量体5〜20重量%からなる請求項5または6記載の難燃繊維複合体。
【請求項8】
前記繊維(B)にポリエステル系繊維を含有し、該ポリエステル系繊維を前記難燃繊維複合体中に40重量%以下含有する請求項5記載の難燃繊維複合体。
【請求項9】
前記ポリエステル系繊維が、低融点バインダー繊維である請求項8記載の難燃繊維複合体。
【請求項10】
前記難燃繊維複合体が、不織布である請求項5記載の難燃繊維複合体。
【請求項11】
前記不織布が、炎遮蔽バリア用不織布である請求項10記載の難燃繊維複合体。
【請求項12】
請求項5、10および11の何れかに記載の難燃繊維複合体により内部構造物を覆った布張り家具製品。


【公開番号】特開2007−169794(P2007−169794A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−364286(P2005−364286)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】