説明

難燃性木粉の製造方法及び難燃性合成木材

【課題】形成に係わる作業が簡便でありながら、十分な難燃性を得るのが容易となされた難燃性木質系物質、難燃性木質系物質の製造方法及び合成木材を提供する。
【解決手段】ホウ酸ナトリウム及び/又はホウ酸が導入される木質材料が、粒径10メッシュ乃至500メッシュの粉体であることで、表面積が大きくなされてホウ酸ナトリウム及び/又はホウ酸が木質材料中に導入される割合が大きくなり、十分な難燃性を得ることができると共に、高い圧力をかける等繁雑な操作が必要でなくなり、形成に係わる作業は簡便なものとなり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容易に燃焼することがないようになされた難燃性木質系物質、難燃性合成木材及び難燃性木質性物質の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木粉や合成木材は、それ自体が木材に由来するものであることと、合成樹脂が主材料となされていることから、本来燃焼しやすいものである。しかし、用途によっては難燃性ではないと適用できない場合があり、難燃性を備えた木質系物質や合成木材に関する発明が開示されてきている。
【0003】
例えば特許文献1には、水100部に対して、キレート化剤または界面活性剤を含まないで、ホウ酸(HBO)のx部とホウ砂(Na・10HO)のy部(但しx<35、y<40、0<x<y+5)とを、ホウ素換算で2.5mol/kg含むホウ素化合物の水溶液に、木材、紙、織布及び不織布を含浸させて乾燥させた防火・耐火・不燃組成物が開示されている。
【0004】
また特許文献2には、天然木材であるベイツガに、無機物としてチタニアを含浸させた後に、300気圧以上の圧力によって、所定時間にわたって加圧処理を行うことで難燃性を具備させた合成木材が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−112700号公報
【特許文献2】特開2000−309003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のような、木材に対して直接ホウ酸水溶液を含浸する方法では、木材の細部にまでホウ酸が含浸されることが少なく、十分な難燃性を得るのが困難であった。
【0007】
また特許文献2に記載のような合成木材では、300気圧以上という高い圧力が必要であり、特殊な装置や工程が必要となり、形成に係わる作業が極めて繁雑なものであった。
【0008】
本発明は上記の如き課題に鑑みてなされたものであり、形成に係わる作業が簡便でありながら、十分な難燃性を得るのが容易となされた難燃性木質系物質、難燃性木質系物質の製造方法及び合成木材を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は以下のような構成としている。すなわち、本発明に係わる難燃性木質系物質は、木質材料中にホウ酸ナトリウム及び/又はホウ酸を導入して難燃性を具備させた木質系物質であって、前記木質材料が、粒径10メッシュ乃至500メッシュの粉体であることを特徴とするものである。
【0010】
本発明に係わる難燃性木質系物質によれば、ホウ酸ナトリウム及び/又はホウ酸が導入される木質材料が、粒径10メッシュ乃至500メッシュの粉体であることで、表面積が大きくなされてホウ酸ナトリウムが木質材料中に導入される割合が大きくなり、十分な難燃性を得ることができると共に、高い圧力をかける等繁雑な操作が必要でなくなり、形成に係わる作業は簡便なものとなり得る。
【0011】
ここで木質材料は、天然木や廃材を粉砕、摩砕して粒径10メッシュ乃至500メッシュの粉体としたもので、天然木としてはスギ、ヒノキ、ベイツガ等が好適に用いられる。廃材は、木材を主とするものであればよく、住宅廃材を用いることでそのリサイクルに寄与することができる。
【0012】
また本発明に係わる難燃性合成木材は、請求項1に記載の木質系物質が合成樹脂に配合されて形成されたものであることを特徴とするものである。
【0013】
本発明に係わる難燃性合成木材によれば、十分な難燃性を備えた木質系物質を用いることで、合成樹脂に配合するのみで難燃性と木質感とを備えた合成木材を形成することができる。また難燃性を備えさせるのに高価な難燃剤等を配合する必要がないか、又は少なくて済むことで、形成に係わるコストを低減することができる。
【0014】
また本発明に係わる木質系物質の製造方法は、木質材料にホウ酸ナトリウム及び/又はホウ酸が導入された難燃性の木質系物質を製造する方法であって、粒径10メッシュ乃至500メッシュの粉体である木質材料をホウ酸ナトリウム及び/又はホウ酸を含む水溶液中に浸漬し、攪拌した後乾燥させることを特徴とするものである。
【0015】
本発明に係わる木質系物質の製造方法によれば、木質材料が粒径10メッシュ乃至500メッシュの粉体であることで表面積が大きくなされ、ホウ酸ナトリウム及び/又はホウ酸を含む水溶液中に浸漬し攪拌するのみで木質材料中にホウ酸ナトリウム及び/又はホウ酸を導入することができ、形成に係わる作業が簡便でありながら、十分な難燃性を得るのが容易となり得る。
【0016】
また本発明に係わる木質系物質の製造方法は、木質材料にホウ酸ナトリウム及び/又はホウ酸が導入された難燃性の木質系物質を製造する方法であって、粒径10メッシュ乃至500メッシュの粉体である木質材料と、ホウ酸ナトリウム及び/又はホウ酸を含む粉体とをミキサーで攪拌することを特徴とするものである。
【0017】
本発明に係わる木質系物質の製造方法によれば、木質材料が粒径10メッシュ乃至500メッシュの粉体であることで表面積が大きくなされ、ホウ酸ナトリウム及び/又はホウ酸を含む粉体と共に攪拌するのみで木質材料中にホウ酸ナトリウム及び/又はホウ酸を導入することができ、形成に係わる作業が簡便でありながら、十分な難燃性を得るのが容易となり得る。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係わる難燃性木質系物質によれば、ホウ酸ナトリウムが導入される木質材料が、粒径10メッシュ乃至500メッシュの粉体であることで、表面積が大きくなされてホウ酸ナトリウム及び/又はホウ酸が木質材料中に導入される割合が大きくなり、十分な難燃性を得ることができると共に、高い圧力をかける等繁雑な操作が必要でなくなり、形成に係わる作業は簡便なものとなり得る。
【0019】
本発明に係わる難燃性合成木材によれば、十分な難燃性を備えた木質系物質を用いることで、合成樹脂に配合するのみで難燃性と木質感とを備えた合成木材を形成することができる。また難燃性を備えさせるのに高価な難燃剤等を配合する必要がないか、又は少なくて済むことで、形成に係わるコストを低減することができる。
【0020】
また請求項3に記載の本発明に係わる木質系物質の製造方法によれば、木質材料が粒径10メッシュ乃至500メッシュの粉体であることで表面積が大きくなされ、ホウ酸ナトリウム及び/又はホウ酸を含む水溶液中に浸漬し攪拌するのみで木質材料中にホウ酸ナトリウム及び/又はホウ酸を導入することができ、形成に係わる作業が簡便でありながら、十分な難燃性を得るのが容易となり得る。
【0021】
また請求項4に記載の本発明に係わる木質系物質の製造方法によれば、木質材料が粒径10メッシュ乃至500メッシュの粉体であることで表面積が大きくなされ、ホウ酸ナトリウム及び/又はホウ酸を含む粉体と共に攪拌するのみで木質材料中にホウ酸ナトリウム及び/又はホウ酸を導入することができ、形成に係わる作業が簡便でありながら、十分な難燃性を得るのが容易となり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係わる最良の実施の形態について以下に具体的に説明する。
【0023】
木材に由来する木質材料にホウ酸ナトリウムやホウ酸を導入するにおいては、木質材料の表面や表面の凹凸にホウ酸ナトリウムやホウ酸を付着させるのみでは得られる難燃性が低いものとなり、木質材料の嵩高さの原因である導管内にホウ酸ナトリウムやホウ酸を導入する必要がある。かかる導管内にホウ酸ナトリウムやホウ酸を導入するにおいては、従来は圧力を加える等して導管内にホウ酸ナトリウムの溶液を強制的に注入していたが、本発明においては粒径10メッシュ乃至500メッシュの粉体の、所謂木粉を用いることで、木粉は粉砕や摩砕がなされることで導管入口の露出度合いが大きくなされると共に、導管入口から導管内への最大距離が格段に小さくなされていることで、圧力をかけることなく攪拌のみによってホウ酸ナトリウムやホウ酸を導入可能な有効表面積が拡大されていることで、形成に係わる作業が容易となると共に、十分な難燃性と木質感とを備えた木質系物質を得ることができる。
【0024】
本発明に係わる難燃性合成木材は、上記の難燃性木質系物質を合成樹脂に配合したものであり、難燃性木質系物質が粉体状となされていれば合成樹脂への配合が容易となり好ましい。合成樹脂は、熱可塑性、熱硬化性を問わず使用でき、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリウレタン、ポリメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ABS、AAS、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、天然ゴムやその誘導体等を単独又は複数混合して用いることができる。
【0025】
また難燃性合成木材の成形は、合成樹脂が熱可塑性のものであれば押出成形、射出成形、プレス圧縮成形、ブロー成形等により成形することができ、押出機を用いるものであれば押出機内で合成樹脂に難燃性木質系物質を混練して配合することができる。また合成樹脂が熱硬化性のものであれば、硬化前に注型成形等することで成形することができる。
【0026】
更にまた、難燃性合成木材の成形時に、適宜水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の難燃性金属水酸化物、リン酸系化合物等を配合して難燃性を高めるようにしてもよい。
【0027】
本発明に係わる難燃性木質系物質の製造方法において、ホウ酸ナトリウムやホウ酸の水溶液を用いる方法では、ホウ酸ナトリウムやホウ酸の水溶液は固形分を多く含むものを用いるのが好ましく、例えば上述の特許文献1に記載のような固形分が20%程度である水溶液を用いることで、木質材料にホウ酸ナトリウムやホウ酸を効率よく導入することができ好ましい。また導入時の攪拌は、常温で行ってもよいが、水溶液を50〜80℃程度に加熱して攪拌することで、水溶液の粘度が低下して木質材料の導管内に水溶液がより一層入り込み易くなり好ましい。
【0028】
またホウ酸ナトリウムやホウ酸を含む粉体を用いる方法では、ホウ酸ナトリウムやホウ酸を含む粉体はホウ酸ナトリウム分やホウ酸分ができるだけ多いものが好ましい。木質材料にホウ酸ナトリウムやホウ酸を導入するには、ミキサーを用いて攪拌するものであるが、十分な難燃性を備えさせるには物理的な力によってホウ酸ナトリウムやホウ酸の粉末を導管内にまで導入する必要があり、ホウ酸ナトリウムやホウ酸を含む粉体の粒径を木質材料の導管の内径以下とすると共に、ミキサーによってホウ酸ナトリウムやホウ酸が導管内に入り込めるだけの速度を与える必要がある。木質材料が、例えばベイツガの木粉を用いた場合は、導管の内径は20〜55μm程度であり、ホウ酸ナトリウムやホウ酸を含む粉体の粒径はそれより小さいものとする必要がある。ホウ酸ナトリウムやホウ酸を導入するのに用いるミキサーは、通常の羽根が高速回転するミキサーでもよいが、例えば本出願人により開示されている特開2000−271909号公報に記載の如き、回転軸に設けられた複数の羽を攪拌衝撃翼として、攪拌衝撃翼の回転を500rpm〜2000rpmとしてホウ酸ナトリウムやホウ酸を含む粉体に高い速度を与えるようにしてもよい。
【実施例】
【0029】
次に、本発明に係わる木質系物質の、難燃性について以下の実施例により説明する。
【0030】
(実施例1)
80メッシュのベイツガの木粉である木質材料100gを、固形分20%のホウ酸ナトリウム水溶液500g中に浸漬し、水溶液を60℃に加熱しながら水溶液中で攪拌子を300rpmで回転させつつ20分間攪拌し、木質材料にホウ酸ナトリウムを導入した木質系物質を得た。この木質系物質を80℃で12時間乾燥させた後、ボールミルで粉砕して粉体状とし、本発明に係わる実施例1の木質系物質を得た。
【0031】
(実施例2)
木質材料として、15メッシュのベイツガの木粉を用いた以外は実施例1と同じにして、本発明に係わる実施例2の木質系物質を得た。
【0032】
(比較例1)
木質材料として、8メッシュのベイツガの木粉を用いた以外は実施例1と同じにして、本発明に係わる実施例2の木質系物質を得た。
【0033】
(比較例2)
80メッシュのベイツガの木粉を比較例2とする。
【0034】
実施例1及び2と比較例1及び2の木質系物質を、TG分析機(島津製作所社製、TG−50)を用いて、600℃まで漸次加熱した際の重量変化率を測定した。その結果を図1に示す。
【0035】
図1において、実施例1と実施例2の重量は50%以上に留まっているが、比較例2は殆ど0%に近い重量となってしまっている。比較例1についても20%程度まで低下しており、ホウ酸ナトリウムが導入される度合いが比較例1については不足しており、10メッシュを超える粒径の大きい木粉では十分な難燃性を得るのが困難であることが現されている。
【0036】
次に、難燃性合成木材の性能について、以下の実施例により説明する。
【0037】
(実施例3)
実施例1の木質系物質を50重量%、エチレン−ビニル共重合体(EVA)樹脂を30重量%、水酸化マグネシウムを20重量%配合した樹脂組成物を、押出機により混練して、本発明に係わる実施例3の難燃性合成木材を得た。
【0038】
(比較例3)
EMMA(エチレン−メチルメタクリレート)樹脂を30重量%、水酸化アルミニウムを70重量%配合した樹脂組成物を、押出機により混練して、比較例3の難燃性合成木材を得た。
【0039】
(比較例4)
EMMA樹脂を30重量%、水酸化マグネシウムを40重量%、リン酸エステル難燃剤を30重量部配合した樹脂組成物を、押出機により混練して、比較例4の難燃性合成木材を得た。
【0040】
実施例3、比較例3及び4を、ISO5660−1の試験方法に基づくコーンカロリメータでの発熱性試験によって総発熱量の測定を行った。その結果を図2に示す。
【0041】
建築基準規格の1つとして、5分(300秒)経過時に総発熱量が8MJ/m以下が、20分継続すれば不燃、10分継続すれば準不燃、5分継続すれば難燃と判定されるが、実施例3は5分の時点で総発熱量が8MJ/mを下回っており、難燃と判定されるだけの難燃性を備えていることが現されている。対して比較例3と比較例4は、5分経過時には8MJ/mを上回っており、難燃と判定されるには不十分であり、且つ難燃性は実施例3に対して大きく劣っていることが現されている。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係わる難燃性木質系物質の、難燃性の性能を現すグラフである。
【図2】本発明に係わる難燃性合成木材の、難燃性の性能を現すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質材料中にホウ酸ナトリウム及び/又はホウ酸を導入して難燃性を具備させた木質系物質であって、前記木質材料が、粒径10メッシュ乃至500メッシュの粉体であることを特徴とする難燃性木質系物質
【請求項2】
請求項1に記載の木質系物質が合成樹脂に配合されて形成されたものであることを特徴とする難燃性合成木材。
【請求項3】
木質材料にホウ酸ナトリウム及び/又はホウ酸が導入された難燃性の木質系物質を製造する方法であって、粒径10メッシュ乃至500メッシュの粉体である木質材料をホウ酸ナトリウムを含む水溶液中に浸漬し、攪拌した後乾燥させることを特徴とする木質系物質の製造方法。
【請求項4】
木質材料にホウ酸ナトリウム及び/又はホウ酸が導入された難燃性の木質系物質を製造する方法であって、粒径10メッシュ乃至500メッシュの粉体である木質材料と、ホウ酸ナトリウム及び/又はホウ酸を含む粉体とをミキサーで攪拌することを特徴とする木質系物質の製造方法。


【図1】
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【図2】
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