説明

難燃性煙火導火線の製造方法

【課題】主として打揚煙火に用いる煙火導火線が上空で煙火玉が開いたときに、燃えて落下しないような煙火導火線の製造方法を提供する。
【解決手段】難燃性煙火導火線は、概略同心円状に内側から、心糸101、心薬(黒色粉火薬)102、火薬テープ103、難燃処理した第一糸104、第二糸105、防水剤処理部106、第一テープ107、第一糊剤108、難燃処理した第二テープ109、第三糸110及び第二糊剤111から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃剤を塗布した糸や紙を用いて、煙火導火線を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
煙火玉などの点火に用いる緩燃導火線で、黒色粉火薬を心薬とし、これに糸、紙で被覆をほどこしたものを煙火導火線という。一般には、「親コード」として知られている。
【0003】
煙火玉が打ち揚がり、上空で煙火玉が開いたときに、煙火導火線の被覆材に火が移り、これが燃えながら落下する。この場合、近くに観客がいると、体に接触してやけどする被害がある。また、テーマパークでの打ち揚げでは、同様にパラソルが焦げた例がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、煙火玉を打ち揚げたとき、地上の観客がやけどしたり観客の持ち物を焦がす等の被害が発生することを防止することのできる煙火導火線を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、各種難燃剤を試し、リン・チッソ系が優れていることを見出し、また、その塗布量が5%程度であると難燃効果が乏しく、20%を超えると、糸や紙がごわつき、製造が困難であることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)難燃剤を塗布した糸や紙を用いて、煙火導火線を製造することを特徴とする難燃性煙火導火線の製造方法、
(2)糸や紙に塗布する難燃剤が、7〜20wt.%の量であることを特徴とする(1)の製造方法、
(3)難燃剤が、リン・チッソ系化合物であることを特徴とする(1)又は(2)の製造方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、難燃剤を塗布した糸や紙を用いて製造した煙火導火線は、上空で煙火玉が開いたときに、煙火導火線の被覆材に火が移らず、炭化して落下するので、観客がやけどをしたり観客の持ち物等を焦がす被害を防止できる。やけど防止のためには、金属製の材料を用いて導火線を製造することも考えられるが、これらの落下による他の被害が想定されるところ、本発明の方法は、このような新たな被害を発生することもない。
【0008】
また、本発明の方法によれば、新たな製造方法開発のコストを最小限にして煙火導火線を製造することができる。例えば、観客のやけど防止は、黒色粉火薬を不燃性の材料で被覆することによっても可能であるが、新たに製造方法を開発しなくてはならず、開発費用がかかることに鑑みれば、本発明の方法により可能となる追加のコスト軽減は、有利な効果である。
【0009】
従来、障子や襖のような建具や衣類のように燃焼しては都合の悪い糸(繊維)や紙に難燃剤を塗布することで燃焼させずに、炭化することで火炎を外に出さない方法は知られている。一方、煙火導火線は、黒色粉火薬を可燃性の糸、紙で被覆をほどこしたものだから、燃えながら落下することは当たり前との認識があり、煙火導火線の被覆材に対して難燃剤を使用することはなかった。したがって、本発明の方法のように煙火導火線の被覆材に難燃剤を使用することにより、やけど等の被害を防止できることは、全く予想外の構成と効果であるといえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
図1は、本発明に係わる難燃性煙火導火線の一例の概略図を示す。
【0012】
図1に示すとおり、難燃性煙火導火線は、概略同心円状に内側から、心糸(101)、心薬(黒色粉火薬)(102)、火薬テープ(103)、難燃処理した第一糸(104)、第二糸(105)、防水剤処理部(106)、第一テープ(107)、第一糊剤(108)、難燃処理した第二テープ(109)、第三糸(110)及び第二糊剤(111)から構成されている。
【0013】
図1に示す導火線の製造方法の概略は次のとおりである。心糸(101)で黒色粉火薬(102)を導きながら引き出し、火薬テープ(103)で被覆を施す。次に難燃処理した第一糸(104)を巻きつけ、次に第二糸(105)で巻きつける。次いで、防水処理(106)を行い、第一テープ(107)で被覆し、第一糊剤(108)を施し、難燃処理した第二テープ(109)で被覆する。その後、第三糸(110)及び第二糊剤(111)を施して製造完了である。
【0014】
なお、上記導火線は、第一糸(104)及び第二テープ(109)が難燃処理されていること以外は、例えば、カヤク・ジャパン(株)が商品名「親コード」として販売する導火線と同じものである。また、上記方法は、第一糸(104)及び第二テープ(109)が難燃処理されていること以外は、常法として知られているものと基本的に同じである(例えば、社団法人 火薬学会編、「エネルギー物質ハンドブック」、共立出版株式会社、(1999年3月1日)、第112頁、日本火薬工業会資料編集部、「一般火薬学」(平成17年3月28日)、第103頁を参照されたい。)。
【0015】
図1に示す導火線の製造方法において、第一糸への難燃処理は、適当な濃度の難燃剤水溶液(以下、別段の断りがない限り「溶液」とは水溶液をいう。)に第一糸を浸漬後、これを乾燥することにより行うことができる。難燃剤溶液の濃度や浸漬及び乾燥条件(温度、時間等)は、乾燥後の第一糸に7〜20wt.%(以下、別段の断りがない限り、「%」は、重量%である。)の難燃剤が塗布できるように調整する。この第一糸への難燃処理は、煙火導火線の製造工程に第一糸を供するに先立ち、前処理として行うことができる。
【0016】
図2に前処理の一例を示す。前処理は、原糸(201)をかせ巻(202)に巻取り、これを容器(203)中の難燃剤溶液(204)に所定時間浸漬した後、かせ巻の状態で十分に乾燥し、乾燥した糸をかせ巻からリワインドする。このリワインドした糸を、難燃処理した第一糸(104)として使用する。
【0017】
難燃剤溶液(204)における難燃剤濃度は、通常、20〜35%、好ましくは、25〜30%とすることができる。浸漬時間は、糸の種類や量、難燃剤濃度等に応じて変化し得るが、通常、1〜6日、好ましくは、2〜4日とすることができる。乾燥温度及び時間は、十分な乾燥が得られるようにすればよく、例えば、70℃であれば、2〜3日とすることができる。
【0018】
図1に示す導火線の製造方法において、第二テープへの難燃処理は、適当な濃度の難燃剤溶液に第二テープを浸漬後、これを乾燥することにより行うことができる。難燃剤溶液の濃度や浸漬及び乾燥条件(温度、時間等)は、乾燥後の第二テープに7〜20%の難燃剤が塗布できるように調整する。この第二テープへの難燃処理は、従来の煙火導火線製造装置(原紙切断機)に難燃処理部を組み込んで行うことができる。
【0019】
図3に原紙切断機に第二テープの難燃処理部を組み込んだ一例の概略図を示す。すなわち、難燃処理部は、難燃剤溶液(302)を収容する容器(303)と、その下流に設けた1対のヒーター(304a及び304b)とを具備し、この難燃処理部をクラフトテープ原紙(301)とカッター(305)との間に配置する。第二テープ用のクラフトテープ原紙(301)は、難燃剤溶液(302)中を通過した後、ヒーター(303a及び303b)がこれを乾燥し、カッター(304)が原紙を所定の幅に切断し、複数のロール(306a、306b等)に巻き取る。この巻き取ったテープは、難燃処理した第二テープ(109)として使用する。
【0020】
難燃剤溶液(302)における難燃剤濃度は、通常、40〜60%、好ましくは、50%とすることができる。浸漬時間、乾燥温度及び時間は、テープの種類や量、難燃剤濃度、原紙切断機の設定速度等に応じて変化し得る。一例を挙げると、24巻/日の巻取り切断量(75g/cm×20mm巾×300m)でロール(306a、306b)の巻取り速度を約20cm/10秒〜50cm/10秒にした場合、浸漬時間は、5〜10秒、乾燥温度(原紙表面温度)は、通常、約50〜約130℃、好ましくは、約60℃〜約120℃、乾燥時間は、10〜15秒となる。
【0021】
本発明の難燃処理方法において用いる難燃剤は、リン・チッソ系難燃剤を使用する。リン・チッソ系難燃剤は、市販されており、例えば、丸菱油化工業(株)製のノネンR9711−5を使用することができる。
【0022】
第一糸への難燃剤の塗布量は、5〜25%、好ましくは7〜20%、より好ましくは、10〜15%とすることができる。第二テープへの難燃剤の塗布量も同じである。なお、この塗布量は、第一糸及び第二テープのそれぞれについて、難燃剤塗布前と後の重量差から算出する。難燃剤塗布量についての上記下限値は、特に、導火線に火が移らず、炭化させるために重要である。一方、上記上限値は、特に、第一糸や第二テープの品質(例えば、剛性)を、製造ラインに供し得るものとして維持する観点から好ましい。
【0023】
難燃処理は、第一糸(104)又は第二テープ(109)に単独で施したり、第一糸(104)及び第二テープ(109)以外の煙火導火線の被覆材に施すことも可能であるが、特に、第一糸(104)及び第二テープ(109)に施すことが、煙火玉が開いたときに、煙火導火線の被覆材に火を移すことなく、炭化させるのに好適である。
【実施例1】
【0024】
煙火導火線の製造の前処理として以下のことを行う。
【0025】
図2に示す製造工程により、第一糸(麻糸)を25%から30%濃度の難燃剤溶液に、2〜4日間浸漬し、70℃で十分乾燥し、塗布量8.0〜15.0%の第一糸を得た(詳細は表1に示す難燃麻糸製造方法参照。)。一例を挙げると、25%濃度の難燃剤溶液に、3日浸漬することにより、糸に対する塗布量は、約10%になった。
【0026】
一方、第二テープ(クラフトテープ)の場合は、図3に示す製造工程により、50%濃度の難燃剤溶液に浸漬し、十分ヒーターで乾燥することにより、塗布量8.0〜15.0%の第二テープを得た(詳細は表2に示す難燃クラフトテープ製造方法参照。)。一例を挙げると、インバータの周波数5(Hz)、巻取りスピード20cm/10秒、クラフトテープ表面温度100℃で塗布量は糸と同様に約10%なった。
【0027】
これらの糸と紙を用いて、常法により図1の概略図のような煙火導火線を製造した。難燃剤には、リン・チッソ系(ノンネンR9711-5)[丸菱油化工業(株)製]を用いた。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
このようにして製造した煙火導火線(3.5cm)を用いて常法により煙火玉(3号玉)を製造し、打ち揚げたところ、上空で煙火玉が開いたときに、煙火導火線の被覆材に火が移らず、炭化して落下した。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明に係わる難燃性煙火導火線の一例の概略図である。
【図2】図2は、第一糸への難燃処理工程の一例の概略図である。
【図3】図3は、第二テープの難燃処理部の一例の概略図である。
【符号の説明】
【0032】
101:心糸、102:心薬(黒色粉火薬)、103:火薬テープ、104:難燃処理した第一糸、105:第二糸、106:防水剤処理部、107:第一テープ、108:第一糊剤、109:難燃処理した第二テープ、110:第三糸、111第二糊剤、201:原糸、202:かせ巻、203:容器、204:難燃剤溶液、301:クラフトテープ原紙、302:難燃剤溶液、303:容器、304a及び304b:ヒーター、305:カッター、306a及び306b:ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃剤を塗布した糸や紙を用いて、煙火導火線を製造することを特徴とする難燃性煙火導火線の製造方法。
【請求項2】
糸や紙に塗布する難燃剤が、7〜20wt.%の量であることを特徴とする請求項1の製造方法。
【請求項3】
難燃剤が、リン・チッソ系化合物であることを特徴とする請求項1の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−139117(P2010−139117A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313898(P2008−313898)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(308010365)カヤク・ジャパン株式会社 (10)