説明

雨水または融雪水の処理方法

【課題】 製鉄所などで発生する鉄鋼スラグの有する特性を有効に活用し、酸性化された雨水または融雪水を安価に処理する。
【解決手段】 雨水または融雪水を鉄鋼スラグで中和反応させる雨水または融雪水の処理方法であり、さらにその処理効率を高めるために、鉄鋼スラグの見掛け気孔率が10%以上であることを特徴とする雨水または融雪水の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雨水または融雪水の処理方法に関し、詳細には、化石燃料の燃焼によって燃焼気体中に生じる硫黄酸化物や窒素酸化物が、大気中で化学変化を起こして硫酸や硝酸等になり、それらが雨や霧、雪に取り込まれることによりpHが5.6以下となる、いわゆる「酸性雨」や「酸性霧」の雨水または「酸性雪」の融雪水の処理方法に関し、製鉄所の精錬工程にて発生する鉄鋼スラグの再利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(1)酸性雨、酸性雪などの対策に関する技術
近年、産業の発展に伴い様々な環境汚染が進展しているが、中でも化石燃料の燃焼によって燃焼気体中に生じる硫黄酸化物や窒素酸化物が、大気中で化学変化を起こして 硫酸や硝酸等になり、それらが雨や霧に取り込まれることによりpHが5.6以下となる、いわゆる「酸性雨」や「酸性霧」ないしは「酸性雪」による環境汚染や環境破壊は年々深刻化している。
【0003】
幸い、岩石地盤が多い欧米に比べて、我が国の地盤はアルカリ成分を含む土壌や火山灰土から形成されており、これらが酸性雨を吸収した際に中性化の方向に作用するため、その被害の程度は欧米ほど激しくはないものの、各種調査に基づけば、各地でスギ枯れや松の立ち枯れなどが観測され始めているし、また、酸性雨が流れ込んだ陸水への影響として山岳地帯の河川のpH低下が報告される等、徐々にその被害が顕在化し始めている。
【0004】
このように、酸性雨や酸性霧は、森林および農作物に直接的、或いは土壌の変化を通じて間接的に被害を与えたり、湖沼や河川の酸性化を招き、激しい場合には魚類を死滅に至らせたり等、生態系に大きな影響を及ぼしている。
【0005】
また、冬場は化石燃料を多く使用するため大気中の硫酸や硝酸の量が多く、さらに雪は雨に比べて空間を浮遊する時間が長いこととあいまって、酸性雪の酸性度は酸性雨よりも高いと言われている。
【0006】
これらの酸性物質は積雪期間中には積雪中に蓄積されているが、春先の雪解け時に融雪水中に酸性物質が一度に溶け出し、この融雪水が、未だ土壌が凍っている場合には、土壌の緩衝をあまり受けずに河川や湖沼に大量に流れ込むことから、汚染程度が低い清浄な河川では一気にpHが低下し、川魚の稚魚などが突然に生息できなくなるアシッドショックなる現象も報告されている。
【0007】
さらに、この酸性雪の融雪水による被害は生態系のみならず、例えば舗装がなされた都市部においても、土壌の緩衝を受けることがなく、地下水のpHが瞬間的に低下することに伴い、構造物や地中配管などの腐食を誘発・促進することから、降雪地域では、雪解け時に腐食によって生成した酸化鉄(赤錆)が地表を被うような現象も顕著になってきている。
【0008】
従来、前記の如く酸性雨や酸性霧などによって田畑や森林および湖沼等、土壌や水質が酸性化した場合には、それを中和反応化するために石灰粉などアルカリ成分の撒布が広く一般的に行なわれる。
【0009】
さらには、これらの酸性化された貯水池や土壌をより効率的に改善する技術として、例えば特許文献1の方法が開示されている。
【0010】
特許文献1に記載されている方法は、海底地層に存在するミネラルを含有する軟質多孔性古代海洋腐植質とSi18型の高分子珪素を含む焼成バイオセラミックに関し、中和化のみならずミネラル分の供給も可能とするものである。
【0011】
また、春先の酸性雪の融雪水に伴う被害については、雪解け時期がその年の気候によって不定期であり、また、限られた期間に一時的に生じる現象であることから、これまでにさほど効果的な対策手段は講じられていない。
【0012】
(2)鉄鋼スラグの再資源化に関する技術
一方、高炉スラグや製鋼スラグに代表される鉄鋼スラグは、製鉄所における鉄鋼生産時に発生する副産物として、その再利用は製鉄業にとって極めて重要であり、産業副生物の再資源化を目的に古くから多々の試みが行われてきた。
【0013】
この結果、高炉スラグは、化学成分がポルトランドセメントに近く、優れた水硬性が潜在している等の理由により、その用途はセメント用原料への適用が圧倒的な割合を占めているが、それ以外にも道路用路盤材やコンクリート骨材といった土木・建築用の材料として、その再利用率は100%に近い。
【0014】
これに対して、製鋼スラグは主成分である全CaOの中に、転炉等における精錬工程において副原料として使用される生石灰が完全には溶融・滓化されず、最終的に一部が未反応のまま、いわゆる「遊離CaO」と称する状態で残留していることが多く、この遊離CaOが大気中の水と反応して水和すると体積が約2倍に膨張し、製鋼スラグそのものが崩壊するといった短所を有するため、構造物や道路路盤用の骨材、石材といった長期に安定な形状を保持する用途にはその使用が難しく、土木工事用材料として利用を図る際の阻害要因の一つとなって再利用の拡大が図れずにいる。
【0015】
そこで、この膨張現象については、その原因である遊離CaOを減少させてスラグの膨張性を安定化させるための処理方法として、大気雰囲気下に数ヶ月から数年、暴露させて十分に水和反応を施す「大気エージング」処理が一般的に行われている。
【0016】
さらにこの安定化処理をより短時間に行う技術として、例えば、非特許文献1や非特許文献2の方法が開示されている。
【0017】
非特許文献1に記載されている方法は、大気圧下において強制的に水蒸気と反応させて水和処理反応を促進させる「蒸気エージング」法であり、また非特許文献2に記載されている方法は加圧下において強制的に水蒸気と反応させて水和処理反応を促進させる「加圧エージング」法に関するものである。
【0018】
【特許文献1】特開平6−9280号公報
【非特許文献1】日本鉄鋼協会 講演大会要旨集、材料とプロセス、Vol.9、No.1、p-244 (1996)
【非特許文献2】日本鉄鋼協会 講演大会要旨集、材料とプロセス、Vol.8、No.4、p-1102 (1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかし、上記の従来技術においては、以下のような問題点がある。
【0020】
すなわち、広く一般的な、石灰などアルカリ成分の撒布による、酸性化された田畑や森林等の土壌及び湖沼等の中和化技術においては、単に土壌や湖沼水質を中和反応させるにすぎず、農作物や魚類等の植生物が繁殖するために必要とされる各種ミネラルを供与することができないという問題点を有している。
【0021】
このような土壌において農作物等の育成を続けると、土壌に含有された各種ミネラルが減少し、農作物の生育、収穫量の低下を招くため、定期的な化学肥料等の撒布が、広く一般に行なわれてきた。
【0022】
しかしながら、中和剤である石灰粉や化学肥料などは、通常は市販品が用いられることが多く、一般的に処理にかかるコストは、土壌や湖沼水トン当たり数万円以上と高額なため、これらの処理を行うに際して、できるだけ安価な中和剤の出現が切望されている。
【0023】
特許文献1に記載されている方法は、海底地層に存在するミネラルを含有する軟質多孔性古代海洋腐植質とSi18型の高分子珪素を含む、中和反応のみならずミネラル分の供給も可能な、従来よりも処理効率の高い焼成バイオセラミック製品であるが、これらの原料の確保ならびにセラミックの焼成のための焼成炉といった設備や必要な熱エネルギーを考えても、そのコストが格段に低下することは考えにくい。
【0024】
また、これらの中和剤である石灰粉は、細かな粉状のため大気中に広がりやすく、使用時には皮膚などへの炎症を引き起こさないよう、その取り扱いには留意を要する。
【0025】
一方、鉄鋼スラグ、中でも製鋼スラグの再利用に関しては、その中に残留している遊離CaOが大気中の水と反応して水和する際に生じる膨張現象によって製鋼スラグそのものが崩壊するといった理由から、例えば、道路路盤材といった土木工事用材料として利用を図るには、この水和反応を促進して製鋼スラグそのものを安定化させる必要があり、広く一般的には、冷却後に大気雰囲気下に数ヶ月から数年、暴露させて十分に水和反応を施す「大気エージング」処理が行われている。
【0026】
しかし、この製鋼スラグは鋼材1tあたり120kgほど発生するために、大型の製鉄所では百万トン以上ものスラグを保管するための土地や設備が必要であり、その維持管理のために莫大な費用を要している。
【0027】
非特許文献1に記載されている方法は、この安定化のための時間を短縮するために、大気圧下において強制的に水蒸気と反応させて水和処理反応を促進させる「蒸気エージング」法であるが、この処理のためには、一定の仕切られた区間に製鋼スラグを山積みして、例えば、底部から水蒸気を万遍なく製鋼スラグに数日間、吹き込む必要があり、前後の準備も含めると大気エージング処理よりもコストがかかる。
【0028】
非特許文献2に記載されている方法も、同様に安定化のための時間を短縮するために加圧下において強制的に水蒸気と反応させて水和処理反応を促進させる「加圧エージング」法であるが、この処理のためには、専用の高圧容器の中に製鋼スラグを入れて加圧した水蒸気を吹き込む必要があり、前述の蒸気エージング法に比べれば処理にかかる日数は少ないものの、そもそも専用の高圧容器で処理できるスラグ量は1回に50トン程度であり、専用高圧容器以外にも高圧の水蒸気を作るための高圧ボイラーや耐圧配管などの相当に大掛かりな設備を要するために蒸気エージング処理よりもさらにコストがかかるのが実情である。
【0029】
本発明は、上記の様々な事情に鑑みてなされたものであり、化石燃料の燃焼によって燃焼気体中に生じる硫黄酸化物や窒素酸化物が、大気中で化学変化を起こして硫酸や硝酸等になり、それらが雨や霧に取り込まれることによりpHが5.6以下となる、いわゆる「酸性雨」や「酸性霧」の雨水または「酸性雪」の融雪水の処理方法に関して、製鉄所の精錬工程にて発生する鉄鋼スラグの有する特性を有効に活用できる手段として、鉄鋼スラグ中に該雨水または融雪水を通過させ、もしくは鉄鋼スラグを該雨水または融雪水に浸漬させる等により、鉄鋼スラグと、雨水または融雪水を接触させることで、鉄鋼スラグが中和剤の機能を果たして、雨水または融雪水を中和反応させることが可能な、安価かつ省資源を兼ねた雨水または融雪水の処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0030】
発明者は、上記の様々な課題を解決するために、鉄鋼スラグの有する化学的性質の有効利用法について検討を行った。
【0031】
鉄鋼スラグの化学的性質としては、主成分はCaO分を含有している。
【0032】
従って、このCaO分が、酸性である雨水または融雪水の中和反応に寄与し、酸性化した雨水や融雪水の中和化という機能であれば、これらが有効に利用できるのではないかと着眼し、本発明を新たに見出すに至った。
【0033】
また、鉄鋼スラグの中でも、特に製鋼スラグにおいては、再利用が十分に図られている高炉スラグと比較すると、精錬中に完全に溶融・滓化されない一部の生石灰が遊離CaOとして多く残留しており、冷却後にこの遊離CaOが大気中の水と反応して水和するために膨張し、製鋼スラグそのものの崩壊を生じさせることから、土木工事用の骨材といった安定性が求められる材料にはなかなか適用が難しく、その安定化促進のためのコストが要しているわけである。
【0034】
しかしながら、いいかえれば、この製鋼スラグは、その主成分たる全CaO分中に、いまだ酸と十分に反応しうる遊離CaOのみならず、2CaO・SiOや3CaO・SiO、2CaO・Fe2などといった鉱物分が豊富に含まれている訳であり、酸性化した雨水や融雪水の中和化という機能であれば、これらが有効に利用できるのではないかと着眼した。
【0035】
本発明の要旨は、以下の通りである。
【0036】
第1の発明に係る雨水または融雪水の処理方法は、雨水または融雪水を鉄鋼スラグで中和反応させることを特徴としている。
【0037】
第2の発明に係る雨水または融雪水の処理方法は、第1の発明において、鉄鋼スラグの見掛け気孔率が10%以上とすることを特徴としており、中和反応の処理効率をより高めるものである。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、鉄鋼スラグ中に雨水または融雪水を通過させ、もしくは鉄鋼スラグを雨水または融雪水に浸漬させる等により、鉄鋼スラグと雨水または融雪水を接触させることで、酸性である雨水または融雪水に対して、鉄鋼スラグの主成分であるCaO分がアルカリ性のために、鉄鋼スラグが中和剤の機能を果たして、雨水または融雪水を中和反応させることができる。
【0039】
前述のように、鉄鋼スラグは製鉄業における副生物であるから、これを中和剤に適用することにより市販の高価な中和剤を購入する必要がなく、雨水や融雪水の処理費低減が可能となるばかりでなく、鉄鋼スラグ中に含まれる、鉄分や珪素分、マグネシア分、リン酸分と言ったミネラル分も水中に溶解することから、処理を行った雨水や融雪水が農作物への肥料的な効果をも発揮して、肥料の散布量を減らす、あるいはなくすことができるという副次的な効果をも有する。
【0040】
また、従来、広く用いられてきた石灰粉は細かな粉状のため大気中に広がりやすく、使用時には皮膚などへの炎症を引き起こさないよう、その取り扱いには留意を要していたが、鉄鋼スラグは、鉄鉱石が溶解して、鉄分が抽出された残りの酸化物が凝固した、安定な鉱物層からなる、あたかも石のような素手で触れることのできる固体物であり、使用時に粉塵などが発生することも少なく、作業環境的にも取り扱い易い。
【0041】
さらには、鉄鋼スラグの組成にかかわらず、主成分であるCaO分が中和反応に寄与することから、特に製鋼スラグに顕著であった遊離CaOが原因であるスラグ膨張問題による再利用が阻害されていた点についても、酸性化した雨水や融雪水の中和反応により、製鋼スラグ中の遊離CaOが消費されることから、同時に製鋼スラグの安定化処理が施され、製鋼スラグの再利用をも可能とするものである。
【0042】
従って、従来、路盤材や骨材といった工事用原料として、製鋼スラグの再利用のために必要であった大気エージングや蒸気エージング、加圧エージングといった安定化処理も不要となり、コストが増大することもない。
【0043】
すなわち、中和反応の能力が低下ないしは終了した鉄鋼スラグ、特に製鋼スラグは、その後、路盤材や骨材といった工事用原料のほか、鉄分や珪素などのミネラル分供給を特徴とした陸上での農業用肥料や、河川や海水中における藻場用の天然石代替材料として、さらなる再利用に活用ができるという新たなメリットをももたらす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明の方法を詳細に説明する。
【0045】
本発明では、雨水または融雪水、詳細には、化石燃料の燃焼によって燃焼気体中に生じる硫黄酸化物や窒素酸化物が、大気中で化学変化を起こして硫酸や硝酸等になり、それらが雨や霧、雪に取り込まれることによりpHが5.6以下となる、いわゆる「酸性雨」や「酸性霧」の雨水または「酸性雪」の融雪水を、鉄鋼スラグで中和反応処理させる。
【0046】
鉄鋼スラグの主成分であるCaOと、硫酸成分あるいは硝酸成分が溶解して酸性化した雨水ないしは融雪水の中和反応は以下のように示される。
【0047】
CaO+HO → Ca(OH) → Ca2++2OH
2SO4 → 2H+SO42−
CaO+H2SO4 → CaSO4↓+H2
CaO+H2O → Ca(OH)2 → Ca2++2OH
2HNO → 2H + 2NO3-
CaO+2HNO → Ca(NO)↓+2H2
【0048】
ただし、本発明の中和反応処理における鉄鋼スラグの量や粒度、使用温度等の条件は、雨水または融雪水の厳密な中和化に限定されるものではなく、対象となる雨水または融雪水の酸性度合いや水量ないしは流量に応じて、酸性化の悪影響が緩和できる範囲に、望ましくは酸性雨や酸性雪の定義から外れるpHが5.6以上の範囲に、さらに望ましくは、pHが7に近い十分に改善の図れる範囲に、雨水や融雪水を適切に中和反応できるように制御すればよい。
【0049】
ここで用いる鉄鋼スラグとしては、製鉄所における鉄鋼生産時に各精錬工程で発生する副産物である高炉スラグや製鋼スラグが代表的であるが、中でも、精錬中に完全に溶融・滓化されない一部の生石灰が遊離CaOとして多く残留している製鋼スラグの利用がより好ましい。ただし、高炉スラグや電気炉スラグもその主たる成分はCaOであるので、これらを用いても同様の効果を得ることができる。
【0050】
従って、以下では製鋼スラグを例に挙げて説明する。
【0051】
実際には、上記の製鋼スラグは、一般的に次のような工程を経て、副産物として製造処理される。すなわち、目的の精錬工程が終了すると、製鋼スラグは所要の溶融金属(溶鋼)から分離されて専用の容器に移されたあと、製鉄所構内の特定の場所に集めて排出され、散水あるいはそのまま大気中にて放冷されて、岩石状の凝固物となる。
【0052】
この凝固した製鋼スラグは、その後、重機などによって粗破砕され、該スラグ中に残留している地金と称される鉄分が回収される。この結果、主に酸化物成分のみとなった製鋼スラグは、例えば、土木工事用材料として要求される最大粒径40mm以下の粒度分布を持つスラグ粒の集合体(JIS A5015 道路用鉄鋼スラグにて規定される下層用路盤材向けのクラッシャラン鉄鋼スラグCS−40などに相当)にまで、さらに破砕・分級(篩い分け)される。
【0053】
このようにして、比較的、粒径分布が揃った状態にまで整えられるため、あとは、当該スラグ中の遊離CaO分を化学分析法(例えば、エチレングリコール抽出−原子吸光光度法など)にて測定しておけば、製鋼スラグが有する中和反応に必要とされるCaO量をも求めることができる。
【0054】
また、任意の期間、中和反応処理を行い製鋼スラグの中和化能力が低下ないしは終了した場合は、新しい製鋼スラグに交換し、取り出した製鋼スラグは、路盤材や骨材といった工事用材料のほか、鉄分や珪素などのミネラル分供給を特徴とした陸上での農業用肥料や、河川や海水中における藻場用の天然石代替材料としてさらに再利用できる。
【0055】
この製鋼スラグによって、雨水または融雪水を中和反応させる具体的な方法としては、例えば、金網状の専用容器に上述の40mm以下の製鋼スラグを適度な空間(空隙率)を持って充填したものを複数個、準備し、雨水または融雪水が流れる流路に適切な間隔で設置し、製鋼スラグ中を該雨水または融雪水が一定量の流速で通過するようにすればよい。また、貯水池のように、一定水量がたまった場所では、その水中に、これら製鋼スラグを充填した専用容器を浸漬させてもよい。
【0056】
この際に、先にも示した中和反応は、製鋼スラグ中の遊離CaOが水に溶解して水和化することが律速段階であることが推定されることから、製鋼スラグと雨水または融雪水の接触面積を増大させるためにも、比較的、大きめの製鋼スラグは予め粉砕し、整粒しておくことが望ましい。
【0057】
整粒するスラグ粒度としては理論的には細かいに越したことはないが、雨水や融雪水の水量を人為的に操作することは難しく、実際には集中的な豪雨や大量の雪解け水の発生なども想定され、スラグの充填度合いをあまり緻密にしても洪水のような状態を引き起こしてしまう懸念があることから、下限としては1.0mm程度が好ましく、また、この中和反応処理後に別の新たな用途にさらに再利用することを考えると、上限としては10mm程度が好ましい。
【0058】
また、これらの製鋼スラグの粒同士を、例えばポルトランドセメントや高炉セメントなどをバインダーとして用いて、任意の充填率ならびに形状を要したブロック状に塊成化を図れば、上述のような金網状の専用容器も不用となり、中和反応のための製鋼スラグの設置や中和反応後の製鋼スラグの除去ならびに新たな製鋼スラグへの交換作業をより効率的にすることも可能である。
【0059】
さらには、山林や田畑などのように、直接、酸性雨が降り注ぐような場所に対しては、該土壌の上に製鋼スラグを任意の厚みになるように直接に層状に敷設し、この製鋼スラグ層中を降水が通過するような形態を取ることも可能である。
【0060】
以上、製鋼スラグを用いて説明したが、先に述べた通り、製鋼スラグ以外の鉄鋼スラグである、高炉スラグや電気炉スラグ等、あるいはこれらの混合物を用いても、同様の効果を得ることができる。
【0061】
以上のことから、前記第1の発明は、雨水または融雪水の処理方法において、雨水または融雪水を鉄鋼スラグで中和反応することと規定した。
【0062】
次に、この鉄鋼スラグによる雨水または融雪水の中和反応を、同一のスラグ量ないしはスラグ粒度においても、さらに促進させる方法を検討した。
【0063】
尚、ここでも同様に、製鋼スラグを例に挙げて説明する。
【0064】
先にも、この中和反応は、製鋼スラグ中の遊離CaOが水に溶解して水和化することが律速段階であることが推定され、製鋼スラグと該雨水または融雪水の接触面積を増大させるために大きめの製鋼スラグを予め粉砕、整粒しておくことが好ましいと述べたが、スラグの粒度を細かくして容器内でのスラグの充填度合いをあまりに緻密にしてしまうと単位時間当たりに通過可能な水量が減少するため、例えば、春先の雪解け水のように短時間に大量の融雪水が流れるような場合には、通過可能な水量と実際の水量とのバランスが崩れて、洪水のような状態を引き起こしてしまう懸念もある。
【0065】
そこで、発明者は、同じスラグの粒度ないしはスラグ量で、製鋼スラグの表面積をさらに増大させるために、製鋼スラグの物理的性状に着目した。
【0066】
すなわち、製鋼スラグの各粒が天然の石のように緻密ではなく、軽石のように多孔質な状態であれば、該製鋼スラグの内部に雨水または融雪水がより容易に浸透し、反応界面積が確保できると考えた。
【0067】
ここで、一般的な精錬工程で発生する製鋼スラグの密度は2g/cm程度で、スラグ中に存在する見掛けの気孔率は5〜10%程度である。しかしながら、精錬工程における特定の操業条件下においては、溶融した製鋼スラグ中に細かなガスが大量に存在している、いわゆる「フォーミング」状態の製鋼スラグが発生する場合があり、この状態の製鋼スラグを急冷すると、製鋼スラグの内部にガスが残留する結果、非常に多孔質な軽石状のものを得ることができる。
【0068】
これらの多孔質な製鋼スラグの見掛け気孔率を測定すると、おおむね10%以上、場合によっては50%程度の状態のものも散見され、これらの製鋼スラグを用いれば、中和反応処理のために必要な反応界面積を増大することが容易に可能になるとの知見を得ることができた。ここで、この製鋼スラグの見掛け気孔率の測定方法としては、例えば、「JIS R2205 耐火れんがの見掛け気孔率・吸水率・比重の測定方法」などを用いればよい。
【0069】
以上のことも、製鋼スラグ以外の鉄鋼スラグである、高炉スラグや電気炉スラグ等、あるいは、これらの混合物を用いても、同様の効果を得ることができる。
【0070】
以上のことから、前記第2の発明は、前記第1の発明において、中和反応処理の効率を高めるために、鉄鋼スラグの見掛け気孔率が10%以上であることと規定した。
【実施例】
【0071】
(実施例1)
製鉄所構内の道路脇にある降雨水を排水するための側溝ライン(U字溝)の一部を用いて、本発明に係る方法を適用した実験を行った。中和反応処理に用いる鉄鋼スラグとしては、製鋼スラグの代表である転炉スラグの中から、安定化のための大気エージングをほとんど行なわずに、「JIS A5015道路用鉄鋼スラグ」に規定される「下層用路盤材向けクラッシャラン鉄鋼スラグCS−40」の規格にあう最大粒径40mm以下に、破砕・分級により粒度調整したものを準備した。この製鋼スラグの化学成分の分析結果例を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
上記の製鋼スラグから任意の粒径のスラグ粒を複数個採取し、見掛け気孔率を「JIS R2205 耐火れんがの見掛け気孔率・吸水率・比重の測定方法」で測定したところ、いずれも10%未満、平均で約7%程度と、一般的な緻密状態であることを確認した。
【0074】
また、同じく「JIS A5015道路用鉄鋼スラグ」の附属書2にて規定される、「鉄鋼スラグの水浸膨張試験方法」に基づき、この製鋼スラグの水浸膨張比を測定したところ、2.5%という大きな数値であることを確認した。
【0075】
図1に示すような、幅0.3m×高さ0.2m×長さ0.3mの金網製のかご1の中に、前記のとおり準備した製鋼スラグ2を約20kg、嵩密度で1ton/m程度になるように適度な空間を作りながら充填したものを5個作成して、該かご同士の間隔が0.3mとなるように、上記のU字溝内部に流水方向3のようにセットした。
【0076】
この状態で、降雨に伴う雨水がU字溝内に集まり、製鋼スラグを充填した該かごの中を雨水が通過し始めた時点から、製鋼スラグを詰めたかご群の上流ならびに下流で、一定時間毎に一定量の雨水を採取してそれぞれのpHを測定した。なお、今回、実験を行った降雨期間の平均的な1時間雨量は5mmであった。
【0077】
こうして測定した雨水のpH値は、かごの上流側の4.3〜4.7の値に対して、中和反応処理後のかごの下流側では4.8〜5.2の値であり、酸性化が改善されていることが確認された。なお、pH測定は市販のポータブルpHメーターを用いた。
【0078】
また、同様にかご群の上流・下流の採取水の微量成分分析を行なったところ、上流側ではほとんど検知されない、鉄や珪素、リン酸といったミネラル分が、下流側では僅かながらも検出された。
【0079】
この製鋼スラグを入れたかご群を、自然の降雨状態下にそのまま6ヶ月放置した後に取り出して、中の製鋼スラグについて、「JIS A5015道路用鉄鋼スラグ」の附属書2にて規定される「鉄鋼スラグの水浸膨張試験方法」に基づき、水浸膨張比を測定したところ、0.4%にまで数値が改善されており、本製鋼スラグは、当該の「下層用路盤材向けクラッシャラン鉄鋼スラグCS−40」に十分に使用が可能であることがわかった。
【0080】
(実施例2)
実施例1に示した本発明に係る方法を適用した実験を行なった際に、先に表1に示したものと同じ製鋼スラグを、最大粒径が10mmとなるように、さらに分級・整粒したものを準備した。
【0081】
同じく実施例1と全く同様の、幅0.3m×高さ0.2m×長さ0.3mの金網製のかごの中に、この製鋼スラグ約20kgを、嵩密度で1.2ton/m程度になるように、適度な空間を作りながら充填したものを5個作成し、該かご同士の間隔が0.3mとなるように、道路の反対側のU字溝内部にセットした。
【0082】
この状態で、降雨に伴う雨水がU字溝内に集まり、製鋼スラグを充填した該かごの中を雨水が通過し始めた時点から、製鋼スラグを詰めたかご群の上流ならびに下流で、一定時間毎に一定量の雨水を採取して、それぞれのpHを実施例1と同じ市販のポータブルpHメーターを用いて測定した。実験を行った降雨期間の平均的な1時間雨量は5mmであった。
【0083】
降雨量が激しくなりU字溝内の水量が増加すると、かごの上流側に時折、水がたまるような状態も観察されたが、測定した雨水のpH値は、かごの上流側の4.3〜4.7の値に対して、中和反応処理後のかごの下流側では5.2〜5.8の値となり、実施例1よりもさらに酸性化が改善されていることが確認された。
【0084】
また、実施例1と同様に、かごの下流側の雨水のミネラル分は微量ながら増加していた。
【0085】
(実施例3)
実施例2に示した本発明に係る方法を適用した実験結果から、使用する製鋼スラグ粒を細かくした場合に、降雨量の増加に伴い、U字溝内の水量が増加すると、かごの上流側で水がたまってしまうような状態が観察されたことから、次に多孔質な製鋼スラグを用いた実験を行なった。
【0086】
すなわち、中和反応処理に用いる鉄鋼スラグとして、製鋼スラグの代表である転炉スラグの中から、溶融状態のスラグ中に細かなガスが大量に存在する「フォーミング」状のものを急冷した、目視でも明らかに多孔質な軽石状の製鋼・転炉スラグを選び、安定化のための大気エージング処理は行なわずに、実施例2と同様に最大粒径が10mmとなるように、分級・整粒したものを準備した。この製鋼スラグの化学成分の分析結果例を表2に示す。
【0087】
【表2】

【0088】
上記の製鋼スラグから任意の粒径のスラグ粒を複数個採取し、見掛け気孔率を同じく「JIS R2205 耐火れんがの見掛け気孔率・吸水率・比重の測定方法」で測定したところ、12%から45%の数値が得られ、平均でも約25%程度と、多孔質な状態であることを確認した。
【0089】
また、同じく「JIS A5015道路用鉄鋼スラグ」の附属書2にて規定される、「鉄鋼スラグの水浸膨張試験方法」に基づき、この製鋼スラグの水浸膨張比を測定したところ、2.0%という数値であった。
【0090】
実施例1および実施例2で用いたものと同じ、幅0.3m×高さ0.2m×長さ0.3mの金網製のかごの中に、この製鋼スラグ約20kgを、嵩密度で1.0ton/m程度になるように、適度な空間を作りながら充填したものを5個作成し、該かご同士の間隔が0.3mとなるように、上記のU字溝内部にセットした。
【0091】
この状態で、降雨に伴う雨水がU字溝内に集まり、製鋼スラグを充填した該かごの中を雨水が通過し始めた時点から、製鋼スラグを詰めたかご群の上流ならびに下流で、一定時間毎に一定量の雨水を採取しそれぞれのpHを、実施例1および2と同じ市販のポータブルpHメーターで測定した。なお、今回、実験を行った降雨期間の平均的な1時間雨量は6mmであった。
【0092】
こうして測定した雨水のpH値は、かごの上流側の4.4〜4.9の値に対して、中和反応処理後のかごの下流側では5.3〜5.9の値であり、実施例2と同程度の酸性化の改善がなされており、さらには、降雨量が激しくなってU字溝内の水量が増加しても、かごの上流側に雨水がたまるような状態は全く観察されなかった。
【0093】
また、実施例1および2と同様に、かごの下流側の雨水のミネラル分は微量に増加していた。
【0094】
この製鋼スラグを入れたかご群を、自然の降雨状態下にそのまま6ヶ月放置した後に取り出して、中の製鋼スラグについて、「JIS A5015道路用鉄鋼スラグ」の附属書2にて規定される「鉄鋼スラグの水浸膨張試験方法」に基づき、水浸膨張比を測定したところ、0.5%にまで数値が改善されており、本製鋼スラグも、当該の「下層用路盤材向けクラッシャラン鉄鋼スラグCS−20」に使用可能であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】鉄鋼スラグを充填した、金網状の専用容器を示す図である。
【符号の説明】
【0096】
1 金網状のかご容器
2 鉄鋼スラグ
3 流水方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雨水または融雪水を、鉄鋼スラグで中和反応させることを特徴とする雨水または融雪水の処理方法。
【請求項2】
前記鉄鋼スラグの見掛け気孔率が10%以上であることを特徴とする請求項1に記載の雨水または融雪水の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−26593(P2006−26593A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212258(P2004−212258)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(594176969)株式会社オーシマ・デザイン設計 (7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)