説明

電力伝送装置

【課題】 クレーンのフックのような吊下体のバッテリに非接触で電源の供給を行うことのできる電力伝送装置を提供する。
【解決手段】 索体11により吊り下げられた吊下体13の機器に非接触で電源の供給を行う電力伝送装置において、索体11とともに移動する吊下体13の移動経路上に設けられ、索体11が挿通する貫通孔が形成された給電体本体31と、この給電体本体31に設けられた複数の給電コイル34とを有する給電体3と、吊下体13に設けられた受電体本体21と、この受電体本体21に給電コイル34の配置に対応して配置された受電コイル24とを有する受電体2と、給電体本体31及び受電体本体21に設けられ、受電体本体21が索体11とともに移動して給電体本体31まで到達したときに互いに嵌合し、給電コイル34と受電コイル24の位置合わせを行う位置合わせ手段23,33とを有する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ,ケーブル,ロープ又は紐体のような索体に吊り下げられた吊下体の機器に非接触で電源の供給を行う電力伝送装置にかかり、特に、クレーンのフックのような吊下体の機器に非接触で電源の供給を行う電力伝送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、クレーンのフックに警報装置を設けて、フックの周囲にいる作業員に注意を促したり、CCDカメラを取り付けて吊荷や周囲の情報を収集したりする装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
この種の機器に必要とされる電源を、クレーン外部の電源から供給するには長大な電源ケーブルが必要となり、電源ケーブルが断線したり、点検や修理等の作業を頻繁に行わなければならないほか、電源ケーブルの長さによってクレーンの動作範囲が制限されることがある。
そのため、フックにバッテリを搭載して、このバッテリから他の機器に電源を供給することで、電源ケーブルを不要にする試みもなされているが、定期的にバッテリを交換したり電源ケーブルを接続して充電をする必要がある。
【0003】
しかし、このような作業は煩わしいことから、フックに太陽電池等の電源を設けたり、接触又は非接触形でバッテリに充電できるようにしたシステムも提案されている。
ところが、太陽電池は起電力が小さいことからフックに搭載できる機器は消費電力の小さいものに限定され、CCDカメラや通信機器等の消費電力の大きい機器に対応するには、フックの表面積を大きくしてその表面に太陽電池を張りめぐらせたり、フックの上部に平面状の太陽電池パネルを取り付ける必要がある。
接触又は非接触形でバッテリに充電するシステムにはこのような問題はなく、接触形のシステムとしては、例えば特許文献2に記載のようなシステムが知られており、非接触形のシステムとしては、例えば特許文献3に記載のようなシステムが知られている。
【0004】
特許文献2に記載のケーブルクレーンは、トロリーに走行方向に沿って直線状に受電接触部材を設けるとともに支柱側に給電接触部材とを設け、支柱側にトロリーを停止させて自動的に充電するようにしている。
また、特許文献3に記載の電力伝送装置は、ケージを吊り下げるワイヤ(鋼索)の上方と前記ケージとにそれぞれ変成器を設け、電源側の変成器に供給された電力を電磁誘導によりワイヤに交流電流として流し、ケージ側の変成器で再変換して機器等を作動させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−109886
【特許文献2】特開平11−349281
【特許文献3】特開平9−202550
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2に記載の接触形のシステムでは、給電側コネクタと受電側コネクタの確実な接続が要求されるうえ、コネクタの破損による接触不良が生じやすく、また、特許文献3に記載の非接触形のシステムは、鋼索に交流電源を流すことから感電やショート等の危険性があるほか、鋼索が長くなると電流損失も大きくなり十分な電力をバッテリ等に供給できなくなるという問題がある。
特に、これら文献に記載のシステムは、クレーンのフックのようにワイヤで吊り下げられ、風や巻き上げ時の振動等により回転したり揺動したりする吊下体には不向きである。
本発明は上記の問題を解決するためになされたもので、クレーンのフックのように回転したり揺動したりする吊下体への適用が可能で、吊下体に設けられたバッテリ等の機器に非接触で電源の供給を行うことのできる電力伝送装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の電力伝送装置は、索体により吊り下げられた吊下体の機器に非接触で電源の供給を行う電力伝送装置において、
前記索体とともに移動する吊下体の移動経路上に設けられ、前記索体が挿通する貫通孔が形成された給電体本体と、この給電体本体に設けられた複数の給電コイルとを有する給電体と、前記吊下体に設けられた受電体本体と、この受電体本体に前記給電コイルの配置に対応して配置された受電コイルとを有する受電体と、前記給電体本体及び前記受電体本体に設けられ、前記受電体本体が前記索体とともに移動して前記給電体本体まで到達したときに互いに嵌合することで、前記給電コイルと前記受電コイルの位置合わせを行う位置合わせ手段とを有する構成としてある。
この構成によれば、例えば索体であるワイヤ上方のクレーンアームの先端近傍に給電体を設置し、吊下体であるフック又はその近傍に受電体を設けて、ワイヤを巻き上げたときに給電体の給電コイルと受電体の受電コイルとを近接させて電力伝送を行うことができる。クレーンのフックのような吊下体は、ワイヤを中心に回転したりワイヤと交叉する方向に揺動したりするが、位置合わせ手段により受電コイルと給電コイルの回転方向及びワイヤと交叉する方向の位置合わせを行うことができる。
【0008】
前記位置合わせ手段は、請求項2に記載するように、前記受電体本体及び前記給電体本体のいずれか一方に設けられた楕円錐状又は角錐状の嵌合凸部と、他方に設けられた楕円錐状又は角錐状の嵌合孔部とを有する構成とするとよい。
例えば、楕円錐状に形成された嵌合凸部と嵌合孔部とは、嵌合するときに長軸を一致させる方向に回転力を発生させ、受電コイルと給電コイルとの位置が最大90度回転方向にずれていても位置合わせを行うことができる。また、嵌合凸部及び嵌合孔部を楕円錐状又は角錐状に形成することで、回転方向だけでなく、受電体本体と給電体本体とがワイヤ等の索体と交叉する方向にずれていても、その位置ずれを修正することができる。
前記給電コイル及び前記受電コイルは、請求項3に記載するように、前記給電体本体及び前記受電体本体における前記索体を中心とする円周を等分する位置に配置してもよいし、前記給電体本体及び前記受電体本体を横断するX軸及び/又はY線を中心とする対称位置に配置してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明は上記のように構成されているので、索体に吊り下げられた吊下体の機器に、非接触で電源を供給することが可能になる。特に、クレーンのフックのように、索体を中心に回転したり、索体と交叉する方向に揺動する吊下体の機器への電源供給を、簡単な構成で確実に行える電力伝送装置の提供が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の好適な一実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の電力伝送装置をクレーンに適用した一例を示す概略説明図である。
クレーン1のアーム10の先端から索体である鋼製のワイヤ11が吊り下げられ、このワイヤ11の下端に吊下体であるフック12が吊り下げられる。このフック12には、吊り荷や周囲の状態を監視するためのCCDカメラや警報装置、各種センサ、通信機器等及びこれらを動作させるためのバッテリが搭載されたフック基体13が設けられている。
この実施形態の電力伝送装置は、前記バッテリに非接触で電源を供給して充電を行うものである。
【0011】
この実施形態の電力伝送装置は、ワイヤ11の上端に位置し、アーム10の先端から吊り下げられた給電体3と、フック基体13の上部に設けられた受電体2とから概略構成される。給電体3は、アーム10に設置された図示しない電源ケーブルを介してクレーン1の電源又はクレーン1とは別体の電源に接続され、受電体2はフック基体13の前記バッテリに接続される。
ワイヤ11によってフック12が巻き上げられると、図1中仮想線で示すようにフック基体13が上昇して給電体3に受電体2が接触する。このとき、図示しないセンサやリミットスイッチ等の作用によってワイヤ11の巻き上げが止まり、給電体3と受電体2との接触状態が維持される。給電体3から受電体2への電源の供給はこの状態で行われる。
【0012】
図2は、この実施形態の電力伝送装置の構成を説明する斜視図である。
受電体2は、フック基体13の上部に設けられた受電体本体21と、受電体本体21の中央に凸設され、中心にワイヤ11が挿通する貫通孔を備えた嵌合凸部23と、ワイヤ11を中心とする受電体本体21の円周上に均等間隔で配置された四つの受電コイル24とを有する。
【0013】
給電体3は、アーム10の先端から支持部材32で吊り下げられた給電体本体31と、ワイヤ11が挿通するように給電体本体31の中央に貫通形成され、嵌合凸部23と嵌合できる嵌合孔部33と、ワイヤ11を中心とする給電体本体31の円周上に配置された四つの給電コイル34とを有する。
給電コイル34は、アーム10に敷設された図示しない電源ケーブルによって、クレーン本体又はクレーンの外部に設けられた電源と接続されていて、受電コイル24に対して非接触で電源を伝送できるように、受電コイル24を配置した円周と同一径の円周上に均等間隔で配置される。
受電体本体21及び給電体本体31の形状は、図示の例では正方形であるが、特にその形状は限定されず、円形や楕円形、長方形、正方形、菱形など、本発明の電力伝送装置の用途や使用場所などに応じて種々のものを選択することができる。
【0014】
また、給電体本体31をアーム11の先端から吊り下げる支持部材32は、金属製ロッドのように剛性の高い部材から形成してもよいし、ワイヤやロープのように柔軟性のある部材から形成してもよい。
支持部材32を剛性の高い部材から形成した場合は、ワイヤ11の巻き上げ時の過負荷により電力伝送装置が破損しないように、例えば、リミットスイッチや圧力センサ,接触センサのような感知手段を設けて、給電体本体31に受電体本体21が接触したところでワイヤ11の巻き上げ動作が停止されるようにするとよい。
また、支持部材32を柔軟性のある部材から形成した場合は、嵌合凸部23と嵌合孔部33との嵌合による受電体本体21と給電体本体31との位置合わせ動作を確実に行わせるために、給電体本体31をある程度の重量物で形成するのが好ましい。
【0015】
フック12はワイヤ11に吊り下げられていることから、ワイヤ11の巻き上げ時にはワイヤ11を中心に回転方向に揺動しやすく、また、風や巻き上げ時の振動などによりワイヤ11に対して交叉する方向に揺動しやすい。
そのため、給電体本体31に受電体本体21が接触したときに、給電コイル24と受電コイル34との位置合わせ行う必要がある。
この実施形態では、嵌合凸部23と嵌合孔部33が位置合わせ手段を構成する。
嵌合凸部23は、受電体本体21の中心(ワイヤ11の挿通位置)を通って受電体本体21を横断する方向(図2中の軸線C1の方向)に長軸を有する楕円錐状に形成され、この嵌合凸部23が嵌合する嵌合孔部33は、給電体本体31の中心(ワイヤ11の挿通位置)を通って給電体本体31を横断する方向(図2中の軸線C2の方向)に長軸を有する楕円錐状に形成されている。
【0016】
嵌合凸部23の表面及び嵌合孔部33の内面は、互いの滑りを良くするために滑らかに仕上げるか、滑りのよい部材で形成するとよい。また、潤滑剤を塗布するものとしてもよい。さらに、図4(a)に示すように、嵌合凸部23の両端23aを円弧状に面取りするなど、嵌合凸部23と嵌合孔部33とがスムースに嵌合するような形状にしてもよい。嵌合凸部23の一部が嵌合孔部33の内面に接触して滑ることで、嵌合凸部23と嵌合孔部33との芯合わせと回転方向の位置合わせとが行われる。
【0017】
これにより、給電体本体31と受電体本体21とが、図3(a)に示すように、ワイヤ11を中心とする回転方向及びワイヤ11に対して交叉する方向に位置ずれしていても、嵌合凸部23と嵌合孔部33との嵌合及びワイヤ11の巻き上げにともなう受電体本体21の上昇動作により、図3(b)に示すように、回転方向の位置合わせと交叉方向の位置合わせが同時に行われ、図3(c)に示すように給電コイル34と受電コイル24との位置が一致した状態になる。
上記の実施形態の位置合わせ手段では、給電体本体31と受電体本体21とが回転方向に90度位置ずれしていても、両者の位置合わせを行うことが可能である。
【0018】
本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記の説明のものに限られない。
例えば、位置合わせ手段の形状及び構成は、給電体本体31と受電体本体21を回転方向及び索体と交叉する方向に位置合わせすることができるものであれば、上記の実施形態のものに限られない。例えば、図4(b)に示すような四角錘状の嵌合凸部23と嵌合孔部33や三角錘状の嵌合凸部23と嵌合孔部33とから位置合わせ手段を構成してもよい。また、上記の実施形態とは逆に、嵌合凸部23を給電体本体31に設け、嵌合孔部33を受電体本体21に設けてもよい。
【0019】
また、給電コイル34及び受電コイル24の配置は、嵌合凸部23と嵌合孔部33との嵌合による位置合わせの形態によって決定されるため、上記実施形態のようなワイヤ11を中心とする円周上には限られず、例えば図4(a)に示すように、ワイヤ11と交叉する給電体本体31及び受電体本体21のX軸又はY軸に対する対称位置としてもよい。さらに、給電コイル34及び受電コイル24の数についても、四つに限らず、二つ又は三つや、図4(a)の例のように五つ以上とすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の電力伝送装置は、ワイヤ等の索体に吊り下げられた吊下体であれば、クレーンのフックに限らずケージなど他のものにも適用が可能である。また、上下方向に垂下された索体に限らず、横方向に張設された索体によって支持された吊下体にも適用が可能である。また、本発明の装置によって電源を供給する吊下体の機器も、バッテリに限らず、バッテリ内蔵の他の機器や、索体の巻き上げ時に動作する照明器や警報器、通信器、CCDカメラ等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の電力伝送装置をクレーンに適用した一例を示す概略説明図である。
【図2】この実施形態の電力伝送装置の構成を説明する斜視図である。
【図3】位置合わせ手段による給電体本体と受電体本体の位置合わせの様子を説明する概略平面図である。
【図4】(a)は、嵌合凸部と嵌合孔部とをスムースに嵌合させるための形状の一例及び給電コイル及び受電コイルをX軸又はY軸に対して対称に配置した一例を示す平面図で、(b)は位置合わせ手段の他の例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 クレーン
10 アーム
11 ワイヤ
12 フック
13 フック基体
2 受電体
21 受電体本体
21a 両端
23 嵌合凸部
24 受電コイル
3 給電体
31 給電体本体
32 支持部材
33 嵌合孔部
34 給電コイル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
索体により吊り下げられた吊下体の機器に非接触で電源の供給を行う電力伝送装置において、
前記索体とともに移動する吊下体の移動経路上に設けられ、前記索体が挿通する貫通孔が形成された給電体本体と、この給電体本体に設けられた複数の給電コイルとを有する給電体と、
前記吊下体に設けられた受電体本体と、この受電体本体に前記給電コイルの配置に対応して配置された受電コイルとを有する受電体と、
前記給電体本体及び前記受電体本体に設けられ、前記受電体本体が前記索体とともに移動して前記給電体本体まで到達したときに互いに嵌合することで、前記給電コイルと前記受電コイルの位置合わせを行う位置合わせ手段と、
を有することを特徴とする電力伝送装置。
【請求項2】
前記位置合わせ手段が、前記受電体本体及び前記給電体本体のいずれか一方に設けられた楕円錐状又は角錐状の嵌合凸部と、他方に設けられた楕円錐状又は角錐状の嵌合孔部とを有すること、
を特徴とする請求項1に記載の電力伝送装置。
【請求項3】
前記給電コイル及び前記受電コイルを、前記給電体本体及び前記受電体本体における前記索体を中心とする円周を等分する位置又は前記給電体本体及び前記受電体本体を横断するX軸又はY線を中心とする対称位置に配置したことを特徴とする請求項2に記載の電力伝送装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−5518(P2013−5518A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132214(P2011−132214)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(300044894)北伸電機株式会社 (8)