説明

電力供給装置及び電子機器

【課題】2以上の電極を直列接続して高出力化を実現し得る電力供給装置であって、各電極に対する燃料供給を同時に行うことが可能で、燃料供給後にそのままの状態で発電が可能な構造を有する電力供給装置を提供すること。
【解決手段】負極又は正極の少なくとも一方の電極上に触媒として酵素が固定化された電力供給装置であって、少なくとも2以上の前記負極及び前記正極が直列接続された起電部と、前記負極間を連通し、前記2以上の負極に燃料を同時に供給する燃料供給部と、を少なくとも備え、前記燃料供給部には、前記負極への燃料供給を調節する燃料供給調節部が備えられた電力供給装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、電力供給装置に関する。より詳しくは、2以上の電極を直列接続して高出力化を実現し得る電力供給装置であって、燃料の供給が簡便な電力供給装置、及び該電力供給装置を用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
電池は、大きく分けて化学電池と物理電池に分類することができ、化学電池としては、マンガン乾電池、アルカリ乾電池、ニッケル系一次電池、リチウム電池、アルカリボタン電池、酸化銀電池、空気(亜鉛)電池などの一次電池、ニカド電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、鉛畜電池、アルカリ畜電池などの二次電池、バイオ燃料電池などの燃料電池が、物理電池としては、太陽電池等が存在する。
【0003】
以下、本技術に関わりのある化学電池について説明する。一次電池とは、内部に反応物質を有しており、反応物質の化学反応により電流を生じる電池であって、反応物質がすべて消費されるまで使用できる電池であり、例えば、乾電池等が挙げられる。二次電池とは、内部に反応物質を有しており、電流を発生させることで反応物質が減少するが、充電することによって逆反応が起こり、生成物質がもとの反応物質に戻ることで繰り返し使用することが可能な電池であり、例えば、自動車のバッテリーやリチウムイオン電池などが挙げられる。
【0004】
なかでも、負極又は正極の少なくとも一方の電極上に触媒として酸化還元酵素を固定した燃料電池(以下、バイオ燃料電池という。)は、例えばグルコース及びエタノールのように通常の工業触媒では反応が困難な燃料から、効率よく電子を取り出すことができるため、高容量でかつ安全性が高い次世代の燃料電池として注目されている。
【0005】
バイオ燃料電池の一例として、グルコースを燃料とするバイオ燃料電池の反応スキームを説明する。グルコースを燃料とするバイオ燃料電池においては、負極でグルコース(Glucose)の酸化反応が進行し、正極で大気中の酸素(O2)の還元反応が進行する。そして、負極では、グルコース(Glucose)、グルコース脱水素酵素(Glucose Dehydrogenase)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+;NicotinamideAdenine Dinucleotide)、ジアホラーゼ(Diaphorase)、メディエーター、電極(カーボン)の順に電子が受け渡される。
【0006】
一方、このようなバイオ燃料電池は、他の燃料電池に比べて出力が小さいという問題点がある。そこで、近年、高出力のバイオ燃料電池を得るための検討がなされている(例えば、特許文献1、特許文献2、及び特許文献3参照。)。
【0007】
例えば、特許文献1に記載のバイオ燃料電池では、電極を多孔質構造の導電性部材(金属、導電性高分子、金属酸化物、炭素材料等)で構成し、その孔内に酵素や電子伝達メディエーター等を固定することにより、実効面積あたりの酵素担持密度を高めて、電流密度の向上を図っている。
【0008】
特許文献2に記載のバイオ燃料電池では、カソード電極をカーボンなどの多孔質材料に酵素及び電子伝達メディエーターを固定したものにより構成し、このカソード電極の少なくとも一部が気相の反応基質となる空気又は酸素と接触するようにすることで、優れた電極特性を充分に発揮できるように工夫している。
【0009】
特許文献3に記載のバイオ燃料電池では、1つのセル内に複数の電池部を設けることにより、電流密度、電圧の向上を図っている。特許文献3に記載のバイオ燃料電池では、空気を透過可能なスペーサの間に、正極集電体、正極、プロトン伝導体、負極、負極集電体、燃料が透過可能なスペーサ、負極集電体、負極、プロトン伝導体、正極、正極集電体がこの順に配置されている。即ち、スペーサを挟むように、正極、プロトン伝導体及び負極で構成される電池部と、負極、プロトン伝導体及び正極で構成される電池部とが配置されている。そして、負極には酵素が固定化されており、負極、負極集電体、及びスペーサを包み込むように、燃料保持容器が設けられている。
【0010】
特許文献3に記載のバイオ燃料電池では、例えば、燃料保持容器に燃料としてグルコース溶液を充填すると、負極1では、酵素によりグルコースが分解されて電子が取り出されると共に、Hが発生する。一方、正極では、プロトン伝導体を通って輸送されたHと、負極で取り出され外部回路を介して送られた電子と、空気中の酸素とが反応して水が生成する。そして、正極集電体及び負極集電体の間に負荷を接続することにより電流が流れ、従来よりも大きな出力を得ることができる。
【0011】
このように、バイオ燃料電池の高出力化を大きくするために、種々の検討がなされているが、実際の電子機器等に使用するには、まだまだ低出力であることが現状である。そのため、複数のバイオ燃料電池を直列に接続することで高出力化を行うことが必要である。
【0012】
しかし、高出力化のためにバイオ燃料電池を直列接続する場合、複数のバイオ燃料電池に対し、各々燃料を供給する必要があり、燃料供給が煩雑で、発電までに時間を要してしまうという問題があった。
【0013】
そこで、本願発明者らは、2以上の電極を直列接続して高出力化を実現し得る電力供給装置であって、複数の電極に同時に燃料を供給することが可能な技術を先に開発した(特許文献4参照)。特許文献4に係る技術では、各負極間に同時に燃料を供給した後に、例えば、空気層などをイオン遮断部として利用することにより各負極間をイオン的に遮断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2006−234788号公報
【特許文献2】特開2006−93090号公報
【特許文献3】特開2007−188810号公報
【特許文献4】特開2009−140646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前述のように、高出力化のためにバイオ燃料電池を直列接続し、各負極間に燃料を同時に供給する場合、発電を行うためには、各負極間がイオン的に遮断される必要がある。本願発明者らが先に開発した電力供給装置では、一例として空気層をイオン遮断部として利用する方法を提案しているが、燃料供給後に発電部を天地逆転させて空気層を形成させるなどの操作が必要である。即ち、燃料を供給したままの状態で発電を行うことは困難であった。
【0016】
また、用いる電子機器などの種類によっては、空気層を形成させることが困難な場合もある。
【0017】
そこで、本技術では、2以上の電極を直列接続して高出力化を実現し得る電力供給装置であって、各電極に対する燃料供給を同時に行うことが可能で、燃料供給後にそのままの状態で発電が可能な構造を有する電力供給装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本技術では、まず、負極又は正極の少なくとも一方の電極上に触媒として酵素が固定化された電力供給装置であって、
少なくとも2以上の前記負極及び前記正極が直列接続された起電部と、
前記負極間を連通し、前記2以上の負極に燃料を同時に供給する燃料供給部と、
を少なくとも備え、
前記燃料供給部には、前記負極への燃料供給を調節する燃料供給調節部が備えられた電力供給装置を提供する。
本技術に係る電力供給装置は、前記燃料供給調節部を備えることにより、各電極に対して同時に燃料を供給した後に、特に操作を必要とせず、そのままの状態で発電を行うことを可能としている。
本技術に係る電力供給装置の前記燃料供給調節部は、負極への燃料供給を調節することができればその構成は特に限定されない。例えば、前記負極に当接する第1燃料拡散部と、該第1燃料拡散部に連接し、前記第1燃料拡散部に比べて燃料拡散速度が遅い第2燃料拡散部と、で燃料供給調節部を構成することで、負極への燃料供給を調節することが可能である。
本技術に係る電力供給装置の前記第1燃料拡散部は、燃料を拡散させて負極に燃料を供給することができれば、その構成は特に限定されない。例えば、紙、布、流路、ポリマー、親水性コーティング材などの材料を用いて構成することが可能である。
また、本技術に係る電力供給装置の前記第2燃料拡散部は、前記第1燃料拡散部に比べて燃料拡散速度が遅い材料から構成すれば、その材料は特に限定されない。例えば、紙、布、流路、ポリマー、親水性コーティング材、疎水性コーティング材などの材料を用いて構成することが可能である。
本技術に係る電力供給装置の前記第1燃料拡散部および/または前記第2燃料拡散部は、その形態を各々相違させることにより、燃料注入部から各負極までの燃料拡散時間に差をつけて、各起電部の発電のタイミングをずらすことも可能である。
各起電部の発電時間のタイミングをずらす方法としては、例えば、前記第1燃料拡散部および/または前記第2燃料拡散部の形状を各々相違させて前記燃料注入部から各負極までの距離に差をつけたり、前記第1燃料拡散部および/または前記第2燃料拡散部の撥水性を各々相違させたりする方法が挙げられる。
また、本技術に係る電力供給装置の前記第1燃料拡散部には、2以上の前記負極および前記正極を並列接続することもできる。この際、前記燃料注入部から各負極までの距離に差をつけることにより、前記燃料注入部から各負極までの燃料拡散時間に差をつけて、各起電部の発電のタイミングをずらすことも可能である。
本技術に係る電力供給装置には、前記負極間をイオン的に遮断するイオン遮断部を更に備えることも可能である。
前記負極に固定された前記酵素には、少なくとも酸化酵素を含ませることができる。
また、前記負極に固定された前記酵素には、少なくとも酸化型補酵素を含ませることもできる。
前記負極に固定された前記酵素に、酸化型補酵素を含ませる場合には、更に、補酵素酸化酵素を含ませることも可能である。
また、前記負極又は前記正極の少なくとも一方の電極上には、前記酵素に加え、電子伝達メディエーターを固定化することもできる。
【0019】
本技術では、次に、負極又は正極の少なくとも一方の電極上に触媒として酸化還元酵素が固定化された燃料電池を用いる電子機器であって、
少なくとも2以上の燃料電池を直列接続した燃料電池部と、
前記燃料電池の前記負極を連通し、前記2以上の負極に燃料を同時に供給する燃料供給部と、
を少なくとも備え、
前記燃料供給部には、前記負極への燃料供給を調節する燃料供給調節部が備えられた電子機器を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本技術に係る電力供給装置は、2以上の電極を直列接続しているため、大きな出力電流及び電圧を得ることができるとともに、2以上の負極に対し、同時に燃料の供給を行うことができるため、簡便に燃料を供給でき、短時間で安定的な発電が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本技術に係る電力供給装置1の第1実施形態を示す断面摸式図である。
【図2】本技術に係る電力供給装置1への燃料供給の様子の一例を示す断面摸式図であり、図2(I)は、燃料注入直後の電力供給装置1を示し、図2(II)は、第1燃料拡散部311a、311bへの燃料導入中の電力供給装置1を示し、図2(III)は、第1燃料拡散部311a、311bへの燃料導入が終了した電力供給装置1を示す断面摸式図である。
【図3】本技術に係る電力供給装置1の第2実施形態を示す断面摸式図である。
【図4】本技術に係る電力供給装置1の第3実施形態を模式的に示す上方視平面図である。
【図5】本技術に係る電力供給装置1の第4実施形態を模式的に示す上方視平面図である。
【図6】本技術に係る電力供給装置1の第5実施形態を模式的に示す上方視平面図である。
【図7】本技術の第5実施形態に係る電力供給装置1を用いて発電を行った際の発電の様子を示す図面代用グラフのイメージである。
【図8】本技術に係る電力供給装置1の第6実施形態を模式的に示す上方視平面図である。
【図9】燃料拡散部の毛管半径を200μm、燃料の表面張力を72mN/m、燃料の粘度を2mPa・sとした時の浸透速度を示す図面代用グラフである。
【図10】本技術に係る電力供給装置1の第7実施形態を模式的に示す上方視平面図である。
【図11】燃料供給調節部31a、31bを備えない場合における電力供給装置への燃料供給の様子の一例を示す断面摸式図であり、図11(I)は、燃料注入直後の電力供給装置を示し、図11(II)は、第1燃料拡散部311a’、311b’への燃料導入中の電力供給装置を示し、図11(III)は、第1燃料拡散部311a’、311b’への燃料導入が終了した電力供給装置を示す断面摸式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本技術を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。なお、説明は以下の順序で行う。
1.電力供給装置1
(1)起電部2a、2b
(2)燃料供給部3
(3)イオン遮断部4
2.電子機器
【0023】
<1.電力供給装置>
図1は、本技術に係る電力供給装置の第1実施形態を示す断面摸式図である。本技術に係る電力供給装置1は、大別すると、起電部2a、2bと、燃料供給部3と、を備えている。本技術では、特に、燃料供給部3に、燃料供給調節部31a、31bを備えることを特徴とする。また、本技術に係る電力供給装置には、イオン遮断部4を更に備えることもできる。以下、各部について、それぞれの構成、機能、効果などを説明する。
【0024】
(1)起電部2a、2b
起電部2a、2bは、負極21a、21bと正極22a、22bが、プロトン伝導体23a、23bを介して対向した構造を呈している。本実施形態における電力供給装置1では、負極21a、21bとプロトン伝導体23a、23bの間に、負極集電体211a、211bを備えているが、負極伝導体211a、211bの配設箇所は特に限定されない。負極伝導体211a、211bを燃料が透過可能な構造にすれば、負極21a、21bと後述する燃料供給部3との間に備えることも可能である。
【0025】
また、本実施形態に係る電力供給装置1では、正極22a、22bとプロトン伝導体23a、23bの間に、正極集電体221a、221bを備えているが、正極伝導体221a、221bの配設箇所も特に限定されない。正極伝導体221a、221bを、酸素を含む空気等が透過可能な構造にすれば、正極22a、22bの図面向かって下部側に備えることも可能である。
【0026】
本実施形態に係る電力供給装置1では、電極(負極21a、21b、正極22a、22b)を2つ直列接続しているが、2以上の電極(負極21a、21b、正極22a、22b)を直列接続していれば、その数は特に限定されない。必要な電力量に合わせて、電極(負極21a、21b、正極22a、22b)の数は自由に設計変更することが可能である。
【0027】
電極(負極21a、21b、正極22a、22b)の接続方法は、直列的な接続であれば特に限定されない。例えば、図1に示すように、一方の電極の負極伝導体211aと、他方の電極の正極伝導体221bを接続させることにより、2以上の電極(負極21a、21b、正極22a、22b)を直列的に接続することができる。
【0028】
起電部2では、負極21a、21bで燃料の酸化反応により電子を放出し、該電子が負極集電体211a、211bおよび正極集電体221a、221bを通り正極22a、22bへ移動し、正極22a、22bで該電子と外部から供給される酸素を用いて還元反応が進行する、という一連の反応を進行させることにより電気エネルギーを発生させる。
【0029】
負極21a、21bに用いる材料は公知のあらゆる素材を用いることができ、外部と電気的に接続可能な素材であれば特に限定されず、例えば、Pt、Ag、Au、Ru、Rh、Os、Nb、Mo、In、Ir、Zn、Mn、Fe、Co、Ti、V、Cr、Pd、Re、Ta、W、Zr、Ge、Hfなどの金属、アルメル、真ちゅう、ジュラルミン、青銅、ニッケリン、白金ロジウム、ハイパーコ、パーマロイ、パーメンダー、洋銀、リン青銅などの合金類、ポリアセチレン類などの導電性高分子、グラファイト、カーボンブラックなどの炭素材、HfB2、NbB、CrB2、B4Cなどのホウ化物、TiN、ZrNなどの窒化物、VSi2、NbSi2、MoSi2、TaSi2などのケイ化物、及びこれらの合材等を用いることができる。
【0030】
負極21a、21bには、必要に応じて酵素を固定しても良い。例えば、燃料として糖類を含む燃料を用いる場合には、糖類を酸化分解する酸化酵素を固定するとよい。酸化酵素の一例としては、グルコースデヒドロゲナーゼ、グルコネート5デヒドロゲナーゼ、グルコネート2デヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、アルデヒドレダクターゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、ラクテートデヒドロゲナーゼ、ヒドロキシパルベートレダクターゼ、グリセレートデヒドロゲナーゼ、フォルメートデヒドロゲナーゼ、フルクトースデヒドロゲナーゼ、ガラクトースデヒドロゲナーゼなどが挙げられる。
【0031】
また、負極21a、21bには、上記の酸化酵素に加え、酸化型補酵素および補酵素酸化酵素を固定してもよい。酸化型補酵素としては、例えば、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(nicotinamideadenine dinucleotide、以下「NAD+」と称する。)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(nicotinamideadenine dinucleotide phosphate、以下「NADP+」と称する。)フラビンアデニンジヌクレオチド(flavin adenine dinucleotide、以下「FAD+」と称する。)、ピロロキノリンキノン(pyrrollo-quinolinequinone、以下「PQQ2+」と称する。)などが挙げられる。補酵素酸化酵素としては、例えば、ジアフォラーゼが挙げられる。
【0032】
負極21a、21bでは、燃料の酸化分解に伴い、上記の酸化型補酵素が、それぞれの還元型であるNADH、NADPH、FADH、PQQH2に還元され、逆に、補酵素酸化酵素により、還元型補酵素から酸化型補酵素へ戻されるという酸化還元反応が繰り返される。このとき、還元型補酵素から酸化型補酵素へ戻る際に2電子が発生する。
【0033】
更に、負極21a、21bには、上記の酸化酵素及び酸化型補酵素に加え、電子伝達メディエーターを固定してもよい。上記で発生した電子の電極への受け渡しをスムーズにするためである。電子伝達メディエーターとしては、例えば、2−アミノ−3−カルボキシ−1,4−ナフトキノン(ACNQ)、ビタミンK3、2−アミノ−1,4−ナフトキノン(ANQ)、2−アミノ−3−メチル−1,4−ナフトキノン(AMNQ)、2、3−ジアミノ−1,4−ナフトキノン、アントラキノン−1−スルホン酸、アントラキノン−2−スルホン酸、オスミウム(Os)、ルテニウム(Ru)、鉄(Fe)、コバルト(Co)などの金属錯体、ベンジルビオローゲンなどのビオローゲン化合物、キノン骨格を有する化合物、ニコチンアミド構造を有する化合物、リボフラビン構造を有する化合物、ヌクレオチド−リン酸構造を有する化合物などなどが挙げられる。
【0034】
正極22a、22bに用いる材料も公知のあらゆる素材を用いることができ、外部と電気的に接続可能な素材であれば特に限定されず、例えば、Pt、Ag、Au、Ru、Rh、Os、Nb、Mo、In、Ir、Zn、Mn、Fe、Co、Ti、V、Cr、Pd、Re、Ta、W、Zr、Ge、Hfなどの金属、アルメル、真ちゅう、ジュラルミン、青銅、ニッケリン、白金ロジウム、ハイパーコ、パーマロイ、パーメンダー、洋銀、リン青銅などの合金類、ポリアセチレン類などの導電性高分子、グラファイト、カーボンブラックなどの炭素材、HfB2、NbB、CrB2、B4Cなどのホウ化物、TiN、ZrNなどの窒化物、VSi2、NbSi2、MoSi2、TaSi2などのケイ化物、及びこれらの合材等を用いることができる。
【0035】
正極22a、22bには、必要に応じて酵素を固定しても良い。正極22a、22bに固定し得る酵素としては、酸素を反応基質とするオキシダーゼ活性を有する酵素であれば、その種類は特に限定されず、必要に応じて自由に選択することが可能である。例えば、ラッカーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ等を用いることができる。
【0036】
また、正極22a、22bには、上記の酵素に加え、電子伝達メディエーターを固定してもよい。負極21a、21bで発生し、負極集電体211a、211bおよび正極集電体221a、221bを通して送り込まれる電子の受け取りをスムーズにするためである。正極22a、22bに固定し得る電子伝達メディエーターの種類は特に限定されず、必要に応じて自由に選択することができる。例えば、ABTS(2,2'-azinobis(3-ethylbenzoline-6-sulfonate))、K3[Fe(CN)6]等を用いることが可能である。
【0037】
正極22a、22bでは、負極21a、21bから負極集電体211a、211bおよび正極集電体221a、221bを通して送り込まれる電子と、外部から供給される酸素を用いて還元反応が進行する。
【0038】
プロトン伝導体23a、23bに用いる材料は特に限定されず、公知のあらゆる材料を用いることができ、例えば、緩衝物質を含む電解質を用いることができる。緩衝物質としては、リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)やリン酸二水素カリウム(KH2PO4)などが生成するリン酸二水素イオン(H2PO4−)、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(略称トリス)、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、カコジル酸、炭酸(H2CO3)、クエン酸水素イオン、N−(2−アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)、ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)、N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−3−プロパンスルホン酸(HEPPS)、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(略称トリシン)、グリシルグリシン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(略称ビシン)、イミダゾール、トリアゾール、ピリジン誘導体、ビピリジン誘導体、イミダゾール誘導体(ヒスチジン、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、イミダゾール−2−カルボン酸エチル、イミダゾール−2−カルボキシアルデヒド、イミダゾール−4−カルボン酸、イミダゾール−4,5−ジカルボン酸、イミダゾール−1−イル−酢酸、2−アセチルベンズイミダゾール、1−アセチルイミダゾール、N−アセチルイミダゾール、2−アミノベンズイミダゾール、N−(3−アミノプロピル) イミダゾール、5−アミノ−2−(トリフルオロメチル) ベンズイミダゾール、4−アザベンズイミダゾール、4−アザ−2−メルカプトベンズイミダゾール、ベンズイミダゾール、1−ベンジルイミダゾール、1−ブチルイミダゾール)などのイミダゾール環を含む化合物などを挙げることができる。
【0039】
負極集電体211a、211bおよび正極集電体221a、221bに用いる材料も公知のあらゆる素材を用いることができ、外部と電気的に接続可能な素材であれば特に限定されず、例えば、Pt、Ag、Au、Ru、Rh、Os、Nb、Mo、In、Ir、Zn、Mn、Fe、Co、Ti、V、Cr、Pd、Re、Ta、W、Zr、Ge、Hfなどの金属、アルメル、真ちゅう、ジュラルミン、青銅、ニッケリン、白金ロジウム、ハイパーコ、パーマロイ、パーメンダー、洋銀、リン青銅などの合金類、ポリアセチレン類などの導電性高分子、グラファイト、カーボンブラックなどの炭素材、HfB2、NbB、CrB2、B4Cなどのホウ化物、TiN、ZrNなどの窒化物、VSi2、NbSi2、MoSi2、TaSi2などのケイ化物、及びこれらの合材等を用いることができる。
【0040】
(2)燃料供給部3
燃料供給部2は、電力供給に必要な燃料を2以上の負極に同時に供給するための部位である。本技術に係る電力供給装置1の燃料供給部は、図1の第1実施形態に示すように、直列接続した各起電部2aおよび2bの各負極21aおよび21b間を連通した構成にすることで、各負極21a、21bへの燃料供給を同時に行うことを実現している。
【0041】
そして、本技術では特に、燃料供給部3に、燃料供給調節部31a、31bを備えることを特徴とする。第1実施形態では、燃料供給調節部31a、31bとして、各負極21a、21bに当接して各負極21a、21bへ燃料を拡散させる第1燃料拡散部311a、311bと、燃料注入部fと第1燃料拡散部311a、311bとの間で燃料の通流を遮断する調整壁wを備えている。この調整壁wと第1燃料拡散部311a、311bとの間には、燃料注入部fから第1燃料拡散部311a、311bへ、燃料を徐々に導入するための燃料導入孔sが設けられている。
【0042】
なお、この燃料導入孔sの大きさは、特に限定されず、用いる燃料の種類や粘度の違い、第1燃料拡散部311a、311bの燃料拡散速度の違い、あるいは目的の燃料導入速度に応じて、自由に設計することができる。例えば、調整壁wを図面向かって上下に移動させることで、その大きさを調整可能に設計することも可能である。
【0043】
本技術に係る電力供給装置1では、この燃料供給調節部31a、31bを備えることにより、各負極21a、21bへの燃料供給を同時にかつ均等に行うことができる。本技術に係る電力供給装置1への燃料供給の様子の一例について、図2および図11を用いて説明する。
【0044】
図2は、本技術に係る電力供給装置1への燃料供給の様子の一例を示す断面摸式図である。また、図11は、燃料供給調節部31a、31bを備えない場合における電力供給装置への燃料供給の様子の一例を示す断面摸式図である。図2および図11中符号(I)で示す図は、燃料注入直後の電力供給装置を示し、符号(II)で示す図は、第1燃料拡散部311a、311b、311a’、311b’への燃料導入中の電力供給装置を示し、符号(III)で示す図は、第1燃料拡散部311a、311b、311a’、311b’への燃料導入が終了した電力供給装置を示す断面摸式図である。
【0045】
図11に示すように、燃料供給調節部31a、31bを備えない場合、燃料の注入スピードや角度によっては、一方の第1燃料拡散部311b’のみに燃料が吸収され、他方の第1燃料拡散部311a’には燃料が行き渡らない事態が起こりやすい。どちらか一方のみの燃料吸収まで行かなくとも、各第1燃料拡散部311a’および311b’間の燃料吸収量に差が生じてしまうことがあり、そのため、各起電部2a’および2b’間での発電量に差が生じてしまう。その結果、各起電部2a’および2b’を直列配列する電力供給装置は、うまく電力供給ができない事態に陥るといった問題が生じる。
【0046】
一方、図2に示すように、燃料供給調節部31a、31bを備える本技術に係る電力供給装置1では、この燃料供給調節部31a、31bにより、各第1燃料拡散部311a、311bに徐々に燃料が導入されていくため、各第1燃料拡散部311および311bひいては各負極21aおよび21bに対して、同時にかつ均等に燃料を供給することが可能である。即ち、燃料注入スピードや注入角度など注入技術の如何に関わらず、各負極21aおよび21bに対して、同時にかつ均等に燃料を供給することが可能である。その結果、簡便で安定的な電力供給の実現を可能としている。
【0047】
燃料供給調節部31a、31bは、第1実施形態に係る電力供給装置1の構成に限定されず、各負極21aおよび21bに対して、燃料を徐々に導入することができれば、その構成は特に限定されない。以下、燃料供給調節部31a、31bの他の一例について、図3を用いて説明する。
【0048】
図3は、本技術に係る電力供給装置1の第2実施形態を示す断面摸式図である。本技術の第2実施形態に係る電力供給装置1では、燃料供給調節部31a、31bとして、各負極21a、21bに当接して各負極21a、21bへ燃料を拡散させる第1燃料拡散部311a、311bと、この第1燃料拡散部311a、311bに連接する第2燃料拡散部312a、312bを備えている。
【0049】
この第2燃料拡散部312a、312bは、第1燃料拡散部に比べて燃料拡散速度が遅く調整されている。第2燃料拡散部312a、312bを、第1燃料拡散部に比べて燃料拡散速度を遅く調整することで、各第1燃料拡散部311a、311bに徐々に燃料が導入されていくため、各第1燃料拡散部311および311bひいては各負極21aおよび21bに対して、同時にかつ均等に燃料を供給することが可能である。
【0050】
第1燃料拡散部311a、311bは、燃料を拡散させて負極に燃料を供給することができれば、その構成は特に限定されない。例えば、紙、布、流路、ポリマー、親水性コーティング材などの材料を用いて構成することが可能である。より具体的には、例えば、綿、麻、毛、絹、テンセル、キュプラ、レーヨン、ポリノジック、アセテート、トリアセテート、プロミックス、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリウレタン等の布、親水化処理した炭素繊維材料、ゼラチン、コラーゲンゲル、ガゼイン、寒天、でんぷん、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、デキストラン等の親水性ポリマー、酸化チタン被膜等の親水性コーティング剤などの材料を用いて構成することが可能である。
【0051】
また、第1燃料拡散部311a、311bの電力供給装置1における配置場所も限定されない。燃料を各負極21a、21bに供給することができれば、図1および3に示す第1実施形態や第2実施形態のように、各負極21aおよび21bの図面向かって上部側に限定されず、例えば、各負極21a、21bと各正極22a、22bとの間に配置することも可能である。
【0052】
第2燃料拡散部312a、312bは、前記第1燃料拡散部311a、311bに比べて燃料拡散速度が遅い材料から構成すれば、その材料は特に限定されない。例えば、紙、布、流路、ポリマー、親水性コーティング材、疎水性コーティング材などの材料を用いて構成することが可能である。より具体的には、例えば、綿、麻、毛、絹、テンセル、キュプラ、レーヨン、ポリノジック、アセテート、トリアセテート、プロミックス、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリウレタン等の布、親水化処理した炭素繊維材料、ゼラチン、コラーゲンゲル、ガゼイン、寒天、でんぷん、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、デキストラン等の親水性ポリマー、酸化チタン被膜等の親水性コーティング剤などの材料を用いて構成することが可能である。
【0053】
なお、第1燃料拡散部311a、311bと第2燃料拡散部312a、312bは、拡散速度の異なる別々の材料を用いて構成することも可能であるが、同一の材料を加工して拡散速度を変化させることにより、同一の材料を用いて構成することも可能である。
【0054】
例えば、吸水性のあるキュプラを用いて第1燃料拡散部311a、311bを構成し、その一部を圧迫して部分的に燃料の拡散速度を遅くすることにより、第2燃料拡散部312a、312bを形成することも可能である。
【0055】
あるいは、例えば、第1燃料拡散部311a、311bを流路で構成し、この流路より細い流路を用いて第2燃料拡散部312a、312bを構成することにより、拡散速度を調整することも可能である。
【0056】
以上説明した本技術の第2実施形態に係る電力供給装置1では、燃料供給後、燃料が第1燃料拡散部311a、311bに保持された状態となるため、発電中に燃料が逆流したり漏れ出したりすることがない。
【0057】
なお、第2燃料拡散部312a、312bを備えない第1実施形態に係る電力供給装置1においても、高粘度の燃料を用いることで、燃料が第1燃料拡散部311a、311bに保持された状態を保つことができ、発電中に燃料が逆流したり漏れ出したりすることを防止することが可能である。
【0058】
なお、図1および3に示す第1実施形態や第2実施形態では、外部から直接、燃料注入部fへ燃料を注入する構成としているが、燃料の注入方法はこれに限定されない。例えば、図示しないが、電力供給装置1に燃料貯蔵部を付設して、この燃料貯蔵部に燃料を貯蔵して、必要時に燃料注入部fへ燃料を注入する構成とすることも可能である。あるいは、電力供給装置1に、燃料を貯蔵した取り外し可能な燃料カートリッジ等を必要時に取り付けて、燃料注入部fへ燃料を供給することも可能である。
【0059】
(3)イオン遮断部4
イオン遮断部4は、本技術に係る電力供給装置1において必須ではないが、燃料を負極21a、21bに供給後、負極21a及び負極21b間をイオン的に遮断するために備えることができる。前述の通り、負極21a及び負極21b間は、燃料供給部3を通じて連通しているため、燃料を供給中においては、燃料が持つ電解質としての性質により、負極21a及び負極21b間を、燃料を通してイオンが移動してしまい、発電を行うことができない。そこで、本技術に係る電力供給装置1のように、燃料を供給後、負極21a及び負極21b間をイオン的に遮断する手段が必要となる。
【0060】
イオン遮断部4は、燃料を負極21a、21bに供給後、負極21a及び負極21b間をイオン的に遮断できれば、その形態は特に限定されず、自由に設計することができる。例えば、図1に示す第1実施形態のように、燃料供給後の燃料注入部fは燃料が存在しなくなるため、この燃料注入部fをそのままイオン遮断部4として機能させることが可能である。
【0061】
また、図3に示す第2実施形態のように、燃料注入部fに加えて、第2燃料拡散部312aおよび312bとの間に、例えば、イオン絶縁体41を配設することにより、負極21a及び負極21b間を確実にイオン的に遮断することが可能である。
【0062】
このように、本技術に係る電力供給装置1では、燃料供給後、特に操作を行うことなく各負極21a、21b間をイオン的に遮断することができるため、そのままの状態で、すぐに発電を行うことが可能である。
【0063】
以上説明した第1実施形態および第2実施形態では、2つの起電部2a、2bを直列接続しているが、その数は特に限定されない。必要な電力量に合わせて、起電部2a、2bの数は自由に設計変更することが可能である。
【0064】
例えば、図4に示す第3実施形態に係る電力供給装置1のように、4つの起電部を直列接続した構成に設計することも可能である。なお、図4は、本技術に係る電力供給装置1の第3実施形態を示す上方視平面図であり、第1燃料拡散部311a、311b、311c、311dの図面向かって後方側に、図示しないが4つの起電部を配設した構成となっている。
【0065】
また、例えば、図5に示す第4実施形態に係る電力供給装置1のように、円形基盤上に8つの起電部を直列接続した構成に設計することも可能である。なお、図5は、本技術に係る電力供給装置1の第4実施形態を示す上方視平面図であり、第1燃料拡散部311a、311b、311c、311d、311e、311f、311g、311hの図面向かって後方側に、図示しないが8つの起電部を配設した構成となっている。また、第2燃料拡散部312a、312b、312c、312d、312e、312f、312g、312hは、流路を用いて形成した構成となっている。
【0066】
本技術に係る電力供給装置1は、起電部2a、2bを複数有することを特徴としている。この特徴を生かして、例えば、各起電部2a、2bの発電のタイミングをずらすように設計することも可能である。発電のタイミングを調整する方法としては、例えば、本技術に係る電力供給装置1の前記第1燃料拡散部311a、311b、311c、311d、311e、311f、311g、311hおよび/または前記第2燃料拡散部312a、312b、312c、312d、312e、312f、312g、312hの形態を各々相違させることにより、燃料注入部fから各負極21a、21bまでの燃料拡散時間に差をつけて、各起電部2a、2bの発電のタイミングを調整することも可能である。以下、発電のタイミングを調整する方法について、具体例を挙げて説明する。
【0067】
図6は、本技術に係る電力供給装置1の第5実施形態を模式的に示す上方視平面図である。第5実施形態に係る電力供給装置1では、第1燃料拡散部311a、311b、311c、311dの形状を各々相違させて、燃料注入部fから各負極21a、21b、21c、21dまでの距離に差をつけた構成をしている。このように、燃料注入部fから各負極21a、21b、21c、21dまでの距離に差をつけることにより、燃料注入部fから各負極21a、21b、21c、21dまでの燃料拡散時間に差が生じ、その結果、図7に示す図面代用グラフイメージのように、各起電部(図では負極21a、21b、21c、21dのみ表示)における発電のタイミングをずらすことができる。
【0068】
なお、第5実施形態では、第1燃料拡散部311a、311b、311c、311dの形状を各々相違させているが、これに限定されず、第2燃料拡散部312a、312b、312c、312dの形状を各々相違させ、燃料注入部fから各負極21a、21b、21c、21dまでの距離に差をつけた構成に設計するのも自由である。
【0069】
各起電部の発電時間のタイミングを調整する方法は、第5実施形態のように前記第1燃料拡散部および/または前記第2燃料拡散部の形状を各々相違させて前記燃料供給部から各負極までの距離に差をつける方法に限らず、例えば、以下に説明する図8に示す第6実施形態のように設計することも可能である。
【0070】
図8は、本技術に係る電力供給装置1の第6実施形態を模式的に示す上方視平面図である。第6実施形態では、第1燃料拡散部311a、311b、311c、311dの撥水性を各々相違させた例である。
【0071】
第1燃料拡散部311a、311b、311c、311dの撥水性を相違させることにより、燃料Fの第1燃料拡散部311a、311b、311c、311dへの接触角が変化する。接触角が変化すると、下記数式(1)(Lucas-Washburnの式)に基づいて、燃料Fの拡散速度が、例えば、図9に示す図面代用グラフのように変化する。図9は、燃料拡散部の毛管半径を200μm、燃料の表面張力を72mN/m、燃料の粘度を2mPa・sとした際に、接触角を0度、40度、60度、80度、89度と変化させた時の浸透速度を示す図面代用グラフである。浸透速度を各第1燃料拡散部311a、311b、311c、311d間で変化させることにより、各起電部(図では負極21a、21b、21c、21dのみ表示)における発電のタイミングをずらすことができる。
【0072】
【数1】

【0073】
この第6実施形態のように、各第1燃料拡散部311a、311b、311c、311dの撥水性を自由に調整することで、各起電部(図では負極21a、21b、21c、21dのみ表示)における発電のタイミングを自由に調整することが可能である。
【0074】
なお、第6実施形態では、第1燃料拡散部311a、311b、311c、311dの撥水性を各々相違させているが、これに限定されず、第2燃料拡散部312a、312b、312c、312dの撥水性を各々相違させることにより、各起電部(図では負極21a、21b、21c、21dのみ表示)における発電のタイミングを調整することも自由である。
【0075】
以上説明した発電のタイミングを調整する方法では、各燃料拡散部を同一の材料を用いて構成し、その形態(形状や撥水性など)を各燃料拡散部間で相違させているが、この方法に限らない。例えば、図示しないが、第1燃料拡散部311aをキュプラで構成し第1燃料拡散部311bを流路で構成するなど、各燃料拡散部を構成する材料を各燃料拡散部間で相違させることにより、燃料注入部fから各負極21a、21b、21c、21dまでの燃料拡散時間を調整することも可能である。
【0076】
このように、本技術に係る電力供給装置1では、直列接続した各起電部の発電のタイミングをずらすように設計することも可能であるが、例えば、図10に示す第7実施形態のように、各第1燃料拡散部311a、311b、311c、311dに、2以上の起電部(図では負極21a、21b、21c、21dのみ表示)を並列接続して、それらの発電のタイミングをずらすように設計することも可能である。
【0077】
より具体的には、図10に示す第7実施形態のように、各第1燃料拡散部311a、311b、311c、311dに、2以上の各起電部(図では負極21a、21b、21c、21dのみ表示)を並列接続すると、燃料注入部fから各負極21a1〜3間、21b1〜3間、21c1〜3間、21d1〜3間の距離にそれぞれ差が生じる。このように、燃料注入部fから各負極21a1〜3間、21b1〜3間、21c1〜3間、21d1〜3間の距離に差をつけることにより、燃料注入部fから各負極21a1〜3間、21b1〜3間、21c1〜3間、21d1〜3間の燃料拡散時間に差が生じ、その結果、各起電部(図では負極21a1〜3、21b1〜3、21c1〜3、21d1〜3のみ表示)における発電のタイミングをずらすことができる。
【0078】
なお、第7実施形態では、各第1燃料拡散部311a、311b、311c、311dすべてに、起電部(図では負極21a1〜3、21b1〜3、21c1〜3、21d1〜3のみ表示)をそれぞれ3個ずつ設置しているが、これに限定されない。例えば、目的に合わせて、1または2以上の燃料拡散部にのみ複数の起電部を設置することも自由である。
【0079】
また、本技術に係る電力供給装置1では、直列接続した各起電部の発電のタイミングをずらし、更に、並列接続した各起電部の発電のタイミングをずらすように設計することも可能である。
【0080】
第5実施形態から第7実施形態のように、各起電部における発電のタイミングを調整することで、用いる電子機器に対し、例えば、以下のような効果を付加することが可能である。
【0081】
例えば、音楽を発生する機器に使用する場合、時間と共に音量を大きくしたり、単音から和音へと変化させたり、電子オルゴールを時間差で使用するなどの効果を付加することができる。
【0082】
また、例えば、光を発する機器に使用する場合、特別な回路などを用いることをしなくても、時間差でLEDのような光源を光らせることが可能である。
【0083】
また、例えば、電力により駆動する機器に使用する場合、特別な配線等を用いることをしなくても、駆動箇所を自由自在に変化させることが可能である。
【0084】
以上説明した本技術に係る電力供給装置1に供給する燃料の種類は特に限定されず、燃料電池の燃料として公知のあらゆるものを供給することができる。例えば、蛋白質、脂肪酸、糖質、又はその他の化合物を利用することができる。この中でも特に糖質は、食品、その残渣、発酵産物、又はバイオマスなどからの入手の容易性、価格面、汎用性、安全性、及び扱いの容易性などの観点から、より好適である。
【0085】
また、人体が飲食又は接触可能な燃料を用いることも可能である。例えば、ジュース、スポーツ飲料、砂糖水、アルコール類などの飲料、化粧水などの化粧料等を用いることができる。即ち、日常生活において摂取する飲料や化粧料等を、本技術に係る電力供給装置1の燃料として用いることが可能である。このように人体が飲食又は接触可能な燃料を用いれば、安全性のみでなく、任意の場所で、任意の燃料を補給することが可能となるといったメリットも生じる。
【0086】
<2.電子機器>
本技術に係る電力供給装置1は、大きな出力電流及び電圧を得ることができるとともに、2以上の負極に対し、同時にかつ均等に燃料の供給を行うことができ、また、燃料供給から発電までに特別な操作を必要としないため、短時間で安定的な発電が可能である。そのため、公知のあらゆる電子機器に好適に用いることができる。
【0087】
該電子機器は、本技術に係る電力供給装置を少なくとも使用できるものであれば、構造、機能等は特に限定されず、電気的に作動する機器を全て含有する。例えば、携帯電話、モバイル機器、ロボット、パーソナルコンピューター、ゲーム機器、車載機器、家庭電気製品、工業製品等の電子機器、自動車、二輪車、航空機、ロケット、宇宙船等の移動体、検査機器、ペースメーカー用の電源、バイオセンサーを含む生体内機器の電源等の医療機器、生ごみを分解し電気エネルギーを発電させるシステム等の発電システムおよびコジェネレーションシステム、等を挙げることができる。
【0088】
なお、本技術は、以下のような構成も取ることができる。
(1)負極又は正極の少なくとも一方の電極上に触媒として酵素が固定化された電力供給装置であって、
少なくとも2以上の前記負極及び前記正極が直列接続された起電部と、
前記負極間を連通し、前記2以上の負極に燃料を同時に供給する燃料供給部と、
を少なくとも備え、
前記燃料供給部には、前記負極への燃料供給を調節する燃料供給調節部が備えられた電力供給装置。
(2)前記燃料供給調節部は、前記負極に当接する第1燃料拡散部と、
該第1燃料拡散部に連接し、前記第1燃料拡散部に比べて燃料拡散速度が遅い第2燃料拡散部と、
からなる(1)記載の電力供給装置。
(3)前記第1燃料拡散部は、紙、布、流路、ポリマー、親水性コーティング材から選択される(2)記載の電力供給装置。
(4)前記第2燃料拡散部は、紙、布、流路、ポリマー、親水性コーティング材、疎水性コーティング材から選択される(2)または(3)に記載の電力供給装置。
(5)前記第1燃料拡散部および/または前記第2燃料拡散部の形態を各々相違させることにより、燃料注入部から各負極までの燃料拡散時間に差がつけられた(2)から(4)のいずれか一項に記載の電力供給装置。
(6)前記第1燃料拡散部および/または前記第2燃料拡散部の形状を各々相違させて前記燃料注入部から各負極までの距離に差がつけられた(5)記載の電力供給装置。
(7)前記第1燃料拡散部および/または前記第2燃料拡散部の撥水性を各々相違させた(5)または(6)に記載の電力供給装置。
(8)前記第1燃料拡散部には、2以上の前記負極および前記正極が並列接続され、
燃料注入部から各負極までの距離に差がつけられた(2)から(7)のいずれか一項に記載の電力供給装置。
(9)前記負極間をイオン的に遮断するイオン遮断部が更に備えられた(1)から(8)のいずれか一項に記載の電力供給装置。
(10)前記負極に固定された前記酵素は、酸化酵素を少なくとも含む(1)から(9)のいずれか一項に記載の電力供給装置。
(11)前記負極に固定された前記酵素は、酸化型補酵素を少なくとも含む(1)から(10)のいずれか一項に記載の電力供給装置。
(12)前記負極に固定された前記酵素は、補酵素酸化酵素を少なくとも含む(11)記載の電力供給装置。
(13)前記負極又は前記正極の少なくとも一方の電極上に電子伝達メディエーターが固定化された(1)から(12)のいずれか一項に記載の電力供給装置。
(14)負極又は正極の少なくとも一方の電極上に触媒として酸化還元酵素が固定化された燃料電池を用いる電子機器であって、
少なくとも2以上の燃料電池を直列接続した燃料電池部と、
前記燃料電池の前記負極を連通し、前記2以上の負極に燃料を同時に供給する燃料供給部と、
を少なくとも備え、
前記燃料供給部には、前記負極への燃料供給を調節する燃料供給調節部が備えられた電子機器。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本技術に係る電力供給装置は、従来のバイオ燃料電池に比べ、大きな出力電流及び電圧を得ることができるとともに、2以上の負極に対し、同時にかつ均等に燃料の供給を行うことができ、また、燃料供給から発電までに特別な操作を必要としないため、短時間で安定的な発電が可能である。そのため、あらゆる電子機器の動力源として実現することが可能である。
【0090】
また、日常生活において摂取する飲料や化粧料等を燃料として用いれば、任意の場所で必要に応じて燃料を供給することができる。従って、災害時などの電力供給がストップした場合の電力源として貢献できる。
【0091】
更に、燃料として人体が飲食又は接触可能な燃料を用いれば、燃料漏れ等を懸念せず、自由な構造に設計することができる。そのため、本技術に係る電力供給装置を用いた電子機器には、エンターテイメント性を付加したり、視覚的美的効果を付加したりすることが可能である。
【0092】
加えて、本技術に係る電力供給装置は、燃料の逆流や燃料漏れを防ぐことが可能であるため、人体に安全な燃料ばかりでなく、バイオ燃料電池に用いることが可能なあらゆる燃料を、自由に選択して用いることが可能である。
【符号の説明】
【0093】
1 電力供給装置
2a、2b 起電部
21a、21b 負極
22a、22b 正極
23a、23b プロトン伝導体
211a、211b 負極集電体
221a、221b 正極集電体
3 燃料供給部
31a、31b 燃料供給調節部
311a、311b、311c、311d、311e、311f、311g、311h 第1燃料拡散部
312a、312b、312c、312d、312e、312f、312g、312h 第2燃料拡散部
4 イオン遮断部
41 イオン絶縁体
f 燃料注入部
w 調整壁
s 燃料導入孔
F 燃料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極又は正極の少なくとも一方の電極上に触媒として酵素が固定化された電力供給装置であって、
少なくとも2以上の前記負極及び前記正極が直列接続された起電部と、
前記負極間を連通し、前記2以上の負極に燃料を同時に供給する燃料供給部と、
を少なくとも備え、
前記燃料供給部には、前記負極への燃料供給を調節する燃料供給調節部が備えられた電力供給装置。
【請求項2】
前記燃料供給調節部は、前記負極に当接する第1燃料拡散部と、
該第1燃料拡散部に連接し、前記第1燃料拡散部に比べて燃料拡散速度が遅い第2燃料拡散部と、
からなる請求項1記載の電力供給装置。
【請求項3】
前記第1燃料拡散部は、紙、布、流路、ポリマー、親水性コーティング材から選択される請求項2記載の電力供給装置。
【請求項4】
前記第2燃料拡散部は、紙、布、流路、ポリマー、親水性コーティング材、疎水性コーティング材から選択される請求項2記載の電力供給装置。
【請求項5】
前記第1燃料拡散部および/または前記第2燃料拡散部の形態を各々相違させることにより、燃料注入部から各負極までの燃料拡散時間に差がつけられた請求項2記載の電力供給装置。
【請求項6】
前記第1燃料拡散部および/または前記第2燃料拡散部の形状を各々相違させて前記燃料注入部から各負極までの距離に差がつけられた請求項5記載の電力供給装置。
【請求項7】
前記第1燃料拡散部および/または前記第2燃料拡散部の撥水性を各々相違させた請求項5記載の電力供給装置。
【請求項8】
前記第1燃料拡散部には、2以上の前記負極および前記正極が並列接続され、
燃料注入部から各負極までの距離に差がつけられた請求項2記載の電力供給装置。
【請求項9】
前記負極間をイオン的に遮断するイオン遮断部が更に備えられた請求項1記載の電力供給装置。
【請求項10】
前記負極に固定された前記酵素は、酸化酵素を少なくとも含む請求項1記載の電力供給装置。
【請求項11】
前記負極に固定された前記酵素は、酸化型補酵素を少なくとも含む請求項1記載の電力供給装置。
【請求項12】
前記負極に固定された前記酵素は、補酵素酸化酵素を少なくとも含む請求項11記載の電力供給装置。
【請求項13】
前記負極又は前記正極の少なくとも一方の電極上に電子伝達メディエーターが固定化された請求項1記載の電力供給装置。
【請求項14】
負極又は正極の少なくとも一方の電極上に触媒として酸化還元酵素が固定化された燃料電池を用いる電子機器であって、
少なくとも2以上の燃料電池を直列接続した燃料電池部と、
前記燃料電池の前記負極を連通し、前記2以上の負極に燃料を同時に供給する燃料供給部と、
を少なくとも備え、
前記燃料供給部には、前記負極への燃料供給を調節する燃料供給調節部が備えられた電子機器。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図2】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−33697(P2013−33697A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184509(P2011−184509)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】