説明

電力測定装置の信頼性の評価方法

【課題】 特性インピーダンス以外の負荷に使用される電力測定装置の電力測定値の信頼性を評価する方法を提供する。
【解決手段】 複素インピーダンスを有する負荷に供給される高周波電力を測定するための電力測定装置5を、基準となる基準電力測定装置4とともに、高周波電源装置1と前記負荷を擬似的に再現するインピーダンス変換装置6および基準負荷8との間に配置した評価システムA’において、基準電力測定装置4によって測定される電力測定値から所定の演算式により当該電力測定値の不確かさの範囲を算出し(S24)、電力測定装置5によって測定される電力測定値が当該不確かさの範囲内であるか否かを判別する(S25)。不確かさの範囲内にあれば(S25:YES)、当該電力測定装置5が信頼できると評価し(S26)、不確かさの範囲内になければ(S25:NO)、信頼できないと評価する(S27)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力測定装置の信頼性の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高周波電源装置から出力される高周波電力をプラズマ処理装置に供給し、エッチング等の方法を用いて半導体ウェハや液晶基板等の被加工物を加工するプラズマ処理システムが開発されている。プラズマ処理システムにおいては、プラズマ処理装置のインピーダンスが変動し、当該プラズマ処理装置の入力端で反射した反射波電力が高周波電源装置を損傷させる虞があるので、一般に高周波電源装置とプラズマ処理装置との間にインピーダンス整合装置が設けられ、プラズマ処理装置のインピーダンス変動に応じてインピーダンス整合装置の整合動作を制御したり、プラズマ処理装置のインピーダンスやプラズマ処理装置の入力端における高周波電圧および高周波電流などの監視をしたりすることが行なわれている(特許文献1参照)。
【0003】
インピーダンス整合装置の整合動作やプラズマ処理装置の監視は、インピーダンス整合装置の出力端やプラズマ処理装置の入力端に高周波測定装置を設け、その高周波測定装置で高周波電圧(以下、単に「電圧」という。)と高周波電流(以下、単に「電流」という。)を検出し、その検出値から電圧と電流の位相差(以下、単に「位相差」という。)θを求めるとともに、電圧実効値V、電流実効値I、プラズマ処理装置のインピーダンスZ=R+jX、反射係数Γ、プラズマ処理装置に入力される進行波電力Pf、インピーダンス不整合によりプラズマ処理装置の入力端で反射される反射波電力Prなどの高周波パラメータを算出し、その高周波パラメータを用いて行なわれる。
【0004】
高周波測定装置は、プラズマ処理装置に電力を伝送するための棒状の導電体に容量結合させたコンデンサと同胴体部に磁気結合させたコイルとを設け、コンデンサによって電圧v=√2・V・sin(ωt)を、また、コイルによって電流i=√2・I・sin(ωt+θ)を検出するとともに、これらの検出値から位相差θを求め、電圧v、電流iおよび位相差θを用いて下記(1)〜(5)式により上記の高周波パラメータを算出する。すなわち、高周波測定装置は、電圧vと電流iを検出するセンサとそのセンサの検出値から上記の高周波パラメータを算出する演算処理回路を備えた、いわゆるRFセンサと呼ばれるものである。
【0005】
【数1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−163308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、計測装置や測定装置は、センサの感度がばらつき当該センサで検出される検出値が正しい値と異なるため、予め基準となる被測定物を測定して検出値を正しい値に換算する校正データを取得しておき、実際の測定では検出値を校正データで正しい検出値に校正して出力する構成となっている。
【0008】
高周波測定装置の校正では、例えば、基準となる被測定物として測定系の特性インピーダンス(測定のために高周波を伝送する伝送線路の特性インピーダンス。一般には50Ω又は75Ω)を有するダミーロードと高周波電源装置との間に高周波測定装置を配置し、高周波電源装置からダミーロードに所定の高周波電力を供給したときの高周波測定装置の電圧検出値と電流検出値に対して校正データを取得することが行なわれている。
【0009】
ところで、プラズマ処理システムでは、高周波電源装置から高周波電力を供給する負荷がプラズマ処理装置内で発生するプラズマであるので、そのインピーダンスはリアクタンス性の強い複素インピーダンスとなることが多い。プラズマ処理装置に実際に入力される高周波電力PL(以下、「有効電力PL」という。)はPL=Pf−Prで表されるが、上記(4)、(5)式から明らかなように、有効電力PLはPL=V・I・cosθで算出される。この式によれば、電圧実効値V、電流実効値Iおよび位相差θがそれぞれ正確に算出されなければ、複素インピーダンスを有する負荷への有効電力PLを正確に算出することは困難である。特に、負荷のインピーダンスが90°に近い位相差θを有し、反射の大きい複素インピーダンスとなるプラズマ処理装置を負荷とするプラズマ処理システムでは、位相差θの僅かな誤差でも有効電力PLの誤差は非常に大きくなるので、高周波測定装置では信頼性の高い有効電力PLの測定をすることは困難となる。
【0010】
プラズマ処理システムのように、非常に反射の大きい複素インピーダンスを有する負荷に対して高周波電源装置から高周波電力を供給するシステムにおいて、高周波測定装置による負荷への有効電力PLの測定値の信頼性を評価しようとすると、例えば、複素インピーダンスを有する負荷に所定の高周波電力を供給したときの基準となる有効電力PLの測定値を設定し、高周波測定装置の有効電力PLの測定値をその基準測定値と比較して評価するなどの方法を採る必要があるが、このような高周波測定装置の電力測定値の信頼性の評価方法については提案されていない。
【0011】
このため、従来、複素インピーダンスを有する負荷に入力される有効電力を測定するための高周波測定装置の信頼性を評価することができないという問題があった。また、高周波測定装置の製造時における信頼性の評価基準が明確でないので、不良品の検査も困難であった。
【0012】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、特性インピーダンス以外の負荷に使用される電力測定装置の信頼性を評価する方法を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0014】
本発明の第1の側面によって提供される電力測定装置の信頼性の評価方法は、高周波電源装置とこの高周波電源装置から高周波電力が供給される複素インピーダンスを有する負荷との間に接続され、当該接続点における前記高周波電力を測定する電力測定装置の信頼性を所定の評価システムを用いて評価する評価方法であって、前記高周波電源装置から出力される高周波電力の伝送線路を前記負荷を擬似的に再現する擬似負荷再現装置で終端し、前記高周波電源装置と前記擬似負荷再現装置との間に、評価対象の電力測定装置と電力測定値の不確かさが算出可能な基準電力測定装置とを配置して前記評価システムを構成し、前記基準電力測定装置によって測定される電力測定値と前記基準電力測定装置の不確かさとから所定の演算式により当該電力測定値の不確かさの範囲を算出し、前記評価対象の電力測定装置によって測定される電力測定値が前記基準電力測定装置の電力測定値の不確かさの範囲内であるか否かを判別し、前記評価対象の電力測定装置の電力測定値が前記基準電力測定装置の電力測定値の不確かさの範囲内にあれば、前記評価対象の電力測定装置が信頼できると評価することを特徴とする。
【0015】
なお、「不確かさ」とは、測定の結果に附随した合理的に測定量に結び付けられ得る値のばらつきを特徴づけるパラメータであり、測定値からどの程度のばらつきの範囲内に「真の値」があるかを示すものである。また、この「真の値」の存在しうる範囲を、「不確かさの範囲」という。
【0016】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記評価対象の電力測定装置と前記基準電力測定装置の電力測定値には、前記高周波電源装置から前記擬似負荷再現装置に伝送する進行波電力の測定値と前記擬似負荷再現装置から前記高周波電源装置に伝送する反射波電力の測定値とが含まれ、前記進行波電力と前記反射波電力についてそれぞれ前記評価対象の電力測定装置の電力測定値が前記基準電力測定装置の電力測定値の不確かさの範囲内であるか否かを判別することにより前記評価対象の電力測定装置の信頼性を評価する。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記擬似負荷再現装置は可変リアクタンス素子を有し、その可変リアクタンス素子のリアクタンス値を調整することにより複数の複素インピーダンスを設定することができる。
【0018】
本発明の第2の側面によって提供される電力測定装置の信頼性の評価方法は、高周波電源装置とこの高周波電源装置から高周波電力が供給される複素インピーダンスを有する負荷との間に接続され、当該接続点における前記高周波電力を測定する電力測定装置の信頼性を所定の評価システムを用いて評価する評価方法であって、前記高周波電源装置から出力される高周波電力の伝送線路を当該伝送線路の特性インピーダンスと同一のインピーダンスを有する基準負荷で終端し、前記伝送線路上に評価対象の電力測定装置と電力測定値の不確かさが算出可能な基準電力測定装置とを配置し、さらに前記評価対象の電力測定装置および前記基準電力測定装置の後段に前記基準負荷側を見たインピーダンスが前記複素インピーダンスとなるようにインピーダンス変換を行なう第1のインピーダンス変換装置を配置するとともに当該第1のインピーダンス変換装置と前記基準負荷の間に当該基準負荷に入力される電力を測定する第1の電力測定装置を配置し、前記評価対象の電力測定装置および前記基準電力測定装置の前段に前記基準負荷側を見たインピーダンスが前記特性インピーダンスとなるようにインピーダンス変換を行なう第2のインピーダンス変換装置を配置するとともに当該第2のインピーダンス変換装置と前記高周波電源装置の間に当該高周波電源装置から出力される電力を測定する第2の電力測定装置を配置して前記評価システムを構成し、前記基準電力測定装置によって測定される電力測定値と前記基準電力測定装置の不確かさとから所定の演算式により当該電力測定値の不確かさの範囲を算出するとともに、前記第1の電力測定装置によって測定される電力測定値と前記第2の電力測定装置によって測定される電力測定値とに基づく所定の電力測定範囲を算出し、前記評価対象の電力測定装置によって測定される電力測定値と、前記基準電力測定装置の電力測定値の不確かさの範囲と、前記所定の電力測定範囲とに基づいて、前記評価対象の電力測定装置の信頼性を評価することを特徴とする。
【0019】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記所定の電力測定範囲は、前記第1の電力測定装置の電力測定値と前記第2の電力測定装置の電力測定値との間の範囲である。
【0020】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記所定の電力測定範囲は、前記第1の電力測定装置の電力測定値と前記第2の電力測定装置の電力測定値との中間値を中心とする所定の範囲である。
【0021】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記基準電力測定装置の電力測定値の不確かさの範囲が前記所定の電力測定範囲よりも狭いか否かを判別し、前記不確かさの範囲が前記所定の電力測定範囲よりも狭い場合、前記評価対象の電力測定装置の電力測定値が前記基準電力測定装置の電力測定値の不確かさの範囲内にあれば、前記評価対象の電力測定装置が信頼できると評価し、前記不確かさの範囲が前記所定の電力測定範囲よりも狭くない場合、前記評価対象の電力測定装置の電力測定値である前記基準負荷側に伝送される進行波電力の測定値と前記高周波電源装置側に伝送される反射波電力の測定値との差が前記所定の電力測定範囲の範囲内にあれば、前記評価対象の電力測定装置が信頼できると評価する。
【0022】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記基準電力測定装置は方向性結合器を備え、当該方向性結合器で分離された進行波電力と反射波電力をそれぞれ測定する。
【0023】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記基準電力測定装置の進行波電力測定値の不確かさの範囲FPWと反射波電力測定値の不確かさの範囲RPWは、下記の演算式で算出される。

FPW=Pf×(100−FPU)/100〜Pf×(100+FPU)/100
RPW=Pr×(100−RPU)/100〜Pr×(100+RPU)/100
但し、
Pf:進行波電力測定値
Pr:反射波電力測定値
±FPU:進行波電力の不確かさ(Forward Power Uncertainty)
±RPU:反射波電力の不確かさ(Reflected Power Uncertainty)
FPU=2×C×ρl×100(%)
RPU=200×(A+(A+C)×ρl+(ρs×ρl×ρl))(%)
A :前記方向性結合器の進行波方向性
C :前記高周波電源装置側から見た前記方向性結合器の反射係数
ρs :前記負荷側から見た前記方向性結合器の反射係数
ρl :前記方向性結合器から見た前記負荷の反射係数
【0024】
なお、「反射係数」は、正確にはその大きさ(絶対値)と位相とで表されるものであるが、反射係数の大きさのみの場合も「反射係数」と記載している。反射係数C、ρs、ρlは、反射係数の大きさを表している。また、同様に、方向性Aは、方向性の大きさを表している。
【0025】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記評価対象の電力測定装置は高周波電圧と高周波電流を測定し、これらの測定値から高周波電圧と高周波電流の位相差、インピーダンス、反射係数、進行波電力および反射波電力の少なくとも1つを算出する高周波測定装置である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、高周波電源装置から複素インピーダンスを有する擬似負荷に供給される高周波電力(進行波電力と反射波電力を含む)が評価対象の電力測定装置と基準電力測定装置とによってそれぞれ測定される。基準電力測定装置では、電力測定値から所定の演算式により当該電力測定値の不確かさの範囲が算出される。評価対象の電力測定装置と基準電力測定装置とは同一の伝送線路を伝送する高周波電力を測定しているので、評価対象の電力測定装置の電力測定値が基準電力測定装置の電力測定値の不確かさの範囲内にあれば、評価対象の電力測定装置の電力測定値は信頼できるものであり、当該評価対象の電力測定装置が信頼できると評価される。
【0027】
すなわち、評価対象の電力測定装置の電力測定値を「Pf1」、基準電力測定装置の電力測定値を「Pf2」、当該電力測定値Pf2の不確かさの範囲を「Pf2±ΔUf」とすると、Pf2−ΔUf≦Pf1≦Pf2+ΔUfであれば、評価対象の電力測定装置は信頼できると評価される。
【0028】
これにより、信頼できると評価された電力測定装置によって測定される電力測定値が信頼できるものであることを保証することができる。また、電力測定装置の製造時に当該電力測定装置の信頼性を評価することで、不良品の検査を好適に行うことができる。
【0029】
また、本発明によれば、高周波電源装置から特性インピーダンスと同一のインピーダンスを有する基準負荷に高周波電力を供給する伝送線路上に基準負荷を複素インピーダンスに変換する第1のインピーダンス変換装置と当該複素インピーダンスをさらに特性インピーダンスに変換する第2のインピーダンス変換装置を設け、第1,第2のインピーダンス変換装置で挟まれた伝送線路上で評価対象の電力測定装置と基準電力測定装置とによって高周波電力(進行波電力、反射波電力、および進行波電力と反射波電力との差分電力を含む)がそれぞれ測定される。また、基準負荷と第1のインピーダンス変換装置の間で第1の電力測定装置により基準負荷に入力される高周波電力(進行波電力)が測定され、高周波電源装置と第2のインピーダンス変換装置の間で第2の電力測定装置により当該高周波電源装置から出力される高周波電力(進行波電力)が測定される。
【0030】
基準電力測定装置の高周波電力の測定値と基準電力測定装置の不確かさとから所定の演算式により当該高周波電力の測定値の不確かさの範囲が算出される。また、第1の電力測定装置の高周波電力の測定値と第2の電力測定装置の高周波電力の測定値とに基づいて所定の電力測定範囲が算出される。
【0031】
そして、基準電力測定装置の高周波電力の測定値の不確かさの範囲が所定の電力測定範囲より狭い場合は、評価対象の電力測定装置の電力測定値が基準電力測定装置の電力測定値の不確かさの範囲内にあれば、当該評価対象の電力測定装置が信頼できると評価される。一方、基準電力測定装置の高周波電力の測定値の不確かさの範囲が所定の電力測定範囲より狭くない場合は、評価対象の電力測定装置の進行波電力の測定値と反射波電力の測定値との差が所定の電力測定範囲内にあれば、当該評価対象の電力測定装置が信頼できると評価される。
【0032】
すなわち、評価対象の電力測定装置の進行波電力と反射波電力の測定値を「Pf1」,「Pr1」、所定の電力測定範囲をPf3〜Pf4(<Pf3)、基準電力測定装置の進行波電力と反射波電力の測定値を「Pf2」,「Pr2」、当該進行波電力の測定値Pf2の不確かさの範囲を「Pf2±ΔUf」とし反射波電力の測定値Pr2の不確かさの範囲を「Pr2±ΔUr」とすると、2・(ΔUf+ΔUr)<(Pf3−Pf4)の場合は、Pf2−ΔUf≦Pf1≦Pf2+ΔUfであれば、評価対象の電力測定装置は信頼できると評価され、2・(ΔUf+ΔUr)≧(Pf4−Pf3)の場合は、Pf4<(Pf1−Pr1)<Pf3であれば、評価対象の電力測定装置は信頼できると評価される。
【0033】
したがって、より厳しい方の条件で評価対象の電力測定装置の信頼性を評価するので、評価対象の電力測定装置の信頼性をより厳しく評価することができる。
【0034】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る評価方法の第1実施形態の考え方を説明するための図である。
【図2】本発明に係る評価方法の第1実施形態を実施するための評価システムの一例を示す図である。
【図3】可変負荷装置の一例を示す回路図である。
【図4】基準電力測定装置の構成の一例を示す図である。
【図5】高周波測定装置の構成の一例を示す図である。
【図6】第1実施形態に係る評価方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図7】本発明に係る評価方法の第2実施形態を実施するための評価システムの一例を示す図である。
【図8】第2実施形態に係る評価方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して具体的に説明する。
【0037】
図1は、本発明に係る高周波測定装置の測定精度の評価方法の第1実施形態の考え方を説明するための図である。
【0038】
高周波測定装置の電力測定精度を評価するための電力測定系は、高周波電源Eから出力される高周波電力の伝送線路を電力測定系の特性インピーダンス(例えば、50Ω)を有する終端抵抗Roで終端し、伝送線路の中間に評価対象の高周波測定装置Xと測定値の不確かさを算出することができる評価基準となる高周波電力測定装置(以下、「基準電力測定装置」という。)Yを直列に配置し、更に高周波測定装置Xと終端抵抗Roの間にインピーダンス変換装置B1を配置するとともに、基準電力測定装置Yと高周波電源Eの間にインピーダンス変換装置B2を配置する構成である。なお、高周波測定装置Xは、従来技術で説明したRFセンサと同一の機能を果すものである。
【0039】
インピーダンス変換装置B1は、高周波測定装置Xの出力端dから負荷側を見たインピーダンスが所望の複素インピーダンスZL=R+jXとなるように、終端抵抗Roをインピーダンス変換するためのものである。また、インピーダンス変換装置B2は、高周波電源Eの出力端aから負荷側を見たインピーダンスが特性インピーダンスRoとなるように、基準電力測定装置Yの入力端bから負荷側を見たインピーダンスZL’=R’+jX’をインピーダンス変換するためのものである。
【0040】
なお、高周波測定装置Xおよび基準電力測定装置Yの入出力インピーダンスは特性インピーダンスRoに設計されているので、図1に示す電力測定系のインピーダンスは中央のc点で左右対称になる。したがって、高周波電源E側のインピーダンス変換装置B2を、負荷側のインピーダンス変換装置B1と同一の回路で入力側と出力側を逆に接続したもので構成した場合、インピーダンス変換装置B2の出力端bから電源側を見たインピーダンスはインピーダンス変換装置B1の入力端dから負荷側を見た複素インピーダンスZL=R+jXと同一になる。
【0041】
第1実施形態に係る評価方法は、両端が複素インピーダンスZLで挟まれた伝送線路上で当該伝送線路を流れる進行波電力と反射波電力を高周波測定装置Xと基準電力測定装置Yでそれぞれ測定し、基準電力測定装置Yの進行波電力測定値Pf2および反射波電力測定値Pr2とそれぞれの不確かさ±FPU(%)、±RPU(%)から当該進行波電力Pf2および反射波電力Pr2の不確かさの範囲Pf2±ΔUf(但し、ΔUf=Pf2・FPU/100)、Pr2±ΔUr(但し、ΔUr=Pr2・RPU/100)を算出し、高周波測定装置Xで測定された進行波電力測定値Pf1および反射波電力測定値Pr1をそれぞれ進行波電力測定値Pf2の不確かさの範囲Pf2±ΔUfおよび反射波電力測定値Pr2の不確かさの範囲Pr2±ΔUrと比較し、進行波電力Pf1が不確かさの範囲Pf2f±ΔUf内であり、かつ、反射波電力Pr1が不確かさの範囲Pr2±ΔUr内であれば、高周波測定装置Xの進行波電力測定値Pf1および反射波電力測定値Pr1は信頼できるものであり、高周波測定装置Xが信頼できると評価されることを基本とするものである。
【0042】
すなわち、電力測定値の不確かさが明らかである基準電力測定装置Yを基準とし、同一の条件で測定した高周波測定装置Xの電力測定値が基準電力測定装置Yの電力測定値の不確かさの範囲内であれば、高周波測定装置Xが信頼できると評価するものである。
【0043】
なお、基準電力測定装置Yの電力測定値の不確かさの範囲が広い場合、高周波測定装置Xの電力測定値が基準電力測定装置Yの電力測定値の不確かさの範囲内にあっても、高周波測定装置Xの信頼性は低くなる。したがって、第1実施形態に係る評価方法では、高周波電源Eの出力端aと終端抵抗Roの入力端eでそれぞれ電力Pf3,Pf4を測定し、両電力測定値の範囲Pf3〜Pf4(>Pf3)が基準電力測定装置Yの電力測定値の不確かさの範囲よりも狭い場合は、以下のように、その電力測定値の範囲Pf3〜Pf4に基づいて高周波測定装置Xの信頼性を評価するようにしている。
【0044】
すなわち、高周波電源Eの出力端aではインピーダンス整合が取られているので出力端aの検出電力Pf3は殆ど進行波電力と考えることができ、検出電力Pf3は基準電力測定装置Yの出力端cにおける進行波電力と反射波電力との差分PLに相当する。一方、差分PLは、終端抵抗Roに入力される電力であるが、終端抵抗Roの入力端eではインピーダンス整合が取られているので、入力端eの検出電力Pf4は殆ど進行波電力と考えることができ、差分PLは検出電力Pf4に相当する。インピーダンス変換装置B1,B2で微小の電力ロスがあるので、理論上、Pf4<PL<Pf3が成立するはずである。したがって、高周波測定装置Xで測定された進行波電力Pf1と反射波電力Pr1との差分(Pf1−Pr1)が、Pf4<(Pf1−Pr1)<Pf3の範囲にあれば、高周波測定装置Xが信頼できると評価することができる。
【0045】
実測した電力測定値Pf3,Pf4と、基準電力測定装置Yの進行波電力測定値Pf2と反射波電力測定値Pr2との差分の不確かさの範囲(Pf2−Pr2)±(ΔUf+ΔUr)との間で、2・(ΔUf+ΔUr)>(Pf3−Pf4)が成立するとすれば、両電力測定値の範囲Pf3〜Pf4が基準電力測定装置Yの電力測定値の不確かさの範囲よりも狭いので、Pf4<(Pf1−Pr1)<Pf3が成立するか否かが判別される。このとき、Pf4<(Pf1−Pr1)<Pf3が成立すれば、高周波測定装置Xが信頼できると評価する。
【0046】
したがって、第1実施形態に係る評価方法では、基準電力測定装置Yの進行波電力および反射波電力の測定値Pf2,Pr2と既知の不確かさ±FPU(%),±RPU(%)を用いて当該測定値Pf2とPr2との差分の不確かさの範囲(Pf2−Pr2)±(ΔUf+ΔUr)を算出し、当該差分の不確かさの範囲(Pf2−Pr2)±(ΔUf+ΔUr)と入力端aおよび出力端eの両電力測定値の範囲Pf3〜Pf4とのどちらが狭いかを判定する。当該差分の不確かさの範囲(Pf2−Pr2)±(ΔUf+ΔUr)の方が狭い場合、高周波測定装置Xの進行波電力測定値Pf1を不確かさの範囲Pf2±ΔUfと比較し、反射波電力測定値Pr1を不確かさの範囲Pr2±ΔUrと比較することで信頼性の評価を行ない、両電力測定値の範囲Pf3〜Pf4の方が狭い場合、高周波測定装置Xの進行波電力測定値Pf1と反射波電力測定値Pr1の差分(Pf1−Pr1)を電力測定範囲Pf3〜Pf4と比較することで信頼性の評価を行なうようにしている。
【0047】
次に、第1実施形態に係る評価方法を用いて高周波測定装置の信頼性を評価する評価システムについて説明する。
【0048】
図2は、第1実施形態に係る評価方法を実施するための評価システムの構成を示す図である。
【0049】
同図に示すように、評価システムAは、高周波電源装置1、電力計2、インピーダンス変換装置3、基準電力測定装置4、高周波測定装置5、インピーダンス変換装置6、電力計7、基準負荷8、および、制御装置9を備えている。評価システムAは、高周波測定装置5の信頼性を評価するものであり、高周波測定装置5の電力測定値が所定の範囲内である場合に当該高周波測定装置5を信頼できるものであると評価し、高周波測定装置5の電力測定値が所定の範囲外である場合に当該高周波測定装置5を信頼できないものであると評価する。高周波電源装置1、電力計2、インピーダンス変換装置3、基準電力測定装置4、高周波測定装置5、インピーダンス変換装置6、電力計7、および基準負荷8は、この順番で、例えば同軸ケーブルからなる伝送線路でそれぞれ接続されている。なお、基準電力測定装置4と高周波測定装置5の配置は、逆であっても構わない。また、評価システムAは、特性インピーダンスが50Ωの電力測定系として構成されている。
【0050】
高周波電源装置1は、高周波電力を供給するものであって、例えば数百kHz以上の周波数を有する高周波電力を出力することができる電源装置である。高周波電源装置1として、一般にプラズマ処理装置のプラズマ処理で使用されるものと同様のものが用いられる。
【0051】
電力計2は、高周波電源装置1の出力端aにおいて、高周波電源装置1からの進行波電力とインピーダンス変換装置3からの反射波電力とを測定するものである。電力計2によって測定された進行波電力Pf3および反射波電力Pr3は、制御装置9に入力される。電力計7は、基準負荷8の入力端eにおいて、インピーダンス変換装置6からの進行波電力と、基準負荷8からの反射波電力とを測定するものである。電力計7によって測定された進行波電力Pf4および反射波電力Pr4は、制御装置9に入力される。本実施形態において、電力計2および電力計7は方向性結合器を用いた電力測定装置であり、後述する基準電力測定装置4と同様の構成となる。なお、電力計2および電力計7は反射波電力Pr3およびPr4がゼロのときの進行波電力Pf3およびPf4を測定するものなので、方向性結合器の方向性が基準電力測定装置4ほど高いものでなくても、測定された進行波電力Pf3およびPf4の測定精度は十分高いものとなる(例えば、±1%以内)。なお、電力計2および電力計7は適切に校正されており、これらが出力する電力測定値は正しい値として出力される。なお、電力計2および電力計7はこれに限られず、進行波電力と反射波電力とを測定する電力測定装置であればよい。
【0052】
反射波電力Pr3および反射波電力Pr4がゼロのとき、高周波電源装置1が出力した電力は反射されることなくインピーダンス変換装置3に入力され、インピーダンス変換装置6が出力する電力は反射されることなく基準負荷8に入力される。このとき、電力計2によって測定された進行波電力Pf3および電力計7によって測定された進行波電力Pf4は、十分高い精度をもって測定されている。また、上述したように、出力端bと入力端dとの間の箇所において測定された進行波電力と反射波電力との差分PLは、電力計2によって測定された進行波電力Pf3と電力計7によって測定された進行波電力Pf4との間にあるはずである。本実施形態では、高周波測定装置5で測定された進行波電力Pf1と反射波電力Pr1との差分(Pf1‐Pr1)が、進行波電力Pf3と進行波電力Pf4との間の範囲に入っているか否かによって、高周波測定装置5の信頼性の評価を行う。
【0053】
インピーダンス変換装置3,6は、インピーダンスを変換するためのものである。インピーダンス変換装置6は、高周波測定装置5が使用されるプラズマ処理装置で生じる実際の複素インピーダンスを再現するためのものであり、高周波測定装置5の入力端cから基準負荷8側を見たインピーダンスが所望の複素インピーダンスとなるように、基準負荷8のインピーダンスを変換するものである。プラズマ処理装置で生じる実際の複素インピーダンスに一定の変化範囲があるので、その変化範囲の複数の代表値を再現できるようにインピーダンス変換装置6には可変リアクタンス素子が含まれ、その可変リアクタンス素子を変化させることで複数の代表値(複素インピーダンス)を再現するようにしている。
【0054】
図3(b)は、インピーダンス変換装置6の一例を示す回路図である。
【0055】
同図(b)に示すように、インピーダンス変換装置6は、インダクタL2と可変リアクタンス素子である可変キャパシタVC3,VC4をL型接続したものである。可変キャパシタVC3,VC4のキャパシタンスC3,C4はステップ状に変化可能になっている。インピーダンス変換装置6は、キャパシタンスC3,C4を変化させることでインピーダンスを変化させ、高周波測定装置5の入力端cから基準負荷8側を見たインピーダンスが所望の複素インピーダンスとなるように、基準負荷8のインピーダンスを変換することができる。
【0056】
複数の複素インピーダンスを再現するためのキャパシタンスC3,C4の調整値は、予めインピーダンスアナライザを用いて以下のように設定さている。まず、図2に示す評価システムAにおいて高周波電源装置1から基準電力測定装置4までを取り外して、高周波測定装置5の入力端cにインピーダンスアナライザを接続する。インピーダンスアナライザの測定値をモニタしながら可変キャパシタVC3,VC4のキャパシタンスC3,C4を変化させる。インピーダンスアナライザの測定値が所望の複素インピーダンスになったときの可変キャパシタVC3,VC4の調整位置(キャパシタンスC3,C4の値)を取得して、インピーダンス変換装置6に設定する。これにより、インピーダンス変換装置6は、所望の複素インピーダンスを再現することができる。
【0057】
インピーダンス変換装置3は、インピーダンス変換装置6で変換された複素インピーダンスを高周波電源装置1に整合させるものであり、高周波電源装置1の出力端aから基準負荷8側を見たインピーダンスが特性インピーダンスとなるように、基準電力測定装置4の入力端bから負荷側を見たインピーダンスを変換するものである。インピーダンス変換装置3には可変リアクタンス素子が含まれ、その可変リアクタンス素子を変化させることで、高周波電源装置1の出力端aから基準負荷8側を見たインピーダンスを特性インピーダンスにする。
【0058】
図3(a)は、インピーダンス変換装置3の一例を示す回路図である。
【0059】
同図(a)に示すように、インピーダンス変換装置3は、インダクタL1と可変リアクタンス素子である可変キャパシタVC1,VC2を逆L型接続したものである。可変キャパシタVC1,VC2のキャパシタンスC1,C2はステップ状に変化可能になっている。インピーダンス変換装置3は、キャパシタンスC1,C2を変化させることでインピーダンスを変化させ、高周波電源装置1の出力端aから基準負荷8側を見たインピーダンスを、特性インピーダンスにすることができる。
【0060】
インピーダンス変換装置3のインダクタL1、可変キャパシタVC1、および可変キャパシタVC2は、それぞれ、インピーダンス変換装置6のインダクタL2、可変キャパシタVC3、および可変キャパシタVC4と共通の素子を使用している。また、同図に示すように、インピーダンス変換装置3では入力側からインダクタL1、可変キャパシタVC1の順で直列接続され、これらより出力側に可変キャパシタVC2が並列接続されているのに対して、インピーダンス変換装置6では出力側からインダクタL2、可変キャパシタVC3の順で直列接続され、これらより入力側に可変キャパシタVC4が並列接続されている。すなわち、インピーダンス変換装置6は、インピーダンス変換装置3の入力側と出力側とを入れ換えたものと考えることができる。これにより、可変キャパシタVC1のキャパシタンスC1および可変キャパシタVC2のキャパシタンスC2をそれぞれ可変キャパシタVC3のキャパシタンスC3および可変キャパシタVC4のキャパシタンスC4に一致させれば、理論的には、高周波電源装置1の出力端aから基準負荷8側を見たインピーダンスを基準負荷8のインピーダンスである特性インピーダンスにすることができる。なお、実際には素子間のばらつきがあるので完全に一致するわけではなく、調整のための目安としている。
【0061】
なお、インピーダンス変換装置3,6の構成はこれに限られず、インピーダンスを変換することができるものであればよい。例えば、可変リアクタンス素子を可変インダクタンスとしてもよい。また、調整の手間を考えなければ、インピーダンス変換装置3の素子の配置とインピーダンス変換装置6の素子の配置とを互いに対称としなくてもよい。
【0062】
基準電力測定装置4は、高周波測定装置5の入力端cにおいて、インピーダンス変換装置3からの進行波電力と、インピーダンス変換装置6からの反射波電力とを測定するものである。基準電力測定装置4によって測定された進行波電力Pf2および反射波電力Pr2は、制御装置9に入力される。
【0063】
図4は、基準電力測定装置4の構成の一例を示す図である。
【0064】
同図に示すように、基準電力測定装置4は、方向性結合器41、電力計42、および電力計43を備えている。方向性結合器41は、進行波と反射波とを分離して、それぞれ出力する。電力計42は終端型電力計であり、方向性結合器41より入力される進行波から進行波電力Pf2を測定して出力する。電力計43も終端型電力計であり、方向性結合器41より入力される反射波から反射波電力Pr2を測定して出力する。なお、電力計42および電力計43は適切に校正されており、これらが出力する電力測定値は正しい値として出力される。なお、上述した電力計2,7も基準電力測定装置4と同様の構成である。
【0065】
基準電力測定装置4によって測定された電力測定値が高周波測定装置5の電力測定値を評価する基準となるので、基準電力測定装置4は測定精度が高いものを使用する必要がある。本実施形態において、基準電力測定装置4の方向性結合器41は、方向性の高い(例えば、−50dB程度)ものを用いている。なお、基準電力測定装置4の構成はこれに限られず、進行波電力と反射波電力とを精度よく測定することができ、不確かさを算出することができる電力測定装置であればよい。
【0066】
一般的に、方向性結合器の不確かさは、下記(6)式によって算出される。方向性結合器を備えた電力測定装置の不確かさは、方向性結合器の不確かさと同一と考えることができる。したがって、基準電力測定装置4の測定値の不確かさは、方向性結合器41の各パラメータを用いて、下記(6)式によって算出される。
【0067】
±FPU=±2×C×ρl×100(%)
±RPU=±200×(A+(A+C)×ρl+(ρs×ρl×ρl))(%)
・・・(6)
±FPU:進行波電力の不確かさ(Forward Power Uncertainty)
±RPU:反射波電力の不確かさ(Reflected Power Uncertainty)
A :方向性結合器の進行波方向性
C :電源から見た方向性結合器の反射係数
ρs :負荷から見た方向性結合器の反射係数
ρl :方向性結合器から見た負荷の反射係数
【0068】
方向性結合器の進行波方向性A、電源からみた方向性結合器の反射係数C、負荷からみた方向性結合器の反射係数ρsは、使用する方向性結合器によって異なり予め定まっている。方向性結合器から見た負荷の反射係数ρlは、インピーダンス変換装置6に所望の複素インピーダンスを設定したときに、ネットワークアナライザを用いて測定される。
【0069】
不確かさが算出されている・電力測定装置の測定値の「真の値」は、測定値と不確かさから算出される不確かさの範囲内にある。例えば、基準電力測定装置4によって進行波電力Pf2が測定された場合、「真の値」は、Pf2・(100−FPU)/100からPf2・(100+FPU)/100の間にあると考えることができる。本実施形態では、高周波測定装置5で測定された進行波電力Pf1および反射波電力Pr1が、それぞれ、基準電力測定装置4で測定された進行波電力Pf2および反射波電力Pr2の不確かさの範囲内に入っているか否かによって、高周波測定装置5の信頼性の評価を行う。なお、不確かさの算出式は、上記(6)式に限定されるものではない。
【0070】
高周波測定装置5は、評価システムAによって信頼性が評価される電力測定装置である。高周波測定装置5は、基準電力測定装置4の出力端cにおいて、インピーダンス変換装置3からの進行波電力と、インピーダンス変換装置6からの反射波電力とを測定する。高周波測定装置5は、いわゆるRFセンサであり、出力端cにおける伝送線路の電圧と電流とを検出して、上記(1)〜(5)式を用いて、進行波電力Pf1および反射波電力Pr1を算出する。高周波測定装置5によって測定された進行波電力Pf1および反射波電力Pr1は、制御装置9に入力される。
【0071】
図5は、高周波測定装置5の構成の一例を示す図である。
【0072】
同図に示すように、高周波測定装置5は、カレントトランス部51、電流用変換回路52、コンデンサ部53、電圧用変換回路54、および電力演算回路55を備えている。カレントトランス部51は、伝送線路56に流れる高周波電流に応じた電流を検出するものであり、検出した電流を電流用変換回路52に出力する。電流用変換回路52は、入力された電流を所定の電流レベルの電流信号iに変換して、電力演算回路55に出力する。コンデンサ部53は、伝送線路56に生じる高周波電圧に応じた電圧を検出するものであり、検出した電圧を電圧用変換回路54に出力する。電圧用変換回路54は、入力された電圧を所定の電圧レベルの電圧信号vに変換して、電力演算回路55に出力する。電力演算回路55は、電流用変換回路52より入力された電流信号iと電圧用変換回路54より入力された電圧信号vとから、位相差θを求めるとともに、電圧実効値V、電流実効値Iを算出する。また、電力演算回路55は、位相差θ、電圧実効値V、および電流実効値Iから、上記(1)〜(5)式を用いて、進行波電力Pf1および反射波電力Pr1を算出して出力する。なお、電流用変換回路52および電圧用変換回路54は適切に校正されており、これらが出力する電流信号iおよび電圧信号vは正しい値として出力される。
【0073】
基準負荷8は、いわゆる無反射終端であり、高周波電源装置1から出力される電力の伝送線路を無反射で終端するためのものである。
【0074】
制御装置9は、評価システムAの制御を行うものである。制御装置9は、電力計2、基準電力測定装置4、高周波測定装置5、および電力計7から、それぞれ、進行波電力と反射波電力の測定値を入力され、高周波測定装置5の信頼性の評価を行って、評価結果を図示しない表示部に表示する。制御装置9は、電力計2から入力される反射波電力Pr3と電力計7から入力される反射波電力Pr4とがゼロになったときに、基準電力測定装置4から入力される進行波電力Pf2と反射波電力Pr2との差分の不確かさの範囲と、電力計2から入力される進行波電力Pf3と電力計7から入力される進行波電力Pf4との間の範囲とで、どちらの範囲が狭いかを判断する。より厳しい方の条件(範囲が狭い方の条件)と高周波測定装置5の電力測定値とを比較することで、高周波測定装置5の信頼性の評価をより厳しく行うためである。
【0075】
進行波電力Pf2と反射波電力Pr2との差分の不確かさの範囲の方が狭い場合、制御装置9は、進行波電力Pf1および反射波電力Pr1が、それぞれ、進行波電力Pf2および反射波電力Pr2の不確かさの範囲内に入っているか否かによって、高周波測定装置5の信頼性の評価を行う。本実施形態では、制御装置9は、進行波電力Pf1が進行波電力Pf2の不確かさの範囲内に入っており、かつ、反射波電力Pr1が反射波電力Pr2の不確かさの範囲内に入っている場合にのみ、高周波測定装置5が信頼できると評価する。なお、信頼性の評価は、これに限られない。例えば、進行波電力Pf1または反射波電力Pr1のいずれかが不確かさの範囲内に入っていれば、信頼できると評価するようにしてもよい。また、進行波電力Pf1が不確かさの範囲内に入っていれば信頼できると評価するようにしてもよいし、反射波電力Pr1が不確かさの範囲内に入っていれば信頼できると評価するようにしてもよい。
【0076】
一方、進行波電力Pf3と進行波電力Pf4との間の範囲の方が狭い場合、制御装置9は、進行波電力Pf1と反射波電力Pr1との差分(Pf1−Pr1)が、進行波電力Pf3と進行波電力Pf4との間の範囲に入っているか否かによって、高周波測定装置5の信頼性の評価を行う。本実施形態では、制御装置9は、差分(Pf1−Pr1)が進行波電力Pf3と進行波電力Pf4との間の範囲に入っている場合にのみ、高周波測定装置5が信頼できると評価する。なお、インピーダンス変換装置3の素子の配置とインピーダンス変換装置6の素子の配置とは互いに対称で各素子として共通の素子を使用しており、対応する可変キャパシタのキャパシタンスも同様のものに調整されているので、インピーダンス変換装置3で消費される電力とインピーダンス変換装置6で消費される電力とは近い値となる。したがって、インピーダンス変換装置3とインピーダンス変換装置6との間に配置されている高周波測定装置5が測定する進行波電力Pf1と反射波電力Pr1との差分(Pf1−Pr1)は、進行波電力Pf3と進行波電力Pf4との中間値に近いものとなる。したがって、差分(Pf1−Pr1)が進行波電力Pf3と進行波電力Pf4との中間値を中心とした所定の範囲内に入っている場合にのみ、高周波測定装置5の測定精度が合格範囲であると評価するようにしてもよい。
【0077】
Pf3とPf4との中間値は(Pf3+Pf4)/2となる。当該中間値とPf3およびPf4との中間値は、それぞれ、(Pf3+(Pf3+Pf4)/2)/2=(3・Pf3+Pf4)/4および((Pf3+Pf4)/2+Pf4)/2=(Pf3+3・Pf4)/4となる。例えば、差分(Pf1−Pr1)がPf3とPf4との中間値(Pf3+Pf4)/2を中心とする(3・Pf3+Pf4)/4から(Pf3+3・Pf4)/4までの範囲に入っている場合にのみ、高周波測定装置5が信頼できると評価するようにしてもよい。
【0078】
なお、進行波電力Pf2と反射波電力Pr2との差分の不確かさの範囲の広さと、進行波電力Pf3と進行波電力Pf4との間の範囲の広さとが同じであった場合は、どちらの方法で評価してもよい。なお、本実施形態においては、後者の方法で評価を行うようにしている。
【0079】
なお、上記(6)式に示すように、方向性結合器から見た負荷の反射係数ρlが小さいほど、進行波電力の不確かさ±FPUおよび反射波電力の不確かさ±RPUの絶対値が小さくなり、不確かさの範囲が狭くなる。したがって、信頼性の評価を厳しく行う場合は、反射係数の小さい負荷を用いるようにすればよい。また、インピーダンス変換装置3およびインピーダンス変換装置6の消費電力が小さい場合、進行波電力Pf3と進行波電力Pf4との差が小さくなり、進行波電力Pf3と進行波電力Pf4との間の範囲が狭くなる。したがって、信頼性の評価を厳しく行う場合は、インピーダンス変換装置3およびインピーダンス変換装置6の消費電力が小さくなるように、すなわち、高周波電源装置1の出力電力を小さくしたり、流れる電流が小さくなるようにすればよい。
【0080】
次に、高周波測定装置5の信頼性の評価を行う手順について、図6に示すフローチャートを参照して説明する。
【0081】
図6は、第1実施形態に係る評価方法の手順を説明するためのフローチャートである。当該フローチャートは、製造された高周波測定装置5の検査工程において、図2に示す評価システムAを用いて高周波測定装置5の信頼性の評価を行う場合の制御装置9が行う処理手順を示している。
【0082】
上述したように、インピーダンス変換装置6が所望の複素インピーダンスを再現するためのキャパシタンスC3,C4の調整値は、予め設定さている。まず、図2に示す評価システムAにおいて、インピーダンス変換装置6の可変キャパシタVC3,VC4の調整位置を設定された位置に調整(キャパシタンスC3,C4を設定された調整値に調整)して、高周波測定装置5の入力端cから基準負荷8側を見たインピーダンスを所望の複素インピーダンスに設定し(S1)、高周波電源装置1を起動させる(S2)。次に、インピーダンス変換装置3の可変キャパシタVC1,VC2の調整位置を調整して、高周波電源装置1の出力端aから基準負荷8側を見たインピーダンスを特性インピーダンスに調整する(S3)。当該調整は、電力計2が測定する反射波電力Pr3および電力計7が測定する反射波電力Pr4がゼロになるように、可変キャパシタVC1,VC2の調整位置を調整することで行う。なお、当該調整のための動作を、以下の記載および図6のフローチャートにおいて、「整合動作」としている。
【0083】
整合動作が完了したとき、すなわち、反射波電力Pr3および反射波電力Pr4がゼロになったときに、高周波測定装置5によって測定された進行波電力Pf1および反射波電力Pr1と基準電力測定装置4によって測定された進行波電力Pf2および反射波電力Pr2とを制御装置9内のメモリ(図示せず)に記録する(S4)。次に、予め算出されている基準電力測定装置4の不確かさ(進行波電力の不確かさ±FPUおよび反射波電力の不確かさ±RPU)と、進行波電力Pf2および反射波電力Pr2とから、進行波電力Pf2および反射波電力Pr2の不確かさの範囲をそれぞれ算出する(S5)。Pf2・(100−FPU)/100からPf2・(100+FPU)/100の間の範囲が進行波電力Pf2の不確かさの範囲として算出され、Pr2・(100−RPU)/100からPr2・(100+RPU)/100の間の範囲が反射波電力Pr2の不確かさの範囲として算出される。また、このとき、進行波電力Pf2と反射波電力Pr2との差分の不確かさの範囲としてPf2・(100−FPU)/100−Pr2・(100+RPU)/100からPf2・(100+FPU)/100−Pr2・(100−RPU)/100の間の範囲が算出される。
【0084】
また、整合動作が完了したとき、電力計2によって測定された進行波電力Pf3と電力計7によって測定された進行波電力Pf4とを制御装置9内のメモリに記録する(S6)。なお、ステップS6の順番はステップS5の後に限られず、ステップS4の前であってもよいし、ステップS4とステップS5との間であってもよい。
【0085】
次に、ステップS5で算出された進行波電力Pf2と反射波電力Pr2との差分の不確かさの範囲とステップS6で記録された進行波電力Pf3と進行波電力Pf4との間の範囲とで、どちらの範囲が狭いかを判断する(S7)。具体的には、進行波電力Pf2と反射波電力Pr2との差分の不確かさの範囲の広さと、進行波電力Pf3と進行波電力Pf4との差とを比較して判断する。進行波電力Pf2と反射波電力Pr2との差分の不確かさの範囲の広さは、Pf2・(100+FPU)/100−Pr2・(100−RPU)/100−{Pf2・(100−FPU)/100−Pr2・(100+RPU)/100}=Pf2・FPU・(1/50)+Pr2・RPU・(1/50)となる。例えば、±FPU=±RPU=±5%の場合、進行波電力Pf2と反射波電力Pr2との差分の不確かさの範囲の広さは、Pf2・(1/10)+Pr2・(1/10)となる。進行波電力Pf2と反射波電力Pr2との差分の不確かさの範囲の広さが進行波電力Pf3と進行波電力Pf4との差より小さい場合、進行波電力Pf2と反射波電力Pr2との差分の不確かさの範囲が進行波電力Pf3と進行波電力Pf4との間の範囲より狭いと判断される。
【0086】
進行波電力Pf2と反射波電力Pr2との差分の不確かさの範囲が進行波電力Pf3と進行波電力Pf4との間の範囲より狭いと判断した場合(S7:YES)、進行波電力Pf1が進行波電力Pf2の不確かさの範囲内に入っており、かつ、反射波電力Pr1が反射波電力Pr2の不確かさの範囲内に入っているか否かを判断する(S8)。進行波電力Pf1と反射波電力Pr1とがどちらも不確かさの範囲内に入っている場合(S8:YES)、当該高周波測定装置5を信頼できると評価し、制御装置9の図示しない表示部に検査合格の旨を表示する(S9)。この場合、当該高周波測定装置5を良品として次の工程に進める。一方、進行波電力Pf1と反射波電力Pr1のいずれかが不確かさの範囲内に入っていない場合(S8:NO)、当該高周波測定装置5を信頼できないと評価し、表示部に検査不合格の旨を表示する(S10)。この場合、当該高周波測定装置5は不良品として再度校正を行うなどの処理がなされる。
【0087】
進行波電力Pf2と反射波電力Pr2との差分の不確かさの範囲が進行波電力Pf3と進行波電力Pf4との間の範囲より狭くないと判断した場合(S7:NO)、進行波電力Pf1と反射波電力Pr2との差分(Pf1−Pr1)が、進行波電力Pf3と進行波電力Pf4との間の範囲に入っているか否かを判断する(S11)。差分(Pf1−Pr1)が進行波電力Pf3と進行波電力Pf4との間の範囲に入っている場合、すなわち、Pf3>(Pf1−Pr1)>Pf4が成立する場合(S11:YES)、当該高周波測定装置5を信頼できると評価し、表示部に検査合格の旨を表示する(S12)。一方、差分(Pf1−Pr1)が進行波電力Pf3と進行波電力Pf4との間の範囲に入っていない場合(S11:NO)、当該高周波測定装置5を信頼できないと評価し、表示部に検査不合格の旨を表示する(S13)。
【0088】
なお、上記では1つの複素インピーダンスを再現して、当該複素インピーダンスの負荷に接続されたときの高周波測定装置5の測定値の信頼性だけで、当該高周波測定装置5の信頼性を評価しているが、これに限られない。複数の複素インピーダンスを再現してそれぞれ判断を行なった上で、高周波測定装置5の信頼性を評価するようにしてもよい。すなわち、ステップS8またはステップS11の判断の後、ステップS1に戻って異なる負荷を設定し、高周波測定装置5の測定値の信頼性を判断するということを複数回繰り返すようにしてもよい。この場合、すべての判断で高周波測定装置5の測定値が信頼できると判断された場合にのみ、当該高周波測定装置5が信頼できると評価するようにしてもよいし、高周波測定装置5の測定値が信頼できると判断された回数が所定回数以上の場合に、当該高周波測定装置5が信頼できると評価するようにしてもよい。
【0089】
なお、上記では各手順をあらかじめ制御装置9に設定しておいて、制御装置9が各手順を自動で行う場合について説明したが、これに限られない。各手順を作業者が手動で行うようにしてもよい。また、一部の手順を作業者が手動で行って、その他の手順を制御装置9が自動で行うようにしてもよい。
【0090】
なお、製造時の検査工程以外でも、同図に示すフローチャートと同様の手順で、高周波測定装置5の信頼性の評価を行うことができる。
【0091】
上記のように、高周波測定装置5の入力端cから基準負荷8側を見たインピーダンスが所望の複素インピーダンスとなるようにインピーダンス変換装置6をあらかじめ設定しておけば、実際に使用されるプラズマ処理装置などに高周波測定装置5を接続した状態を再現することができる。この再現された状態で、高周波測定装置5によって測定された進行波電力Pf1および反射波電力Pr1が、それぞれ、基準電力測定装置4によって測定された進行波電力Pf2および反射波電力Pr2の不確かさの範囲内に入っているか否かで、高周波測定装置5の信頼性の評価が行われる。すなわち、進行波電力Pf1および反射波電力Pr1がともに不確かさの範囲内に入っている場合にのみ、当該高周波測定装置5が信頼できると評価される。したがって、特性インピーダンス以外の負荷に使用される高周波測定装置5の信頼性を評価することができる。これにより、高周波測定装置5によって測定される電力測定値が信頼できるものであることを保証することができる。また、高周波測定装置5の製造時に当該高周波測定装置5の信頼性を評価することで、不良品の検査を好適に行うことができる。
【0092】
また、電力計2から入力される反射波電力Pr3と電力計7から入力される反射波電力Pr4とがゼロになったときに、基準電力測定装置4から入力される進行波電力Pf2と反射波電力Pr2との差分の不確かさの範囲と、電力計2から入力される進行波電力Pf3と電力計7から入力される進行波電力Pf4との間の範囲とで、どちらの範囲が狭いかを判断する。進行波電力Pf2と反射波電力Pr2との差分の不確かさの範囲の方が狭い場合、進行波電力Pf1および反射波電力Pr1がそれぞれ不確かさの範囲内に入っているか否かで評価を行い、進行波電力Pf3と進行波電力Pf4との間の範囲の方が狭い場合、進行波電力Pf1と反射波電力Pr1との差分(Pf1−Pr1)が進行波電力Pf3と進行波電力Pf4との間の範囲に入っているか否かで評価を行う。したがって、より厳しい方の条件で、高周波測定装置5の信頼性の評価が行われる。これにより、高周波測定装置5によって測定される電力測定値の精度を、より高い基準で保証することができる。また、製造された高周波測定装置5の不良品の検査を、より厳しく行うことができる。
【0093】
なお、上記実施形態では、高周波測定装置5の信頼性を評価する場合について説明したが、これに限られない。本発明は、高周波測定装置5以外の電力測定装置(例えば、方向性結合器を備える電力測定装置など)の信頼性も評価することができる。この場合は、図1に示す評価システムAにおいて、高周波測定装置5に代えて信頼性を評価したい電力測定装置を配置し、図6に示すフローチャートにしたがって評価を行えばよい。
【0094】
なお、上記実施形態では、進行波電力Pf2と反射波電力Pr2との差分の不確かさの範囲が進行波電力Pf3と進行波電力Pf4との間の範囲より狭いか否かで、信頼性の評価の仕方を異なるようにしていたが、これに限られない。例えば、進行波電力Pf2の不確かさの範囲または反射波電力Pr2の不確かさの範囲を進行波電力Pf3と進行波電力Pf4との間の範囲と比較するようにしてもよいし、進行波電力Pf2の不確かさの範囲および反射波電力Pr2の不確かさの範囲の両方を進行波電力Pf3と進行波電力Pf4との間の範囲と比較するようにしてもよい。
【0095】
また、両範囲の比較を行なうことなく、差分(Pf1−Pr1)が進行波電力Pf3と進行波電力Pf4との間の範囲に入っているか否かによって、高周波測定装置5の信頼性の評価を行うようにしてもよい。すなわち、図6に示すフローチャートにおいてステップS7を省略して、ステップS6からステップS11に進むようにしてもよい。この場合、評価システムAの構成から基準電力測定装置4を省略することができる。逆に、両範囲の比較を行なうことなく、進行波電力Pf1および反射波電力Pr1が、それぞれ、進行波電力Pf2および反射波電力Pr2の不確かさの範囲内に入っているか否かによって、高周波測定装置5の信頼性の評価を行うようにしてもよい。この場合、進行波電力Pf3と進行波電力Pf4とを測定する必要がないので、評価システムAをより簡略化することができる。以下に、評価システムAをより簡略化した評価システムA’を用いて高周波測定装置5の信頼性の評価を行う場合を第2実施形態として説明する。
【0096】
図7は、本発明に係る電力測定装置の信頼性の評価方法の第2実施形態を実施するための評価システムA’を説明するための構成図である。なお、同図において、図1に示す評価システムAと同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0097】
第1実施形態に係る評価方法は、図1で説明したように、基準電力測定装置Yの電力測定値の不確かさの範囲と、高周波電源Eの出力電力Pf3と終端抵抗Roへの入力電力Pf4で挟まれる電力測定範囲の2つの評価基準のうち、より厳しい評価基準を用いて高周波測定装置Xの信頼性を評価する方法であるが、第2実施形態に係る評価方法は、基準電力測定装置Yの電力測定値の不確かさの範囲の評価基準だけを用いて高周波測定装置Xの信頼性を評価する方法である。
【0098】
第2実施形態に係る評価方法では、高周波電源Eの出力電力Pf3と終端抵抗Roへの入力電力Pf4を測定しないので、評価システムの構成はその分簡単にすることができる。その意味では、第2実施形態に係る評価方法は、第1実施形態に係る評価方法に対して簡易型の評価方法ということができる。
【0099】
図7に示す評価システムA’は、電力計2,7およびインピーダンス変換装置3を省略した点と、制御装置9’の機能を簡略化した点とで、図2に示す評価システムAと異なる。
【0100】
制御装置9’は、評価システムA’の制御を行うものである。制御装置9’は、基準電力測定装置4および高周波測定装置5から、それぞれ、進行波電力と反射波電力の測定値を入力され、高周波測定装置5の信頼性の評価を行って、評価結果を図示しない表示装置に表示する。制御装置9’は、基準電力測定装置4によって測定された進行波電力Pf2および反射波電力Pr2からそれぞれの不確かさの範囲を算出し、高周波測定装置5によって測定された進行波電力Pf1および反射波電力Pr1が、それぞれ、進行波電力Pf2および反射波電力Pr2の不確かさの範囲内に入っているか否かによって、高周波測定装置5の信頼性の評価を行う。本実施形態では、制御装置9’は、進行波電力Pf1が進行波電力Pf2の不確かさの範囲内に入っており、かつ、反射波電力Pr1が反射波電力Pr2の不確かさの範囲内に入っている場合にのみ、高周波測定装置5を信頼できると評価する。なお、信頼性の評価は、これに限られない。例えば、進行波電力Pf1または反射波電力Pr1が不確かさの範囲内に入っていれば、信頼できると評価するようにしてもよい。また、進行波電力Pf1が不確かさの範囲内に入っていれば信頼できると評価するようにしてもよいし、反射波電力Pr1が不確かさの範囲内に入っていれば信頼できると評価するようにしてもよい。
【0101】
次に、評価システムA’を用いて高周波測定装置5の測定精度の評価方法を行う手順について、図8に示すフローチャートを参照して説明する。
【0102】
高周波測定装置5の信頼性の評価を行う前に、インピーダンス変換装置6が所望の複素インピーダンスを再現できるように、あらかじめ設定を行う必要がある。この設定の方法は、評価システムAの場合と共通するので、説明を省略する。
【0103】
まず、図7に示す評価システムA’において、インピーダンス変換装置6の可変キャパシタVC3,VC4の調整位置を設定された位置に調整して、高周波測定装置5の入力端cから基準負荷8側を見たインピーダンスを所望の複素インピーダンスに設定し(S21)、高周波電源装置1を起動させる(S22)。次に、高周波測定装置5によって測定された進行波電力Pf1および反射波電力Pr1と基準電力測定装置4によって測定された進行波電力Pf2および反射波電力Pr2とを制御装置9'内のメモリ(図示せず)に記録する(S23)。次に、予め算出されている基準電力測定装置4の不確かさ(進行波電力の不確かさ±FPUおよび反射波電力の不確かさ±RPU)と、進行波電力Pf2および反射波電力Pr2とから、進行波電力Pf2および反射波電力Pr2の不確かさの範囲を算出する(S24)。
【0104】
次に、進行波電力Pf1が進行波電力Pf2の不確かさの範囲内に入っており、かつ、反射波電力Pr1が反射波電力Pr2の不確かさの範囲内に入っているか否かを判断する(S25)。進行波電力Pf1と反射波電力Pr1がどちらも不確かさの範囲内に入っている場合(S25:YES)、当該高周波測定装置5を信頼できると評価し、制御装置9'の図示しない表示部に検査合格の旨を表示する(S26)。この場合、当該高周波測定装置5を良品として次の工程に進める。一方、進行波電力Pf1と反射波電力Pr1のいずれかが不確かさの範囲内に入っていない場合(S25:NO)、当該高周波測定装置5を信頼できないと評価し、表示部に検査不合格の旨を表示する(S27)。この場合、当該高周波測定装置5は不良品として再度校正を行うなどの処理がなされる。
【0105】
なお、上記では1つの複素インピーダンスを再現して、当該複素インピーダンスの負荷に接続されたときの高周波測定装置5の測定値の信頼性だけで、当該高周波測定装置5の信頼性を評価しているが、これに限られない。複数の複素インピーダンスを再現してそれぞれ判断を行なった上で、高周波測定装置5の信頼性を評価するようにしてもよい。すなわち、ステップS25の判断の後、ステップS21に戻って異なる負荷を設定し、高周波測定装置5の測定値の信頼性を判断するということを複数回繰り返すようにしてもよい。この場合、すべての判断で高周波測定装置5の測定値が信頼できると判断された場合にのみ、当該高周波測定装置5が信頼できると評価するようにしてもよいし、高周波測定装置5の測定値が信頼できると判断された回数が所定回数以上の場合に、当該高周波測定装置5が信頼できると評価するようにしてもよい。
【0106】
なお、上記では各手順をあらかじめ制御装置9’に設定しておいて、制御装置9’が各手順を自動で行う場合について説明したが、これに限られない。各手順を作業者が手動で行うようにしてもよい。また、一部の手順を作業者が手動で行って、その他の手順を制御装置9’が自動で行うようにしてもよい。
【0107】
第2実施形態においても、特性インピーダンス以外の負荷に使用される高周波測定装置5の信頼性を評価することができる。また、評価システムAに比べて、評価システムA’は構成部材の少ない簡易なシステムとすることができ、第1実施形態の場合より簡単な方法で高周波測定装置5の電力測定値の精度を評価することができる。
【0108】
方向性結合器から見た負荷の反射係数ρlが小さい場合、上記(6)式より、進行波電力の不確かさ±FPUおよび反射波電力の不確かさ±RPUの絶対値が小さくなり、不確かさの範囲が狭くなる。したがって、不確かさの範囲内に入るか否かの判断のみであっても十分適切に評価することができる。したがって、反射係数ρlの小さい負荷に用いられる高周波測定装置5の電力測定値の精度を評価する場合は、より簡易な第2実施形態が適している。逆に、負荷の反射係数ρlが大きい場合、不確かさの範囲が広くなる。したがって、より厳しい方の条件で評価を行う第1実施形態が適している。また、負荷の反射係数ρlが大きい場合、第2実施形態だと負荷からの反射波電力が大きくなるので、高周波電源装置1の反射波電力に対する許容範囲によって、出力電力の範囲が制限される。したがって、インピーダンス変換装置3からの反射波電力がゼロに調整されて高周波電源装置1の出力電力の範囲が制限されない第1実施形態が適している。
【0109】
本発明に係る電力測定装置の信頼性の評価方法は、上述した実施形態に限定されるものではない。また、本発明に係る評価方法のための評価システムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0110】
A,A’ 評価システム
1 高周波電源装置
2 電力計(第2の電力測定装置)
3 インピーダンス変換装置(第2のインピーダンス変換装置)
4 基準電力測定装置
5 高周波測定装置(評価対象の電力測定装置)
6 インピーダンス変換装置(第1のインピーダンス変換装置、擬似負荷再現装置)
7 電力計(第1の電力測定装置)
8 基準負荷
9,9’ 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波電源装置とこの高周波電源装置から高周波電力が供給される複素インピーダンスを有する負荷との間に接続され、当該接続点における前記高周波電力を測定する電力測定装置の信頼性を所定の評価システムを用いて評価する評価方法であって、
前記高周波電源装置から出力される高周波電力の伝送線路を前記負荷を擬似的に再現する擬似負荷再現装置で終端し、前記高周波電源装置と前記擬似負荷再現装置との間に、評価対象の電力測定装置と電力測定値の不確かさが算出可能な基準電力測定装置とを配置して前記評価システムを構成し、
前記基準電力測定装置によって測定される電力測定値と前記基準電力測定装置の不確かさとから所定の演算式により当該電力測定値の不確かさの範囲を算出し、
前記評価対象の電力測定装置によって測定される電力測定値が前記基準電力測定装置の電力測定値の不確かさの範囲内であるか否かを判別し、
前記評価対象の電力測定装置の電力測定値が前記基準電力測定装置の電力測定値の不確かさの範囲内にあれば、前記評価対象の電力測定装置が信頼できると評価する、
ことを特徴とする、電力測定装置の信頼性の評価方法。
【請求項2】
前記評価対象の電力測定装置と前記基準電力測定装置の電力測定値には、前記高周波電源装置から前記擬似負荷再現装置に伝送する進行波電力の測定値と前記擬似負荷再現装置から前記高周波電源装置に伝送する反射波電力の測定値とが含まれ、
前記進行波電力と前記反射波電力についてそれぞれ前記評価対象の電力測定装置の電力測定値が前記基準電力測定装置の電力測定値の不確かさの範囲内であるか否かを判別することにより前記評価対象の電力測定装置の信頼性を評価する、
請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記擬似負荷再現装置は可変リアクタンス素子を有し、その可変リアクタンス素子のリアクタンス値を調整することにより複数の複素インピーダンスを設定することができる、請求項1または2に記載の評価方法。
【請求項4】
高周波電源装置とこの高周波電源装置から高周波電力が供給される複素インピーダンスを有する負荷との間に接続され、当該接続点における前記高周波電力を測定する電力測定装置の信頼性を所定の評価システムを用いて評価する評価方法であって、
前記高周波電源装置から出力される高周波電力の伝送線路を当該伝送線路の特性インピーダンスと同一のインピーダンスを有する基準負荷で終端し、前記伝送線路上に評価対象の電力測定装置と電力測定値の不確かさが算出可能な基準電力測定装置とを配置し、さらに前記評価対象の電力測定装置および前記基準電力測定装置の後段に前記基準負荷側を見たインピーダンスが前記複素インピーダンスとなるようにインピーダンス変換を行なう第1のインピーダンス変換装置を配置するとともに当該第1のインピーダンス変換装置と前記基準負荷の間に当該基準負荷に入力される電力を測定する第1の電力測定装置を配置し、前記評価対象の電力測定装置および前記基準電力測定装置の前段に前記基準負荷側を見たインピーダンスが前記特性インピーダンスとなるようにインピーダンス変換を行なう第2のインピーダンス変換装置を配置するとともに当該第2のインピーダンス変換装置と前記高周波電源装置の間に当該高周波電源装置から出力される電力を測定する第2の電力測定装置を配置して前記評価システムを構成し、
前記基準電力測定装置によって測定される電力測定値と前記基準電力測定装置の不確かさとから所定の演算式により当該電力測定値の不確かさの範囲を算出するとともに、前記第1の電力測定装置によって測定される電力測定値と前記第2の電力測定装置によって測定される電力測定値とに基づく所定の電力測定範囲を算出し、
前記評価対象の電力測定装置によって測定される電力測定値と、前記基準電力測定装置の電力測定値の不確かさの範囲と、前記所定の電力測定範囲とに基づいて、前記評価対象の電力測定装置の信頼性を評価する、
ことを特徴とする、電力測定装置の信頼性の評価方法。
【請求項5】
前記所定の電力測定範囲は、前記第1の電力測定装置の電力測定値と前記第2の電力測定装置の電力測定値との間の範囲である、請求項4に記載の評価方法。
【請求項6】
前記所定の電力測定範囲は、前記第1の電力測定装置の電力測定値と前記第2の電力測定装置の電力測定値との中間値を中心とする所定の範囲である、請求項4に記載の評価方法。
【請求項7】
前記基準電力測定装置の電力測定値の不確かさの範囲が前記所定の電力測定範囲よりも狭いか否かを判別し、
前記不確かさの範囲が前記所定の電力測定範囲よりも狭い場合、前記評価対象の電力測定装置の電力測定値が前記基準電力測定装置の電力測定値の不確かさの範囲内にあれば、前記評価対象の電力測定装置が信頼できると評価し、
前記不確かさの範囲が前記所定の電力測定範囲よりも狭くない場合、前記評価対象の電力測定装置の電力測定値である前記基準負荷側に伝送される進行波電力の測定値と前記高周波電源装置側に伝送される反射波電力の測定値との差が前記所定の電力測定範囲の範囲内にあれば、前記評価対象の電力測定装置が信頼できると評価する、
請求項4ないし6のいずれかに記載の評価方法。
【請求項8】
前記基準電力測定装置は方向性結合器を備え、当該方向性結合器で分離された進行波電力と反射波電力をそれぞれ測定する、請求項1ないし7のいずれかに記載の評価方法。
【請求項9】
前記基準電力測定装置の進行波電力測定値の不確かさの範囲FPWと反射波電力測定値の不確かさの範囲RPWは、下記の演算式で算出される、請求項8に記載の評価方法。
FPW=Pf×(100−FPU)/100〜Pf×(100+FPU)/100
RPW=Pr×(100−RPU)/100〜Pr×(100+RPU)/100
但し、
Pf:進行波電力測定値
Pr:反射波電力測定値
±FPU:進行波電力の不確かさ(Forward Power Uncertainty)
±RPU:反射波電力の不確かさ(Reflected Power Uncertainty)
FPU=2×C×ρl×100(%)
RPU=200×(A+(A+C)×ρl+(ρs×ρl×ρl))(%)
A :前記方向性結合器の進行波方向性
C :前記高周波電源装置側から見た前記方向性結合器の反射係数
ρs :前記負荷側から見た前記方向性結合器の反射係数
ρl :前記方向性結合器から見た前記負荷の反射係数
【請求項10】
前記評価対象の電力測定装置は高周波電圧と高周波電流を測定し、これらの測定値から高周波電圧と高周波電流の位相差、インピーダンス、反射係数、進行波電力および反射波電力の少なくとも1つを算出する高周波測定装置である、請求項1ないし9のいずれかに記載の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−196901(P2011−196901A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65652(P2010−65652)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)