説明

電力用ガス絶縁機器および電力用ガス絶縁機器の絶縁ガスの充填または排気方法

【課題】電力用ガス絶縁機器をメンテナンスする際の絶縁ガスの充填時または排気時に過大な差圧が生じないようにしてコンパクトな電力用ガス絶縁機器を提供する。
【解決手段】密閉容器2内に高電圧部位を格納するとともに絶縁ガス7を充填した電力用ガス絶縁機器1において、密閉容器2内を絶縁スペーサ14によって複数個に区分されたガス区画のうち、隣接するガス区画30、30に対して共通のガス給排路18から分岐された各ガス配管18、18をそれぞれ接続し、分岐されたガス配管18、18相互間の差圧が予め定めた基準値を超えると動作する差圧検知器21を設けるとともに、この差圧検出器21の指令によって前記各ガス配管を開路または閉路する切替弁20を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力用ガス絶縁機器および電力用ガス絶縁機器の絶縁ガスの充填または排気方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統の送配電・変電システムにおいては、高電圧の絶縁媒体として六弗化硫黄ガス(以下、SFガスという)を利用したガス絶縁開閉装置(GIS)、ガス遮断器、ガス断路器、ガス絶縁変圧器、ガス絶縁送電管などの様々な機器が使用されている。これらの機器においては、SFガスを高電圧絶縁媒体として機能させるだけではなく、通電時の発熱を対流により冷却する冷却媒体として機能させる他、ガス遮断器、ガス断路器など電流開閉を伴う機器においては、開閉動作時に発生するアーク放電を消滅させる消弧媒体としても機能させている。
【0003】
SFガスは非常に安定した不活性なガスであり、無毒、不燃性であると同時に、電気絶縁性能、および放電を消滅させる性能(以下、消弧性能)に極めて優れたガスであり、送配電・変電機器の高性能化、コンパクト化に大きく寄与している。
【0004】
図8に電力用ガス絶縁機器の一例として、主に高電圧系統において事故電流を遮断するために使用されている従来のパッファ形ガス遮断器の断面構造図を示す。なお、図8は電流遮断動作中の状態を示す。
【0005】
図8において、1はパッファ形ガス遮断器であり、接地された円筒形状の金属性密閉容器2の内部にそれぞれ碍子製の絶縁支持物3、4によって支持されるガス遮断器の固定部5および可動部6を対向配置して収納するとともに、電気絶縁媒体およびアーク消弧媒体として機能する例えばSFガス7を充填している。なお、ガス遮断器の固定部5および可動部6の対をガス遮断器の消弧部という。
【0006】
固定部5は、固定通電部5a、固定アーク接触子5b等で構成され、一方、可動部6は絶縁ノズル6a、可動アーク接触子6b、通電接触子6c、パッファシリンダ6dが、駆動ロッド6eに取り付けられて構成され、固定部5に対して移動可能になっている。
可動部6は、駆動ロッド6eが図示されていない絶縁操作棒を介して駆動装置8内の可動部に連結されることによって移動可能になっている。
【0007】
固定アーク接触子5bおよび可動アーク接触子6bは、ガス遮断器の投入時では接触導通状態にあり、遮断動作時においては相対移動により開離するとともに、両接触子5b、6b間に遮断アーク放電11が発生するよう構成されている。したがって、絶縁ノズル6aは耐アーク性の高い絶縁物であるポリテトラフルオロエチレンを主体に構成されることが多い。
【0008】
さらに、上記の動作とともに、固定されているピストン10がパッファシリンダ6dの内部空間を圧縮して同部の圧力を上昇させる。そして、パッファシリンダ6d内に存在するSFガス7が高圧力のガス流となり、ノズル6aによって整流されアーク接触子5b、6b間に発生したアーク放電11に対して強力に吹付けられる。
【0009】
これにより、アーク接触子5b、6b間に発生した導電性のアーク放電11は消滅し電流は遮断される。アーク放電11に吹付けられたガスはガス流12となり固定部5内部を通過し、密閉容器2内に放散される。
【0010】
そして、固定部5および可動部6には、母線等の外部機器と接続するために導体13がそれぞれ接続されている。14は、導体13を絶縁支持すると同時に、ガス遮断器1の密閉容器2と絶縁母線15の密閉容器2とを気密に区分する絶縁スペーサである。なお、9は可動部6および密閉容器2間に流れる事故放電を表す。
【0011】
ところで前述したとおり、SFガスは特に高電圧用の送配電・変電用機器において非常に適したガスといえるが、高い地球温暖化作用を有することが知られており、近年その使用量の削減が望まれている。因みに、地球温暖化作用の大きさは一般に地球温暖化係数(WGP)、すなわち炭酸ガス(以下、COガスという)を1とした場合の相対値により表され、SFガスの地球温暖化係数(WGP)は23,900に及ぶことが知られている。
【0012】
このようなことから、近年では送配電・変電用機器に使用される絶縁ガスとしてSFの代わりに地球温暖化係数(WGP)の小さなガス、例えばCOガスの適用を提案している先行技術文献がある。先行技術文献によれば、COガスは地球温暖化作用がSFガスに比べて23,900分の1と非常に小さいため、COガスをSFガスの代わりに送配電・変電用機器に適用することで、地球温暖化への影響を大幅に抑制することが可能であること、そして、COガスだけでなく、空気や窒素などのガスをSF代替ガスとして、それぞれ単体あるいは複数の混合ガスとして適用することも提案されている。
【0013】
しかしながら、高電圧送変電機器の絶縁および消弧媒体として、SFガスの代替ガスを用いた場合、SFに比べて絶縁破壊電圧が低いために、機器の大形化が余儀なくされる。もし、代替ガス絶縁機器の小形化を計る場合には、機器全体あるいは高電圧印加部などを部分的にSFガスの場合よりも高いガス圧にし、絶縁破壊電界を大きくすることが必要となる。例えば、ガス絶縁機器に0.8MPa程度の高いガス圧力を封入することも提案されている。
【0014】
また、電気絶縁の厳しい部分の絶縁および消弧性能を高めるために、その部分のガス圧やガス種類を他の部分と区分することも提案されている。例えば、図9のように、密閉容器2の内部にガス遮断器1の消弧部(固定部5および可動部6)を収容する絶縁容器16をさらに設置し、この絶縁容器16の内部に密封した絶縁ガス7aのガス圧をその周囲の絶縁ガス7のガス圧よりも高くした提案もなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2000−67716公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】内井、河野、中本、溝口、「消弧媒体としてのCO2ガスの基礎特性と実規模モデル遮断器による熱的遮断性能の検証」、電気学会論文B、124巻、3号、pp.469〜475、2004年
【非特許文献2】五島、新開、河本、藤波、「SF6代替ガスによるハイブリッド絶縁方式を用いた機器断面の所要寸法評価」、電気学会 電力・エネルギー部門大会(分冊B)、pp.167〜168、2003年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、図8におけるガス絶縁遮断器1とガス絶縁母線15とを区分する絶縁スペーサ14は、通常エポキシ樹脂等の絶縁物で製作されているため、送変電機器で使用されている他の金属部品と比べて耐圧力強度を高めることが難しい。例えば、メンテナンス時に絶縁スペーサ14を境にして一方のガス区画を真空状態にし、他方のガス区画に高圧ガスを充填するような場合、両側のガス区画の差圧に対して絶縁スペーサ14が耐え得るように設計する必要があるが、その分ガス絶縁機器の大型化およびコスト高を招く可能性がある。
【0018】
また、図9のようにガス遮断器の消弧部(固定部5および可動部6)のみを更に絶縁容器16で囲繞して周りのガス区画とは別区画とし、絶縁容器16内に窒素ガスや炭酸ガスあるいはそれらの混合ガス等のSF代替ガスを用いた場合には絶縁容器16内部を高圧力にせざるを得ない上に、ガス遮断器のメンテナンス時に絶縁容器16の周りの密閉容器2内のガス圧力が排気等で低くなった場合には上述した絶縁スペーサ14の例と同様に絶縁容器16にも高い耐圧力構造が要求さる。これによりガス絶縁機器の大型化およびコスト高を招く可能性がある。
【0019】
そこで本発明の実施形態は、上記の課題に鑑みて、電力用ガス絶縁機器をメンテナンスする際の絶縁ガスの充填時または排気時に過大な差圧が生じないようにしてコンパクトな電力用ガス絶縁機器および電力用ガス絶縁機器の絶縁ガスの充填または排気方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の目的を達成するため、電力用ガス絶縁機器の実施形態は、密閉容器内に高電圧部位を格納するとともに絶縁ガスを充填し、前記高電圧部位と前記密閉容器間の電気絶縁を前記絶縁ガスで行うようにした電力用ガス絶縁機器において、前記密閉容器内を絶縁スペーサによって複数個に区分されたガス区画のうち、隣接するガス区画に対して共通のガス給排路から分岐された各ガス配管をそれぞれ接続し、前記分岐されたガス配管相互間の差圧が予め定めた基準値を超えると動作する差圧検知手段を設けるとともに、当該差圧検出手段の指令によって前記各ガス配管を開路または閉路する弁を設けたことを特徴とする。
【0021】
また、電力用ガス絶縁機器の絶縁ガスの充填または排気方法の実施形態は、密閉容器内に高電圧部位を格納するとともに絶縁ガスを充填し、前記高電圧部位と前記密閉容器間の電気絶縁を前記絶縁ガスで行うようにした電力用ガス絶縁機器の絶縁ガスの充填または排気方法おいて、前記密閉容器内を絶縁スペーサによって複数個に区分されたガス区画のうち、隣接するガス区画に対して共通のガス給排路から分岐された各ガス配管をそれぞれ接続し、前記分岐されたガス配管相互間の差圧が予め定めた基準値を超えると動作する差圧検知手段を設けるとともに、当該差圧検出手段の指令によって前記各ガス配管を開路または閉路する弁を設け、絶縁ガスの充填時または排気時に前記ガス配管相互間の差圧が予め定めた基準値を超えるとガス管路を閉路し、前記ガス配管相互間の差圧が予め定めた基準値を下回るとガス管路を開路することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態1による電力用ガス絶縁機器の断面構成図。
【図2】本発明の実施形態2による電力用ガス絶縁機器の断面構成図。
【図3】本発明の実施形態3による電力用ガス絶縁機器の断面構成図。
【図4】本発明の実施形態4による電力用ガス絶縁機器の断面構成図。
【図5】本発明の実施形態5による電力用ガス絶縁機器の断面構成図。
【図6】本発明の実施形態6による電力用ガス絶縁機器の断面構成図。
【図7】本発明の実施形態7による電力用ガス絶縁機器の断面構成図。
【図8】従来のパッファ形ガス遮断器の一例を示す断面構成図。
【図9】従来のパッファ形ガス遮断器の他の例を示す断面構成図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、各図を通して、共通する部品・部位には同一符号を付与することにより、重複する説明は適宜省略する。
[実施形態1]
以下、本実施形態1に係る電力用ガス絶縁機器および電力用ガス絶縁機器の絶縁ガスの充填または排気方法について、図1を参照して説明する。
【0024】
(構成)
図1はガス絶縁機器としてのガス絶縁母線15を示す図である。
図1において、円筒形に形成された複数の金属性の密閉容器2、2、2、2、・・・は、それぞれ中心部に高圧内部導体13、13、13、13、・・・を収納し、さらに開口端に形成したフランジ部の相互間でコーン形絶縁スペーサ14、14、143、・・・の周縁部を気密に挟持するようにして軸方向に連結接続されている。ここで、各密閉容器2、2、2、2、・・・とコーン形絶縁スペーサ14、14、143、・・・とで形成された各空間部をガス区画と呼ぶ。
【0025】
このコーン形絶縁スペーサ14、14、143、・・・の中心部には貫通型接続子14aを固定しており、この貫通型接続子14aの両側に前記各高圧内部導体13、13、13、13、・・・の端部を嵌合することによって電気的に接続し、所定長のガス絶縁母線15を構成している。
【0026】
なお、各密閉容器2、2、2、2、・・・と絶縁スペーサ14、14、143、・・・とで形成されたガス区画30、30、30、30には、絶縁ガス7を充填あるいは排気(回収)するためのガス栓17を1個ないし複数個設けている。図1の例では、各密閉容器2、2、2、2、・・・に1個ずつガス栓17、17、173、174、・・・を設けている。18、18、183、184、・・・は、ガス配管であり、各ガス栓17、17、173、174、・・・と共通のガス給排装置19との間のガス路を接続している。なお、図1の例では、2系統のガス配管18、18とガス給排装置19とを接続した状態を示しているが、これ以外のガス区画にも同様に同時に絶縁ガス7を充填することができるが、ガス配管は示していない。この図1の例では、隣接する2つのガス区画30、30に対して同時に絶縁ガス7を充填または排気することができるように1つのガス配管18を途中で18と18とに分岐した例を示している。これらのガス配管18、18、18、183、184、・・・は金属製あるいは絶縁物製のいずれで構成することもできる。なお、ガス給排装置19は、例えば特開平10−285730号公報等に記載されているように、絶縁ガス充填時に所定のガス圧(例えば2〜3気圧)になるまで加圧するための加圧ポンプや圧力計器類を含む制御装置、ガス排気時に真空引きするための真空ポンプ、さらには液化した絶縁ガスを貯留しておくガスタンク等を備えているものとする。
【0027】
絶縁スペーサ14を挟んで両側に配置された密閉容器(例えば2と2)の内径がほぼ等しい場合は、両ガス区画30と30に同時に絶縁ガス7で充填していくと両ガス区画30、30内のガス圧は等しい状態を保ちながら圧力上昇するので、絶縁スペーサ14自体に作用する差圧はゼロである。このことはメンテナンスの際の絶縁ガス排気時についても同様である。すなわち、両ガス区画30、30内のガス圧は等しい状態を保ちながら圧力降下するので、絶縁スペーサ14自体に作用する差圧はゼロである。
【0028】
しかしながら、設計の都合上、絶縁スペーサ14を挟んだ両側の密閉容器(例えば2と2)の内径が大きく異なる場合もある。例えば、密閉容器2の内径が密閉容器2の内径に比べてかなり小さく設計されている場合、小内径の密閉容器2内では高電圧部と零電圧部との絶縁距離が短くなるため、大内径の密閉容器2に比べて絶縁ガスの充填圧力を高くする必要がある。
【0029】
この場合の絶縁ガス充填方法としては、小内径の密閉容器2と大内径の密閉容器2の両方に対して加圧ポンプを用いて2系列のガス配管18から絶縁ガス7を圧送して小内径の密閉容器2と大内径の密閉容器2のガス圧が大内径の密閉容器2に定めた所定値(これを第1の所定のガス圧という)に到達した時点で大内径の密閉容器2のガス充填を止めるが、小内径の密閉容器2は第1の所定値のガス圧よりも高い第2の所定値まで高めなければならないので、小内径の密閉容器2にはガス充填を続ける。その後小内径の密閉容器2が第2の所定値に到達した時点で充填が完了する。絶縁スペーサ14の耐圧は第1の所定値と第2の所定値との差圧よりも余裕をもっているので、絶縁ガスの充填作業が正常に行なわれる場合は、絶縁スペーサ14に無理な差圧が作用することはない。
【0030】
しかしながら、ガス充填時に圧力計器類を含む制御装置に故障があり、小内径の密閉容器2のガス圧力が第2の所定値をはるかに超えた場合、絶縁スペーサ14に予め想定した差圧以上の差圧が作用することになる。
【0031】
以上は、絶縁ガス充填時の説明であるが、メンテナンスの際の絶縁ガス排気時に絶縁スペーサ14を挟む両側の密閉容器の差圧が予め想定した値以上になることもあり得る。例えば、絶縁スペーサ14を挟む両側の密閉容器内の絶縁ガスを同量ずつ同時に排気すれば、絶縁スペーサ14に異常な差圧が作用することはないが、何らかの事情で片方の密閉容器だけ絶縁ガスを排気するような場合、絶縁スペーサ14に予め想定した値以上の差圧が作用することもあり得る。
【0032】
そこで本実施形態1では、絶縁ガス充填時や排気時に絶縁スペーサ14に予め想定した値以上の差圧が作用することを避けるため、絶縁スペーサを挟んで隣接する密閉容器(例えば、密閉容器2、2)にそれぞれ接続されるガス配管18、18相互間のガスの差圧を検出し、この差圧が予め定めた基準値を超えると動作する差圧検出器(差圧検出手段)21を設け、さらにガス配管18がガス配管18と18に分岐する分岐部に切替弁20を設置している。ここで、差圧検出器に備えるセンサーの動作基準値は、絶縁スペーサ14の耐圧力強度に応じて設定されるものである。
【0033】
この切替弁20の制御回路については図示していないが、絶縁ガスを充填する場合、差圧検出器21が不動作のときは開弁して両側のガス配管(18、18)にガスが通過できるようにし、差圧が基準値を超えたことにより差圧検出器21が動作したときは圧力の高い方のガス配管を閉じて圧力の低い方のガス配管だけに絶縁ガスが通過できるように構成されている。一方、絶縁スペーサ14を挟む一方の密閉容器(ガス区画)のみから絶縁ガスを排気(回収を含む)する場合、差圧が基準値を超えたことにより差圧検出器21が動作したときは、切替弁20は開弁して両方の密閉容器(ガス区画)から絶縁ガスが排気されるように構成されている。
【0034】
(作用)
以下、図1を参照して、絶縁スペーサを挟んで両側に位置する密閉容器(ガス区画)に絶縁ガスを給排気(充填および回収)する場合について説明する。
【0035】
<A>絶縁ガスを充填する場合
(Ai)両側の密閉容器の内径が等しい母線構成の場合。
なお、初期状態では両側の密閉容器2、2のガス区画30、30は共に真空引きされて同じ負圧値になっているものとする。
【0036】
この状態でガス栓17、17を開けてガス給排装置19内の加圧ポンプを運転し、ガス配管18、18を通して当該ガス区画30、30内に絶縁ガス7を圧送する。
そして、両ガス区画30、30が所定のガス圧(例えば2〜3気圧)に到達したら加圧ポンプの運転を止め、ガス栓17、17を閉じて絶縁ガスの充填作業は完了する。
【0037】
(Aii)両側の密閉容器が小内径の密閉容器2と大内径の密閉容器2の母線構成の場合。
初期状態では(Ai)同様に小内径の密閉容器2と大内径の密閉容器2とは共に真空引きされて同じ負圧値になっているものとする。
【0038】
この状態でガス栓17、17を開けてガス給排装置19内の加圧ポンプを運転し、小内径の密閉容器2のガス区画30と大内径の密閉容器2ガス区画30とにガス配管を通して絶縁ガス7を圧送する。
【0039】
小内径のガス区画30および大内径のガス区画30のガス圧は共に徐々に高まり、小容積ガス区画30および大容積ガス区画30のガス圧が第1の設定値に達すると大容積ガス区画30の充填が完了するが、小容積ガス区画30のガス圧を第2の設定値まで高める必要があるので小容積ガス区画30に対する絶縁ガスの供給を続ける。小容積ガス区画30のガス圧が第2の設定値に達すると小容積ガス区画30の充填が完了する。
【0040】
このように、絶縁ガスの充填作業が正常に行なわれる場合には、差圧検出器21が動作しないので切替弁20は動作することはないが、何らかの事情例えば、圧力計器類を含む制御装置に故障があり、小内径の密閉容器2のガス圧力が第2の所定値を僅かに超えた場合、差圧検出器21が動作して切替弁20を閉弁させ、ガス配管18から小内径の密閉容器2内への絶縁ガスの供給を止める。この結果、絶縁スペーサ14に予め想定した差圧以上の差圧が作用することなない。
【0041】
<B>絶縁ガスを回収(ガス区画からの排気)する場合
(Bi)両側のガス区画から同時に絶縁ガスを回収する場合。
この場合、ガス栓17、17を開けた状態で真空ポンプを駆動して両方のガス区画から等量の絶縁ガスを引き抜く。この作業中、両方のガス区画の差圧はほとんどないので差圧検出器21、切替弁20が動作することなくガス回収作業が完了する。
【0042】
(Bii)何らかの事情で片方のガス区画のみ絶縁ガスを回収される場合。
この場合、ガス栓17、17は開いた状態である。一方、切替弁20はガス配管は18のみ開らき、18は閉じた状態である。
【0043】
この状態で真空ポンプを駆動すると、小内径密閉容器2のガス区画30からのみ絶縁ガス7が引き抜かれていくので、暫くすると小内径ガス区画30と大内径ガス区画30の差圧が差圧検出器21に設定した設定値に達する。すると、差圧検出器21が動作し切替弁20に指令を出力し、それまで閉じていたガス配管18側を開かせる。この結果、小内径ガス区画30は勿論、大内径密閉容器2のガス区画30からも絶縁ガス7が引き抜かれるようになるので、絶縁スペーサ14に予め想定した値以上の差圧が作用することなない。
【0044】
(効果)
以上述べたように本実施形態1に係る電力用ガス絶縁機器および電力用ガス絶縁機器の絶縁ガスの充填または排気方法によれば、絶縁スペーサ14で区分した隣接するガス区画に絶縁ガス7の充填を行なう場合、両ガス区画の差圧が設定値を超えた場合、切替弁20を動作させることによって絶縁ガスの充填停止を行なうようにし、また、片側のガス区画の排気時に両ガス区画の差圧が設定値を超えた場合、切替弁20を動作させることによって両ガス区画から絶縁ガスを排気するようにしたので、絶縁ガス充填時あるいはメンテナンス時に差圧検出器21で設定した値以上の差圧が絶縁スペーサ14に作用することはない。この結果、絶縁スペーサ14の両側にかかる差圧を最小限に抑えることが可能となり、絶縁スペーサ14に必要な耐圧力性能を低減することができ、小形で低コストの電力用ガス絶縁機器および電力用ガス絶縁機器の絶縁ガスの充填または排気方法を提供することが可能となる。
【0045】
[実施形態2]
以下、本実施形態2に係る電力用ガス絶縁機器および電力用ガス絶縁機器の絶縁ガスの充填または排気方法について、図2を参照して説明する。
【0046】
図2は、ガス絶縁機器としての第2のガス絶縁母線15を示す図である。
本実施形態2によるガス絶縁母線15は、ガス給排装置およびガス配管からなるガス給排系統を独立して2系統設け、それぞれを絶縁スペーサ14を挟んで隣り合うガス区画30、30に接続するようにし、さらに双方のガス給排系統間の差圧を検出する差圧検出器21を設け、この差圧検出器21によって2系統のガス給排系統にそれぞれ設けた切替弁20の開閉を制御するように構成したものである。22はガス給排系統19A、19Bに設けた開閉弁である。
【0047】
本実施形態2は以上のような構成を採用したことによって、絶縁ガス7を充填する際、絶縁スペーサ14を挟んだ両側のガス区画のガス差圧が差圧検出器21の基準値を超えると高圧側のガス区画の接続される切替弁20を閉鎖する。また、1区画のみ絶縁ガスを排気する場合で、絶縁スペーサ14の両側の差圧が差圧検出器21の基準値を超えると切替弁20は開放して、隣接する区画の絶縁ガスも排気されるので、絶縁スペーサ14に作用する差圧は差圧検出器の規定値以下となる。
【0048】
なお、ガス給排系統を独立して2系統設けたため、ガス給排系統19A、19Bで扱う絶縁ガスの種類を選択することによって隣接するガス区画内に同一種類の絶縁ガスを給排することもできるし、異なる絶縁ガスを給排することもできる。因みに、図示の例では、ガス区画30、30、30、30にそれぞれ封入した絶縁ガス7A、7B、7C、7Dは種類の異なる絶縁ガスを用いている。
以上述べたように、本実施形態2は、実施形態1と同様の作用、効果を得ることができる。
【0049】
[実施形態3]
以下、本実施形態3に係る電力用ガス絶縁機器および電力用ガス絶縁機器の絶縁ガスの充填または排気方法について、図3を参照して説明する。
【0050】
図3はガス絶縁機器としてのガス遮断器1を示す図である。
本実施形態3は、従来例の図8のガス遮断器1とガス絶縁母線15とを区分する絶縁スペーサ14の両側に、図1のように共用のガス給排装置19に接続されるガス配管18、18をそれぞれ接続するようにしたものである。なお、ガス遮断器1に隣接するガス区画は、図3の場合ガス絶縁母線15であるが、このほか、ブッシングや断路器などの他の電力用ガス絶縁機器の場合もある。
本実施形態3においても実施形態1と同様な作用、効果を得ることができる。
【0051】
[実施形態4]
以下、本実施形態4に係る電力用ガス絶縁機器および電力用ガス絶縁機器の絶縁ガスの充填または排気方法について、図4を参照して説明する。
【0052】
図4はガス絶縁機器としての他のガス遮断器1を示す図である。
図4で示す実施形態4は、従来例の図9と同様に、密閉容器2の内部に絶縁容器16を収容し、さらにこの絶縁容器16の内部にガス遮断器の消弧部(固定部5、可動部6)およびそれに順ずる高圧ガス充填が必要な部位を収容した構成において、密閉容器2内部と絶縁容器16内部とに、共用のガス給排装置19に接続されるガス配管18、18を接続するようにしたものである。
【0053】
すなわち、密閉容器2内と、ガス遮断器1内の消弧部およびそれに順ずる高圧ガス充填が必要な部位を収容した絶縁容器16内に対して、実施形態1と同様に同時に同一種類のガスを充填、排気できる構造としたものである。
【0054】
なお、この場合、絶縁容器16の耐圧力性能を損なわない範囲で差圧検出器21の基準値を変更することによって絶縁容器16内のガス圧を密閉容器2内のガス圧よりも高圧にすることができる。
【0055】
以上述べたように、本実施形態4は、密閉容器2とその内部に絶縁容器16により区分された部分とを同時に充填または排気することが可能となり、メンテナンス時に絶縁容器16の表面および内面間にかかる差圧を最小限に抑えることが可能である。この結果、ガス遮断器の消弧部を他の部材から遮蔽する絶縁容器16に必要な耐圧力性能を低減することができ、小形で低コストの電力用ガス絶縁機器を提供することが可能である。
【0056】
[実施形態5]
以下、本実施形態5に係る電力用ガス絶縁機器および電力用ガス絶縁機器の絶縁ガスの充填または排気方法について、図5を参照して説明する。
【0057】
図5はガス絶縁機器としての他のガス遮断器1を示す図である。
本実施形態5は、実施形態2の主旨を実施形態4のガス遮断器1に適用したものであり、ガス遮断器1内の消弧部およびそれに順ずる高圧ガス充填が必要な部位を絶縁容器16により他の部分から分離し、密閉容器2内に絶縁ガス7Aを封入し、絶縁容器16内に別の種類の絶縁ガス7Bを封入したガス遮断器である。この場合、絶縁ガス7Aには絶縁ガス7Bよりも絶縁性能冷却性能のよい絶縁ガスを使用する。なお、差圧検知器21の取り付け位置をガス配管から絶縁容器16に変更することも可能である。
このように、本実施形態5においても実施形態4と同様の作用、効果を得ることができる。
【0058】
[実施形態6]
以下、本実施形態6に係る電力用ガス絶縁機器および電力用ガス絶縁機器の絶縁ガスの充填または排気方法について、図6を参照して説明する。
【0059】
図6はガス絶縁機器としての他のガス絶縁母線15を示す図である。
図6において、本実施形態6は絶縁スペーサ14で区分された隣接するガス区画30、30に対して、独立した2系統のガス給排系統19A、19Bをそれぞれ接続し、かつ、当該隣接するガス区画30および30間をガス給排装置19A、19Bに接続されたガス配管18A,18Bとは別の連通ガス配管23で接続したものである。絶縁ガスの給排は2つのガス給排装置19A、19Bから同時に行うことのほか、一方のガス給排装置を運転停止した場合、もう一方のガス給排装置から給排することもできる。
【0060】
なお、連通ガス配管23には差圧検出器21と切替弁20を設けており、ガス充填時は、切替弁20を開放し、全ての区画が空間的に連通とする。これにより、1つ以上のガス区画に対してガス供給を行えば、全てのガス区画に同時に同じ圧力のガスを充填すること、排気することが可能となる。なお、図6では切替弁20のシンボルしか図示していないが、差圧検出器21も併せて設けている。
【0061】
また、ガス充填時の隣接するガス区画の配管の間に差圧検出器21と切替弁20を設けることで、万が一絶縁スペーサ14の両側の差圧が基準値を超えた場合でも、切替弁20が開放され、隣接するガス区画の高圧がかかっている側のガスが排気される構造としている。差圧検出器21は絶縁スペーサ14に取り付けることも可能である。
本実施形態においても実施形態1、2と同様な作用、効果を得ることができる。
【0062】
[実施形態7]
以下、本実施形態7に係る電力用ガス絶縁機器および電力用ガス絶縁機器の絶縁ガスの充填または排気方法について、図7を参照して説明する。
【0063】
図7は、ガス絶縁機器としての第4のガス遮断器15を示す図である。
本実施形態7が図5の実施形態5と異なる点は、実施形態5が絶縁容器16内の絶縁ガス7Bと絶縁容器16の周囲の密閉容器2内の絶縁ガス7Aとを異なるガス種類にしたが、本実施形態7は絶縁容器16内の絶縁ガスの充填圧力を高圧ガス7Hとし、その周囲の密閉容器内の絶縁ガスの充填圧力を低圧のガス7Lを充填したものである。
【0064】
このような構成を採用すると、絶縁容器16の回りの絶縁ガス7Lの圧力を抑制することが可能となり、実質、絶縁スペーサ14にかかる差圧が低減する。
以上説明した作用により、絶縁スペーサの両側にかかる差圧を低減することができ、小形で低コストの電力用ガス絶縁機器を提供することが可能となる。
【0065】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0066】
1…ガス遮断器、2…密閉容器、3、4…支持絶縁物、5…固定部、5a…固定通電部、5b…固定アーク接触子、6…可動部、6a…絶縁ノズル、6b…可動アーク接触子、6c…通電接触子、6d…パッファシリンダ、6e…操作ロッド、7…絶縁ガス、7H…高圧の絶縁ガス、7L…7Hよりも低圧な絶縁ガス、7A…絶縁ガスA、7B…絶縁ガスB、7e…絶縁ガス3、7f…絶縁ガス、8…操作機構、9…事故放電、10…ピストン、11…遮断アーク放電、12…動作時ガス流、13…高圧内部導体、14…絶縁スペーサ、14a…貫通型接続子、15…ガス絶縁母線、16…絶縁容器、17、17、17、17…ガス栓、18…ガス配管、19…ガス給排装置、20…自動差圧制御弁、21…差圧検知器、22…弁、23…連通ガス配管、30、30、30、30…ガス区画。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内に高電圧部位を格納するとともに絶縁ガスを充填し、前記高電圧部位と前記密閉容器間の電気絶縁を前記絶縁ガスで行うようにした電力用ガス絶縁機器において、
前記密閉容器内を絶縁スペーサによって複数個に区分されたガス区画のうち、隣接するガス区画に対して共通のガス給排路から分岐された各ガス配管をそれぞれ接続し、前記分岐されたガス配管相互間の差圧が予め定めた基準値を超えると動作する差圧検出手段を設けるとともに、当該差圧検出手段の指令によって前記各ガス配管を開路または閉路する弁を設けたことを特徴とする電力用ガス絶縁機器。
【請求項2】
密閉容器内に高電圧部位を格納するとともに絶縁ガスを充填し、前記高電圧部位と前記密閉容器間の電気絶縁を前記絶縁ガスで行うようにした電力用ガス絶縁機器において、
前記密閉容器の内部を絶縁容器によって別のガス区画として区分し、前記絶縁容器内部および前記密閉容器内部に対して共通のガス給排路から分岐された各ガス配管をそれぞれ接続し、前記分岐されたガス配管相互間の差圧が予め定めた基準値を超えると動作する差圧検知手段を設けるとともに、当該差圧検出手段の指令によって前記各ガス配管を開路または閉路する弁を設けたことを特徴とする電力用ガス絶縁機器。
【請求項3】
前記絶縁スペーサにより複数個に区分されたガス区画に対して、隣接するガス区画がガス供給路あるいはガス排気路以外の連通ガス配管によって接続されたことを特徴とする請求項1あるいは請求項2記載の電力用ガス絶縁機器。
【請求項4】
密閉容器内に高電圧部位を格納するとともに絶縁ガスを充填し、前記高電圧部位と前記密閉容器間の電気絶縁を前記絶縁ガスで行うようにした電力用ガス絶縁機器の絶縁ガスの充填または排気方法おいて、
前記密閉容器内を絶縁スペーサによって複数個に区分されたガス区画のうち、隣接するガス区画に対して共通のガス給排路から分岐された各ガス配管をそれぞれ接続し、前記分岐されたガス配管相互間の差圧が予め定めた基準値を超えると動作する差圧検知手段を設けるとともに、当該差圧検出手段の指令によって前記各ガス配管を開路または閉路する弁を設け、絶縁ガスの充填時または排気時に前記ガス配管相互間の差圧が予め定めた基準値を超えるとガス管路を閉路し、前記ガス配管相互間の差圧が予め定めた基準値を下回るとガス管路を開路することを特徴とする電力用ガス絶縁機器の絶縁ガスの充填または排気方法。
【請求項5】
密閉容器内に高電圧部位を格納するとともに絶縁ガスを充填し、前記高電圧部位と前記密閉容器間の電気絶縁を前記絶縁ガスで行うようにした電力用ガス絶縁機器の絶縁ガスの充填または排気方法おいて、
前記密閉容器の内部を絶縁容器によって別のガス区画として区分し、前記絶縁容器内部と前記密閉容器内部に接続されるガス配管を共通のガス供給路あるいはガス排気路から分岐するように構成し、前記分岐されたガス配管相互間の差圧を検出する差圧検知手段を設けるとともに当該差圧検出手段の出力によって開路または閉路する弁を設け、絶縁ガスの充填時または排気時に前記ガス配管相互間の差圧が予め定めた基準値を超えるとガス管路を閉路し、前記ガス配管相互間の差圧が予め定めた基準値を下回るとガス管路を開路することを特徴とする電力用ガス絶縁機器の絶縁ガスの充填または排気方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−253896(P2012−253896A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124323(P2011−124323)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】