説明

電力用直流同軸ケーブル

【課題】帰路絶縁層の絶縁性能を向上させた電力用直流同軸ケーブルを提供する。
【解決手段】中心に主導体1を有し、その外側に主内部半導電層2、主絶縁層3、主外部半導電層4を順次介して多数の帰路導体素線を同心撚りしてなる帰路導体5を有し、その外側に帰路内部半導電層6、帰路絶縁層7、帰路外部半導電層8を順次有する電力用直流同軸ケーブルにおいて、前記帰路内部半導電層6が、帰路導体5上に設けられた半導電性テープ巻き層6aと、その上に押出成形された半導電性樹脂押出層6bからなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流送電線路に使用される電力用直流同軸ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力用直流同軸ケーブルは、図3に示すように、中心に主導体1を有し、その外側に主内部半導電層2、主絶縁層3、主外部半導電層4を順次介して帰路導体(中性線導体、外部導体ともいう)5を設け、その外側に帰路内部半導電層6、帰路絶縁層7、帰路外部半導電層8を順次介して鉛被9を設け、その外側にポリエチレン等からなる防食層10を設けた構造となっている。帰路導体5は、多数の帰路導体素線を同心撚りすることにより構成されている(特許文献1参照)。
【0003】
従来の電力用直流同軸ケーブルにおける帰路内部半導電層6は、図4に示すように、半導電性テープのラップ巻きによる半導電性テープ巻き層6aで構成されている。また帰路外部半導電層8も同様に半導電性テープ巻き層で構成されている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−120836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電力用直流同軸ケーブルでは、通常の運転時に、中心の主導体1とその外側の帰路導体5に逆向きに同一の直流電流が流れる。このため帰路導体には、直流電流が流れることによる電圧降下(直流電圧)が発生する。この直流電圧に対応するため、帰路導体5とその外側の接地電位にある鉛被9との間には、帰路絶縁層7が設けられている。また帰路絶縁層7の内側と外側には、電界緩和のために帰路内部半導電層6及び帰路外部半導電層8がそれぞれ設けられている。これらの半導電層は従来、前述のように半導電性テープのラップ巻きにより形成されている。
【0006】
一方、帰路絶縁層には、通常運転時の直流電圧のほかに、異常電圧が加わる。この異常電圧は、雷サージや地絡時に発生するサージ、AC−DC変換器及びDC−AC変換器の転流失敗により発生する過電圧などが考えられ、帰路絶縁層の絶縁設計に大きく影響する。この異常電圧は、直流同軸ケーブルの高電圧化と大容量化(送電容量の増大)に伴い、大きくなる傾向にあり、このため帰路絶縁層に要求される絶縁性能も高くなる傾向にある。
【0007】
従来、帰路内部半導電層及び帰路外部半導電層は半導電性テープ巻きにより形成されているが、半導電性テープ巻き層は、帰路絶縁層との界面の平滑性がわるいことや、帰路絶縁層との密着性がわるいことから、絶縁性能及び信頼性の低下を引き起こす問題がある。
【0008】
例えば、帰路絶縁層と帰路内部半導電層の界面については、図4(B)に示すように半導電性テープのラップ部で段差Dが生じる。また図4(A)、(B)に示すように、多数の帰路導体素線5aの並びで外周面に凹凸のある帰路導体5の上に半導電性テープを巻きつけるため、帰路内部半導電層6の表面にも凹凸が生じ、結果的に帰路絶縁層7と帰路内部半導電層6の界面に凹凸が生じることとなる。送電容量の増大により帰路導体に流す電流が大きくなると、帰路導体の総断面積を大きくする必要があり、そのために帰路導体素線を太くすると、帰路導体外周面の凹凸も大きくなり、結果的に帰路絶縁層と帰路内部半導電層の界面に生じる凹凸も大きくなることになる。
【0009】
一方、帰路絶縁層と、半導電性テープ巻きで形成された帰路内部半導電層との密着性に関しては、半導電性テープと帰路絶縁層との接着性がわるいため、剥離しやすいという問題がある。また、半導電性テープ巻きにより形成された帰路内部半導電層の外周面には、半導電性テープのラップ部の段差Dや、帰路導体素線による凹凸があるため、その上に帰路絶縁層を押出成形すると、図4(A)、(B)に示すように、押し出された樹脂が上記のような段差Dや凹凸に完全に追従しきれず、帰路内部半導電層6と帰路絶縁層7との間に空隙Kができる傾向がある。
【0010】
帰路内部半導電層と帰路絶縁層の界面に存在する空隙Kや凹凸は電気的弱点となるため、特に直流同軸ケーブルの高電圧化や大容量化に対応して帰路絶縁性能及びその信頼性を高める上で妨げとなる。
【0011】
帰路絶縁層の絶縁性能を高める手段としては、帰路絶縁層の厚さを厚くすることが考えられるが、帰路絶縁層を厚くすると、ケーブルサイズ・重量の増大、ケーブル布設・施工性の悪化、ケーブル製造・布設コストの増加といった問題が生じる。
【0012】
本発明の目的は、帰路絶縁層の絶縁性能を向上させた電力用直流同軸ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため本発明は、中心に主導体を有し、その外側に主内部半導電層、主絶縁層、主外部半導電層を順次介して多数の帰路導体素線を同心撚りしてなる帰路導体を有し、その外側に帰路内部半導電層、帰路絶縁層、帰路外部半導電層を順次有する電力用直流同軸ケーブルにおいて、前記帰路内部半導電層が、帰路導体上に押出成形された半導電性樹脂押出層からなることを特徴とするものである(請求項1)。
【0014】
また本発明は、中心に主導体を有し、その外側に主内部半導電層、主絶縁層、主外部半導電層を順次介して多数の帰路導体素線を同心撚りしてなる帰路導体を有し、その外側に帰路内部半導電層、帰路絶縁層、帰路外部半導電層を順次有する電力用直流同軸ケーブルにおいて、前記帰路内部半導電層が、帰路導体上に設けられた半導電性テープ巻き層と、その上に押出成形された半導電性樹脂押出層とからなるものであることが好ましい(請求項2)。
【0015】
また本発明に係る電力用直流同軸ケーブルにおいては、帰路内部半導電層の半導電性樹脂押出層と、帰路絶縁層とが、2層同時押出により形成されていることが好ましい(請求項3)。
【0016】
また本発明に係る電力用直流同軸ケーブルにおいては、 帰路外部半導電層が、帰路絶縁層上に押出成形された半導電性樹脂押出層からなることが好ましい(請求項4)。
【0017】
また本発明に係る電力用直流同軸ケーブルにおいては、帰路外部半導電層が、帰路絶縁層上に押出成形された半導電性樹脂押出層と、その上に設けられた半導電性テープ巻き層とからなることが好ましい(請求項5)。
【0018】
また本発明に係る電力用直流同軸ケーブルにおいては、帰路内部半導電層の半導電性樹脂押出層と、帰路絶縁層と、帰路外部半導電層の半導電性樹脂押出層とが、3層同時押出により形成されていることが好ましい(請求項6)。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明によれば、帰路内部半導電層が半導電性樹脂押出層で形成されているので、帰路内部半導電層の外周面に、半導電性テープ巻き層の場合のような段差が生じることがなく、したがって電気的弱点が発生しにくくなり、従来よりも帰路絶縁性能及びその信頼性を向上させることができる。特に、帰路内部半導電層用の半導電性樹脂押出層と帰路絶縁層とを2層同時押出により形成すると(請求項3)、両層の接着性が高まり、帰路内部半導電層と帰路絶縁層の界面での空隙の発生をなくすことができることから、電気的弱点がさらに発生しにくくなり、帰路絶縁性能及びその信頼性をさらに向上させることができる。
【0020】
また請求項2の発明によれば、帰路内部半導電層が、帰路導体上に設けられた半導電性テープ巻き層と、その上に押出成形された半導電性樹脂押出層で形成されているので、半導電性テープ巻き層の外周面の段差や凹凸が半導電性樹脂押出層で覆われ、帰路内部半導電層の外周面に段差や凹凸が現れなくなる。したがって、帰路内部半導電層と帰路絶縁層の界面が平滑になり、電気的弱点が少なくなるため、より一層帰路絶縁性能とその信頼性を向上させることができる。特に、帰路内部半導電層の半導電性樹脂押出層と帰路絶縁層とを2層同時押出により形成すると(請求項3)、両層の接着性が高まり、帰路内部半導電層と帰路絶縁層の界面での空隙の発生をなくすことができることから、電気的弱点がさらに少なくなり、帰路絶縁性能とその信頼性をさらに向上させることができる。
【0021】
したがって、請求項1、2の発明によれば、直流同軸ケーブルの高電圧化や大容量化により、要求される帰路絶縁性能が高まっても、帰路内部半導電層と帰路絶縁層との界面の絶縁性能を向上させることで対応することができ、帰路絶縁層の厚さの増大を抑えることができる。このことから、ケーブルサイズ・重量の低減、ケーブル布設・施工性の向上、ケーブル製造・布設コストの低減を図ることができる。さらに、ケーブル同士の接続部での帰路絶縁層の接続処理部やケーブル端末部での帰路絶縁層の端末処理部において、帰路内部半導電層と帰路絶縁層の剥離や両層間での空隙の発生を防止できるため、ケーブルの接続部や端末部での帰路絶縁性能及びその信頼性を向上させることができる。
【0022】
また、帰路内部半導電層だけでなく帰路外部半導電層も半導電性樹脂押出層で形成すると(請求項4)、帰路絶縁層と帰路外部半導電層の界面の平滑性を高めることができるので、さらに帰路絶縁性能及びその信頼性を向上させることができる。
【0023】
また、帰路外部半導電層を、帰路絶縁層上に押出成形された半導電性樹脂押出層と、その上に設けられた半導電性テープ巻き層とで形成した場合(請求項5)も同様の効果が得られる。
【0024】
特に、帰路外部半導電層を、半導電性樹脂押出層で形成する場合(請求項4)あるいは半導電性樹脂押出層と半導電性テープ巻き層で形成する場合(請求項5)、帰路内部半導電層の半導電性樹脂押出層と、帰路絶縁層と、帰路外部半導電層の半導電性樹脂押出層とを、3層同時押出により形成すれば(請求項6)、帰路絶縁層と帰路外部半導電層の界面の平滑性、接着性を高め、空隙の発生をなくすことができるので、帰路絶縁性能及びその信頼性をさらに向上させることができる。さらに、ケーブル接続部での帰路絶縁層の接続処理部やケーブル端末部での帰路絶縁層の端末処理部において、帰路絶縁層と帰路外部半導電層の剥離や両層間での空隙の発生を防止できるため、ケーブルの接続部や端末部での帰路絶縁性能の向上及び信頼性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
<実施形態1> 図1は本発明に係る電力用直流同軸ケーブルの一実施形態を示す。図において、1は主導体、2は主内部半導電層、3は主絶縁層、4は主外部半導電層、5は帰路導体、6は帰路内部半導電層、7は帰路絶縁層、8は帰路外部半導電層、9は鉛被、10は防食層である。この直流同軸ケーブルが従来の直流同軸ケーブルと異なる点は、帰路内部半導電層6が、帰路導体5上に設けられた半導電性テープ巻き層6aと、その上に押出成形された半導電性樹脂押出層6bとから構成されていることである。以下、各部の構成について詳述する。
【0026】
主導体1には通常、銅撚線が使用される。主内部半導電層2、主絶縁層3及び主外部半導電層4は通常、3層同時押出により形成され、この3層は一体化されている。主絶縁層3の材料には、耐直流用(60〜500kV)の高分子絶縁材料を使用することができる。例えば、主絶縁層3の絶縁材料としては、直流用架橋ポリエチレンや、カーボン充填剤入り架橋ポリエチレン、変性ポリオレフィン等を使用することができる。
【0027】
帰路導体5は、主外部半導電層4上に多数の銅線(帰路導体素線)5aを撚り合わせることにより形成される。帰路導体5の構成(銅線の直径と本数)は、直流同軸ケーブルの主導体1と帰路導体5に流す定格電流で決定されるが、銅線の直径が太くなるに従って銅線の剛性が強くなり、ケーブルの製造性やケーブルの機械的特性、ケーブル接続部やケーブル端末部での帰路導体処理の作業性がわるくなるため、通常、銅線の直径は2〜6mmの範囲で設計するのがよい。
【0028】
帰路導体5の外側には、帰路内部半導電層6、帰路絶縁層7、帰路外部半導電層8が設けられる。帰路内部半導電層6は、帰路導体5上に半導電性テープをラップ巻きすることにより形成された半導電性テープ巻き層6aと、その上に半導電性樹脂を押出成形することにより形成された半導電性樹脂押出層6bとで構成されている。半導電性樹脂押出層6bは、帰路絶縁層7とは別に単独で押出成形することもできるが、帰路絶縁層7と共に2層同時押出で形成することが好ましい。2層同時押出で形成すると半導電性樹脂押出層6bと帰路絶縁層7との一体性が向上し、両層の界面に空隙が発生しにくく、界面への異物の混入も防止することができる。
【0029】
帰路内部半導電層6の半導電性テープ巻き層6aに使用する半導電性テープの厚さは、テープ巻きのラップ部の段差Dを小さくでき、かつ帰路導体5の緩みを抑えられるだけの強度を持ち合わせる厚さが選択され、通常、0.1〜0.3mmである。帰路内部半導電層6の半導電性樹脂押出層6bの厚さは、当該押出層6bと帰路絶縁層7の界面に、帰路導体5の銅線の並びでできる凹凸の影響、及び半導電性テープ巻き層6aのラップ部の段差Dの影響がでない厚さであって、半導電性樹脂の押出時に発生する押出層の偏肉の影響を考慮した厚さが選択され、通常、1〜3mmである。
【0030】
帰路絶縁層7は、例えばポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂の押出成形により形成することができる。帰路絶縁層7の厚さは、直流同軸ケーブルの送電電圧及び異常電圧で決定されるが、通常、3〜8mmである。
【0031】
帰路外部半導電層8は、半導電性テープのラップ巻きにより形成することができるが、半導電性樹脂の押出成形により形成することもできる。帰路外部半導電層8を半導電性樹脂の押出により形成する場合、その厚さは、帰路内部半導電層の半導電性樹脂押出層のように帰路導体の凹凸の影響や半導電性テープ巻き層のラップ部の段差の影響がないため、主に半導電性樹脂の押出時に発生する偏肉の影響を考慮した厚さが選択され、通常、1〜2mmである。帰路外部半導電層8を半導電性樹脂の押出により形成する場合は、帰路内部半導電層の半導電性樹脂押出層6bと帰路絶縁層7と帰路外部半導電層の半導電性樹脂押出層の3層を同時押出により形成することが好ましい。
【0032】
また、帰路外部半導電層8は、帰路絶縁層7上に押出成形された半導電性樹脂押出層と、その上に設けられた半導電性テープ巻き層とで構成することもできる。
帰路外部半導電層8の外側には、鉛被9が設けられ、鉛被9の外側には防食層10が設けられる。なお、電力用直流同軸ケーブルを海底ケーブルとして使用する場合には、防食層10の外側に、さらに座床、鉄線鎧装、サービング層が設けられる。
【0033】
直流同軸ケーブルを以上のような構成にすると、帰路絶縁性能を従来よりも向上させることができる。その一例として、直径5mmの多数の銅線で構成された帰路導体と、厚さ6mmのポリエチレンの帰路絶縁層と、半導電性テープ巻きにより形成された帰路外部半導電層(厚さ1.5mm)を有する直流同軸ケーブルにおいて、帰路内部半導電層を半導電性テープ巻き層(厚さ0.5mm)のみで形成した従来型の直流同軸ケーブルAと、帰路内部半導電層を半導電性テープ巻き層(厚さ0.5mm)とその上の半導電性樹脂押出層(厚さ2mm)とで構成し、その半導電性樹脂押出層とその上の帰路絶縁層を2層同時押出により形成した本発明型の直流同軸ケーブルBとを試作し、両ケーブルA、Bについて帰路絶縁層の雷インパルス破壊特性を測定した。その結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1から明らかなとおり、直流同軸ケーブルBの帰路絶縁層の雷インパルス破壊電界は、直流同軸ケーブルAの帰路絶縁層の雷インパルス破壊電界に対して約30%向上している。
【0036】
直流同軸ケーブルAの帰路内部半導電層と帰路絶縁層の界面には、図4(A)、(B)に示すように帰路導体5の銅線の並びにより生じる凹凸と、同図(B)に示すように半導電性テープのラップ部の段差Dによる凹凸が存在し、雷インパルスの破壊起点は半導電性テープのラップ目に位置することが多いという傾向がある。このことから半導電性テープのラップ目の段差が電気的弱点になっているといえる。
【0037】
これに対し、直流同軸ケーブルBの帰路内部半導電層の半導電性テープ巻き層と半導電性樹脂押出層の界面には、図1(A)、(B)に示すように帰路導体5の銅線の並びにより生じる凹凸と、同図(B)に示すように半導電性テープのラップ部の段差Dによる凹凸が存在するものの、帰路内部半導電層6の押出層6bと帰路絶縁層7との界面は滑らかであり、雷インパルスの破壊起点は帰路内部半導電層6の押出層6bと帰路絶縁層7の界面にある場合が多いが、帰路内部半導電層6の半導電性テープ巻き層6aと半導電性樹脂押出層6bの界面の凹凸との位置関係には相関はなかった。このことから、帰路内部半導電層6と帰路絶縁層7の界面の平滑化が、帰路絶縁層の雷インパルス破壊電界を向上させる効果を奏しているといえる。
【0038】
また、従来型の直流同軸ケーブルAの帰路内部半導電層と帰路絶縁層は接着力が弱く、手で比較的容易に剥がすことができるため、剥離しやすい。さらに、図4(A)、(B)に示すように帰路導体5の銅線の並びによる凹凸により、その上の半導電性テープ巻き層6aにも凹凸が生じるため、その上に押し出された帰路絶縁層7の樹脂は半導電性テープ巻き層6aの凹部に追従しきれず、半導電性テープ巻き層6aと帰路絶縁層7との間に空隙Kが生じる。帰路導体5の銅線の直径が太くなるほど、半導電性テープ巻き層6aの凹部が大きくなるため、空隙Kが形成されやすくなる傾向がある。このような帰路内部半導電層と帰路絶縁層との接着力の弱さ(剥離のしやすさ)や、空隙の存在は、電気的弱点となり、要求される帰路絶縁性能が高くなるほど、絶縁性能に対する信頼性に問題が出てくる。また、ケーブル接続部での帰路絶縁層の接続処理部やケーブル端末部での帰路絶縁層の端末処理部において、帰路内部半導電層と帰路絶縁層の剥離が生じやすいため、要求される帰路絶縁性能が高くなるに従ってケーブル接続部やケーブル端末部の帰路絶縁性能に対する信頼性に問題が出てくる。さらに、ケーブルの熱機械的挙動によって帰路内部半導電層と帰路絶縁層の剥離や空隙が増長される可能性があるなどの問題もある。
【0039】
これに対し、本発明型の直流同軸ケーブルBは、帰路内部半導電層の押出層6bと帰路絶縁層7の界面の接着性及び平滑性が良好であり、従来型の直流同軸ケーブルAよりも帰路絶縁性能及びその信頼性を向上させることができる。なお、直流同軸ケーブルBでは、図1に示すように帰路内部半導電層6の半導電性テープ巻き層6aと半導電性樹脂押出層6bの間に、接着力の弱さによる剥離や、半導電性テープ巻き層表面の凹凸による空隙Kが存在することになるが、これは、帰路内部半導電層6内のことであるので、電気性能に影響を与えることはなく、問題とならない。ケーブル接続部での帰路絶縁層の接続処理部やケーブル端末部での帰路絶縁層の端末処理部においても、帰路内部半導電層と帰路絶縁層の接着性がよいため剥離が生じることはなく、帰路絶縁性能に対する高い信頼性を実現することができる。さらに、ケーブルの熱機械的挙動によっても帰路内部半導電層と帰路絶縁層の剥離や空隙が生じることはなく、帰路絶縁性能に対する高い信頼性を実現することができる。
【0040】
上記の実施例では、帰路内部半導電層に半導電性樹脂押出層を設けて帰路絶縁層との界面の平滑性と接着性を向上させ、帰路絶縁性能の向上及びその信頼性の向上を実現したが、さらに帰路外部半導電層も半導電性樹脂押出層で形成して、帰路絶縁層との界面の平滑性と接着性を向上させることで、より高い帰路絶縁性能と信頼性を実現できることはいうまでもない。
【0041】
<実施形態2> 図2は本発明に係る電力用直流同軸ケーブルの他の実施形態を示す。図において、図1と同一部分には同一符号を付してある。この直流同軸ケーブルが実施形態1の直流同軸ケーブルと異なる点は、帰路内部半導電層が半導電性樹脂押出層6bのみで構成されていることである。
【0042】
この直流同軸ケーブルの場合は、帰路導体5上に半導電性樹脂を直接押出成形するため、半導電性樹脂押出層6bの表面が帰路導体5の銅線の並びによる凹凸の影響を受けて周方向に若干波打つ状態となるが、従来の直流同軸ケーブルのように半導電性テープのラップ部の段差の影響を受けることはなく、かつ半導電性樹脂押出層6bと帰路絶縁層7の界面に空隙が発生するおそれも少ないので、従来よりも帰路絶縁性能及びその信頼性を向上させることができる。特に、半導電性樹脂押出層6bと帰路絶縁層7を2層同時押出により形成すれば、半導電性樹脂押出層6bと帰路絶縁層7の界面に空隙が発生するおそれがないので、より帰路絶縁性能及びその信頼性を向上させることができる。
【0043】
この実施形態の場合も、帰路外部半導電層8は、半導電性テープ巻きにより形成することもできるし、半導電性樹脂の押出成形により形成することもできるし、半導電性樹脂の押出層の上に半導電性テープ巻き層を設けることにより形成することもできる。帰路外部半導電層8を半導電性樹脂の押出により形成する場合は、帰路内部半導電層の半導電性樹脂押出層6bと帰路絶縁層7と帰路外部半導電層の半導電性樹脂押出層の3層を同時押出により形成することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る電力用直流同軸ケーブルの一実施形態の要部を示す、(A)は横断面図、(B)は縦断面図。
【図2】本発明に係る電力用直流同軸ケーブルの他の実施形態の要部を示す横断面図。
【図3】電力用直流同軸ケーブルを示す横断面図。
【図4】従来の電力用直流同軸ケーブルの要部を示す、(A)は横断面図、(B)は縦断面図。
【符号の説明】
【0045】
1:主導体
2:主内部半導電層
3:主絶縁層
4:主外部半導電層
5:帰路導体
6:帰路内部半導電層
6a:半導電性テープ巻き層
6b:半導電性樹脂押出層
7:帰路絶縁層
8:帰路外部半導電層
9:鉛被
10:防食層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心に主導体を有し、その外側に主内部半導電層、主絶縁層、主外部半導電層を順次介して多数の帰路導体素線を同心撚りしてなる帰路導体を有し、その外側に帰路内部半導電層、帰路絶縁層、帰路外部半導電層を順次有する電力用直流同軸ケーブルにおいて、前記帰路内部半導電層が、帰路導体上に押出成形された半導電性樹脂押出層からなることを特徴とする電力用直流同軸ケーブル。
【請求項2】
中心に主導体を有し、その外側に主内部半導電層、主絶縁層、主外部半導電層を順次介して多数の帰路導体素線を同心撚りしてなる帰路導体を有し、その外側に帰路内部半導電層、帰路絶縁層、帰路外部半導電層を順次有する電力用直流同軸ケーブルにおいて、前記帰路内部半導電層が、帰路導体上に設けられた半導電性テープ巻き層と、その上に押出成形された半導電性樹脂押出層とからなることを特徴とする電力用直流同軸ケーブル。
【請求項3】
帰路内部半導電層の半導電性樹脂押出層と、帰路絶縁層とが、2層同時押出により形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の電力用直流同軸ケーブル。
【請求項4】
帰路外部半導電層が、帰路絶縁層上に押出成形された半導電性樹脂押出層からなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の電力用直流同軸ケーブル。
【請求項5】
帰路外部半導電層が、帰路絶縁層上に押出成形された半導電性樹脂押出層と、その上に設けられた半導電性テープ巻き層とからなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の電力用直流同軸ケーブル。
【請求項6】
帰路内部半導電層の半導電性樹脂押出層と、帰路絶縁層と、帰路外部半導電層の半導電性樹脂押出層とが、3層同時押出により形成されていることを特徴とする請求項4又は5記載の電力用直流同軸ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−300093(P2008−300093A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−142795(P2007−142795)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(502308387)株式会社ビスキャス (205)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)