説明

電力系統における高調波成分および逆相成分の分析方法

【構成】固定周期でサンプリングして得たデータ列を、ある位相角から一定位相角範囲分切り出し、その切り出し開始位相角を任意の位相角から180°隔てた位相角まで等間隔で異ならせて複数のデータ列を抽出し、各データ列について求めた高調波成分のベクトルをベクトル平均することによって、周波数非同期性に起因する誤差を相殺して高調波成分を求める。また、互いに位相角が90°離れた2つのデータ列について逆相成分ベクトルを求め、これをベクトル加算することによって、周波数非同期性に起因する誤差を相殺して逆相成分を求める。
【効果】固定周期のサンプリングにも拘らず、系統の商用電源周波数の変動に起因する誤差を極小化できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、電力系統において高調波成分を分析する方法および電力系統において逆相成分を分析する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、電力系統において、電源品質の管理または制御を行う上で、高調波成分や逆相成分の測定が要求される。
【0003】従来、電力系統の高調波成分または逆相成分を分析する際には、系統側の商用電源周波数が変動するため、これに追従してサンプリングを行い、サンプリングデータ列について所定の演算を行うことによって高調波成分や逆相成分を算出している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところが、実時間軸において前記高調波成分および逆相成分を評価する場合には、サンプリング周期を一定としなければならない。このように商用電源周波数に同期しない固定サンプリングによるデータ列を利用して、高調波成分および逆相成分を分析する場合、周波数非同期性に起因する誤差が生じる。この発明の目的は、周波数非同期性に起因する誤差を極小化する、電力系統における高調波成分の分析方法および電力系統における逆相成分の分析方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】今、平衡三相交流電流の1相であるIaの高調波成分を、定格系統周波数(50Hz)の36倍である1800Hzでサンプリングし、位相角10°毎の1周期分のサンプリングデータを基に、フーリエ変換を行って分析するものとし、基本波に対し5%の第5次高調波成分を位相0°で注入し、基本波周波数の周波数変動Δfを0.5Hzとする。そして、図1に示すように、サンプリングの開始位置または既にサンプリングされたデータからの切り出し開始位置(以下サンプリング位相角αと言う。)を変化させたとき、見掛け上の第5次高調波成分のベクトル軌跡は図2に示すようになる。ここでベクトルの基準は基本波位相である。図2において各プロット点はサンプリング位相角αを0°から350°まで10°毎に変化させたときの見掛け上の第5次高調波成分のベクトルである。このように、サンプリング位相角αを0°から350°まで変化させる間に、図2に示すベクトル軌跡を2周し、その間に見掛け上の第5次高調波成分の含有率は±0.5%程度変動する。
【0006】この様相から、見掛け上の高調波成分は、位相角180°分(図2に示すベクトル軌跡の1周分)のデータをベクトル加算すれば、周波数変動またはサンプリング位相角の変動による影響を略相殺できるものと推定される。一方、真の高調波成分は、固定周期のサンプリングであるため、多少の誤差を含むが、基本波成分に対して常に一定のベクトルであることが予想される。
【0007】そこで、この発明の電力系統における高調波成分の分析方法は、電力系統の定格系統周波数の一周期の整数分の一の固定周期で被測定信号をサンプリングしてデータ列を求め、或る位相角から一定位相角範囲分のデータ列を切り出し、その切り出し開始位相角を任意の位相角から180°隔てた位相角まで等間隔で異ならせて複数のデータ列を抽出し、各データ列についてフーリエ変換を行って高調波成分を求めるとともに、基本波成分の位相を基準として各高調波成分のベクトルをベクトル回転させ、前記各データ列毎に求めた高調波成分のベクトルを平均して、補正後の高調波ベクトルを求めることを特徴とする。
【0008】次に、上述の場合と同様の条件で平衡三相電流の逆相成分を求める場合を考える。先ず、電流Ia,Ib,Icの各相についてそれぞれフーリエ変換し、各相のベクトルを求め、対称座標法により正相成分と逆相成分を求め、逆相電流I2のベクトルを正相電流I1 を基準にして表す。そして、図1に示したサンプリング位相角αを10°毎に変化させ、また周波数fを49.5〜50.5Hzの範囲で0.1Hz毎に変化させれば、逆相電流ベクトルI2 の軌跡は図3に示すようになる。すなわちΔf=±0.5Hzで約0.5%の逆相電流成分が発生し、そのベクトルは大きさを変えないままサンプリング位相角αにより位相回転する。ここで注目すべきことは、α=0〜350°の変化により図3に示した同心円上を2周回転することである。
【0009】この関係から、位相角が90°離れた二つのサンプリングデータ列を基に、各々正相成分を基準にした逆相成分ベクトル求め、両ベクトルをベクトル加算することによって、周波数変動またはサンプリング位相角の変動による影響を相殺できるものと推定される。
【0010】そこで、この発明の電力系統における逆相成分の分析方法は、電力系統の定格系統周波数の一周期の整数分の一の固定周期で被測定信号をサンプリングしてデータ列を求め、互いに位相角が90°離れた二つのデータ列を抽出し、この二つのデータ列毎に正相成分を基準とした逆相成分ベクトルを求め、この二つの逆相成分ベクトルを加算して補正後の逆相成分ベクトルを求めることを特徴とする。
【0011】
【作用】この発明の電力系統における高調波成分の分析方法では、電力系統の定格系統周波数(例えば50Hzまたは60Hz)の1周期の整数分の1の固定周期による被測定信号のサンプリングによりデータ列が求められ、ある位相角から一定位相角範囲分のデータ列が切り出され、その切り出し開始位相角が任意の位相角から180°隔てた位相角まで等間隔で異ならせて複数のデータ列が抽出される。
【0012】そして各データ列についてフーリエ変換により高調波成分が求められる。このようにサンプリングデータ列のある位相角から一定位相角範囲分のデータ列についてフーリエ変換を行うことによって、その一定位相角範囲分のデータ列に基づく高調波成分が求められるが、前記複数のデータ列は、その切り出し開始位相角が任意の位相角から180°隔てた位相角まで等間隔で異なっている。そのため、各データ列について求められた高調波成分の、基本波成分の位相を基準とするベクトルがベクトル平均されることによって、図2に示した周波数変動と切り出し開始位相角(サンプリング位相角α)による見掛け上の高調波成分の変動が相殺され、これにより周波数非同期性に起因する誤差のない正確な高調波成分の分析が可能となる。
【0013】また、この発明の電力系統における逆相成分の分析方法では、電力系統の定格系統周波数の1周期の整数分の1の固定周期による被測定信号のサンプリングによりデータ列が求められ、互いに位相角が90°離れた2つのデータ列が抽出され、この2つのデータ列毎に正相成分を基準とした逆相成分ベクトルが求められる。この2つの逆相成分ベクトルは、元になるデータ列の位相角が90°離れているため、図3に示した同心円上のベクトル軌跡のうち点対称の位置関係となる(サンプリング位相角αの1周によりベクトル軌跡は同心円上を2周する)。従ってこのようにして求められた2つの逆相成分ベクトルが加算されることによって、周波数非同期性に起因する誤差が相殺されて、正確な逆相成分の分析が可能となる。
【0014】
【実施例】この発明の実施例である測定装置の構成をブロック図として図4に示す。図4においてローパスフィルタ1a,1b,1cは三相電流の検出信号(Ia),(Ib),(Ic)を入力し、それぞれローパスフィルタリングを行う。そのカットオフ周波数は、通常サンプリング周波数に基づく折り返し誤差が生じないように定める。マルチプレクサ2はローパスフィルタ1a,1b,1cのうち何れか1つを選択する。サンプルホールド回路3はマルチプレクサ2により選択された入力信号を一定周期でサンプルホールドし、A/Dコンバータ4はこれをディジタルデータに変換する。CPU6はROM7にあらかじめ書き込んだプログラムを実行して、後述する処理によって高調波成分の分析および逆相成分の分析を行う。CPU6はI/Oポート5を介してマルチプレクサ2、サンプルホールド回路3およびA/Dコンバータ4に対し制御信号を出力するとともに、A/Dコンバータ4により求められたディジタルデータを読み取る。RAM8はサンプリングデータの記憶および各種演算処理のためのワーキングエリアとして用いる。操作パネル10は高調波成分の測定と逆相成分の測定のモード切り替えスイッチを含むキーボードと測定結果の表示を行う表示器から成り、CPU6はインタフェース9を介してキーの読取および測定結果の表示出力制御を行う。プリンタ12は測定結果の印字記録を行う装置であり、CPU6はインタフェース11を介して測定結果の印字制御を行う。
【0015】次に、図4に示した測定装置におけるCPU6の処理手順を図5および図6に示す。図5は高調波成分測定時の処理手順であり、先ず、所定の相電流の検出信号である入力信号を一定データ数サンプリングする。例えば定格系統周波数が50Hzであれば、位相角10°毎の周期、すなわち1800Hzの周波数でサンプリングを行う。その後、それぞれ180°分のデータ列を、位相角10°毎にずらせて基本波周波数の1周期に亘って抽出する。これにより36種のデータ列を得る。その後、各データ列毎に離散的フーリエ変換(DFT)を行い、基本波成分と各高調波成分のベクトルを求める。そして、基本波成分のベクトルを基準にして目的の高調波成分(ここでは第5次高調波成分)のベクトルを回転させる。その後、このようにして36種のデータ列について求めた第5次高調波成分のベクトルをベクトル平均して、周波数非同期性に起因する誤差を伴わない第5次高調波成分のベクトルを求める。
【0016】尚、上述の例では、10°毎の位相角でサンプリングを行い、切り出し開始位相角を10°毎に異ならせることによって、36種のデータ列を抽出するようにしたが、切り出し開始位相角のずらせる間隔はサンプリング周期に等しくする必要はなく、例えば、30°毎に異ならせて、12種のデータ列を抽出するようにしてもよい。
【0017】図6は逆相成分測定時の処理手順であり、先ず、三相電流の各検出信号である三つの入力信号について、それぞれ一定データ数サンプリングする。例えば定格系統周波数が50Hzであれば、位相角10°毎の周期、すなわち1800Hzの周波数でサンプリングを行う。その後、各相毎に互いに位相角が90°離れた2つのデータ列を抽出し、両データ列について逆相成分のベクトルを対象座標法により算出する。そして、それぞれ正相成分を基準にした2つの逆相成分のベクトルをベクトル加算することによって、周波数非同期性に起因する誤差を伴わない逆相成分を求める。
【0018】
【発明の効果】この発明の電力系統における高調波成分の分析方法では、電力系統の定格系統周波数の1周期の整数分の1の固定周期で被測定信号をサンプリングして得たデータ列を基にして、系統の商用電源周波数の変動に拘らず、周波数非同期性に起因する誤差を極小にして高調波成分を求めることができる。
【0019】また、この発明の電力系統における逆相成分の分析方法では、電力系統の定格系統周波数の1周期の整数分の1の固定周期で被測定信号をサンプリングして得たデータ列を基にして、系統の商用電源周波数の変動に拘らず、周波数非同期性に起因する誤差を極小にして逆相成分を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】三相交流電流波形とサンプリング位相角および1周期分のサンプリングデータとの関係を示す図である。
【図2】第5次高調波のベクトル軌跡の例を示す図である。
【図3】逆相成分のベクトル軌跡の例を示す図である。
【図4】実施例に係る測定装置の構成を示すブロック図である。
【図5】高調波成分測定時の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】逆相成分測定時の処理手順を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】電力系統の定格系統周波数の一周期の整数分の一の固定周期で被測定信号をサンプリングしてデータ列を求め、或る位相角から一定位相角範囲分のデータ列を切り出し、その切り出し開始位相角を任意の位相角から180°隔てた位相角まで等間隔で異ならせて複数のデータ列を抽出し、各データ列についてフーリエ変換を行って高調波成分を求めるとともに、基本波成分の位相を基準として各高調波成分のベクトルをベクトル回転させ、前記各データ列毎に求めた高調波成分のベクトルを平均して、補正後の高調波ベクトルを求めることを特徴とする電力系統における高調波成分の分析方法。
【請求項2】電力系統の定格系統周波数の一周期の整数分の一の固定周期で被測定信号をサンプリングしてデータ列を求め、互いに位相角が90°離れた二つのデータ列を抽出し、この二つのデータ列毎に正相成分を基準とした逆相成分ベクトルを求め、この二つの逆相成分ベクトルを加算して補正後の逆相成分ベクトルを求めることを特徴とする電力系統における逆相成分の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開平6−194395
【公開日】平成6年(1994)7月15日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−342040
【出願日】平成4年(1992)12月22日
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)