説明

電力系統安定化装置

【課題】低損失で保守が容易な有効電力と無効電力の供給・吸収が可能な電力系統安定化装置を提供する。
【解決手段】電力系統に接続され、電力系統の動揺を抑制して安定化させる電力系統安定化装置10であって、蓄電装置として用いる電気二重層キャパシタ13と、電気二重層キャパシタに接続され、直流を交流に、交流を直流に変換する電力変換装置14と、電力変換装置を制御する制御手段12とを備え、制御手段は、電力系統の状態量に基づいて、有効電力制御目標値および無効電力制御目標値を演算する有効・無効電力制御目標値演算部12aと、有効・無効電力制御目標値演算部によって演算された有効電力制御目標値と無効電力制御目標値に基づいて、電力変換装置から出力する出力電圧の振幅および電力系統電圧との位相差の指令値を演算する振幅・位相差指令値演算部12bとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統安定化装置に関し、特に、事故などにより発生した電力系統の動揺を抑制し電力系統を安定化させる電力系統安定化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の電力系統は、電源立地の困難化による電源の遠隔化・偏在化と需要の都市部への集中化に伴い、長距離重潮流送電線が増加する傾向にある。送電線の距離が長く重潮流である程、電力系統を安定化させることが困難になるため、その対策の必要性が増してきている。
【0003】
電力系統を安定化させるためには、送電線新設などの電力系統の増強が有効であるが、送電線の建設には莫大な投資が必要となる。送電線建設と比べて比較的安価で工期的にも比較的短期間で設置が可能な電力系統安定化装置の設置が次善の策として考えられる。
【0004】
電力系統の事故等の様々な要因により、電力系統のエネルギーバランスが崩れると電力系統の発電機が加速または減速し電力系統の動揺が発生する。この動揺を抑制し電力系統を安定化させるためには、電力系統のエネルギーのアンバランスを縮小することが有効である。電力系統の動揺に応じた有効電力の適切な供給・吸収による有効電力補償を行うことで電力系統でのエネルギーのアンバランスを軽減できる。また、無効電力の適切な供給・吸収による無効電力補償を行い電力系統の電圧を維持することで電力系統でのエネルギーの流れを制御し、電力系統のエネルギーバランスを改善できる。
【0005】
電力系統を安定化させる方法は、上記に示すとおり有効電力補償と無効電力補償があるが、電力系統の動揺の原因となるエネルギーアンバランスを直接的に解消する有効電力補償の効果が一般的に高いとされている。
【0006】
有効電力および無効電力補償が可能な装置としては、超電導電力貯蔵装置(SMES)、フライホイール発電機などが提案されている。また、無効電力補償のみが可能な装置としては、特許文献1に開示されるような自励式無効電力補償装置(STATCOM)や静止型無効電力補償装置(SVC)などの無効電力補償装置がある。これらのうち、SMES・フライホイール発電機・STATCOMは、各々、蓄電装置である超電導コイル・フライホイール・電解コンデンサに蓄えられたエネルギーを電力変換装置等により任意の交流電力に変換し、有効および無効電力補償、または無効電力補償を行うものである。
【0007】
電力系統安定化装置とは目的が異なる装置であるが、電力系統事故時に電力系統の電圧が低下した際、電圧低下による負荷への影響を回避するため、事故検出後、即座に負荷を電力系統から切離し、適正な電圧で電力を供給することを目的とした瞬低補償装置において、特許文献2に開示されるように、その蓄電装置に電気二重層キャパシタが適用されており、数秒程度の有効電力の供給を可能としている。しかし、この瞬低対策装置においては、電力系統の安定化に必要な大容量の有効電力の供給は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−61249号公報
【特許文献2】特開2009−27844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
有効電力補償が可能なSMES・フライホイール発電機には、蓄電装置の損失が大きく、保守上の負担が大きいという問題がある。つまり、SMESはその蓄電装置である超電導コイルの極低温状態を維持するため冷却損失が発生する。フライホール発電機は回転機であるため、軸受け損失が発生し、各々、装置としての総合効率は80〜90%程度である。また、SMESはその極低温状態を維持する補機類の、フライホイール発電機は磨耗する回転部の定期的なメンテナンスが必要であるなど保守上の負担が大きい。これらの課題があるためSMES・フライホイール発電機は電力系統安定化装置としての実用レベルでの適用例はない。
【0010】
さらに、特許文献1に開示されるようなSTATCOMは、蓄電装置に電解コンデンサを用いており、SMESのような極低温状態の維持・そのための冷却装置のメンテナンスやフライホイール発電機のような可動部の定期的なメンテナンスを必要としないことから上記の有効電力補償装置と比べて保守が容易であること、また、蓄電装置であるコンデンサにおいて、充電後の待機中の損失はほとんどなく、装置としての損失を低く抑えられることから、広く電力系統に適用されている。しかし、一方で、STATCOMは、蓄電装置である電解コンデンサのエネルギー密度が低いため、電力系統の動揺周期と同じ1〜2秒周期での有効電力の供給・吸収ができず、安定化効果が高い有効電力補償はできないという課題があった。
【0011】
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、有効電力と無効電力の供給・吸収が可能な電力系統安定化装置を提供することにある。すなわち、本発明の電力系統安定化装置は、事故検出直後に系統事故検出部によって母線電圧および線路潮流等事故時に急変する情報から系統事故を検出し、制御目標値を強制的に最大の吸収量となるよう強制制御して電力系統安定化効果が高い有効電力を補償することができるものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る電力系統安定化装置は、上記の目的を達成するため、次のように構成される。
第1の電力系統安定化装置(請求項1に対応)は、電力系統に接続され、前記電力系統の動揺を抑制して安定化させる電力系統安定化装置であって、蓄電装置として用いる電気二重層キャパシタと、該電気二重層キャパシタに接続され、直流を交流に、交流を直流に変換する電力変換装置と、該電力変換装置を制御する制御手段とを備え、該制御手段は、前記電力系統の状態量に基づいて、有効電力制御目標値および無効電力制御目標値を演算する有効・無効電力制御目標値演算部と、前記有効・無効電力制御目標値演算部によって演算された前記有効電力制御目標値と前記無効電力制御目標値に基づいて、前記電力変換装置から出力する出力電圧の振幅および電力系統電圧との位相差の指令値を演算する振幅・位相差指令値演算部とを有することを特徴とする。
第2の電力系統安定化装置(請求項2に対応)は、上記の構成において、好ましくは、前記電力系統の状態量は、前記有効電力制御用入力信号としての母線周波数または発電機速度であり、前記無効電力制御用入力信号としての母線電圧であることを特徴とする。
第3の電力系統安定化装置(請求項3に対応)は、上記の構成において、好ましくは、前記有効・無効電力制御目標値演算部は、系統事故を検出する系統事故検出部と、前記母線周波数または発電機速度に基づいて周波数変動を検出する周波数変動検出部と、前記周波数変動検出部から検出される周波数変動に基づいて有効電力制御目標値を算定する有効電力制御目標値算定部と、事故時と平常時との制御を切り替える事故時・平常時制御切替部とを備え、前記事故時・平常時制御切替部は、前記事故時には、前記有効電力制御目標値を強制的に最大の吸収量とするよう演算するように制御を切り替えることを特徴とする。
第4の電力系統安定化装置(請求項4に対応)は、上記の構成において、好ましくは、前記事故時・平常時制御切替部は、前記事故時の制御を、発電機が減速を開始する前に終了させ、平常時の制御に切り替えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電気二重層キャパシタを蓄電装置として用いることで、有効電力と無効電力の供給・吸収が可能であり、既存の有効・無効電力補償装置と比べて損失が少なく、保守が容易で実用的な電力系統安定化装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る電力系統安定化装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す有効・無効電力制御目標値演算部を示すブロック図である。
【図3】図1に示す制御装置での制御の原理を示す図である。
【図4】図1に示す電力系統安定化装置の等価回路図である。
【図5】図1に示す電力系統安定化装置における事故時強制制御を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
まず、本実施形態に係る電力系統安定化装置が接続された電力系統の構成について説明する。図1は、電力系統の一部を示しており、母線1と、母線1が接続され、発電機を含む部分電力系統2とから概略構成されている。この電力系統に本発明による電力系統安定化装置が接続されている。電力系統安定化装置10は、電力系統情報検出部11と、制御装置12と、電気二重層キャパシタ13と、自励式変換装置14と、変圧器15とを有している。電力系統安定化装置10は、部分電力系統2に接続された母線1に変圧器15を介して接続されている。また、母線1および部分電力系統2内の送電線・変圧器等の線路には、電力系統情報を検出する電力系統情報検出部11が接続されており、電力系統情報検出部11からの信号は、制御装置12に入力されている。
【0016】
電力系統情報検出部11は、母線1ならびに周辺系統の情報、すなわち、母線1ならびに周辺系統の状態量である母線周波数または発電機速度、母線電圧、線路潮流等を電力系統の状態量として検出する装置である。本実施の形態では、母線周波数または発電機速度が有効電力制御用入力信号として、母線電圧が無効電力制御用入力信号として、線路潮流および母線電圧が事故検出用入力信号として、それぞれ電力系統情報検出部11から制御装置12に入力されるものとした。
【0017】
ついで、制御装置12に入力される有効電力制御用入力信号と無効電力制御用入力信号について説明する。
有効電力制御目標値Pおよび無効電力制御目標値Qを演算するための有効電力制御用入力信号および無効電力制御用入力信号は、系統解析により、発電機の動揺や電圧の動きを直接捉えることのできる系統状態の変化量を選択する必要がある。汎用性があり(設置個所の制約が少なく)、最もシンプルな信号としては、電力系統安定化装置設置母線から得られる情報である母線周波数および母線電圧が考えられる。これらの電力系統情報に応じ、電力系統の有効・無効電力の変化を補償するように電力系統安定化装置10から有効電力と無効電力を供給・吸収し、電力系統を安定化させる。
【0018】
なお、一般に、有効電力補償装置はその効果を得るためには発電機の近傍への設置が必要であり、発電所に設置する場合は発電機の情報を得やすいことから、有効電力補償装置の機能を有する本実施形態に係る電力系統安定化装置10は、有効電力制御用の信号として、母線周波数の代わりに発電機速度を用いることも考えられる。また、電力系統安定化装置10は、電力系統の事故時の制御が主な目的であることから、事故発生を確実に検出し、事故直後の安定化制御として効果の高い有効電力吸収の応答性を上げるため、事故時急激に低下する母線電圧ならびに急激に減少する発電機や送電線などの有効分潮流を補助的な入力信号として組み合わせて利用することも考えられる。
【0019】
制御装置12は、有効電力制御用入力信号と無効電力制御用入力信号に基づいて、有効電力制御目標値Pおよび無効電力制御目標値Qを演算する有効・無効電力制御目標値演算部12aと、有効・無効電力制御目標値演算部12aによって演算された有効電力制御目標値Pと無効電力制御目標値Qに基づいて、自励式変換装置14から出力される出力電圧の振幅VOUTおよび系統電圧Vsとの位相差θの指令値を演算する振幅・位相差指令値演算部12bを備えている。
【0020】
電気二重層キャパシタ13は、既存のSTATCOMに用いられている電解コンデンサと比べ、約100倍のエネルギー密度があるため、同容量では、約100倍の時間の有効電力の供給が可能である。
【0021】
自励式変換装置14は、直流を交流に変換し、交流を直流に変換する電力変換装置であり、例えば素子に流れる電流をオン・オフできる機能を持つGTO(gate turn−off thyristor)やIGBT(insulated gate bipolar transistor)などのスイッチング素子を使用したインバータで構成される。自励式変換装置14は、任意の振幅、位相および周波数の電圧波形を作る機能を有している。
【0022】
有効・無効電力制御目標値演算部12aについて図2を用いて説明する。
有効・無効電力制御目標値演算部12aは、電力系統の線路潮流や母線電圧等に基づいて系統事故を検出する系統事故検出部20と、入力される母線周波数または発電機速度に基づいて周波数変動を検出する周波数変動検出部21と、周波数変動検出部21から検出される周波数変動に基づいて有効電力制御目標値を算定する有効電力制御目標値算定部24とを備えている。有効電力制御目標値算定部24は、事故時と平常時の制御を切り換える事故時・平常時制御切替部24aを有している。
また、電気二重層キャパシタ13の直流電圧VDや有効電力出力等に基づいて電気二重層キャパシタ13の充電量を維持制御する目標値を算定するための充電量維持制御目標値算定部26を有している。
また、有効電力制御目標値算定部24からの出力と充電量維持制御目標値算定部26からの出力に基づいて有効電力の制御目標値を合成する有効電力制御目標値合成部27を備えている。
さらに、入力される母線電圧に基づいて電圧変動を検出する電圧変動検出部28と、電圧変動検出部28から出力される電圧変動に基づいて無効電力制御目標値を算定する無効電力制御目標値算定部29を備えている。
さらにまた、有効電力制御目標値合成部27からの出力と無効電力制御目標値算定部29からの出力に基づいて有効電力制御目標値と無効電力制御目標値を出力が可能な容量以下になるように合成して有効電力制御目標値Pと無効電力制御目標値Qを出力する制御目標値合成部30を備えている。
【0023】
なお、継続的な有効電力補償のためには、電気二重層キャパシタ13の蓄電量を一定に保つ制御も必要であり、これらの条件を組合せて最適な制御目標を演算することが必要である。そのために、有効・無効電力制御目標値演算部12aは、電気二重層キャパシタ13の蓄電量を検出し、その蓄電量も含めての制御目標の演算を行う。
【0024】
次に、振幅・位相差指令値演算部12bにおける制御原理を図3を用いて説明する。図3(a)は、系統電圧Vsと出力電圧VOUTの波形を示した図である。図3(b)は、有効電力Pと無効電力Qと皮相電力Sの関係をベクトル図によって示した図である。図3(c)は、有効分をd軸に対応させ、無効分をq軸に対応させて出力電圧VOUTと出力電流IOUTと系統電圧Vsとの関係をベクトルを用いて示した図である。図3(b)と図3(c)において記号δはIOUTの系統電圧Vsに対する力率角を示す。図3において、系統電圧Vsと出力電圧VOUTの電圧差はΔVであり、位相差はθであるとする。
【0025】
また、自励式変換装置14は、図4に示すように2つの交流電圧源E1とE2をリアクタンスXtを介して接続した形で等価的に表すことができる。ここで、リアクタンスXtは変圧器15の等価リアクタンスである。
【0026】
このとき、出力する有効電力制御目標値Pと無効電力制御目標値Qは、出力電圧VOUTと系統電圧Vsとこれらの位相差θと変圧器15によって生じるリアクタンスXtを用いて、式(1)、式(2)のように表される。
【0027】
有効電力制御目標値P=Vs・IOUT・cosδ
=(VOUT・Vs・sinθ)/Xt (1)
無効電力制御目標値Q=Vs・IOUT・sinδ
=(VOUT・Vs・cosθ−Vs)/Xt (2)
上記を満たす自励式変換装置14への指令値VOUT,θは、式(3)、式(4)のように表される。
OUT=(Xt/Vs)×√((Q+(Vs/Xt))+P) (3)
θ=tan−1(P/(Q+(Vs/Xt))) (4)
なお、系統安定化装置の容量=最大の皮相電力Smaxは、式(5)で表される。
Smax≧(Vs/Xt)×√(VOUT+Vs−2VOUT・Vscosθ)
(5)
【0028】
従って、制御装置12では、有効・無効電力制御目標値演算部12aで母線周波数または発電機速度と母線電圧から有効電力制御目標値P及び無効電力制御目標値Qを求める。そして、振幅・位相差指令値演算部12bで式(3)と式(4)を用いて有効電力制御目標値P及び無効電力制御目標値Qから指令値VOUT、θを算出する。
【0029】
次に電力系統安定化装置10での実際の制御について説明する。まず、通常時の制御について説明する。制御装置12による制御によって自励式変換装置14が電気二重層キャパシタ13を充電する。そして、その直流電圧から自励式変換装置14を用いて、電力系統とは異なる電圧の交流電圧を制御装置12で算出した指令値VOUTに基づいて作り出し、母線1との電圧差によって無効電力を出力するように制御している。また、電力系統安定化装置10では、有効電力を出力するため、出力電圧の電力系統電圧との位相差を制御装置12で算出した指令値θに基づいて制御し、母線1との位相差により有効電力を出力する制御を行う。また、有効・無効電力制御目標値演算部12aは、電気二重層キャパシタ13の直流電圧VDまたは有効電力出力等を入力し、電気二重層キャパシタ13の電圧を制御する。また、有効・無効電力制御目標値演算部12aは、電力系統情報検出部11より事故検出用入力信号を入力し、事故発生時に集中的に有効電力を電力系統より吸収する強制制御を行う。強制制御については後に詳しく述べる。
【0030】
次に、事故が検出された際の有効電力制御方法を図5を参照して説明する。図5(a)は、系統事故後の周波数変化を示す図であり、図5(b)は、電力系統安定化装置10の有効電力出力を示す図である。
【0031】
事故時制御(近傍事故対策)では、発電機の加減速等の動揺は母線周波数または発電機の回転数の増減として現れ、電気的には周波数の増減として現れるため、発電機の動揺現象を捉えるための電力系統情報として母線周波数または発電機速度が有効であるのは前述のとおりである。発電機は事故発生直後から加速を開始するが、発電機速度および母線周波数は、図5(a)の曲線C1に示すように、点線C2で示される母線電圧や発電機近傍の線路潮流等事故時に急変する情報と比べて、発電機の持つ慣性により事故後緩やかに変化する。よって、母線周波数または発電機速度を制御用入力信号としその変化に応じて有効電力制御目標値Pを演算した場合、図5(b)の点線C3で示されるように、有効電力の吸収量は周波数の増加とともに徐々に増加するため、最も有効電力補償量を多く必要とする事故直後に、安定化効果の高い有効電力の吸収量を多く得られない。
【0032】
上記のような有効電力の吸収量が多く得られないことを補うため、本実施の形態では事故検出直後の所定時間の制御(強制制御)と、この所定時間を経過した後の平常時制御とに分けて制御を行う。すなわち、事故検出直後は、系統事故検出部20によって、母線電圧および線路潮流等事故時に急変する情報から系統事故を検出し、事故直後、有効電力目標値算定部24によって、図5(b)の曲線C4で示すように安定化効果の高い有効電力補償の制御目標値を強制的に最大の吸収量とするよう演算し、強制制御を行う。
【0033】
電力系統安定化装置10は、発電機の加速および減速を打ち消す制御をするのが基本であるが、事故直後の強制制御は、有効電力の吸収により加速する発電機のエネルギーを吸収し減速させる制御のため、発電機が減速を開始する時点まで強制制御を継続すると減速を助長し逆効果となる。また、母線周波数等より演算する有効電力の目標値は、立ち上りは緩やかではあるものの、発電機が減速に転じる前の加速中に最大量に達するよう設定することから、強制制御は、事故検出後、母線周波数等から演算される目標値が最大となるまでは最低限継続し、発電機が減速を開始する前(動揺周期の1/4前、動揺周期が2秒であれば事故直後から0.5s前)には確実にリセットする必要がある。そのリセットをするタイミングを図5(b)の符号trで示している。
【0034】
ついで、上記事故検出直後の所定時間を経過後に、事故時・平常時制御切替部24aの切替により平常時制御に移行する。この平常時制御は、先に説明した通常時の制御と同じ制御とすることができ、上記強制制御に引き続く制御として行うが、遠方事故時、前述の事故検出ができない場合でも、系統の安定度が維持できない場合に母線周波数または発電機速度が閾値を超える場合は、制御する。なお、閾値はシミュレーションなどから、通常運用時の系統動揺で動作せず、事故時など系統の安定度が問題となる場合には動作できる値に設定する。
【0035】
以上のように、電力系統安定化装置10では、制御装置12による制御によって電気二重層キャパシタ13を充電し、その直流電圧から自励式変換装置14を用いて、電力系統とは異なる電圧の交流電圧を作り出し、電力系統との電圧差によって無効電力を出力するように制御している。また、電力系統安定化装置10では、有効電力を出力するため、出力電圧の位相を制御し、電力系統との位相差により有効電力を出力する制御を行う。
【0036】
以上により、本実施形態に係る電力系統安定化装置10では、電気二重層キャパシタを用いているために、既存の有効・無効電力補償装置のような保守・点検の問題がなく、安定化効果の高い有効・無効電力補償装置の電力系統への適用の可能性を高めるものである。そして、有効電力の供給が容易であり、事故時の電力補償を応答が遅れずに行える電力系統安定化装置を提供することができる。
【0037】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさおよび配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎず、また数値および有効・無効電力制御目標値P・Qの演算方法等については例示にすぎない。従って本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 母線
2 部分電力系統
10 電力系統安定化装置
11 電力系統情報検出部
12 制御装置(制御手段)
12a 有効・無効電力制御目標値演算部
12b 振幅・位相差指令値演算部
13 電気二重層キャパシタ(蓄電装置)
14 自励式変換装置(電力変換装置)
15 変圧器
20 系統事故検出部
21 周波数変動検出部
24 有効電力制御目標値算定部
24a 事故時・平常時制御切替部
26 充電量維持制御目標値算定部
27 有効電力制御目標値合成部
28 電圧変動検出部
29 無効電力制御目標値算定部
30 制御目標値合成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統に接続され、前記電力系統の動揺を抑制して安定化させる電力系統安定化装置であって、
蓄電装置として用いる電気二重層キャパシタと、
該電気二重層キャパシタに接続され、直流を交流に、交流を直流に変換する電力変換装置と、
該電力変換装置を制御する制御手段とを備え、
該制御手段は、前記電力系統の状態量に基づいて、有効電力制御目標値および無効電力制御目標値を演算する有効・無効電力制御目標値演算部と、前記有効・無効電力制御目標値演算部によって演算された前記有効電力制御目標値と前記無効電力制御目標値に基づいて、前記電力変換装置から出力する出力電圧の振幅および電力系統電圧との位相差の指令値を演算する振幅・位相差指令値演算部とを有することを特徴とする電力系統安定化装置。
【請求項2】
前記電力系統の状態量は、有効電力制御用入力信号としての母線周波数または発電機速度であり、無効電力制御用入力信号としての母線電圧であることを特徴とする請求項1記載の電力系統安定化装置。
【請求項3】
前記有効・無効電力制御目標値演算部は、系統事故を検出する系統事故検出部と、
前記母線周波数または発電機速度に基づいて周波数変動を検出する周波数変動検出部と、前記周波数変動検出部から検出される周波数変動に基づいて有効電力制御目標値を算定する有効電力制御目標値算定部と、事故時と平常時との制御を切り替える事故時・平常時制御切替部とを備え、前記事故時・平常時制御切替部は、前記事故時には、前記有効電力制御目標値を強制的に最大の吸収量とするよう演算するように制御を切り替えることを特徴とする請求項1または2記載の電力系統安定化装置。
【請求項4】
前記事故時・平常時制御切替部は、前記事故時の制御を、発電機が減速を開始する前に終了させ、平常時の制御に切り替えることを特徴とする請求項3記載の電力系統安定化装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate