説明

電力量測定装置およびこれを用いた電力量計の校正方法

【課題】クロックの周波数を高くすることなく、電力量測定値に対するパルス出力の周波数誤差を小さくできる電力量測定装置およびこれを用いた電力量計の校正方法を提供すること。
【解決手段】電力量測定値に比例した周波数を有するパルスを出力する電力量測定装置において、所定のビット長を有し前記周波数を有するパルスを出力するカウンタと、このカウンタのビット長に対して前記周波数を設定するデータのビット長が拡張されるとともに拡張ビット長の数に応じて設けられた複数のレジスタと、前記周波数を設定するデータの上位から前記カウンタのビット長分のデータが取り出されて前記複数のレジスタに設定され、前記複数のレジスタのうち前記周波数を設定するデータの下位から拡張ビット長の数値分のレジスタについては1を加算するレジスタ制御回路と、前記カウンタのデータとして、前記複数のレジスタのデータを選択的に入力するセレクタを設けた電力量測定装置およびこれを用いた電力量計の校正方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力量測定装置およびこれを用いた電力量計の校正方法に関し、詳しくは、被測定電力量計の校正や検定に用いる電力量測定装置の精度の改善に関する。
【0002】
電力量計(積算電力量計)は、測定対象とする電路系統で使用した電力量を測定するための計器であり、その測定結果に基づいて、電気料金の支払いやエネルギー管理が行われている。
【0003】
一般家庭用の電力量計としては交流電力の有効電力を計測するだけの機能を持つ誘導形電力量計が主流であり、業務用施設ではデジタル化された静止形電力量計が多く用いられている。
【0004】
誘導形電力量計は、アラゴの円盤の回転を利用したものであり、電気の流れによって回転する円盤の回転数に基づいて電力を積算し、数値化するように構成されている。
【0005】
ところで、一般の各家庭に設置されている電力量計は、電力会社に対する電気料金の支払根拠として使用されることから、計量法に基づいて基準適合検査・検定に合格した有効期限内のものが用いられる。
【0006】
このような誘導形電力量計の検定にあたっては、基準となる電力信号を被測定電力量計と検定用に校正されたマスタ電力量計に並列に入力し、被測定電力量計が所定回数回転する時間内に出力されるパルス数と、同一時間内にマスタ電力量計から出力されるパルス数とを比較照合することが行われる。
【0007】
図4は、従来のマスタ電力量計の一例を示すブロック図である。図4において、電圧入力部10は、入力電圧を分圧する分圧回路を構成する抵抗11と12の直列回路と、分圧回路の出力電圧を正規化するアンプ13と、正規化されたアンプ13の出力信号をデジタル信号に変換するA/D変換器14と、A/D変換器14の出力データを直流的に絶縁してDSP(Digital Signal Processor)30の一方の入力端子に入力する絶縁素子15とで構成されている。
【0008】
電流入力部20は、入力電流を分流する分流回路を構成する抵抗21と、分流回路の分流出力を正規化するアンプ22と、正規化されたアンプ22の出力信号をデジタル信号に変換するA/D変換器23と、A/D変換器23の出力データを直流的に絶縁してDSP30の他方の入力端子に入力する絶縁素子24とで構成されている。
【0009】
DSP30は演算部を構成するものであり、A/D変換器14の出力に基づいて電圧値の瞬時値を演算する電圧演算機能、A/D変換器23の出力に基づいて電流値の瞬時値を演算する電流演算機能、これらA/D変換器14および23の出力に基づいて電力値の瞬時値を演算する電力演算機能などを備えている。なお、これらの演算は、リアルタイムで行われる。
【0010】
CPU40は、DSP30で演算された電力値とクロック回路70から出力されるクロック周波数に基づき、カウンタ60から出力されるパルスの周波数を計算し、その計算結果をレジスタ50に設定入力する。
【0011】
たとえば、電力量測定値とカウンタ60から出力されるパルスの周波数の関係を5Hz/Wとし、クロックの周波数を66MHzとし、電力量測定値をP(W)とすると、レジスタ50の設定値PFREGは、式(1)のように計算される。
PFREG=66000000/(5*P) (1)
【0012】
カウンタ60は、クロック回路70からクロックが入力されるごとにカウント値を加算し、カウント値がレジスタ50の設定値と等しくなるとパルスを出力端子80に出力するとともにカウント値をクリアし、以降、同様の動作を繰り返す。出力端子80に出力されるパルスの周波数は、クロック回路70から出力されるクロック周波数をレジスタ50の設定値で分周した値になる。
【0013】
図5は図4の動作を説明するタイミングチャートであり、レジスタ50の設定値が3(10進数)のときにおける動作を示していて、(a)はクロックを示し、(b)はカウンタ60のカウント値を示し、(c)はカウンタ60から出力されるパルスの周波数を示している。
【0014】
図5の例では、カウンタ60は、クロック回路70からクロックが入力されるごとにカウント値を加算し、カウント値がレジスタ50の設定値「3」と等しくなるとパルスを出力端子80に出力するとともにカウント値をクリアし、以降、同様の動作を繰り返す。これにより、出力端子80に出力されるパルスの周波数は、クロック回路70から出力されるクロック周波数をレジスタ50の設定値「3」で分周した値になる。
【0015】
特許文献1には、被測定メータとマスタメータで電力を測定することにより出力される電力に比例した計量パルスおよび基準パルスに基づき、基準パルスの係数値に対する計量パルスの係数値の誤差を演算表示する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平7−27842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかし、図4の構成によれば、(1)式より、電力量測定値Pが大きくなると、PFREGの値は小さくなってパルスの周波数出力の分解能が悪くなり、電力量測定値Pに対するパルスの周波数出力の誤差が大きくなる。
【0018】
たとえば、P=1000WのときはPFREG=13200になり、誤差は0ppmであるが、P=999.93Wの場合はPFREG=13200.924になる。小数点以下を切り捨ててPFREG=13200とするとパルス出力の周波数は5000Hzとなるが、パルス出力の周波数の真値は4999.65Hzであることから、その誤差は70ppmとなる。ここでは、小数点以下を切り捨てて計算しているが、小数点以下を四捨五入した場合でも誤差は約1/2に改善されるだけである。
【0019】
さらに、P=1500WのときはPFREG=8800になり、誤差は0ppmであるが、P=1499.83WのときはPFREG=8800.997になる。小数点以下を切り捨ててPFREG=8800とするとパルス出力の周波数は7500Hzとなるが、パルス出力の周波数の真値は7499.15Hzであることから、誤差は113ppmとなる。
【0020】
このような誤差を改善するためには、クロック回路70から出力されるクロックの周波数を高くすることが考えられるが、クロックの周波数を高くすると回路部品として高い周波数に対応した高価な部品を用いなければならない。
【0021】
本発明は、このような従来の問題点に着目したものであり、その目的は、クロックの周波数を高くすることなく、電力量測定値に対するパルス出力の周波数誤差を小さくできる電力量測定装置およびこれを用いた電力量計の校正方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
このような課題を達成する請求項1の発明は、
電力量測定値に比例した周波数を有するパルスを出力するように構成された電力量測定装置において、
所定のビット長を有し、前記周波数を有するパルスを出力するカウンタと、
このカウンタのビット長に対して前記周波数を設定するデータのビット長が拡張されるとともに、拡張ビット長の数に応じて設けられた複数のレジスタと、
前記周波数を設定するデータの上位から前記カウンタのビット長分のデータが取り出されて前記複数のレジスタに設定され、前記複数のレジスタのうち前記周波数を設定するデータの下位から拡張ビット長の数値分のレジスタについては1を加算するレジスタ制御回路と、
前記カウンタのデータとして、前記複数のレジスタのデータを選択的に入力するセレクタ、
を設けたことを特徴とする。
【0023】
請求項2の発明は、
請求項1に記載の電力量測定装置をマスタ電力量計として、基準となる電力信号を被測定電力量計と校正されたマスタ電力量計に並列に入力し、被測定電力量計から所定の時間内に出力されるパルス数と、同一時間内にマスタ電力量計から出力されるパルス数とを比較照合することを特徴とする電力量計の校正方法である。
【0024】
請求項3の発明は、請求項2に記載の電力量計の校正方法において、
前記被測定電力量計はアラゴの円盤の回転を利用した誘導形電力量計であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
これらにより、クロックの周波数を高くすることなく電力量測定値に対するパルス出力の周波数誤差を小さくでき高精度の測定が行える電力量測定装置およびこれを用いた電力量計の校正方法が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施例を示すブロック図である。
【図2】図1のレジスタにおけるデータの説明図である。
【図3】図1の動作を説明するタイミングチャートである。
【図4】従来のマスタ電力量計の一例を示すブロック図である。
【図5】図4の動作を説明するタイミングチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明について、図面を用いて説明する。図1は本発明の一実施例を示すブロック図であり、図4と共通する部分には同一の符号を付けている。図1と図4の相違点は、図1において、レジスタ50が3ビット増えて32ビットになっていること、レジスタ制御回路90とレジスタ101〜108とセレクタ110が追加されていることである。
【0028】
図1において、32ビットのレジスタ50にはレジスタ制御回路90を介して29ビットのレジスタ101〜108が並列に接続され、これらレジスタ101〜108の出力端子はセレクタ110を介してカウンタ60に接続されている。
【0029】
図1のCPU40は、レジスタ50が3ビット増えた分に対応して、電力量測定値Pから求められるレジスタ50の設定値PFREGを、次のように計算する。
PFREG=8*66000000/(5*P) (2)
【0030】
レジスタ制御回路90は、レジスタ50に設定された32ビットを上位29ビットと下位3ビットに分けて、上位29ビットをレジスタ101〜108に設定する。これら8個のレジスタ101〜108のうち、下位3ビットの数値が関わるレジスタには、データに1を加算して設定する。これらレジスタ101〜108に設定されたデータは、セレクタ110で選択されてカウンタ60に入力される。
【0031】
セレクタ110は、カウンタ60がパルスを1回出力するたびにレジスタ101〜108を順番に切り替えて、レジスタ101〜108のデータが順番にカウンタ60に入力されるようにする。
【0032】
図2は、図1のレジスタ50およびレジスタ101〜108におけるデータの説明図である。レジスタ50には、18(10進数)「0000_0000_0000_0000_0000_0000_0001_0010b」が設定されているとする。レジスタ101〜108にはレジスタ50の上位29ビット「0_0000_0000_0000_0000_0000_0001_0010b」を設定するが、レジスタ50の下位3ビットが「010」になっているので、2個のレジスタ107と108には1を加算したデータ「0_0000_0000_0000_0000_0000_0001_0011b」を設定する。
【0033】
図3は図1の動作を説明するタイミングチャートであり、図2のデータ構成に基づいてレジスタ50の設定値が18(10進数)のときにおける動作を示していて、(a)はクロックを示し、(b)はセレクタ110で順番に選択されるレジスタ101〜108を示し、(c)はカウンタ60のカウント値を示し、(d)はカウンタ60から出力されるパルスの周波数を示している。
【0034】
図3において、カウンタ60は、クロック回路70からクロックが入力されるごとにカウント値を加算し、カウント値がセレクタ110で順番に選択されるそれぞれのレジスタ101〜108のデータ値「2」または「3」と等しくなるとパルスを出力端子80に出力するとともにカウント値をクリアし、以降、同様の動作を繰り返す。
【0035】
これにより、出力端子80に出力されるパルスの周波数は、クロック回路70から出力されるクロック周波数をレジスタ101〜108のデータ値「2」または「3」で分周した値の平均値になる。
【0036】
従来例の動作と対比しながら説明する。図1の構成では、前述のように、レジスタ50の設定値PFREGは式(2)に基づいて計算され、たとえば電力量測定値Pが999.93Wのとき、PFREG=105607.925が計算されるが、レジスタ50には小数点以下を切り捨ててPFREG=105607が設定される。この場合のPFREGの上位29ビットは13200になり、下位3ビットは7になる。
【0037】
レジスタ制御回路90は、レジスタ101〜108のうち、1個には13200を設定し、下位3ビットの数値が関わる残りの7個には1を加算した13201を設定する。
【0038】
カウンタ60には、セレクタ110を介してレジスタ101〜108のデータが順番に入力されるので、カウンタ60から出力端子80に出力されるパルスの周波数に関わるデータは、13200が1回、13201が7回になる。カウンタ60から出力端子80に出力されるパルスの周波数に関わるデータが13200のときのパルスの周波数出力は5000Hzであり、13201のときのパルス出力の周波数は4999.621241Hzである。
【0039】
このように、5000Hzが1回、4999.621241Hzが7回繰り返されることから、パルスの周波数出力の平均値は4999.668586Hzとなり、真値である4999.65Hzに対して誤差は3.7ppmとなって、従来に比べて大幅に改善される。
【0040】
カウンタ60のビット長に対し、レジスタ50のビット長を拡張し、レジスタ制御回路90と、拡張したビット長の分(3ビットならば8個)のレジスタ101〜108と、これらのレジスタ101〜108を順番に選択するセレクタ110を追加する。そして、レジスタ制御回路90において、レジスタ50の最上位ビットからカウンタ60のビット長と等しいビット長のデータを、拡張したビット長の分(3ビットならば8個)のレジスタ101〜108に設定する。このとき、レジスタ50の最下位ビットから拡張したビット長のデータの数値(拡張したビット長のデータが「111b」ならば7)個分には1を加算して設定する。
【0041】
このように構成することにより、カウンタ60から出力されるパルスの周波数の平均値は、カウンタ60のビット長に対し拡張したビット長の分だけ分解能が向上し、電力量測定値に対するパルス周波数出力の誤差を小さくできる。
【0042】
そして、このように構成される電力量測定装置をマスタ電力量計として、基準となる電力信号を被測定電力量計と校正されたマスタ電力量計に並列に入力し、被測定電力量計から所定の時間内に出力されるパルス数と、同一時間内にマスタ電力量計から出力されるパルス数とを比較照合することにより、高精度で電力量計の校正や検定が行える。
【0043】
なお、上記実施例では、カウンタ60のビット長を29ビットとし、拡張するビット長を3ビットとしているが、カウンタ60のビット長や拡張するビット長はこの限りではない。
【0044】
以上説明したように、本発明によれば、クロックの周波数を高くすることなく電力量測定値に対するパルス出力の周波数誤差を小さくでき高精度の測定が行える電力量測定装置およびこれを用いた電力量計の校正方法が実現できる。
【符号の説明】
【0045】
10 電圧入力部
20 電流入力部
30 DSP(Digital Signal Processor)
40 CPU
50、100 レジスタ
60 カウンタ
70 クロック回路
80 出力端子
90 レジスタ制御回路
110 セレクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力量測定値に比例した周波数を有するパルスを出力するように構成された電力量測定装置において、
所定のビット長を有し、前記周波数を有するパルスを出力するカウンタと、
このカウンタのビット長に対して前記周波数を設定するデータのビット長が拡張されるとともに、拡張ビット長の数に応じて設けられた複数のレジスタと、
前記周波数を設定するデータの上位から前記カウンタのビット長分のデータが取り出されて前記複数のレジスタに設定され、前記複数のレジスタのうち前記周波数を設定するデータの下位から拡張ビット長の数値分のレジスタについては1を加算するレジスタ制御回路と、
前記カウンタのデータとして、前記複数のレジスタのデータを選択的に入力するセレクタ、
を設けたことを特徴とする電力量測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力量測定装置をマスタ電力量計として、基準となる電力信号を被測定電力量計と校正されたマスタ電力量計に並列に入力し、被測定電力量計から所定の時間内に出力されるパルス数と、同一時間内にマスタ電力量計から出力されるパルス数とを比較照合することを特徴とする電力量計の校正方法。
【請求項3】
前記被測定電力量計はアラゴの円盤の回転を利用した誘導形電力量計であることを特徴とする請求項2に記載の電力量計の校正方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−103073(P2012−103073A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250980(P2010−250980)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【出願人】(596157780)横河メータ&インスツルメンツ株式会社 (43)