説明

電動ウィンチの制御装置

【課題】ラチェット機構が故障したとしても、ドラムの他方向への回転を抑制する。
【解決手段】ドラムに、ロック状態でドラムの一方向への回転を許容しつつ他方向への回転を規制し、リリース状態でドラムの一方向および他方向への回転を許容するラチェット機構を設け、コントローラ50に、リモコン70からのモータ停止信号Stpの入力に伴い、ラチェット機構をロック状態に制御しつつモータ部81を制動制御する駆動制御部51を設けた。これにより、モータ部81の停止時において当該モータ部81に制動力を発生させることができる。よって、モータ部81の停止時にラチェット機構が故障して、ドラムをロック状態にできなくなったとしても、モータ部81の制動力によりドラムを回転し難い状態に保持して、ドラムの他方向への回転を規制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車椅子等の被牽引物を牽引する電動ウィンチの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、福祉車両の後方側には、車椅子(被牽引物)を搭載可能な車椅子搭載スペースが形成されている。この車椅子搭載スペースからは、車外に向けてスロープが引き出されるようになっており、当該スロープによって車外にある車椅子を車椅子搭載スペースに誘導するようにしている。また、車椅子搭載スペースの車両前方側にはフック付きのベルトを備えた電動ウィンチが設置されている。電動ウィンチからベルトを引き出して車椅子の所定箇所にフックを引っ掛け、この状態のもとで電動ウィンチを駆動することで、車椅子を車椅子搭載スペースに容易に誘導できるようになっている。ここで、電動ウィンチは介助者を補助するために設置され、当該電動ウィンチは介助者により操作されるようになっている。
【0003】
このように、車椅子を車椅子搭載スペースに向けて牽引し得る装置としては、例えば、特許文献1に記載された技術が知られている。特許文献1に記載された技術は、車椅子を牽引するベルトが巻き付けられるドラムと、ギアボックスを有する駆動モータ(モータ)とを備えている。そして、ドラムとギアボックスとの間のドラム寄りにはラチェット機構が設けられ、ドラムとギアボックスとの間のギアボックス寄りには電磁クラッチが設けられている。
【0004】
ラチェット機構は、ロック状態においては、ドラムのベルト引出方向(他方向)への回転を阻止する一方でベルト巻取方向(一方向)への回転を許容し、非ロック状態(リリース状態)では、ドラムのベルト引出方向およびベルト巻取方向への回転を許容するようになっている。また、電磁クラッチは、ギアボックスとドラムとの接続状態を外部入力に応じて断続(締結/開放)するようになっている。つまり、電磁クラッチは、モータとドラムとの間の動力伝達を断続できるよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−271661号公報(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1に記載された技術によれば、ラチェット機構のみによって、ドラムの他方向への回転を規制するようにしている。したがって、ラチェット機構が何らかの原因で故障し、ドラムの他方向への回転を規制できなくなった場合には、車椅子がスロープ上にある場合等においては、車椅子が後退してしまうという問題を生じ得る。ここで、車椅子から伝達されるドラムを他方向に回転させる回転力(逆回転力)は、電磁クラッチおよびギアボックスを介してモータに伝達されるため、この逆回転力の伝達経路上に、ドラムの他方向への回転を抑制し得るブレーキ要素(フェイルセーフ機能)を設けることが望ましい。
【0007】
本発明の目的は、ラチェット機構が故障したとしても、ドラムの他方向への回転を抑制することができる電動ウィンチの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電動ウィンチの制御装置は、被牽引物を牽引するベルトが巻き掛けられるドラムと、当該ドラムを回転させるモータとを有する電動ウィンチ、および前記電動ウィンチを制御するコントローラを備えた電動ウィンチの制御装置であって、前記コントローラを介して前記電動ウィンチを駆動制御するために、操作者により操作される操作部材と、前記ドラムに設けられ、ロック状態で前記ドラムの一方向への回転を許容しつつ他方向への回転を規制し、リリース状態で前記ドラムの一方向および他方向への回転を許容するラチェット機構と、前記コントローラに設けられ、前記操作部材からのモータ停止信号の入力に伴い、前記ラチェット機構をロック状態に制御しつつ前記モータを制動制御する駆動制御部と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の電動ウィンチの制御装置は、前記電動ウィンチは、前記ドラムおよび前記モータを締結状態または開放状態とする電磁クラッチと、前記ドラムの回転を検出する回転センサとを備え、前記駆動制御部は、前記操作部材からのモータ停止信号の入力および前記回転センサからの検出信号の入力に伴い、前記電磁クラッチを締結状態に制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電動ウィンチの制御装置によれば、ドラムに、ロック状態でドラムの一方向への回転を許容しつつ他方向への回転を規制し、リリース状態でドラムの一方向および他方向への回転を許容するラチェット機構を設け、コントローラに、操作部材からのモータ停止信号の入力に伴い、ラチェット機構をロック状態に制御しつつモータを制動制御する駆動制御部を設ける。これにより、モータの停止時において当該モータに制動力を発生させることができる。したがって、モータの停止時にラチェット機構が故障して、ドラムをロック状態にできなくなったとしても、モータの制動力(フェイルセーフ機能)によりドラムを回転し難い状態に保持して、ドラムの他方向への回転を規制できる。よって、被牽引物が後退する等の不具合を抑制することができる。
【0011】
本発明の電動ウィンチの制御装置によれば、電動ウィンチは、ドラムおよびモータを締結状態または開放状態とする電磁クラッチと、ドラムの回転を検出する回転センサとを備え、駆動制御部は、操作部材からのモータ停止信号の入力および回転センサからの検出信号の入力に伴い、電磁クラッチを締結状態に制御する。これにより、ドラムとモータとの間に電磁クラッチを備えた電動ウィンチであっても、モータの制動力をドラムに伝達し、当該ドラムの他方向への回転を規制でき、ひいては被牽引物が後退する等の不具合を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a),(b)は、車両に搭載された電動ウィンチの基本動作を説明する説明図である。
【図2】図1の車両を上方から見た本発明のシステム構成を説明する説明図である。
【図3】(a)は車両に設置された操作パネルを示す平面図,(b)は介助者により車外から操作可能なリモコンを示す平面図である。
【図4】電動ウィンチの詳細構造を示す斜視図である。
【図5】図4の電動ウィンチの内部構造(一部)を示す斜視図である。
【図6】図4の電動ウィンチを構成する部材の接続関係を模式的に示す図である。
【図7】コントローラの内部構造を示すブロック図である。
【図8】コントローラのモータ停止動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0014】
図1(a),(b)は車両に搭載された電動ウィンチの基本動作を説明する説明図を、図2は図1の車両を上方から見た本発明のシステム構成を説明する説明図を、図3(a)は車両に設置された操作パネルを示す平面図,(b)は介助者により車外から操作可能なリモコンを示す平面図を、図4は電動ウィンチの詳細構造を示す斜視図を、図5は図4の電動ウィンチの内部構造(一部)を示す斜視図を、図6は図4の電動ウィンチを構成する部材の接続関係を模式的に示す図をそれぞれ表している。
【0015】
図1および図2に示すように、車両10は福祉車両であり、当該車両10の後方側(図中右側)には、被牽引物としての車椅子20を搭載可能な車椅子搭載スペース11が形成されている。車椅子搭載スペース11の車両前方側(図中左側)には、車両10の車幅方向(図2における上下方向)に所定間隔を持って一対の電動ウィンチ30が設置されている。各電動ウィンチ30は、先端側にフック31が装着されたベルト32を備えており、ベルト32は車椅子20を牽引するようになっている。具体的には、各電動ウィンチ30から各ベルト32を引き出して、各フック31を車椅子20の左右側にある一対の前フレーム21にそれぞれ引っ掛け、その状態のもとで各電動ウィンチ30を同期動作させて各ベルト32を引き込むことにより、図中矢印M1に示す方向に車椅子20が移動する。
【0016】
車椅子搭載スペース11の車両後方側には、地面Gと車両10の床面Fとを緩やかな傾斜角度で接続するスロープ12が設置されている。スロープ12は、車両10の走行時においては、床面Fに形成された格納部(図示せず)に格納されている。一方、車両10を停車させてかつバックドア13を開いた状態とし、図示しないスロープ操作スイッチをオン操作することにより、スロープ12は格納部から車外に向けて延出されるようになっている。
【0017】
各電動ウィンチ30を同期動作させて各ベルト32を引き込むことで、図1(b)に示すように車椅子20はスロープ12上を移動していき、やがて車椅子20は、図中破線に示すように床面F上に到達して車椅子搭載スペース11内に搭載される。また、各電動ウィンチ30により各ベルト32を送り出すことで、図1(b)のように車椅子搭載スペース11内に搭載された車椅子20を床面Fから地面Gへ移動される。このようにスロープ12を設けることで、車椅子20の地面Gと床面Fとの間の移動を容易に誘導できるようにしている。ここで、各電動ウィンチ30は図示しない介助者(操作者)により操作され、各電動ウィンチ30の操作中においては、介助者は車椅子20の後方から当該車椅子20を支持するようにする。
【0018】
各電動ウィンチ30を制御する制御装置40は、図2に示すように構成されている。つまり制御装置40は、各電動ウィンチ30,コントローラ50,操作パネル60およびリモコン70から構成されている。各電動ウィンチ30とコントローラ50との間、および操作パネル60とコントローラ50との間には、通信線および電源線よりなる配線14が電気的に接続して設けられている。なお、リモコン70はワイヤレス式で無線によりコントローラ50と通信自在であり、リモコン70を車外に持ち出すことで、各電動ウィンチ30を車外から操作できるようになっている。
【0019】
ここで、図2に示すように、車両10の床面Fにはフック15を備えた一対の固定ベルト16が設置されており、各固定ベルト16の各フック15は、車椅子搭載スペース11に搭載された車椅子20の左右側にある一対の車輪22にそれぞれ引っ掛けられるようになっている。これにより、車椅子搭載スペース11に搭載された車椅子20は、各ベルト32の各フック31および各固定ベルト16の各フック15の合計4箇所で固定され、ひいては車両10内で車椅子20が移動したりがたついたりするのを抑制している。
【0020】
操作部材としての操作パネル60は、図3(a)に示すようにパネル本体61を備えている。パネル本体61は車椅子搭載スペース11の中央から後方側に設けられ、操作パネル60は車両10の後方から操作可能となっている。パネル本体61には、主電源スイッチ62,ベルトフリースイッチ63,速度切替スイッチ64および発音部材としてのブザー(スピーカ)65が設けられている。
【0021】
主電源スイッチ62は、制御装置40のシステム電源をオン状態とするために操作するものである。主電源スイッチ62をオン操作することでシステム電源がオン状態となり、このとき、主電源スイッチ62のインジケータ62aが点灯するようになっている。また、主電源スイッチ62は、制御装置40をシステムリセット(初期化)する際にも操作され、例えば、3秒以上の長押しをすることでシステムリセットされるよう設定されている。
【0022】
ベルトフリースイッチ63は、各電動ウィンチ30のロック状態を解除するために操作するもので、ベルトフリースイッチ63をオン操作することで、各ベルト32を引き出したり収納したりできるようになっている。つまり、ベルトフリースイッチ63をオン操作し、各ベルト32を引き出して車外にある車椅子20に引っ掛けたり、各電動ウィンチ30からそれぞれ引き出した各ベルト32の長さを揃えたりできるようにしている。ここで、ベルトフリースイッチ63をオン操作すると、ベルトフリースイッチ63のインジケータ63aが点灯するようになっている。
【0023】
速度切替スイッチ64は、車椅子20を車椅子搭載スペース11に搭載したり車椅子搭載スペース11から降ろしたりする際に、各ベルト32の移動速度、つまり引き込み速度や送り出し速度を、低速(LOW)または高速(HIGH)に切り替えるのに操作するものである。また、ブザー65は、各ベルト32の引き込み作動時や送り出し作動時,各電動ウィンチ30の動作不良時(故障発生時)等において、電子音等の警告音を発生するようになっている。ここで、警告音としては電子音に限らず、音声によるアナウンスであっても良い。
【0024】
操作部材としてのリモコン70は、乾電池駆動のワイヤレスリモートコントロールユニットで、操作パネル60の主電源スイッチ62が操作され、制御装置40のシステム電源がオン状態のときに使用可能となる。リモコン70は、図3(b)に示すようにリモコン本体71を備えており、リモコン本体71は、リモコン電源スイッチ72,入スイッチ73および出スイッチ74を備えている。リモコン70は、さらにインジケータ75を備え、当該インジケータ75は、リモコン70の操作時等に点灯するようになっている。また、インジケータ75の点灯が暗くなったら乾電池(図示せず)を交換するようにする。
【0025】
ここで、リモコン70の操作は介助者によって行うようにし、介助者によりリモコン電源スイッチ72をオン操作し、その後、入スイッチ73を押すことで、各電動ウィンチ30が作動する。そして、入スイッチ73を押している間は、各電動ウィンチ30が継続して作動し、車椅子搭載スペース11への車椅子20の搭載が補助される。一方、出スイッチ74を押すと、今度は各電動ウィンチ30が逆方向に作動する。そして、出スイッチ74を押している間は、車椅子搭載スペース11からの車椅子20の降ろし動作が補助される。つまり、介助者が入スイッチ73および出スイッチ74を押すのを止めて、各スイッチ73,74を非操作状態とすることで、リモコン70からコントローラ50に向けてモータ停止信号Stp(図7参照)が出力されるようになっている。
【0026】
なお、リモコン70の操作中においては、介助者は車椅子20のグリップGR(図1参照)を把持し、車椅子20を支持するとともに、その移動を誘導するようにする。このように、制御装置40は、各電動ウィンチ30を駆動制御することで、介助者による車椅子20の移動を補助するようになっている。
【0027】
車両10の左右側に設けられる各電動ウィンチ30は、何れも同じ形状かつ同じ構造のものを採用している。図4ないし図6においては、何れか一方の電動ウィンチ30のみを示しており、以下、何れか一方の電動ウィンチ30を代表して、その詳細構造について説明する。
【0028】
電動ウィンチ30は、図4および図6に示すように、電動モータ部80とドラム部90とを備えている。これらの電動モータ部80およびドラム部90は、図示しない複数の締結ネジにより一体化(ユニット化)されている。
【0029】
電動モータ部80は、モータ部(モータ)81とギヤ部82とを備えている。モータ部81の内部には、回転軸(図示せず)が回転自在に設けられ、ギヤ部82の内部には、回転軸の回転を減速して高トルク化するためのウォームおよびウォームホイールよりなる減速機構(図示せず)が設けられている。ウォームホイールの回転力は出力軸83(図6参照)に伝達され、当該出力軸83はドラム部90に向けて突出し、ドラム部90を形成するドラム92(図5参照)を回転させるようになっている。
【0030】
また、ギヤ部82内の減速機構は、ウォームおよびウォームホイールから形成しており、これにより出力軸83からの回転力をモータ部81の回転軸に伝達し難くしている。つまり、ウォームおよびウォームホイールよりなる減速機構は、出力軸83の回転を止めるよう作用するメカ的な制動力(機械的ブレーキ)を発生するようになっている。
【0031】
図6に示すように、ギヤ部82(ウォームホイール)と出力軸83との間、つまりモータ部動力伝達経路におけるドラム92とモータ部81との間には、電磁クラッチ84が設けられている。電磁クラッチ84は、コントローラ50により制御され、ドラム92およびモータ部81を締結状態または開放状態とする。具体的には、電磁クラッチ84を締結状態とすることで、ドラム92とモータ部81とは動力伝達可能に接続され、電磁クラッチ84を開放状態とすることで、ドラム92とモータ部81とは切り離される。
【0032】
なお、電磁クラッチ84は、ウォームホイールと一体回転する第1プレート(図示せず),出力軸83と一体回転する第2プレート(図示せず)およびステータコイル(図示せず)を備えている。そして、ステータコイルに駆動電流を供給することでステータコイルは電磁力を発生し、当該電磁力により各プレートは吸引されて締結される(締結状態)。一方、ステータコイルへの駆動電流の供給を停止することで各プレートは切り離される(開放状態)。
【0033】
ドラム部90は、図4に示すようにケーシング91を備えている。ケーシング91は略箱形状に形成され、その内部には、図5に示すドラム92,ラチェット機構93および弛み取り機構94が収納されている。ケーシング91の外部には、ドラム92に巻き掛けられるベルト32の弛みを取り除く弛み取りモータ95,ドラム92の回転を検出する回転センサ96,電動モータ部80や弛み取りモータ95等に駆動電流を供給するための外部コネクタ(図示せず)が接続されるコネクタ接続部97等が設けられている。
【0034】
ケーシング91の側部には、開口部91aが形成されており、当該開口部91aからは、ベルト32が出入り自在となっている。ベルト32は、ケーシング91の開口部91aの近傍に設けられた案内部材98によって出入りが案内され、これによりベルト32の捻れを防止している。また、案内部材98はフック31の通過を許さず、これによりベルト32の全てがケーシング91内に引き込まれてしまうのを防止している。
【0035】
ここで、図4の符号STは、電動ウィンチ30を車両10の床面F(図2参照)に固定するための一対の取付ステーであり、これらの各取付ステーSTは、図示しない複数の締結ボルトによって床面Fに強固に固定されている。これにより電動ウィンチ30は、車両10に対してがたつくこと無く強固に固定されている。
【0036】
ケーシング91の内部には、図5に示すように、ドラム92,ラチェット機構93および弛み取り機構94が収納されている。ただし、図5に示す弛み取りモータ95,案内部材98およびフック31については、図4に示すようにケーシング91の外部に設けられている。
【0037】
ドラム92にはベルト32が巻き掛けられ、当該ドラム92の回転中心には、ドラム軸92aが一体回転可能に取り付けられている。ドラム軸92aには、電動モータ部80の出力軸83(図6参照)の回転が伝達されるようになっており、ドラム軸92aおよびドラム92は、電動モータ部80の正逆方向への回転駆動に伴って正逆方向に回転駆動される。これにより、ベルト32をケーシング91内に引き込んだり、ケーシング91外に送り出したりすることができる。
【0038】
ドラム92とドラム軸92aとの間には、図6に示すようにワンウェイクラッチ92bが設けられている。ワンウェイクラッチ92bは、ドラム軸92aがベルト32の引き込み方向(図5において反時計方向)に向かって回転する際、そのままこの回転をドラム92に伝達するよう構成されている。一方、ドラム軸92aよりも先にドラム92がベルト32の引き込み方向に向かって回転すると、ドラム92の回転がドラム軸92aに伝達されず、ドラム92が空回りするよう構成されている。すなわち、ワンウェイクラッチ92bは、ドラム軸92aに対するドラム92の巻き取り方向への回転を許容し、ドラム軸92aに対するドラム92の送り出し方向への回転を規制している。
【0039】
ラチェット機構93は、ドラム92に一体回転可能に設けられたラッチギヤ93aと、ラッチギヤ93aと係合し、ドラム92のベルト32の引き込み方向(一方向)への回転を許容し、ベルト32の送り出し方向(他方向)への回転(図5において時計方向)を阻止し得る揺動自在な歯止め93bと、歯止め93bを揺動駆動するソレノイド駆動部材93cとを備えている。
【0040】
ソレノイド駆動部材93cは駆動ピン93dを備えており、コントローラ50の制御によりソレノイド駆動部材93cに駆動電流を供給することで、駆動ピン93dはピンの軸方向に移動し、引っ込むようになっている。これにより、ラッチギヤ93aと歯止め93bとの係合が解かれてリリース状態となり、ベルト32の引き込み方向および送り出し方向への双方向にドラム92が回転自在となる。このように、ドラム92の双方向への回転が許容され、ひいては車椅子20を車椅子搭載スペース11から降ろせるようになる。
【0041】
一方、コントローラ50の制御によりソレノイド駆動部材93cへの駆動電流の供給を停止することで、図示しない内蔵バネのバネ力により駆動ピン93dは突出するようになっている。これにより、ラッチギヤ93aに歯止め93bが係合してロック状態となり、ベルト32の引き込み方向へのドラム92の回転を許容しつつ、ベルト32の送り出し方向へのドラム92の回転が規制され、ひいてはスロープ12上での車椅子20の後退が防止される。
【0042】
弛み取り機構94は、ドラム92に一体回転可能に設けられたスパーギヤ94aと、スパーギヤ94aと噛み合う小径ギヤ94bと、弛み取りモータ95により回転駆動される減速ギヤ機構94cとを備えている。弛み取りモータ95は、ドラム92がベルト32を巻き取る方向の回転力を発生し、この弛み取りモータ95の回転力は、減速ギヤ機構94c,トルクリミッタ94d,小径ギヤ94bおよびスパーギヤ94aを介してドラム92に伝達される。また、小径ギヤ94bと減速ギヤ機構94cとの間には、図6に示すようにトルクリミッタ94dが設けられ、当該トルクリミッタ94dは一定以上のトルクの伝達をカットするようになっている。これにより弛み取りモータ95への過負荷を防止し、弛み取りモータ95を保護するようにしている。つまり、弛み取りモータ95としては、ベルト32の弛みを取ることができる程度のトルクを発生し得る小型モータを採用できるようになっている。
【0043】
図7はコントローラの内部構造を示すブロック図を表している。図7に示すように、コントローラ50は、操作パネル60およびリモコン70からの種々の操作信号の入力に基づき、電動ウィンチ30を構成する駆動系部品(81,84,93c,95)を駆動制御する駆動制御部51を備えている。
【0044】
コントローラ50には、操作パネル60およびリモコン70からそれぞれ有線または無線で種々の操作信号が入力され、回転センサ96からは検出信号Ds(図7参照)が入力されるようになっている。また、コントローラ50には、電動ウィンチ30を構成するモータ部81,電磁クラッチ84,ソレノイド駆動部材93c,弛み取りモータ95が電気的に接続され、駆動制御部51は、操作信号や検出信号Ds(入力信号)に基づいて、各駆動系部品(81,84,93c,95)を最適に制御するようになっている。なお、駆動制御部51は、一対の各電動ウィンチ30を同期して駆動制御するようになっている。
【0045】
ここで、回転センサ96はホール素子よりなり、回転センサ96と対向するドラム92の部分には、当該ドラム92の回転に伴って回転するリングマグネット(図示せず)が設けられている。これにより、回転センサ96はドラム92とともにリングマグネットが回転するとリングマグネットの磁極の切り替わりに応じて「オン」または「オフ」を示す矩形波信号(パルス信号)を発生するようになっている。そして、駆動制御部51は、入力された各パルス信号からベルト32に掛かる負荷やベルト32の移動速度等を算出する。ここで算出した種々のデータは、電動ウィンチ30のきめ細かな駆動制御に反映させるようになっている。
【0046】
駆動制御部51には、リモコン70からのモータ停止信号Stpが入力され、駆動制御部51にモータ停止信号Stpが入力されると、駆動制御部51は、ラチェット機構93をロック状態に制御しつつ、モータ部81を制動制御し、さらに電磁クラッチ84を開放状態に制御する。つまり、ソレノイド駆動部材93cへの駆動電流の供給を停止してOFF操作しつつ、モータ部81のリレースイッチRSをON操作し、さらに電磁クラッチ84への駆動電流の供給を停止してOFF操作する。これにより、ラチェット機構93がロック状態となり、ドラム92の他方向への回転、つまりベルト32が送り出される方向への逆回転が阻止される。
【0047】
ここで、モータ部81は制動制御され、ドラム92が万が一逆回転することに対して備えており、また、電磁クラッチ84への駆動電流の供給を停止して消費電力を抑えている。なお、このモータ停止状態において、駆動制御部51は、回転センサ96からの検出信号Dsの入力を監視しており、回転センサ96から検出信号Dsが入力された場合、つまりモータ停止状態であるにも関わらずドラム92が回転(特に逆回転)している場合には、電磁クラッチ84に駆動電流を供給してON操作し、これによりモータ部81による制動力(電気的ブレーキおよび機械的ブレーキ)をドラム92に伝達可能とする。このように、モータ部81をブレーキ要素として利用してフェイルセーフ機能(逆転防止機能)を得て、ひいてはドラム92のそれ以上の回転を抑制するようにしている。
【0048】
次に、以上のように形成した制御装置40の動作について、図面を用いて詳細に説明する。図8はコントローラのモータ停止動作を説明するフローチャートを表している。
【0049】
まず、介助者により操作パネル60の主電源スイッチ62を操作し、制御装置40のシステム電源がオン状態となり、さらにリモコン70のリモコン電源スイッチ72を操作した後、例えば入スイッチ73を操作する。すると、各電動ウィンチ30がそれぞれ同期して駆動制御され、車椅子20が車椅子搭載スペース11(図1参照)に引き込まれていく(ステップS1)。
【0050】
その後、続くステップS2において、入スイッチ73が非操作状態となったか否か、つまりリモコン70からモータ停止信号Stpがコントローラ50の駆動制御部51に入力されたか否かを判定する。ここで、未だ入スイッチ73が操作状態である場合(no判定)には、ステップS2を繰り返す処理を実行する。一方、入スイッチ73が非操作状態となり、モータ停止信号Stpが駆動制御部51に入力された場合(yes判定)には、ステップS3に進む。
【0051】
ステップS3では、ラチェット機構93のソレノイド駆動部材93cをOFF操作し、ラチェット機構93をロック状態とする制御を実行する。続くステップS4では、モータ部81のリレースイッチRSをON操作し、モータ部81に電気的ブレーキを発生させる制動制御を実行する。続くステップS5では、電磁クラッチ84をOFF操作し、当該電磁クラッチ84を開放状態とする制御を実行する。これにより、ラチェット機構93のロック状態によって、ドラム92の逆回転が防止され、例えばスロープ12上にある車椅子20を後退させること無く、その場で停止させることができる。
【0052】
ここで、ソレノイド駆動部材93cおよび電磁クラッチ84への駆動電流の供給を停止したことにより消費電力を抑えている。また、モータ部81では、リレースイッチRSをON操作して短絡回路(ブレーキ回路)を形成するだけなので消費電力は掛からない。
【0053】
ステップS6では、回転センサ96からの検出信号Ds(パルス信号)が駆動制御部51に入力されたか否か、つまりドラム92が回転しているか否かを判定する。検出信号Dsの入力が無い場合、つまりドラム92が逆回転していない場合(no判定)には、ラチェット機構93が正常に働いている(ロック状態)であるとしてステップS10に進む。
【0054】
一方、ステップS6においてドラム92の回転を検出した場合(yes判定)には、ラチェット機構93が異常(リリース状態)であるとしてステップS7に進む。続くステップS7では、電磁クラッチ84に駆動電流を供給し、これにより電磁クラッチ84を締結状態とする。ステップS8では、電磁クラッチ84が正常にON操作されたか否かを確認し、電磁クラッチ84のON操作を確認できなかった場合(no判定)には、ステップS7に戻って再び電磁クラッチ84を締結状態とする制御を実行する。
【0055】
一方、ステップS8で電磁クラッチ84のON操作を確認した場合(yes判定)にはステップS9に進み、当該ステップS9では、ブザー65をON操作する(鳴らす)。このように、駆動制御部51においてブザー65を鳴らすことで、制御装置40に異常が生じていることを介助者等に警報し、さらには制御装置40の点検を促すようにしている。その後、ステップS10に進み、当該ステップS10では、ステップS1からステップS9で示したラチェット機構93の動作チェックと、モータ部81の制動制御(フェイルセーフ制御)を完了する。
【0056】
なお、ステップS8でno判定を繰り返す場合には、電磁クラッチ84の故障も考えられる。したがって、例えば、ステップS8においてno判定を3回繰り返す場合には、図示しない他のステップで、ブザー65を鳴らす制御を実行し、より緊急度が高いことを警報しても良い。
【0057】
以上詳述したように、本実施の形態に係る電動ウィンチ30の制御装置40によれば、ドラム92に、ロック状態でドラム92の一方向への回転を許容しつつ他方向への回転を規制し、リリース状態でドラム92の一方向および他方向への回転を許容するラチェット機構93を設け、コントローラ50に、リモコン70からのモータ停止信号Stpの入力に伴い、ラチェット機構93をロック状態に制御しつつモータ部81を制動制御する駆動制御部51を設けた。
【0058】
これにより、モータ部81の停止時において当該モータ部81に制動力を発生させることができる。したがって、モータ部81の停止時にラチェット機構93が故障して、ドラム92をロック状態にできなくなったとしても、モータ部81の制動力(フェイルセーフ機能)によりドラム92を回転し難い状態に保持して、ドラム92の他方向への回転を規制できる。よって、車椅子20が後退する等の不具合を抑制することができる。
【0059】
また、本実施の形態に係る電動ウィンチ30の制御装置40によれば、電動ウィンチ30は、ドラム92およびモータ部81を締結状態または開放状態とする電磁クラッチ84と、ドラム92の回転を検出する回転センサ96とを備え、駆動制御部51は、リモコン70からのモータ停止信号Stpの入力および回転センサ96からの検出信号Dsの入力に伴い、電磁クラッチ84を締結状態に制御する。これにより、ドラム92とモータ部81との間に電磁クラッチ84を備えた電動ウィンチ30であっても、モータ部81の制動力をドラム92に伝達し、当該ドラム92の他方向への回転を規制でき、ひいては車椅子20が後退する等の不具合を抑制することができる。
【0060】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記実施の形態においては、ドラム92とモータ部81との間に電磁クラッチ84を備えた電動ウィンチ30としたものを示したが、本発明はこれに限らず、ドラムとモータ部とを一体回転可能に連結した電磁クラッチを備えない電動ウィンチにも適用することができる。この場合、消費電力が少なくて済むことに加え、電磁クラッチを制御するための制御ロジックが不要となり、コントローラの軽量化(簡素化)を図ることができる。
【0061】
また、上記実施の形態においては、リモコン70を操作することで、当該リモコン70からモータ停止信号Stpが出力されるようにしたものを示したが、本発明はこれに限らず、例えば、操作パネル60にモータ部81を停止するモータ停止スイッチを設け、当該モータ停止スイッチを操作することで操作パネル60からモータ停止信号Stpが出力されるようにしても良い。
【符号の説明】
【0062】
10 車両
11 車椅子搭載スペース
12 スロープ
13 バックドア
14 配線
15 フック
16 固定ベルト
20 車椅子(被牽引物)
21 前フレーム
22 車輪
30 電動ウィンチ
31 フック
32 ベルト
40 制御装置
50 コントローラ
51 駆動制御部
60 操作パネル(操作部材)
61 パネル本体
62 主電源スイッチ
62a インジケータ
63 ベルトフリースイッチ
63a インジケータ
64 速度切替スイッチ
65 ブザー
70 リモコン(操作部材)
71 リモコン本体
72 リモコン電源スイッチ
73 入スイッチ
74 出スイッチ
75 インジケータ
80 電動モータ部
81 モータ部(モータ)
82 ギヤ部
83 出力軸
84 電磁クラッチ
90 ドラム部
91 ケーシング
91a 開口部
92 ドラム
92a ドラム軸
92b ワンウェイクラッチ
93 ラチェット機構
93a ラッチギヤ
93b 歯止め
93c ソレノイド駆動部材
93d 駆動ピン
94 弛み取り機構
94a スパーギヤ
94b 小径ギヤ
94c 減速ギヤ機構
94d トルクリミッタ
95 弛み取りモータ
96 回転センサ
97 コネクタ接続部
98 案内部材
F 床面
G 地面
GR グリップ
ST 取付ステー
RS リレースイッチ
Ds 検出信号
Stp モータ停止信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被牽引物を牽引するベルトが巻き掛けられるドラムと、当該ドラムを回転させるモータとを有する電動ウィンチ、および前記電動ウィンチを制御するコントローラを備えた電動ウィンチの制御装置であって、
前記コントローラを介して前記電動ウィンチを駆動制御するために、操作者により操作される操作部材と、
前記ドラムに設けられ、ロック状態で前記ドラムの一方向への回転を許容しつつ他方向への回転を規制し、リリース状態で前記ドラムの一方向および他方向への回転を許容するラチェット機構と、
前記コントローラに設けられ、前記操作部材からのモータ停止信号の入力に伴い、前記ラチェット機構をロック状態に制御しつつ前記モータを制動制御する駆動制御部と、
を有することを特徴とする電動ウィンチの制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の電動ウィンチの制御装置において、前記電動ウィンチは、前記ドラムおよび前記モータを締結状態または開放状態とする電磁クラッチと、前記ドラムの回転を検出する回転センサとを備え、前記駆動制御部は、前記操作部材からのモータ停止信号の入力および前記回転センサからの検出信号の入力に伴い、前記電磁クラッチを締結状態に制御することを特徴とする電動ウィンチの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−60267(P2013−60267A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200271(P2011−200271)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)