説明

電動ドリル

【課題】 ビットがモータの回転軸線と交差する軸線回りに回転動作を行う形式の電動ドリルにおいて、ビット交換作業の作業性の向上に資する技術を提供する。
【解決手段】 工具本体103と、工具本体103に収容されたモータ111を有し、モータ111の回転軸線と交差する方向の軸回りに回転動作するビットにより被加工材に対する所定の加工作業を行う電動ドリルにおいて、モータ111によって回転駆動されるとともに、ビットが装着可能な工具シャフト131と、工具本体103に備えられ、ビットの交換時に、工具シャフト131の回転動作を阻止可能な回転規制部141,151と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビットがモータの回転軸線と交差する軸線回りに回転運動を行う形式の電動ドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
電動ドリルは、モータによって伝動装置(減速機構)を介して回転駆動される工具シャフトにドリルチャックが備えられ、このドリルチャックにドリルが着脱自在に装着される構成である。ビットの交換作業は、一方の手でドリルチャックの工具シャフト側が回転しないように保持した状態で行うが、電動ドリルの中でも、ビットの回転軸線がモータの回転軸線と交差する形式の電動ドリル(この形式の電動ドリルは、一般にアングルドリルと呼称されている)の場合、工具本体の長軸方向先端領域に当該長軸方向と概ね直交する向きにドリルチャックが配置されている関係で、工具本体の先端部がビット交換作業の邪魔になる。このようなことから、電動ドリルには、ビット交換時に工具シャフトを回転しないようにロックするためのシャフトロックを備えることが好ましい。シャフトロックを備えた電動ドリルは、例えば実開昭51−127181号公報(特許文献1)に開示されている。
【0003】
上記公報に記載のシャフトロックは、ビットがモータの回転軸線と平行な軸線回りに回転運動を行う形式の電動ドリルに適用したものであり、工具シャフトにピン孔を設け、当該ピン孔にロックピンを差し込んで工具シャフトをロックする構成としている。しかしながら、公報記載の抜き差し式のロックピンを利用するシャフトロック方式の場合、ロックピンの管理が面倒である等の点で、なお改良の余地がある。
【特許文献1】実開昭51−127181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ビットがモータの回転軸線と交差する軸線回りに回転運動を行う形式の電動ドリルにおいて、ビット交換作業の作業性の向上に資する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を達成するため、本発明に係る電動ドリルの好ましい形態は、工具本体と、工具本体に収容されたモータとを有し、モータの回転軸線と交差する方向の軸回りに回転動作するビットにより被加工材に対する所定の加工作業を行う電動ドリルにおいて、モータによって回転駆動されるとともに、ビットが装着可能な工具シャフトと、ビットの交換時に、工具シャフトの回転動作を阻止可能な回転規制部と、を有することを特徴とする。なお、本発明における「回転規制部」としては、モータ側から回転力が入力されるときには、工具シャフトの回転動作を許容し、工具シャフト側から回転力が入力されるときには、当該工具シャフトの回転動作を阻止するように構成されるオートロック式、あるいは作業者の手指による押し操作、または引き操作によって工具シャフトの回転動作を阻止するように構成される手動操作式のいずれも好適に用いることができる。
【0006】
本発明によれば、ビットの交換時に、工具シャフトの回転動作を阻止する回転規制部を備えたことにより、工具シャフトの回転動作を阻止した状態でビット交換作業、すなわちドリルチャックの緩めあるいは締付作業を行うことが可能となり、作業性が向上する。とりわけ、工具本体の長軸方向先端領域に当該長軸方向と概ね直交する向きにビットが配置される構成の電動ドリル、すなわちアングルドリルに適用することで、長軸方向先端領域がビット交換作業の邪魔になるといった問題が解消されることになり、作業性の向上を図る上で有効となる。
【0007】
本発明に係る電動ドリルの更なる形態によれば、回転規制部は、モータの回転力を工具シャフトに伝達する動力伝達経路における、モータ振動の伝達低減と、ビット交換時に作業者により工具シャフト側から入力される回転力の低下との双方を実現する最適化領域に配置された構成とされる。
本発明によれば、回転規制部がモータ振動の伝達低減を実現する領域に配置されることで、モータ振動による悪影響が少なくて済む。一方、回転規制部がビット交換時に作業者により工具シャフト側から入力される回転力の低下を実現する領域に配置されることで、回転規制部に作用する力が小さくなり、当該回転規制部の耐久性を向上することが可能となる。
そして本発明は、例えばモータの回転速度を減速して工具シャフトに伝達する減速機構を備えた電動ドリルに適用することで合理的に実現される。その場合、本発明における「モータ振動の伝達低減を実現する領域」としては、減速機構におけるモータの回転速度を減速する第1減速部の下流領域がこれに該当する。また「ビット交換時に作業者により工具シャフト側から入力される回転力の低下を実現する領域」としては、第1減速部により減速された回転速度をさらに減速する第2の減速部の上流領域がこれに該当する。
【0008】
従って、本発明に係る電動ドリルの更なる形態によれば、モータの回転速度を減速する減速機構を更に有し、そして回転規制部は、減速機構におけるモータの回転速度を減速する第1減速部と、第1減速部により減速された回転速度をさらに減速する第2の減速部との間に配置された構成とされる。このような構成を採用することで、回転規制部を、モータ振動の伝達低減と、ビット交換時に工具シャフト側から作業者により入力される回転力の低下との双方を実現する最適化領域に合理的に配置することが可能となる。
【0009】
本発明に係る電動ドリルの更なる形態によれば、モータの回転速度を減速する減速機構を更に有する。そして、回転規制部は、モータ側から回転力が入力されるときには、当該モータによる減速機構の回転動作を許容し、工具シャフト側から回転力が入力されるときには、減速機構の回転動作を阻止するように構成されている。
本発明の回転規制部は、工具シャフト側からの回転力の入力に対しては当該工具シャフトが回転されない構成、すなわち工具シャフトを自動的にロックする構成であり、このため、作業者はビット交換時において、工具シャフトの回転動作をロックするための特別の操作を行うことなく、ビット交換作業を楽に行うことができる。
【0010】
本発明に係る電動ドリルの更なる形態によれば、モータの回転速度を減速する減速機構と、モータ及び減速機構を収容する工具本体を有する。そして、回転規制部は、工具本体外部からの作業者の操作により、減速機構の回転動作を阻止する回転規制位置と、減速機構の回転動作の阻止を解除する回転許容位置との間で移動される回転規制部材を有する構成とされる。
本発明によれば、ビットの交換作業時において、作業者は回転規制部材を回転規制位置へと移動操作して減速機構の回転動作を阻止した状態でビット交換作業を行うことができる。なお、本発明における「回転規制部材の移動」の形態としては、工具本体の外面に対して交差する方向に移動させる態様、あるいは工具本体の外面に沿ってスライドさせる態様のいずれも好適に包含する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ビットがモータの回転軸線と交差する軸線回りに回転運動を行う形式の電動ドリルにおいて、ビット交換作業の作業性の向上に資する技術が提供されることとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(本発明の第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態につき、図1〜図3を参照しつつ詳細に説明する。本実施の形態は、電動ドリルの一例として充電式の電動ドリルを用いて説明する。図1は本実施の形態に係る電動ドリルの全体構成を示す側面図、図2は電動ドリルの主要部を示す断面図、図3は図2のA−A線に基づく断面図である。
【0013】
図1に示すように、電動ドリル101は、概括的に見て、電動ドリル101の外郭を形成する本体部103と、当該本体部103の長軸方向先端領域(図1において右側)に配置されてドリルビット(便宜上図示を省略する)を着脱自在に把持するドリルチャック133とを主体として構成されている。本体部103は、本発明における「工具本体」に対応し、ドリルビットは、本発明における「ビット」に対応する。なお、ビット保持器としてのドリルチャック133は、本体部103の先端領域における1つの面と対向するように配置され、本体部103の長軸方向と交差する方向の軸回りに回転動作する。
また、本体部103のドリルチャック133と反対側端部には、駆動モータ111の電源となるバッテリが収容されたバッテリケース109が装着されている。駆動モータ111は、本発明における「モータ」に対応する。なお、説明の便宜上、本体部103の長軸方向に関してドリルチャック133側を前方、バッテリケース109側を後方という。また、本体部103の長軸方向と交差する方向に関してドリルチャック133側を下方(下面側)という。
【0014】
本体部103は、駆動モータ111を収容するモータハウジング105と、ギア減速機構121を収容するギアハウジング107とを主体として構成され、それらはモータハウジング105が後側、ギアハウジング107が前側となるように配置した状態で互いに固定状に連接される。モータハウジング105は、概ね筒状に形成されるとともに、本体部103の大部分の領域を占有し、バッテリケース109に近い後側の外面領域が、作業者が手で握るためのグリップ部103Aとして設定され、当該グリップ部103Aの下面側に、駆動モータ111を通電駆動するべく手指により引き操作されるトリガスイッチ108が設置されている。
【0015】
図2に示すように、駆動モータ111は、その回転軸線が本体部103の長軸方向となるようにモータハウジング105内に収容され、当該駆動モータ111における回転子113と整流子115との間には、冷却ファン117が配置されている。駆動モータ111の構成においては、回転子113と整流子115との間に空きスペースが存在することがある。本実施の形態においては、この空きスペースを利用し、回転子113と整流子115との間に冷却ファン117を配置する構成としている。これにより駆動モータ111の長軸方向のコンパクト化が実現されている。
【0016】
駆動モータ111は、整流子115が回転子113よりも前方となる向き、すなわち冷却ファン117が回転子113の前方となる向きに配置されている。また、モータハウジング105には、冷却ファン117の外周と対応する領域に複数の通風開口105aが形成されている。通風開口105aは、モータハウジング105におけるグリップ部103Aの前方、すなわちトリガスイッチ108の前方に設定され、モータハウジング105の内部の空気が冷却ファン117によって通風開口105aから外部へと放出されるように構成される。
本実施の形態では、冷却ファン117を回転子113の前方に配置する構成としたことで、モータハウジング105の内側から外側へと排出される空気の通風開口105aを、グリップ部103Aの前方に設定することができる。
【0017】
また、図2に示されるように、ギア減速機構121は、駆動モータ111の回転力をスピンドル131に伝達する伝動装置として備えられ、互いに噛み合い係合する複数のギアによって構成されている。ギア減速機構121は、本発明における「減速機構」に対応する。ギア減速機構121は、モータの回転速度を減速する第1段減速部121Aと、第1段減速部121Aによって減速された速度を更に減速する第2段減速部121Bを有する。第1段減速部121Aは、本発明における「第1の減速部」に対応し、第2段減速部121Bは、本発明における「第2の減速部」に対応する。
【0018】
第1段減速部121Aは、駆動モータ111の回転軸111aと一体に回転する駆動歯車123と、駆動歯車123に噛み合い係合する当該駆動歯車123よりも大径の被動歯車125によって構成され、駆動モータ111の回転速度を所定の減速比で減速する。第1段減速部121Aにおける被動歯車125の回転力(トルク)は、後述するシャフトロック機構141を介して中間軸128に伝達される。第2段減速部121Bは、中間軸128と共に回転する小傘歯車127と、小傘歯車127に噛み合い係合する当該小傘歯車127よりも大径の大傘歯車129によって構成され、中間軸128の回転速度を所定の減速比で減速する。なお中間軸128は、軸方向の各端部が軸受128aによって回転自在に支持されている。
【0019】
第2段減速部121Bにおける大傘歯車129は、駆動モータ111の回転軸線と交差する軸線回りに回転可能に軸受131aによって支持されたスピンドル131に相対回転不能に取り付けられている。すなわち、スピンドル131は、第2段減速部121Bによって減速された速度で回転駆動される回転部材であり、ギア減速機構121の出力軸を構成している。スピンドル131は、本発明における「工具シャフト」に対応する。スピンドル131は、ギアハウジング107の下面から下方へと延出されており、当該延出端部に前記ドリルビットを着脱自在に把持するドリルチャック133が装着されている。
【0020】
次に自動式のシャフトロック機構141につき図2及び図3を参照しつつ説明する。本実施の形態に係るシャフトロック機構141は、ギア減速機構121における第1段減速部121Aと第2段減速部121Bとの間、具体的には中間軸128と被動歯車125との間に配置されている。シャフトロック機構141は、本発明における「回転規制部」に対応する。
【0021】
シャフトロック機構141の詳細が図3に示される。シャフトロック機構141は、中間軸128に取り付けられた被動側回転部材としてのロックカム143と、被動歯車125の回転力をロックカム143に伝達する複数(本実施の形態では4個)の動力伝達爪部145と、ギアハウジング107に固定されたロックリング147と、ロックカム143の回転動作を阻止または許容するロック部材としての複数(本実施の形態では2個)のロックピン149とを主体として構成されている。ロックカム143は、中間軸128に対し、当該中間軸128の周方向に相対移動不能に、かつ長軸方向に相対移動可能に嵌合されるとともに、動力伝達爪部145と周方向から係合(当接)することで動力を受ける複数(本実施の形態では180度の間隔で配置される2個)の動力受部143aを有する。複数の動力伝達爪部145は、被動歯車125の周方向に等間隔(本実施の形態では90度間隔)で一体に設けられている。ロックリング147は、ギアハウジング107の円環状の内壁面に固定されている。複数のロックピン149は、ロックカム143の外周に180度の位相で形成された平面状のカム面143bとロックリング147の内面との間にそれぞれ配置されている。
【0022】
シャフトロック機構141は、駆動モータ111側、すなわち被動歯車125側から回転力が入力されたときには、180度の位相関係にある2個の動力伝達爪部145がロックカム143の2個の動力受部に143aに周方向から係合して回転する際、ロックピン149が、被動歯車125の他の2個の動力伝達爪部145と係合してカム面143bにおけるロックカム143の回転動作を許容する位置に維持されることでロックカム143の回転動作を許容し、一方、スピンドル131側、すなわち中間軸128側から回転力が入力されたときには、ロックピン149がロックカム143のカム面143bに押されて当該カム面143bとロックリング147の内面との間に噛み込むことにより、ロックカム143の回転動作を阻止(禁止)するように構成されている。
【0023】
本実施の形態に係る電動ドリル101は、上記のように構成されている。次にその作用を説明する。電動ドリル101により加工作業(穴開け作業)を行うべく、作業者がグリップ部103Aを握り、トリガスイッチ108を引き操作して駆動モータ111を通電駆動すると、当該駆動モータ111の回転力がギア減速機構121に入力される。ギア減速機構121においては、第1段減速部121Aによって駆動モータ111の回転速度が減速された後、第2段減速部121Bにて更に減速される。これによりスピンドル131が減速された速度で回転駆動され、ドリルチャック133にて把持されたドリルビットによる加工作業が遂行される。
【0024】
なお、駆動モータ111側から回転力が入力される場合には、シャフトロック機構141がギア減速機構121の回転動作を許容するように作用する。すなわち、被動歯車125に設けられた4個のうちの2個の動力伝達爪部145からロックカム143の動力受部143aに回転力が伝達される一方、他の2つの動力伝達爪部145によってロックピン149aがロックカム143のカム面143bとロックリング147間に噛み込まない状態に保持される。これによりロックカム143の回転が許容され、被動歯車125の回転力がロックカム143を介して中間軸128へと伝達されることになる。
【0025】
次にドリルビットの交換作業につき説明する。ドリルチャック133からドリルビットを取り外す場合は、ドリルチャック133の可動スリーブ133a(図1において下部側に示される)を掴み、ドリルビットの把持を解除する(緩める)方向に回す。このとき、可動スリーブ133aに加えられる回転力がスピンドル131から第2段減速部121Bの大傘歯車129、小傘歯車127を経て中間軸128に入力されるが、このときはシャフトロック機構141がスピンドル131の回転を阻止するように作用する。すなわち、中間軸128と共にロックカム143が、例えば図3において右回りに僅かに回転されると、当該ロックカム143のカム面143bによってロックピン149が回転方向の前方外側へと押される。カム面143bにて押されたロックピン149は、当該カム面143bとロックリング147の内面間に噛み込み、ロックカム143の回転を阻止する。かくして、スピンドル131の回転が阻止される。このようなシャフトロック機構141によるスピンドル131の回転阻止は、ドリルチャック133の可動スリーブ133aを、ドリルビットを把持する(締め付ける)方向へと回した場合にも同様に行われる。
【0026】
上記のように、本実施の形態によれば、電動ドリル101にシャフトロック機構141を設けたことにより、ドリルビットの交換時に、スピンドル131の回転動作が阻止された状態で、ドリルチャック133の緩めあるいは締付作業を行うことが可能となり、作業性が向上する。特に、本体部103の長軸方向先端領域であるギアハウジング107に当該長軸方向と概ね直交する向きでドリルチャック133が配置される構成のアングルドリルにおいては、ギアハウジング107がビット交換作業の邪魔になるといった問題が解消されることとなり、作業性の向上を図る上で有効となる。
【0027】
また、本実施の形態に係るシャフトロック機構141は、スピンドル131側から回転力が入力されたときには、スピンドル131の回転が自動的に阻止されるオートロック式であるため、作業者はドリルビットの交換時において、スピンドル131の回転動作を阻止するための特別の操作を行うことなく、ビット交換作業を行うことが可能となり、より一層の作業性の向上が図れる。
【0028】
また、本実施の形態では、シャフトロック機構141を、ギア減速機構121における第1段減速部121Aの下流側と、第2段減速部121Bの上流側との間に設置する構成としている。第1段減速部121Aの下流側は、駆動モータ111の回転速度が減速されてモータ振動の伝達低減が実現される領域であり、またシャフトロック機構141が減速された速度で回転駆動されることから、当該シャフトロック機構141の回転動作に伴い発生する振動も小さい。
一方、シャフトロック機構141を、例えばギア減速機構121の下流側に設置した場合であれば、スピンドル131側から入力される回転力が、シャフトロック機構141のロックカム143、ロックリング167、ロックピン169等に直接的に作用することになる。しかるに、本実施の形態によれば、シャフトロック機構141を第2段減速部121Bの上流側に設置することで、ロックカム143、ロックリング167、ロックピン169等に加わる力を低下することが可能となり、これによりシャフトロック機構141の耐久性を高めることができる。
すなわち、本実施の形態によれば、シャフトロック機構141が、モータ振動の伝達低減を実現しつつ、ビット交換時に作業者によってスピンドル131側から入力される回転力の低下を実現する最適化領域に配置された構成の電動ドリル101を提供することができる。
【0029】
(本発明の第2の実施形態)
次に本発明の第2の実施形態を、図4〜図7を参照しつつ説明する。図4は電動ドリル101の先端側(前側)領域を示す側面図であり、図5は同部位の断面図である。図6及び図7は主としてシャフトロック機構を示す断面図である。本実施の形態に係る電動ドリル101は、スピンドル131の回転規制を行うシャフトロック機構151を、作業者の操作によって作動する手動式としたものであり、この点以外については前述した第1の実施形態と同様に構成される。従って、シャフトロック機構151以外の構成部材については、第1の実施形態と同一符号を付してその説明を省略あるいは簡略化する。シャフトロック機構151は、本発明における「回転規制部」に対応する。
【0030】
本実施の形態に係るシャフトロック機構151は、図6及び図7に示すように、ギアハウジング107に外部からの操作可能に取り付けられた棒状部材としての長尺状の回転ロックピン153と、ギア減速機構121における中間軸128の外側に圧入固定された回転ロックリング155とを主体として構成される。回転ロックピン153は、本発明における「回転規制部材」に対応する。回転ロックピン153は、本体部103の長軸方向と直交する方向にギアハウジング107の側面部に貫通状に取り付けられている。すなわち、ギアハウジング107の側面部に形成された内外を貫通するピン孔107aに挿入されており、外側端部には摘み154が設けられている。そして回転ロックピン153をギアハウジング107の内部に向って押し込むことにより、当該回転ロックピン153の先端153aが回転ロックリング155に設けたロック孔155aに挿入係合され、これにより中間軸128の回転が阻止される構成とされる。回転ロックピン153のロック孔155aに対する挿入係合位置(図6及び図7に二点鎖線で示す位置)が、本発明における「回転規制位置」に対応する。
【0031】
シャフトロック機構151は、回転ロックピン153に対し、当該回転ロックピン153の先端153aが回転ロックリング155のロック孔155aから抜け出る方向に付勢力を作用する付勢部材としてのコイルバネ157を有する。コイルバネ157は、回転ロックピン153に遊嵌状に嵌合するバネ受用の座金159と回転ロックピン153の摘み154との間に初期荷重が加えられた状態で介在されている。これにより回転ロックピン153は、常時には先端153aがロック孔155aから抜け出る位置、すなわち係合が解除される位置に保持される。回転ロックピン153のロック孔155aに対する係合解除位置(図6及び図7に実線で示す位置)が、本発明における「回転許容位置」に対応する。
【0032】
なお、回転ロックピン153の係合解除位置については、当該回転ロックピン153に取り付けたサークリップ158がギアハウジング107の内壁面に当接(図6参照)することで規定(保持)される。また回転ロックピン153が係合解除位置に置かれた状態では、図6に示すように、回転ロックピン153の摘み154の軸方向端面がギアハウジング107の側面に対し概ね面一となるように設定されている。また、コイルバネ157の付勢力は、座金159を介してOリング156を圧縮するように作用する構成とされる。Oリング156は、回転ロックピン153が貫通するピン孔107aからの、ギアハウジング107内の潤滑油(グリス)の漏出を抑えるべく設けられ、常時に作用するコイルバネ157の初期荷重による付勢力によって圧縮されることでシール性が確保されている。
【0033】
本実施の形態によれば、ドリル交換作業時において、回転ロックピン153の摘み154をギアハウジング107の内側に向って押し付けた状態で、ドリルチャック133側から回転力が入力されると、スピンドル131、大傘歯車129、小傘歯車127を介して中間軸128が回転される。そして、回転ロックピン153の先端153aが回転ロックリング155のロック孔155aに一致すると、当該先端153aがロック孔155aに挿入係合される。これにより中間軸128の回転動作、つまりスピンドル131の回転動作が阻止されるため、この状態でドリルビットの交換作業を行うことができる。
【0034】
また回転ロックピン153は、ギア減速機構121における中間軸128の回転動作を阻止する構成、すなわちギア減速機構121における第1段減速部121Aと第2段減速部121B間に設けられる構成のため、前述した第1の実施形態と同様に、モータ振動の影響が少なくて済むとともに、中間軸128から回転ロックピン169に作用する径方向の力を低下することが可能となり、これによりシャフトロック機構151の耐久性を高めることができる。
【0035】
また本実施の形態に係るシャフトロック機構151は、前述した第1の実施形態に比べて部品点数が少なく、構造が簡単で、かつ軽量化を図る上で有効である。また中間軸128に回転ロックリング155を設けたことにより、中間軸128の強度を維持しつつシャフトロック機構151を構築することができる。しかし、中間軸128の強度が確保されるならば、当該中間軸128にロック孔155aを設定し、回転ロックリング155を省略しても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る電動ドリルの全体構成を示す側面図である。
【図2】電動ドリルの主要部を示す断面図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る電動ドリルの先端領域を示す側面図である。
【図5】電動ドリルの先端領域の断面図である。
【図6】図5のB−B線断面図である。
【図7】図6のC−C線断面図である。
【符号の説明】
【0037】
101 電動ドリル
103 本体部(工具本体)
103A グリップ部
105 モータハウジング
105a 通風開口
107 ギアハウジング
107a ピン孔
108 トリガスイッチ
109 バッテリケース
111 駆動モータ(モータ)
111a 回転軸
113 回転子
115 整流子
117 冷却ファン
121 ギア減速機構(減速機構)
121A 第1段減速部(第1の減速部)
121B 第2段減速部(第2の減速部)
123 駆動歯車
125 被動歯車
127 小傘歯車
128 中間軸
128a 軸受
129 大傘歯車
131 スピンドル
131a 軸受
133 ドリルチャック
133a 可動スリーブ
141 シャフトロック機構(回転規制部)
143 ロックカム
143a 動力受部
143b カム面
145 動力伝達爪部
147 ロックリング
149 ロックピン
151 シャフトロック機構(回転規制部)
153 回転ロックピン(回転規制部材)
153a 先端
154 摘み
155 回転ロックリング
155a ロック孔
156 Oリング
157 コイルバネ
158 サークリップ
159 座金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具本体と、工具本体に収容されたモータとを有し、前記モータの回転軸線と交差する方向の軸回りに回転動作するビットにより被加工材に対する所定の加工作業を行う電動ドリルであって、
前記モータによって回転駆動されるとともに、前記ビットが装着可能な工具シャフトと、
前記工具本体に備えられ、前記ビットの交換時に、前記工具シャフトの回転動作を阻止可能な回転規制部と、を有することを特徴とする電動ドリル。
【請求項2】
請求項1に記載の電動ドリルであって、
前記回転規制部は、前記モータの回転力を前記工具シャフトに伝達する動力伝達経路における、前記モータ振動の伝達低減と、前記ビット交換時に作業者により前記工具シャフト側から入力される回転力の低下との双方を実現する最適化領域に配置されていることを特徴とする電動ドリル。
【請求項3】
請求項2に記載の電動ドリルであって、
前記モータの回転速度を減速する減速機構を更に有し、
前記回転規制部は、前記減速機構における前記モータの回転速度を減速する第1減速部と、前記第1減速部により減速された回転速度をさらに減速する第2の減速部との間に配置されていることを特徴とする電動ドリル。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の電動ドリルであって、
前記モータの回転速度を減速する減速機構を更に有し、
前記回転規制部は、前記モータ側から回転力が入力されるときには、当該モータによる前記減速機構の回転動作を許容し、前記工具シャフト側から回転力が入力されるときには、前記減速機構の回転動作を阻止するように構成されていることを特徴とする電動ドリル。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の電動ドリルであって、
前記モータの回転速度を減速する減速機構と、
前記モータ及び前記減速機構を収容する工具本体と、を有し、
前記回転規制部は、前記工具本体外部からの作業者の操作により、前記減速機構の回転動作を阻止する回転規制位置と、前記減速機構の回転動作の阻止を解除する回転許容位置との間で移動される回転規制部材を有することを特徴とする電動ドリル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−90434(P2009−90434A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265204(P2007−265204)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(000137292)株式会社マキタ (1,210)
【Fターム(参考)】