説明

電動パワーステアリング装置

【課題】ガラス繊維径よりも径の大きいパウダーグリースを用いることにより、ギヤ噛合い面にガラス繊維が存在する場合にも、先にパウダーグリースと相手ギヤ歯面が接触して、緩衝効果を得ること。
【解決手段】ガラス繊維強化ウォームホイールの樹脂製ギヤ101の噛合い部では、パウダーグリース104(緩衝材粒子含有グリース)の平均粒子径は、強化ガラス繊維102の繊維径よりも大きく設定してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングホイールに印加された操舵トルクをトルクセンサにより検知し、この検知した操舵トルクに対応して電動モータから補助操舵トルクを発生し減速機構により減速して操舵力を動力補助する電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の操舵系において、電動モータを動力源とする電動パワーステアリング装置では、ステアリングホイールに印加された操舵トルクに対応して、電動モータにより発生した補助操舵トルクを減速機構を介して転舵機構のラックアンドピニオン機構に接続される出力軸に伝達するようになっている。
【0003】
この減速機構として、ウォーム減速機構を用いた電動パワーステアリング装置では、電動モータの駆動軸側のウォームに、ウォームホイールが噛合してあり、このウォームホイールは、転舵機構のラックアンドピニオン機構に接続される出力軸に嵌合してある。
【0004】
特許文献1では、減速機構内において、ウォームとウォームホイールの噛み合い部分を含む領域に、潤滑剤組成物を充填する。潤滑剤組成物は、潤滑剤と、平均粒径D1が50μm<D1≦300μmである緩衝材粒子とを含む。ウォームを支持する転がり軸受は、外輪と内輪との間を封止する軸受シールを含む密封型である。軸受シールは、内輪の外周溝の内壁面に摺接するシールリップを有するゴム部材を含む。シールリップの摺接面の断面曲線をフーリエ変換して得られた波長と振幅の関係で表される表面性状において、波長30μm成分の振幅を0.3μm以上、好ましくは0.5μm以上とする。
【0005】
すなわち、特許文献1では、潤滑剤組成中に、緩衝材粒子を添加することにより、歯車の歯面衝突を緩衝している。
【特許文献1】特開2006−194279号公報(P2006−194279A)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、図4(a)(b)(c)に示すように、樹脂製ギヤ101は、ガラス繊維で強化してある。図4(b)のように、樹脂製ギヤ表面加工機103の圧力で、ガラス繊維102の一本程度、樹脂製ギヤ101が撓む。図4(c)のように、樹脂製ギヤ101は、復元する。
【0007】
したがって、ガラス繊維で強化した樹脂製ギヤにおいては、ギヤ噛合い面にもガラス繊維が存在するため、特許文献1に記載のように、潤滑剤に緩衝材粒子を添加しても、ガラス繊維と相手ギヤ歯面とが接触して、緩衝材粒子の効果が発揮されず、そのためギヤ噛み合い部分において両ギヤの歯面間の衝突が緩衝されず騒音発生の原因となる場合がある。
【0008】
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであって、減速機構を構成するウォームとガラス繊維強化合成樹脂ギヤを有するウォームホイールとの両ギヤの歯面間の衝突に対し、優れた緩衝効果を得ることができる、電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明は、ステアリングホイールに印加された操舵トルクに対応して電動モータにより発生する補助操舵力を減速機構を介して伝達して操舵力を補助するために、
前記減速機構が互いに噛み合うウォームとウォームホイールとから成り、
該ウォームホイールはガラス繊維強化合成樹脂ギヤを有している電動パワーステアリング装置に於いて、
前記ウォームとウォームホイールとの噛み合い部に充填されるパウダーグリースの平均粒子径は、前記ガラス繊維の繊維径よりも大きく設定してあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ガラス繊維径よりも径の大きいパウダーグリースを用いることにより、ギヤ噛合い面にガラス繊維が存在する場合にも、先にパウダーグリースとギヤ歯面が接触して、優れた緩衝効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、本発明の第1実施形態に係るステアリング装置の車室側部分を示す側面図であり、ステアリングコラム1は、ピボットピン3とチルト調整機構4とを介して、車体側構造部材8、9に固定されている。ステアリングコラム1には、その内部にアッパステアリングシャフト11が回動自在に支持されると共に、下部に電動アシスト機構19が一体化されている。
【0013】
電動アシスト機構19は、電動モータ13とギヤハウジング15とを有している。ギヤハウジング15の車両後端にはステアリングコラム1の車両前端部が接続固定されている。電動アシスト機構19には、アッパステアリングシャフト11にスプラン結合されたロアステアリングシャフトである入力軸12が挿入されている。入力軸12の車両前方端はトーションバー14を介して出力軸17に連結されている。
【0014】
出力軸17にはウォームホイール41が外嵌・圧入されている。ウォームホイール41は、電動モータ13に接続されたウォーム43と噛み合って減速機構を構成していて、電動モータ13の回転が減速されて出力軸17に伝達される。電動モータ13は、ウォームホイール41の後方に配置されたトルクセンサ45の出力信号に基づき駆動される。
【0015】
第1実施形態のウォームホイール41は、金属製ホイール51の外周に合成樹脂製ギヤ53を固着させることにより形成されており、軸芯には軸孔55が形成されている。本実施の形態において、合成樹脂製ギヤの合成樹脂はガラス繊維で強化されている。ウォームホイール41とウォーム43とのギヤ噛み合い部には潤滑剤Aが充填されている。
【0016】
一方、出力軸17は、ウォームホイール41の後方(図2中右方)で密閉型転がり軸受61により支持されると共に、ウォームホイール41の前面(図2中左方)に当接したシール付転がり軸受63に支持されている。図2中、符号65で示した部材はギヤハウジング15の前端に締結されたカバーであり、シール付転がり軸受63はテーパスナップリング67,69を介してこのカバー65と出力軸17とに保持されている。図中、符号71は出力軸17に形成されたテーパ溝を示しており、このテーパ溝71にテーパスナップリング69が嵌着している。
【0017】
こうして、アッパステアリングシャフト11の後端に取り付けられたステアリングホイール21を、運転者が回動させると、その回転力が電動アシスト機構19により増大されて出力軸17に伝達され、自在継手27を介して出力軸17の前端に連結されたロアステアリングシャフト25に伝達されて、動力補助された操舵回転力を図示無き転舵機構のラックアンドピニオン機構へと伝達する。 なお、図1において符号29はステアリングコラム1を覆うコラムカバー、符号31は車室とエンジンルームとを区画するダッシュボード、符号33はチルトレバーをそれぞれ示す。
【0018】
図3は、本実施の形態に係る電動パワーステアリング装置において、ウォームホイール41のガラス繊維で強化した樹脂ギヤ部分101の部分拡大断面図である。
【0019】
本実施の形態では、ウォームホイール41のガラス繊維強化樹脂製ギヤ101では、ウォーム43との噛み合い部には、潤滑剤Aとして緩衝材粒子含有グリースであるパウダーグリース104が充填されており、このパウダーグリース104の平均粒子径は、ガラス繊維102の繊維径よりも大きく設定してある。
【0020】
これにより、ギヤ噛合い面にガラス繊維102が存在する場合にも、先にパウダーグリース104と相手のウォームギヤ歯面が接触して、緩衝効果を得ることができる。
【0021】
実施例として、パウダーグリース104(緩衝材粒子含有グリース)の平均粒子径は、15〜50μmであり、ガラス繊維102の繊維径は、6〜13μmである。
【0022】
実機検証では、パウダーグリース104の平均粒子径が30μmの時に、消音効果を確認した。
【0023】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されず、種々変形可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態に係るステアリング装置の車室側の構造を示す側面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るステアリング装置の要部縦断面図である。
【図3】本発明の第1実施の形態に係る電動パワーステアリング装置のウォームホイールのガラス繊維で強化した樹脂ギヤ部分の部分拡大断面図である。
【図4】(a)(b)(c)は、それぞれ、本発明の第1実施の形態に係る電動パワーステアリング装置のガラス繊維強化ウォームホイールの樹脂製ギヤの製造工程を示す模式図である。
【符号の説明】
【0025】
41 ウォームホイール
43 ウォーム
101 樹脂製ギヤ
102 ガラス繊維
104 パウダーグリース(緩衝材粒子含有グリース)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールに印加された操舵トルクに対応して電動モータにより発生する補助操舵力を減速機構を介して伝達して操舵力を補助するために、
前記減速機構が互いに噛み合うウォームとウォームホイールとから成り、
該ウォームホイールはガラス繊維強化合成樹脂ギヤを有している電動パワーステアリング装置に於いて、
前記ウォームとウォームホイールとの噛み合い部に充填されるパウダーグリースの平均粒子径は、前記ガラス繊維の繊維径よりも大きく設定してあることを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−143283(P2008−143283A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331013(P2006−331013)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】